発表!2019年にMD NEXTでよく読まれた記事ベスト10

2019年もいよいよ年の瀬。この1年でよく読まれたMD NEXTの記事10本を紹介しながら2019年のドラッグストア業界を振り返ります。一番読まれた時期は、実は年初に書かれた「あの」記事でした。(2019年1月1日から12月20日までのPV数順のランキングによる)

では第10位から順に記事をご紹介していきましょう!

第10位 3年間で約1万5,000店も閉店したアメリカ小売業は、日本の未来か!?

3年間で約1万5,000店も閉店したアメリカ小売業は、日本の未来か!?

しょっぱなからなかなか厳しいタイトルの記事ですが、かなりの読者の方にお読みいただきました。小売業の未来はどうなるのか、誰もが気になるところですが、本記事では、

●小商圏DS、ライフスタイルストア業態で店数を増やしている企業の例
●熱烈なファン(固定客)を増やすことで成長している企業の例

を紹介して、明日の小売業のあり方を前向きに提案ました。

第9位 小売業の正月休み増加、10連休など年間休日増加

小売業の正月休み増加、10連休など年間休日増加

2019年は「働き方改革」に注目が集まった年でもありました。本記事では小売業の正月休みが増加しているという現状を紹介するとともに、10連休となったGWにどのような消費の変化が見込めるかを推測しました。

10連休のGWなどの長期休みを適切にオペレーションして、売上を伸ばした小売業もあるようです。

一方、2019年は台風などの災害の影響で、「店を開けない」という判断をした企業も複数登場しました。Twitterでは「#台風だけど出社させた企業」というハッシュタグがトレンド入りするなど、働き方に関する価値観が転換点を迎えていることを感じる年になりました。

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第8位 低経費&絞り込み&激安に割り切った小型業態「トライアルBOX」に注目

低経費&絞り込み&激安に割り切った小型業態「トライアルBOX」に注目

新業態に関する記事は注目度が非常に高く、たくさんの方に読んでいただいています。この記事もその1本です。本記事ではスーパーセンターなどの大型店のイメージが強い「トライアルカンパニー」が最近展開を始めた「トライアルBOX」を紹介。小型のハードディスカウンター(BOXストア)の実験店として、注目を集めています。

2020年もMD NEXTはいろいろなリアル店舗の新業態を紹介していきます。

第7位 PALTACのRDC埼玉が竣工。ロボット適用範囲拡大し生産性を従来比2.3倍に

PALTACのRDC埼玉が竣工。ロボット適用範囲拡大し生産性を従来比2.3倍に

2019年、MD NEXTは取材の裏テーマとして「中間流通業」に注目してきました。

流通業のなかでもどのような役割を担っているのかわかりにくい「中間物流業」。その理解を促すため、繰り返し関連記事をお伝えしています。なかでも最新AI技術を使って自動化を行うPALTACさんの倉庫内のレポートは多くの人に興味を持っていただいたようです。

第6位 トモズ、調剤オペレーション自動化の実証実験を開始

トモズ、調剤オペレーション自動化の実証実験を開始

2019年、MD NEXTが掲げていた裏テーマのもう一つが「作業の自動化」です。2020年以降確実に小売業に訪れる圧倒的人手不足時代。乗り切っていくためには作業の生産性向上が必須の課題です。その中の一つの選択肢として取り上げたのが「自動化」でした。

本記事ではトモズが松戸新田店で行っていた、調剤オペレーション自動化の実証実験を紹介しています。自動化によって「患者と喋る時間が増え、やりがいが増した」という現場の言葉に、自動化の価値が集約されているように思います。

第5位 池澤あやかの卸売業突撃レポ!PALTACのRDC新潟で最新鋭AIロボに萌える

池澤あやかの卸売業突撃レポ!PALTACのRDC新潟で最新鋭AIロボに萌える

こちらも「中間物流業」に注目したPALTACさんのRDC新潟に関するレポートです。タレントの池澤あやかさんにご登場いただき、わかりやすく中間物流業の裏側について解説する本記事は、ほんとうにたくさんの方にお読みいただくことができました。

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第4位 ココカラ、スギ、マツキヨ経営統合で1兆円企業が登場しても寡占化には至らない

[寄稿]ココカラ、スギ、マツキヨ経営統合で1兆円企業が登場しても寡占化には至らない

2019年のDgS業界の話題として最も大きかったのがココカラファインとマツモトキヨシの経営統合の話題です。

本記事ではまだ提携先が正式発表になる前のタイミングで、コンサルタントの郡司昇さんに、その背景などを解説していただきました。本記事では提携の鍵を「専売品」と「物流効率」と読み解いています。

第3位 ジェーン・スーが語るドラッグストア「DgSのヴィレヴァン化に期待」

ジェーン・スーが語るドラッグストア「DgSのヴィレヴァン化に期待」

2019年、MD NEXTに突如として巻き起こった「ストアソング旋風」。ジェーン・スーさんに取材させていただいたこの記事をきっかけに、ストアソング(小売業の店舗で流れている音楽類の総称)の漫画を月刊マーチャンダイジング・MD NEXTに連載していた月刊MD 編集部の店橋が、TBSさんのラジオ番組「アフター6ジャンクション」へ出演の機会をいただくなど、八面六臂の活躍を見せました。

ストソン探偵の漫画は現在最新作を制作中とのこと!刮目して待て!

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第2位 コスモス薬品が2020年5月期から肥沃な「関東平野」で超ドミナント出店開始

コスモス薬品が2020年5月期から肥沃な「関東平野」で超ドミナント出店開始

成長企業の経営戦略はよく読まれる記事の一つ。2019年1月に発表されたコスモス薬品関東進出の報道は、DgS業界にとって一大ニュースでした。コスモス薬品はこの1年東京都の広尾、中野、西葛西、歌舞伎町に店舗をオープン。これらはいずれも都心型の実験店で、大型店は2020年5月に越谷に、6月に茨木に複数店舗オープンする予定になっています。

M&Aをしないで独自成長を続ける同社がこれからどれだけ勢力を拡大するのか。コスモス薬品は2020年もドラッグストア業界を席巻する台風のような存在であり続けそうです。

第1位 2019年、小売・流通業の7つの重点課題

2019年、小売・流通業の7つの重点課題

2019年に最も読まれた記事がこの2019年1月に公開した記事でした。本記事では、2019年の重点経営課題を以下の7点にまとめて提言。最後は「顧客接点は有人化、単純作業は無人化」が進むとまとめています。

2019年の重点経営課題
(1)リアル店舗の価値づくり
(2)ブランディング・商品開発
(3)ESとCSの向上
(4)行動改革と、強い企業文化づくり
(5)生産性革命(省人化・無人化)
(6)スマートストア化
(7)個別化(パーソナライゼーション)

2019年に公開した記事の中では一番掲載期間が長いので、たくさんの方に読まれて当然といえば当然なのですが、読者の皆様がMD NEXTを日々の業務の羅針盤としてお読みいただいているということがよくわかる結果となり、編集部一同少しほっとしております。

MD NEXTはヘルス&ビューティー業界に関わるみなさまに、2020年も「わかりやすい」「面白い」「役に立つ」記事をお届けし続けたいと思います。どうぞご期待ください!

読者のみなさまにお知らせ

MD NEXTは、2020年1月より、新規記事の公開を現状の週3本から週2本に変更いたします。より密度の濃い記事をお届けするよう編集部一同頑張りますのでよろしくお願いします!

日本の小売業がロケーション管理に弱い3つの理由

前回、計画購買しやすい店はどこで何を売っているかがわかる店であり、どの商品がどの売場で販売されているかをアプリなどで伝えることが重要とお話しました。しかし、日本でその実現が難しいのは、売場のロケーション管理(ロケ管理、商品陳列位置管理)ができている小売業が非常に少ないということです。なぜ日本の小売業は商品陳列位置の管理ができないのでしょうか?

メーカー任せになっている棚割

棚管理ができない理由の一つは、そもそも棚割の作成がメーカー任せになっているということが挙げられます。棚割を徹底的に考えて一から自社で作っている日用消費材小売業は多くはありません。

棚割は、小売業の商品部バイヤーと、メーカーの小売営業担当者が話し合って決めます。しかし、筆者が知る限り日本の多くのドラッグストアは、棚割管理ソフトを自社で持ち合わせていません。大手メーカーが持っているものを利用しています。

たとえば日用雑貨であれば、花王などの大手メーカーを小売業のバイヤーが訪問して棚割をつくります。大手メーカーは、データ会社等から業態毎に集めたPOSデータを購入していますし、次のシーズンの同業他社の新商品情報を揃えていて「このような棚割がいいのではないか?」とあらかじめ棚割の元ネタを用意しています。

それをもとに、それぞれの会社に合わせた棚割に修正します。「うちの店は提案された棚割のように歯みがき粉のコーナーを棚4本分も取れないから、2本分に圧縮しよう」だとか「掃除用の洗剤はPBがあるからこのNBを外そう」というようなことを検討して棚割が出来上がります。

読者のみなさんは、情報と分析力を持った大手メーカーの力に小売業各社が頼ると、どのような結果になると思うでしょうか?

