今週の視点

商品軸から顧客軸のMDへの転換

第11回未病・予防・健康市場を開拓するアルフレッサヘルスケアのCDT提案

さまざまな業界の商品を、顧客や生活を主語に再編集(アソートメント)することは、メーカーにはできません。「つくる立場」「売る立場」ではなくて、「使う立場」「買う立場」で商品を再編集することが、消費者のために、流通業(小売業・卸売業)だけができる、最も重要な「生活提案」であり、「社会的使命」です。今週は、CDT(カテゴリー・デシジョン・ツリー)という技術を深化させて、ヘルスケア(未病・予防・健康)市場の潜在需要開拓を進める「アルフレッサヘルスケア」の挑戦を紹介します。

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倒産寸前の医薬品卸しを8年間で立て直した

写真は、医薬品卸のアルフレッサヘルスケア株式会社が8月8日に開催した「おかげさまで8周年記念式典」の様子です。壇上で挨拶している勝木尚・代表取締役社長は、倒産寸前の医薬品卸「丹平中田(旧社名)」を再生させた立役者です。

勝木社長は、ピジョンというベビー用品メーカーからヘッドハンティングされて10年ほど前に「丹平中田」という医薬品卸に入社し、その後、丹平中田を買収したアルフレッサヘルスケアの社長に就任しました。いまから8年前のことです。勝木さんが社長に就任された当時のアルフレッサヘルスケアは、資金繰りが悪化し、倒産寸前の状態だったといいます。

業績悪化の理由は、売上至上主義による押し込み営業、見かけの売上をつくるために販促費を無計画に使ったことが原因と筆者は推測します。売上を無理に増やすために、無計画に経費を使う。ダメになる企業の典型的な状態だったと思われます。

勝木社長は、3つの改革を実行しました。第1は、「財務体質」の改革です。在庫管理を徹底し、キャッシュフローを改善しました。また、コスト管理も徹底し、最新の決算では、売上高は2,600億円を超えて、薄利多売の卸売業としては合格ラインの「営業利益率1%」を達成しました。

第2の改革は、「情報武装」です。「alf-net」というBtoBの取引先専用サイトは、オンライン発注、商品情報、販促情報、営業情報を発信し、アルフレッサの営業マンと、ドラッグストア、薬局のバイヤーがリアルタイムで情報を共有することができます。その結果、スピーディな商談が実現できるようになりました。現在、年間約200万件のアクセスがあります。

第3の改革は、「専売品」の強化です。医薬品メーカーの新製品がほとんど発売されない現状にあって、小売業の利益向上に貢献し、固定客を獲得する専売品の発売は、卸売業の役割として、非常に評価できると思います。

そして、最も重視した第4の改革が、「人材育成」です。同社では、単に商品を右から左に流すだけの問屋業から脱却し、提案型の営業ができる人材開発に最大の投資を行いました。
同社は、これからの中間流通業に求められる人材として、THMWという言葉を使っています。

T Total(トータル)
H Healthcare(ヘルスケア)
M Merchandising(マーチャンダイジング)
W Wholesaler(卸売業者)

CDTの勉強会で提案型営業を育成した

THMWという言葉に象徴されるような、ヘルスケア(未病・予防・健康)の提案営業ができる人材を育成するために同社では、体系的な教育カリキュラムにもとづいた教育制度を充実させました。その教育の一環として、CDT(カテゴリー・デシジョン・ツリー)の勉強会を、全営業マンを対象に実施しました。

CDTは、顧客の購買意思決定ツリーともいわれており、生活、症状、ライフスタイルなどの「顧客軸」の切り口で再編集して、潜在需要を開拓する技術の総称です。

とくにアルフレッサヘルスケアが提案するヘルスケア市場では、未病・予防・健康に関する「症状別」「問題解決別」の定番売場は少ないのが現状です。たとえば、予備軍も含めて全国に2,000万人も患者がいるといわれている「糖尿病」を、総合的に問題解決できる定番売場は、ドラッグストアの売場にはほとんど存在しません。

「高血圧対策」に関しても、血圧の測定器のように単品の売場は存在していても、高血圧対策のさまざまな商品(健康食品など)を集積した定番売場は、ほとんど存在していません。

下の図表は、アルフレッサヘルスケアが提案した「感染症対策」のCDTです。感染症対策は、インフルエンザ、ノロウイルスなど、特定の季節に発症するものではなくて、年間で対策が必要ですが、感染症対策の定番売場は、ほとんど存在しません。

下の図のようなCDTに基づいたヘルスケアの症状別の生活提案を行い、「新・定番」を創造することが、潜在需要の開拓につながります。CDT開発による需要創造は、人口減少、売上減少時代に流通業が取り組むべき、最大の経営テーマであると思います。

TPOS分類が、流通業の商品分類(アソートメント)の基本

マーチャンダイジング(MD)という言葉の正しい意味は、メーカーのつくった「製品」(プロダクツ)の「売り方」を開発し、製品に魂を注入することで、「製品」を「商品」(マーチャンダイズ)に変える活動のことをいいます。

POPを付けるなどのアノ手コノ手の売り方の工夫だけではなくて、棚割における商品のフェース数と奥行き数を決定すること(商品構成)も、重要なMD活動です。たとえば、すべての商品が1フェースで並んでいる状態は、売場とはいいません。それは単なるメーカーのショールームです。

今回紹介したアルフレッサヘルスケアのCDTのような「商品分類」(アソートメント)を設計することも重要なMD活動になります。その場合には、「つくる立場」「売る立場」を否定して、「使う立場」「買う立場」に商品を再編集することが、小売業のアソートメント(商品分類)の原理原則です。その原理原則を表す言葉を「TPOS」分類といいます。小売業の技術の基本中の基本なので、以下にまとめておきます。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。