今週の視点

折込チラシは10年で半減した!

第44回過激なチラシで広域集客よりも店頭ロス対策が優先される時代へ

かつての小売業の一番の売上対策は、新聞の「折込チラシ広告」でした。しかし、狭小商圏化が進み、チラシ販促の効果は年々低下しています。その結果、チラシ回数を減らし、EDLP(エブリデーロープライス)戦略を進める小売業が増えています。人口減少時代に突入した日本では、チラシ販促で「浮動客」をかき集めるような売上対策よりも、「機会損失」を減らすことの方が優先順位の高い売上対策になっています。

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折込チラシ広告費は10年でほぼ半分に減少

電通が毎年発表している「日本の広告費」によると、折込チラシ広告費は、2006 年の6,662 億円をピークに減少を続けています。リーマンショックの影響があった2009 年に6,000億円を割り込み5,444 億円、消費税増税の影響を受けた2014 年に4,920 億円に減少、そして、2017年は4,170億円、2018年は3,911億円と4,000億円を割り込みました。

2006 年のピーク時を100 とした場合、2018年は58.7% となり、12年間で市場規模が42%とほぼ半減したことがわかります。

人口減少時代に突入し、リアル小売業の売上が大きく増えない時代においては、過激の割引セールや、ポイント10倍などの販促のあの手この手で、前年比の売上を無理やり増やすよりも、「店頭ロス」を減らすことの方が、売上と利益を増やす優先対策です。

店頭で発生しているロスを整理すると、図表1の6項目になります。店頭ロスの第1は、「欠品による機会損失」です。売上減少時代において、もっとも優先順位の高い売上対策は、店頭欠品の撲滅です。しかしも、欠品は「ゼロ欠品」だけが欠品ではありません。棚札も商品も消失した「VOID(完全欠品)」や、「品薄」によって購入をためらう「心理的欠品」も欠品です。商品を売るためには、心理的に購入したくなる「陳列量の爆発点」を維持する必要があります。

しかも、視力の悪いシニア層(高齢者)が増加する今後は、陳列量の爆発点はますます重要になります。ある小売業の調査では、高齢者がよく購入する商品の売価はそのままで、陳列量だけ3倍に増やしたところ、その商品の売上は大きく増加したそうです。

6つの店頭ロスを減らし機会損失を防ごう

店頭ロスの第2は、日配品や総菜などの「廃棄・値下げロス」を減らすことです。これからの時代は、あの手この手の販促で需要を無理やりつくるよりも、需要に合わせていく、つまり需要予測の精度を高めていくことの方が重要です。

図表2は、おにぎりの廃棄ロスが年間で1,000億円もあった「ファミリーマート」が、AI(人工知能)を活用した自動発注に切り替えたところ、30%もあった発注誤差が、3週間後には発注誤差が9.68%に減少したという成功事例です。

店頭ロスの第3は、「不完全作業」によるロスです。メーカーと小売業のバイヤーが商談した結果の「店頭実現率」は、かつては20~30%と言われていました。たとえば、100店チェーンに、A商品が発売日に陳列されるのは100店中20店の20%という意味です。こうした「不完全作業」による売り逃しは、欠品による機会損失と並ぶ、最大の店頭ロスです。

完全作業率を高めるためには、さまざまな計画を立てることは上手だが、店頭でまったく実行されない「計画(プラン)主義」の企業文化から、凡事徹底を第一とする「行動主義」の組織・企業文化に変革することです。極端なことをいえば、二流三流の戦略でいいから、一流の実行力をもった組織が競合優位に立つと思います。

店頭ロスの第4は、「棚割の画一化によるロス」です。従来のチェーンストアは、どの店舗の棚割も画一化されていました。しかしこれからは、IT技術の進化によって、極端なことをいえば、棚割を全店で個別化しても、全店の棚割をリアルタイムで可視化できて、その効果もリアルタイムに数値で評価することができます。ITの進化によって、棚割を個別化しても、管理不能に陥らず、個別化によるコストもそれほど増えない時代が到来します。

店頭ロスの第5は、「無駄な値下げによるロス」です。陳列量に爆発点があるように、価格にも爆発点があります。価格の爆発点を調査して、無駄な値下げを減らすべきです。「価格敏感商品」と「価格鈍感商品」をきちんとグルーピングし、価格鈍感商品まで一律に値下げしないようにすべきです。

店頭ロスの第6は、不明ロス(万引き・不正など)です。日本を含む世界24ヵ国が調査に協力した、小売業の窃盗犯罪に関する世界的な報告書である「グローバル・リテイル・セフト・バロメーター(GRTB)2014〜2015版」によると、不明ロスの内訳は、従業員による不正39%、万引き38%、犯罪性のない管理上のミス16%です。

同報告書によると、日本の不明ロス率(売上高に占める不明ロス金額の割合)は1.35%、金額にして149億ドル(1ドル100円で換算すると1兆4,900億円)という莫大な金額が不明ロスで失われていることになります。優良小売業の営業利益率の目安が5%ですから、1.35%がいかに大きな数値かが分かります。

海外では不明ロス、特に万引き対策を「loss prevention(ロス プリベンション)」と呼び、役員レベルがトップに立って指揮を執る大手小売企業も多く、最重点の経営課題になっています。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。