今週の視点

絞り込みと単品大量販売の技術

第12回アルディ、トレーダージョーズに学ぶ 「よりよいものをより安く」を実現するセオリー

日本でも大人気のトレーダージョーズ(以下トレジョー)。東京で山手線に乗っていると、カラフルなデザインが人気の「トレジョーのエコバック」を持っている女性を見かけることがよくあります。日本ではあまり知られていませんが、そのトレジョーの親会社は、ハードディスカウンターの「アルディ」です。トレジョー、アルディは、「ハードディスカウンター」「リミテッドアソートメントストア」という業態名で呼ばれています。徹底した絞り込みによって、「よりよいものをより安く」を実現する両社のMD戦略を整理してみましょう。

  • Facebook
  • Twitter
  • Line
  • Hatena

300坪程度の売場面積で3,000品目程度に絞り込む

アルディの冷ケースの陳列。PDQと呼ばれるメーカーの出荷段階からセットされたケース単位で陳列している。しかも後方から補充ができる。ローコストオペレーションを徹底していることがわかる。

アルディはドイツ出身の企業で、ハードディスカウンターと呼ばれる業態を世界中に展開するグローバルリテーラーです。ハードディスカウンターとは、ウォルマートスーパーセンターなどの大型ディスカウント店のさらに下をくぐる価格帯で食品、グロサリーを提供する小型フォーマットです。

米国アルディは、西海岸の有力スーパーマーケットであるトレーダージョーズを買収し、2017年度は売上2兆5367億円、対前年比9.6%、店舗数は2084店、対前年比7.0%、全米で18位の企業規模に躍進しています。

ディスカウント色の強いアルディに対して、「店内POP」や「試食サービス」などのエンターテイメント性の強いトレジョーとでは、異なる業態のように見えますが、業態コンセプトの多くは共通していますので、以下に整理してみましょう。

図表1 アルディ、トレーダージョーズの特徴

大きすぎない小型店を居抜き物件に出店し、初期投資を低くしています。また、絞り込み、単品大量販売(単品の陳列面積大)、インストア加工ゼロによって、従来のSM(スーパーマーケット)よりも圧倒的なローコストオペレーションを実現しています。また、完全なEDLP業態(価格販促がゼロ)なので、売れ方の波動が少なく、旧来の「ハイ&ロー業態」よりも、作業人時のかからないオペレーションです。

アルディは、パレット、ケースが補充・発注・物流の単位。パンも補充ケースのまま陳列している。

「よりよいものをより安く」を単品大量販売で実現している

洋の東西を問わず、商売繁盛の原理原則は、「よりよいものをより安く」を実現することです。しかし、この概念は実は矛盾しています。「よりよいもの」を単純に追求すれば原価が高くなり、「よりよいものをより高く」になります。

一方、「より安く」を単純に追求すれば、品質が低下し、「よくないものをより安く」になってしまいます。この矛盾する概念を解決する唯一の方法論は、「単品大量販売」です。単品で大量に販売するから、品質を高めながら、売価を下げることができるのです。

チェーンストアが多店舗展開する最大の目的は、大量の店舗数を展開することで、単品大量販売し、「よりよいものをより安く」を実現し、消費者の暮らしに貢献することです。

図表1で整理したアルディとトレジョーの業態コンセプトは、商品を徹底して絞り込み、単品大量販売を実現しようとしていることがわかります。トレジョーの「チャールスショー」というオリジナルワイン[SB(ストアブランド)]は、単品大量販売することで、一定以上の品質を維持しながら、2ドル99セントと驚くほどの低価格を実現しています。

2017年のトレジョーの企業年商130億ドル(推定)を店舗数(467店)で割り算すると、1店当たりの年商は約30億円にもなります。わずか300坪の売場面積で、3000~4000品目に絞り込まれた店舗で、1店舗30億円も売るのだから、いかに単品の売上規模が大きいかがわかります。

トレジョーのコンセプトは、「オーガニック食品を手ごろな価格で提供すること」ですから、まさに単品大量販売によって、「よりよいものをより安く」を実現していることがわかります。しかも、PB、SBのオリジナル商品の比率が90%なので、アマゾンともウォルマートとも完全に差別化できています。

トレジョーを見るたびに、「品揃えの豊富さ」と「品目数の多さ」はまったく無関係であるという原則を再確認させてくれます。

「商品をたくさん揃えましたから自由に選んでください」という売り方は、消費者にとっては選びにくい、不親切な売場なのだと思います。

単品大量販売によって、美味しいワインを2ドル99セントの低価格で提供。
トレジョーはローコストオペレーションだが、「試食体験」「POP演出」の楽しさを売場で表現している。で、「安さ」+「エンターテインメント」によって買物体験の質を向上させている。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。