今週の視点

災害対策こそリアル店舗の存在理由

第7回地域のライフラインとして災害から迅速復旧するための5つのポイント

今週は、2017年3月号の月刊MDで掲載した、熊本地震から迅速復旧した「コスモス薬品」に学ぶ「迅速復旧への5ポイント」の記事の一部を再掲載したいと思います。

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写真は、2011年3月11日の東日本大震災からの迅速復旧作業を行っているツルハドラッグの復旧現場。

この度の「西日本豪雨災害」により、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の皆様にお悔やみを申し上げます。また、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。1日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

日本という国は「自然災害」を避けて通ることができません。2011年3月の「東日本大震災」、2014年8月の「豪雨による広島の土砂災害」、2015年9月の「関東・東北の豪雨災害」、2016年4月の「熊本地震」、そして今年6月の「西日本豪雨災害」と、自然災害は定期的に日本人の暮らしを直撃しています。

チェーンストアは、地域の暮らしを守る「ライフライン」として、災害発生後から店舗や物流を迅速復旧することで、被災者に生活物資を届け、被災者の普段の暮らしを届けることに貢献することが最大の使命です。その機能こそが、地域に密着したチェーンストアの最大の「役割」と「価値」であると思います。自然災害時に「ネット販売」はほとんど役に立ちません。地域とともに生きるリアル店舗だからこそできる社会貢献だと思います。

そこで今週は、2017年3月号の月刊MDで掲載した、熊本地震から迅速復旧した「コスモス薬品」に学ぶ「迅速復旧への5ポイント」の記事の一部を再掲載したいと思います。

15分で対策本部立ち上げ 翌朝には被災地に水送る指示

余震の混乱が続くなか、他店と比べ営業再開までの期間も短く、商品供給力も高かったといわれるコスモス薬品。災害時に各所からの情報処理・情報発信の基地となり、組織の課題と指示を導き出す頭脳ともなる災害対策本部の立ち上げもいち早かった。

前もって、立ち上げる際の明確な基準は定められていないが、熊本地震では発災から15分後に、災害対策本部長である店舗運営部長(現取締役)が本社に到着。地震発生30分後に始まった断水に対して、翌朝には現地に水を届けられるよう、その日の夜のうちに集荷の迅速な指示が出されている。

まず、コスモス薬品がスピード感のある復旧を遂げたポイントのひとつめに、緊急時に組織を動かす指示基盤となる[ポイント①]災害対策本部の立ち上げが早かったことが挙げられる。

「現場は混乱していて、何が欲しいといっている余裕がありません。間違いなく必要なものは、ある程度本部側からプッシュ型で送り込む必要があります。非常時、1店分に必要な物量はどのくらいで、何店分なのか。店を作るのと直すのは、実際はほとんど変わりません。結局、新店をつくるときは、1店分の商品をまとめてボンと送りますから。我々は年間100店近い出店をしており、対応の素地はできているかと思います」(コスモス薬品のコメント。以下同様)

新店・改装、店づくりに長けた100名体制の応援部隊

2つ目のポイントとしては[ポイント②]新店づくりに長けた専門部隊が迅速に対応に当たったことが挙げられる。

同社は新店・改装を本業とする専門部隊を複数チーム擁する。先述したとおり、新店づくりと災害時の復旧作業の基本は同じだ。社外との調整もある新店のスケジュールは変えにくいが、社内のスケジュール調整で対応できる改装であれば、彼らは予定されていた作業をキャンセルして災害復旧に当たる。

また、年間100店をオープンするコスモス薬品には、約70人のエリア長が在籍する。エリア長で新店開業を経験していないエリア長は1人もいない。彼らは1年間で5店、最低でも1店は新店づくりに携わるため、年中行事として経験している。新店を開業する際は、メーカーの応援が入ることもしばしばあり、自社の応援と共に他社の応援部隊も使いながら店をつくっていく。この点も復旧作業との共通項だ。

「あるとき、メーカーの方に『同じように被害に遭った企業に応援にいっても、現場の司令塔がおらず多くの人間が指示待ちをしている。コスモスの応援は大変だが、的確な指示が飛び早く終わる。遊んでいる暇はないが、集中して作業できるので達成感がある』といわれました。新規出店がない会社というのは、企業規模が大きくても変化がありません。災害時には弱いし、組織が停滞していく。そういう意味でも新店を出し続けることには意味があります

水害で鍛えられた復旧作業 20年かけて2日で開店

コスモス薬品の災害対応力を、より鍛え上げている要因がもうひとつある。[ポイント③]水害経験の多さだ。九州は、台風を始め、川の氾濫、最近ではゲリラ豪雨など、水害に見舞われることが多い。4、5年前には堤防が決壊し、人間の背丈くらいの水が入って来て、店舗が水没した事例もあるという。