ドラッグストアに関しての生活者調査を行うと「ドラッグストア各社は差別化できていない」という事実を突きつけられます。店舗を利用する理由の上位に並ぶのは「家から近いから」「価格が安いから」「ポイントがつくから」という回答です。つまり、生活者は、ドラッグストアに対して、品揃えや買いやすさ(棚割りを含めたインストア・マーチャンダイジング)で各社差がないという評価をしているわけです。

では、どうすれば、他社と違う結果を得られるのでしょうか?

スポーツをはじめようとする人はまず教則本を読んで学ぼうとすることが多いと思います。では、ゴルフの初心者が教則本を読むだけでスコアが良くなるでしょうか?なりませんよね。筆者は学生時代、弓道をやっていましたが、弓道の本を読んでも的に当たるようにはなりませんでした。どうすれば、上手くなるでしょうか?

いくら本だけ読んでもスポーツは上達するわけがないのです。ゴルフであれば練習場で何度も素振りをして、実際に体を動かすことがスコアアップへの近道といえます。

このようにスポーツでは誰もが反復練習することで、情報・知識を成果に繋げます。

そして、練習の重要性は「思考」においても同様です。「情報・知識」を「知恵」という成果に繋げるためには「思考の練習」が必要になります。

多くのドラッグストアに欠けているのはこの「思考の練習」です。品揃え、棚割りについての思考をメーカーに頼っているから品揃えや買いやすさについて各社差がないと評価されてしまうのです。

ドラッグストアは品揃え・棚割に関して徹底的に自社で考え抜くことが必要だと筆者は考えます。

店頭実現力が不足している

棚割の管理ができないもう一点の理由は、本部が店舗に指示した棚割を、現場がその通り実現していない/できないという点です。棚割を実現すべきとは考えていても、忙しくて実現できないケースと、勝手に現場でアレンジされているというケースがあります。

多くの企業では、棚割りについて4本パターン、3本パターン、2本パターンというように例を示すだけで、あとは店舗に棚割の調整を「丸投げ」してしまっています。しかし、任された店舗側の従業員は、接客やクレーム対応、品出し、レジ作業などの対応に追われています。売上が厳しくなれば従業員を減らされ、指示通りの棚割を実現することができません。棚割の実現度は本社が思っているよりもかなり低いという状況です。

さらに、店舗がアレンジした棚割を本部にフィードバックする仕組みがないと、本部で店舗ごとの棚状況がどうなっているか把握することができません。経営陣が「PDCAを回せ!」と命じても回らないのはなぜでしょう?それは「原因」である店舗状況がデータ化できていないからです。売れた「結果」であるPOSデータだけではPDCAを回せないのは当然です。

また、本部が指示した棚割を店舗が勝手にアレンジしてしまうようなことも少なくありません。店長が「これは今陳列している商品より売れないと思うから、並べないで返品してしまおう…本部が言うほど売れないだろうから1フェースでいいや…」というケースです。

欠品が起きたときに他の商品で埋めるというオペレーションを採用している企業もありますが、チェーンストアの陳列位置管理という意味では、本来欠品が起きたらそこを他の商品で埋めてはいけないはずです。

このように、さまざまな理由から本部の棚割指示は達成されず、現場を見なければ確認できないという陳列状況なので、現場の棚割を本部が把握しているようなドラッグストアは日本ではほとんどないのです。

店頭在庫・バックヤード在庫を管理できていない日本の小売業

陳列位置を管理するだけでなく、在庫がどこにあるのかの情報も持っている必要があります。

在庫に関して言えば、現在でも在庫データの更新を1日1回夜間バッチで行っている企業が多く「今この時間にアリエールが店舗に何個在庫しているか」を把握している小売業は非常に少ないのではないでしょうか。店舗の在庫数全体でさえこのありさまなので、当然店頭に何個陳列されていて、バックヤードに何個在庫しているのかということも把握できていません。

日本では店頭在庫とバックヤード在庫の管理をしている企業はあまりないと思うのですが、アメリカではどうも様子が違うようです。

元々はウォルマートの従業員教育用アプリであり、後日一般公開されたアプリで店の作業を体験するシミュレーションゲーム「Spark City」では、店の作業を体験することができます。このアプリ体験してみると商品がバックヤードに何個ある、店頭に何個ある、という情報が飛んでくるのです。つまりウォルマートレベルの企業になると、店舗の在庫を、きちんと店頭分とバックヤード分に分けて管理しているのではないかと考えられます。

ウォルマートのアプリ「Spark City」。画面右の端末に店頭在庫数とバックヤード在庫数が記載されている。

ウォルマートと日本のドラッグストアで、どちらが「PDCAが回る」ことでデータ活用できる企業だと思いますか?「本当の在庫管理」の重要性を日本のドラッグストア企業にも認識してもらいたいと、筆者は考えます。

調剤薬局の在庫シェアリングサービス「メドシェア」、AI医薬品発注システムを開始

医薬品在庫のシェアリングサービス「メドシェア」を軸に、現場起点のサービスを打ち出しているファーマクラウド。同社の山口洋介代表にサービスの利用状況と有料拡張版の新サービス「メドオーダー」の開発背景について話を聞いた。(聞き手:MD NEXT 鹿野恵子/構成:イシヤママキ)

調剤薬局の廃棄ロス問題を解決する「メドシェア」

ファーマクラウドの代表を務める山口洋介氏は九州大学薬学部を卒業後、製薬メーカーに勤務。東京都千代田区に「薬局お茶の水ファーマシー」を開局し、管理薬剤師として自ら薬局運営に携わった経験を持つ。2012年に株式会社ファーサス、2015年に株式会社ザイシ、2016年に株式会社ファーマクラウドをそれぞれ起業。ITエンジニアとしての顔も持ち、ITを活用した現場起点のソリューションを次々と開発している。

ファーマクラウドの基幹サービスが、2017年1月にリリースした「Med Share(メドシェア)」だ。「メドシェア」は医薬品在庫のシェアリングサービス。個店経営から20店舗程度の小規模薬局チェーンをメインターゲットに、医薬品在庫を可視化し、不動在庫を共有するサービスの無料提供を行っている。

薬局経営の中で最も難しいのが、在庫コントロールだ。各調剤薬局は病院や患者との日々のやりとりの中で品揃えを決めているが、多くの店舗ではこれら情報をデータ化せずカレンダーに患者情報をメモするなどアナログな手法で行っており、発注量については薬剤師のカンに因ることが多い。

また、薬局は社会のインフラ的側面もあることから、様々な医療施設の処方せんに対応するため、アイテムの絞り込みができず幅広い在庫を抱えることになる。その結果、状況によっては数十万円分の廃棄ロスが出ることもあり、個人経営の薬局にとって大きな痛手となっている。

不動在庫を作らないためには常に在庫状況を把握し、周辺の薬局と情報を共有して、過剰在庫を他店と協力し消化する必要がある。そこで、ファーマクラウドは不動在庫候補の検出から出品購入までをサポートする「メドシェア」の開発にいたった。

このサービスではレセプトデータ(診療報酬の明細書)を活用し、個人情報や調剤報酬に関する情報を完全に削除した状態でアップロード。アップロードしたデータから不動在庫を自動的に検出し、その中からシェアしたい商品を選び出品することで、その商品を求めている他の薬局が買い取るといった仕組みを採用している。不動在庫の可視化・共有の手間を劇的に削減することにより、接客など本来の業務に集中できるほか、廃棄ロスの削減により、キャッシュフローの改善にもつながる。

メドシェア出品画面

医薬品の分割譲受を行う「小分けサポート機能」を追加

「メドシェア」では、2018年末より新たな機能として医薬品の分割譲受を行う「小分けサポート」サービスを追加した。

門前薬局ではない郊外店など、処方せん枚数の少ない薬局の場合、在庫を持たない薬品の処方せんを受け取ることもある。調剤薬局業界では旧来より助け合いの文化があり、在庫のない薬がきた場合、近隣の薬局に連絡し融通してもらう。しかし近隣の薬局に在庫がなかった場合、最終的には取引先である医薬品卸に相談することになる。

特に当てもなく片端から電話で問い合わせるというアナログな手法は時間や手間がかかり効率が悪い。また医薬品卸にとっても直接の業務とは関係がない薬局からの問い合わせは悩みの種となっていた。

こういった状況を受けて、ファーマクラウドでは既存の不動在庫サービスの中に、どの薬局が薬を所持している可能性が高いのかを検索する「小分けサポート」機能を追加。調剤実績の多い薬局にピンポイントで問い合わせできるため、分割譲受における効率化が期待できる。

メドシェア小分けサポート画面

不動在庫だけでなく有動在庫でも活用しやすい「小分けサポート」機能の追加により利用頻度も上がり、薬剤師会や医薬品卸からの支持も得て「メドシェア」の知名度も拡大。月間で約4000回の検索があり、2019年11月現在、会員数は約800店舗まで広がっている。薬剤師会向けには説明会を実施するなど、特に会員数拡大を狙っている。

月3万円でつかえるAI医薬品発注システム「メドオーダー」

同社は、「メドシェア」の会員数拡大に伴い、利用者の要望にこたえるべく新規サービスとなる「メドオーダー」を2019年10月にリリースした。「メドオーダー」はAIを活用した医薬品の発注システム。使用料は月額3万円となっている。

