高さ5m、幅2.5m、最大300箱を格納できる
ウォルマートが特に重視しているのは、「ネットで注文して店舗で受け取る」という買物体験です。ネット販売の利用者の最大のストレスは、宅配待ちのストレスです。また、アメリカでは、宅配の際に利用者が不在の場合は、玄関などのドアの前に置きっぱなしにすることが一般的です。ところが、ネット利用者の約30%が、玄関に置かれた宅配商品を盗まれた経験があるそうです。宅配商品を盗む「ポーチ・パイレーツ(Porch Pirates)」と呼ばれる窃盗犯も社会問題化しているそうです。
「宅配待ちストレス」と「盗難ストレス」を解消するためにも、ウォルマートは、「ネットで注文して店舗受け取り」を推奨しています。店内の主通路沿いにも「Order online. Ship to store . Save even more」(ネットで注文して店舗で受け取った方が[配送料がかからない分]節約できますよ)というPOPを掲示して、店舗受け取りを薦めています。
以前は、ピックアップのカウンターで店舗受け取りを行っていましたが、昨年から、無人で店舗受け取りができる「ピックアップロッカー」「ピックアップタワー」を店内に設置しています。6月13日~19日まで実施した「第21回NFIアメリカ視察ツアー」で目撃した、高さ約5m、幅約2.5mのピックアップタワーは圧巻でした。
1台の店もあれば、需要が多い一部の店では2台設置しているケースもあります。現在、200店舗にタワーが設置され、今年中に700店舗までピックアップタワー設置店を増やす計画です。
ピックアップタワーは、最大300箱(箱の大きさは60cmx40㎝x40㎝以内)まで受け取り商品を格納できるそうです。ピックアップタワーの前で、事前に配信されたバーコードをかざすと、5~10秒で箱が出てきます。立体駐車場みたいな仕組みと考えればイメージしやすいと思います。タワーの近くにはロッカーも設置されていますが、タワーに格納できない大型商品がロッカーに格納されるそうです。
敢えて「接客」体験を重視する ホームデポの店舗受け取り
ウォルマートが、店舗受け取りの「完全無人化」を推進する一方で、ホームデポは、敢えて店員と顧客がコミュニケーションをとれる「店舗受け取り体験」を重視しています。
ホームデポのアプリには、「Find it Fast」という機能が付いており、自宅で購入商品のカタログ写真、現物、PCの画面などを「画像スキャン」すると、その商品がいつも行くホームデポの何番通路に、在庫が何個あるかがスマホの画面でわかります。
オムニチャネルの定義である「販売データ」「在庫データ」「顧客データ」がネットもリアルも一元管理されていることがわかります。ちなみにツアー参加者が、試しに1品購入してみたところ、15分後に、スマホに表示される在庫が1品減っていたそうです。
欲しい商品が在庫ゼロの場合は、スマホでネット注文し、宅配を選ぶこともできますが、配送料が高いので、ほとんどの顧客は「店舗受け取り」を選ぶそうです。ホームデポが面白いのは、店舗受け取りの際にバーコードスキャンといった無機質なサービスを敢えて行わず、有人カウンターで受け取り商品を手渡しすることです。
また、バーコードではなくて、「個人名」を名乗ることで商品を受け取ることができます。さらに、その商品の特徴や使い方などを、カウンターの担当者が親切に説明してくれます。ホームデポは、敢えて有人の「接客体験」を残すことで、アマゾンと差別化しようとしていることがわかります。
ホームデポは、2015年頃から「カスタマー・ファースト・プログラム」という名称で、全従業員の商品知識に関する再教育を実施しました。「接客力」こそが、リアル店舗の最大の価値と考えた結果のようです。
一方で、店頭の作業を単純化・簡素化する「プロジェクト・シンプル」によって荷受け・品出し作業の作業プロセスを簡素化させました。その結果、店頭スタッフが顧客サービスに費やす時間を増やすことに成功しました。接客強化のためには、作業の省人化・省力化も同時に進める必要があることがわかります。