DgS顧客満足度調査2019、「セルフで買いやすい環境」が重視される傾向に

月刊マーチャンダイジング2019年12月号では38企業、500店舗を対象に「顧客満足度調査」を行った。この記事では今回の調査で判明した「選ばれる店の条件」の変化を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2019年2月号より編集の上転載)

新項目追加で「品揃え」「値ごろ感」「創意工夫」を調査

昨年から調査店舗を大幅に拡大、今年も全国のDgS38社、500店舗を調査した。広域出店している企業に関しては、出店数に応じて複数エリアで調査。上場14企業とその事業会社に加えて、大手非上場、有力ローカルチェーンも対象とした(図表1)。(図表はクリックで拡大可能)

調査内容は大きく2つに分けられる。

①基本的な調査項目:「店舗設備・クリンリネス」「基本接客・商品知識」「商品陳列・品揃え」「レジ対応」の4カテゴリー、合計43問、いずれも3点満点の基本設問。

②総合満足度に関する評価:「この店で買物することを知人に勧めることができますか?」という問いに対する回答を0~10の11段階で評価してもらった。

設問の全体像は、月刊マーチャンダイジング2019年12月号をご覧になってもらいたい。

今回の調査から、「この店はよく行く他の店と比べて品揃えが豊富だと感じましたか?」「この店はよく行く他の店と比べて安いと感じましたか?」「他のチェーン(違う看板のお店)にはない特長や工夫を感じましたか?」の3項目を追加、あくまで買物客目線の主観ではあるが「品揃えの豊富感」「価格優位性」「差別化施策」に関して追加で調査を行っている。

総合満足度は前回調査より若干低下

総合満足度とは「この店で買物することを知人に勧めることができるか」という質問に0から10の11段階で答えてもらうものだ。陳列、接客など個別分野の評価とは別に文字どおりその店舗を総合的に評価する重要な指標と位置付けている。

図表3と図表4は、前回(2018年)と今回(2019年)の総合満足度である。いずれも8の評価が多かったが、数のうえでは今回8が減りその分5以下が増えている。9、10の評価も減った。

総合満足度の評価のうち0〜6までが批判者(detractor)、7、8が中立者(passive)、9、10を推奨者(promoter)と定義づけて、中立者を除外し、推奨者(割合)から批判者(割合)を引いた割合を正味の推奨者割合としてNet Promoter Score (NPS)という値で表す。NPSは小売業だけでなく、外食産業、製造業などでも用いられている国際的な指標である。一般的に推奨者の方が少ないことから、優良な企業でもマイナスがつくことが多い。

図表6は今回の調査の全体平均と売上上位企業のNPSである。

平均値は−11.6、個別企業で見るとプラスの好成績を挙げているのはウエルシアHD、コスモス薬品、クスリのアオキ。とくにコスモス薬品のNPSは高い。平均値を超えているのはツルハHD。ほかはそれを下回る結果となった。ちなみに前回のNPSの全体平均値は6.9だったので、批判者が増えたことで全体のNPSも低下している。

改善項目に優先順位をつけると?

図表7は、対象全36の調査項目において顧客満足度を縦軸に、総合満足度を横軸に取ったチャートである。数値はそれぞれの平均値を50にしたときの偏差値だ。

たとえば、図中の設問番号15「ヘアケアの定番売場の欠品状況」は顧客満足度の偏差値(縦軸)は50を超えているが、総合満足度との相関係数の偏差値(横軸)は33であまり高くない。つまり、ヘアケア売場に多少欠品があってもほかの項目次第では知人にこの店を勧めるということになる。

もうひとつ例を挙げれば、設問番号43「ほかの店と比べて創意工夫があったか」は、顧客満足度の偏差値は30未満で低レベルだが、総合満足度との相関はもっとも高い。つまり、創意工夫があるほど知人にこの店を勧めたくなるのに、実際はそういう店は少ないということになる。ここを頑張って上げれば店舗運営のレベルが上がり集客できるようになる。

このように顧客満足度の達成レベルと総合満足度との相関という2軸で全調査項目を4象限に分けたのが図表7の「顧客満足度ポートフォリオ」である。

各象限の意味は次のようになる。

① 重点維持分野:総合満足度との相関が高く顧客満足度も高いのでこのまま維持しておくべき分野。
②維持分野:顧客満足度は高いが、総合満足度との相関は高くない。維持すべきだがそれほど注力しても総合満足度アップ(集客効果)にはつながらない。
③改善分野:顧客満足度も総合満足度との相関も低い。改善が必要だが優先順位は④が勝る。
④重点改善分野:総合満足度(集客効果)との相関が強いのに顧客満足度の達成レベルは低い。ここを頑張れば集客、他店との差別化が望める。

自社の店舗運営の現状を相対的に把握し、改善に優先順位をつけたいのであれば、独自でポートフォリオをつくるのもよいだろう。

セルフで買いやすい環境へのニーズが高まっている

図表8(16ページ)は総合満足度に強い相関を与えるトップ10である。

黄色で示したものは2018年にトップ10入りした項目だ。2019年の1位には今回から新設した「店舗の創意工夫」が入った。相関係数の偏差値を見ても75を超え非常に高い相関がある。2位は同じく新設の「品揃えの豊富さ」。3位はこれまでも常にトップ3以内に入っていた「お客を意識した行動」

以下図表のとおりだが、今回の調査で目立っているのは、「目薬のわかりやすい分類」(4位)、「洗顔料のわかりやすい分類」(6位)、「歯磨き粉のわかりやすい分類」(8位)など、セルフで買いやすい売場づくりに関する項目の相関が高いことだ。いずれの項目も前回調査ではトップ10圏外だった。

また、図表9の前回の調査と比較すると、前回は「風邪薬への問い合わせ対応」(3位)、「ファンデーションへの相談対応」(6位)とカウンセリング系の項目の相関が高かったが、今回の調査ではいずれもトップ10圏外、風邪薬への問い合わせ対応は21位と大きく順位を下げた。

理由は複数あるのだろうが、ひとつ推測できるのは大手DgSの高速出店、人手不足などから売場に人がいないのが常態化して、カウンセリングへの期待値そのものが下がったのではないかということだ。そのためセルフで買える売場のわかりやすさへの評価が高くなったという仮説も立てられる。

図中に黄色で示したものは今回、前回変わらずトップ10入りしたもの。「お客を意識した行動」は、再三述べているように人間の持つ自分の存在を認められたいという承認欲求を満たす基本的項目なので、来店客には関心、感謝の気持ちを持つという基本姿勢を持ちたい。ほかの2つ「問い合わせ対応」「レジ会計時のあいさつ」を合わせて「人系3項目」は総合満足度との相関が高い「鉄板」項目なので、店舗従業員は意識しよう。

POP、ポイント還元、品揃えなどに創意工夫を感じている

1位、2位に入った新設2項目について見てみよう。1位の「他のチェーンにない創意工夫」はその理由を自由記述してもらっているのでいくつか紹介する。

「プライスカードに、この商品の何がどうオススメなのかが書いてあるのでわかりやすく親しみやすかった」
「ポイントカードですぐポイントが使えて安く買える」
「オリジナルのPOPがあり、商品を選びやすかった」
「特定の商品を購入すると、Tポイントがもらえる特典があり、商品のプライスカードのすぐそばに表示されていたので、わかりやすく魅力的だとおもった」
「ヘアカテゴリーの種類が豊富で、ほかのお店ではあまり見掛けない商品がありました」
「目薬のコーナーはとくにPOPがたくさん付いていて、探しやすいと感じました。牛乳は、ケースを斜め置きにしている状態で販売していて、賞味期限が見やすく、商品は手に取りやすかったです」

…などなど大別すると「POPのオリジナリティ」「ポイントの充実」「品揃えのバラエティ感」「わかりやすい、独創的な売場」「他店にないサービス」などが挙げられる。「とくに工夫なし」「まったく工夫なし」という回答も多かった。

チェーンストアの標準化と印象に残るような創意工夫とは考え方次第では相反する概念ではあるが、ポイントは看板を書き換えてもわからないレベルまでの没個性化には注意すべきということだ。

特筆するような創意工夫、個性があればそれがブランディングとなり選ばれる店のポイントにもなる。個性がなければ集客、地域シェア獲得には特売やポイント還元など価格政策に頼りがちになってしまう。