現在、各薬局で使用されている在庫管理・発注システムは、多機能ではあるものの操作が複雑化しており、使用者の技術やITリテラシーが求められる機能が多い。そのため、ITリテラシーが高いスタッフの作業時間だけが長くなり、作業者と非作業者の作業量や知識量に大きな差が生まれていた。

「メドオーダー」のできることは、他社の発注・在庫管理システムに比べるとかなりシンプルだ。レセコンから処方情報を取り込むことで正確な出庫管理が可能。処方量や発注点など、発注のために必要な情報が1つの画面で管理できるようになっている。また、AIが処方実績を学習することで、発注点の適正化を実現する。

先発サービス「メドシェア」と合わせて利用することで、発注予定の薬を「メドシェア」で購入することもできる。在庫一覧で不動在庫を確認し「メドシェア」で出品することももちろん可能だ。

ファーマクラウドでは「メドシェア」のユーザーを中心に案内しており、「メドシェア」利用者の半数以上が有料サービスへの移行をするのではないかと見込んでいる。

メドオーダー発注画面

薬局と医療業者との関係を円滑にする仕組みづくり

「メドシェア」および「メドオーダー」開発の背景について、山口氏は以下のように語る。

「薬局経営において、売上を左右する薬の単価を決めるのは国であり、患者数は立地によるところが大きく、コントロールできるものは案外少ない。また人件費やテナント料などのコストも調整が難しいため、唯一コントロールできるのが在庫の管理だ。不動在庫の問題は発注管理の問題であり、薬局の適正在庫を作っていくために『メドシェア』や『メドオーダー』を開発した。1店舗の場合はアナログで管理できても、複数店舗になると人の目が行き届かなくなる。システムの導入により、患者に必要な薬がいつでも手に入る状態を、薬局から創出することができるだろう。人間にとって一番有効なインターフェイスはチャットボットなどではなく、あくまでも人間だと考えている。在庫管理などはシステムに任せ、服薬指導、突発的な問題への対処といった薬剤師の専門性が発揮できる業務に力を注いでほしい」。

ファーマクラウドの社員数は現在システム開発6名、営業3名、サポート4名の計13名。今後は、サポート体制を強化していくことで顧客の声を開発に反映させるサイクルを高速で回していく。

ファーマクラウドが目指すゴールは「医薬品流通の非効率をなくす」だ。調剤薬局には医薬品の安定供給という社会的使命があるが、その使命を全うするために、現状はアナログな方法で無理をしている部分が多々見受けられる。

同社では「メドシェア」「メドオーダー」のサービス提供を通じて、薬局のデジタルトランスフォーメーションを推進することで作業効率化と課題解決につなげていきたいとしている。

コンビニおでんのピークは冬じゃない?揚げ物は企画・イベントで売れる!

10月の消費税増税後、現金を使わないキャッシュレス決済を対象にポイントを還元する取り組みや消費税の軽減税率導入で弁当などの販売が伸びたことが寄与し、コンビニエンスストア大手3社(セブンイレブン・ジャパン/ローソン/ファミリーマート)における10月に既存店売上高はいずれも前年同月を上回ったと言います。そこで今回は当社アンケートモニターから独自に収集する購買データ「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」(以下POB)のうち、コンビニエンスストア大手3社の購買データ(セブン-イレブン/ファミリーマート/ローソン3社のレシート総枚数:約130万枚:2018年4月~2019年10月)から購買行動を分析し、前半・後半に分けて紹介します。

前半は、POB会員のレシートから購入状況・曜日別・時間帯別レシート購入金額を分析します。(図表1~図表3)

平均客単価は586円のセブンが最多。アイテム数は各社2~3個

まず、コンビニエンスストア大手3社(セブン-イレブン・ローソン・ファミリーマート)の購入状況は、セブン-イレブン<平均レシート単価¥586円・レシート1枚あたりの買上点数2.8個>、ファミリーマート<平均レシート単価¥502円・レシート1枚あたりの買上点数2.5個>、ローソン<平均レシート単価¥556円・レシート1枚あたりの買上点数3.0個>となります。平均客単価においては、もっとも高いセブン-イレブン(¥586円)と、ファミリーマート(¥502)の差は¥84円となりましたが、レシート1枚あたりの買上点数は大きな差は見られませんでした。

曜日別レシート購入金額は、各社金・土曜がピーク、ローソンは火曜も高い傾向あり

次に、来店曜日別の購入レシート金額割合をみると、セブン-イレブンは<金曜日14.6%>から、2.1ポイント上昇し<土曜日16.7%>でピークを迎えます。比較的曜日に限らず、安定して購入されていることがわかります。これはファミリーマートについても同様です。

一方で、ローソンにおいては<木曜13.0%>から、7.0ポイント上昇し、<金曜日20.0%>で来店のピークを迎えます。その後<月曜11.3%>までは下降しますが、再び4.7ポイントの上昇し、<火曜日16.0%>となり、レシート購入金額の推移に特徴が表れました。

その背景には、セールやキャンペーンの実施が来店に寄与している可能性が高く、ローソン公式HPのキャンペーン情報を確認したところ、火曜日はキャンペーンの開始日となるケースが高く(直近11月の情報のみ確認)、金曜は、2018年3月から毎週金曜(16:00~21:59)には「揚げ物」「焼鳥」のタイムセールが実施されていることがわかりました。

3社のカテゴリ状況について、レシートからどのようなものが購入されていたか分析します。

カテゴリ構成比、半数以上が食品関連カテゴリが占め、飲料、酒類が続く

まず、コンビニエンスストア大手3社(セブン-イレブン・ファミリーマート・ローソン)の購入レシートからカテゴリ構成をみると、各社「生鮮・惣菜(主に生鮮三品、おにぎり、スイーツなど)」および「食品(主に菓子類、調味料類、アイスなど)」の「食品関連カテゴリ」の構成比が半数以上となります。セブン-イレブンと(生鮮・惣菜38.7%/食品19.5%)、ファミリーマートの(生鮮・惣菜32.7%/食品19.7%)の2社は、生鮮・惣菜が食品カテゴリを10ポイント以上上回りましたが、ローソンは(生鮮・惣菜28.6%/食品25.4%)となりました。次に大きな構成比を占めたのは、「飲料カテゴリ<13.3%~17.9%>」、「酒類<4.9%から8.6%>」と続きました。各社2割近くの構成比を占める「その他」に関しては、雑誌や文庫本などの書籍、たばこなどが含まれています。

次からは、コンビニエンスストアの主力商品カテゴリでもある「おでん」と「揚げ物」をセレクトし、全体のレシート購入金額に占めるシェアをみます。

冬場じゃない、コンビニおでんは9月と10月に売れていた

「おでん」の、レシート購入金額全体に占める割合をみると、セブンイレブンは0.7%、ファミリーマートは0.2%、ローソンは0.1%となります。(各社平均割合)

季節商品のため、他商品よりも割合が小さくなりますが、店頭に並び始める8月~10月に各社TVCMやキャンペーンなどを投下し、それに伴い各社の購入金額も上昇していることがわかります。特にセブン-イレブンは9月(2018年3.3%/2019年3.2%)に跳ね上がっているのが特徴的です。

揚げ物は各社一定シェアあり。ローソンは企画実施月に大きな伸びをみせた

「揚げ物」の、レシート購入金額全体に占める割合をみると、セブンイレブンは2.9%、ファミリーマートは3.3%、ローソンは3.5%となり(各社平均割合)、3社に大きな差はありませんでした。

各社購入金額のピークは、セブン-イレブンは4月(4.7%)、ファミリーマートは3月(5.9%)となります。ローソは8月(6.0%)に大きな伸びをみせ、背景を調べるとdポイントカード会員先着60万名に、Lチキが1個無料でもらえるキャンペーンが実施されていため、その影響が考えられます。

また、ファミリーマート(5.1%)は12月にも伸びがあり、主力のファミチキなどの商品が、クリスマスパーティを盛り上げるフードメニューとして選ばれていたことが予想されます。

<前半のまとめ>

  • コンビニエンスストア大手3社平均客単価は500円台。586円のセブンが最多。アイテム数は2~3個
  • 来店曜日は、金・土曜が各社ピークだが、ローソンは火曜に再び上昇。キャンペーン、タイムセールが来店に寄与。
  • 主力のおでんは冬場ではなく店頭に並び始める9月10月にレシート金額がピークとなり、揚げ物においては、各社一定の割合は確保し続けており、ローソンはLチキ無料の企画実施月(2018年8月)に跳ね上がっていた。

資生堂、花王、カネボウ、コーセー…肌診断データ活用に本腰入れる化粧品メーカー

これまで店頭で行われていた肌診断のスマホアプリ化が進み、化粧品メーカー各社による肌データ獲得・活用の動きが活発化しています。先日コーセーはヘルスケアビューティーアプリ「Skin Diary」のリリースを発表。資生堂、花王、カネボウもこの数年で積極的な取り組みが見え出したこの分野。小売業はメーカー各社の動きにどう追随すべきなのでしょうか?(MD NEXT 編集長:鹿野恵子)