「水害には慣れていますから、立ち上げは早いですね。建物の被害がなければ、地震の復旧に関しては、汚れていない分、水害よりは楽ともいえる。エリア長ともなると、店長時代に何度か災害を経験している人材がほとんどなので、明確な指示を出すことができます。今年も何店か浸かって、だいたい1日で復旧させていますが普通は無理でしょう。わが社も、15年、20年前は、棚に商品を入れて並べるまでに1カ月はかかっていました」

水害は、浸水後の処理が厄介だ。水に濡れた商品の処分。店内に流されてきた、腐った匂いのするヘドロ状のものやゴミの清掃。それらを片付け、店内を消毒し、新しい商品を入れ直してPOPをつけるまでが復旧作業となる。通常では数週間から1カ月ほどかかる作業だが、コスモス薬品では総力を結集し、水が引いた後に丸1日、2日あれば開店まで持っていけるまでになったという。

今回の熊本地震では、同社被災店舗の大部分がわずか数日で復旧。作業が長引いた店舗も最終的に1カ月程度で復旧している。

熊本地震直後のコスモス薬品の店内。

第一に通常営業の再開を 営業可能な店舗に物資

現場の作業に加え、震災後の売場に商品を満たすスピードも早かった。震災後からまだ間もない時期は物流も滞るため、商品もなかなか入ってこない。早い段階で店を開けても、実質的に売るものがない状態に陥る店舗も多い。

コスモス薬品は他企業に先んじて、そのとき立ち上げられる店を絞り、閉じている店舗からも商品をかき集めた。今回、閉鎖店舗の駐車場で商品を販売する「青空店舗」のような形をとっていないのも、万全な態勢でより多くのお客に商品が行き渡るように、通常営業の早期再開を第一に優先させた結果だ。

[ポイント④]旗艦店としてひとつの店舗に物資を集中したことも、営業再開までの迅速さと物量における他社との差となったといえる。

「この判断が正しいかどうかはわかりません。ただ、今回たくさんのお客さまにご利用いただけたという実績はありますし、他社より物はあったと思います。営業できない店舗から、売れ筋だけを集めて供給しました。さきほどお話した、新店専門の立ち上げ部隊のトラックや、従業員の車も使用しましたね

建物に被害が出た場合はケースバイケースだが、隣の店の看板が見えるほど密なドミナントを築いていることから、開けられる店に全力投球するという方向が考えられるという。

非常時でも売り切る力 メーカーも優先的に協力

また、物資を集められた理由として、自社で賄った商品のほかに、メーカーの協力が得られたことも大きいだろう。幾多の企業が被災するなか、メーカー側も全社平等に商品を供給することは難しい。そのとき、なぜコスモス薬品だったのか。

「日頃から良好な関係を築いていること、信頼関係によるところも大きいと思います。ですが、結局は、非常時とはいえ、商品がどれだけさばき切れるか。それに尽きるのではないでしょうか。送り込んだはいいが、末端が機能していなければフンづまりになってしまいます。
[ポイント⑤]非常時でもある程度商品が末端まで流せる仕組みと力があれば、メーカー側も安心して流してくれるのでしょう」

震災直後の初期は、置けば何でも売れていくが、刻一刻と状況が変わるにつれ、お客のニーズも変化していく。特に、行政から無料で配られる菓子パンは、あっという間に余るようになったという。そのような環境でも、やはりオムツ、ウェットティッシュ、トイレットペーパーなどの紙製品、カップ麺、袋から出してすぐに食べられるような栄養食品、ゼリー系飲料など日持ちのする簡易的な食品。そして紙コップ、紙皿、ラップ類は飛ぶように売れたという。[以上、月刊MD2017年3月号より転載]

これ以外にも、熊本地震発生4日目あたりに、2日程度、疲弊していた現地の従業員をあえて休ませたそうです。コスモス薬品の店舗は標準化ができているため、開けた店に隣県から店長中心に応援スタッフを送り込んで対応したそうです。

また、熊本地震ではコスモス薬品の従業員約2,000人が被災しました。罹災証明の出た従業員には雇用形態を問わず、それが1日4時間労働のパートタイマーであっても会社として御見舞金を出しており、その総額は5,000万円に上ったそうです。

東日本大震災の際にも、ツルハドラッグでは、見舞金を銀行振り込みではなくて、被災地のスタッフに直接手渡す方法を取ったことで、現場の士気が大いに高まったそうです。自然災害のときには、地域の生活者の暮らしを守るだけでなくて、ES(従業員満足)を高めることも、迅速復旧のための原理原則だと思います。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。