薬王堂HD 2024年2月期決算発表レポ「人時コントロールと改装効果で売上高・営業利益高・純利益とも過去最高に」

2024年4月15日に開催された薬王堂HDの2024年2月期決算発表会のレポートをお届けする。2024年3月より事業会社薬王堂の社長に就任した西郷孝一氏が決算発表に臨んだ。(談・文責/編集部)

営業利益・経常利益・純利益すべて過去最高

西郷孝一氏:まず業績のハイライトです。売上高が前年比110.4%で、計画108%に対してなので非常に好調に推移することができたと思います。またその売上を牽引した既存店の売上高は前期比108.5%で、通期で108%以上を達成することができております。

粗利率は21.6%。計画は21.8%、前期が21.9%ですので少し悪く見えると思いますが、期の途中から粗利を計画通りに前期並みというのはなかなか難しいなかで、粗利率は低いですが売上が伸長したため粗利高自身は計画を上回ることができました。

販管費比率は計画17.9%。前期18.3%。予定通りの推移です。前期の最後に利益がある程度見込めたため、経費の前倒しや店舗作業効率化のための什器を購入するなど、予定外の経費を使った上での計画通りという結果です。もちろん売上が良かったため販管費率がこのような数字になったこともありますが、経費に関しても売上同様、良い形で終えることができました。

その結果、営業利益率が3.7%となりました。計画は3.9、前期が3.6ですので、計画に対してはマイナス0.2ですが、前期に対してはプラス0.1。営業利益高が前期比111.8、経常利益が112.1、当期純利益が118.0で、営業利益高は計画に若干の未達、経常利益も若干の未達。当期純利益は計画を上回ることができたという数字になっております。ただこの計画ですが、前期は期の途中で計画を修正しているので、その修正後の数字に対しての未達で、期首に出していた計画からはプラスになっていることを付け加えたいと思います。

売上高が1,4224,100万円、営業利益高は52900万円、経常利益562,500万円、当期純利益が382,500万円、すべて過去最高の数字になっております。

出店は過去最少、改装に注力

続きまして売上に関して詳しく説明させていただきます。

まず売上のキーになる出店と、前期から注力している改装についての説明です。出店は前期9店舗で終わっています。一時期は年間25店舗強を出していましたが、前期は自分が入社して以来おそらく一番少ない出店数になってしまいました。ここはもちろん今の薬王堂の課題と捉えていて、前期の途中、去年の10月後半あたりから、社内の体制やフローを含め、出店の決断や判断の仕方を変えています。今期は当初3040店舗を狙っていきたかったのですが、やはり最後の3か月くらいだけ体制変更でやったこともあってなかなかそれが達成できずに、23店舗ということで計画しています。去年の9店舗に関しては本当に課題だと捉えており、店舗開発部のメンバーを増やしたり、出店の判断や社内フローを大幅に変えたりといったテコ入れはしていますので、来期以降の出店数でこの効果は出てくるだろうと思っております。

一方で前期は改装を大幅に増やしており、43店舗改装することができました。改装した店舗の売上も順調に伸びていまして、今期以降は新店だけではなく、改装も薬王堂の売上に寄与する武器にすることができると思っています。去年はそういう手ごたえを感じることができたので、社内でも大きな収穫だったと思っております。

 既存店売上は計画値を大きく上回る

既存店の売上高について、前期は既存店108.5%。計画の通期105.8に対してこの数字ですので、売上に関してはほぼ100点に近い形で前期を終えることができたと思います。

特に8月に既存店が112%を達成していますし、1月、2月も110.9%を2ヵ月連続で達成していますので、売上に関しては後半になるにつれてどんどん良くなっていったという状況です。もちろん1月、2月はポイントデーの回数や、うるう年による営業日の増なども入ってこの数字ですので、実質は109%弱程度と思いますが、それを差し引いても後半になるにつれて既存店の数字が伸びていったと言えるのではないかと思います。

売上を分解した「客数」と「客単価」、客単価を分解した「商品単価」と「買上点数」ですが、トピックスとしては間違いなく「客数」になります。

他社さんの数字を見ていると、メーカーさんの値上げもあり、商品単価が上がっているようです。商品単価の上昇により客単価を伸ばし、結果として売上を伸ばしている会社さんがけっこうあります。しかし当社については客数が完全なドライバーとなって売上の伸長に寄与しています。値上げによって売上が上がったではなく、客数増によるもので、しかも期の後半になるにつれ客数の伸びもどんどん良くなっています。この勢いは急に止まるものではないのではないと思っており、今期についてもこの既存店売上高は好調に推移するのではないでしょうか。

実際に既に月次で出している3月の既存店についても109.7%で、期の最初も幸先の良いスタートを切ることができました。上期に思い切り貯金して、下期はその勢いで突っ走っていきたいと思います。

粗利率はマイナス。粗利ミックスのコントロールが課題

続きまして粗利率についてです。粗利率は計画21.8%に対して21.6%でマイナス0.2。ひとつの課題ではありますが、今は売上を重視しております。

その粗利率でまず説明させていただきたいのが、前期と前々期を比較したときに、メーカーさんの値上げがあり、どれだけ値上げするかによって粗利にも影響がありますのでそれが一点。もう一点が為替です。

薬王堂では今PB比率が10%弱ほどあり、一部の海外から調達している商品は、為替の変動によって原価が上がってしまいます。その上がり幅が、前々期と比べたときの前期の粗利に大きな影響を与えるのですが、それを諸々足すと、ここにあるように0.2%程度、前々期と比較してもともとビハインドの状態です。そのため前期と比べてマイナス0.2%くらいの粗利であれば、通常の商売は実はそれほど変わらないと言えるのではないかなと思っております。

粗利に関しても前々期と比べると一進一退で前年並みに推移していたんですが、下期に入ってから前々期と比べて少しビハインドの状態が続いてしまいました。ここに関しては0.1%か0.2%くらいのところで粗利率をコントロールしきれなかったというのが正直なところです。

売上が伸びた要因としては、洗剤やヘアケア、ペット用品などが入っているホームケアとフードが急伸したことによって、0.3%程度の粗利の低下が起きてしまいました。それぞれの部門は頑張って粗利をコントロールしていたのですが、後半に思った以上にフードとホームが伸びたことで粗利ミックス分をカバーしきれなかったというのが、粗利率が計画より低く着地してしまった理由と思っております。

このような理由は最初から分かっていたことで、手を打つことができなかったのは課題と考えています。一方粗利を上げて薬王堂の武器である客数、売上を鈍化させるくらいでしたら、この粗利率くらいでも順当という考え方もありますので、引き続き、コントロールしながら売上を第一優先でどんどん引っ張っていければいいかなと思っています。

この粗利率が低い薬王堂を嫌がっている人競合さんも東北にはそこそこいると思うので、今期もこの武器を上手く使っていきながら時間がかかるかもしれませんが、粗利だけはコントロールしていきたいです。来年になるか、2~3年後になるかわまりませんが、あと0.20.3くらいは営業努力で上げられればよいと考えています。

次に各セグメントの状況です。

こちらは全体で10.4%伸びたのに対してホームケアが12.7%、フードが14.4%伸びました。構成比もホームケアが21.3%、フード47%。フードは去年45.3%だった構成比が47まできているということで、ここが売上の牽引にもなりましたし、粗利ミックスの低下にもつながったと思っております。

ただ粗利に関しては、例えば去年ヘルスが33.1%、今回33.4%なのでプラス0.3。ビューティーは前々期29.6%に対して30.0%なのでこちらも実はプラス。ホームだけが前々期20.2%に対して今期19.9%ですのでマイナス0.3。フードに関しては前々期15.3%の粗利に対して今期15.3%で、粗利率はホーム以外すべて前々期より良いか同じですので、粗利も実はそれほど課題視していないということはご理解いただけるのではないかなと思います。

販管費率は計画通りの着地。前期比ではマイナス0.4%に

次に販管費比率について説明させていただきます。こちらは期末に店舗のオペレーションの負担を軽減する什器を購入し、そのなかで売上が引っ張ったというのはありますが、販管費に関しては計画17.9%に対して実績も17.9%で、計画どおりの着地となりました。前期の18.3%から17.9%ということでマイナス0.4ポイントです。電気代の上昇が大きい年で、人件費に関しても最低賃金が上がるなど、楽な状況ではありませんが、そのなかでもしっかり経費をコントロールできたと思っています。

販管費比率に関しては去年17.9%、その前18.3%、その前が19.3%で、決算資料上はとても良くなっているように見えます。2022年と2023年の間では収益認識基準が変わり、売上と利益の計上の仕方が変わったことがあり、数字が大きく下がったように見えるので、画像右側の方に同じ収益基準で計算した数字を掲載しました。もちろん前々期に比べたらマイナス0.5ポイントと下がって見えますが、実はコロナ中に一回18.7%という数字も出すことができていまして、そこに比べると19.2%ですので、当時よりは高い数字で、販管費率は過去最高に下がったとは言えない状況です。

ですがこのトレンドをずっと追っていくと、コロナでドラッグストアの売上が上がり、利益も出た都市がありましたが、もしかすると23年後にはそのときと同じくらいの水準の販管費比率にはもっていけるのではないかと思っています。

その販管費比率の大きな要因になる人件費と電気代について説明させていただきます

まず人件費の伸びに関しては、前期は前々期と比べて106.1%。この伸びに関してはもちろん新店が少なかったことはありますが、前期、前々期から一番大事なミッションとしてやってきた人時コントロールの効果が一昨年から出始めて、去年に完全に定着したことによって、売上は110%に伸ばしていながらも人件費は106.1%で収めることができたことが、薬王堂の一番の武器なのではないかと思っています。

この1年くらい、売上が上がると人件費が上がるという悩みを持っているドラッグストアさんの話をよく耳にしますが、薬王堂に関しては売上が伸びた分人件費が伸びるのではなくて、売上の伸びより人件費の伸びをはるか下のところに落とすことができています。

人件費比率も8.2%ですので、コロナ時代と同水準です。これも会計基準の適用前に合わせると8.0%で、コロナ中の人件費率よりも今の人件費比率のほうが低くなっていますので、本当に少ない人数・作業量で今の好調な売上を支えることができる組織の構造になっています。個人的には100点満点中70点くらい。まだまだ作業も人時も減らして、その代わりとても仕事がラクになり、でも売上が上がるというような、業界的には「本当かよ?」と言われるような状態にあと1、2年経てばもっていけるんのではないかなと思っています。

もちろん売上は上げていきますが、人時と売上の関係性に関しては薬王堂独自の考え方を持っていますので、ここに関してはこだわりを持ちながらしっかりやっていきたいと思っております。 

次が電気代です。皆さんご存知のとおり、前期と前々期だけでも14.5%伸びており、その前の年からは150%伸びています。これは薬王堂だけでどうにかなるものではないので仕方がないことです。2021年と前期の電気代では2.2倍くらい伸びていて、そのときに売上がどれくらい伸びたかというと、1.3倍だけです。これを見ただけでも電気代の上昇がすごかったことが簡単に想像できると思います。