ソーシャルゲームのノウハウ生かしアプリの継続利用促すコーセー

今回コーセーが発表した「Skin Diary」は、毎日の肌状態を、睡眠や気分といった外的要素と組み合わせて記録するアプリです。継続して記録を続けることで、自分の肌の本当の性質や隠された傾向を精緻に知ることができるといいます。

「Skin Diary」の開発においてはソーシャルゲームの知見があるDeNAライフサイエンスと協働したことも非常に興味深い点です。日々の状態を記録するアプリはどうしてもモチベーションが保てず離脱してしまうユーザーが少なくありませんが、「Skin Diary」にはDeNAライフサイエンスがゲームやスポーツの事業で培った、独自のノウハウ『エンゲージメントサイエンス』が随所で活用されており、飽きずに楽しく使い続けてもらうことを目指しているそうです。

将来的には、お客が記録・蓄積した美容データを、店頭と連携して最適な美容アイテムを効率的に提案する仕組みも検討するとのこと。

「これにより、これまで店舗や美容ブランドごとに分断されていたお客さまの美容データが共通のデータとして統合されるため、お客さまごとにパーソナライズされた美容体験の提供が可能」になると、DeNAはプレスリリースで述べています。

資生堂は「Optune」でひとりひとりの肌状態に合わせたスキンケアを提供

大手化粧品メーカーの肌データ活用のなかで、一歩先をいっているのは資生堂の取組でしょう。

資生堂は「肌パシャ」というスマホだけで本格的な肌分析が行えるアプリを2017年から提供しています。2019年9月には、これまでのうるおい測定に加え、「ハリ・透明度・シミ・シワ・肌色分析」、総合結果「美肌チャート」を搭載するなど測定項目を強化しました。

また、同社が2019年7月にリリースした「Optune」はさらに一歩進んだサービスです。スマートフォンのカメラで撮影して測定した肌の状態、睡眠状況や今の気分、そして気温や湿度、紫外線、PM2.5など、肌に影響を与える環境データなどの情報を組み合わせて分析。

8万以上ものお手入れアルゴリズムから、その日の肌に必要なケアを決定します。

最終的には専用のツールからその人の状態に合わせたスキンケア剤が自動的に抽出されるというものです。まさにカスタマイズの最先端を行ったサービスでしょう。

Optuneは月額1万円の定額制で、スキンケア剤の抽出に使用するカートリッジは残量が自動管理され、無くなる前に自動で届く仕組みになっています。これは究極の顧客囲い込みと言えます。

LINE連携で軽快な「肌id」、水分測定センサ配布する「smile connect」

花王は2019年9月からスマートフォンのカメラで肌年齢を分析する「肌id」を開始しました。同社の化粧品ブランド「ソフィーナiP」と連動したサービスで、対話アプリの「LINE」で友だち登録することで同サービスを利用することができます。

これは、株式会社パーフェクトがARメイクアプリ「YouCam メイク」の「AI 肌チェック」のブラウザ向けモジュールを提供したもの。LINEと連携していて軽快な使い心地です。

カネボウは「smile connect」というアプリで肌診断を提供。こちらはキャンペーンでスマートフォンのイヤホンジャックに差し込んだ肌水分測定センサーを配布しています。カメラだけで測定する他社とは一歩違ったアプローチをしています。

小売業独自の提案をする準備をするタイミング

このように、2019年はメーカー起点でさまざまな肌診断アプリが登場(強化)された年のようです。小売業はこの動きをどのように考えるべきでしょうか?ポイントは2点あると考えます。

まず1点目はさらに専門的な肌分析が店頭では必要とされるようになるだろう、ということです。

スマートフォンを使うという性質上、環境や機種、ユーザーのリテラシーに左右されるカメラでの撮影に頼らざるをえません。今後カメラの機能はより高くなることが予想されますが、どんなにソフトウェアの性能が向上しても、ある程度の精度どまりになることは間違いないでしょう。本格的な診断を受けたい場合は店頭に足を運ぶというような動線ができていくはずです。

花王はAIスタートアップのプリファードネットワークスとともに「皮脂RNA」を使って肌状態にコミットする美容カウンセリングサービスの構築をめざすと発表しました。

花王とPFN、皮脂RNAモニタリング実用化プロジェクト開始

これはとても簡単に解説すると、あぶら取り紙のよなものからとった皮脂から肌の状態のモニタリングをする技術を確立しようとするものです。簡易な肌診断がスマートフォンでできるようになれば、今後店頭ではこのようなさらに専門的な肌診断サービスの提供が求められるようになることでしょう。

もう一つ、これらの肌診断アプリはメーカーが提供しているため、横断的に化粧品を購入されるお客にとっては使い勝手が悪くなっている状況ということも小売業は注目しておきたい点です。

お客様はスキンケアはA社、化粧下地はB社、ファンデーションはC社…という使い方をされていて、メーカーの縛りがある「メーカー発肌分析アプリ」の提案は効きにくく、アプリとしても使い勝手が悪いのではないでしょうか。

そういったニーズを汲み取ってか、NTTドコモとソニーが肌解析アプリ「FACE LOG」を2019年6月にスタートしました。中立的な立場からの肌診断アプリとしては注目に値するでしょう。

本来であれば、メーカーを横断してお客に商品をご紹介できる立場である小売業が率先してこのような取り組みをするべきなのかもしれません。

かつてメーカーごとに顧客台帳があり、顧客管理を複数の台帳にまたがって行わなければならなかったために、使い勝手が非常に悪かったことがありました。今はメーカーごとではなく、台帳の統一化がかなり進んでいます。

同様に肌診断をメーカーごとにばらばらにおこなっていたのでは店頭は回りません。アプリで顧客を取り込み、店頭でより精度の高い肌診断を提供し、商品提案はメーカー横断で行える…そんなツールを小売業が率先して用意することができれば「最強」です。

肌診断アプリで集客したお客を取り込むためには、店舗側では3つの準備が必須になるはずです。

1つ目は店頭で更に詳細な肌診断を行えるツールを準備すること(それがないとメーカー直販への顧客流出は免れません)、2つ目は個別対応の為に自社の統一台帳を作り運用すること(電子台帳ならより時間短縮できる上にデータを活用できます)、3つ目は診断結果や要望をもとにメーカーを横断して化粧品を提案できるカウンセリングツールを用意すること(タブレットカウンセリングツールなど)。

たとえメーカーほどの開発費をかけることができなくても、小売側で今から準備できることは山ほどあるのではないでしょうか。

客数に影響する計画購買、客単価に影響する非計画購買

前回は買物行動が「計画購買」と「非計画購買」に分解できると解説しました。今回は、それぞれをどう伸ばすかについて解説します。

計画購買を満たすことは客数に影響する

日常生活に必要な何種類もの商品を、できるだけ短時間に購入できる店、つまり「計画購買がスムーズにできる店」は、お客も「便利な店」と認識し、来店客数が多くなります。

よく「売れ筋を欠品させてはいけない」と言われるのは、お客に「あの店はいつも買う商品が品切れしてばかり」と思われ、そもそも足を運ぶ気がなくなってしまうからです。

計画購買しやすい店はどこで何を売っているかがわかる店

計画購買がしやすい店というのは、豊富な品揃えがあることは当然ながら、「あなたが購入したいマヨネーズはここにありますよ」「あなたが購入したいラップはここにありますよ」という売場のわかりやすさを同時に実現することが重要です。

アメリカのチェーンストアのように、数千坪もある巨大な店舗では、スマートフォンアプリのような道具を使い、どの商品がどの売場で販売されているのかをサポートすることが有効になります。

アメリカホームセンター大手のホームデポのスマートフォンアプリには、お客が商品を検索すると店舗での陳列位置を表示する機能があります。

ホームデポのアプリより(画像提供:編集部)

また、ドラッグストア大手のウォルグリーンのアプリには、アプリ内の買物リストに登録している商品の、店内での陳列位置を教えてくれる機能もあります。

日本では、アプリで店舗内の商品陳列位置を案内している企業はそこまで多くはない印象です。理由は2つあります。1つは店舗面積がそこまで広い店が多くないこと。もう一つは、売場のロケ管理(商品陳列位置管理)ができている小売業が非常に少ないということです。

「どの店のどこに何があるかを把握しているかどうか」は今後重要になってくるのではないかと筆者は考えています。

テクノロジーとデータの入る要素が大きい計画的購買

アプリ以外の方法で、計画購買をよりスムーズにするために重要なのは売場サインなどの表示です。

「洗濯洗剤の売場がわからない」という人はあまりいません。なぜならこういった主要カテゴリーは塊で大量に陳列されているため、店内を歩いていればどこで販売されているかがすぐにわかるからです。しかし売場サインだけでは十分にカバーしきれない小さなサブカテゴリーや商品も少なくありません。

たとえば「白だしの液体タイプ」はどうでしょう?麺つゆと一緒に陳列する店もあれば、だしでくくって煮干しや鰹節と一緒の売場に陳列している店もあります。

レーズンは製菓材料でしょうか?おつまみでしょうか?それともお菓子でしょうか?青果売場に乾燥果物という扱いで陳列している店もありますね。

このような商品・サブカテゴリーは、売場のサインボードだけで陳列位置を判断するのは不可能で、結局店員さんに売場を確認する必要が出てきます。もしも陳列位置の管理ができていれば、アプリや店頭のタッチサイネージなどで探せるようになります。

