[レポート] 第10回ハピコム接客コミュニケーションコンテスト最終審査会:アレルギー、既往歴など、基本事項確認の技術が向上

2025年9月13日、ハピコムグループの有資格者を対象にヘルスケアの接客技術を競う「ハピコム接客コミュニケーションコンテスト」の最終審査が行われた。審査結果や接客ロールプレーイングの傾向を紹介する。
(月刊MD編集主幹 野間口 司郎)

対象は薬剤師・登録販売者合わせ約6万人

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▲表情豊かに接客する神名心氏(大賞受賞)。手に持つのは基本項目確認用のカード

ハピコムグループはイオン、ウエルシアホールディングス(HD)、ツルハHD、クスリのアオキHDなどが参加する日本最大のドラッグストア(DgS)グループ。グループ内のヘルスケアに関するカウンセリング向上のために開始された「ハピコム接客コミュニケーションコンテスト」は2015年に開始、コロナ禍で最終審査が行われず2次審査まで行われた年を入れ今年で10回目。歴史ある大会になりつつある。

対象となるのは、ハピコム約7,400店舗に勤務する薬剤師約1万5,000人、登録販売者約4万5,000人、合計6万人。

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▲[図表2]審査委員

審査方法は1次審査として、グループ内22社が候補者を推薦。その結果選出された53名を対象に2次審査では1人のミステリーショッパーが全ての1次審査通過者を実際の接客を体験して審査。2次審査で絞られた13名の候補者が最終審査へと進む(図表4)。

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▲[図表4]審査の流れ

最終審査ではお客に扮した2名の俳優と2つのテーマでロールプレーイング(演技)。今回の第1テーマ(シーン1)は「咳」、第2テーマ(シーン2)は「睡眠」だった。

第1テーマは事前に告知され、参加者は準備できるが、毎回、第2テーマは事前告知がなくロールプレーイングが始まるまで分からない。即応力、普段の経験や積み重ねた知識が問われることになる。模擬の棚には、それぞれの症状に合った医薬品、健康食品があらかじめ用意されている。複数商品を自分で持ち込むことが許されている。

演技時間はシーン1が4分、シーン2は6分、合計10分となっている。時間の半分が経過するとベルが1回、終了1分前に2回、終了時間になると3回鳴らされ、それでも終わらない場合は進行役が演技終了を告げ強制終了となる。

店舗でもお客の都合に合わせ短時間で接客することはあるだろうが、舞台上でベルを聞きながら、限られた時間内で行う接客にはプレッシャーがかかる。目の前には審査員、客席からは各企業の応援団が熱い視線を送る。出場者は企業を代表し緊張の中、持てる知識と経験をフル活用し、懸命に普段の接客を再現する。

なお、演技順番は最終審査会場で抽選により決定し、出場者は自分の順番が来るまで控え室で待機し他の参加者の演技を見ることはできない。

カードを使って基本項目を確認 カウンセリングを効率化

13名の参加者はすべて登録販売者、うち1名が管理栄養士資格も保有。調剤事業の強化が業績を左右し新卒薬剤師の獲得に各社がしのぎを削るという現状を考えると、物販スペースでのヘルスケアに関する相談販売の主役は登録販売者となる。ここ数年この傾向は続いている。

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▲[図表1]審査項目

審査項目は図表1の通り。この中で「7薬販売の基本6項目の確認」がある。これは、購入する医薬品を使用するのは来店者本人であるか、既往歴、アレルギーの有無などの確認となっている。効果的で適切な商品を選ぶための入口で、地味な作業だが重要性は高い。今回目立ったのは、この基本項目をチェックリストにしたカードを用いて確認する方法だ。出場者13名中複数企業に渡り7名がポケットサイズのカードを使用、1名がバインダーを使用して確認していた。

DXの進展により今後、登録販売者も顧客台帳や商品情報をクラウド上に収容したタブレットを用いて医薬品の相談・販売を行う企業は増えると思われ、デジタルツールではこうした確認事項も基本搭載している。そのつなぎとしてもこうしたツールは有効に使いたい。

また、若年世代の薬物依存が社会問題化したことを受け、厚労省は薬機法を改正。今後、エフェドリンやコデインといった成分を含む「濫用等の恐れのある医薬品」の販売にあたっては、20歳未満には大容量、複数を販売しない、他の薬局で購入していないかなどを確認し、必要があれば氏名、年齢、使用目的などを確認することが義務づけられる見通しだ。

今後「確認」作業の重要度は増し、これを仕組み化することで、本題である健康相談、医薬品の紹介へとスムーズに入ることができる。その意味で、基本確認作業をツール化することには意義がある。

今年も食事、栄養面でカウンセリングした参加者が受賞

昨年の大会は食、栄養の見地から商品紹介やアドバイスする出場者が多く見られ、大賞を受賞した、くすりの福太郎の参加者は管理栄養士だった。今回は前回ほどではなかったが、食事と健康管理を結びつけたカウンセリングは複数見られた。

レシピを常時用意して接客することを社内で仕組み化しているイオンリテールからの参加者、イオンスタイル戸塚の大木美紀氏は接客の最後に、レンコンスープが咳を鎮めると説明して、そのレシピをお客に渡した。

出場者中唯一管理栄養士資格を持つツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本(TGN)、ツルハドラッグ小倉熊谷店の土路生有衣(とろぶ ゆい)氏も食事・栄養のアドバイスをし、接客の最後に「私は管理栄養士なので健康、栄養に関する相談なら、いつでも声を掛けてほしい」と伝えていた。大木氏、土路生氏、いずれも準大賞に選ばれている。

医食同源、食から健康を見直す、食事で体調を整えるという専門性の高いアプローチは、一般食品、健康食品を多数扱うDgSならではのカウンセリングとも言えるので、各企業、業界には深耕してほしい。

それぞれが専門性と個性を生かしてカウンセリング

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▲参加者一覧
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▲[図表3]第10回ハピコム接客コミュニケーションコンテスト 最終審査結果

受賞者のカウンセリングを簡単に振り返ってみよう。

大賞受賞のウエルシア薬局、神名心氏は、清潔な身だしなみ、爽やかな笑顔、相手の発言に表情豊かに共感する接客態度が印象的だった。基本項目の確認は、ポケットから取り出したカードを使い効率よく行っていた。

咳の症状はどれくらい続くのか、他に症状はないかなどを聞き、商品としてメジコンを紹介。メジコンは医療用医薬品からのスイッチOTCで医療用と同成分が同量配合され効き目は確か。今回メジコンを推奨した出場者は多かった。眠気を催す成分が含まれているため、車の運転などの確認も必要。神名氏は基本項目の確認でこの質問をしている。

カウンセリングの最後に、肘を曲げ内側のシワから指2本分程内側にあるという、咳に効くツボを紹介。医薬品にプラスして養生のアドバイスがあった。

睡眠に関しても、いつ頃からか、日中にボーッとすることはないか、夕方以降にコーヒーを飲むことはないかなど、細かくやりとりをしたあと、最初、ギャバやテアニンなどのサプリを紹介して、最終的には小林製薬の機能性表示食品(サプリメント)ナイトミンを推奨。

こちらの接客でも、最後に肩甲骨を回すことは、リラックスして質のよい眠りにもつながると、ストレッチ、運動方法をアドバイスしていた。

落ち着いて相手に寄り添うような接客、柔らかいが歯切れの良い口調など全体の接客が好印象で大賞につながった。

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▲ポリシーのある接客が印象的だった谷氏(準大賞受賞)

準大賞を演技順に振り返ると、レデイ薬局の谷和紀氏は、資格、氏名の自己紹介、基本事項の確認をスムーズに終え、症状を聞き商品を紹介。シーン1の咳では、メジコンと漢方薬の麦門冬湯(ばくもんどうとう)の2種を推奨。個人的には効き目の穏やかな麦門冬湯をすすめたい、直接的に治す力はないが、喉を潤わせ咳にも効くと説明。合わせて「体力をつけ自分が本来持つ免疫力を高め、自分自身で治すために」という理由で、栄養ドリンクを推奨した。自然治癒力を重視した、いわば「ポリシーのある接客」だ。

睡眠でも自然治癒力重視のポリシーは生かされ、「眠り改善のファーストチョイスでできれば睡眠改善薬を選んでほしくない、飲むとどうしても翌日だるさが出る」と副作用を懸念してサプリを推奨した。もちろんお客自身の希望を聞くことは重要だが、こうした筋の通ったカウンセリングも信頼を得るためには重要だ。

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▲自然な会話で症状を確認し、ニーズを引き出していた髙橋氏(準大賞受賞)

くすりの福太郎の髙橋由紀子氏は、終始落ち着きと親しみのある接客で安定感があった。咳では谷氏と同様に麦門冬湯を推奨、乾燥すると咳が出やすくなるので、のど飴を併用するとよいなどプラスアルファのアドバイスもあった。

睡眠のテーマでも相手の発言に共感を示し漢方薬を推奨した。咳、睡眠両方の接客で、しばらく服用して効果が見られない場合は医療機関に相談してほしいという受診勧奨があった。

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▲健康をテーマとした料理レシピを手渡した大木氏(準大賞受賞)