接客、プライベートブランド(PB)商品を含む品揃え、価格(EDLP)、地域密着などを磨き、DgSはもっとブランディングという概念を追求すべきだろう。

セルフで買物できる環境は比較的対応できている

図表10は総合満足度と相関が強く、なおかつ顧客満足度でも偏差値50以上の高得点を挙げている項目である。

ここは維持することが大切で、逆にここを落とすと総合満足度も下がる。目薬、洗顔料、歯磨き粉、それぞれのわかりやすい商品分類と売場づくりは総合満足度にとって重要であり、一定レベルの水準に達している。テスター整備、プライスカードや販促ツールの付け方も重点維持分野なので、維持していかなければ集客に響く。

先述のとおり今回の特徴としてセルフで買物できる環境が重視されており、調査結果からその多くの項目が重点維持分野に入っている。したがって、各店対応は比較的よくできていることになる。入り口の清掃、床・通路の清掃も重視されるので、セルフ買物環境、クリンリネスで取りこぼすと厳しい競争から脱落する恐れがある。

一方、総合満足度との相関が高いのに、顧客満足度が低いのが図表11に挙げた「重点改善分野」である。

「他店にない創意工夫」「品揃え」「お客を意識した従業員の態度」など高度な項目とともに「トイレの清掃・管理」といった基本項目も重要改善の領域に入っている。競争が激しく厳しい戦いになっている現状、トイレが汚いといった店では勝ち残りは難しい。いま一度自店をチェックしてみよう。

コンビニ業界に吹き荒れたスイーツ旋風。購入金額アップの引き金になった「バスチー」

前回に引き続き、POB会員の「コンビニエンスストア大手3社」の購買データ(レシート総枚数:約130万枚:2018年4月~2019年10月)から、時間帯別の購入レシート金額推移、購入状況(平均レシート単価・買上点数)や、ローソン「悪魔のおにぎり」や「バスチー」などのヒット商品が与えたスイーツ・おにぎりカテゴリの影響を分析します。

前回の記事

コンビニおでんのピークは冬じゃない?揚げ物は企画・イベントで売れる!

時間帯別レシート購入金額割合、セブン・ファミマはランチ時間帯、ローソンは帰宅時間帯がピーク

来店時間帯別でレシートの購入金額割合の最高値は、セブン-イレブン(20.6%)および、ファミリーマート(20.0%)の2社はランチ時間帯12時~15時、ローソンにおいては、帰宅時間帯15時~18時(20.2%)となります。

また3社ともに、18時~21時においても《18.1%~18.3%》と2割近くのシェアを保ちますが、21時~24時になると《8.4%~10.4%》と10ポイント近くダウン。深夜時間帯になると《2.7%~3.0%》まで、下降します。

レシート1枚あたりの購入状況(平均レシート単価・買上点数)は、時間帯別で変化はあるのでしょうか。セブン-イレブンを例に分析します。

ランチ時間帯よりも、21時~深夜時間帯が平均レシート単価および買上点数が上昇する

セブン-イレブンを例に、時間帯別でレシート1枚あたりの購入状況(平均レシート単価・買上点数)をみると、図表1で購入金額の割合が下降していた、21時~24時が最高値となり、<平均レシート単価710円・レシート1枚あたりの買上点数3.2個>となります。レシートの購入金額割合が最高値となるランチ時間帯12時~15時は、<平均レシート単価586円・レシート1枚あたりの買上点数2.6個>であり、21時以降~深夜時間帯のほうが平均レシート単価、買上点数ともに上回っていたことがわかりました。

ファミリーマートおよびローソンの、時間帯別のレシート1枚あたりの購入状況の最高値についても、<ファミリーマート:21時~24時の平均レシート単価603円・レシート1枚あたりの買上点数2.9個>、<ローソン:深夜時間帯の平均レシート単価618円・レシート1枚あたりの買上点数3.2個>となり、同じ結果となりました。

次からは、主力商品カテゴリの「おにぎり」、「スイーツ」における全体のレシート購入金額の割合および、ローソン「バスチー」や「悪魔のおにぎり」などのヒット商品が与えたスイーツ・おにぎりカテゴリの影響について分析します。

おにぎりは、各社一定のシェアを保つ。セブンは定番商品リニューアル後の6月がピーク

まず、「おにぎり」のレシート購入金額全体に占める購入金額の平均割合をみると、セブン-イレブンは5.5%、ファミリーマートは4.8%、ローソンは3.5%となり、一定のシェアを保っています。

セブン-イレブンは2019年6月(8.9%)が最高値となります。背景には、夏のレジャーシーズンを前に同年6月に「リッチマヨ仕立てツナマヨネーズ(124円)」「二晩熟成紅しゃけ(151円)」他、定番5種類のリニューアルによる効果で、おにぎりの購入金額が増加していたことが考えられます。

また、おにぎりと言えば、ローソンから2018年10月に発売されシリーズ累計販売数が5,600万個(2019年9月末現在)を突破し、2019年の日経トレンディが選ぶ上半期のヒット商品となった「悪魔のおにぎり」があります。

発売後の「おにぎり」購入金額推移に、どのような影響があったのか調べてみました。

ローソン「悪魔のおにぎり」、発売後すぐに人気商品として定着

ローソン「悪魔のおにぎり」発売前月の2018年9月は、レシート購入金額全体に占める「おにぎりレシートの購入金額」の割合が(3.0%)、発売月10月には<おにぎり全体3.5%、うち「悪魔のおにぎり」0.3%>となります。SNSを中心に話題となり、発売13日で約265万個販売というニュースが流れ、11月には、<おにぎり全体4.2%、うち「悪魔のおにぎり」0.4%)>となりました。その後、<おにぎり全体3.1%~4.2%、うち「悪魔のおにぎり」0.2%~0.4%>で一定のシェアを維持。定番商品として定着していることがわかります。

次に、「スイーツ」のレシート購入金額全体に占める平均割合と、ローソン「バスチー」のレシート購入金額の推移をみます。

スイーツ金額シェア、ローソンのみ4%越え、バスチー発売・ウチカフェスイーツ10周年誕生祭が影響

「スイーツ」の、レシート購入金額全体に占める割合をみると、セブンイレブンは3.7%、ファミリーマートは3.4%、ローソンは4.8%で唯一ローソンのみ4%を超えています。

ローソンは2019年4月(6.9%)が最高値となり、同月3月発売の「バスチー」が影響していることがわかりました。(図表4-①)また、10月18日限定で、「Uchi Cafe Sweets [ウチカフェスイーツ]」10周年誕生感謝祭として、オリジナルスイーツ全品の半額セールを実施したことにより5.8%とシェアを伸ばしています。(前月4.3%)

バスチー発売の翌月、スイーツ購入金額、前月2ポイント以上の伸び、その後も定着

ローソン「バスチー」発売前月の2019年2月は、レシート購入金額全体に占める「スイーツレシートの購入金額」の割合が(5.5%)から、発売2か月後の4月には<スイーツ全体6.9%、うち「バスチー」1.3%>となり、「バスチー」の発売が、ローソンのスイーツレシート購入金額の拡大に寄与していることがわかります。

“第三のチーズケーキ”として、バスクチーズケーキ自体が各種メディアでも話題となっている中、セブン-イレブンでも10月に「バスクチーズケーキ」が発売されました。これにより、コンビニスイーツ全体が注目される相乗効果が生まれる可能性もあり、今後の動向に注目です。

コンビニエンスストアにおいては、スーパーやドラッグストアと比較すると、店舗数や(※)営業時間の長さ、コピーやFAX、ATMだけではなく、各種チケットや乗車券などの販売代行、宅配便やクリーニングの受け付け、光熱・水道費など公共料金の収納代行、様々なサービスにも対応しています。いつでも商品を購入することができるうえ、どこにでもあるため、利便性の高さにおいては優位性があると言えるのではないでしょうか。

しかしながら、根幹の24時間営業を巡っては、様々な議論が続けられ3社ともに時短営業を容認する動きがあります。コンビニエンスストア各社は、大きなビジネスモデルの転換期を迎え今後どのような価値を提供していくのか注目したいと思います。

(※)コンビニの店舗数は2019年6月時点で全国5万6485店(経済産業省「商業動態統計」)であり、小売業でコンビニ以外ではドラッグストア(1万6058店)やスーパー(5000店)が続きます。

2020年「小売流通業」の 5つの重点経営課題

1960年代に急成長したチェーンストアのマスマーチャンダイジングの成功体験がまったく通用しない10年が始まります。その元年である2020年の重点経営課題を整理します。