つまり、計画購買はテクノロジーとデータの入る要素が非常に大きいということなのです。

それぞれの非計画購買をいかに増やすか

純粋衝動購買は完全にエモーショナルの世界になります。陳列のテクニックや「新商品が出たんだ!」「この商品にこんな使い方があるなんて」という「売り方の演出」によって喚起されます。

想起衝動購買を増やすために重要なのは、売場のわかりやすさです。「自宅に××がなかったな…」「××がそろそろ切れそうだな」ということを売場でお客に気づいてもらえるかどうかがカギになります。

しかしこれはそう簡単なことではありません。いますぐできる対策としては店内滞在時間を伸ばし、たくさん歩いていただくということになります。滞在時間が増えれば、純粋衝動購買と、想起衝動購買の2種類は上がる可能性があります。なお、滞在時間が増えても計画購買の売上は上がりませんし、提案受入衝動購買もそこまで上がるものではありません。

提案受入衝動購買を増やすには3つの方法があります。

まず、POPや販促ボードの適正化です。「価格訴求」ではない「価値訴求」のメッセージをいかに売場で伝えるかということです。どうでもいい情報はお客にとってノイズに過ぎません。良質な情報を必要な商品に絞ってつけていきましょう。

次に動画などの活用です。デジタルサイネージなどで商品の価値を的確に伝えることができれば、有効な手段になります。

最後に接客です。なぜ最後なのかというと、提案接客をすればよいから、とやってしまうと単なる押し売りになってしまうからです。接客は、必要なお客に必要なとき、必要な分だけ行えば効果的ですが、これだけに頼ってはいけないと、筆者は考えます。

テクノロジーが一番関与できるのは、計画的衝動購買の増加でしょう。最近、タブレットカートの導入を進めている小売業が散見されます。九州のディスカウントストア トライアルは自社でタブレットカートを開発していますし、イトーヨーカドーや食品スーパーのイズミ(広島)(の一部店舗では)、ショピモというタブレットカートを導入しています。

トライアルが導入しているタブレットカート(写真提供:編集部)

このタブレットカートは、売場に設置されたビーコンと連動し、特定の売場を通過しているお客に対して売場と連動した販促を仕掛けられます。たとえばビール売場を通過するお客に対し「今日はメーカーAの商品に100ポイントが付与されますよ」という文言がタブレット上に表示されるのです。ビールメーカーの方に話を伺うと、ポイント効果で明らかに買上点数があがったそうです。ここまで効果が明確なのであれば、メーカーが販促金を出す可能性は高いのではないかと思います。

計画的衝動購買を値引きで促すのは簡単なことですが、なるべく少ない値引きで促すために、お客様に売場でピンポイントに値引き商品を紹介するタブレットなどを、メーカー支援のもとで運用する小売業は今後増加していくでしょう。

このように、顧客の購買行動を分解して考えることで「どのような施策を打ったことで、どの数字にどれぐらい影響があったか」を知ることができます。すると、この施策は客数を上げるためなのか、それとも客単価を上げるためなのかが理解できます。

小売業において「たくさんの施策を打って、売上げが上がったものの、どの施策が鍵だったのかがわからない」というようなことは少なくありません。

しかしこのように購買行動を分解することで、原因と結果の分析がより正確になれば、どの施策がきっかけで業績が向上(あるいは下降)したのかが明確になるでしょう。

やって効果のあること、やっても効果が出ないことを明らかにすることで、より効果の出る施策に注力していただければと思います。

(談、まとめ:編集部 鹿野恵子)

MIYOSHIが目指す、原料、容器、電力から環境にやさしいものづくり

環境へのやさしさをうたうメーカーは数あれど、できた製品だけでなくその工程まで環境に配慮できている企業は限られている。ミヨシ石鹸は、製品の原料、資材、さらに工場や事務所の電力にまでこだわった商品づくりを行う。

グローバル、長期的視点からの環境保護目指して

もともと環境にやさしいものを取り扱いたいと考えていたミヨシ石鹸は、政府が提唱している3R、つまり「リデュース(減らす)」「リユース(繰り返し使う)」、「リサイクル(資源の再生利用)」の推進に取り組んでいた。

しかし3Rは飽くまで国の政策である。

我々が製造業として、よりグローバルで長期的な視点から環境保全に取り組むために何をすべきか考える中で、原料と容器の調達に着目しました。たしかにせっけんは環境にやさしいし、肌にもやさしい商品です。しかし製造の過程は本当に環境にやさしいといえるのでしょうか?そこで、原料からパッケージの調達までの見直しを図ることになったのです」と、ミヨシ石鹸取締役営業本部長の中野浩之さんはいう。

そこで同社は、液体せっけんの原料に「RSPO認証」を取得した「持続可能なパーム油」を採用することにした。

持続可能なパーム油を示す認証「RSPO」

パーム油はアブラヤシの果実から得られる植物油だ。せっけんの原料の一つで、生育環境が限定されているためにインドネシア・マレーシアなど限られた地域で生産されている。

アブラヤシの果樹の収穫の様子

せっけん以外にも加工食品や化粧品、医薬品、バイオ燃料などに活用できるパーム油の需要は高く、急速なアブラヤシ農園の拡大や、不適切な農園経営などが原因となって、環境や地域社会に深刻な悪影響をおよぼしている。

たとえば農園造成のため、自然林や泥炭湿地林などが伐採されたり、火入れを行うために森林火災が起きている。ゾウやオランウータンなどの希少動物も住むところを追われている。劣悪な労働環境や、移民労働者の不当な扱いなど、働く人たちにまつわるトラブルも起きている。

そこで、環境への影響に配慮した持続可能なパーム油を求める世界的な声の高まりに応えて登場したのが「RSPO」だ。2004年に設立された「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」は、アブラヤシ生産者や、製油業、製造業、小売業など7つのステークホルダーによって構成される非営利団体である。

RSPOは持続可能なパーム油が標準となるように市場を変革するというビジョンのもとさまざまな活動を行っているが、その活動の一つがRSPO認証システムの提供だ。これはRSPOが考える持続可能なパーム油の生産についての要件をクリアしているかどうかについての認証を与えるというもの。

近年ではイオンのような大型小売業が持続可能な調達方針を掲げ、たとえばGAP認証を取得した農産物や、MSC認証、ASC認証を取得した水産物の調達を行うと宣言している。イオンはプライベート・ブランドの原料にRSPOなどの認証を取得したパーム油100%利用を目指すとしており、注目が集まっている認証であることがわかる。

「RSPO認定パーム油は一般的なものと比較すると高額ではありますがミヨシ石鹸は2012年10月からこのRSPO認証に参画し、現在ほとんどの液体せっけんに認証を取得したパーム油を使用しています」と中野氏は語る。

バイオマス由来素材使用のUL認証取得容器を採用

原料だけではなく、商品のパッケージも環境に配慮したものの採用を進めている。

もともとミヨシ石鹸は、業界ではじめて詰め替え式の商品を導入していて、容器ゴミの削減を推進していた。しかしさらに一歩進んで、本年行った液体洗濯せっけん「そよ風 液体せっけん」と「お肌のための洗濯用液体せっけん」のリニューアルでは、二酸化炭素削減に効果があるといわれているサトウキビ由来のバイオマス容器を使用。

この容器はUL認証を取得した素材でできている。ULは、アメリカで1894年に設立された「Underwriter’s Electrical Bureau」を前身とする安全認証機関である。1,000を超える安全規格に基づき、材料、製品について試験や評価を実施、適合したものに対してULマークの表示を許可している。これは商品の機能と安全性を認定するものだ。

このような取り組みを通じて、同社は中身も容器も環境にやさしいことを目指す。

ミヨシ石鹸、旗艦商品の詰め替え用ボトルを大幅刷新

太陽光発電で工場や事務所の電力補う

同社は2016年7月から、本社工場の屋上に大規模なソーラーパネルを設置し、太陽光発電をスタートした。中身も容器も環境にやさしいだけでなく、製造工程で利用する電力もクリーンなものを志向しているのだ。東京営業所では電気自動車を営業車に採用。さらに大阪では営業車を廃止している徹底ぶりだ。

「環境にやさしいせっけんメーカー」から「せっけんをとりまくすべてを環境にやさしくするメーカー」へ。ミヨシ石鹸のチャレンジは、石けん業界に大きなインパクトを与えるであろう。

ウォルグリーンが冷蔵ケース 「広告メディア化」の実験開始

「ラスト・ワンマイル」といえば、一般には店舗からお客の手元に商品を届けるための物流の最終工程を指しますが、アメリカでは消費者が店頭で購買を決断するための最後の一押しのことも「ラスト・ワンマイル」というそうです。ウォルグリーンは、冷蔵庫の画面をサイネージ化するスタートアップ企業の技術を導入して、店頭広告モデルの実験を開始しました。ラスト・ワンマイルにつながる店頭メディア化の可能性が大きく広がります。