電気代の比率も、会計基準の適用後だとしても1.6なので過去5年で一番高いですし、会計基準を前と合わせた状態でも1.5ですので、ここ2年で一番電気代比率が高い状態が続いています。

今期に関しても電気代はまだまだ上昇が続く見込みで、前期と今期の比較でいくと、120%程度は電気代が上がるのではないかと思います。これに関しては薬王堂でコントロールできない部分ではありますが、一番の経営課題はもしかすると新店の少なさと電気代の上昇というところなのかもしれません。

キャッシュフローはプラス

続きまして利益面について説明させていただきます。最初に説明したように、営業利益高・経常利益高・純利益ともに過去最高を出すことができております。営業利益率に関しても計画に対してはマイナス0.2でしたが、前期に対してはプラス0.1で、十分良い結果を出すことができたと思います。

営業利益、経常利益、純利益ともに過去最高ではありますが規模も小さいですし、営業利益率や収益性は他のドラッグストアさんと比べるとまだまだ低いので、簡単には大きい会社さんの収益率にはたどり着かないとは思いますが、できxれば数年で営業利益率4%くらいは出せるような会社にできればいいかなと思います。

先ほど申し上げたように、客数が伸びて売上が伸びるというのが薬王堂の一番の特徴ですので、ここはまったく緩めずに利益率を高めていけたらいいかなと思っています。

次がキャッシュフローですが、こちらは新店の数が少なかったというのが非常にインパクトを与えている数字になっていて、新店が少ないことによる長期借入の少なさが表れた結果となりました。

フリーキャッシュフローの336,000万は、過去10年くらい見ても薬王堂史上でかなり高い方の数字です。出店していないだけというのも一つの理由ですが、そうは言ってもここ2年間フリーキャッシュフローがプラスで、フリーになる額も今までの薬王堂にはなかったような数字ですので、5年前、10年前、20年前に比べたらキャッシュフローという面でも稼ぐ力という面でも力がついているのではないかなと思っております。

今期は売上高1,500億超えを目指す

続きまして今期の計画になります。

まず売上高は1,500億を超えていきたいと思っております。既存店の売上高比率は計画では105.1%で、前期108.5%でしたので少し鈍化したように見えますが、実際はもう少し上を目指していきたいなと。実際3月は109.7%ですので、ここはもっと貪欲にもっと上へ、行けるところまで売上を伸ばしていきたいですし、伸ばしていけると思っています。

ただ今期の粗利率は計画21.9%ということで、前年が21.6%なのでこちらはちょっと厳しい可能性はあるかなと思っています。21.9%とは言わなくとも、21.8~7%くらいを目指しつつ、既存店売上を105%よりもっと上を目指すことで、粗利高は計画通り程度に落とせるのではないかと思っています。粗利率が計画からは厳しく見える分、売上で引っ張っていけるのではないかというのが今のところの見立です。

販管費比率については18.1%で、前期プラス0.2ポイントです。新店も前期より増え、改装も増えるので電気代や人件費といったコストが少しずつ重くなるのが理由です。ただ売上も引っ張れれば販管費比率ももしかしたら前年並み、17.9%くらいには着地させられるのではないかなと思っていますので、今期に関しては志した数字よりもどれだけ売上を引っ張っていけるかがキーになると思っています。

毎月出る月次が105%をどれだけはるかに超えられるかというのが、薬王堂の利益が最終的にどうなるかの簡単な目安になるのではないかと思っています。

次に利益ですが、営業利益率に関しては前期が3.7%に対して今期も3.7%で着地させたいと考えています。営業利益高が57億円、経常利益・純利益ともに過去最高の利益高を目指します。 

出店・改装増加に向けて社内体制を強化

この計画の数字を達成するために重要な指標になる数字をいくつかここで挙げております。

まずは出店は23店舗。去年よりは増えていますが、5年前の水準には戻っていなませんので、来期以降は必ず増やしていきます。店舗開発のメンバーも体制も、去年の今頃は10数人だったのが今は35人くらいまで増えていますし、今まで出店の判断を前社長が行っていたところ、去年の11月からはすべて自分がするようになりました。

そこから頑張って出店を増やそうとやってきたのが23店舗ということで、課題ではありますが、来期の物件について今メンバーたちが頑張っていますので、今の勢いを見ると、来期以降は逆襲を始められますというくらい勢いがあると感じています。本人たちも「目標未達なんて考えられません」とよく言っていますので、1年後にはなりますが、薬王堂はずいぶんここまで増やせたなと思ってもらえるような数字を出していきたいなと思いますので、1年後になぜ増やせたかというのを皆さんの前で説明できたらいいなと思っています。

改装は去年も45店舗(※編集部注:43店舗?)で実施しましたが、今期はさらに増やして56店舗の改装をしていきたいと思っております。改装に関係する人員もこの2年で改善して、23年前は200名ぐらい必要でしたが、今は120名、4割減ほどになっています。やり方や事前準備、マテハンのようなツールのにもどんどん投資をして、改装の効率化、手順の効率化をやってきたおかげで、必要な人数まで減らすことができています。

年間56店舗の改装にも十分に対応できるだけの組織とやり方を作ることができたと思っていますので、もう少し増やせるかなとも思いましたが、手間もパワーもかかるのが改装ですので。まず今期に関しては56店舗程度にとどめておき、来期以降もこれは維持していきたいですし、あともう10店舗、20店舗くらいなら改装も増やせるかなと思っております。

次に人件費率ですが、前期8.2%に対して今期は同じく8.2%。電気代比率が前期1.6%だったのに対して今期は1.8%で、電気代の伸びとしては121%。まだまだ電気代は伸びてしまうというのが現実的な数字になっています。

今期のPLの見込みになります。

売上高は1,500億を超え、あと何年かでできれば2,000億を超えたいと思っています。粗利率に関しては計画としては21.9%。前期が21.6ですので、簡単な数字ではありませんが、その分売上を伸ばしていければ粗利高に関しては計画通りくらいの数字は出せるのではないかと思っています。

続いて販管費比率については電気代が多くなった分、前期17.9%に対して18.1%ということで率としては0.2ポイント悪化してしまう見込みです。ただ営業利益率は前期同様今期も3.7%で、営業利益高、経常利益高、純利益高ともに過去最高は出していけるのではないかと思っております。

出店に関しては、今期は23店舗。来期以降は皆さんが驚くような数字を発表できたらいいなと思っております。

社長交代で意思決定のスピード感がアップ

最後に体制変更について説明させていただきます。まず薬王堂ホールディングスに関しては、もともと管理部と経営戦略部という2つの部があり、併せてコンプライアンス統括部が社長・副社長直轄でありました。

今期からは今までの管理部と経営戦略部を統合して、社長・副社長の直轄で経営企画部としてつきます。コンプライアンス統括部も社長・副社長の下に部としてくっつくということで、ここの役割は大きくは変わらずに、よりシンプルな組織図になっているのかなと。メンバーも、ホールディングスに関しては社長・副社長が変わらないので、大きな変更はありません。

ただ事業会社のほうが大きく変わりました。まずは薬王堂が創業して初めて社長が交代しました。私が生まれた年に薬王堂は創業していますが、45年経って初めて社長が交代するというのがひとつ。併せて私の弟の西郷泰広が副社長になりました。

彼はまだ入社して4年目で、少し早いのではないかと思う方もいるかもしれませんが、いつかは(役員に)ならなくてはいけませんので、このタイミングで大きく社内体制を変えて、薬王堂自身も今勢いがついていますので、この勢いに乗っていきたいということもあって社長・副社長同時に交代しました。

また、代表が私一人になるという変化もあります。ドラッグストア企業では、世代交代をしても代表取締役会長のような形で(元社長が代表に)残ることがよくありますが、薬王堂に関しては「代表取締役」と付いているのは私だけです。意思決定やスピードという意味では、私も含めて次の世代でしっかり考えながらスピーディーにやっていけるのではないかということで、ここは思い切って世代交代して勢いに乗るだけではなく、さらに加速させられるような組織にしていこうと考えています。

新組織になりまだ一カ月半程度ですが、明らかに社内の雰囲気が変わっていますし、働いている部長以下のメンバーたちが「勢い良くいくぞ」となってきていますので、売上も出店面も、今までの薬王堂ならこれくらいかなみたいなイメージもあったと思いますが、そのイメージを覆せるような雰囲気になってきていると思っています。ありがとうございました。(談・文責/編集部)

資料出典:
https://www.yakuodo.co.jp/images/irs/662b621138421.pdf

NTT Com、生成AIデジタルヒューマンをドラッグストアの従業員として提案

NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com)は2024年5月29日、東京・大手町プレイスの事業共創ワークプレイス「OPEN HUB Park」にて、生成AI活用ビジネスに関する説明会を開いた。今回は生成AIを活用した「CXソリューション」のユースケースとして、デジタルヒューマン「CONN(コン)」がドラッグストアのスタッフとして顧客の悩みに合わせた商品提案を行うといった接客デモンストレーションを行った。「未来の顧客接点」として提案していくという。

デジタルヒューマン「CONN(コン)」は東映ツークン研究所の高精細スキャンやモーションキャプチャなどのデジタルヒューマン技術で生成されたビジュアルと、NTT人間情報研究所のモーション生成AI技術や音声合成技術を掛け合わせることにより、より人間に近い自然なふるまいができる。2023年から「バーチャルコンシェルジュ」等としての実験を行なっている

デジタルヒューマン「CONN(コン)」
「ロンドン大学工学部出身、シンガポール生まれの帰国子女」というペルソナが設定されている

ドラッグストアでの展開提案は、富士薬品が2024年3月17日に開催した「富士薬品お客様感謝フェスタ」の「未来のセイムス体験ブース」で紹介されたデモと基本的に同じもので、外国語対応、顧客に合わせたカウンセリング、専門家へのエスカレーション、購買意欲を引き出すレコメンデーションなどに用いられている(詳細は後述)。

ドラッグストアでの活用提案。富士薬品と共同で開発中 
特定商品のクーポン提示なども可能

現時点では店頭などでの実験は行われていない。また反応速度も遅いが、これは特に音声合成部分の遅さによるもの。今秋を一つの目処としてさらなる改良を進め、ドラッグストアにおける課題への対応や、バーチャルヒューマンならではの利点を探索し、CXを超えた新たなEXへと進めていきたいとしている。

「OPEN HUB Park」は未来をひらくコンプセプトと社会実装の実験場

NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門長 OPEN HUB 代表 戸松正剛氏

会見の会場「OPEN HUB Park」は未来をひらくコンプセプトと社会実装の実験場と位置付けられている。NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門長 OPEN HUB 代表の戸松正剛氏は最初に、グループ各社のケイパビリティを統合して提供する「ドコモビジネス」のコンセプトを伝えるためにもこの場所を使っていきたいと話を始めた。大企業向けには生成AI、マーケティングソリューション、スマートワールド、IoTの4分野に注力する。

人手不足に応えるバーチャルコンシェルジュ

NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部長 福田亜希子氏

NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部長の福田亜希子氏は、NTT comの生成AIに対する市場の期待値は、NTTグループが開発した大規模言語モデル(LLM)の「tsuzumi」発表以来、どんどん上がっていると述べた。5月末時点の案件数は370件を超えている。生成AI関連のビジネスは幅が広いが、今回はそのなかでも新たな顧客応対を実現するCXソリューションが紹介された。「バーチャルコンシェルジュ」は人手不足に応えるもの。