イオンリテール大木美紀氏は、落ち着いた声と接客態度には信頼感が持てた。咳では錠剤は飲めるかという細かい確認の後メジコンを推奨。昔から咳によいと言われる美味しいレンコンスープのレシピを手渡した。睡眠ではクロセチンを機能性関与成分とするナイトミンを推奨。こちらの接客でも最後にレシピを手渡した。

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▲管理栄養士の立場から健康アドバイスを行った土路生氏(準大賞受賞)

TGNの土路生有衣氏は、カウンセリングの冒頭で、自分が登録販売者で管理栄養士であることを説明。TGNでは、管理栄養士が自らの資格を名乗って、健康相談に加えて栄養相談や食事相談まで応需する接客を「名乗り接客」と称している。同社は管理栄養士が在籍して、専門性を生かした接客をすることを来店目的にしようと様々な取組を行っている(月刊MD2024年11月号参照)。

土路生氏も「咳は1回で2kcalを消費して、咳が続くと体力を奪うので、栄養補給も重要」と管理栄養士目線のアドバイスをした。麦門冬湯を推奨し、最後にニンジン、カボチャなどはビタミンAが取れ風邪の症状も改善すると説明し、これらの素材を使ったスープのレシピを手渡していた。

睡眠のテーマでは、肝臓を元気にすることで、栄養を全身に回し眠りの質改善に役立つとして、ヘパリーゼを推奨。こちらも栄養視線のアドバイスで管理栄養士の専門性を出していた。

《ハピコムグループ事業会社審査委員》

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▲八幡 政浩氏 (審査委員長)
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▲東山 和人氏
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▲飯嶋 仁氏
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▲工藤 真紀氏

ドラッグストア向け「SMストアコンパリゾン」の教科書

ドラッグストアが食品を伸ばすうえで、最大の競争相手となるのがスーパーマーケットである。店舗数・販売額ともに圧倒的規模を誇るSMは、売場づくりや導線設計など、学ぶべき点が多い一方で、コスト構造や人員負担など“反面教師”とすべき課題も抱える。本稿では、SMの優れた売場技術と陥りがちな弱点を整理し、DgSが食品強化で参考にすべき視点を解説する。

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食の最大フォーマットの“真似るべき点”“反面教師にすべき点”

本連載のテーマであるドラッグストア(DgS)が取り込もうとする食品市場の、最大の競争相手は食品を主力とするスーパーマーケット(SM)である。

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▲[図表1]スーパーの店舗・市場規模

SMの業界団体である全国スーパーマーケット協会の『2025年版スーパーマーケット白書』によれば総合スーパー、SM、小型スーパーなど“スーパー”と呼ばれる業態類型の店舗数は計23,039店舗で、総販売額は25.4兆円、企業数で856社を数える存在である(図表1)。

非食品売上高は5%程度なので食品は24兆円を超える占拠状況である。DgSの2024年の総商品販売額9.0兆円、食品販売額3.0兆円、店舗数19,994店と比べればその食品販売の規模の大きさが分かるだろう(DgSの数値は経済産業省『商業動態統計』より)。

もちろん出店のスピードや収益性などの面ではDgSが優位性を発揮する分野は多いが、いずれにしても食品マーケットにおいて最優先にベンチマーク(=優れた企業や事例を調べて、自社の改善に活かす手法)すべきはSMで、とくに優秀な店舗を見続けることは自社の改善にも、競争店対策にも必須のテーマである。

小売業の大切な経営技術のひとつに“ストアコンパリゾン=店舗視察”がある。小売業の特色は、売場や従業員が“常に衆目にオープンにされていること”であり、ルールやマナーを守れば、いつでも競争相手の店舗を自由に視察することができる点にある。事務中心のオフィスや、製造業の工場・生産設備では“自由にいつでも視察”は無理である(必ず許可が必要だし、それが競争相手ではかなり難しい)。

ストアコンパリゾンの基本は“良い点は真似る”ことである。自店の近隣にある競争店で、顧客が喜んで買っている商品があればその商品を真似れば“売れる可能性”は高いし、同じ店で楽しそうに商品を選ぶ品揃えがあれば同じ棚割りを真似れば“お客を喜ばせる品揃え”に近づくことができる。そういった意味でストアコンパリゾンの基本は“真似られるものはないか”を考えることである。

一方で、SMはコロナ後のインフレーション、原価高の進展で“衰退産業”になりつつある。店舗数は減少傾向であるし投資のコスト高の状況は変わっていない。客数はDgSに比べて多いがそれがゆえに従業員やレジ台数の多さも負担になっている。

賃金が上昇し物価も上昇する時期だからこそ、DgSとして“真似をすべき点”と“真似てはいけない反面教師にすべき点”を峻別することは必須で、その辺りを整理していこう。

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必需品の買物の必須課題 ショートタイムショッピング

食品の買物は“義務的”と言われ、生命維持のためには必ず行わなくてはいけない家庭の作業である。したがって多くの買物客はなるべく短時間で必要なものを購入し、自宅に戻りたいというニーズを持っている。

そのために店の側で課題となるのが“ショートタイムショッピング”である。日本語では“短時間快適購買”などと称する。

ショートタイムショッピングのためには、良いSMの店舗は“4つの磁石売場”を意識して売場づくりを行う。磁石売場とはあたかも“磁石”のようにお客の目を引き付け、自然に店を回ってしまうような売場配置の技術を言い、これが強ければ短時間に快適な買物が可能になる。

“第1磁石”とは主通路壁面の生鮮、日配、惣菜など購買頻度の高い商品群、“第2磁石”はその中でも特に差別化できる主通路突き当りの売場、“第3磁石”はエンドキャップの季節商品や特売商品、“第4磁石”は通路内のスポッターのついた売場や大量陳列を言う。第1磁石の強化のために、SMでは生鮮、日配、惣菜で最も幅広い主通路両側の“コの字”を埋め尽くすようにレイアウトを行う(図表2)。

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本記事をご購読いただけますと、ストアコンパリゾンを行う際に必須である各磁石の役割、SMのアソートメントの特徴、商品構成グラフの読み解き方などについて理解できます!

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執行役員 H&BC本部本部長 工藤真紀氏インタビュー「イオンリテールの化粧品戦略:PB・EBとSNSマーケを連動させ若年層獲得!」

イオンリテール(本社千葉市美浜区 代表古澤康之)では8月15日、ベースメイクシリーズのエクスクルーシブブランド(EB/自社専売商品)を発売。プライベートブランド(PB)ではこれまでスキンケアなど3ブランドを発売しており、メイク専門はこれが初となる。スキンケア、メイクの双方で専売品体制を整えたこのタイミングで、イオンリテールのH&BC(ヘルス&ビューティケア)本部本部長工藤真紀氏に同社の化粧品戦略を聞いた。(聞き手/月刊MD編集主幹 野間口 司郎)

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PB・EB商品戦略:スキンケアに加え、メイクの分野でも専売品発売

イオンリテールでは化粧品PBとして、2014年にGLAMATICAL(グラマティカル)を立ち上げ、2022年にはCOPERNICA(コペルニカ)、2024年にはSokko-beauty(ソッコービューティ)を発売している。この3ブランドはいずれもスキンケアを中心とした商品。

2025年8月には初めてのメイク専門商品MAKE ANSWER(メイクアンサー)を発売した。こちらは伊勢半グループのエリザベスとの協働開発で、イオンリテールではEBという位置づけになる。この手法を選んだ理由を工藤氏は以下のように語る。

「SNSなどを使って自社でも積極的にマーケティングしていますが、当社だけでは取り切れない領域はエリザベス様にご協力頂いて幅広い層にリーチしていきます」

後述するが、イオンリテールではSNS、動画を利用したマーケティングを積極的に行っており、MAKE ANSWERの販売では、エリザベスのマーケティング活動も加えて、業績拡大を狙う。こうした活動もあり初動は好調、計画値を上回る販売実績を挙げている。

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▲メイクアンサー スキンスムース各商品

 

また、工藤氏によれば、MAKE ANSWERはある制度品メーカーの販売終了したブランドの受け皿になることも想定しているとのこと。

ベースメイクシリーズのコンセプトは「NO!乾燥崩れ。極薄フィルターで毛穴レス!(※3)」。この言葉の通り、乾燥崩れ対策と毛穴カバーを特長とする商品で、ベースメイクには共通でナイアシンアミド、レチノール誘導体、ビタミンC誘導体(※4)からなる「うるおい美容液成分」を配合している。5アイテム11品目を揃えている。

「出だしの販売は好調で、フェイスパウダーが最も売れており、続いてポイントベース、Tゾーンのテカリを抑えるのには優れた商品です」(工藤氏)

工藤氏によれば、男性もテカリや毛穴を気にする層はいて、MAKE ANSWERのターゲットはユニセックスとのことである。

※3 メイクアップ効果
※4 テトラヘキシルデカン酸アスコルビル

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肌悩みの深い40代後半がコアブランド。原液シリーズが好調

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▲[図表1]イオンリテールのPB・EB商品一覧 

図表1はイオンリテールの化粧品PB・EBの一覧である。各ブランドの特徴を見てみよう。グラマティカルの中心ターゲットは40代後半。肌悩みが多く、効果が出なければ続けられない年代である。人気の原液シリーズはこだわりを持って選び抜いた原料を使用している。