冷蔵庫をサイネージ化したサンフランシスコのウォルグリーン。

冷蔵庫の中の商品をサイネージに表示

ウォルグリーンは、冷蔵庫の扉をサイネージ化する実験を開始しました。冷蔵庫の扉の後ろと前にカメラがついています。後ろのカメラは冷蔵庫の庫内を撮影しており、扉のサイネージに在庫商品の画像を映します。欠品している棚は、白い空欄で表示されます。

冷蔵庫のサイネージと在庫商品は連動している。

扉のサイネージには「動画」のコマーシャルを流すことができます。おすすめ商品やお買い得商品を目立たせるように表示したり、動画で目立たせることもできます。ウォルグリーンは冷蔵庫の扉を、ラスト・ワンマイルを促進する効果的な広告メディアとして、メーカーから広告収入を得るビジネスモデルの実験を開始しました。

テレビCMの影響が低下しているアメリカでは、店頭は非常に重要な広告メディアです。その商品の特徴を動画で放映したり、キャンペーンの告知を行うこともできます。

ウォルグリーンは現在、数十店規模で、冷蔵庫のサイネージ化の実験を始めていますが、8,000店を超える全店で導入すると、すごく影響力のあるメディアになりますね。

店頭はマーケティングの実験場になる

冷蔵庫の前のカメラは、来店客の購買行動を録画しています。POSデータは何がいくつ売れたかというデータしか取れません。このカメラでは、来店客(ショッパー)の「購買前行動」を記録することができます。たとえば、「購入商品を決めていてすぐに購入したのか?」「あれこれ迷って購入したのか?」「あれこれ迷って購入しないで帰ったのか?」「来店客はどの画面や動画を見たのか?」が記録されます。そのビッグデータをメーカーと小売が分析することで、「ラスト・ワンマイル」の精度を高めます。

ウォルグリーンは、画面に放映する「動画コンテンツ」や「購買前行動」などのビッグデータは、すべてマイクロソフトの「Azure(アジュール)」というクラウドサービスで管理しているそうです。

たとえば、メーカーがウォルグリーンのサイネージに投影する動画広告のコンテンツをアップロードする場合も、クラウドサービスを使えば、メーカー本社のパソコンから、遠く離れた店舗のコンテンツを変更することができます。

これまで多くの小売業がアマゾンのクラウドサービス「AWS」を採用していながら、自社の顧客売上データ、購買行動データ、決済データなどを商売上の競合が提供するシステム上に保管することを快くは思っていませんでした。近年「ウォルマート」「クローガー」「ウォルグリーン」などのリアル小売企業が、続々とマイクロソフトのアジュールを採用するようになったのです。

アメリカでは、アジュールが、アマゾンのAWSのシェアを逆転しました。「アジュール連合」vs「アマゾン」の熾烈なデータ覇権争いが勃発しているわけです。

花王とPFN、皮脂RNAモニタリング実用化プロジェクト開始

花王株式会社と株式会社Preferred Networks(PFN)は、2019年11月20日、「皮脂RNAモニタリング」を実用化するための協働プロジェクト「Kao×PFN 皮脂RNAプロジェクト」を開始すると発表し、花王本社で記者会見を開いた。第一弾として、皮脂RNAから得られたデータに機械学習・ディープラーニング(深層学習)などのAI技術を応用して、肌状態にコミットする美容カウンセリングサービスの構築をめざす。(ライター:森山和道)

花王の皮脂RNAモニタリング技術で得られた情報に、PFNの機械学習・深層学習技術を用いて、高度な予測アルゴリズムを開発する。これにより従来の肌測定や解析技術では把握できなかった肌内部の状態を知ることや、将来の肌ダメージのリスク評価が可能になるという。

さらに遺伝情報をもとにパーソナライズされた美容アドバイスやスキンケアを提供することで、肌状態の改善・予防への道も拓くことを目指す。まずは2020年から一部機能のテスト運用を開始し、顧客の反応を見ながら精度の向上と改良を進めていく。また、高齢化の進展とともに増加しているパーキンソン病などの難治性疾患の早期診断技術の共同研究も予定している。

花王のRNAモニタリング × PFNのAI技術

Kao×PFN 皮脂RNAプロジェクト

花王株式会社生物科学研究所は2019年6月に、皮脂の中に人のRNA(リボ核酸)が存在することを発見し、そのRNAを網羅的に分析する独自の解析技術「RNA Monitoring(RNAモニタリング)」を世界で初めて構築したと発表していた。RNAモニタリングにより、皮脂中のRNA発現情報にアトピー性皮膚炎の肌状態が反映されていることも見出し、学会発表も行なっている。

今回の発表はそれをさらに一般化し実用化を目指すもの。はじめに、花王株式会社 代表取締役 専務執行役員の長谷部佳宏氏が「二年前からRNAモニタリングのパートナーを探していた。PFNがもっとも優れていると判断した。最初の段階から非常に興味を持って取り組んでもらえた」と述べ、プロジェクトの全体を紹介した。

花王株式会社 代表取締役 専務執行役員 長谷部佳宏氏

「RNAモニタリング」では、皮脂中から一人あたり約13,000種類のRNAを取って発現量を測定する。同時に肌や健康状態のデータも取得する。このデータを用いて、皮脂RNA発現データから、肌や皮膚、体内状態を推定する予測モデルを構築する。

DNAは変化しないが、DNAから転写されるRNAの発現は肝臓や皮膚等の組織ごとにプロファイルも合成量も違い、環境・食生活・運動・環境などの情報によっても日々変化する。その変化をキャッチすることができれば、もっと人の身体のことを理解できるようになる。

だが、RNAは非常に不安定だ。また、皮膚にはRNAを分解する酵素が存在している。そのため人に由来する分析可能なRNAを角層や汗から回収することは難しいと考えられていた。しかし花王は皮脂のなかにRNAが綺麗に保存されていることを発見した。しかも市販のあぶら取りフィルムで皮脂を拭くだけで、RNAが壊れずに採取できる。つまり、遺伝子発現情報が、いつでも誰でも簡便に採取できることを意味している。

では、それをどう活用するのか。今回、皮膚の美容について皮膚色、形状・弾性、角層機能、目視評価など、花王が重視しており、かつ、かなり時間をかけて調べなければならない情報だった120項目のうち104項目が、皮脂を取るだけでPFNの技術を活用して関連づけられ予測できることがわかったという。

RNAモニタリングのPFNによるスクリーニング結果 

また、アトピー性皮膚炎患者の皮脂中RNA解析を行ったところ、皮膚のバリア機能維持に重要なRNA種の発現が減少し、炎症の亢進に関わるRNA種の発現が上昇していることが明確にわかった。アトピー性皮膚炎の症状が重くなるにつれて発現が上昇することがわかっているRNA種が、皮脂中RNAでも同様に重症化に伴い増加していた。長谷部氏は、今後は「一つ一つの遺伝子の因果関係を明らかにすることでアトピー性皮膚炎に対しても明確な診断と治療にまでもっていきたい」と述べた。

アトピー性皮膚炎患者の皮脂中RNA解析の結果

コミットメントできるビューティケアを目指す

RNAの発現は身体各部位によっても異なる

RNAの発現は身体のどこで取るかによっても異なることがわかっているという。たとえば右の頬と左の頬でも異なり、様々な情報が含まれていることがわかっている。

花王は、極細の糸を吹き付けて肌に積層型の極薄膜をつくる技術「Fine Fiber Technology(ファインファイバーテクノロジー)」の応用製品第一弾として、美容液と組み合わせた「バイオミメシス ヴェール」を11月から販売している。

花王 | 「エスト」から「Fine Fiber Technology(ファインファイバーテクノロジー)」応用第一弾商品 日本およびアジアで発売

この「ファインファイバー」と「RNAモニタリング」技術を合わせて用い、着用から3時間後にどんな遺伝子が動いたかを調べたところ、たった3時間の変化もRNAは反映することがわかった。つまり、化粧液などをつける前とつけたあとの効果をRNAを用いて調べることができることを意味している。長谷部氏は「さらに長期的な変化についても、どう変化するのかを見てみたい」と述べ、「そのためにAI技術を使う」と述べた。データが増え、関連遺伝子がわかればわかるほど、「化粧品の良し悪しが遺伝子レベルでわかる」という。

ファインファイバーによる効果をRNAモニタリングで可視化することができる

長谷部氏は「コミットメントできるビューティケアを目指す」と述べ、今後、RNAがどんな理由で変わっていくのかを探っていくと語った。これは花王が重視している「本質研究そのもの」だという。

美容にフォーカスすると、しわ・しみ・たるみなどが製品の因子によって変化するといったときに、それを理由づけすることができるようになる。美容液などの成分だけでなく、素材や処方がどんなふうに左右するか、それらの因子を同時にモニタリングできれば、「コミットメントできるレベルのビューティケア、ヘルスケアが実現する」と考えているという。2020年春から「BEAUTY BASE by Kao 銀座店」での試行開始を目指している。

2020年春から「BEAUTY BASE by Kao 銀座店」で試行開始

現実世界の問題をディープラーニングで解くPFN

株式会社Preferred Networks 代表取締役社長 最高経営責任者 西川徹氏

株式会社Preferred Networks(PFN) 代表取締役社長 最高経営責任者 西川徹氏は「現実世界を計算可能にする」ことが同社のミッションだと紹介した。具体的には自動運転やロボットなど現実世界が抱える問題をディープラーニングとコンピューティングの力で解決しようとしている。PFNの現実世界の問題を解くための戦略は、業界でのリーティングカンパニーと組むこととだ。問題を深く知っているパートナーと密に連携することで、共同して難しい問題に立ち向かっているという。