生成AIを使ったCXソリューション

たとえば富士薬品では、店頭で「目が痒いです」といったことを話しかけると「おすすめはこちらです」と最新商品をおすすめしてくれるような顧客に合わせたカウンセリング、薬剤師から第一類の医薬品を薦めるといった専門家へのエスカレーション、購買意欲を引き出すレコメンデーションなどへの検討が行われていると紹介された。

バーチャルコンシュルジュによる顧客対応

多言語で対応、カウンセリングし、人とも協働できるバーチャルヒューマン

ドラッグストア店頭でのバーチャルヒューマン活用デモ 

バーチャルヒューマン自体の音声や表情のほか、ディスプレイを使った画像やQRコード提示といったインタラクションも可能だ。会見では、ドラッグストア店頭での活用をイメージした四種類の簡単なデモが紹介された。

一つ目はインバウンド向けの外国語対応。中国語で自己紹介を行なった。多言語で同一の声で音声合成ができる。

 

二つ目は来客の悩みを聞きながらおすすめ商品を一つ提案するというもの。
「目薬を買いたいのですが」
「目のお悩みはどのような症状ですか?」
「目がかゆくて赤みがあるのが気になっています」
「コンタクトレンズは付けていますか?」
といったやりとりを繰り返し、実際に取扱のある商品を提案することができる。生成AIを活用することで自然な会話のなかでオススメできる。もう一つの特徴は、実在商品のデータを連携させることでハルシネーションの課題を予防する。

 

3つ目は「人とデジタルヒューマンの協働」をイメージしたデモ。生成AIにはまだ課題があるし、法令面でも人との協働は不可欠だ。たとえば第一類の医薬品は人間の薬剤師が説明して販売しなければならない。

そこで、来客の悩みの症状を聞いた上で、第一類の医薬品の提案のほうが適切と判断された場合、「第一類の医薬品からご提案したいので薬剤師を呼び出します。QRコードをカメラで読み取って薬剤師とお話しください」と言って、デジタルヒューマンが引き継ぎ用のQRコードパネルを自分で掲げる。

4つ目は、売り上げ向上への貢献。デジタルヒューマンだからこそ顧客ニーズに対応したサービスも可能になる。たとえば「洗剤を買いたい」と言ってやってきた来客に「衣類用洗剤ですね。以前購入された衣類用洗剤のクーポンをお出ししますね。柔軟剤のクーポンも同じので、よろしければ一緒にお買い求めください。 QR コードを表示しますので、カメラを起動して少々お待ちください」といったように購入履歴を踏まえたかたちでクーポンを出すような応答を返すことができる。

 

また、売り手がすすめたい商品をすすめさせるといった、リテールメディアとしての使い方もできるという。NTT Comでは来店前後も含めたCX向上に向けたジャーニーを描いているとのことだった。

接客のパーソナライズ化を通じた新たな価値提供を模索中

国産LLMでCX分野のシェア3割を目指す

デジタルヒューマンは、オンラインでの保険相談にも用いられている。現時点ではヒアリングを行なっているが、将来的には契約全てをAIとのやりとりで完結させることも目指す。福田氏は「バーチャルヒューマンによって『かゆいところに手が届く』サービスの実現を目指す」と語った。

東京海上日動とはコールセンターでの「アフターコールワーク」を削減する取り組みを進めており、おおよそ半分の業務負担を削減できそうだと見ていると述べた。

コールセンターでのオペレーター支援

また、FAQリストを事前に作らずドキュメントのみから運用できるドキュメントチャットbot「COTOHA」と生成AIを組み合わせることで、有人チャットにおける回答生成を、より効率よく進める取り組みも行なっていると紹介された。オペレーター稼働を半分に出来たという。既存のFAQ がリストがずらっと並ぶところで終わってしまうのに対し、生成AIはさらにそれを要約して伝えることができる。

既存のチャットボット+生成AIによるソリューション

福田氏は「CX分野のシェア3割は取りたい。『tsuzumi』は国産であり、学習データが全て手元にある。ハルシネーションリスクにも対応しやすい」と語り、「tsuzumi」が他社の大規模なモデルに比べて扱いやすいことと、ファインチューニングしても自社データ流通の心配がない点をアピールした。

tsuzumiパートナープログラム募集開始

合わせて、「tsuzumi」のサービスへの組み込みや、業界・業務に特化したAIモデル開発を進めるための「tsuzumiパートナープログラム」を通したパートナー募集開始も発表された。「tsuzumi」は軽量でクローズドな環境で動作させられるLLM で、日本語性能が高いとされている。

パートナー種別は3つ。ソリューションパートナー、モデルパートナー、インテグレーションパートナーの3種があり、今回は「ソリューションパートナー」と「モデルパートナー」が募集開始対象となる。

「ソリューションパートナー」とは生成AI「tsuzumi」を自社サービスに組み込んでサービスのアップグレードを志向する企業。NTT comでは組み込み支援を行う。「モデルパートナー」は特定業界向けに「tsuzumi」を提供するにあたり、チューニングに必要な業界特有データを持つ企業。NTT comと共同で、「tsuzumi」のチューニングを進めて、共同でマーケティングおよび拡販を行う。

 「ソリューションパートナー」と「モデルパートナー」を募集

モデルパートナーにおいては、第一弾募集の今回は、特に業界としては金融、自治体。問い合わせ業務の効率化などを狙う。業務としては小売りや観光などの「接客」、医師や薬剤師など資格が必要な業務に対する「エキスパート支援」を注力テーマとして設定して、モデルパートナーの募集を行う。今後、さらに他の業界への拡大も構想する。

金融、自治体、接客やエキスパート支援を主な対象業務に

募集時期はソリューションパートナーは5月29日から8月31日まで。モデルパートナーは同じく7月31日まで。ただしここで終わりというかたちではなく、その後も続く予定だ。

ツルハHDの「キャッシュレス戦略」 |自社Payサービス「HAPPAY」導入の背景と展望

日本におけるキャッシュレス決済比率が4割に迫る中、決済手数料を抑制するために「自社Payサービス」に関心を寄せる小売事業者が増えている。そんな中、ツルハホールディングスでは2023年6月、グループアプリに自社Payサービス「HAPPAY(ハッペイ)」を搭載した。自社Payサービスの提供開始に踏み切った背景や同社のキャッシュレス決済戦略を、ツルハHD 執行役員の小橋 義浩氏、デジタル推進部長の小原直之氏、経営企画部の大崎洋平氏に聞いた。

消費者の利便性向上のため自社Payサービスを開始

—はじめに、貴社がグループ内で利用できるPayサービスを展開するに至った背景についてお聞かせください。

小橋:我々は過去1年間で1度でも店舗でお買い物をしていただいたお客様を「アクティブユーザー」と定義しています。1,000万人を超えるアクティブユーザーの方に対し、デジタルの力でお客様の利便性をより高めたいと考えて、2019年11月にリリースしたのが、ツルハグループアプリです。そしてこのアプリをリリースした当初から、ポイントカードやクーポン情報、商品に関するさまざまな情報の提供をするとともに、自社Payサービスによるキャッシュレスにも取り組む構想がありました。

現在はおかげさまでアプリのダウンロード数は900万件を達成していますが、このようにアプリが一定の広がりを見せ、「プラットフォーム」と呼べるようになったことから、当初より計画していた自社Payサービスの搭載を実現することになりました。

もう1つの背景として、キャッシュレス決済の手数料をお客様に還元したいという点が挙げられます。日本国内ではいま、キャッシュレス決済比率が40%に達しようとしています。今後この比率がより高くなるにつれて、決済手数料は無視できない金額に膨らんでいくでしょう。

自社Payサービスを展開すれば、キャッシュレス事業会社に支払う決済手数料を削減できます。その分をお客様に還元し、より利便性を高めることで、ツルハグループでのお買い物頻度をさらに高めていただけるのではないかと考えました。

開発スピード、安定性・堅牢性の観点から「Wallet Station」を採用

—今回自社Payのための決済システムとしてインフキュリオンの「Wallet Station(ウォレットステーション)」を導入されましたが、採用に至った背景を教えてください。

小原:「Wallet Station」を採用した理由は大きく2つあります。開発スピードの速さと、堅牢性・安定性です。

ツルハHD 経営戦略本部 デジタル推進部長 小原直之氏

 

1つ目の開発スピードについて、今回、決済システムの導入を決定してからリリースまでの期間が1年以内に限られていました。ベンダーを探す期間なども含めると、開発にかけられるのは6カ月間。限られた時間の中で開発をスピーディーに進めるためには、一番時間がかかるPOSの通信部分の開発を短縮することが最適解と考えました。

そこで、すでに当社のPOSレジのQR決済に関する通信を担ってくれているインコム・ジャパンのコード決済ゲートウェイと自社Payシステムを連携することでPOS改修の負担を軽減させようと思い、この連携をスムーズに実現できる自社Payシステムとしてインフキュリオンの「Wallet Station」を導入することになったのです。

また、このシステム連携によって、店員は決済手段ごとにPOSレジで選択しなくても、提示されたバーコードを読み取るだけで決済が可能となり、自社Pay導入によるオペレーションの手間も減らすことができました。

2つ目の安定性・堅牢性についてですが、ツルハグループは全国に2,500店舗以上を展開しています。そこにPOSの台数を掛け合わせると、通信のトランザクション量が膨大になります。かつ、店舗は北海道から沖縄まで全国にまたがり、それぞれ通信環境も異なります。こうした事情から、全国規模で安定して稼働するシステムを提供できるベンダーを選定する必要がありました。

この点、インフキュリオンのシステムは「Coke ON Wallet」の決済機能としても採用されており、安定性・堅牢性に関しては当社の希望に合うものでした。

—「HAPPAY」の開発の過程ではどういったことに苦労されましたか?