「ヒト幹細胞培養エキス(※5)原液)(※6)」は本格的なエイジングケアを始めたい人にフォーカスした商品で、ブランドの中でも最大ヒット商品となっている。その他原液シリーズの商品には「ヒアルロン酸)(※7)」(うるおい訴求)、「保湿型ビタミンC(※8)(毛穴訴求)、「プラセンタエキス(※9)」(乾燥小じわ訴求)などがある。

9月9日には新たに原液シリーズから有効成分「トラネキサム酸」配合の新商品(医薬部外品)を発売、同時に「ヒト幹細胞培養エキス※5」を配合したクリーム、アイクリーム合計3品を新発売した。

近年、配合されている成分で化粧品を選ぶ「成分美容」がユーザーに浸透しており、グラマティカルはこの分野で直接的な訴求で、分かりやすく商品を広げ成果を出している。

※5 ヒトサイタイ血幹細胞順化培養液(整肌成分)
※6 化粧品原料はそのまま
※7 ヒアルロン酸Na(保湿成分)
※8 ビスグリセリルアスコルビン酸(保湿成分)
※9 保湿成分

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Z世代が対象、自社従業員がアンバサダーとして活躍

2022年3月発売のコペルニカはZ世代が中心ターゲット。ブランドの特徴を工藤氏は次のように語る。

「グラマティカルが有効成分を明確にして、効果を追求する40代以上をコアターゲットにしたのに対して、コペルニカはそこで取り切れないZ世代(編集部注:1990年代後半から2010年代前半生まれ世代)をターゲットにしました。男女どちらでも使えるユニセックスとして設計しています。肌悩みがそれほど深くない世代を中心ターゲットにしているので、『必要なもの』だけを『十分な量』で届けることにこだわり、いわばそぎ落とした処方が特徴です。容器のデザインはシンプル、素材には環境に優しい素材を使っています」

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▲[写真6]コペルニカ 角層チューニングスポット モイスト50枚入り 1,100円(税込)
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[写真7]シートマスクを切ったり、折ったりすることで、頬、目の下にスッキリはまるつくりになっている 

コペルニカは2024年にリブランディングしてアイテムの改廃が進行中。現在小さなハート型でミシン目から切り取ることで、目の下や頬などに部分的に使える「角層チューニングスポット」が人気上昇中、好調な業績を挙げている(写真6、7)。

男女の自社従業員自らが、アンバサダーになり動画サイトやSNSに出演し情報発信する、新たなマーケティングを積極展開している。

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コスパに優れた人気ブランド フェイスマスクは絶好調

Sokko-beautyは2024年4月の発売。

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[写真8]Sokko-beauty CICA エッセンシャル フェイスマスクBOX 30枚入り 1,100円(税込) 

「Sokko-beautyはイオンリテールのPB商品の中では最も中心ターゲットの年代が若く、10代、20代が対象です。圧倒的にコスパのいい商品設計にしており、実際は設定したターゲットより、かなり幅広い年代の方にご利用頂いています。一番売れているのがフェイスマスクの30枚入りボックス(写真8)、税込み1,100円から。フェイスマスク自体が非常に伸びているカテゴリーですが、Sokkobeautyはその中でも特に伸びているブランドです。強い他社ブランドのある状況で販売数量ではトップ3に入る程の好調さを見せています」(工藤氏)

Sokko-beautyはブランド名にある通り、仕事や学校で忙しい世代にSokko(=速攻)で使えることをうたった、タイパ、コスパ重視のブランド。

アイライナー、アイシャドウ、洗顔剤、化粧水、フェイスマスクなどに加え、付けまつげやメイクアップブラシなどの化粧小物もある。価格帯は300円台から1,000円台と買いやすい。

9月9日にはクレンジングバーム(1,320円/税込み)を発売するなど、好調な業績を背景にアイテム数を増やしている。

圧倒的なコスパ、納得の使用感、明るい色使いのパッケージ、おしゃれなデザインなど、人気の出る要素が揃っており、更なる成長が期待できるブランドだ。

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これまでの資産、中高年客に加え若年層獲得に注力

最初に発売したグラマティカルは、年代、価格帯ともに最も高い。スキンケアブランドでは、発売が新しくなるにつれ対象の年代、価格帯が下がっている。メイクブランドのMAKE ANSWERも20代から30代前半が対象で中価格帯の商品。

イオンリテールではこれまで培ってきた資産とも言える、40代、50代以上の顧客に加え、今後の消費の主体となる若年層の獲得に注力しており、PB・EB開発もその一環である。

こうした商品戦略を補強、展開するために次に紹介するEC、オムニチャネル戦略も若年層向けの施策が充実している。

また、一般的にGMSは百貨店ブランドやバラエティストアブランド(バラエティブランド)など幅広く扱うが、イオンリテールのPB・EBに関しては対象年齢や価格帯などバラエティブランドに近い。業態と扱うブランドに関して工藤氏は次のように語る。

「メーカー様は依然販売チャネルによって取り扱いブランドを分ける商習慣があります。イオンでは敢えてバラエティ型のブランドを多く扱って、DgSとの差別化を図っています。流行に敏感で美容感度の高い人が愛好するブランドを積極的に扱うことに注力しており、PB・EB商品の開発もその一環です」

こうしたバラエティブランド強化の一方で、高価格帯の領域では、制度品メーカーとの間で専売品の開発も強化。これまで、資生堂のリバイタルでイオン専売商品を販売していたが、2025年8月には花王ソフィーナのアルブラン、10月にはコーセーのインフィニティで専売品をそれぞれ発売。8月発売のアルブランの専売品は順調な業績を挙げている。

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EC オムニチャネル戦略

2つのECサイトと連携 iAEONと会員ID統合

イオンリテールのECサイトはイオンスタイルオンラインとネットスーパーがある。

「ネットスーパーは店舗出荷で即日配達、イオンスタイルオンラインは到着までリードタイムがあり、ロングテール商品が中心です。ただ品揃えは幅広いところに強みがあります。化粧品では急いで買う必要のない高価格帯のブランドがよく売れています。イオンリテールの売上構成比は食品が高く、価格帯の低い化粧品は圧倒的にネットスーパーで買われることが多いです」(工藤氏)。

イオンネクスト(株)が大都市圏を中心に運営するセンター出荷型のネットスーパー「グリーンビーンズ」との協働に関する工藤氏の考えは以下の通りである。

「商圏が異なること、グリーンビーンズは独自の専売品を展開していることなどの違いはありますが、将来的にグリーンビーンズの商圏が私たちの商圏と重なってくるようになれば協業する可能性はあるでしょう」

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▲[写真9]iAEON(アイイオン)アプリ画面。アイイオンはお気に入り店舗を登録すると店舗発の情報やクーポンが送信されてくる。イオングループ内の店舗をつなぎイオン経済圏をつくる有力アプリ 

また、ポイント管理、決済、クーポン利用などの機能を統合したイオンの会員アプリ「iAEON(アイイオン)」(写真9)がイオンリテールの会員アプリ「イオンお買物アプリ」と統合されたことにより、より幅広く情報発信、送客できるようになった。

工藤氏は、リーチできる会員が増えたことで今後はシナジー効果が期待できるとしている。

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▲[写真10]イオンスタイルオンライン、グラマティカルの商品画面で動画のバナーを貼付。バナーをクリックすると動画情報が見られる

イオンスタイルオンラインの一部コンテンツでは、商品紹介の横に動画のバナーがあり、ここをクリックすると動画が流れ、より深い情報が得られる。より購買意欲を高めるようなUI(ユーザーインターフェース/画面デザイン)設計となっている(写真10赤枠部分)。

GMSは大商圏型のビジネスモデルで客数は多いが、来店頻度は小商圏型モデルと比較すると低い。来店しなくてもECサイトで多彩な情報や動画を使った疑似体験を提供することで楽しい買物ができるよう、同社ではサイトづくりの精度を向上させECによる商圏づくりに注力している。

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Glam BeautiqueのアカウントでSNSを使って積極的に情報発信

イオンリテールは、ヘルス&ビューティ売場の名称であるGlam Beautique(グラムビューティーク)のアカウント名でインスタグラム、YouTube、TikTokにチャンネルを開設。この中でも、インスタグラムでは13.5万人(9月末時点)のフォロワーがおり、大きな外部接点となっている。

noteでは、イオンリテールのビューティーのマーケティング戦略、売場作り戦略、美容部員の自社育成についてなど、網羅して解説しています。

\続きは 月刊MD note版で!!/

 

 

[特集]登録販売者大活躍時代:変化するドラッグストアの現場と人材価値の再定義とは

ドラッグストア(DgS)業界で、登録販売者の存在感が一段と高まっている。セルフメディケーションの定着、スイッチOTCの拡大、医療費抑制といった政策的背景に加え、「健康と生活を支える身近な拠点」としてのDgSの役割が広がるなかで、登録販売者は単なる販売資格者から、顧客との関係構築と信頼形成を担う専門職へと進化している。月刊MD note版では、特集「登録販売者大活躍時代」と題し、3つの事例から業界の最前線を取材した。

ツルハHD──「売らない勇気」で築く信頼とブランド価値

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業界最大手のツルハホールディングスは、登録販売者を「販売担当者」ではなく「地域の健康支援者」と位置づけ、体系的な教育・研修制度を整備。

