店舗に隠された工夫の数々を徹底分析!!

「ベルク」が開発したハードディスカウント「クルベ」 の全容

埼玉県に本拠地を有し関東エリアに134店舗(8月末)を展開するSM企業のベルク(原島一誠社長)が新たなディスカウント業態の店舗を2003年7月29日、オープンした。この店は“よく見る安売りの店”の域を超えた、かなり“衝撃的なハードなディスカウント型”である。(ロジカル・サポート代表 三浦 美浩)(月刊マーチャンダイジング2024年2月号より転載)

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標準化徹底で営業利益4.6%。199円弁当、29円豆腐の驚き

最初にベルクという企業の特徴を説明しておこう。ベルクは1959年に「主婦の店秩父店」として埼玉県に創業した企業で、2023年2月期の営業収益は3,108億円。営業利益は140億円、営業利益率は4.6%、SMとしては高い利益率を誇る。

経営の特徴は「600坪型で標準化を徹底するチェーンストア経営」である。標準化、簡素化、差別化、集中化を徹底して人的生産性を追求することで1人当り売上高は3,440万円となり「1人当り売上高は、“同業他社の1.29倍”の生産性を実現」している(SM24社平均は2,664万円)。

徹底したローコスト経営で労働分配率38.9%、設備分配率16.0%で営業総利益率に占める利益の割合を示す利潤分配率は15.6%となっている(いずれも『2023年2月期決算説明会資料』より)。

最近では、2023年9月に従業員の髪色・髪型自由、ピアス・ネイルも制限緩和、を公表し話題となった。

ベルクは低価格イメージの強いチェーンで、チラシ掲載も2桁売価が多く価格訴求力は高い。結果、2023年上半期(8月期)の既存店売上高は昨対107.9%、既存店客数102.7%と客数増になり支持を高めた。10月も既存店売上高110.6%、客数105.6%、客単価104.7%となり、客数の伸びが既存店売上高を押し上げている。

そのベルクが2023年7月に開店したのが、既存の江木店を改装した新業態「クルベ江木店」である。店舗名の「クルベ」は(ジョークでも何でもなく)“Challenging the limits of Belc=ベルクの限界にチャレンジする店”である(既存の「Belc」の屋号は“Better Life with Community=地域社会の人々により充実した生活を”の略)。

クルベの立地は上越新幹線高崎駅から車で3分、徒歩でも20分程度の都心部である。駅周辺の中心市街地には西口に高崎タカシマヤ、高崎オーパ、東口にヤマダ電機の大型店があるが、市周辺にはイオンモール高崎や地元のカインズ、ベイシア、栃木県発祥のカワチ薬品など大型店が多く出店し、店周辺は空洞化が進む。

一方、駅に近いこともありクルベのある江木町は高齢化率が20%以下と若い生活者が多いエリアでもある(高崎市「第3期高崎市中心市街地活性化基本計画」より)。

売場面積は既存店改装ということで約600坪。ベルクのWEBサイトにはクルベのポリシーとして「驚きの安さ」「潔いサービス」「幸せゾクゾク提供中」の3点を掲げている。

写真2 もやしは17円、バナナ89円など店頭の青果は2桁売価が多い。アイテムの絞り込みと段ボールやコンテナをそのまま使った省力什器の活用で価格訴求力を高めている(店内写真は10月19日編集部撮影)

店頭には「毎日が驚きの安さ」と大書され、店内にはバナナ89円(価格は本体価格、10月19日視察時、以下同)、もやし17円、プライベートブランド(PB)“くらしにベルク”の豆腐29円、ナショナルブランド(NB)の納豆59円、NB冷凍餃子199円、唐揚げ弁当199円、かつ重299円などとなっている。WEBサイトには安さに関しては「有名メーカー商品は『どこよりも安い!』を追求します」としている(本頁右下画像)。