小原:ツルハグループには8つ事業会社ブランドがあって、「HAPPAY」はそのうち7つのブランドで利用可能です。たとえば、お客様が店頭でアプリを利用する際は、「ツルハドラッグ」はツルハドラッグの、「くすりの福太郎」はくすりの福太郎のアプリをそれぞれダウンロードして提示していただく必要があるのですが、「HAPPAY」の口座は1つです。つまり、ツルハドラッグ、くすりの福太郎、いずれのアプリからも「HAPPAY」にアクセスできて、グループ横断で利用できます。

インフキュリオン側で開発される際、この部分が技術的にもっとも難しく、苦労した点と聞いています。

従業員にも利用してもらい、オペレーションの周知を徹底

—2023年6月に「HAPPAY」がリリースされました。現場の従業員やお客様へはどのように広げていったのでしょうか。

小原:6月の一般リリースを前に、5月16日にごく一部の人たちでテストをしました。動作を確認したあと、「HAPPAY」の運用について店舗にどう伝えていくべきか整理して、準備万端でリリースに臨みました。

6月のリリース時にはまず、従業員に対してキャンペーンを行いました。「HAPPAY」について従業員に知ってもらい、運用に役立ててもらう意図です。当社はグループ全体で約1万人の従業員がいます。全員のスマートフォンにアプリをダウンロードしてもらい、マニュアルを見ながら「HAPPAY」を使ってもらいました。この手順を踏んだことで、お客様に「HAPPAY」についてお伝えできる体制が整い、大きな混乱なくリリース日を迎えることができました。

現在は「HAPPAY」ユーザーを獲得するために、主にインセンティブを与えることで会員数を増やしています。「ツルハアプリへの登録で10%オフ」「この期間に『HAPPAY』で決済するとポイント付与」などですね。

小橋:小原がシステムを選定する際もっとも注意を払ったのが、お客様のお金を扱うのだからミスは許されないという点です。そうした観点から、お客様にご迷惑がかからないよう、混乱が起きないように慎重に進めてきました。コールセンターの設置もその一環です。

小原:「HAPPAY」に関してわからないことがあると、お客様は必ず従業員に問い合わせをするだろうと考えました。中には、従業員でもわからないことも出てくるでしょう。そこでまず、お客様向けのコールセンターを全国に立ち上げました。

また、決済エラーが出た場合など、現場の従業員がシステムについて何らかの問い合わせをするケースも想定して、従業員向けにインコム・ジャパンと、インフキュリオンにつながるコールセンターも設置しました。

コールセンターを設置するまでは、当社の情報システム部と各事業会社の担当者がお客様や現場からの問い合わせに対応していました。コールセンターを設けたことで社内のオペレーションも整理されましたし、本部でもいつ来るかわからない問い合わせに対して構える必要がなくなり、本来の業務に集中できるようになりました。

また、コールセンターに集まった問い合わせを分析することで、システム改善にもつながるという副次効果も生まれています。

—HAPPAYでの決済を開始して、社内外からの反響はいかがでしたか?

小原:1つは便利性に対する反響ですね。アプリ1つで決済までできて、かつ自社Payなのでツルハグループのポイントも付与されます。通常のお買い物で得られるポイントに加えて「HAPPAY」による決済でもグループポイントが付く点はお客様にとっての魅力だと思います。

小橋:2023年8月に開催された株主総会で、高齢の男性から「『HAPPAY』は非常に使いやすい。PayPayなど大手のQRコード決済サービスに対抗できるくらいの規模に育ててほしい」という声をいただきました。キャッシュレス決済サービスは若い方が使うイメージでしたが、幅広い年齢層の方に利用していただけているという手応えを感じています。

アプリこそ「One to Oneマーケティング」の入り口

—今後「HAPPAY」を発展させて、新しいサービスを展開する計画があればお聞かせください。

小橋:現在欧米では若者を中心に、BNPL(Buy Now Pay Later=後払い決済)が普及しています。ドラッグストアの消費者が1回の買い物で支払う平均的な金額は2,000〜3,000円。少額ですので、厳格な審査は必要なく後払いサービスをご利用いただけると考えています。こうした後払いサービスが導入できれば、その場で手持ちの現金がなくてもお買い物いただけるので、より利便性が高まるでしょう。

また、販促の方法も変化させていく必要があります。これまではクーポンの発行や一律での割引きが主な販促手段でしたが、今後は「『HAPPAY』で決済した場合は○%割引き」といったように、決済方法を絡めた販促手段を取り入れていきたいですね。

小原:ツルハアプリは他社のPayサービスと比較してシンプルにできているため、ご年配の方含め幅広い年齢層にご利用いただけます。一方で、今後は遊び心をプラスしていきたいですね。ゲーム性を持たせ、来店するたびにワクワクするような体験を提供したいと考えています。

また、利便性をより高める取り組みも必要です。現在、「HAPPAY」のチャージ方法は現金もしくは銀行口座チャージに限られています。今後チャージ方法を拡大することは必須ですが、そうなると手数料の問題が発生します。この辺りのバランスを考慮しながら、利用者が使いやすい決済方法を目指したいですね。

もう1つ、アプリ上で広告を展開していきたいと考えています。現状は広告を掲載する場所がないので、「HAPPAY」を通してお客様にお買い得情報をお知らせする機能を搭載し、利便性をアピールしたいですね。

—ツルハグループが目標とする自社Payの比率と、それを達成した際のコスト削減効果をどれくらい見込んでいますか?

小橋:キャッシュレス決済全体で「HAPPAY」が占める割合を4分の1にすることが目標です。

現在、当グループの売上は年間1兆円規模。将来的にはそのうち半分の4,000億〜5,000億円をキャッシュレス決済が占めるようになる想定です。このうち4分の1を「HAPPAY」が占めれば、年間10億円以上の手数料が抑制できると考えています。その分をお客様に還元し、お買い物をより楽しんでいただくための取り組みを強化したいですね。

—「HAPPAY」だけでなく、ツルハアプリ全体では今後どのようなことに取り組んでいかれますか?

大崎:当社の直近の中期経営計画では、デジタル会員比率を50%まで引き上げることを目標として、今期のアプリのダウンロード数920万件を目指しています。現状は順調に推移していまして、今期中の目標の達成と、その先の1,000万件ダウンロードに向かって走り出そうというところです。

今後はUI/UXを含め、より使いやすいアプリを目指して改善を重ねていきたいと思います。昨年の改修では、クーポンをあらかじめお気に入り登録して、レジで一斉に使えるようにする機能を追加するなどしましたが、よりアプリを進化させ、お客様にとっての使いやすさを追求していきたいですね。

当社では、デジタル技術を活用し、お客様一人ひとりのニーズに合わせた「One to Oneマーケティング」を掲げています。お客様との接点としてアプリを重要な「入り口」と考え、アプリを介してお客様一人ひとりに寄り添った心地よい販促やサービスを提供できるよう、引き続き尽力してまいります。

小橋:昨今、生成AIが加速度的に進化しています。今後は生成AIの技術を活用し、アプリ上でヘルスケアや医薬品、ビューティーに関する情報の発信や、商品を選定する際のアドバイスなど、お客様サポートを充実させていきたいですね。

また、バーチャルとリアリティとの融合も進めていきたいと考えています。たとえば自分のほしい商品が店舗のどこにあるかをアプリ上で示し、短時間でその場所にたどり着けるようにする。また、各商品の特徴を表示して商品選びの参考にしていただく。

小売業界では働き手不足に悩む企業が少なくありませんが、アプリを活用したこうした接客サービスを提供することで、お客様にストレスを感じさせないよう工夫することができます。お客様との接点の起点となるアプリに、店舗の課題を解決するような機能を搭載していく必要があるのではないかと考えています。

ー本日はありがとうございました。

<アジア最大級のドラッグストアフェスティバル>第24回JAPANドラッグストアショー8/30〜9/1に東京ビッグサイトで開催!

一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会(会長:塚本厚志/所在地:東京都千代田区)は、生活者のセルフメディケーション を支える様々な商品・情報・システムが一堂に集結する展示会「第24回JAPANドラッグストアショー」を2024年8月30日(金)~9月1日(日)に開催します。

今年のテーマは「これからの多様性のある社会に向けたドラッグストアの挑戦〜自分にあったセルフメディケーションを探して〜」です。SDGs、女性活躍、リスキリングなど一人一人の生き方や働き方が多岐にわたって尊重される時代になってきています。ドラッグストアの最近の新商品でもSDGs、フェムケアなどを意識した商品が増え、今までとは違った売り場作りや接客環境、エコ意識が求められています。ドラッグストアの店頭では、赤ちゃんから高齢者までの多様な商品を取り扱っていることなどから今回のテーマとなりました。業界の課題や今後の取り組みに関する紹介のほか、出展商品の注目をより高める施策や来場者へセルフメディケーションを効果的に推進していくイベントを企画しています。

開催概要

会  期:2024年8月30日(金)〜9月1日(日)10時〜17時
※一般公開日は8月31日(土)・9月1日(日)

■会  場:東京ビッグサイト東展示棟3、4、5、6ホール

■出展規模:358社1,161小間程度(6月24日時点)

■概  要:生活者のセルフメディケーションを支える様々な商品・情報・システムが一堂に集結する展示会です。様々なイベントが企画されています。

■主  催  者:一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)

■協  賛:オールジャパンドラッグ株式会社
株式会社ニッド・日本ドラッグチェーン会

■後  援:厚生労働省、経済産業省、環境省、文部科学省、東京都、江東区、公益社団法人日本薬剤師会、一般社団法人日本保険薬局協会、公益財団法人日本ヘルスケア協会、一般社団法人日本私立薬科大学協会、中国チェーンドラッグストア協会(CACDS)、全米チェーンドラッグストア協会(NACDS)、香港貿易発展局(HKTDC)、台湾貿易センター(TAITRA)、特定非営利活動法人日印国際産業振興協会(JIIPA)、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、日本一般用医薬品連合会、日本OTC医薬品協会、日本ジェネリック製薬協会、日本化粧品工業会、公益財団法人日本健康・栄養食品協会、一般社団法人ペットフード協会、株式会社プラネット

■公式サイト:https://www.drugstoreshow.jp

主な開催イベント

■一般来場者向けイベント「夏祭り・縁日」
SDGsをテーマに「学びと遊び」を取り混ぜた楽しい夏祭りを今年も開催します。家族をメインターゲットに、遊びながら学べる体験型学習コーナーを設置しました。古着やペットボトル、プラスチック容器などを会場に持参することでリサイクルを体験して学び、ご褒美にチケットをゲットすることができます。チケットは会場内の「ドラックストアショーお祭り広場」で使用できます。かき氷、綿菓子、射的、スーパーボールすくいなど人気の屋台がずらりと揃います。夏にふさわしく親子で楽しめるイベントコーナーです。子ども向けのお仕事体験として「薬剤師体験」「メイクアップ体験」を実施予定です。

■Men’s Beautyアワード2024
今回で4回目の開催となる男性を対象としたビューティアワードです。8月31日(土)の午前11時から東展示棟3ホールのイベントステージで開催する予定です。美容男子を選出する「Beautyスキンケア部門」、ナイスミドルを選出する「Beautyミドル部門」、健康長寿な方を選出する「Beautyライフスタイル部門」など9つの部門で選出し、表彰&受賞者によるトークショーを開催します。(詳細は追ってご案内します)

■特別企画セミナー
業界関係者注目のビジネスセミナーを8月30日(金)・8月31日(土)に、一般生活者向けのライフスタイルセミナーを8月31日(土)・9月1日(日)に開催します。講演テーマやタイムスケジュールなどは追ってご案内します。

■食と健康アワード2024
食と健康にかかわるすべての商品のうち、2023年~2024年春夏の新商品と同年に特筆した動きのあった既存品を対象に 、 審査委員による選考会を経て「食と健康アワード2024」受賞商品を選出します。 選出された商品は会期中に表彰を行います。

■新商品コレクション2024
出展社から1年間に発売された新商品を一堂に集めた展示コーナーです。新たな生活提案としてシーンごとに分類して展示。来場者からの好感度投票を行い、人気の商品には賞を授与しています。