重点経営課題(1) 人口減少と生産性革命

2019年に日本国内の出生数が86万4,000人と、1899年の統計開始以来、初めて90万人を割り込む見通しとなりました(厚生労働省の人口動態統計より)。前年の出生数91万8,400人から約5万4,000人の大幅減です。一方、死亡数は137万6,000人と戦後最多で、自然減は51万2,000人と初めて50万人を超えました。日本という国は、人口減少が加速していることがわかります。

人口減少が減少すると、何もしないとGDPは自然減します。GDPの増加要因の半分は「人口ボーナス」(人口増によるGDPの自然増)といわれていますが、日本は人口ボーナスがマイナスの国です。人口減少時代の日本でGDPを成長させるためには、人口一人当たりの「労働生産性」を高めるしかありません。

しかし、日本のGDPの70%を占める、数字的には日本の基幹産業である「小売・サービス業」の労働生産性は、製造業よりもはるかに低く、米国の半分程度の低い労働生産性のままです。小売・サービス業の生産性向上が、日本という国全体の最大の課題といっても過言ではありません。人口減少が加速する2020年は、小売・流通業、サービス業の「生産性革命」元年であると思います。人海戦術からの根本的な脱却は、待ったなしです。

重点経営課題(2) スマートストア化

小売・サービス業の「労働生産性」向上のために、IT技術を活用した「スマートストア化」が2020年から加速すると思います。現在、レジフリー、レジ作業の省人化の実験が日米で進められています。店舗の人時数の30%を占めるレジ作業の省人化は、労働生産性向上のためには不可欠の技術になるかもしれません。

一方、リアル店舗は「接客」など、店員とお客のコミュニケーションを強化する必要があります。したがって、顧客接点以外の「単純作業」は省人化・無人化を進める一方で、顧客接点は「有人化」を目指すのが正しい方向性です。とはいえ、顧客接点の有人化もコストの壁があります。

たとえば、化粧品の接客強化といっても、営業時間中ずっと化粧品の専門家を売場に配置することは現実的ではありません。化粧品担当者の不在時をカバーするためにも、タブレットなどのITツールを活用した「接客のオートメーション化」が2020年以降に急速に普及すると思います。労働生産性向上と、接客強化を両立させなくてはなりません。

重点経営課題(3) マスMDの成功体験からの脱却

1960年代以降の人口急増時代に成長した日本のチェーンストアは、「大量生産大量消費」時代の「マスマーチャンダイジング」の成功体験から脱却できていません。しかし、人口ボーナスがマイナス時代のこれからの日本では、「不特定多数」の消費者に大量販売する手法は通用しなくなります。従来のようにマスマーチャンダイジングを推進すれば、人口減少と比例して、売上は減少します。

これからの日本の小売業は、不特定多数の浮動客相手の商売から脱却して、「特定多数の固定客(その店のファン)」を増やすことを目的にしたビジネスに転換する必要があります。そのためには、不特定多数向けのテレビ広告やチラシ販促ではなくて、個客の購買行動や属性に紐づいた「あなたのための販促」(パーソナライゼーション)を目指すべきです。2020年はマスマーチャンダイジングとの決別の元年になります。

重点経営課題(4) 差別化・ブランディング

2020年は、「同質競争」からの脱却、「差別化・ブランディング」の元年になると思います。日本の小売業は、看板を取り外せば、どの店かわからないほど同質化しています。

本誌で掲載したDgS(ドラッグストア)「2019年の顧客満足度調査」では、「ほかのチェーン(違う看板のお店)にはない特長や工夫を感じましたか? 」という調査項目を新たに加えたところ、この項目が、「総合満足度」に大きく影響を与えることがわかりました。総合満足度とは、簡単に言うと買物客の「再来店意向」です。つまり、上記の質問が、「またこの店に行ってみたい」という再来店意向にもっとも大きな影響を与えることがわかりました。

最近の消費者は、店舗に明確な個性や異質性を強く求めています。顧客満足度(CS)を上げるためにも、ブランディングは最優先の経営課題です。また、「プライベートブランド(PB)開発」に関しても、かつてのようにナショナルブランド(NB)にパッケージがそっくりで、価格が半値といった「低価格だけが価値のPB」からの脱却を目指さなければ、真の差別化は達成できません。

重点経営課題(5) リアル店舗の価値づくり

ネットで何でも購入できる時代において、われわれ小売・流通業に関わる者は、わざわざ時間とコストをかけて、リアル店舗に足を運んでもらえる「価値」とは何なのか? を自問自答し続けることが重要です。

リアル店舗の価値を真剣に追求するためには、「人手を減らして販管費を減らし、営業利益を増やす」といった会社の御都合主義を否定し、今取り組んでいることが本当に顧客のためになるかどうかを常に自問自答する、真の「顧客第一主義」に転換できるかどうかが何よりも重要です。

そして、ネットにはなくてリアル店舗だけが提供できる「触って試せる」「試食できる」「相談できる」「楽しい。ワクワクする」などの価値を磨き続ける必要があります。

買物客がリアル店舗に期待するニーズは、以下の4つですが、ネット販売にはない「リアル店舗のライブ感」を強化するためにも、「(4)エンターテインメントニーズ」の強化がとても重要になると思います。たとえば、低コスト化しているサイネージを活用して、店頭で動画を流す「店頭メディア化」も、2020年が本格的な普及の元年になると思います。

買物客がリアル店舗に期待する4つのニーズ
(1) コンビニエンスニーズ(近くて便利)
(2) ディスカウントニーズ(安い。ただし安売りで広域集客は×)
(3) スペシャリティニーズ(専門性、接客)
(4) エンターテインメントニーズ(楽しい、わくわくする)

発表!2019年にMD NEXTでよく読まれた記事ベスト10

2019年もいよいよ年の瀬。この1年でよく読まれたMD NEXTの記事10本を紹介しながら2019年のドラッグストア業界を振り返ります。一番読まれた時期は、実は年初に書かれた「あの」記事でした。(2019年1月1日から12月20日までのPV数順のランキングによる)

では第10位から順に記事をご紹介していきましょう!

第10位 3年間で約1万5,000店も閉店したアメリカ小売業は、日本の未来か!?

3年間で約1万5,000店も閉店したアメリカ小売業は、日本の未来か!?

しょっぱなからなかなか厳しいタイトルの記事ですが、かなりの読者の方にお読みいただきました。小売業の未来はどうなるのか、誰もが気になるところですが、本記事では、

●小商圏DS、ライフスタイルストア業態で店数を増やしている企業の例
●熱烈なファン(固定客)を増やすことで成長している企業の例

を紹介して、明日の小売業のあり方を前向きに提案ました。

第9位 小売業の正月休み増加、10連休など年間休日増加

小売業の正月休み増加、10連休など年間休日増加

2019年は「働き方改革」に注目が集まった年でもありました。本記事では小売業の正月休みが増加しているという現状を紹介するとともに、10連休となったGWにどのような消費の変化が見込めるかを推測しました。

10連休のGWなどの長期休みを適切にオペレーションして、売上を伸ばした小売業もあるようです。

一方、2019年は台風などの災害の影響で、「店を開けない」という判断をした企業も複数登場しました。Twitterでは「#台風だけど出社させた企業」というハッシュタグがトレンド入りするなど、働き方に関する価値観が転換点を迎えていることを感じる年になりました。

■関連記事

明日は大雪 !? 出社するべき、させるべき?

第8位 低経費&絞り込み&激安に割り切った小型業態「トライアルBOX」に注目

低経費&絞り込み&激安に割り切った小型業態「トライアルBOX」に注目

新業態に関する記事は注目度が非常に高く、たくさんの方に読んでいただいています。この記事もその1本です。本記事ではスーパーセンターなどの大型店のイメージが強い「トライアルカンパニー」が最近展開を始めた「トライアルBOX」を紹介。小型のハードディスカウンター(BOXストア)の実験店として、注目を集めています。

2020年もMD NEXTはいろいろなリアル店舗の新業態を紹介していきます。

第7位 PALTACのRDC埼玉が竣工。ロボット適用範囲拡大し生産性を従来比2.3倍に

PALTACのRDC埼玉が竣工。ロボット適用範囲拡大し生産性を従来比2.3倍に

2019年、MD NEXTは取材の裏テーマとして「中間流通業」に注目してきました。

流通業のなかでもどのような役割を担っているのかわかりにくい「中間物流業」。その理解を促すため、繰り返し関連記事をお伝えしています。なかでも最新AI技術を使って自動化を行うPALTACさんの倉庫内のレポートは多くの人に興味を持っていただいたようです。