新人教育から法定研修、スキルアップ研修までを一貫して行い、知識と実務を連動させた「継続的学習」を促進している。

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現場では、JACDSガイドラインを組み込んだアプリ「健康ナビゲーション」を活用し、受診勧奨を含めた正確な判断を支援。一方で、濫用防止や過剰販売に対しては「売らない判断」を尊重する。

短期的な販売よりも顧客の信頼を優先する姿勢が、ツルハの「選ばれる店」づくりを支えている。

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富士薬品──「Google以上、ドクター未満」を掲げる専門家制度

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全国1,300店舗のドラッグセイムスを展開する富士薬品は、登録販売者資格を基盤にした「専門家制度(HCC・BCC・NCC)」を構築。電子顧客台帳システムと連動したカウンセリング体制を整え、専門家配置店では年間720万円の粗利増を実現している。

厳格な等級制度と教育体制(Off-JT×OJT)によって「質」を担保し、
スペシャリストとして接客に専念できる働き方を制度化。「AI以上、ドクター未満」という理念のもと、人材育成を企業戦略の中心に据えている。

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JACDS──塚本会長が語る「登録販売者の社会的使命」

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日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の塚本厚志会長(マツキヨココカラ&カンパニー副社長)は、
登録販売者を「地域の孤独・孤立をなくす存在」と位置づける。

業界団体として、スイッチOTCやOTC類似薬の制度設計に取り組む一方、
資格者の継続的配置と資質向上を重視。
検査薬のOTC化など、生活者のセルフケアを支える仕組みづくりを進めている。

登録販売者を、薬の販売だけでなく地域コミュニティの接点として育てる――。
その方針は、業界全体の方向性を象徴している。

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登録販売者の「再定義」が始まった

3社の事例に共通するのは、登録販売者を「制度上の資格」から「顧客接点を生み出す専門職」へ再定義する動きだ。人を育て、仕組みで支え、地域に根差す。

ドラッグストア各社がこの数年で進めてきた変化は、単なる業務改革ではなく、人材戦略の進化そのものといえる。

今後、登録販売者の力量がチェーンの競争力を左右する時代が訪れる。
その現場で何が起きているのか。詳細は「月刊MD note版」で!


 

【速報】ドラッグストアの「生き残り戦略」最前線!マツココ、スギHD、新生堂薬局のトップが語る“変革”の真実

「変わらなければ生き残れない」――。社会保障費の抑制と健康寿命の延伸という国家的な課題に直面し、日本のドラッグストア業界は今、かつてない変革期を迎えています。単なる「モノ売り」から脱却し、地域社会の「ヘルスケアインフラ」へと進化を遂げようとする、3社のトップ戦略を紹介します。

月刊MD note版では、マツキヨココカラ&カンパニー、スギホールディングス、新生堂薬局のキーマンたちが語った、ニューフォーマット戦略とデジタル活用の全貌を公開します。

デジタルと新業態が牽引する「店頭起点のマーケティング」革命

👉【変わらなければ生き残れない】ニューフォーマット開発、プラットフォーム構築で店頭起点のマーケティングを進化させる:マツキヨココカラ&カンパニー 取締役 松田崇氏

マツキヨココカラ&カンパニーの戦略は、業界平均を大きく上回る化粧品と医薬品の構成比72%という、高付加価値型のビジネスモデルを基盤としています 。彼らは、「ユーザー数×LTV」を最重要指標と捉え、LTVを向上させるドライバーとして「チャネルの併用」と「サービスの併用」を促進しています 。特に注目すべきは、アプリを活用したデジタルサービス(メイクシミュレーション、調剤デジタルサービス、在庫を使った宅配サービスなど)の利用が、顧客のLTVを最大3.1倍にも引き上げているという具体的な実証データです

さらに、同社はオフライン戦略として、美容感度の高いお客様が集まる都市部に「旗艦店」や化粧品特化型の「ビューティフラッグシップ店舗」といったニューフォーマットを展開しています 。しかし、この新業態開発の真の目的は、従来のマス広告に依存した手法ではなく、「店舗発・店頭起点のマーケティング」を実践し、その有効性を示すことにあります

店頭での購買をきっかけにクチコミやSNSの投稿が自然発生的に盛り上がるという、従来の購買プロセス(セールスファネル)を逆転させた成功事例(資生堂アネッサとの共同企画商品など)は、小売業界の常識を覆すほどのインパクトを持っています

👉【変わらなければ生き残れない】ニューフォーマット開発、プラットフォーム構築で店頭起点のマーケティングを進化させる:マツキヨココカラ&カンパニー 取締役 松田崇氏

リアル店舗を進化させる「ヘルスケアインフラ」への挑戦

👉【変わらなければ生き残れない】地域客の一生涯の健康を支援する「トータルヘルスケア戦略」を推進する!:スギホールディングス 副社長 杉浦伸哉氏

スギホールディングスは、地域客が生まれてから亡くなる直前まで、一生涯の健康をトータルで支援する「トータルヘルスケア戦略」を推進しています 。その根幹となるのが、DgSと調剤薬局のネットワークを基盤に、在宅医療や介護施設との連携を図り、地域社会の「ヘルスケアのインフラ」となることです

調剤の収益性が下がる中でも、地域客の来店が見込めるDgSでの調剤事業に注力し、「訪問調剤」や「訪問看護」といった地域包括ケアシステムのインフラ整備に動いています 。また、専門性を強化するため、薬剤師向けに「専門薬剤師」の育成プログラムを実施し、有資格者の質を高めている点も注目に値します

一方、福岡・熊本を中心に展開する新生堂薬局は、DgSを脱却し、「ヘルスケアステーション®」という医療機関のようなポジションを確立しようとしています 。彼らが目指すのは、「処方せんがなくても健康の悩みを何でも気軽に相談できる地域一番の薬屋」です 。この理念を実現するために、膨大な顧客データと専門家の知識を結びつけたデジタルカウンセリングツール「健康台帳®」を開発・活用しています 。このシステムは、登録販売者のカウンセリング能力を飛躍的に向上させ、顧客の購買パターンなどから病気のリスクを察知し、適切な受診勧奨を行う仕組み(特許取得済み)を組み込むことで、実際に店頭でがんなどの早期発見に貢献する実績を上げています

👉【変わらなければ生き残れない】地域客の一生涯の健康を支援する「トータルヘルスケア戦略」を推進する!:スギホールディングス 副社長 杉浦伸哉氏

「データの一元管理」が変える顧客との関係性

👉【変わらなければ生き残れない】健康寿命延伸と社会保障費抑制のためニューフォーマットを推進し「健康台帳®」を活用:新生堂薬局 代表取締役社長兼CEO水田 怜氏

この変革の根底にあるのは、顧客との接点をデジタルで統合し、データを最大限に活用するDX戦略です。スギ薬局は、すべてのアプリとデジタル台帳の顧客データを同一の「統合ID」で管理することで、スタッフが同じデータに基づいたOne to Oneの提案を可能にしています

また、マツキヨココカラ&カンパニーは、店舗、EC、調剤すべてのチャネルの売上と顧客データをDMP(データマネジメントプラットフォーム)で統合的に管理し、施策の実行から効果検証までを一気通貫で自社で行うことで、ロイヤルティの高い顧客の特定とLTV向上施策の最適化を実現しています

新生堂薬局もまた、ID-POS、カウンセリング履歴、レセプトデータ、アプリデータなどを集め、DMPで一元管理することで、「健康台帳®」の高度なカウンセリングを支えています

👉【変わらなければ生き残れない】健康寿命延伸と社会保障費抑制のためニューフォーマットを推進し「健康台帳®」を活用:新生堂薬局 代表取締役社長兼CEO水田 怜氏

各社のトップが赤裸々に語った、この「ヘルスケアインフラ」と「店頭発マーケティング」を両輪とする戦略は、あなたのビジネスモデルを根底から変える示唆に満ちています。デジタルとアナログを融合させ、「人」の専門性と「テクノロジー」の力をどのように掛け合わせるのか。そして、いかにして抽象的なスローガンではなく、計測可能な数値としてLTVを極大化するのか。

なぜ、彼らはこれほどまでにLTVにこだわるのか? DXによって、なぜLTVが劇的に向上するのか? 「健康台帳®」が店頭にもたらした具体的成果とは?

