今週の視点

ショッピングモールの廃墟化が進行

第45回3年間で約1万5,000店も閉店したアメリカ小売業は、日本の未来か!?

アメリカ小売業での記録的な閉店ラッシュが続いています。大型ショッピングセンター(SC)の閉鎖、廃墟化も加速しています。アメリカ小売業の5~10年遅れで追随している日本の小売業界も、近い将来、アメリカ小売業界のような「大量閉店」が始まるのでしょうか?

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大型SCテナントの大量閉店が続いている

2017年のアメリカ小売業は、1年間で約5,000店も閉店した。(出典:Business Insider)

「Business Insider」によれば、アメリカ小売業は、2017年に約5,000店(上記図表)も閉店しました。そして、閉店した小売店舗の面積が1億200万平方フィート(約950万平方メートル)という記録的な数字になりました。2018年は、それを上回る1億5500万平方フィート(約1400万平方メートル)の閉店となりました。さらに、2019年にはすでに4,300店舗の閉店が発表されています。

上記図表の閉店企業の多くは、大型SC(ショッピングモール)にテナントとして出店している企業です。閉店数が第一位の「Radio Shack」は老舗の家電専門店ですが、経営破綻の結果の大量閉鎖です。「Radio Shack」は、単独店もありますが、店舗数の多くは大型SC内に出店しています。

閉店数が第二位の「Payless」も、大型SCに店舗展開する靴の専門店チェーンです。2年前に経営破綻しており、2019年には、北米で展開する2,000店以上の店舗を閉鎖すると発表しました。2017年に250店閉鎖した「The Limited」も、大型SCのモールに出店するアパレル専門店チェーンです。

また、「JCPenny」(138店閉鎖)、「Sears」(54店閉鎖)は、大型SCの核テナントとして出店してきた総合店です。核店舗が不在のショッピングモールが増加していることが推測できます。それ以外にも、総合DSの「Kmart」(126店)、オフィス文具専門店の「Staples」(70店)など、ネット販売との競合にさらされやすい「大商圏業態」の閉店が多いように感じます。

小商圏DS、ライフスタイルストアは店数を増やしている

その一方で、店舗数を増やす小売業も存在します。代表的な企業が、バラエティストア(VS)の「Dollar General」です。1~10ドルの低価格帯で商品をアソートメントした300坪程度の小型店です。低価格が武器ですが、「Kmart」のような大商圏DSではなくて、小商圏の店舗であることが特徴です。「Dollar General」は、2019年に約1,000店舗を新規出店する計画です。

また、小型のハードディスカウンター「Aldi」も、2019年に大量出店を計画しています。「Dollar General」と「Aldi」に共通することは、「300坪程度の小型店舗」「品目数が少ない」「SCに入居しない単独出店」であることです。つまり、閉店数が多い大型SCのモール出店店舗よりも、小商圏であるということが大きな違いです。

ネットで何でも買える時代において、家から遠くの大型SCに行くという購買行動が減少し、「近くて便利な店」を求める消費者が増えていることも、出店数と閉店数の明暗が分かれた原因のひとつです。

一方、健康志向のスーパーマーケットの「Sprouts Farmers Market」、 化粧品専門店の「ULTA」、は、2019年以降も大幅に店舗数を拡大すると発表しています。この2社に共通することは、小型DSと同様に「SCに入居しない単独出店」であり、「商品を売る」というよりも「ライフスタイルや体験」を提案するライフスタイルストアであるということです。

「Sprouts Farmers Market」は、FLONH(Fresh、Local、Organic、 Natural、 Healthy)というライフスタイルを、手頃な価格で実現できるという明確なコンセプトの「ライフスタイルストア」です。売場面積は800坪程度と、通常のスーパーマーケットの半分程度の売場面積ですが、その明確なコンセプトを支持する熱烈なファン(固定客)を獲得することで成長しています。逆説的にいえば、これからの時代は、「単なるモノ売りのリアル店舗」は淘汰される運命にあるのかもしれません。

熱烈なファン(固定客)を増やすことで成長しているSPROUTS。

熱烈なファン(固定客)を増やすことで成長している。

「ULTA」は、カウンセリング化粧品を、遠くのデパートではなくて住宅地から近い店舗で、対面接客販売ではない「側面接客販売」(セルフで自由に選べて、必要ならカウンセリングやタッチアップもしてくれる)という新しい「買物体験」が支持されて店舗数を増やしています。また、全店で「ヘアサロン」が店内にあり、非物販サービスの充実も、ファンづくりに貢献しています。商品ではなくて、ライフスタイルを売ることが、「vsアマゾン」の回答のひとつだと思います。

「Sprouts Farmers Market」と「ULTA」にいては、昨年のこの連載で記事を掲載していますので、興味のある方は参照してください。

明確なコンセプトでアマゾンと差別化する「スプラウツ」

化粧品専門店「ULTA(アルタ)」がアマゾンと差別化し、快進撃を続ける理由

リアル店舗の閉店という記事を掲載すると、「オンライン販売」との戦いに敗北したことが原因と、短絡的に解説されることが多いのですが、決してオンライン販売だけが「大量閉店」の原因ではありません。

たとえば、小売全体に占めるアメリカのオンライン販売額の比率は、まだまだ多くはありません。もちろん、オンライン販売の伸び率はすさまじいものがありますが、それでもまだ大半の売上はリアル店舗が稼いでいるわけです。消費者の購買行動も、すべてオンライン販売で完結し、リアル店舗がなくなることはありません。大量閉店の原因は、オンラインとの競争というよりも、その業態や店舗が、消費者の「購買行動の変化」に対応できなかったことが最大の原因だと思います。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。