注目の出展ゾーン

■フェムケアゾーン
政府の女性活躍の提唱により、女性の健康促進を行うことで経済効果も期待され、この数年で産業が加速的に伸びています。ドラッグストアでは女性の生理用品等は既存品が多く扱われてきましたが、業界独自の「フェムケア」カテゴリーを設定することで新しい製品・システム・サービスを持つ新規事業者の参入や、異分野との協業など今後拡大の期待が見込める産業と考え、さらなる市場の拡大および新規出展促進ゾーンとして展開します。テーマを「女性の健康は社会の未来~ありのままの私へ、Love Your Own Choice !~」と定め、各種体験やミニセミナーを通してドラッグストアの「フェムケア」をご提案します。

■食と健康ゾーン
「食」は毎日を健康で元気に暮らすには欠かせないものであり、ドラッグストアでも市場拡大が進んでいます。出展社による商品展示や試飲・試食のほか、セルフチェック測定体験や管理栄養士相談コーナーを設け、新しい商品を探すヒントをご提案します。「食と健康アワード」は「食と健康に関わる全ての食品」の中から優れた商品を表彰します。

その他出展ゾーン

・ヘルスケアゾーン:医薬品、医薬部外品、医療用品、検査キット、健康器具、サニタリーなど
・ビューティケアゾーン:ヘアケア、ボディケア、ハンドケア、ネイルケア、化粧品、美容器具など
・SDGsゾーン:SDGsに根ざして製造開発された商品、プラスチック・食品ロスの削減など
・ライフケアゾーン:体温計、血圧計、機能性ウエア、マッサージ関連器具、シニア介護など
・ホームケアゾーン:日用消耗品、台所用品、トイレ用品、バス用品、紙製品、洗濯用品など
・ペットケアゾーン:ペットフード・飲料、ペット用サプリメント、アクセサリー用品など
・エンジョイライフゾーン:文房具、事務用品、デジタル文具、生活雑貨、レジャー用品など
・フーズ&ドリンクゾーン:一般食品、飲料、菓子、レトルト食品、缶・びん詰め、冷凍食品など
・ストア&ファーマシーソリューションゾーン:店舗什器、店舗内外装、POSレジ、分包機など
・その他ゾーン:業界関連媒体・メディア、書籍、各種学校など

小売業が熱視線を注ぐ「エンベデッド・ファイナンス」とはなにか?

企業が自社サービス内に金融機関を“組み込む”、エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance)。「組み込み型金融」とも呼ばれるこの概念が、顧客にシームレスな購買体験を提供するとして、小売業界で関心が高まっている。エンベデッド・ファイナンスを導入することで、実際に何ができるのか、自社Payからどうサービスを拡張させていけばよいのか。株式会社インフキュリオン Embedded Fintech事業部 ビジネス開発2部 部長の伊與隆博(いよ たかひろ)氏にお話を伺った。

自社サービスに金融機関を“組み込む”「エンベデッド・ファイナンス」

「エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance)」は、あまり聞き慣れない言葉かもしれない。直訳すれば「組み込み型金融」だ。「企業が自社サービス内に金融機能を組み込む」ことを指す。

国内で「エンベデッド・ファイナンス」への関心が高まったのは、2020年前後だ。背景には、消費者の行動様式の変化がある。総務省が発表した「令和3年通信利用動向調査」によると、生活者の74%がスマートフォンを保有。59%の人たちが、商品やサービスの購入・取引にインターネットを利用しているという。インターネットとスマートフォン経由での購買行動が定着していることが分かるだろう。

日常的な購買行動においてスマートフォンで様々なサービスを利用する「デジタル消費者」は、小売事業者とアプリを通じた接点がある。一方で、小売事業者もアプリを使って、クーポンや商品情報の配信など、販促・マーケティングを行うようになった。

そこに登場したのが、PayPayやau PAY、d払いといったコード決済だ。従来、ドラッグストア(DgS)で買物をする際は、レジで紙のクーポンを提示し、ポイントカードを読み込み、現金やカードで支払うという流れだった。コード決済アプリでは、アプリでクーポンを表示し、そのまま決済すれば、自動的にポイントまで付与される。

ただ、PayPayやd払いを決済手段として用いる場合、手数料を決済事業者に支払う必要がある。また、楽天ポイントやPontaポイントなどの共通ポイントを運営している企業に対して、ポイントの費用も負担する必要が出てくる。であれば、小売事業者が持つ自社アプリに、「自社Pay」という形で決済を組み込んでしまえばよい。

購買体験には「販促・マーケティング」「決済」「継続利用促進」と3つの段階があるが、従来の小売事業者のアプリ内における購買体験では、「決済」が抜け落ちていた。そこに決済や金融機能を組み込むことができれば、来店〜購買〜退店〜再来店をシームレスにつなげられる。こうしたユーザーの自然な購買体験を合理化したものが「エンベデッド・ファインナンス」なのだ。

小売事業者によるエンベデッド・ファイナンスの例の一つとして、UNIQLOが提供している「UNIQLO Pay」というコード決済が挙げられる。アプリに銀行口座やクレジットカードを登録すると、店頭でアプリをかざすだけで支払いが完了する仕組みだ。アプリを通じてお客に多様な購買体験を提供し、スピーディーな決済でより利便性を感じてもらえるよう、2021年1月よりサービスを開始した。

また、百貨店を営む高島屋では、自社で運営していた「積み立て友の会」をデジタル化し、申込みから積み立て、買い物の際の支払いまですべてアプリで完結できるようにした。

DgSに目を向ければ、ツルハホールディングスがアプリ上で銀行口座チャージや決済処理、および残高管理の機能「HAPPAY」を提供。ポイントやクーポンの利用、支払いが一つのアプリで完結できる、シームレスな決済を実現している。これもエンベデッド・ファイナンスの事例の1つといえる。

エンベデッド・ファイナンスは、「ペイメント(決済)」「カード」「レンディング(融資)」「バンキング(銀行)」「インシュアランス(保険)」「インベストメント(投資/証券)」の6つの領域に分類される。

これらに共通するポイントは、それぞれに法的規制がある点だ。金融サービスは、保険であれば保険業法、銀行であれば銀行法など法律が制定されており、ライセンスを持った事業者でなければ運営できないということだ。エンベデッド・ファイナンスは、こうしたライセンサーたちのライセンスを借りてサービスに組み込むイメージだ。

新たな収益源の確保に。小売業界がエンベデッド・ファイナンスに取り組む意義

小売業界がエンベデッド・ファイナンスに取り組む意義は2つある。

1つ目は、顧客の消費体験を向上させてさらなる「囲い込み」の強化を図ることができる点だ。従来は「販促・マーケティング」「決済」「継続利用促進」のうち、「決済」のみ、現金やクレジットカード、PayPayなど外部のコード決済サービスを頼るしかなかったが、ここを自社のペイメントサービスに置き換えることで、アプリ1つあればクーポンの配信、決済、ポイント付与から事後のマーケティングまでの一連を自社でハンドリングできる。これにより、消費者の購買体験の向上と囲い込みにつながる施策が打ちやすくなる。

2つ目は、新たな収益源となるサービスを提供できる点だ。先ほど示したエンベデッド・ファイナンスの6つの類型の中でも、決済・カードと保険は非常に相性がいい。例えば、クレジットカードを持つ人へ旅行のキャンセル保険を提案する。クレジットカードを持つ人が旅行をする際、多額の現金を持ち歩かずクレジットカードで決済する傾向がある。そこで、夏休み前に旅行のキャンセル保険についてダイレクトメールを打つと、契約が取りやすい傾向がある。

DgSでエンベデッド・ファイナンスを導入した場合、決済データをもとに、ベビーおむつを購入している人には学資保険を、機能性表示食品など健康に気を遣った商品を購入している人には医療保険を勧めるといったことが可能となる。これまでも、ID-POSデータを使ってそうした提案をすることはできたが、アプリに決済機能をエンベデッドすることで決済登録時に本人認証が行われるため、ユーザー属性の確からしさを担保することができ、より正確にセグメントを絞り込んで保険の提案を可能にする。

近年、多くのDgSが、顧客への「トータルヘルスケア」をテーマに掲げている。「薬を売る」だけでなく、生涯に渡ってお客様の「健康な明るい人生を支えること」をミッションとし、サービスを提供しようとしている。こうした取り組みも、エンベデッド・ファイナンスを導入すれば次のように実現できる。

まず、日常の消費は、自社のアプリに組み込んだ決済機能が担う。結婚や出産などのライフイベントが発生した場合、アプリまたは店頭で保険の見直しを提案したり、ローンを勧めたりする。決済データから介護用おむつを購入していることがわかれば、終活に向けて保険や信託を提案することができる。

さらに一歩進めれば、歩数アプリと連携して、健康的な生活をしていると推測される人は自動的に保険料が安くなるというような提案も可能になってくるだろう。 

「特別なリワード」で顧客ロイヤリティを高め、ファンを増やす

ポイントカードの発行や、ポイントアプリの提供まではすでに多くのDgSが実践している。インフキュリオンではさらに、エンベデッド・ファイナンスで自社Payを導入し、決済手段まで自社でまかなうことを提案する。

自社Payを利用する顧客は、その事業者の熱狂的なファンと言っていい。こうしたファンに向けて「特別なリワード」を提供することで、さらに強力な囲い込みを狙う。熱狂的なファンが増えれば、それだけ多くの決済データが取得でき、そのデータを他の事業に還元することが可能となる。

自社Payを導入することは、LTVの向上だけでなく、他社クレジットカードやコード決済の利用により発生していたキャッシュアウトの抑制にもつながる。

自社Payを含めたアプリをうまく展開しているのがドン・キホーテだ(運営:PPIH)。同社はmajicaアプリにポイント機能と決済機能を搭載。アプリで決済することでポイント料率が高くなるなど、特別感を打ち出している。このことで同社の自社Payを含む自社決済費比率は40%を超えており、2025年6月までに50%超を目指そうと計画している。(出典:https://ppih.co.jp/ir/library/earnings/pdf/PPIH_FY2023_Q2_Presentation_J.pdf

また、人気商品であるカラーコンタクトを購入する際、あらかじめ処方せんや健康保険証を取り込んでおくことで、原本を提示しなくてもカラーコンタクトの購入を可能にした。「処方せんと健康保険証を都度提示するのは面倒だ」という消費者のペインをアプリによって解消した好事例だ。

現状、DgSでは顧客の来店頻度を増やすために、オフライン施策を充実させる傾向にある。例えば、店舗に健康診断書を持参すると、栄養士が食生活に関するアドバイスをしてくれるといったサービスだ。エンベデッド・ファイナンスを導入すれば、アプリ上で保険を売るといったクロスセルの動きができるようになる。

現在はまだエンベデッド・ファイナンスがスタートしたばかりで大きな成功事例は聞こえてこないが、今後はオフラインとオンラインを組み合わせたサービス事例が出てくるだろう。町のコミュニケーションスペースとなるポテンシャルを秘めたDgSならではの今後の動向に期待する。

