デパートコスメをセルフで自由に選べる
アルタが登場する以前は、アメリカの化粧品の売り方は、「セルフ販売」と「カウンセリング(対面接客)販売」の2種類に完全に分かれていました。DgS(ドラッグストア)の化粧品の売り方は、完全な「セルフ販売」です。テスターで化粧品を試すこともできない、セルフ陳列に徹しています。日本のDgSは、化粧品をテスターで試せて、ビューティ担当者が接客してくれますが、その点がアメリカと日本のDgSとの大きな違いです。
一方、アメリカでカウンセリング販売をしてくれる業態はデパートでした。DgSはセルフ販売、デパートがカウンセリング販売という棲み分けができていたわけです。
アルタは、セルフ販売とカウンセリング販売を組み合わせた売り方が特徴です。従来は、デパートでしか取扱いができなかった「CLNIQUE」「LANCOME」などのカウンセリングブランド(デパートコスメ)も取り扱っています。チェーン展開の初期の頃は、一流のデパートブランドがなかなか入らず、二流三流のブランドしか取り扱えなかったのですが、店の雰囲気もよく、接客レベルも高いことが、一流のデパートブランドからも評価され、少しずつブランドの種類が増えて現在に至っています。
カウンセリング化粧品の売り方は、デパートのようなブランドごとのカウンター越しの対面接客販売とは異なり、セルフで自由に試せて、必要なときにはビューティ担当者が接客してくれる「側面接客販売」が特徴です。お願いすれば、化粧品担当者がタッチアップ(実際にメイクをして使用感とか色を確かめること)をしてくれます。
立地戦略は、都心部やフリーウェイ近くの大型SCに立地しているデパートに対して、より住宅地に近い近隣型SCに出店する戦略で成長してきました。わざわざデパートに行かなくても、自宅の近くでカウンセリング化粧品を買える便利性を武器に出店してきました。最近は、ダウンタウンの都市部にも出店しており、郊外と都市の2つの立地に展開しています。
「試せる」「接客してくれる」がリアル店舗の価値を高める
さらにアルタは、セルフ化粧品の品ぞろえも豊富です。アメリカのDgSが完全セルフ販売であるのに対して、すべての商品にテスターがあり、化粧品を試すことができます。つまり、セルフ化粧品とカウンセリング化粧品のワンストップショッピングができることも、アルタの大きな魅力です。
また、店の奥にはヘアサロンを併設しており、物販以外の来店目的もあります。ドライヤーの品ぞろえも豊富で、すべてのドライヤーに電源が入っており、風圧や使用感を試すことができます。「接客してくれる」「テスターで試せる」「ヘアサロン併設」といったリアル店舗ならではの「買物体験の質の向上」を実現することで、アマゾンと差別化し、急成長しているのです。
SNSで化粧品に関するさまざまの情報を検索する女性も、最後に化粧品を購入する場所は圧倒的にリアル店舗です。SNSでいろいろ調べても、最後はテスターで試して、接客してもらって、現物を触った後に購入したいと考えるから、アルタはアマゾンと差別化することができるわけです。アマゾンでは体験できない価値を提供しているから、熱烈なファン(固定客)を増やすことに成功しています。
また近年は、自社のネット販売にも力を入れており、2017年はネット販売の売上が前年比40%も成長しました。アルタのサイトには、大量のレビューが集まり、アマゾンにも劣らない化粧品の「口コミサイト」に成長しています。また、アルタのアプリは、自撮り写真に簡単にメイク処理ができる機能もあり、ソーシャルメディアとの親和性が高く、インスタグラムなどで拡散されています。さらに、アルタのアプリでは「ロイヤルティプログラム」のポイント管理だけでなく、ヘアサロンの予約までできるようになっており、オムニチャネル化に積極的に投資していることがわかります。
これからリアル小売業が、アマゾンと差別化して生き残っていくためには、「ライフスタイル提案」と「ブランディング」が不可欠です。化粧という女性にとっては不可欠なライフスタイルを提案し、単なる物販にはとどまらないリアル店舗の価値創造というブランディングに成功したことで、アルタは熱烈なファンを獲得しています。
これからの時代は、アマゾンがプライム会員の信者を囲い込もうとしているように、リアル小売業も、「固定客の囲い込み」「ファンづくり」が重要です。単なる「モノ売り」の価値しか提供できないリアル小売業は、10年後に生き残ることはできないと思います。