今週の視点

ドン・キホーテの強さは「自立型マネジメント力」「商品開発力」「粗利ミックス力」

第13回遂に「1兆円企業」に成長するドン・キホーテ

従来の「チェーンストア理論」ではなかなか理解しにくい業態であった「激安の殿堂ドン・キホーテ」が今期、遂に売上高1兆円を突破します。GMS(総合スーパー)が、現代の消費者ニーズに合わず、長期低迷を続ける中、「ポストGMS」として快進撃を続けるドン・キホーテの成長戦略を紹介します。

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GMS不況の中で営業利益率5%を達成

ドンキホーテホールディングスが8月10日に発表した2018年6月期の連結決算は、売上高9415億800万円(前期比13.6%増)、営業利益515億6800万円(11.7%増)、経常利益572億1800万円(25.7%増)、純利益364億500万円(10.0%増)となりました。ドン・キホーテ1号店の創業以来、29期連続の増収営業増益を達成しました。そして、いよいよ今期中に「年商1兆円」企業に到達します。

GMSの低迷と比較すると、ものすごい好決算ですよね。本業の儲けを表す「営業利益率」は5%を達成し、小売業としては極めて収益性の高い企業です。

20年前のドン・キホーテは、特殊な立地で、特殊な顧客に支持されている店というイメージでした。「ドン・キホーテの新大久保店」に夜中に行くと、深夜に冷蔵庫を購入する若いカップルに遭遇したことがあり、そういう特殊な客層に支持される特殊な店だと、偏見をもって見ていました。

しかし、その後、中堅GMSの「長崎屋」を傘下に収めたころから、ファミリー層にも支持される「ポストGMS業態」を徐々に確立し、特殊な立地の特殊な客層に支持される特殊な店ではなくて、老若男女を問わず幅広い客層に支持される、地域になくてはならない「生活ストア」として進化してきました。

以下に、月刊『マーチャンダイジング』2017年10月号に掲載した大原孝治社長の話のダイジェスト版を再掲載します。以下のインタビューで紹介しているドン・キホーテの強みは3つあります。

第1は、現場の知恵の総量を高める組織改革による「自立型マネジメント力」。
第2は、狭くて深い「商品開発力」。
第3は、強い非食品による総合業態としての「粗利ミックス力」です。

組織開発と人財開発で知恵の総量が大幅増強

ドン・キホーテの最大の強みは「変化対応力」に他なりません。さらにこれを因数分解すると「業態開発」「店舗開発」「商品開発」「組織開発」「人財開発」の5つの開発に分かれます。

2017年は「店舗軸の改革」を行いました。これまで18だった支社を52に増やしました。これは個店強化とスモールメリットという2つの強化テーマへの対応です。これにより、支社長ポストも約3倍に増えて、現場のモチベーションアップに成功し、個店ごとに権限を移譲することで変化対応力も一層強化されました。こうした組織改革による全社的士気向上が競争力に直結して、売上拡大の大いなる伏線になったと考えています。

もっとも、わが社の幹部ポストは決して安定的なものではありません。実力と実績で毎年2〜3割は入れ替わるという新陳代謝が繰り返されています。

真の企業力は、従業員が考える「知恵の総量」にあると思います。売上高が1兆円、2兆円と多いことも素晴らしいが、それを支える従業員の知恵がなければ、結局は身に余った企業規模になっていきます。知恵の総量を増やすことこそ企業経営の要諦であると考えます。

消費者は望むがメーカーがつくらないPBをつくる

商品開発において、当社PBである「情熱価格」には目立った進歩がありました。5万円台で販売した50V型(大型画面)4K液晶テレビは大きな話題になりました。

現在、PB比率は売上高で11%、粗利益高で16%弱、内容は年々精度が高まり収益力を牽引する存在になりつつあります。われわれのPB戦略は深くて狭い。メーカーはつくらないけど、お客さまに需要があるものを探し出して、それを深く掘り下げるという戦略をとっています。

ものづくりの専門家でない流通業が総花的にPBをばらまいても、消費者の理解は得られません。ものづくりにおいてメーカーに叶うはずがなく、消費者と最前線で接している小売業しかわからないニーズをくみ上げ、メーカーがつくならいものを、われわれが企画してPB商品で販売することこそ、流通業がモノをつくる意義だと思います。

お客さまが必要としているのに、メーカーがつくらないものとは、たとえば、メーカーは古い材料を使って新しい商品はつくりません。当社の4K液晶テレビのパネルは、メーカーの前の型(古い材料)です。消費者の中には、最新モデルでなくてもいいので、安い4K液晶テレビがほしいというニーズは多数あります。ここの間に入って仕様を決め、メーカーに商品をつくってもらうことが小売業の役割です。多少型は古くても安い4K液晶テレビは、ニーズがあってもメーカーがつくらない商品の代表でした。

非食品の粗利ミックスがドン・キホーテの強み

苦戦している小売企業が多い中、ドン・キホーテがこれほど成長している理由のひとつは競争優位なMD戦略にあります。具体的にいえば、客層を広げ商圏を広く取る。加えて食品部門を戦略的に拡充しました。元来、非食品中心のバラエティディスカウンターのドン・キホーテが食品部門を強化することで、強力なフルラインディスカウンターとして、競合となるGMSと比較しても、圧倒的な競争力を有するに至っています。

競合GMSが苦手としている「非食品、雑貨」の売れ行きが非常に好調です。GMSでここまで非食品の販売に成功している店はなく、粗利益率の高い非食品が強いので、粗利ミックスによって、GMSよりも店全体の粗利益率は高いです(店全体の粗利益率約26%)。

極論をいえば、食品の粗利率をゼロにしても、われわれには十分に戦っていけるのです。これが競争優位の源泉です。(編集部注・GMSの食品の売上構成比は約70%に達しており、粗利益率の高い非食品、衣料とのマージンミックスができていないことが、日本のGMSの最大の経営課題です)

日本の流通業の最大の課題といってもよいGMSの再生、その次に来るもの、「ポストGMS」の本命こそ、当社のようなフルラインディスカウンターであることを、改めてここに宣言したいと思います(大原孝治社長談。文責編集部)。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。