信頼できるアドバイザーを見つけることがカギに。エンベデッド・ファイナンス導入のポイント

最後に、小売事業者がエンベデッド・ファイナンスを導入する場合の手順と導入のポイントを紹介したい。

エンベデッド・ファイナンスには3つのプレイヤーが存在する。1つ目が、DgSなどのBtoC事業者。2つ目が、銀行や保険などの金融事業者。3つ目が、BtoC事業者と金融事業者をつなぐ「イネーブラー」だ。

BtoC事業者が自社Payを導入したいと考えた場合、連携先の金融事業者(銀行・企業・機構等)と、エンベデッド・ファイナンスを技術的にサポートするためのイネーブラーを選定する。この「イネーブラー」は、金融事業者とBtoC事業者を結ぶテクノロジー企業だ。多様な金融機能をサービスに組み込む際に複数の金融事業者と連携を取ることがあるため、イネーブラーを介した商流が注目されている。

このとき注意したいのが、BtoC事業者はまず、ユーザーに新しい購買体験を提供したいという強い思いと、サービスに関する明確なビジョンを持つことが重要だということだ。

さらにエンベデッド・ファイナンスを導入するうえで最大のポイントとなるのがイネーブラーの選定だ。金融システムは複雑で強固にできている。そうしたシステムを自社アプリにつなぎ込むために、共に粘り強く取り組んでくれる事業者を選びたい。インフキュリオンではこうした技術的なサポートの他に、「そもそもエンベデッド・ファイナンスとは何か」といった相談にも対応する。こうしたアドバイザーを見つけることが、エンベデッド・ファイナンス導入の第一歩と言えよう。

BtoC事業者と金融事業者をつなぐイネーブラーの登場で、エンベデッド・ファイナンス導入に対するハードルは技術的にもコスト面でも低くなってきている。まずはイネーブラーに相談するところからスタートしてみてはいかがだろうか。

監修:株式会社インフキュリオン 伊與隆博

プロフィール

2004年株式会社クレディセゾン入社。提携クレジットカードの企画、 営業を経て、クレジットカード会員向けのデジタルサービス企画開発などに従事。 2019年に提携先と協業でクレジットカードの入会受付、本人確認、発行、 決済利用までをデジタル完結し、即日利用が出来るデジタルカードサービスの構築に参画。 2020年5月よりインフキュリオンに参画し、Embedded Fintech事業部ビジネス開発部長として 金融機関や流通小売の新規事業立ち上げに参画中。

 

[緊急提言]セルフメディケーション推進に逆行する「一般用医薬品の販売規制」に反対します!

令和5年(2023年)の2月から開催されていた『医薬品の販売制度に関する検討会』のとりまとめ資料が令和6年(2024年)1月12日に公表された。これはドラッグストア(DgS)の一般用医薬品の販売規制であり、DgSに大きな負担を強いる、「DgSつぶし」と言ってもいい内容である。もっとも問題なのは、日本社会の医療費削減に貢献する「セルフメディケーション」の推進に完全に逆行していることだ。今回の規制強化は、DgSにとっても、地域の患者さんにとってもメリットのないものである。月刊MDは断固として反対する。(月刊MD主幹 日野眞克)

医薬品の販売制度に関する検討会 とりまとめ資料

濫用等のおそれのある医薬品の個人情報記録・保管の問題点

『医薬品の販売制度に関する検討会』で話し合われた一般用医薬品の販売規制で特に問題なのが、(1)濫用等のおそれのある医薬品の販売制度に関する問題、(2)一般用医薬品の分類と販売方法に関する問題の2つである。

(1)濫用等のおそれのある医薬品の販売規制で問題なのは、A.購入者の個人情報の記録・保管、B.購入者の手の届かない場所に陳列することなどが盛り込まれていることだ。

A.購入者の個人情報の記録・保管に関する規制強化に関して、『医薬品の販売制度に関する検討会』のとりまとめ資料によると、濫用等のおそれのある医薬品は、原則一人一包装単位の販売とすると書かれている。

また、「ア.20歳未満の者による購入の場合、イ.20歳以上の者による複数個または大容量製品の購入の場合」などについては、「購入者の氏名等を写真付きの公的な身分証等の氏名等を確実に確認できる方法で確認を行い、店舗における過去の購入履歴を参照し、頻回購入でないかを確認する。また、販売後にはこれらの情報及び販売状況について記録しその情報を保管する」と書かれている。

JACDS(日本チェーンドラッグストア協会)は、「購入者の氏名・年齢等を記録・保管すること」に明確に反対している。反対の理由は、顧客管理のためのシステム開発費や運営コスト等、ドラッグストア等の販売店への負担があまりにも大きいことだ。また、個人情報保護の観点からも、サイバー攻撃による個人情報漏洩のリスクがあり、個人情報の記録・保管に拒否反応を起こす消費者も多い。過剰な「本人確認」は医薬品購入の心理的なハードルになり、セルフメディケーション推進を大きく阻害することになる。

そもそも個店で個人情報の記録・保管を行ったとしても、近隣の店舗で買い回りされれば、濫用を防ぐことはできない。検討会構成員からも、過剰な規制に対する濫用防止対策としての実効性の低さついて、「バランスを欠いた措置」との指摘があった。

令和6年(2024年)3月22日に開催された厚労省の「医薬品等行政評価・監視委員会」において、委員長を務める慶應義塾大学大学院法務研究科の磯部哲教授は、この規制強化について「確信犯的に買い集めようとしたときに、本当にそれで防げるのか」と疑問視した上で、20歳で区切る「合理的な根拠が必要」と指摘し、エビデンスに基づかない検討会のとりまとめ内容に疑義を呈した。規制改革推進会議など各方面からも同様の指摘がなされており、検討会の議論の進め方そのものに疑問が投げかけられている。

濫用等のおそれのある医薬品の陳列方法の変更の問題点

濫用等のおそれのある医薬品の販売規制の第2である「B.購入者の手の届かない場所に陳列すること」に関しては、その医薬品を必要とする購入者の利便性が著しく損なわれる過剰規制である。

現物は医薬品カウンターの中、「売場は空箱陳列」という運用が想定されるが、このような規制強化は現実的ではない。約1500アイテムもあるといわれている濫用等のおそれのある医薬品の空箱陳列は、市販薬メーカーの大きなコスト負担につながり、ドラッグストア等の販売店のオペレーションの煩雑さにつながる。

濫用等のおそれのある医薬品について、若年層による濫用が社会問題化しているため、その対策は必要である。薬剤師・登録販売者が、濫用等のおそれのある医薬品の販売に際して、適切に関与する必要があることに異論はない。一方で、多くの適正使用者のアクセスを阻害しないことや販売現場を疲弊させることのない、実態に即した販売方法の検討も重要であろう。

濫用等のおそれのある医薬品とは、「エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、ブロモバレリル尿素、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン」の水和物及びそれらの塩類を有効成分として含有する製剤のことである。

一般用医薬品の濫用事例を示す文献である一般用医薬品による中毒患者の現状とその対策」(廣瀬正幸他 日臨救急医会誌・JJSEM)では、「本検討では『濫用等のおそれのある医薬品』として指定されている鎮咳薬による薬物中毒患者は全体の6%と決して多くはない」と書かれている。リスクの低さに対して過剰規制であると思う。

医薬品販売のあり方について、今後、細かな運用ルールはガイドライン等を作成することになると思われるが、セルフメディケーションの推進を阻害しないように、国民のための販売制度になることが求められる。

登録販売者の多くは医薬品の説明責任を果たす

規制強化の第2は、(2)一般用医薬品の分類と販売方法に関する問題である。この問題に関しては、A.第二類医薬品と第三類医薬品を統合することと、B.薬剤師等(登録販売者含む)をレジ等に常駐させることと検討会の資料には書かれている。

この規制強化が進むと、薬剤師が不在時には販売できない第一類医薬品と同様に、登録販売者がレジにいなければ第二類、第三類医薬品を販売できなくなる。地域の購入者の利便性は著しく損なわれる。ドラッグストアつぶしを意図したと勘ぐりたくなるほど時代に逆行する規制強化である。

検討会のとりまとめ資料によると、「薬剤師・登録販売者は必要な情報提供などを行った上で医薬品を販売するという役割を担う専門家であり、薬剤師・登録販売者が一切関与しないまま医薬品が販売されるべきではない」と断言している。

この規制強化の背景には、検討会での「登録販売者は医薬品に関する説明責任を果たしていないではないか」という指摘がある。しかし、その指摘を裏付けるようなエビデンスは一切示されていない。

一方で、厚労省の「令和4年度医薬品販売制度実態把握調査結果」によれば、「第二類医薬品等を販売する際の対応状況」として、「相談内容に関して、適切な回答があった」のは、店舗販売業全体で99.1%であった。また、「その相談に対する回答が薬剤師または登録販売者により行われた」のは、店舗販売業全体で90.8%であった。さらに、「濫用等のおそれのある医薬品を複数購入しようとした時の対応」について、「販売方法が適切であった店舗の割合」は店舗販売業全体で76.9%(令和3年度調査では、81.9%)であったことが示されている。

この調査結果を見れば、濫用等のおそれのある医薬品の販売対応については、更なる改善の余地があると言えるが、その他の一般用医薬品について、既に一定の説明責任を果たしていると言えるのではないだろうか。

大手ドラッグストア幹部からは『一般用医薬品を販売する際、お客様に対して「お薬のご説明は必要でしょうか?」と質問しても99%の方が必要ないと回答される。それどころか、「昔から使っているので説明は必要ない。いちいち聞くな!」とクレームに発展することすらあるとの声が聞こえる。この規制強化は誰のためのものなのだろうか?一般用医薬品は「購入者の選択により使用されることが目的とされている医薬品」であることを踏まえれば、このような購入者の声も十分に考慮する必要があるだろう。

そもそも従来の一般用医薬品の安全性・適正使用は十分に担保されてきた。たとえば、第三類医薬品の副作用報告割合は「0.00002%」と極めて低く、極めて安全であることが証明されている。

業界関係者の幹部からは、「エビデンスのない第二類医薬品と第三類医薬品の統合には反対し、現行の医薬品区分と販売制度の維持が必要ではないか」という意見もある。

ドラッグストアは地域の健康を守るインフラである

日本のドラッグストアは、総売上高9兆2,022億円(内調剤売上1兆2,811億円、一般用医薬品売上9,906億円)、総店舗数は2万3,041店舗(2023年調査)と全国に店舗網がある。出店立地は都市部だけに止まらず、郊外立地、田舎立地、離島・へき地にも店舗展開している。ドラッグストアは、コンビニに次いで店舗数が多く、地域社会のインフラである。

しかも、医療機関、調剤薬局の多くが休業する土日祝日(年間120日)も営業し、夜間の時間帯に営業する店舗も多い。急な体調不良の際にも、必要な一般用医薬品をすぐに購入することができる。ドラッグストアにおける一般用医薬品の販売金額は約1兆円と市場シェアの約80%を占めている。ドラッグストアで一般用医薬品を販売促進することで、セルフメディケーション推進、医療費軽減化に大きく貢献している。

すでに地域の健康を支えるインフラであるドラッグストアの一般用医薬品の販売規制強化は、地域生活者の利便性を著しく損なう過剰規制であり、セルフメディケーションの推進による医療費削減に逆行する間違った規制強化である。地域インフラであるドラッグストアの健康ステーションとしての灯を消してはならない。

