今週の視点

5つの重点経営課題から紐解くウィズコロナ時代のドラッグストア像

第111回2022年、小売業の重要経営課題はショートタイムとワンストップの両立だ

withコロナの時代が続く2022年における、ドラッグストアの5つの重点経営課題を整理してみましょう。Withコロナによって消費者の購買行動は大きく変化しました。変化対応業である小売業は、その大変化に対応しなければ、次の時代の主役にはなれないでしょう。

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ショートタイムとワンストップの両立

リアル小売業の「狭小商圏化」が加速しています。数年前に「ドラッグストアの商圏人口が1万人を切った」と話題になったこともありましたが、最近は、立地によっては、ドラッグストア1店当たりの商圏人口が7,000人、5,000人を切るエリアも登場しています。狭小商圏化が進む理由は、ドラッグストアの陣取り合戦が加速していることです。

先日視察した茨城県水戸市では、ツルハドラッグの駐車場から、コスモス薬品とカワチ薬品の看板が目視できるほどの激戦でした。まさに「レッドオーシャン」の陣取り合戦の結果としての狭小商圏化です。

狭小商圏化が進むもうひとつの理由は、Amazonで何でも購入できるようになり、しかもコロナ禍の影響も加わり、「遠くの混んだ店へは行きたくない」と考える消費者が増えているためです。つまり、リアル店舗の最大の価値は「近さ」になっているわけです。

ある調査では、コロナ前はスーパーマーケットの来店者の約34%が30分以上滞在していましたが、コロナ後は30分以上滞在する顧客が約23%と大きく減少しています。一方、10分以内の滞在客が約5%から約9%と大きく増加しています。コロナによって消費者の「ショートタイムショッピング」のニーズは大きく高まっています。

一方で、せっかく来店した近くの店で「短時間でまとめ買いしたい」というニーズも強まっています。つまり、「ワンストップショッピング」と「ショートタイムショッピング」の両立が、2022年の経営課題のひとつです。

また、狭小商圏化による1店当たりの商圏人口の減少によって、「ラインロビング」がドラッグストアの重要な経営課題になっていますが、2022年も引き続きラインロビングへの挑戦は進むでしょう。少ない商圏人口で商売を成立させるためには、消費者の買物目的を増やし、1人当たりの支出額を増やす必要があります。化粧品も買えるし、肉も買えるという店でなければ、狭小商圏では成立しません。ラインロビングとは、狭小商圏で商売を成立させるための基本作戦なのです(図表1)。現在、郊外のドラッグストアでは、肉や野菜をラインロビングした店は普通になっていますが、その傾向は今後も続くでしょう。

調剤強化と接客強化による地域の健康と美容の拠点へ

「調剤強化」は、ドラッグストアのもっとも重要な経営課題です。ドラッグストア市場は約8兆円と大きく成長しましたが、大手14社のシェアが約76%と寡占化が一気に進みました。一方で、調剤市場も約7.5兆円とほぼ同規模の巨大市場であるにもかかわらず、大手10数社のシェア率は約20%と低く、大半は個人の調剤薬局の市場であることがわかります。ドラッグストアから見れば、市場獲得の大きなチャンスのある市場だと思います。ドラッグストアは、約8兆円の2つの市場を持っており、まだまだ成長の余地が大きい業態です。

当初は食品や消耗雑貨の安売りで成長してきたドラッグストアですが、調剤を強化する過程で、地域の「ヘルスケアステーション」としての役割を果たしていくことになるでしょう。日本のドラッグストアの調剤売上構成比は、高くても20数%ていどです。アメリカのドラッグストアは調剤の売上構成比が70%を超えており、アメリカのドラッグストアは純粋な小売業というよりも、地域のもっとも身近な医療機関といった方がいいと思います。日本のドラッグストアは、調剤強化の過程で、アメリカのドラッグストアにどんどん近づいていくと思われます。

一方、医薬品と化粧品という「接客・カウンセリング」が不可欠な部門をもつドラッグストアにとって、2022年の最大の経営課題は、ヘルスケアとビューティケアの接客とカウンセリングの強化です。しかし、レッドオーシャンの戦いに突入している日本のドラッグストアは、営業利益を確保するために、少ない人員でオペレーションすることを余儀なくされています。たとえば、医薬品売場や健康食品売場で何を買ってよいかわからず迷っていても、店員が忙しく作業に追われており、声をかけにくいという消費者の声をよく聞きます。