第6位 トモズ、調剤オペレーション自動化の実証実験を開始

トモズ、調剤オペレーション自動化の実証実験を開始

2019年、MD NEXTが掲げていた裏テーマのもう一つが「作業の自動化」です。2020年以降確実に小売業に訪れる圧倒的人手不足時代。乗り切っていくためには作業の生産性向上が必須の課題です。その中の一つの選択肢として取り上げたのが「自動化」でした。

本記事ではトモズが松戸新田店で行っていた、調剤オペレーション自動化の実証実験を紹介しています。自動化によって「患者と喋る時間が増え、やりがいが増した」という現場の言葉に、自動化の価値が集約されているように思います。

第5位 池澤あやかの卸売業突撃レポ!PALTACのRDC新潟で最新鋭AIロボに萌える

池澤あやかの卸売業突撃レポ!PALTACのRDC新潟で最新鋭AIロボに萌える

こちらも「中間物流業」に注目したPALTACさんのRDC新潟に関するレポートです。タレントの池澤あやかさんにご登場いただき、わかりやすく中間物流業の裏側について解説する本記事は、ほんとうにたくさんの方にお読みいただくことができました。

■関連記事

池澤あやかの卸売業突撃レポ!PALTACのRDC新潟で感じた「包容力」

第4位 ココカラ、スギ、マツキヨ経営統合で1兆円企業が登場しても寡占化には至らない

[寄稿]ココカラ、スギ、マツキヨ経営統合で1兆円企業が登場しても寡占化には至らない

2019年のDgS業界の話題として最も大きかったのがココカラファインとマツモトキヨシの経営統合の話題です。

本記事ではまだ提携先が正式発表になる前のタイミングで、コンサルタントの郡司昇さんに、その背景などを解説していただきました。本記事では提携の鍵を「専売品」と「物流効率」と読み解いています。

第3位 ジェーン・スーが語るドラッグストア「DgSのヴィレヴァン化に期待」

ジェーン・スーが語るドラッグストア「DgSのヴィレヴァン化に期待」

2019年、MD NEXTに突如として巻き起こった「ストアソング旋風」。ジェーン・スーさんに取材させていただいたこの記事をきっかけに、ストアソング(小売業の店舗で流れている音楽類の総称)の漫画を月刊マーチャンダイジング・MD NEXTに連載していた月刊MD 編集部の店橋が、TBSさんのラジオ番組「アフター6ジャンクション」へ出演の機会をいただくなど、八面六臂の活躍を見せました。

ストソン探偵の漫画は現在最新作を制作中とのこと!刮目して待て!

■関連記事

極上のごきげんストアソング「ラブリイ エブリイ」。ウキウキビートの秘密に迫る!!

第2位 コスモス薬品が2020年5月期から肥沃な「関東平野」で超ドミナント出店開始

コスモス薬品が2020年5月期から肥沃な「関東平野」で超ドミナント出店開始

成長企業の経営戦略はよく読まれる記事の一つ。2019年1月に発表されたコスモス薬品関東進出の報道は、DgS業界にとって一大ニュースでした。コスモス薬品はこの1年東京都の広尾、中野、西葛西、歌舞伎町に店舗をオープン。これらはいずれも都心型の実験店で、大型店は2020年5月に越谷に、6月に茨木に複数店舗オープンする予定になっています。

M&Aをしないで独自成長を続ける同社がこれからどれだけ勢力を拡大するのか。コスモス薬品は2020年もドラッグストア業界を席巻する台風のような存在であり続けそうです。

第1位 2019年、小売・流通業の7つの重点課題

2019年、小売・流通業の7つの重点課題

2019年に最も読まれた記事がこの2019年1月に公開した記事でした。本記事では、2019年の重点経営課題を以下の7点にまとめて提言。最後は「顧客接点は有人化、単純作業は無人化」が進むとまとめています。

2019年の重点経営課題
(1)リアル店舗の価値づくり
(2)ブランディング・商品開発
(3)ESとCSの向上
(4)行動改革と、強い企業文化づくり
(5)生産性革命(省人化・無人化)
(6)スマートストア化
(7)個別化(パーソナライゼーション)

2019年に公開した記事の中では一番掲載期間が長いので、たくさんの方に読まれて当然といえば当然なのですが、読者の皆様がMD NEXTを日々の業務の羅針盤としてお読みいただいているということがよくわかる結果となり、編集部一同少しほっとしております。

MD NEXTはヘルス&ビューティー業界に関わるみなさまに、2020年も「わかりやすい」「面白い」「役に立つ」記事をお届けし続けたいと思います。どうぞご期待ください!

読者のみなさまにお知らせ

MD NEXTは、2020年1月より、新規記事の公開を現状の週3本から週2本に変更いたします。より密度の濃い記事をお届けするよう編集部一同頑張りますのでよろしくお願いします!

日本の小売業がロケーション管理に弱い3つの理由

前回、計画購買しやすい店はどこで何を売っているかがわかる店であり、どの商品がどの売場で販売されているかをアプリなどで伝えることが重要とお話しました。しかし、日本でその実現が難しいのは、売場のロケーション管理(ロケ管理、商品陳列位置管理)ができている小売業が非常に少ないということです。なぜ日本の小売業は商品陳列位置の管理ができないのでしょうか?

メーカー任せになっている棚割

棚管理ができない理由の一つは、そもそも棚割の作成がメーカー任せになっているということが挙げられます。棚割を徹底的に考えて一から自社で作っている日用消費材小売業は多くはありません。

棚割は、小売業の商品部バイヤーと、メーカーの小売営業担当者が話し合って決めます。しかし、筆者が知る限り日本の多くのドラッグストアは、棚割管理ソフトを自社で持ち合わせていません。大手メーカーが持っているものを利用しています。

たとえば日用雑貨であれば、花王などの大手メーカーを小売業のバイヤーが訪問して棚割をつくります。大手メーカーは、データ会社等から業態毎に集めたPOSデータを購入していますし、次のシーズンの同業他社の新商品情報を揃えていて「このような棚割がいいのではないか?」とあらかじめ棚割の元ネタを用意しています。

それをもとに、それぞれの会社に合わせた棚割に修正します。「うちの店は提案された棚割のように歯みがき粉のコーナーを棚4本分も取れないから、2本分に圧縮しよう」だとか「掃除用の洗剤はPBがあるからこのNBを外そう」というようなことを検討して棚割が出来上がります。

読者のみなさんは、情報と分析力を持った大手メーカーの力に小売業各社が頼ると、どのような結果になると思うでしょうか?

ドラッグストアに関しての生活者調査を行うと「ドラッグストア各社は差別化できていない」という事実を突きつけられます。店舗を利用する理由の上位に並ぶのは「家から近いから」「価格が安いから」「ポイントがつくから」という回答です。つまり、生活者は、ドラッグストアに対して、品揃えや買いやすさ(棚割りを含めたインストア・マーチャンダイジング)で各社差がないという評価をしているわけです。

では、どうすれば、他社と違う結果を得られるのでしょうか?

スポーツをはじめようとする人はまず教則本を読んで学ぼうとすることが多いと思います。では、ゴルフの初心者が教則本を読むだけでスコアが良くなるでしょうか?なりませんよね。筆者は学生時代、弓道をやっていましたが、弓道の本を読んでも的に当たるようにはなりませんでした。どうすれば、上手くなるでしょうか?