※この記事は紙のメディアである月刊MD(マーチャンダイジング)と、無料閲覧できるウエブメディアMD NEXTの両方で掲載しています。とくにMD NEXTの記事に関しては拡散していただき、一般用医薬品規制強化に反対する機運を盛り上げましょう。

2024年最新版:小売業界キャッシュレス決済完全ガイド

スマートフォンの普及や消費者行動の変化により、キャッシュレス決済比率が伸びている。経済産業省でも将来的に「フルキャッシュレス社会」を目指すとしており、今後もこの流れが止まることはないだろう。ドラッグストア・スーパーマーケットをはじめとするチェーンストアにとっても、レジの省力化や顧客の囲い込み効果といったメリットがあるキャッシュレスを導入しない手はない。小売業界のキャッシュレス事情や自社Payの魅力について、株式会社インフォキュリオン Embedded Fintech事業部 ビジネス開発2部 部長の伊與隆博(いよ たかひろ)氏にお話を伺った。

小売業界をとりまく決済環境の動向

日本におけるキャッシュレス決済比率が右肩上がりに伸びている。経済産業省の発表によると、2022年のキャッシュレス決済比率は36.0%と、前年の32.5%に比べ3.5%アップ。同省が掲げる「キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度にする」という目標に迫る勢いだ。直近ではスマートフォンアプリによるコード決済の利用率が伸び、消費者の中でもキャッシュレス決済は当たり前のものとなりつつある。

 

キャッシュレス決済比率が飛躍的に伸びている背景には、消費者の行動や意識の変容がある。

決済市場では2018年にPayPayがサービスの提供を開始したことで、ゲームチェンジが起きた。それまで、キャッシュレス決済の主体はクレジットカードだった。しかし、クレジットカードは18歳以上で、審査を通らなければ所持できない。

そこに登場したのがコード決済だ。今や、スマートフォンは年代問わず、日常的に欠かすことのできないツールとなっている。かつ、コード決済であればサービスを比較的簡単に利用することができ、現金をチャージして使用するプリペイド形式のため使いすぎ防止の観点からも安心感がある。折しもコロナ禍が発生し、非接触による決済へのニーズが高まったことも、スマートフォンアプリを用いたキャッシュレス決済の利用を後押しした。

消費者にとっても、財布から小銭を探して支払いをするよりも、スマートフォンをかざすだけで決済が完了するほうが素早く手軽だ。そうした高い利便性も、スマートフォンによるキャッシュレス決済の定着を促進している。

また、小売事業者の顧客囲い込み戦略もキャッシュレス決済の利用率を押し上げる理由の1つとなっている。小売事業者にとって、クレジットカードや各種コード決済、共通ポイントは、店舗に集客をするための有効な手段だ。これらを活用して集客した顧客に対し、小売事業者は自社ポイントサービスを提案することで店舗への再来店を促す。

「ここに自社店舗のみで利用できる決済手段(自社Pay)を組み込むことで、さらに顧客に対しロイヤリティを高めることができます」と伊與氏は提案する。「ポイントサービスだけでなく、決済手段まで組み込んだ自社アプリを利用してくれる顧客に対しては、“特別なリワード”をうまく活用することで、さらに踏み込んだマーケティングが可能となるでしょう」。

キャッシュレス決済の歴史

日本の小売業界におけるキャッシュレス決済の歴史は、戦後復興期までさかのぼる。白黒テレビや冷蔵庫、洗濯機といったいわゆる三種の神器が登場し、それを買い求める消費者が、物販クレジットのローン分割を利用しはじめた。ただ、物販クレジットの場合、ローンを組むために書類に記入し、クレジット会社の審査に都度通らなければならない。そこで1980年代に登場したのがクレジットカードだ。一度審査を通れば、与信枠内でいくらでも買い物ができる利便性が評価され、あっという間に広まった。

やがて、VISAやJCBなどのクレジットカードに小売事業者の屋号がついた提携カードが登場すると、提携カードを持つ顧客に対し特典を付帯して囲い込みを始めた。

ただ、クレジットカードは審査を通過した限られた人にしか持つことができない。そこで、より多くの顧客が利用できるサービスで顧客ロイヤリティを高めるために生まれたのが、ポイントカードや「ハウスプリペイド」と呼ばれる電子マネーだ。

その後、スマートフォンが普及したことで、プラスチックや紙のカードに情報を載せていた電子マネーが、スマートフォンアプリへと形を変えた。PayPayや楽天Payといったコード決済の登場である。

顧客の囲い込み効果と本人確認、決済機能と、できることは電子マネーと大きく変わらない。ただ、スマートフォンアプリであれば広告やクーポン、位置情報を使ったプロモーションなどが可能だ。ユーザーに届けられる情報量は、電子マネーとは比べものにならないほど増えている。

四六時中肌身離さず持ち歩くスマートフォンにポイントや決済機能が組み込まれていれば、ポイントカードを忘れたことによる機会損失も起きにくい。そうした利点も、スマートフォンアプリによるコード決済が広がる一因となっている。

キャッシュレス決済、4つのメリット

小売事業者がキャッシュレス決済に取り組むメリットは多い。1つは、レジの省人化だ。キャッシュレス決済は釣り銭のやり取りがないため、円滑な決済が可能だ。レジスタッフの関与を減らし、負荷を軽減できる。大手小売事業者ではセルフレジ、セミセルフレジを導入する店舗が増えているが、そこにキャッシュレス化が進むことで省人化にも貢献する。労働人口の不足が深刻化するなかでは大きなメリットではないだろうか。当然、採用費も抑えられる。

2つ目が、売上管理の効率化だ。キャッシュレス決済は現金でのやり取りとは異なり、データ上での売上記録・管理が可能なため、作業の多くを自動化できる。売上データを蓄積して分析・活用することで、効率のよい運営も可能となる。また、いわゆる「内引き」などの不正を防止できることから、セキュリティ効果も期待できる。

3つ目は、機会損失の防止だ。今や、「財布を自宅に忘れても、スマートフォンは忘れない」というほどスマートフォンは生活の中に浸透している。スマートフォンに決済アプリを入れていれば、現金を持ち歩かない消費者でも店頭での機会損失を防止し、売上増加効果が見込める。

4つ目が、顧客体験の向上による囲い込み効果だ。そもそも、電子チラシやクーポン配布といった購買の動機付けをするデジタルマーケティングツールとキャッシュレス決済は相性がいい。スマートフォンでチラシを見て、クーポンを取得し、決済するという購買行動の動線をつくることで、消費者はお得に買い物ができる。インフキュリオンが実施した「キャッシュレス決済未導入店における機会損失」に関する調査では、キャッシュレス決済を利用する4割強のユーザーが、キャッシュレス決済に非対応の店舗の利用を避けるという結果もある。

一方で、キャッシュレス決済を導入することにはデメリットもある。その1つが、故障や通信障害など、イレギュラーが発生し機器が使用できなくなると、決済自体が行えなくなる点だ。前述したように、経済産業省では今後キャッシュレス利用比率8割を目指すと宣言しているが、不足の事態に備え、一定の現金決済を残した運営をすることが必要とされる。

そして、キャッシュレス決済の最大のデメリットとなるのが決済手数料などのコストだ。キャッシュレス決済を導入する際、決済に対応したクレジットカードやバーコードなど情報を読み取る端末が必要となる。また、機器の取扱いを周知するためのマニュアル作成や研修といった従業員への教育コストも必要だ。

コストがかかることでキャッシュレス決済に二の足を踏む小売事業者は少なくない。しかし、キャッシュレス化への大きな流れが止められない以上、いかにコストを最小に抑えて運営するかを考えるのが得策だ。

伊與氏は以下のように語る。

「インフキュリオンでは、手数料負担を抑える方法を推奨しています。例えば、クレジットカードの手数料は約2〜3%ですが、自社Payであればより低料率で運営が可能です」。

そこで、一般的に高料率と言われる決済手段の伸長を抑えつつ、低料率の自社Payを導入することで、顧客の満足度を維持しながら手数料負担を抑えることを提案する。

また、現金のみでの決済と比較した場合、レジ対応する従業員の人件費、現金を安全に輸送するためのセキュリティコストなどを併せれば、自社Payのコスト(システム利用、ポイント還元など)のほうが安価ですむ場合もある。

自社アプリと連動した「自社Pay」が注目を集める3つの理由

キャッシュレス決済の中でも、現在注目を浴びているのが自社Payだ。インフキュリオンでは自社Payについて、クーポンやチラシなど小売事業者がすでにCRM戦略として導入している自社アプリに決済機能を組み込んだものと定義する。

自社Payには、大きく次の3つの特長がある。1つ目が、高い利便性だ。自社Payは会員情報やクーポン・ポイント機能と連携し、一連の購買体験をシームレスに提供できる。顧客はアプリを1つダウンロードするだけで、お得に便利に買い物ができる。さらに事業者側では、顧客の購買履歴や属性情報を分析し、再来店を促すための施策を打つことが可能だ。こうした販促ツールとしても非常に有用である。

2つ目が、決済機能の拡張性・柔軟性だ。キャッシュレス決済事業者が提供するサービスとは異なり、自社Payであれば機能の拡張が柔軟に行える。地域性に合ったキャンペーンを自由に実施できたり、電子レシートやチャージ手段の拡張をしたり、顧客のニーズに対応した固有のサービス設計が可能だ。

3つ目が、サービスの拡張性だ。自社Payは決済を起点とし、顧客のLTVに寄り添ったサービスの拡張を実現する。例えば、ドラッグストアのアプリから得られた商品の購買履歴といったデータなどから、健康相談を提供したり、ライトな保険商品を提案するようなことが可能になるだろう。

また、多くのドラッグストアがポイントサービスに力を入れているが、顧客囲い込みのためにポイントを付与したものの、ポイント引当金として会計に与えるインパクトも大きい。そのため、いかに適切にポイントを使っていただくかを悩みとしている事業者は少なくない。

そこで自社Payとポイントを連携させれば、例えば自社ポイントを原資として投資商品を購入してもらうような「ポイント運用」などのサービスを柔軟に提供することも可能である。

自社Payは消費者の購買行動に一番近いサービスとして、昨今注目を集めているリテールメディアとのより深い連携も容易になるだろう。ID-POSデータなどの幅広い購買情報に基づいた広告の効果を高めるために、自社Payのチャージ完了画面にクーポンを掲載するなど、購買意欲の高い消費者に適切なタイミングで情報発信することができる。

「経済産業省がフルキャッシュ社会を掲げ、キャッシュレス利用率8割を目指すなか、今後キャッシュレス化の波は止めることができないはずです。キャッシュレス事業者にイニシアチブを握られないよう早めに施策を打つことで、キャッシュレス化の波をうまく泳ぎ切っていきましょう」。(伊與氏)

監修:株式会社インフキュリオン 伊與隆博

プロフィール

2004年株式会社クレディセゾン入社。提携クレジットカードの企画、 営業を経て、クレジットカード会員向けのデジタルサービス企画開発などに従事。 2019年に提携先と協業でクレジットカードの入会受付、本人確認、発行、 決済利用までをデジタル完結し、即日利用が出来るデジタルカードサービスの構築に参画。 2020年5月よりインフキュリオンに参画し、Embedded Fintech事業部ビジネス開発部長として 金融機関や流通小売の新規事業立ち上げに参画中。

 

2025年度には売上高1兆円規模の企業が3社登場![月刊MD 2023年10月号の読みどころ]

月刊MD 2023年10月号の特集は恒例のドラッグストア白書です。上場12社を中心にドラッグストア(DgS)の決算数値を分析しています。 本年に発表された決算数値から何が読み解けるのでしょうか!?

