今週の視点

パチモノPBから脱却しよう

第8回SNSでバズってヒットしたマツキヨのPB「エナジードリンク」

現在、すべての小売業の最大の経営テーマは、いかにアマゾンと差別化できるかです。そして最大のアマゾン対策は、アマゾンでは取り扱いのないPB(プライベートブランド)を強化することです。とはいっても、デザインはNB(ナショナルブランド)のパクリで、価格は半値といった従来の「パチモノPB」ではなくて、その小売業の世界観を明確にした本当のブランディングを行わなければなりません。今週は、PBのリブランディングが成功した「マツモトキヨシ」の事例を紹介します。

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これからのPB開発は定期的なリブランディングが不可欠

従来の商慣行を破壊するモンスターであるアマゾンに対抗するためには、わざわざ時間とコストをかけてリアル店舗に行く理由を明確にしなければなりません。そのためには、店舗をブランディングする必要があります。

ドラッグストアであれば、看板を外せばどの店だか分からない無個性の「業態」ではなくて、その小売業独特の世界観をもった個性的な「個態」を創造していかなければなりません。また、アマゾンでは取り扱いのないPB(プライベートブランド)を強化することも、店舗のブランディングには不可欠です。そのPBがあるから、その店にわざわざ行くというくらいのブランド力のあるPBを創造していくことが大切です。

そのためには、「つくりっぱなしのPB」ではなくて、2年くらいの期間で常にPBの品質やデザインを見直し、リブランディングをしていく必要があります。

チェーンストアの最大のブランドである店舗は、古い既存店を計画的に改装し、店舗の平均年齢を5年程度に若く保つことがセオリーです。それと同様に、PBも定期的なリブランディングをする必要があります。「店舗」も「PB」も磨き続けなければ陳腐化し、競争力を失ってしまいます。

マツモトキヨシは、2015年末にPBのリブランディングを決断しました。ブランド名を「MKカスタマー」から「matsukiyo」に変更したのです。これまでのPBは、『競合との差別化』『利益拡大』『お買い得価格での提供』『来店客数増加』といった役割を果たしてきました。しかし、これからは、それらに加えて『ユーザーニーズに応える』『コーポレートブランドのイメージ向上』『企業理念の具現化』といった、企業戦略の実現、つまり「ブランディング」の側面がますます重要になってくると考えたからだそうです。マツキヨのPB商品数は2,000点を超え、売上構成比の10.1%をPBが占めています(2018年6月時点)。

「マツキヨスラッシュ」がPB全体の統一感をつくる

それらのマツキヨのPBの中で最近大ヒットした商品が「エナジードリンク」です。カフェインが従来品の1.5倍入っており、インパクトは抜群。しかもレッドブル289円に対して、PBは150円とお手頃価格です。

マツキヨは、PBのエナジードリンクの販促のためにSNSを効果的に活用しました。ブランドコンセプトのひとつである「面白さ・楽しさのあるアイデア」に基づいて、オレンジ色の缶に緑色の液体という組合せに驚かされます。メロンソーダのような色なので甘いのかとおもって飲むと、意外とスッキリした味わいでまた驚かされ、ガス圧の強いシュワシュワ感に驚かされ、成分の含有量(コスパ)にも驚かされる…という意外性がSNSで拡散されて大ヒットしました。

マツキヨによると、早稲田大学エナジードリンク研究会が、SNSで「これは魔剤だ。すごい」という表現を使い始め、そこからバズって売上が10倍に急増したといいます。メガブランドが育ちにくく、「スモールマス」のブランドが乱立する時代は、テレビよりもコストパフォーマンスの高いSNSの活用で、ブランド認知度を上げることが大切なようです。

また、PBのブランド名「matsukiyo」の「y」の角度(19度)を「マツキヨスラッシュ」と呼び、すべてのPBのパッケージにデザインされており、さりげないアクセントですが、PB全体に統一感があるのも面白いですね。

エナジードリンクとデザインはまったく異なるが、「マツキヨスラッシュ」がPB全体の統一感をつくっている。

月刊マーチャンダイジング2018年8月号やMD NEXTでは、より詳しい内容の記事を掲載の予定です。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。