これらの疑問の答え、そして変革の詳細なデータと具体的な施策は月刊MDでしか読むことができません。

👉【変わらなければ生き残れない】地域客の一生涯の健康を支援する「トータルヘルスケア戦略」を推進する!:スギホールディングス 副社長 杉浦伸哉氏

👉【変わらなければ生き残れない】健康寿命延伸と社会保障費抑制のためニューフォーマットを推進し「健康台帳®」を活用:新生堂薬局 代表取締役社長兼CEO水田 怜氏

ドラッグストア業界、データが示す「戦略の二極化」:「高収益」と「高速回転」

日本のドラッグストア(DgS)業界は、単に「店舗数」や「売上高」を競う時代を終え、今や「収益性の質」と「財務の安全性」をめぐる高度な戦略競争に突入しています。大規模なM&Aや経営統合が進行する裏側で、各社は「高粗利・高販管費」か「低粗利・低販管費」かの「戦略の二極化」を鮮明にしています。月刊マーチャンダイジング2025年10月号は、この複雑な業界の真の姿を、財務・商品・収益性の3つの側面から徹底的に分析した『ドラッグストア白書2025 データ編』を特集します。

儲けの構造が明確に二分!「高収益」対「高速回転」の戦い

上場DgS企業を分析すると、その収益構造(売上総利益率と販管費率)が大きく2つのタイプに分類されていることが分かります 1

高粗利・高販管費型:マツキヨココカラ、スギHD

マツキヨココカラ&カンパニーは、売上総利益率で35.1%と業界トップの水準を維持しています 。これは、高付加価値の医薬品や化粧品の売上構成比を高める戦略が功を奏しているためです 。

一方で、販管費率は高くなる傾向にありますが、営業利益率7.7%と優良企業の目安を大きく上回り、業界内での強力な競争優位性を示しています 。

低粗利・低販管費型:コスモス薬品、Genky DrugStores

対照的に、コスモス薬品Genky DrugStoresは、食品の売上構成比が高いフード&ドラッグ業態です 。Genky DrugStoresはついに食品の構成比が70%を突破しました

彼らは、粗利益率は低いものの、究極のローコストオペレーションにより販管費率を業界最低水準(Genky DrugStoresは15.6%、コスモス薬品は17.1%)に抑え 、一定の営業利益率を確保する戦略を徹底しています 

この粗利益率と販管費率の差こそが、各社の経営戦略と収益性を一目で示す鍵となります。

データが語る「真の経営力」:財務の安全性とキャッシュの秘密

「儲け」の構造だけでなく、企業経営の安定性を測る財務データにも大きな変化が見られます。

在庫管理の極意と「販売キャッシュフロー」の壁

在庫の効率性は、小売業のキャッシュフローを握る生命線です。

  • コスモス薬品は、商品回転率9.0回転と圧倒的な高水準を維持し、在庫管理の効率化を極めています 
  • この徹底した在庫効率により、小売業独自の指標である「販売キャッシュフロー」がプラス(40日)になっているのは、上場12社中わずか2社(もう1社はクリエイトSD HD)です。これは、商品代金を支払う前に在庫を現金化する「回転差資金」でキャッシュを生み出していることを意味します

しかし、キャッシュレス化調剤売上の増加により、クレジットカードや調剤報酬の入金ラグ(売掛金)が増加し、業界全体の販売キャッシュフローはマイナスで推移するという困難な状況に直面しています 

M&Aの資金調達と「安全ライン」の攻防

大規模なM&Aは、企業の財務バランスに直接影響を及ぼしています。

  • スギHDは、M&Aの資金調達(短期借入金420億円)もあり、自己資本比率が低下しました
  • マツキヨココカラは自己資本比率が73.1%と、優良企業の目安である60%を大きく超え、流動比率も理想とされる200%(224.0%)を唯一達成しており、極めて高い経営安定性を示しています 
  • また、ROA(総資産経常利益率)もマツキヨココカラが12.0%とトップを走り、収益性と投資効率の高さを見せつけています

DgS業界の「儲け方」「稼ぎ方」「倒産しにくさ」の全貌

DgS業界の戦いは、表面的な売上高の競争から、商品構成、在庫効率、財務レバレッジを最適化する「経営の質」の戦いへと移行しました。

あなたの会社は、どの戦略の裏側にいるのか? 業界のどの企業が最も効率よく稼ぎ、どこが最も安全な財務基盤を持つのか?

これらの疑問に答える詳細なデータ分析と解説を、以下の4本の有料記事に集約しました。

▼ドラッグストア白書2025 データ編

  1. 【ドラッグストア白書2025】データ編① DgS・調剤上場企業の業績
    売上高、営業利益率、粗利益率、販管費率など、企業ごとの「稼ぎ方」を徹底比較 
  2. 【ドラッグストア白書2025】データ編② DgS上場企業の部門別商品販売状況
    医薬品、化粧品、食品など、部門別構成比から「集客と粗利戦略」の狙いを解析 
  3. 【ドラッグストア白書2025】データ編③ DgS上場企業の在庫効率性、財務状況、収益性、安全性
    商品回転率、自己資本比率、ROE、ROA、キャッシュフローなど、「経営の安全性と効率」を徹底評価 
  4. 【ドラッグストア白書2025】データ編④DgS上場企業の出退店状況
    新規出店率から1店舗当たり売上高、利益高まで、店舗から読み説ける情報を分析

ドラッグストア業界、歴史的激変の2025年:9兆円市場の頂点に立つ「2兆円連合」とトップ企業が明かす「次なる戦略」の全貌

国内ドラッグストア(DgS)市場が、今、歴史的な変革期を迎えています。2025年決算のデータが揃い、市場規模はついに9兆円を突破。その内実は、巨大な「再編」と「戦略転換」の渦中にあります。長らく続いた「規模の追求」時代は終わりを告げ、トップ企業は次なる生存競争、すなわち「収益性の追求」「デジタル変革」「グローバル展開」へと舵を切り始めました。月刊MD10月号は、この激動の業界を多角的に分析した『ドラッグストア白書2025』で業界の「今」と「未来」を徹底的に解き明かします。

業界勢力図を塗り替える「2兆円連合」の衝撃

2025年の最大のトピックは、ウエルシアホールディングス(HD)とツルハHDの経営統合です。

約2兆円規模のこの「メガDgS連合」の誕生は、業界のパワーバランスを一変させます。さらに、マツキヨココカラが新中計で「1兆3,000億円+α」を掲げ、コスモス薬品が4社目の1兆円企業となり、スギHDがM&Aで急浮上するなど、トップランナーたちの戦いはすでに次なるステージへ。

DgSはもはや「薬屋」ではなく、日用品や食品スーパーの需要まで取り込む「生活インフラ」へと進化。その成長の勢いは、主要14社の既存店売上が37ヵ月連続プラスという驚異的なデータに裏付けられています。

月刊MD note版の『売上高ランキングとグルーピング』記事では、最新の売上高データに基づき、この激変した業界勢力図を可視化。誰がトップに立ち、誰が急追しているのかを明らかにするとともに、DgS業界の主要な「グループ構成・勢力図」を整理しています。

トップ経営者が語る「戦略の深層」:なぜ今、投資するのか?

しかし、ランキングの順位だけでは、真の戦いの行方は見えてきません。

トップ企業の経営戦略は、驚くほど大胆に、そして急速に変化しています。

例えば、統合を控えるウエルシアHDは決算説明会で「規模から利益への転換」を宣言し、既存店の収益力強化に集中する方針を打ち出しました。一方、マツキヨココカラは「美と健康のプラットフォーマー」構想を核に、購買の全プロセスをデジタルで支配する戦略を始動させています。

さらに、クスリのアオキHDは、売上高5,000億円を達成しつつも、翌期に減益を見込むという計画を発表。これは、M&Aと新規出店に過去最高の投資を集中させるという、一時的な利益をいとわない「成長投資フェーズ」への移行を意味します。

月刊MD note版の『決算説明会レポート』記事では、ドラッグストア主要上場企業の最新の決算内容と経営者の発言を詳細に分析。

  • 「規模から利益へ」の方針転換の裏側で、各社が本当に注力しているPB強化、調剤DX、ローコストオペレーションの具体的な施策とは?
  • コスモス薬品Genky DrugStoresローコスト経営を極限まで突き詰めながら、なぜ「毎年、過去最高の出店」を目指し続けるのか?
  • クリエイトSD HDが創業以来の「自力成長」方針を転換し、M&A専門チームを発足させた真の狙いとは?

業界の「未来図」を読み解くために

2025年のDgS業界は、単なる成長市場という言葉では片付けられない、複雑な戦略と再編の時代に入っています。

この歴史的転換期において、業界の全体像(ランキング)と、各社の個別の戦略(決算レポート)の両方を把握することが、次のビジネスの成功に不可欠です。

以下の2本の有料記事で、日本のDgS業界の「未来図」を読み解いてください。

  1. 【ドラッグストア白書2025】売上高ランキングとグルーピング
    https://note.com/mdnext/n/n74ef3d4a258a
  2. 【ドラッグストア白書2025】決算説明会レポート
    https://note.com/mdnext/n/n8b343ead2c41

【特別企画】なぜ今、「敏感肌ケア」が店の売上を左右するのか? 1,000億円市場の裏側と、お客様から“選ばれる店”になるための5つの視点

読者の皆さんの化粧品コーナーを訪れるお客様の中に、「なんだか最近、肌の調子が悪い…」という漠然とした不調を抱える人が増えていませんか? 季節の変わり目のゆらぎ、原因不明のかゆみや赤み、長引くマスク生活でこじらせた肌荒れ。これらは今や、一部の特別な人の悩みではありません。実は、日本人の約7割が自らの肌を「敏感」または「やや敏感」だと感じているというデータがあります。この静かなる“肌悩み大国”で、今、小売業にとって無視できない巨大なビジネスチャンスが生まれています。それが、1,000億円を超える「敏感肌市場」なのです。

拡大する敏感肌市場を活かしきれていない店頭

この市場は、化粧品全体の売上が伸び悩む中でも着実に成長を続け、この10年で実に1.77倍にまで拡大しました。しかし、多くのお店では、この巨大なチャンスを活かしきれていないのが現状ではないでしょうか。