ベルクのWEBサイトにはクルベのコンセプトとして「驚きの安さ」「潔いサービス」「幸せゾクゾク提供中」を掲げる。NB商品は「どこよりも安い!」を追求するとしNB納豆は59円である

品目、仕入先、カテゴリー “3つ”の絞り込みで安さづくり

この安さづくりのためにクルベが実践しているのは、3つの「絞り込み」だ。

写真3 有名メーカー商品は「どこよりも安い!」としてNB納豆は59円の“レインボープライス”。納豆は既存店で40近いSKU数を6にまで絞り込んで価格訴求をしている。PBもNBも段ボールやコンテナを活用する

第1が「アイテムの絞り込み」である。例えば納豆は、既存のベルクでは3連から「藁づと入り」まで40SKUほどの品揃えを有しているが、クルベでは平冷蔵ケースに6SKUに絞り込み(写真3)。牛乳も1リットルの普通牛乳はPB2SKU、NBは2SKUまでに絞り込んでいる。牛乳PBの最低価格が175円、明治おいしい牛乳229円の売価設定だ。

写真4 食パンはパスコの超熟ブランドとフジパンが製造するPBに絞り込む。パネルには「パスコ様の多大なるご協力により!」として低価格の理由も説明している。PBは79円の超低価格となっている

第2が「メーカーの絞り込み」である。食パンはPB・くらしにベルクのモーニングブレッド(79円・フジパン製)とパスコの超熟の2メーカーに絞り込み(写真4)。しょうゆは刺身しょうゆの1SKU以外はすべて「トップバリュ」とキッコーマンに絞り込んでいる(写真5)。食品ラップはクレハと宇部興産のラップのみである。

写真5 しょうゆは刺身しょうゆ1SKU以外はキッコーマンとイオンのトップバリュベストプライスに絞り込む。これによりPB99円、ナンバーワンNBは199円の低価格を実現(11月にはヒガシマル醤油も追加されていた)

こうした低価格業態の場合、大手メーカーほど取引に慎重になるケースは多い。大手は地域のシェアが高いので競合他社への配慮を考えるし、何より納入価格が下がり市場価格が「乱れる」ことを大メーカーほど嫌うからである。

ただしPBなら全量買い取りなどの特別な条件であれば低い売価設定は可能になるし、クルベの店頭表示にあるように「パスコ様の多大なる協力により!」ということであれば競合するチェーンに対しても安さの説明はできる。

2、3番手メーカーとしても絞り込んでの大量取引で工場の稼働率が高まるメリットは大きいし、「クルベのように棚を確保してもらえれば条件は…」という商談ができれば「ナンバーワン」を押しのけ自社の売場スペース拡大することも可能になる。

第3は「カテゴリーの絞り込み」である。

例えば菓子売場ではコロナ禍で伸びたグミ類の品揃えはあるが、ガムはほとんどない(ボトル型が1SKUのみ)。

飼育頭数が増え市場が広がったことで競争が激化しているペット関連も3尺ゴンドラ2本だけで猫砂、犬シートやフード、おやつなどは各1アイテムとほんの「間に合わせ」といってもよい品揃えである。

売場面積も限られるのだから売れないカテゴリーを置く必要性はないし、犬猫の好みに合わせた「指名買い」が多いペット関連は手を広げていてはきりがない。ここは完全に“割り切った”品揃えである。

こういった取引先や扱い商品を絞り込むことで、「新しいレベルの安さ」に挑戦しようとしたのがクルベのチャレンジである。

サービスや決済手段をカット 歩行の無駄もカットする

絞り込みと同時に、大胆に、潔く「カット」「削減」したのもクルベの特徴である。

ひとつには「サービスのカット」である。

続きは月刊マーチャンダイジング 2024年2月号にて!

 

[店舗概要]

店舗名 クルベ江木店
所在地 群馬県高崎市江木町75
開店日 2023年7月29日
営業時間 10:00〜20:00
売場面積 約600坪