いくら本だけ読んでもスポーツは上達するわけがないのです。ゴルフであれば練習場で何度も素振りをして、実際に体を動かすことがスコアアップへの近道といえます。

このようにスポーツでは誰もが反復練習することで、情報・知識を成果に繋げます。

そして、練習の重要性は「思考」においても同様です。「情報・知識」を「知恵」という成果に繋げるためには「思考の練習」が必要になります。

多くのドラッグストアに欠けているのはこの「思考の練習」です。品揃え、棚割りについての思考をメーカーに頼っているから品揃えや買いやすさについて各社差がないと評価されてしまうのです。

ドラッグストアは品揃え・棚割に関して徹底的に自社で考え抜くことが必要だと筆者は考えます。

店頭実現力が不足している

棚割の管理ができないもう一点の理由は、本部が店舗に指示した棚割を、現場がその通り実現していない/できないという点です。棚割を実現すべきとは考えていても、忙しくて実現できないケースと、勝手に現場でアレンジされているというケースがあります。

多くの企業では、棚割りについて4本パターン、3本パターン、2本パターンというように例を示すだけで、あとは店舗に棚割の調整を「丸投げ」してしまっています。しかし、任された店舗側の従業員は、接客やクレーム対応、品出し、レジ作業などの対応に追われています。売上が厳しくなれば従業員を減らされ、指示通りの棚割を実現することができません。棚割の実現度は本社が思っているよりもかなり低いという状況です。

さらに、店舗がアレンジした棚割を本部にフィードバックする仕組みがないと、本部で店舗ごとの棚状況がどうなっているか把握することができません。経営陣が「PDCAを回せ!」と命じても回らないのはなぜでしょう?それは「原因」である店舗状況がデータ化できていないからです。売れた「結果」であるPOSデータだけではPDCAを回せないのは当然です。

また、本部が指示した棚割を店舗が勝手にアレンジしてしまうようなことも少なくありません。店長が「これは今陳列している商品より売れないと思うから、並べないで返品してしまおう…本部が言うほど売れないだろうから1フェースでいいや…」というケースです。

欠品が起きたときに他の商品で埋めるというオペレーションを採用している企業もありますが、チェーンストアの陳列位置管理という意味では、本来欠品が起きたらそこを他の商品で埋めてはいけないはずです。

このように、さまざまな理由から本部の棚割指示は達成されず、現場を見なければ確認できないという陳列状況なので、現場の棚割を本部が把握しているようなドラッグストアは日本ではほとんどないのです。

店頭在庫・バックヤード在庫を管理できていない日本の小売業

陳列位置を管理するだけでなく、在庫がどこにあるのかの情報も持っている必要があります。

在庫に関して言えば、現在でも在庫データの更新を1日1回夜間バッチで行っている企業が多く「今この時間にアリエールが店舗に何個在庫しているか」を把握している小売業は非常に少ないのではないでしょうか。店舗の在庫数全体でさえこのありさまなので、当然店頭に何個陳列されていて、バックヤードに何個在庫しているのかということも把握できていません。

日本では店頭在庫とバックヤード在庫の管理をしている企業はあまりないと思うのですが、アメリカではどうも様子が違うようです。

元々はウォルマートの従業員教育用アプリであり、後日一般公開されたアプリで店の作業を体験するシミュレーションゲーム「Spark City」では、店の作業を体験することができます。このアプリ体験してみると商品がバックヤードに何個ある、店頭に何個ある、という情報が飛んでくるのです。つまりウォルマートレベルの企業になると、店舗の在庫を、きちんと店頭分とバックヤード分に分けて管理しているのではないかと考えられます。

ウォルマートのアプリ「Spark City」。画面右の端末に店頭在庫数とバックヤード在庫数が記載されている。

ウォルマートと日本のドラッグストアで、どちらが「PDCAが回る」ことでデータ活用できる企業だと思いますか?「本当の在庫管理」の重要性を日本のドラッグストア企業にも認識してもらいたいと、筆者は考えます。

調剤薬局の在庫シェアリングサービス「メドシェア」、AI医薬品発注システムを開始

医薬品在庫のシェアリングサービス「メドシェア」を軸に、現場起点のサービスを打ち出しているファーマクラウド。同社の山口洋介代表にサービスの利用状況と有料拡張版の新サービス「メドオーダー」の開発背景について話を聞いた。(聞き手:MD NEXT 鹿野恵子/構成:イシヤママキ)

調剤薬局の廃棄ロス問題を解決する「メドシェア」

ファーマクラウドの代表を務める山口洋介氏は九州大学薬学部を卒業後、製薬メーカーに勤務。東京都千代田区に「薬局お茶の水ファーマシー」を開局し、管理薬剤師として自ら薬局運営に携わった経験を持つ。2012年に株式会社ファーサス、2015年に株式会社ザイシ、2016年に株式会社ファーマクラウドをそれぞれ起業。ITエンジニアとしての顔も持ち、ITを活用した現場起点のソリューションを次々と開発している。

ファーマクラウドの基幹サービスが、2017年1月にリリースした「Med Share(メドシェア)」だ。「メドシェア」は医薬品在庫のシェアリングサービス。個店経営から20店舗程度の小規模薬局チェーンをメインターゲットに、医薬品在庫を可視化し、不動在庫を共有するサービスの無料提供を行っている。

薬局経営の中で最も難しいのが、在庫コントロールだ。各調剤薬局は病院や患者との日々のやりとりの中で品揃えを決めているが、多くの店舗ではこれら情報をデータ化せずカレンダーに患者情報をメモするなどアナログな手法で行っており、発注量については薬剤師のカンに因ることが多い。

また、薬局は社会のインフラ的側面もあることから、様々な医療施設の処方せんに対応するため、アイテムの絞り込みができず幅広い在庫を抱えることになる。その結果、状況によっては数十万円分の廃棄ロスが出ることもあり、個人経営の薬局にとって大きな痛手となっている。

不動在庫を作らないためには常に在庫状況を把握し、周辺の薬局と情報を共有して、過剰在庫を他店と協力し消化する必要がある。そこで、ファーマクラウドは不動在庫候補の検出から出品購入までをサポートする「メドシェア」の開発にいたった。

このサービスではレセプトデータ(診療報酬の明細書)を活用し、個人情報や調剤報酬に関する情報を完全に削除した状態でアップロード。アップロードしたデータから不動在庫を自動的に検出し、その中からシェアしたい商品を選び出品することで、その商品を求めている他の薬局が買い取るといった仕組みを採用している。不動在庫の可視化・共有の手間を劇的に削減することにより、接客など本来の業務に集中できるほか、廃棄ロスの削減により、キャッシュフローの改善にもつながる。

メドシェア出品画面

医薬品の分割譲受を行う「小分けサポート機能」を追加

「メドシェア」では、2018年末より新たな機能として医薬品の分割譲受を行う「小分けサポート」サービスを追加した。

門前薬局ではない郊外店など、処方せん枚数の少ない薬局の場合、在庫を持たない薬品の処方せんを受け取ることもある。調剤薬局業界では旧来より助け合いの文化があり、在庫のない薬がきた場合、近隣の薬局に連絡し融通してもらう。しかし近隣の薬局に在庫がなかった場合、最終的には取引先である医薬品卸に相談することになる。

特に当てもなく片端から電話で問い合わせるというアナログな手法は時間や手間がかかり効率が悪い。また医薬品卸にとっても直接の業務とは関係がない薬局からの問い合わせは悩みの種となっていた。

こういった状況を受けて、ファーマクラウドでは既存の不動在庫サービスの中に、どの薬局が薬を所持している可能性が高いのかを検索する「小分けサポート」機能を追加。調剤実績の多い薬局にピンポイントで問い合わせできるため、分割譲受における効率化が期待できる。

メドシェア小分けサポート画面

不動在庫だけでなく有動在庫でも活用しやすい「小分けサポート」機能の追加により利用頻度も上がり、薬剤師会や医薬品卸からの支持も得て「メドシェア」の知名度も拡大。月間で約4000回の検索があり、2019年11月現在、会員数は約800店舗まで広がっている。薬剤師会向けには説明会を実施するなど、特に会員数拡大を狙っている。

月3万円でつかえるAI医薬品発注システム「メドオーダー」

同社は、「メドシェア」の会員数拡大に伴い、利用者の要望にこたえるべく新規サービスとなる「メドオーダー」を2019年10月にリリースした。「メドオーダー」はAIを活用した医薬品の発注システム。使用料は月額3万円となっている。

現在、各薬局で使用されている在庫管理・発注システムは、多機能ではあるものの操作が複雑化しており、使用者の技術やITリテラシーが求められる機能が多い。そのため、ITリテラシーが高いスタッフの作業時間だけが長くなり、作業者と非作業者の作業量や知識量に大きな差が生まれていた。

「メドオーダー」のできることは、他社の発注・在庫管理システムに比べるとかなりシンプルだ。レセコンから処方情報を取り込むことで正確な出庫管理が可能。処方量や発注点など、発注のために必要な情報が1つの画面で管理できるようになっている。また、AIが処方実績を学習することで、発注点の適正化を実現する。

先発サービス「メドシェア」と合わせて利用することで、発注予定の薬を「メドシェア」で購入することもできる。在庫一覧で不動在庫を確認し「メドシェア」で出品することももちろん可能だ。