「敏感肌向けの商品は一通り揃えているはずなのに、なぜか売上につながらない…」

「お客様に何をどう勧めればいいのか、実は自信がない…」

もしそう感じているなら、それは当然のことかもしれません。なぜなら、敏感肌市場の攻略は、ただ商品を棚に並べるだけでは決して成功しないからです。

お客様一人ひとりの複雑な悩みを解き明かし、専門家として信頼される知識を持ち、そして、その知識を「売上」という結果に結びつける戦略が不可欠なのです。

今回、『月刊マーチャンダイジング note版』では、この巨大で魅力的な「敏感肌市場」を徹底解剖する特別企画を実施しました。市場の全体像から、具体的なブランド戦略、そして明日から使える売場のヒントまで。5つの記事を通して、あなたのお店がお客様から“選ばLばれる”ための羅針盤を示します。

この記事は、その特別企画のエッセンスを凝縮したダイジェスト版です。ぜひ、読み物として楽しみながら、ビジネスの新たな可能性を感じ取ってください。


視点1:【全体像】そもそも「敏感肌市場」とは何者か?データが語る巨大な可能性

まず、私たちが対峙している市場の大きさを正確に把握することから始めましょう。

最初の記事 『【高機能&高付加価値で成長し続ける敏感肌市場】市場の状況と売り方のポイント解説』では、この市場がいかに“おいしい”市場であるかを、豊富なデータと共に解き明かしています。

出荷金額ベースで1,000億円超。この数字だけでもインパクトは十分ですが、小売業にとって重要なのはその「質」です。驚くべきことに、敏感肌基礎化粧品の購入者は、店舗全体への貢献度が一般の化粧品購入者の1.36倍も高いというデータが出ています。つまり、敏感肌のお客様は、一度信頼関係を築けば、お店にとって非常に価値のある優良顧客になってくれる可能性を秘めているのです。

さらに、このカテゴリーは20代の若年層を店舗に呼び込む強力なフックにもなります。ライフタイムバリューの観点からも、若いうちからお店のファンになってもらうことの価値は計り知れません。

しかし、なぜこれほどまでに市場が拡大しているのでしょうか?記事では、その要因を「乾燥」「環境要因」「加齢」「ストレス」など8つに分類し、それぞれに合わせたアプローチの必要性を説いています。

「敏感肌」と一括りにするのではなく、お客様がどの要因で悩んでいるのかを見極めること。それが、信頼されるカウンセリングの第一歩です。この記事は、そのための基礎知識と、市場全体を俯瞰するための「地図」を提供してくれます。

👉『【高機能&高付加価値で成長し続ける敏感肌市場】市場の状況と売り方のポイント解説』


視点2:【顧客分析】データは正直だ。ID-POSが見せる「お客様のリアルな姿」

市場の地図を手に入れたら、次に知るべきは、そこを歩いている「人」のことです。お客様は一体誰で、何を買い、何を買っていないのか。

2本目の記事 【高機能&高付加価値で成長し続ける敏感肌市場】ID-POS分析から見る売り方の傾向 は、膨大な購買データから、お客様のリアルな姿を浮かび上がらせます。

この記事を読んで、多くの人が衝撃を受けるであろう事実。それは、敏感肌化粧品の購入者の約8割が、フェイスケア、ボディケア、ヘアケア、メイクアップのうち「1つのカテゴリーしか購入していない」という現実です。特に、購入者の4割以上が「基礎化粧品のみ」の購入に留まっています。

これは何を意味するでしょうか?

全身の皮膚は一枚で繋がっています。顔の肌トラブルに悩む人は、頭皮や身体にも同じ悩みを抱えている可能性が非常に高い。にもかかわらず、その潜在的なニーズに応える「トータルケア提案」が、ほとんどの売場でできていないのです。

記事ではさらに、圧倒的なシェアを誇る「キュレル」を筆頭に、各ブランドがどのような顧客層に支持されているかを分析。冬に売上がピークを迎える保湿アイテムの動向や、敏感肌の人が意外な「家庭用手袋」や「ビタミン剤」を同時に購入している傾向など、ID-POSならではの生々しいデータが満載です。

データは、私たちに「ここにまだ大きなビジネスチャンスが眠っている」と雄弁に語りかけてきます。この記事は、その声に耳を澄ますための「聴診器」となるでしょう。

👉【高機能&高付加価値で成長し続ける敏感肌市場】ID-POS分析から見る売り方の傾向


視点3:【ブランド戦略①】絶対王者「キュレル」は、なぜここまで強いのか?

市場を理解し、顧客を知れば、次に具体的な「武器」である商品のことを深く知る必要があります。敏感肌市場の絶対王者として君臨する「キュレル」。その強さの秘密はどこにあるのでしょうか。

3本目の記事 【高機能&高付加価値で成長し続ける敏感肌市場】乾燥性敏感肌をセラミドでケアする「キュレル」 は、花王への直接取材を通して、その戦略に迫ります。

キュレルの強さの根幹は、「セラミドケア」という明確なコンセプトだけではありません。フェイスケアからボディ、頭皮、果ては「衣料用洗剤」まで、生活のあらゆるシーンに寄り添う圧倒的な商品ラインナップにあります。

この記事で特に注目すべきは、「多箇所展開」という売場戦略です。

例えば、『潤浸保湿 ファンデ負担防止ベース』という化粧下地。これを本来の化粧下地コーナーだけでなく、ファンデーション売場にも陳列したところ、売上が1.2〜1.3倍に伸び、さらにファンデーション自体の新規顧客獲得にも繋がったというのです。

同様に、ボディケア商品を入浴剤コーナーに置く。スプレータイプの化粧水を日焼け止めコーナーに置く。これは、お客様の「ついで買い」を誘発するだけでなく、「ああ、こんな時にも使えるんだ」という新たな発見を提供する、極めて高度なマーチャンダイジングです。

キュレルの成功事例は、一つのブランド研究に留まりません。あなたのお店にある他の商品にも応用できる、普遍的な「売れる売場の作り方」のヒントが隠されています。

👉【高機能&高付加価値で成長し続ける敏感肌市場】乾燥性敏感肌をセラミドでケアする「キュレル」


視点4:【ブランド戦略②】アベンヌが提唱する“未来への投資”

敏感肌ケアのニーズは、今や全世代に広がっています。特に、少子化の中で注目度が高まっているのが、デリケートな赤ちゃんの肌ケアです。

4本目の記事 アベンヌに学ぶ、全世代・全身へのアプローチと店舗での実践方法 では、ピエール ファーブル ジャポンへの取材から、さらに一歩踏み込んだ市場へのアプローチが見えてきます。

この記事のキーワードは「アレルギーマーチ」

これは、乳幼児期の乾燥による肌のバリア機能低下が、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ぜん息…と、アレルギー疾患の連鎖を引き起こす可能性がある、という医学的な概念です。つまり、新生児期からの適切な保湿ケアが、その子の将来のアレルギー発症リスクを低減させるかもしれない。これは、もはや単なる美容の域を超えた、「健康への投資」と言えるでしょう。

アベンヌは、この皮膚科学的知見を背景に、「新生児から使える」という高い安全性を強みとして打ち出しています。そして、小売業に対してこう問いかけます。

あなたのお店の敏感肌ケア商品は、なぜ化粧品コーナーにしかないのですか?

赤ちゃんの保湿ケアを探している親は、まず「ベビー用品」コーナーに向かいます。加齢による乾燥に悩む高齢者は、「介護用品」コーナーの近くを探すかもしれません。

メーカーが作ったカテゴリーの壁に囚われず、お客様の“悩みの出発点”に商品を配置する。この記事が提唱する「生活者視点の売場づくり」は、これからの小売業にとって必須の考え方となるはずです。

👉アベンヌに学ぶ、全世代・全身へのアプローチと店舗での実践方法


視点5:【トレンド分析】季節と悩みに寄り添う「アルージェ」のヒット戦略

最後のピースは、「今、何が求められているか」というトレンドを掴む視点です。

5本目の記事 乾燥や肌荒れ等の肌トラブルに特化したスペシャルケアが好調!存在感発揮する「アルージェ」 は、全薬工業への取材を通して、特定の肌トラブルに特化したアイテムがヒットする現代の市場を映し出します。

かつて敏感肌の悩みといえば「冬の乾燥」が代表的でした。しかし、今やその悩みは年間を通じて存在します。春は「花粉」、夏は「紫外線や汗」、秋もまた「花粉」と、季節ごとに悩みの質は変化します。

アルージェは、こうした**“瞬間的な肌トラブル”**に寄り添う「スキントラブルケア リキッド」のようなスペシャルケアアイテムで大きく売上を伸ばしました。

彼らの戦略で興味深いのは、SNSの活用法です。同じ悩みを抱える人の口コミを参考にするユーザーが多いことから、X(旧Twitter)上で“敏感肌悩み界隈”のインフルエンサーを起用し、ピンポイントで情報を届ける。このデジタルとリアルを連動させた販売戦略は、他のブランドを売る上でも大いに参考になるでしょう。

👉乾燥や肌荒れ等の肌トラブルに特化したスペシャルケアが好調!存在感発揮する「アルージェ


◆続きは、ぜひ「月刊マーチャンダイジング note版」で

ここまで、5つの記事のダイジェストを通して、巨大で奥深い「敏感肌市場」の輪郭をなぞってきました。

実際の特集記事には、本稿では触れられなかった数多くのグラフやデータ、より詳細なブランド担当者の生の声まで踏み込んだ情報が詰まっています。

『月刊マーチャンダイジング note版』は、小売業の最前線で日々奮闘する皆様と共に考え、悩み、そして具体的なアクションに繋がるこのような「武器」を提供するためのパートナーでありたいと考えています。

もし、この記事を読んで、少しでも「もっと深く知りたい」「自分の店の売上を変えたい」と感じていただけたなら、ぜひ下のリンクから私たちのnoteマガジンをご購読ください!