ローコストオペレーションと接客強化の矛盾を解決するためにも、デジタル技術を活用した「スマートカウンセリング」の導入は、2022年の重点経営課題だと思います。医薬品、化粧品のそれぞれの「顧客情報」と「商品情報」をクラウトで一元管理し、化粧品担当者や薬剤師・登録販売者などの専門家が不在の時でも、最低限の接客ができるようにシステム化することがスマートカウンセリングの考え方です。デジタル化によってローコストと接客強化を両立できます。しかも、特定メーカー品の推奨販売という偏った接客ではなくて、固定客の「肌悩み」や「健康状態」といった顧客を主体とした接客販売に大きく変わるキッカケにもなるでしょう。

また、継続購入している一般用医薬品や健康食品の購買データを分析することで、病気の疑いのある「潜在的な患者」を発見し、専門医を紹介する「受診勧奨」につなげることは、地域のヘルスケアステーションを目指すドラッグストアにとっては、重要な社会貢献になります。2022年は、本格的な地域のヘルスケアステーション化の第一歩になる年だと思います。

固定客との絆強化とDXを推進する覚悟

一般的にドラッグストアでは、1店舗1年間で6万円以上買物する人をロイヤルカスタマー(固定客)と呼びます。ドラッグストアの場合は、ロイヤルカスタマーの売上と利益貢献度が高い傾向があります。たとえば、化粧品のカウンセリング販売の強いドラッグストアでは、年間10~20万円以上の購入客をロイヤルカスタマーと定義している場合もあります。狭小商圏化が進むドラッグストアにとって、近隣に住む固定客との絆を深めることが、2022年の重点経営課題です。一方で、固定客との絆を深めると同時に、新規客の獲得は必ず並行して取り組むべきです。

固定客との絆を深めるための最適の道具が「アプリ」です。欧米のチェーンストアのデジタルシフトを分析していくと、すべての買物体験をひとつのアプリに集約することが重要であることがわかります。たとえば、ウォルマートのアプリをクリックすると、最初に「ECで買物するか」「店舗で買物するか」「ECで注文して店舗受取するか(BOPIS)」を選ぶように設計されています。つまり、ECとリアルの買物の両方の入口がアプリなのです。

現在、多くの小売業がアプリの導入を加速していますが、アプリ利用客は年間買物金額の多い超・優良客であることが多いのです。板のポイントカード会員よりも、アプリ会員の年間購入金額の方がはるかに高く、店に対するロイヤルティが高いことが一般的です。つまり、アプリは固定客との絆を強くするためのもっとも重要なツールであるといえます。しかも、チラシ販促のような不特定多数の販促ではなくて、購買履歴や顧客属性に基づいた「1to1マーケティング」を行うこともできます。「プッシュ通知」によって、あなたのための特別な販促を実施できるわけです。

デジタルシフトとは、店主が客の顔と名前を覚えていた昔の商店のような接客と売り方に原点回帰することが目的です。デジタルシフトを進めている日米の小売業経営者は、デジタルシフトの目的について、以下のようなまったく同じ表現を使って説明してくれました。

「昔の個人商店の店主は、お客様の顔を見たら、『昨日はこれ買ったよね、じゃあ今日はこれはどう?』と個別に提案できました。また、『4人家族だからこのくらいの量がいいんじゃないか』と、お客様のパーソナルなニーズに自然と対応してきました。しかし、チェーンストアのオペレーションでは、人間業で個別対応することはできなくなりました。

デジタルシフトが進めば、お客様の細分化した個別のニーズに対応することが、低コストでできるようになります。デジタルシフトの目的は、昔の個人商店のような人間的な接客に戻ろうよ、ということなのです」。

2022年は、小売業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が本格的に始まる元年だと思います。しかもDXとはツールを使った単なるコスト削減のインプルーブメント (改善)ではなくて、トランスフォーメー ション(痛みを伴う変革)に挑戦しなければなりません。

そのためには、経営トップの覚悟と、投資に対する強いコミットメントが必要です。会社を変革するという覚悟がないから、トップ直下ではない「離れ小島のDX推進室」が新しい ツールを入れて、紙がこれだけ減りまし た、伝票が何枚減りました、シフト作成コストがこれだけ減りました、といったコスト削減 やインプルーブメント(改善)で終わってしまうわけです。DXとは、会社を根本的につくりかえる第2の創業だと考えるべきです。

アメリカと日本の小売業では、DX投資に対する覚悟と危機感がまったく異なります。たとえばウォルマートは、新規出 店投資も含む総投資額の72.6%をIT 投資に回しています(2021年)。新規出店への投資だけで成長できた時代がいよいよ終焉を迎える序章が始まるのが、2022年ではないかと思っています。

出典:「激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ」2021年4月19日配信記事より

 

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。