ファーマクラウドでは「メドシェア」のユーザーを中心に案内しており、「メドシェア」利用者の半数以上が有料サービスへの移行をするのではないかと見込んでいる。

メドオーダー発注画面

薬局と医療業者との関係を円滑にする仕組みづくり

「メドシェア」および「メドオーダー」開発の背景について、山口氏は以下のように語る。

「薬局経営において、売上を左右する薬の単価を決めるのは国であり、患者数は立地によるところが大きく、コントロールできるものは案外少ない。また人件費やテナント料などのコストも調整が難しいため、唯一コントロールできるのが在庫の管理だ。不動在庫の問題は発注管理の問題であり、薬局の適正在庫を作っていくために『メドシェア』や『メドオーダー』を開発した。1店舗の場合はアナログで管理できても、複数店舗になると人の目が行き届かなくなる。システムの導入により、患者に必要な薬がいつでも手に入る状態を、薬局から創出することができるだろう。人間にとって一番有効なインターフェイスはチャットボットなどではなく、あくまでも人間だと考えている。在庫管理などはシステムに任せ、服薬指導、突発的な問題への対処といった薬剤師の専門性が発揮できる業務に力を注いでほしい」。

ファーマクラウドの社員数は現在システム開発6名、営業3名、サポート4名の計13名。今後は、サポート体制を強化していくことで顧客の声を開発に反映させるサイクルを高速で回していく。

ファーマクラウドが目指すゴールは「医薬品流通の非効率をなくす」だ。調剤薬局には医薬品の安定供給という社会的使命があるが、その使命を全うするために、現状はアナログな方法で無理をしている部分が多々見受けられる。

同社では「メドシェア」「メドオーダー」のサービス提供を通じて、薬局のデジタルトランスフォーメーションを推進することで作業効率化と課題解決につなげていきたいとしている。

コンビニおでんのピークは冬じゃない?揚げ物は企画・イベントで売れる!

10月の消費税増税後、現金を使わないキャッシュレス決済を対象にポイントを還元する取り組みや消費税の軽減税率導入で弁当などの販売が伸びたことが寄与し、コンビニエンスストア大手3社(セブンイレブン・ジャパン/ローソン/ファミリーマート)における10月に既存店売上高はいずれも前年同月を上回ったと言います。そこで今回は当社アンケートモニターから独自に収集する購買データ「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」(以下POB)のうち、コンビニエンスストア大手3社の購買データ(セブン-イレブン/ファミリーマート/ローソン3社のレシート総枚数:約130万枚:2018年4月~2019年10月)から購買行動を分析し、前半・後半に分けて紹介します。

前半は、POB会員のレシートから購入状況・曜日別・時間帯別レシート購入金額を分析します。(図表1~図表3)

平均客単価は586円のセブンが最多。アイテム数は各社2~3個

まず、コンビニエンスストア大手3社(セブン-イレブン・ローソン・ファミリーマート)の購入状況は、セブン-イレブン<平均レシート単価¥586円・レシート1枚あたりの買上点数2.8個>、ファミリーマート<平均レシート単価¥502円・レシート1枚あたりの買上点数2.5個>、ローソン<平均レシート単価¥556円・レシート1枚あたりの買上点数3.0個>となります。平均客単価においては、もっとも高いセブン-イレブン(¥586円)と、ファミリーマート(¥502)の差は¥84円となりましたが、レシート1枚あたりの買上点数は大きな差は見られませんでした。

曜日別レシート購入金額は、各社金・土曜がピーク、ローソンは火曜も高い傾向あり

次に、来店曜日別の購入レシート金額割合をみると、セブン-イレブンは<金曜日14.6%>から、2.1ポイント上昇し<土曜日16.7%>でピークを迎えます。比較的曜日に限らず、安定して購入されていることがわかります。これはファミリーマートについても同様です。

一方で、ローソンにおいては<木曜13.0%>から、7.0ポイント上昇し、<金曜日20.0%>で来店のピークを迎えます。その後<月曜11.3%>までは下降しますが、再び4.7ポイントの上昇し、<火曜日16.0%>となり、レシート購入金額の推移に特徴が表れました。

その背景には、セールやキャンペーンの実施が来店に寄与している可能性が高く、ローソン公式HPのキャンペーン情報を確認したところ、火曜日はキャンペーンの開始日となるケースが高く(直近11月の情報のみ確認)、金曜は、2018年3月から毎週金曜(16:00~21:59)には「揚げ物」「焼鳥」のタイムセールが実施されていることがわかりました。

3社のカテゴリ状況について、レシートからどのようなものが購入されていたか分析します。

カテゴリ構成比、半数以上が食品関連カテゴリが占め、飲料、酒類が続く

まず、コンビニエンスストア大手3社(セブン-イレブン・ファミリーマート・ローソン)の購入レシートからカテゴリ構成をみると、各社「生鮮・惣菜(主に生鮮三品、おにぎり、スイーツなど)」および「食品(主に菓子類、調味料類、アイスなど)」の「食品関連カテゴリ」の構成比が半数以上となります。セブン-イレブンと(生鮮・惣菜38.7%/食品19.5%)、ファミリーマートの(生鮮・惣菜32.7%/食品19.7%)の2社は、生鮮・惣菜が食品カテゴリを10ポイント以上上回りましたが、ローソンは(生鮮・惣菜28.6%/食品25.4%)となりました。次に大きな構成比を占めたのは、「飲料カテゴリ<13.3%~17.9%>」、「酒類<4.9%から8.6%>」と続きました。各社2割近くの構成比を占める「その他」に関しては、雑誌や文庫本などの書籍、たばこなどが含まれています。

次からは、コンビニエンスストアの主力商品カテゴリでもある「おでん」と「揚げ物」をセレクトし、全体のレシート購入金額に占めるシェアをみます。

冬場じゃない、コンビニおでんは9月と10月に売れていた

「おでん」の、レシート購入金額全体に占める割合をみると、セブンイレブンは0.7%、ファミリーマートは0.2%、ローソンは0.1%となります。(各社平均割合)

季節商品のため、他商品よりも割合が小さくなりますが、店頭に並び始める8月~10月に各社TVCMやキャンペーンなどを投下し、それに伴い各社の購入金額も上昇していることがわかります。特にセブン-イレブンは9月(2018年3.3%/2019年3.2%)に跳ね上がっているのが特徴的です。

揚げ物は各社一定シェアあり。ローソンは企画実施月に大きな伸びをみせた

「揚げ物」の、レシート購入金額全体に占める割合をみると、セブンイレブンは2.9%、ファミリーマートは3.3%、ローソンは3.5%となり(各社平均割合)、3社に大きな差はありませんでした。

各社購入金額のピークは、セブン-イレブンは4月(4.7%)、ファミリーマートは3月(5.9%)となります。ローソは8月(6.0%)に大きな伸びをみせ、背景を調べるとdポイントカード会員先着60万名に、Lチキが1個無料でもらえるキャンペーンが実施されていため、その影響が考えられます。

また、ファミリーマート(5.1%)は12月にも伸びがあり、主力のファミチキなどの商品が、クリスマスパーティを盛り上げるフードメニューとして選ばれていたことが予想されます。

<前半のまとめ>

  • コンビニエンスストア大手3社平均客単価は500円台。586円のセブンが最多。アイテム数は2~3個
  • 来店曜日は、金・土曜が各社ピークだが、ローソンは火曜に再び上昇。キャンペーン、タイムセールが来店に寄与。
  • 主力のおでんは冬場ではなく店頭に並び始める9月10月にレシート金額がピークとなり、揚げ物においては、各社一定の割合は確保し続けており、ローソンはLチキ無料の企画実施月(2018年8月)に跳ね上がっていた。

資生堂、花王、カネボウ、コーセー…肌診断データ活用に本腰入れる化粧品メーカー

これまで店頭で行われていた肌診断のスマホアプリ化が進み、化粧品メーカー各社による肌データ獲得・活用の動きが活発化しています。先日コーセーはヘルスケアビューティーアプリ「Skin Diary」のリリースを発表。資生堂、花王、カネボウもこの数年で積極的な取り組みが見え出したこの分野。小売業はメーカー各社の動きにどう追随すべきなのでしょうか?(MD NEXT 編集長:鹿野恵子)

ソーシャルゲームのノウハウ生かしアプリの継続利用促すコーセー

今回コーセーが発表した「Skin Diary」は、毎日の肌状態を、睡眠や気分といった外的要素と組み合わせて記録するアプリです。継続して記録を続けることで、自分の肌の本当の性質や隠された傾向を精緻に知ることができるといいます。

「Skin Diary」の開発においてはソーシャルゲームの知見があるDeNAライフサイエンスと協働したことも非常に興味深い点です。日々の状態を記録するアプリはどうしてもモチベーションが保てず離脱してしまうユーザーが少なくありませんが、「Skin Diary」にはDeNAライフサイエンスがゲームやスポーツの事業で培った、独自のノウハウ『エンゲージメントサイエンス』が随所で活用されており、飽きずに楽しく使い続けてもらうことを目指しているそうです。