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「Stailer」が切り拓く小売業DXの未来――デリシア(長野)が示すラストマイル黒字化への道

スタートアップの株式会社10X(テンエックス)は、ネットスーパーを中心にスーパーマーケットのDXを支援する「Stailer(ステイラー)」を展開。2025年5月20日に実施された同社の新戦略発表会には、大手・地方問わず12社以上のスーパーマーケット・ドラッグストアが導入済みという実績が示された。なかでも長野県でチェーン展開するデリシア社の成功例が大きな注目を集めている。

ネットスーパーの成長と課題

冒頭、10X CEOの矢本真丈氏は、次のように時代背景を解説。

「食品スーパーマーケット業界は、1960年代前半に業態が確立し、1990年代後半まで急速に店舗数を拡大してきました。しかし、2000年代以降は店舗数の増加が緩やかとなり、人手不足や原価高騰による粗利圧迫など構造的な課題に直面しています。こうした背景から、各社がDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し、労働生産性を高めることが喫緊のテーマとなっているのです」(矢本氏)

同社が提供するStailerは、ネットスーパーを構築・成長させるためのプラットフォームだが、単なるシステム導入にとどまらず、販促施策やオペレーション効率化など、多面的なサポートを提供する点が特徴だ。

既存のネットスーパー市場はEC成長率が10%前後と比較的緩やかだが、Stailer導入企業全体でみると、同期間の流通総額成長率は約56%を記録。年間流通総額は数百億円規模に達している。利用客の中心は子育て世帯やヤングファミリー層で、ネットスーパー利用開始後、1人あたりの小売への支出金額が大幅に上昇する(ライフタイムバリュー向上)傾向も確認されている。

出典:10X発表資料より

以下の図は、ネットスーパーにおける1カゴ当たりの売上から商品原価・ピッキングやパッキング・配達などのオペレーションコストを差し引き、最終的な営業利益がどう生み出されるかを示したものだ。ネットスーパーの場合、店舗側が受注後のピック・パックや配送を担う必要があるほか、稼働していない時間帯のアイドリングコストなども発生しやすいのが特徴である。

株式会社10Xでは、こうしたコスト構造を踏まえ、大きく3つの観点でパートナー企業の収益改善をサポートしている。

  1. カゴ単価の向上:商圏設定や配達料設計、検索体験・商品レコメンドの最適化などにより、1回の買物での購入金額を高める。

  2. カゴ粗利率の改善:ネットならではの詳細な購買データを活用し、価格弾力性を捉えながら商品価格(粗利)を最適化する。

  3. オペレーションコストの削減:ピッキング・配送スタッフの作業をモバイルアプリで可視化し、店舗や配達の稼働率を分析。課題を抽出し、地道な改善を重ねることで生産性を高める。

デリシアが示す“ネットスーパー黒字化”の道

今回の記者発表会では、長野県でスーパーマーケット「デリシア」を運営する株式会社デリシアの代表取締役社長・森 真也氏が登壇。Stailer導入前後の変化を次のように語った。

「当社はかなり早い時期からネットスーパーを運営していましたが、店頭との商品マスタ連携問題や紙ベースでのピッキングなど、システム的・オペレーション的な課題を解決できないまま拠点だけが増減していた状況でした。欠品率も高止まりで、コストばかりが先行していたのです」(森氏)

こうした課題を10Xとともに解決するため、デリシアでは2022年9月末からStailerを導入。結果として稼働会員数は約1.4倍に増え、欠品率も4%から1%に改善。売上高は2.5倍に拡大し、店舗段階での営業利益率はマイナス31.4%から1年半で黒字化へ転じた。

出典:森氏発表資料より
出典:10X発表資料より

「10Xさんは、システム導入だけでなく、販促業務の効率化やデータ分析、課題に即した施策提案まで含めて伴走してくれました。定期的なデータ共有と振り返りで、PDCAを実行しやすかったのが黒字化の鍵だと考えています」(森氏)

スーパーマーケットDXを加速させる「Stailerマルチプロダクト戦略」

今回の発表会では、Stailerの新戦略として「小売業のDX全体を支えるプラットフォーム」への進化が示された。具体的には、オンライン・オフラインの会員IDや購買データを一元化し、販促を最適化する「Stailer OMNI」、商品別の価格をAIで最適化し、粗利確保を支援する「Stailer AIプライシング」、商品・販促データを集約し、バイヤーの業務を効率化する「Stailer MD」、需要予測と在庫管理をAIが行い、発注の手間を軽減する「Stailer AI発注」、各システムに散在するデータを統合し、外部連携もしやすい基盤を提供する「Stailer データストア」という複数プロダクトの提供を開始する。

7月にはまずAI発注がリリースされ、その後、冬にAIプライシングやMDが投入される予定だ。

DXは現場を解放し、経営を変えるか

10Xの矢本氏は、新プロダクトの狙いを次のように説明する。

「スーパーマーケットは粗利益の確保と人手不足という二重苦を抱え、労働生産性の向上が大きなテーマになっています。Stailerでは、ネットスーパーだけでなく、基幹システムや在庫管理、価格戦略など店舗運営の根幹を支える仕組みを強化し、AIとデジタル技術で一気通貫のDXを進めていきたいと考えています」(矢本氏)

一方で、デリシアの森氏は自身の店舗運営を踏まえ、こう展望する。

「10Xさんとは現場をともに回り、データと業務プロセスを丁寧に見直すところから着手しています。価格設定や商品管理など、DXで最適化できる業務はまだまだ多い。今後も同じゴールを共有するパートナーとして、一緒に取り組んでいきたいです」(森氏)

小売各社がネットスーパーやEC戦略を加速させる一方、収益化の難しさも指摘されてきた。しかし、デリシアがStailer導入により店舗段階で黒字化を実現した事例は、特に地方中堅小売業にもDXの可能性を示唆する。

「Enpowering Retail’s Future with Tech & AI」を掲げる10Xと、従来の慣習や枠組みを抜本的に変えようとする地方スーパーマーケット――両者のパートナーシップは、店舗中心の商売をベースにしながらも、デジタル技術を融合させて経営改革を進める1つのモデルケースとなり得るだろう。

ネットスーパーは社会インフラになり得るか?10X CEO矢本氏が語るスーパーマーケットの課題と展望

株式会社10Xは、小売チェーンストアにECプラットフォーム「Stailer(ステイラー)」を提供するスタートアップ。代表取締役CEOの矢本真丈氏は、2024年12月に「スーパーマーケットのこれまでとこれから」と題した資料を発表し、現在のスーパーマーケット(SM)が抱える課題と、SMに求められている変化について提言した。提言に込めた思いや10Xの今後の展望について、矢本氏に聞いた。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

小売業の持続的な成長に不可欠なのは「労働生産性の向上」に他ならない

――「スーパーマーケットのこれまでとこれから」を非常に興味深く拝見しました。小売業、特に食品小売業は今後どうなっていくとお考えなのか、改めてお話いただけますか。

 

矢本:小売業が持続的な産業であり続けるためには、今までのあり方から、生産性を突き詰めたあり方に変わっていかなくてはなりません。これまでの発展の延長の仕方では、SMやドラッグストア(DgS)といったチェーンストアがインフラとして残っていくことは難しいと思います。

生産性の向上は誰もが目指しているところですが、実現は容易ではありません。そこに対して何をしていけばよいのでしょうか。

矢本:今広く言われている「生産性」とは、そもそも何の生産性なのかが抜けています。私が強く訴えているのは、「労働生産性」を向上させなければならないということです。

ベンチマークする数値をしっかり設定し、従業員一人あたりがあげる粗利を高めていかなくてはなりません。例えばSMの従業員一人あたりの粗利の中央値は700万円程度ですが、これをどのぐらいまで上げるべきなのか。この数値目標がないことには、業務改善のためのデジタルソリューションを入れても、それによって本当に労働生産性が上がったかどうかまでは測れません。私が小売業の経営者の方と話していて、労働生産性がいくらかを訪ねても、すぐには返ってこないことが多いですね。

そもそもの数字が出てこないわけですね。

矢本:はい。これまでは売上が上がれば企業としてはOKとされてきたと思いますが、今後は人口が集中している一部のエリア以外では、売上を上げるのも難しくなっていきます。

そうであれば、「どうすれば今の売上規模のまま利益をたくさん出せるようになるのか」、「どうすれば今の10分の1の人数で今と同様の売上規模を維持できるか」といった、経営の土台を築くための方策を考えるべきです。シェア争いばかりを続けていても、お互いの体力が削られていくだけです。

それは、ここ数年でパートナーさんをサポートしていく中で見えてきたことですか。

矢本:そうですね。我々はネットスーパーを支援してきましたが、ネットスーパー事業はこの10年ほどで「儲からない事業」という市場の認知が作られすぎてしまいました。

我々がパートナーさんにネットスーパーのプラットフォームを売り込んでいく際に、一番のボトルネックになっていたのはその部分です。ほとんどの会社は、「10Xのプラットフォームに乗る・乗らない」ではなく、「ネットスーパー自体をやらない」という選択をされました。

