全店の生鮮化計画を進めるDgSのゲンキー
サバーバン立地(郊外)、ルーラル立地(田舎)の人口減少と高齢化が急速に進み、アーバン立地(都市)の人口が増加しているため、小売業やショッピングセンターの出店戦略の「都市回帰」の動きが進んでいます。
しかし、そのトレンドに背を向けて、行政人口5,000人、7,000人というルーラル立地に大量出店して、順調に業績を伸ばしているDgS(ドラッグストア)が存在します。
代表的な企業は、北陸の「ゲンキー」と、東北の「薬王堂」です。ゲンキーは、「Rタイプ」と呼ぶ売場面積300坪型と「メガ」と呼ぶ750型(一部900坪型もある)を行政人口1万人以下の、いわゆる田舎に大量出店しています。ゲンキーの詳細は、月刊マーチャンダイジング7月号(6月20日発売)を参照してください。
ここでは、ルーラル立地に敢えて出店する小売業の「売り方」の特徴を以下に整理してみましょう。
(1)ワイドアソートメントであること
立地戦略の格言に、「小さな町に大きな店をつくる」という言葉があります。人口の少ない立地で商売を成り立たせるためには、住民一人当たり、一世帯当たりの財布の中から支出する金額を増やすことがセオリーです。そのためには、いろいろな商品を買ってもらう必要があり、結果的に、店が大きくなるという意味です。
そのためには、「品種」の種類を増やして「品目」を絞るという「ワイドアソートメント(広い品揃え)」が基本です。つまり、DgSの核売場である医薬品、化粧品だけではなくて、食品、日用雑貨、家庭用品、酒類、実用衣料まで品種の種類を増やすことで、ワンストップショッピング性を高める品揃えが基本となります。多品種の品揃えによって、買物目的を増やし、来店頻度と買上点数を増やすことを目指します。
ゲンキーは、全店の「生鮮化計画」を一気に進めており、生鮮4品を導入することで、来店頻度と買上点数を増やし、既存店の売上を10%以上増やしています。
一方、薬王堂(売場面積300坪)は、ファブリック(下着、軽衣料、エプロン、スリッパ、クッションなど)の売場を3尺25本も確保しており、比較的人口の多いサバーバン立地の同規模のDgSが3尺4本と絞り込んでいるのに対して、意図的に広い面積を確保しています。「来店したらいろいろな品種を買ってもらいたい」という戦略が明確です。同時に、粗利益率の高いファブリックを販売することで、店全体の粗利益率の改善につなげています。
ゲンキーは生鮮食品の低価格販売で集客する一方で、化粧品のPBの推奨販売、医薬品の接客強化で「粗利ミックス」を行っています。ゲンキーは、その戦略を「ハイブリッド戦略」と呼んでいます。
人口の少ない田舎立地ほど「地域の売れ筋」を把握しよう
(2)買上点数を増やすレイアウトであること
ゲンキーも薬王堂も、出入口を左右どちらかの端に設置し、壁面沿いに売場を大きく回遊できる主通路動線になっています。来店客の「歩行距離」と「買上点数」は正比例するので、買上点数を増やす売場レイアウトです。
田舎立地は高齢化率が高まり、今後は免許を返納する高齢者が増加します。子供が高齢の母親を車で買物に連れて行ったり、巡回バスで買物に行く高齢者も増加し、来店頻度は減少すると思われます。そうすると、来店した際に、いろいろな商品を購入したいというワンストップショッピングのニーズが高まります。田舎立地の店は、品種揃え、買上点数を増やすレイアウトが、都市、郊外立地よりもはるかに重要になるということです。
また、ゲンキーも薬王堂も、ゴンドラ(棚)の連結が長く、23~26本もあります。長い連結の中で「通路の両側関連」で多くの品種を来店客に見せることで、自然と買上点数が高まります。
(3)マイクロマーケティングであること
人口の少ない田舎立地のMDでもっとも大切なことは、「その地域独特の売れ筋」をきちんと把握し、品揃えすることです。地域の売れ筋の単位は、「県」という大雑把な単位ではなくて、全国1,682の市区町村別といった、さらに小さな単位で人口動態や売れ筋を把握することが重要になります。この方法を「マイクロマーケテイング」といいます。
たとえば、仙台市で売れる商品だけの売場を、人口5,000人の東北の田舎町にそのまま持っていくと、その地域の売れ筋が欠落し、膨大な機会損失を発生させます。対象人口が少なければ少ないほど、「地域や個人」のニーズを深堀りしたマイクロマーケティングが不可欠です。