将来的には、お客が記録・蓄積した美容データを、店頭と連携して最適な美容アイテムを効率的に提案する仕組みも検討するとのこと。

「これにより、これまで店舗や美容ブランドごとに分断されていたお客さまの美容データが共通のデータとして統合されるため、お客さまごとにパーソナライズされた美容体験の提供が可能」になると、DeNAはプレスリリースで述べています。

資生堂は「Optune」でひとりひとりの肌状態に合わせたスキンケアを提供

大手化粧品メーカーの肌データ活用のなかで、一歩先をいっているのは資生堂の取組でしょう。

資生堂は「肌パシャ」というスマホだけで本格的な肌分析が行えるアプリを2017年から提供しています。2019年9月には、これまでのうるおい測定に加え、「ハリ・透明度・シミ・シワ・肌色分析」、総合結果「美肌チャート」を搭載するなど測定項目を強化しました。

また、同社が2019年7月にリリースした「Optune」はさらに一歩進んだサービスです。スマートフォンのカメラで撮影して測定した肌の状態、睡眠状況や今の気分、そして気温や湿度、紫外線、PM2.5など、肌に影響を与える環境データなどの情報を組み合わせて分析。

8万以上ものお手入れアルゴリズムから、その日の肌に必要なケアを決定します。

最終的には専用のツールからその人の状態に合わせたスキンケア剤が自動的に抽出されるというものです。まさにカスタマイズの最先端を行ったサービスでしょう。

Optuneは月額1万円の定額制で、スキンケア剤の抽出に使用するカートリッジは残量が自動管理され、無くなる前に自動で届く仕組みになっています。これは究極の顧客囲い込みと言えます。

LINE連携で軽快な「肌id」、水分測定センサ配布する「smile connect」

花王は2019年9月からスマートフォンのカメラで肌年齢を分析する「肌id」を開始しました。同社の化粧品ブランド「ソフィーナiP」と連動したサービスで、対話アプリの「LINE」で友だち登録することで同サービスを利用することができます。

これは、株式会社パーフェクトがARメイクアプリ「YouCam メイク」の「AI 肌チェック」のブラウザ向けモジュールを提供したもの。LINEと連携していて軽快な使い心地です。

カネボウは「smile connect」というアプリで肌診断を提供。こちらはキャンペーンでスマートフォンのイヤホンジャックに差し込んだ肌水分測定センサーを配布しています。カメラだけで測定する他社とは一歩違ったアプローチをしています。

小売業独自の提案をする準備をするタイミング

このように、2019年はメーカー起点でさまざまな肌診断アプリが登場(強化)された年のようです。小売業はこの動きをどのように考えるべきでしょうか?ポイントは2点あると考えます。

まず1点目はさらに専門的な肌分析が店頭では必要とされるようになるだろう、ということです。

スマートフォンを使うという性質上、環境や機種、ユーザーのリテラシーに左右されるカメラでの撮影に頼らざるをえません。今後カメラの機能はより高くなることが予想されますが、どんなにソフトウェアの性能が向上しても、ある程度の精度どまりになることは間違いないでしょう。本格的な診断を受けたい場合は店頭に足を運ぶというような動線ができていくはずです。

花王はAIスタートアップのプリファードネットワークスとともに「皮脂RNA」を使って肌状態にコミットする美容カウンセリングサービスの構築をめざすと発表しました。

花王とPFN、皮脂RNAモニタリング実用化プロジェクト開始

これはとても簡単に解説すると、あぶら取り紙のよなものからとった皮脂から肌の状態のモニタリングをする技術を確立しようとするものです。簡易な肌診断がスマートフォンでできるようになれば、今後店頭ではこのようなさらに専門的な肌診断サービスの提供が求められるようになることでしょう。

もう一つ、これらの肌診断アプリはメーカーが提供しているため、横断的に化粧品を購入されるお客にとっては使い勝手が悪くなっている状況ということも小売業は注目しておきたい点です。

お客様はスキンケアはA社、化粧下地はB社、ファンデーションはC社…という使い方をされていて、メーカーの縛りがある「メーカー発肌分析アプリ」の提案は効きにくく、アプリとしても使い勝手が悪いのではないでしょうか。

そういったニーズを汲み取ってか、NTTドコモとソニーが肌解析アプリ「FACE LOG」を2019年6月にスタートしました。中立的な立場からの肌診断アプリとしては注目に値するでしょう。

本来であれば、メーカーを横断してお客に商品をご紹介できる立場である小売業が率先してこのような取り組みをするべきなのかもしれません。

かつてメーカーごとに顧客台帳があり、顧客管理を複数の台帳にまたがって行わなければならなかったために、使い勝手が非常に悪かったことがありました。今はメーカーごとではなく、台帳の統一化がかなり進んでいます。

同様に肌診断をメーカーごとにばらばらにおこなっていたのでは店頭は回りません。アプリで顧客を取り込み、店頭でより精度の高い肌診断を提供し、商品提案はメーカー横断で行える…そんなツールを小売業が率先して用意することができれば「最強」です。

肌診断アプリで集客したお客を取り込むためには、店舗側では3つの準備が必須になるはずです。

1つ目は店頭で更に詳細な肌診断を行えるツールを準備すること(それがないとメーカー直販への顧客流出は免れません)、2つ目は個別対応の為に自社の統一台帳を作り運用すること(電子台帳ならより時間短縮できる上にデータを活用できます)、3つ目は診断結果や要望をもとにメーカーを横断して化粧品を提案できるカウンセリングツールを用意すること(タブレットカウンセリングツールなど)。

たとえメーカーほどの開発費をかけることができなくても、小売側で今から準備できることは山ほどあるのではないでしょうか。

客数に影響する計画購買、客単価に影響する非計画購買

前回は買物行動が「計画購買」と「非計画購買」に分解できると解説しました。今回は、それぞれをどう伸ばすかについて解説します。

計画購買を満たすことは客数に影響する

日常生活に必要な何種類もの商品を、できるだけ短時間に購入できる店、つまり「計画購買がスムーズにできる店」は、お客も「便利な店」と認識し、来店客数が多くなります。

よく「売れ筋を欠品させてはいけない」と言われるのは、お客に「あの店はいつも買う商品が品切れしてばかり」と思われ、そもそも足を運ぶ気がなくなってしまうからです。

計画購買しやすい店はどこで何を売っているかがわかる店

計画購買がしやすい店というのは、豊富な品揃えがあることは当然ながら、「あなたが購入したいマヨネーズはここにありますよ」「あなたが購入したいラップはここにありますよ」という売場のわかりやすさを同時に実現することが重要です。

アメリカのチェーンストアのように、数千坪もある巨大な店舗では、スマートフォンアプリのような道具を使い、どの商品がどの売場で販売されているのかをサポートすることが有効になります。

アメリカホームセンター大手のホームデポのスマートフォンアプリには、お客が商品を検索すると店舗での陳列位置を表示する機能があります。

ホームデポのアプリより(画像提供:編集部)

また、ドラッグストア大手のウォルグリーンのアプリには、アプリ内の買物リストに登録している商品の、店内での陳列位置を教えてくれる機能もあります。

日本では、アプリで店舗内の商品陳列位置を案内している企業はそこまで多くはない印象です。理由は2つあります。1つは店舗面積がそこまで広い店が多くないこと。もう一つは、売場のロケ管理(商品陳列位置管理)ができている小売業が非常に少ないということです。

「どの店のどこに何があるかを把握しているかどうか」は今後重要になってくるのではないかと筆者は考えています。

テクノロジーとデータの入る要素が大きい計画的購買

アプリ以外の方法で、計画購買をよりスムーズにするために重要なのは売場サインなどの表示です。

「洗濯洗剤の売場がわからない」という人はあまりいません。なぜならこういった主要カテゴリーは塊で大量に陳列されているため、店内を歩いていればどこで販売されているかがすぐにわかるからです。しかし売場サインだけでは十分にカバーしきれない小さなサブカテゴリーや商品も少なくありません。

たとえば「白だしの液体タイプ」はどうでしょう?麺つゆと一緒に陳列する店もあれば、だしでくくって煮干しや鰹節と一緒の売場に陳列している店もあります。

レーズンは製菓材料でしょうか?おつまみでしょうか?それともお菓子でしょうか?青果売場に乾燥果物という扱いで陳列している店もありますね。

このような商品・サブカテゴリーは、売場のサインボードだけで陳列位置を判断するのは不可能で、結局店員さんに売場を確認する必要が出てきます。もしも陳列位置の管理ができていれば、アプリや店頭のタッチサイネージなどで探せるようになります。