バイオ・ケミカル領域の取り組みでは、国立がん研究センター、中外製薬、JXTGグループとの取り組みを紹介した。西川氏は、ケミカルとライフサイエンスでは今後、ディープラーニングが非常に大きな意味を持つと考えているという。生物の多様性を理解することが極めて重要だからだ。たとえば、同じ名前のガンでも人によって抗がん剤が効いたり効かなかったりする。それは遺伝子にエラーの入るパターンが人によって違うからだ。よって、生物の持つ多様性に対応することが重要になる。

PFNのバイオ・ケミカル分野での取り組み

これまでの生物学は共通の性質に注目してきた。だがルールでは記述しきれない問題に対しては、データドリブンのアプローチが必要になるし、多様性に注目することで初めて、医療でも個々の状況に合わせたケアが可能になる。また、ケミカルは非常にミクロな世界だ。化学の研究では分子動力学とスパコンによるシミュレーション技術が活用されてきたが、シミュレーションだけでは未解明の現象も多い。西川氏は「現実世界とバーチャルな世界のギャップをデータドリブン・アプローチで解決していくことが可能なのではないかと考えている。これからはディープラーニングと計算力で解決していくのが主流になる」と述べて、ケミカルとバイオの分野のリーディングカンパニーである花王と組んだと述べた。

株式会社Preferred Networks 代表取締役副社長 岡野原大輔氏

具体的な取り組みについては同 代表取締役副社長の岡野原大輔氏が解説した。同社のバイオ関連への取り組みは、がんの診断の精密化から始まっており、それは国立がん研究センターや産総研AIセンターと共同プロジェクトを進めている。臨床情報、マルチオミックスデータ、医用画像、疫学データを利用してPrecision Medicine(精密医療)の実現を目指している。

ではケミカルではAIはどう使えるのか。薬や材料の探索においては、まず最初に分子設計をする必要があるが、分子の組み合わせは無数にある。全ての場合を網羅することはできない。だからこれまでは専門家がデザインしていた。しかし、ディープラーニングを使うと様々な化合物を網羅的に探索し、かつ、狙った性質を持つように作れるようになっている。また、コンピュータシミュレーションは莫大な計算量がかかるが、ディープラーニングによって100万倍の高速化も可能になっているという。薬剤を製造しやすくしたり、飲みやすくしたり、狙った性質を持つように最適化することにも機械学習が使える。

薬や材料の探索におけるAIの活用

がんの研究においては、少量の血液サンプルを採取し、そのなかにmiRNAがどのくらい出てくるのかを解析して、その発現量から、がんの有無、種別や状態の判別に取り組んでいる。もうひとつ、ライフサイエンスでうまくいっている例が、医療画像解析だ。PFNでも国際的な放射線科研究学会において肺炎検出チャレンジに挑み、1,445チーム中6位の成績を収めている。またメディカルAI学会を2018年に発足させ、オンライン講義資料を提供している。岡野原氏は「データがあり、問題があって、AIを適切に適用すれば様々な問題を解決できる」と語った。

少量の血液からがん診断をする研究の概要

データと技術だけではなく、AIには計算性能も必要だ。PFNではGPUクラスタを自社で構築し日本の企業では最速のスパコンを所持している。さらにAIに特化したチップを独自開発し、世の中にない計算性能を持った計算機を構築することで十分な精度で必要なデータを解析できるようにしようとしている。これらの計算資源と皮脂RNAモニタリング技術を活用し、「パーソナライズドされた美容アドバイスやスキンケアに取り組んでいきたい」と岡野原氏は語った。

皮脂RNAから肌・皮膚・体内因子の状態を推定する

人の内部変化を捉えて消費者との新たなコミュニケーションが始まる

花王株式会社 代表取締役社長執行役員 澤田道隆氏

最後に、花王株式会社 代表取締役社長執行役員の澤田道隆氏も交えた四人によるトークが行われた。澤田氏は「今回、ようやく実用化に至った。コスメティックな世界でも本質的な診断の方向が見えてきたのはすごいこと」と述べて、自ら司会し、トークを進めた。

PFN岡野原氏は「皮脂からRNAが抽出できるは非常に重要なブレイクスルー。皮脂RNAは誰でも簡単に毎日取ることができる。処置前・処置後にも取れる。まだまだ解明されていないことは多い。なぜ皮脂にRNAが体内の情報をもったかたちで出てくるのかは解明されてないが、実証を進めていくなかでも体内情報を知る非常に重要なシグナルとしても使えるだろうと考えている」と語った。

花王 澤田道隆氏(左)と長谷部佳宏氏(右)

花王・長谷部氏は皮脂RNAの発見について「皮脂を細かくしらべていくなかで、一人の研究員が『もしや』と思って調べた。普通は酵素で分解されてしまうので最初は誰もが疑ったが、次世代シーケンサーに調べて何回も確認した」と経緯を紹介した。そして「皮膚は『体の鏡』と言われる。それができて、人のために繋がるのではないか。今はまだ発見。これをいかに発明につなげるかが重要。このデータをどう読み取って世の中に返していくか。PFNはそのための最強のパートナーだ」と語った。

花王がPFNをパートナーに選んだ理由は、PFNがmiRNAについて既に本質的な知識を持っており、少ないデータからでも精度の高いモデルを構築する技術があったからだったという。

PFNの西川氏は「今回はいろいろなデータをいただくことができた。血液検体からはDNAを調べるのはコストも時間もかかるが、それに比べると大変ではなかった。皮脂RNAは非侵襲性で現実的に毎日取ることができる。実用化されたら気軽にずっとモニタリングができる。定量的なデータを取り続けることができるということに大きな可能性を感じている。このような発表ができて嬉しい」と語った。

以前は、皮脂RNAの解析にもかなりの日数がかかっていたが、今は数時間単位までコストダウンが可能になっており、実際の美容診断・カウンセリングのなかに組み込んでいけるところまできているという。さらに将来的にはコスメティクスから医療へも持っていける可能性があるとし、花王のグループ製品全体の価値を高めることもできると考えているという。

PFNとしても、これまではBtoBが多かったが、今後はBtoC、生活に寄り添った技術を提供していきたいと考えており、花王の持つ生活者と近い商品に対してディープラーニングが適用されることでどう受け入れられるのかという観点でも重要だと考えているという。今後は人の動きや変化をより詳細にトラッキングできるようになることから、マーケティングサイエンス的なところにも使えるのではないかと西川氏は述べた。

岡野原氏も「様々な人の情報を取れるようになっているが、観測データが行動変容にどう繋がるのか、その理解にはギャップがある。AI技術を使って内部状態を推測することはできるようになるだろう。人は無意識に自分でも気づかないうちに行動が変わっていく。その過程では何かしらの変化が身体内で起きているはず。その変化を捉えることができれば、どのように消費者とコミュニケーションをとっていけばいいのかについてもAIは活かしていくことができる」と語った。

PFN 岡野原大輔氏(左)と西川徹氏(右)

花王の澤田氏は今回の連携について「枠組みを広げていくことで未来に向けたものづくりのあり方も変わってくると思う。AIは脅威と見られることもあるが、本来、人間主体のAI、人間らしさを引き出さなければならない」と述べた。

PFN西川氏も「AI技術が人の創造力を超えるのはまだまだ先」と述べた。そして「いっぽう、機械の力を借りることで人の視点を広げることができる。膨大な情報を人が細かく見ることはできない。だが機械の力を借りることで理解に近づくことができ、人の能力をスケールさせることができる。人の努力がもっといかせる、そういうAIが私たちが目指すものであり、そういう世界を作っていきたい」と語った。

PFN岡野原氏は「AI技術はまだ一般の人に届いていない。一般の人が『AIで生活が変わったな』と実感することは少ない。今回の成果はこれまでにない接点を増やしていける機会。使い方や経験が蓄積されていくと、AIが実際に我々の生活を豊かにし、人間の可能性を広げるものだと理解が深まっていく。普通の生活でもAIの恩恵を受けれることを示していきたい」と述べた。

花王の長谷部氏は「ものづくりも、もっとお客様に寄り添いたい。脳の血流を調べると商品の触り心地が変わるだけで膨大な変化が起こる。そこで得られる膨大なデータをどうやってサービスやものづくりに活かすか。もっとお客様にダイレクトに『ベストだな。あってよかったな』と思ってもらえるようになるのではないか。AIによって違う次元のサービスができるようになる」と語った。

澤田氏は最後に「この連携はグローバルな取り組みもできる」と海外展開についても触れ、「お互いに社会の役に立ちたいということを企業理念のベースにしている。良い連携をすすめていきたい」と締めくくった。両者がそれぞれをパートナーとして選んだ理由については、「社会実装できるグランドデザインを両者が思い描けたことが大きかった」という。

