今週の視点

ウォルマート、無人レジシステム導入中止からわかること

第2回行き過ぎた省人化は 顧客満足を低下させる?

2025年には、2015年比で約455万人も日本の人口が減少します。65歳以上の高齢者の人口が262万人も増加する一方で、労働人口が大きく減少し、2025年には深刻な人手不足時代に突入します。そのための対策として、外国人労働者の雇用や、売場作業の「省人化・省力化」のための新しいシステムの導入は待ったなしの状況です。そのひとつの動きが、「レジの無人化」です。

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労働人口の減少で売場の省人化・省力化が進む

昨年11月にニューヨークを訪問した際に、ウォルマートの「スキャン&ゴー」を体験してきました。

スマートフォンのウォルマートのアプリを開いて、「ウォルマートペイ」のアイコンをクリックし、クレジットカードやギフトカードの情報を登録。

レジのQRコードを読み取り、あとは顧客が自分で商品のバーコードをスキャンすれば精算完了です。

レジで読み取るQRコード

精算完了すると、購入商品の一覧と、電子レシートがスマホに表示されます。

「おっ。ペーパーレスだし、簡単だし、このスキャン&ゴーのレジの仕組みはとてもいいなぁ。人手不足が深刻な日本の小売業にも参考になる事例だなぁ」と感心していたのですが、今年の5月にForbesに「ウォルマート、無人レジシステム(スキャン&ゴー)の導入を中止」という記事が出ていて、少し驚きました。

導入中止の理由はこちらのForbesの記事を参照してもらいたいのですが、要約すると無人レジシステムの導入でレジ人員を減らしても、生産性の向上には結びつかず、一方で、「顧客満足」の大幅な低下を招いた。店舗に従業員を戻すことが、顧客満足の改善につながるのでは? と締めくくられています。

接客による買物体験の質の向上が リアル店舗の顧客満足を高める

ネットでなんでも購入できる時代にあって、省人化・無人化を進めすぎると、リアル店舗の価値を大きく損ねる結果につながるのかもしれません。店舗スタッフとなんの交流もない無人店舗で買物するぐらいなら、ネットで購入した方がマシと考える顧客が増えることは当然の結果だと思います。

以下の図表1は、月刊マーチャンダイジング2017年12月号の『DgS(ドラッグストア)の顧客満足度調査』の特集で使用したものです。

顧客満足度調査は、DgS 30社×5店舗=合計150店舗をミステリーショッパーが覆面調査し、店舗および企業単位の顧客満足度を採点する特集です。

今回の調査では、「総合満足度」という評価指標を採用しました。調査の最後に、「この店で買物することを知人にすすめることができますか?」という質問に、ミステリーショッパーが0~10の11段階評価で回答しています。そして、統計的な手法を用いて、この総合満足度に相関の高い質問項目の順位を付けました。その上位10位の調査項目が図表1です。

総合満足度に最も影響を与えた調査項目は、『調査での店舗滞在時間を通して、店舗従業員は常に顧客を意識した(ダラダラしない、従業員同士で私語をしない)行動がとれていましたか?』 という調査項目でした。これは、買物客の「承認欲求」(店員に私のことを見てほしい、理解してほしい)を満たすものです。つまり、店員が補充作業に没頭していて、自分のことを無視するような店には、もう二度と行きたくないと感じる買物客が多いということです。

図表1のトップ10の項目は、「承認欲求を満たすもの」「レジ応対」「挨拶」「化粧品や医薬品の接客」「クリンリネス」に分類できますが、総合満足度に大きく影響を与える調査項目の大半は、接客などの「店員と買物客のコミュニケーション」に関するものです。

ネット販売との競争の中で、リアル店舗の価値を高めるものは、「接客による買物体験の質の向上」であることは間違いないと思います。とはいえ、人手不足はさらに深刻になるので、「スマートカウンセリング」などのITを活用した「接客のオートメーション化」にも今後は取り組む必要があります。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。