つまり、計画購買はテクノロジーとデータの入る要素が非常に大きいということなのです。

それぞれの非計画購買をいかに増やすか

純粋衝動購買は完全にエモーショナルの世界になります。陳列のテクニックや「新商品が出たんだ!」「この商品にこんな使い方があるなんて」という「売り方の演出」によって喚起されます。

想起衝動購買を増やすために重要なのは、売場のわかりやすさです。「自宅に××がなかったな…」「××がそろそろ切れそうだな」ということを売場でお客に気づいてもらえるかどうかがカギになります。

しかしこれはそう簡単なことではありません。いますぐできる対策としては店内滞在時間を伸ばし、たくさん歩いていただくということになります。滞在時間が増えれば、純粋衝動購買と、想起衝動購買の2種類は上がる可能性があります。なお、滞在時間が増えても計画購買の売上は上がりませんし、提案受入衝動購買もそこまで上がるものではありません。

提案受入衝動購買を増やすには3つの方法があります。

まず、POPや販促ボードの適正化です。「価格訴求」ではない「価値訴求」のメッセージをいかに売場で伝えるかということです。どうでもいい情報はお客にとってノイズに過ぎません。良質な情報を必要な商品に絞ってつけていきましょう。

次に動画などの活用です。デジタルサイネージなどで商品の価値を的確に伝えることができれば、有効な手段になります。

最後に接客です。なぜ最後なのかというと、提案接客をすればよいから、とやってしまうと単なる押し売りになってしまうからです。接客は、必要なお客に必要なとき、必要な分だけ行えば効果的ですが、これだけに頼ってはいけないと、筆者は考えます。

テクノロジーが一番関与できるのは、計画的衝動購買の増加でしょう。最近、タブレットカートの導入を進めている小売業が散見されます。九州のディスカウントストア トライアルは自社でタブレットカートを開発していますし、イトーヨーカドーや食品スーパーのイズミ(広島)(の一部店舗では)、ショピモというタブレットカートを導入しています。

トライアルが導入しているタブレットカート(写真提供:編集部)

このタブレットカートは、売場に設置されたビーコンと連動し、特定の売場を通過しているお客に対して売場と連動した販促を仕掛けられます。たとえばビール売場を通過するお客に対し「今日はメーカーAの商品に100ポイントが付与されますよ」という文言がタブレット上に表示されるのです。ビールメーカーの方に話を伺うと、ポイント効果で明らかに買上点数があがったそうです。ここまで効果が明確なのであれば、メーカーが販促金を出す可能性は高いのではないかと思います。

計画的衝動購買を値引きで促すのは簡単なことですが、なるべく少ない値引きで促すために、お客様に売場でピンポイントに値引き商品を紹介するタブレットなどを、メーカー支援のもとで運用する小売業は今後増加していくでしょう。

このように、顧客の購買行動を分解して考えることで「どのような施策を打ったことで、どの数字にどれぐらい影響があったか」を知ることができます。すると、この施策は客数を上げるためなのか、それとも客単価を上げるためなのかが理解できます。

小売業において「たくさんの施策を打って、売上げが上がったものの、どの施策が鍵だったのかがわからない」というようなことは少なくありません。

しかしこのように購買行動を分解することで、原因と結果の分析がより正確になれば、どの施策がきっかけで業績が向上(あるいは下降)したのかが明確になるでしょう。

やって効果のあること、やっても効果が出ないことを明らかにすることで、より効果の出る施策に注力していただければと思います。

(談、まとめ:編集部 鹿野恵子)

MIYOSHIが目指す、原料、容器、電力から環境にやさしいものづくり

環境へのやさしさをうたうメーカーは数あれど、できた製品だけでなくその工程まで環境に配慮できている企業は限られている。ミヨシ石鹸は、製品の原料、資材、さらに工場や事務所の電力にまでこだわった商品づくりを行う。

グローバル、長期的視点からの環境保護目指して

もともと環境にやさしいものを取り扱いたいと考えていたミヨシ石鹸は、政府が提唱している3R、つまり「リデュース(減らす)」「リユース(繰り返し使う)」、「リサイクル(資源の再生利用)」の推進に取り組んでいた。

しかし3Rは飽くまで国の政策である。

我々が製造業として、よりグローバルで長期的な視点から環境保全に取り組むために何をすべきか考える中で、原料と容器の調達に着目しました。たしかにせっけんは環境にやさしいし、肌にもやさしい商品です。しかし製造の過程は本当に環境にやさしいといえるのでしょうか?そこで、原料からパッケージの調達までの見直しを図ることになったのです」と、ミヨシ石鹸取締役営業本部長の中野浩之さんはいう。

そこで同社は、液体せっけんの原料に「RSPO認証」を取得した「持続可能なパーム油」を採用することにした。

持続可能なパーム油を示す認証「RSPO」

パーム油はアブラヤシの果実から得られる植物油だ。せっけんの原料の一つで、生育環境が限定されているためにインドネシア・マレーシアなど限られた地域で生産されている。

アブラヤシの果樹の収穫の様子

せっけん以外にも加工食品や化粧品、医薬品、バイオ燃料などに活用できるパーム油の需要は高く、急速なアブラヤシ農園の拡大や、不適切な農園経営などが原因となって、環境や地域社会に深刻な悪影響をおよぼしている。

たとえば農園造成のため、自然林や泥炭湿地林などが伐採されたり、火入れを行うために森林火災が起きている。ゾウやオランウータンなどの希少動物も住むところを追われている。劣悪な労働環境や、移民労働者の不当な扱いなど、働く人たちにまつわるトラブルも起きている。

そこで、環境への影響に配慮した持続可能なパーム油を求める世界的な声の高まりに応えて登場したのが「RSPO」だ。2004年に設立された「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」は、アブラヤシ生産者や、製油業、製造業、小売業など7つのステークホルダーによって構成される非営利団体である。

RSPOは持続可能なパーム油が標準となるように市場を変革するというビジョンのもとさまざまな活動を行っているが、その活動の一つがRSPO認証システムの提供だ。これはRSPOが考える持続可能なパーム油の生産についての要件をクリアしているかどうかについての認証を与えるというもの。

近年ではイオンのような大型小売業が持続可能な調達方針を掲げ、たとえばGAP認証を取得した農産物や、MSC認証、ASC認証を取得した水産物の調達を行うと宣言している。イオンはプライベート・ブランドの原料にRSPOなどの認証を取得したパーム油100%利用を目指すとしており、注目が集まっている認証であることがわかる。

「RSPO認定パーム油は一般的なものと比較すると高額ではありますがミヨシ石鹸は2012年10月からこのRSPO認証に参画し、現在ほとんどの液体せっけんに認証を取得したパーム油を使用しています」と中野氏は語る。

バイオマス由来素材使用のUL認証取得容器を採用

原料だけではなく、商品のパッケージも環境に配慮したものの採用を進めている。

もともとミヨシ石鹸は、業界ではじめて詰め替え式の商品を導入していて、容器ゴミの削減を推進していた。しかしさらに一歩進んで、本年行った液体洗濯せっけん「そよ風 液体せっけん」と「お肌のための洗濯用液体せっけん」のリニューアルでは、二酸化炭素削減に効果があるといわれているサトウキビ由来のバイオマス容器を使用。

この容器はUL認証を取得した素材でできている。ULは、アメリカで1894年に設立された「Underwriter’s Electrical Bureau」を前身とする安全認証機関である。1,000を超える安全規格に基づき、材料、製品について試験や評価を実施、適合したものに対してULマークの表示を許可している。これは商品の機能と安全性を認定するものだ。

このような取り組みを通じて、同社は中身も容器も環境にやさしいことを目指す。

ミヨシ石鹸、旗艦商品の詰め替え用ボトルを大幅刷新

太陽光発電で工場や事務所の電力補う

同社は2016年7月から、本社工場の屋上に大規模なソーラーパネルを設置し、太陽光発電をスタートした。中身も容器も環境にやさしいだけでなく、製造工程で利用する電力もクリーンなものを志向しているのだ。東京営業所では電気自動車を営業車に採用。さらに大阪では営業車を廃止している徹底ぶりだ。

「環境にやさしいせっけんメーカー」から「せっけんをとりまくすべてを環境にやさしくするメーカー」へ。ミヨシ石鹸のチャレンジは、石けん業界に大きなインパクトを与えるであろう。