4者によるトークが行われた

エビデンスに基づいた「予防コスメ」へ

花王の製品群の広がりとPFNの技術を軸として社会実装を進める

現在までに蓄積されたデータは500-600人分程度。今後は、来春から「BEAUTY BASE by Kao 銀座店」に来店した客に対してカウンセリングの提案を行い、データを集め、モデルの精度を高めていく。データは後日、お客に返す。現在は13,000のRNAを全て調べているが、将来的にはキーとなるもっと少ない遺伝子だけを調べればよくなるのではないかと考えており、そこにも機械学習を適用していく。解析時間やコストも飛躍的に下がっていくと予想しているという。

現時点ではRNAの変動と皮膚状態の「相関」を見ているだけだが、このデータを用いて実際に働きかけるヘルスケア商品や化粧品に落とし込んでいくためには「因果」の解明が必要になる。岡野原氏は「化粧品などでアクションを加えた前と後のデータをモデルに入れていくことで因果が見えてきて、有効なリコメンドができるようになると考えている」と述べた。花王では、RNAがどのような環境因子で変動するのか、個々のデータを取得していく。

また花王ではこの皮脂RNAモニタリング事業を通してデータを積み重ねていくことで、予測モデルを構築し、「予防コスメ」を進めていくという。5年先、10年先に加齢すると肌がどのような状態になるか、化粧品を使うことでどのような状態を維持できるかといったアドバイスがエビデンスに基づいて可能になると考えているという。そこから花王だけでなく他社製品も含めてブランドをリンクさせていくといった世界観を持っており、それはそれほど遠くない時代に可能になると考えているとのことだった。

マツモトキヨシHDのPB開発軸は「らしさ=革新性」

プライベートブランド(PB)を扱うドラッグストア(DgS)は数多いが、その「ブランディング」までを考察し、実践につなげている企業はまだ少ない。そんな状況下において、先端をいく企業のひとつといえるのがマツモトキヨシホールディングス(HD)だ。同社のPB「matsukiyo」は独自のカラーを備え、確かな「ブランド」として立っている。追従する企業も数あるなか、マツモトキヨシHDは今度どう活動し、新たな商品を展開していくのか。(月刊マーチャンダイジング2019年11月号より転載)

「matsukiyo」への転換完了
ニーズへの対応をさらに強化

PBの開発・発展の流れは、おおむね以下のようになっていることが多い。まずはナショナルブランド(NB)の模倣をする期間があり、その後独自の付加価値を追求する時期があり、やがてPBをひとつの「ブランド」として立たせる時期がくる。この流れに沿い、近年ブランディングについて深く考える時期まで到達したのがマツモトキヨシHDのPB「matsukiyo」である。

マツモトキヨシHDには、「MKカスタマー」というPBが存在しており、そのブラッシュアップを昨年完了。現在は「matsukiyo」ブランドとして新たに展開している。つまりこれは、ある意味同社PBが生まれ変わり、今年から再スタートを切ったことを意味しているといえるだろう。

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▲開発したPBを売場でもしっかり訴求。
フェースを取って固まりで見せるほか、突き出しPOPを付けることで、どこにPBがあるのか一目でわかるようにしている

「matsukiyo」が特徴的なのは、NBなどマスブランドでは取り逃がしがちになるニッチなニーズに対応する、小回りの利く商品を展開、ヒットを生み出しているところだ。往々にして、PBはNBよりもリーズナブルであることが差別化のポイントになっているが、マツモトキヨシではNBなどが手をつけていないベネフィットを手掛けることを狙っている。

「現時点で、自社PBのブランディングはある程度完了したといえるでしょう。そのうえで、今度は顧客のニーズをどうかなえていくか、それを考えるのが次のステップ。ブランディング+データの活用を実現させたPB開発を現実化させていくのが、いま私たちが向き合うべきフェーズと考えています」(執行役員 営業企画部長 松田崇氏)

開発担当者が購買データ分析
客層の傾向からトレンド予測

「顧客のニーズ」というと、店頭で得られるお客の声を中心に読み取っていくものと考えられがちだ。しかしマツモトキヨシHDでは、そのほかにもECを含め、個人に紐付いた購買データを収集・分析して意見や傾向を読み、今後のトレンド予測を行っている。その中で、とくに状況を読み解きやすいのは、PBリニューアルに際して生まれたビフォー・アフターのある商品だという。これらはリニューアルのプロセス中に目にしたデータから、新規開発のヒントを多数発見できるからだ。

「かといって、社内にデータ分析専門の部署があるわけではありません。その代わりPB開発担当者がそれらデータを読み込み、次の予測を立てるのが業務の一環となっています」(松田氏)

加えて開発担当者はリリースを発行し、社内メディアを活用したPRも行い、プロモーション担当者と連携しながらプロモーション計画を立て、実践する。そして最終的な店頭での販売というプロセスまで、一気通貫でプロデュースを行うのだ。

「昨今の市場は、いい商品をつくれば売れる、という単純なものではありません。そのよさを顧客に、あるいは各店舗従業員にも理解してもらい、売上につなげていかなければならない。つまり、すべては『掛け算』で進行しているといえるでしょう」( 松田氏)

そしてその際留意されるのは、新たな商品が「matsukiyo」らしさを備えているか、そのベースにデータの裏付けがあるかどうかだ。この2つがセットになったとき、はじめてヒット商品が生まれるといえる。

では「『matsukiyo』らしさ」とは一体何か?

これは「革新的」という一言で表現することができるだろう。その好例が「EXSTRONGエナジードリンク」。

パッケージと中身のドリンクの極端な色の違い、味わい、含有成分量の多さなど、複数の「驚き」を持ったこの商品は大きなヒットを飛ばし、現在エナジードリンク類の中でトップの売上を誇っている。

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▲Twitterで火が付き、大ヒットしたエナジードリンク。
今秋は、昨年好評だった期間限定のドリンクのほか、カフェイン量が同量のタブレットを発売。自社がつくり出した資産を有効活用している

「顧客にどれだけの驚きが与えられるか、それはマーケティング上も必要なことです。それが『買いたくなる衝動』となって顧客に響く。商品自体に自信があっても、それだけでは足りない。驚き、革新性を持たせるというマーケティングを実践しなければ、これだけの結果にはつながらなかったかもしれません」( 松田氏)

カテゴリーにとらわれず
テーマを掲げて開発を進める

「EXSTRONGエナジードリンク」の例を見てもわかるように、マツモトキヨシHDはあえてレッドオーシャンに乗り込むこともいとわない。むしろ、KBF(重要購買決定要因)を正確に把握し、それを商品に盛り込むことができるか否かに注力している。同時に、これまで考えられてきたようなカテゴリー単位での商品強化からも一歩引いている。その代わりに重視しているのが、先にも述べたデータから読み取るニーズやトレンドの傾向だ。

たとえば「美」というテーマで考えていくと、従来であれば化粧品類のカテゴリーを充実させるというのが王道であろう。しかしマツモトキヨシHDでは、あえてカテゴリーにこだわることなく多角的に「美」を追求。その結果、近年では女性向けのプロテインがヒットした。

「プロテインは健康食品の位置付けになりますが、多くの女性はこれを飲むことで筋肉をつけ、理想とする美しいボディを手に入れたいと望む。つまり、利用目的としてはビューティになる。こういったヒット商品の生まれ方は、比較的最近の傾向ではないかと考えています」(松田氏)

正統派の化粧品であれば、コストパフォーマンスの高いオーガニック製品など、NBがあまり手掛けない領域で商品を展開、そこにDgSとしてのマツモトキヨシらしさを見せている。

また最近では、10月11日に日用雑貨カテゴリーでもはじめてのPB商品「レプリカノーツ」を発表。その第一弾として、ファブリックミストと柔軟剤を発売した。これもカテゴリーとしては日用雑貨であるが、テーマになっているのは香りという「美」。ファッションや香水を楽しむように、日常において洗練された香りを楽しみたい客層がターゲットとなる。ここからも、「美=化粧品」にとらわれない、マツモトキヨシHDの姿勢が見て取れる。

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▲「matsukiyo」とは別ラインで、10月から発売される新PB「レプリカノー
ツ(Replica Notes)」。ファッションと同じ感覚で“洗練された香り”を楽しむアイテムを展開。

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▲第一弾は、ファブリックソフナー(柔軟剤)税抜き665円(600mℓ)、ファブリックリフレッシャー(ミスト)税抜き480円(300mℓ)(600mℓ)、ファブリックリフレッシャー(ミスト)税抜き480(300mℓ)

そんな同社のPB比率は、2019年6月末時点で10.4%ほど。HD小売売上の14%がNBを好むインバウンドが占めていることを考えると、数字以上の割合であるといえるだろう。この数値はいまも伸長傾向にあり、今後さらに高めていきたいとの意向である。

「開発チームも中長期戦略を練って業務に取り組んでいます。現時点で、自社PBのアイテム数は約1,500点。これだけのSKUを持っているメーカーは少ないでしょうし、そこからさらに新しい商品を生み出しつつ、的確なリニューアルを実践していくのは大変な作業です。それでも、私たちは年ごとに売上を伸ばし、ヒット商品を生み、そしてなにより商品として進化していくPBをつくり続けていく。それが今後のマツモトキヨシHDのPB展開の方向性だといえます」(松田氏)

<取材協力>

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執行役員
営業統括本部 営業企画部長
松田 崇氏