今週の視点

リアル店舗の価値づくり、スマートストア化、 生産性革命、強い企業文化づくり---etc.

第31回2019年、小売・流通業の7つの重点課題

新年あけましておめでとうございます。2018年6月から配信を開始したMD NEXTも、新しい年に突入します。すべてのモノやビッグデータがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)社会の到来で、2019年以降、小売・流通業の「売り方」や「作業」は大きく変化します。変化対応すべき2019年以降の重点経営テーマを整理してみました。

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取扱商品の90%近くが「Trader Joe’s」ブランドのオリジナル商品なので、アマゾンと完全な差別化に成功しているTrader Joe’s。

わざわざ店に来てもらえる、リアル店舗の価値づくり

2019年の重点経営課題を以下に整理してみます。

2019年の重点経営課題
(1)リアル店舗の価値づくり
(2)ブランディング・商品開発
(3)ESとCSの向上
(4)行動改革と、強い企業文化づくり
(5)生産性革命(省人化・無人化)
(6)スマートストア化
(7)個別化(パーソナライゼーション)

 

第1の重点課題は、「リアル店舗の価値づくり」です。ネットで何でも購入できる時代において、われわれ小売・流通業に関わる者は、わざわざ時間とコストをかけて、リアル店舗に足を運んでもらえる「価値」とは何なのか? を自問自答し続けることが重要です。

リアル店舗の価値を真剣に追求するためには、「人手を減らして販管費を減らし、営業利益を増やす」といった会社の御都合主義を否定し、今取り組んでいることが本当に顧客のためになるかどうかを常に自問自答する、真の「顧客第一主義」に転換できるかどうかが何よりも重要です。そして、ネットにはなくてリアル店舗だけが提供できる「触って試せる」「試食できる」「相談できる」「楽しい。ワクワクする」などの価値を磨き続ける必要があります。

第2は、「ブランディング・商品開発」です。リアル店舗の価値づくりのためにも、アマゾンでは販売していないオリジナル商品を強化することが必要です。しかし、かつての商品開発のように、「パッケージは有名ナショナルブランド(NB)そっくりで、価格は安いが、値入率は5割取れて儲かる」という会社の御都合主義のプライベートブランド(PB)だけでは、顧客の支持を得ることはできません。

これからの商品開発は、その企業の顔となるブランドとして開発すべきです。ブランドとは何かと問われれば、それは「信頼」のことです。「あの企業が自信をもって薦めてくれる商品は信頼できるし、使い続けたい」と顧客が信頼するブランドを確立することが、真のブランディングです。小売業が仕様書発注して開発するPBだけではなくて、メーカーと共同したSB(専売品)開発も重要なブランディング戦略です。

冒頭の写真の「Trader Joe’s」は90%近くがオリジナル商品(PBとSB)なので、アマゾンと完全に差別化できています。「Trader Joe’s」のブランドが、アメリカの消費者に大人気の理由は、「安さ」よりも、その商品に対する「信頼」の強さの方が大きいと思います。

行動改革と強い企業文化づくり

第3は、ES(従業員満足)とCS(顧客満足)の向上です。多くの小売業幹部は、CSの向上には関心が高いのですが、ESの向上については後回しになっています。大切なことは、ESとCSの向上は車の両輪であり、切っても切れない関係だという認識を強く持つことです。ESが低い店が、不思議とCSだけが高いということはあり得ません。

ESが低くて短期離職が絶えず、常に人手が足りない店や、やる気の無い従業員がダラダラと働く店では、CSは向上しません。一方、従業員がやりがいを持って働いている店は、採用コストが抑えられるだけでなく、業務への習熟による生産性の向上にもつながります。ES向上→CS向上→生産性向上の良いサイクルをつくることが重要です。

第4は、「行動改革と強い企業文化づくり」です。強い組織をつくるためにもっとも重要なことは、組織に属する人材の「行動改革」です。意識改革をいくら教育しても、行動が変わらなければ意味はありません。経営者が言っていることと、現場の行動が異なる、つまり「言っていることとやっていること」の異なる組織では競争に勝てません。

かつてのように、強者が弱者を駆逐してきた競争とは異なり、これからの競争は、「強者対強者」の「僅差の勝負」になります。「魂は細部に宿る」という言葉もあるように、現場での「行動」の細部を突き詰められるかどうかが勝敗を分けます。

企業経営は、「企業文化づくり」に始まり、「企業文化づくり」に終わると言われています。企業文化とは、その企業の「経営理念」や「経営哲学」が、単なるお題目ではなくて、その企業に属する社員全員の意識に深く浸透し、それが全員の「行動」の変化に結びついた状態のことをいいます。行動改革を繰り返して、強い企業文化をつくることが、もっとも重要な差別化戦略であると思います。

顧客接点は有人化、単純作業は無人化

第5は「生産性革命」です。労働人口の減少による人手不足の影響は、小売・流通業の人件費の上昇、引いては販管費の上昇を招いています。労働集約産業である小売・流通・サービス業の「生産性革命」は、今年以降のもっとも重要な経営課題です。

これからのリアル店舗の生産性向上は、アマゾン対策としても、顧客との接点は人間が丁寧に保ちながら、接客を強化する必要があります。一方、顧客接点以外の単純作業は、徹底的に省人化・無人化を進めるべきです。顧客接点は有人化、それ以外は無人化の二面作戦が、これからの小売・流通業の生産性向上のロードマップです。

第6は、「スマートストア化」です。ITの進化、IoT社会の到来で、リアル店舗の「売り方」や「作業」は大きく変わっていくことでしょう。「キャッシュレス店舗」、「カメラを活用した購買行動の可視化」「カメラを活用した欠品の可視化」、「サイネージ広告」「電子棚札を活用したダイナミックプライシング」など、リアル店舗の売り方と作業は大きく変化していきます。その元年が2019年になると思います。

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IoT社会の到来で棚割、価格、販促の「個別化」が進む

第7は、「個別化(パーソナライゼーション)」です。前回の連載「IoT社会の到来で棚割、価格、販促の個別化が進む」で説明しましたので、詳細はその記事を参照してください。従来のチェーンストアは、「標準化」することによって効率を追求するビジネスモデルでした。しかし、これからはIoT社会の到来で、チェーストアの「売り方」が個別化していきます。「標準化」から「個別化」の時代が到来しようとしています。「売り方」の個別化は、以下の3つに分けることができます。

個別化する3つの売り方
(1)棚割の個別化
(2)価格の個別化
(3)販促・接客の個別化

 


日本の小売業は大手企業の寡占化が進み、かつてのように新興勢力が急成長し、既存勢力を大逆転するようなことはもう起こらないのかと思っていました。しかし、IoT社会の到来という革命的な変化によって、ビジネスの主役が変わる「激動の時代」が到来すると思います。

「現在の売上規模が大きな企業が生き残るのではなくて、変化に対応できた企業だけが生き残る」。ダーウィンの進化論にも似た「下剋上」が始まるかもしれませんね。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。