2023年に発表された決算において、売上高ではウエルシアホールディングス(HD)が、1兆1,442億7,800万円で1位、次いでツルハHDが9,700億7,900万円で2位、3位はマツキヨココカラ&カンパニーで9,512億4,700万円、4位はコスモス薬品の8,276億9,700万円となりました。
順位 企業名 売上高
(億円)
1位 ウエルシアHD 11,443
2位 ツルハHD 9,701
3位 マツキヨココカラ&カンパニー 9,512
4位 コスモス薬品 8,277
5位 サンドラッグ 6,905
6位 スギHD 6,676
7位 クリエイトSD HD 3,810
8位 クスリのアオキHD 3,789
9位 カワチ薬品 2,819
10位 Genky DrugStores 1,691
11位 薬王堂HD 1,288
12位 サツドラHD 875
上位10社の売上高合計は6兆6,661億円でDgS市場の76.5%を占め、上位寡占化が進行しています。中期経営計画などから、2026年には1兆円企業が6社誕生する見通しです。マツキヨココカラ&カンパニー、コスモス薬品は2025年度に、ほぼ確実に1兆円を達成すると思われます。
図表1 DgS営業利益率ランキング
収益性、儲かり具合を見てみると(図表1)、営業利益率ではマツキヨココカラ&カンパニーが6.5%と頭ひとつ抜けています。マツモトキヨシグループ単体では7.3%とさらに上がります。都市部中心で利益率の高いヘルス&ビューティを中心に営業するビジネスモデルの恩恵です。インバウンドが戻ればさらに収益性は高まるでしょう。
郊外型中心で食品の売上構成比が40%を超えるクリエイトSDが営業利益率5.0%というのは評価に値します。継続的、安定的に経費をコントロールしています。
調剤事業も好調、この部門でDgS1位はウエルシアHDで売上高2,281億600万円、これは調剤専業チェーンを入れて3位の売上、1位がアインHD、2位が日本調剤(図表2)。出店ペースから考えればいずれウエルシアHDが1位になることも予想されます。
図表2 DgS、調剤専業チェーン、調剤事業売上高ランキング
その他、特集では各企業の「部門別売上構成比」、「商品回転率ランキング」、「交差比率ランキング」、「自己資本比率ランキング」、「ROEランキング」、「ROAランキング」、「キャッシュフロー分析」など、DgSの財務状況を徹底分析、業界関係者必読のデータとなってます。
業界への理解を深めるため、自社の立ち位置を読み解くため、是非ご購読ください!

ドラッグストア白書がデジタルで読める、月刊MD note版はこちらから

調剤薬局のデジタイゼーション・DXの現状と展望「労働環境の整備による採用効果に期待」

調剤薬局のDXと聞いて「正確で早い処方が可能になりそう」と明るい印象を抱く方は多いのではないだろうか。しかし、現状は医療業界の構造的な影響があり、それほどスムーズに普及していない現状があるという。今回は「店舗のICT活用研究所」代表の郡司昇氏に、調剤薬局のデジタル導入における課題や、調剤薬局がどのような視点でデジタイゼーション・DXに取り組めば良いかお話を伺った。

本記事のフルバージョンはこちらから【登録不要】

郡司昇氏プロフィール:店舗のICT活用研究所代表。薬剤師であり、前職ではココカラファインのマーケティングとEC事業の責任者としてグループ統合マーケティング戦略を立案・実行した。現在はIT企業の所有する技術の店舗への活用や小売業のICT戦略・戦術に関するコンサルタントとして多数の企業の課題解決に携わる。
HP: https://ngunji.com/

普及率2.6%。出足が鈍い電子処方箋

2023年1月26日から全国の調剤薬局で電子処方箋の導入が始まった。これまで紙だった処方箋がデジタルデータになることで、患者は処方箋の紛失や有効期限切れのリスクがなくなり、調剤薬局は患者の処方履歴などの情報をデータベース上で確認できるようになる。一見患者、調剤薬局双方にメリットがありそうな電子処方箋だが、運用開始から半年経った8月27日時点での導入率は2.6%にとどまっており、順調な普及状況とはいえない。

電子処方箋はいわゆるこれまで紙だったものをデジタル化するデジタイゼーションに当たる動きだ。デジタルを活用してビジネスモデルの変革を意味するDX(デジタルトランスフォーメーション)の前段階として欠かせない。しかし、ここ最近の医療業界を見渡してみるとこのデジタイゼーションもそれほど順調に進んでいるとはいえない現状がある。

例えば電子カルテは一般病院全体での普及率は57.2 %。この数字自体も決して高いとはいえないが、病床数200床未満の中小規模の病院だと48.8 %と過半数を切っている。また、院内で患者の状況を共有し部署を超えてオンライン上で指示を出せるオーダリングシステムは、一般病院全体だと62.0%、病床数200床未満の中小規模の病院だと52.3%にとどまる。

つまりこれらのデジタイゼーションは日本全国の医療機関の半分程度しか進んでおらず、特に大部分を占める町の中小の医療機関においてはいまだにアナログな人海戦術に頼っている状況が浮かんでくる。

※令和2年度厚生労働省発表資料による

郡司氏としては調剤薬局をはじめとする現場でのデジタイゼーション並びにDXのいまについてどう見ているのか。

「大手の医療機関に関しては、比較的早くからデジタルへの移行を進めてきました。例えば薬剤師が一人しかいない調剤薬局であれば調剤した薬剤をデジカメで撮影して、オンライン上で離れたところにいる別の薬剤師にダブルチェックしてもらうといったシステムを、10年以上前から運用している。また、待ち時間の短縮というところで患者が紙の処方箋をスマホのカメラで撮影して調剤薬局にデータを送ることで、調剤薬局内で長時間待たなくても完成したら受け取りに行けるというサービスも運用されています。ただ、これは大手など一部の動きで業界全体としてはあまりデジタル化は進んでいない状況です」

デジタル化しても採算が合わない

患者の生命に関わる医療情報を膨大に扱う調剤薬局であれば、業務効率化や新たな価値創出の面でデジタル化は恩恵が大きそうに感じる。データ管理や共有が容易になったり、渡し間違いなどの事故防止、さらに患者の待ち時間の短縮や情報開示など、デジタル活用の道は多岐に渡りそうだが、なぜデジタル化は進んでいないのだろうか。

一番大きな理由は…(続きはこちらから【登録不要】)

supported by  “Safie(セーフィー) 現場DXサイト”

日本の小売業界に貴重な情報と知識を提供し続けてきた月刊MD

月刊マーチャンダイジングにゆかりのある経営者の皆様から、創刊25周年を記念してお祝いの言葉をいただきました。今回は、ウエルシアホールディングス株式会社 代表取締役会長 池野 隆光氏のコメントをご紹介します!

月刊マーチャンダイジングが発刊から25周年を迎えるというこの素晴らしい節目に、心からお祝い申し上げます。誠におめでとうございます。

長い年月をかけて培われた月刊マーチャンダイジングの功績と成長は、業界内外に大きな影響を与えてきました。ドラッグストアの商業誌として、日本の小売業界に貴重な情報と知識を提供し続けてきたことに、深い敬意と感謝の念を抱いています。

月刊マーチャンダイジングは、一貫して優れた記事と独自の視点を通じて、小売業界のトレンドや動向を追い求めてきました。その情報は、数多くの経営者や関係者にとって、ビジネスの成功や成長に不可欠な存在となっています。読者の立場に立ちながら、細やかな分析と的確な指摘を織り交ぜた記事は、常に読者の期待を超える価値を提供し続けて頂いています。

25年と言う年月は小売業が大きく成長した時代であり当ウエルシアに於いては1998年(25年前)に店舗数が40店舗で売上高は127億円でありました。25年で実に売上では100倍になった事になります。

更に情報の進化はめざましく、パソコンや携帯電話の進化が情報競争も激化させる事となりました。

販売促進で主流となった「ポイント販促」についても、リライト方式からデジタル化に大きく変化し、それは小売業に於いて軽視出来ない状況となっております。当社では月刊マーチャンダイジングの年間購読者を募集して、自主的に学ぶツールとして多くの社員が活用しております。

ほぼ時を同じくして誕生したのは、日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)であります。JACDSが設立されたのは1999年6月で、2024年に25周年を迎えます。設立翌年の1997年の実態調査では、ドラッグストアを運営する企業数は579社で11,787店舗でした。

それが、昨年度の調査では381社22,084店舗と、企業数は198社減少し、一方、店舗数は10,297店増加しました。2009年の薬事法改正で医薬品登録販売者が誕生した事がドラッグストアの発展に大きく寄与しました。

JACDSの設立は宗像守氏、根津孝一氏、松本南海男氏、明神正雄氏、小田兵馬氏たち皆様の想いと情熱により設立にこぎつけたと聞きました。JACDSの設立に関わり、代表幹事の明神正雄氏は次のように挨拶されました

「ドラッグストアのここ2~3年の急成長は目覚ましいものがある。年率30%以上の売上の伸びを示している企業も数多く存在しているがそれが真に地に足のついた成長小売業であるかは疑問視される部分もある。規制が緩和されればさらに多くの業態が業界に参入すると思われる。そこで近い将来やってくる真の競争を勝ち抜くために、ドラッグストアを大きな産業にすべく発足させた。これからのドラッグストアは事業と医療の2足のわらじを履き、日本の生活者に貢献できるような産業にしていく必要がある。」(著書 山本武道 「ドラッグストア真化論」評言社より転載しました)

この様な大きな変化の中で企業とのパートナーシップを築き、さまざまなイベントや研修を通じて、業界全体の発展に寄与していることも忘れてはなりません。ご協力いただいた企業や専門家の方々との連携によって、ドラッグストア業界の未来に対する洞察力を高め、革新的なアイデアや最新の販売戦略を共有することで月刊マーチャンダイジングは常に時代の先端を走り続け、情報のリーダーとしての地位を確立してこられました。

これからも、月刊マーチャンダイジングは常に時代のニーズに対応し、読者の期待に応えるために進化し続けることでしょう。新たな技術やトレンドを取り入れながら、小売業界の未来を見据えた情報を提供し続けることは、ますます重要な役割となっています。

今後も、月刊マーチャンダイジング誌が情報のリーダーとして、小売業界の発展と繁栄に貢献し続けることを期待しています。さらなる飛躍と成功を祈りつつ、心からのお祝いと感謝の気持ちをお伝えします。

25周年おめでとうございます!これからも素晴らしい成果といっそうの活躍を期待しています。

改めて日野社長様に心からの祝福を込めて「おめでとうございます!」