ではやらない理由は何かというと、「儲からないことをやっている余裕がない」とのことでした。

つまりネットスーパーは社会インフラとしての価値があることはわかっているけれど、事業の経済性・生産性に問題があるために広がっていかないというわけです。であれば、我々はこの問題を真正面から解決して、市場を広げていこうという方向に舵を切り直したのが昨年のことです。それと同じことがネットスーパーだけでなく、小売業全体にも起きていると思います。

デリシアを2年で黒字化へ導いた3つの柱

――そういった中で、長野県のSMのデリシアさんのネットスーパー事業を黒字化されたと伺いました。何をしたことで結果を出せたのでしょうか。

矢本:大きく3つの柱があります。1つ目は単純に、商圏の方からしっかり認知いただいて、たくさん受注して売上を伸ばせたということです。コストだけ改善したところで、売上に一定の規模がないと、利益を出せるようにはなりません。デリシアさんではStailerを導入してから2年強で、ネットスーパーの売上規模が2倍以上になりました。

2つ目の大きな柱がプライシングです。お客様自身がピックパック(ピッキングとパッキング)して持ち帰る店舗のサービスと、ピックパックから配達まで全部店舗が行うネットスーパーで、同じ値付けをしていては儲かりません。

Stailerには受注から配達・決済まで、全てのタッチポイントのデータが集まるので、データを見て適切なプライシングを提案することができます。そこで、価格弾力性が低い商品は何なのかをデータを使って見定め、お客様の許容範囲まで価格を上げることでしっかり粗利を取り、全体の粗利率を改善することに取り組みました。

例えばECでは、カートのはじめに投入されるのは、お客様がそれを欲しいと思って(そのウェブストアに)来店される商品です。たとえば果物や日配商品などは、はじめの方に投入されることが多いですね。こうした商品は、値段を上げるとお客様は気づいて離脱していきますから、むしろ少し価格を下げて、来店していただくための理由にしてもらいます。

一方でカートに後の方で投入される商品…例えば一部の冷凍食品やカップ麺などは、「せっかく配達してくれるなら一緒に買おう」というように、利便性で購入されています。お客様はこれらの商品の値段はそれほど気にされていないので、少し値上げをご提案します。

またケースの水など、配達コストが大きい商品は少し値上げしますが、それでもamazonなどで買うよりは安価な価格を提示できます。このような商品のプライシングも、カートへの投入順序のデータを持っているのでしやすいわけです。

3つ目の柱は、ピッキング・パッキング・配達のオペレーションの効率化です。この点についても、「誰がどのお店でピッキングしているか」、「1時間あたりのピッキング点数が何点か」などのデータは全て取れています。そこで、平均値や中央値よりも低い店舗はどこに問題があるのかを探り、改善する取り組みを実施しました。

また、ピックパックを配達業者に委託している店舗のデータを見たところ、1件あたりのコストが上がっていることがわかったため、内製に切り替えました。このように一つ一つの問題点を地道に直す作業をしていきました。

デリシアでの店内作業の様子

今年はデリシアさんでやったことをある種の機能として、さらに研ぎ澄ませたものを作り、「Stailerを入れれば放っておいても黒字になる」というプロダクトにしていきたいですね。

ネットスーパーで利益を出してエコシステムを成立させる

――導入から2年で黒字化とはすばらしい事例を生み出されましたね。デリシアのある長野県では配送のオペレーション構築の難易度が高そうにも思えます。

矢本長野県は山と雪がありますから配達効率をあげていくのは難しい地域です。デリシアさんの事例は、その中でもビジネスが成立しているということに大きな意味があると思っています。

どの会社にも共通して言えることですが、配達自体にはあまり工夫の余地がありません。例えば「店舗Aには配達用のバンが1台あり、1日の出荷の上限は24件」といった配送の上限を設定した場合に、先にキャパシティが足りなくなるのは「ピッキング・パックキング」などの店舗作業の方です。出荷件数を増やすためには、まずは配達の前工程であるピッキングやパッキングのキャパシティを拡張して生産性を上げる方が効果的だと考えています。

――ネットスーパーというビジネスモデルは今までは儲からないままで拡大してきましたが、ようやく黒字化の事例が出てきましたね。

矢本:はい。これまでは店舗事業で出た利益を持ってきてなんとかネットスーパーを回しても、そこで利益が出ずに抜けていってしまう状態でした。利益が再投資に回るエコシステムの形になっていなかったのです。ネットスーパーで利益が出れば再投資されて回っていくので、雪だるま式に大きくなっていきます。その段階にいかに早く全ての会社が到達できるようにするかが重要です。

イオンさんや西友さんのような巨額投資はなかなか真似できませんが、ネットスーパーの売上もまだ数億円規模というデリシアさんのような会社でも、利益はしっかり出ています。であれば「自分たちにもできるかもしれない」と思う会社はもっと増えると思いますし、今年以降はそうした事例をたくさん作っていきたいですね。

地方スーパーマーケットの課題

――採用難に人口減、インフレと大きな環境変化の中、地方のSMは今後事業継続が厳しくなってくる企業も少なくなさそうです。矢本さんはどうお考えですか。

矢本:地方であるかどうかに関わらず、SMの市場環境は非常に厳しいと思います。需要の面でも供給力の面でも人が減っている中、「原価」「人」「電気」の三大コストは全て上がっていきます。SMはそれを価格に転嫁する能力を30年間持ってこなかったのに、これからこの産業をどうやって維持していけばいいのか。この厳しい問題に、地方のスーパーはより強く晒されています。

彼らがそのような環境においても生産性を上げて、独立して利益を上げられるようになれば、「大手SMやDgSに買われる」か「独立独歩で地域のインフラとして継続経営していく」の2択から出口が選べるようになります。3択目の「倒産する」が消えるだけでも、非常に価値があること。今、地方の多くのSMが、2択から選べるようにしていけるかどうかの分水嶺にいると思います。

一方でM&Aの状況を見ても、なかなか買い手がいないのが現実です。今、SM業界の買い手で一番大きいのはDgS、次いで同業のSMですが、SMのサプライチェーンは厳しく、地方をまたがって買収するのは難しい。また利益が出ない店舗を買うことは考えづらいことからも、M&Aもあまり活発だとは言えません。

となると、第一の選択肢となるのは自分の足できちんと立って経営し、高齢者を中心とした、地方に残っている多くの人たちのインフラになることだと思います。

――DgSへのネット販売導入においてはどのような役割を果たせそうでしょうか。

矢本:やはり薬やDgSでしか取り扱っていないもの、またSMでは品揃えが少ないオムツや介護商品などを配達で受け取りたいというニーズはあります。ただしそれらはamazonなどでも購入できるので、ネットDgSにそこまで強いニーズがあるのかについては、正直なところまだ我々もわかっていません。

我々が支援しているネットDgSでも、はじめにカートに入れられるのは食品が多く、ネットスーパーの別物として扱われている部分があります。薬王堂さんなどはEDLP(エブリデー・ロー・プライス)なので、SMと比べて一部の商品が常に安いといった面で使われている側面が強いと思います。

そういったニーズを探っているうちに、DgSは業界再編がすごく進んでしまっていますね。

20、30年かけて長期でネットスーパーのエコシステムをつくる

――業界は大きく変化していて、個人的にはこの数年に一つの山場があると感じています。こういった中で御社ではどのような形で事業を展開してきたのか、また今後の展望をどう描いているのか教えてください。

矢本:我々はそもそも、ネットスーパー市場を支援し続けてきました。ネットスーパー市場は直近では毎年10数%ずつ伸びていて、これは社会インフラになるべきものだと思っています。インフラの条件の一つが、利益が出て、それが再投資されて大きくなるという、エコシステムが回っていくことです。今はそれを実現するための機会だと感じていますし、20年、30年かけて、長期で取り組んでいくつもりです。

今までのStailerは高い価格で導入していただくものでしたが、大手ではない会社さんも手軽に導入できるように、我々の中でコスト構造を見直し、会社のリストラクチャリングも進めてきました。

その結果、小さい会社さんが1店舗からでも導入でき、その地域にとってネットスーパーが必要なものなのかどうかの実験もできるようになってきました。今後はそういった小さい会社さんへの導入が進んでいくと思います。

併せて、大手の会社さんがしっかり伸びていくことがマーケットの先端を広げていくことになると考えており、今年は大手リテーラーへの導入も決まっています。大手と小さな会社の2つの支援を同時に進められる企業であり、プロダクトになっていきたいですね。

また、昨年小売の経営者さんと対面したり、現場調査をしたり、各社の財務諸表を分析したりする中で、やはり課題が膨大にあると感じました。今のSMの一番の課題は、間違いなく生産性の問題です。ならば「どの生産性をどのように変えていくのか」ということに対して自分たちのプロダクトを用意したいと考え、現在新規事業にも取り組んでいるところです。

我々は日本の小売業のDX部になりたいと思っていますが、30年かけて取り組もうと思ったら、まずは自分たちが30年戦える体にならなくてはいけません。我々自身もしっかりと利益を出しながら成長する体制を作り、小売業さんたちと一緒に歩んでいきたいと考えています。

――ありがとうございました。