「MiseMise」は品出し、AI値引き、棚割、自律移動ロボット、分析の5つのツールから構成されており、人手不足や食品ロスなど、リテール業界におけるチェーンストアの課題をPFNのDX・AI・ロボット技術の組み合わせで解決する新ソリューションだという。
ビジネス的にはSaaS型で、コンサルティングも交えて進めていく。初年度売上目標は10億円、3年後には100億円。BtoB型ビジネスを進めてきたことによる現場に入り込んだ連携が強みだという。
小売世界の拡張を目指し、主力事業の一つとして取り組む
まず、PFN 代表取締役最高経営責任者の西川徹氏は今年で創業10周年を迎える同社の事業概略を紹介した。PFNではハードウェアからソフトウェアまでAI技術のバリューチェーンを垂直統合して多くの課題に取り組んでいる。そのなかでも小売関連の取り組みは5年以上前から続けてきたという。
西川氏は「リテールは皆様にもっとも身近な領域。生活には必要不可欠で、さまざまな分野があって市場も大きい。歴史も長いので人によるオペレーション最適化・効率化も進んでいる。いっぽうで、まだ伸び代がある。機械によって便利にできる余地がたくさん残されていることも事実。人の力をエンハンスできる余地がたくさんあることはエキサイティングだ」と述べた。
小売分野への取組理由については「ITを取り込むことで、効率化できる部分が多い。昨今のAIの発展が、ますますリテール分野を加速できる。将来性も含めて主力事業の一つとするべきだと考えて、リテール・ソリューションの発表に至った」と語った。
そして「まだまだ面白い世界がたくさんある。現場の皆さんとディスカッションしながら進めている。今後、『ものを売る』という行為は、その世界自体も拡張していくし、新たな世界観を目指していきたい。全力を注いで一大事業としていきたい」と述べた。
「人による認識の限界」を超えるためには
小売り業界では少子高齢化や人件費行動の影響を受け、人手不足が慢性化している。人材育成のための時間を取ることも難しい。PFN SVP 最高マーケティング責任者の富永朋信氏が新規事業の業界背景について語った。
富永氏は「お店が質的に変化を遂げたのがチェーンストアの誕生。誕生後、現在に至るまで本質的な変化は起きていない。POSなど部分的に効率向上のアイデアはあったが、本質的な変化とは言えない」と話を始めた。
富永氏はチェーンストア・オペレーションとは「多くの認知的負荷がかかる作業」だと述べた。本社の手間も、店頭の手間も大きい。数万の商品をフローのなかで最適化していくことがチェーンストアの業務だ。最適化のためには商品部のデータなどをもとに精度の高い棚割りを作り、配信していくことが重要だが、「チェーンオペレーションがちゃんと回っているチェーンはあまりないのではないか」と述べ、「店舗と本社のあいだが断絶しており、お店で実際に起きていることがブラックボックス化してしまっているからだ」と語った。
この「断絶」と「ブラックボックス化」には、大きくわけて二つの要因があるという。一つは複雑性だ。店舗は非定型で、本社で決めたことをそのまま実現することは難しい。品切れは売上機会損失だけでなく、今後の売上にも響く。情報の流れがコントロールができてないことによる、本社と店舗間のコミュニケーションも課題となっている。
これらには「人による認識の限界がある」と富永氏は述べた。店舗内全てに目を行き渡らせることは人間にはできない。一人一人の作業も個人のなかで完結してしまっており、ジョブのノウハウの共有も進まない。こういった点をPFNの技術で解決することを目指す。そして「100年間変わってこなかったチェーンストアをアップデートしたい」と語った。
「何を改善するか」見定めて逆算してデータを取得することが重要
「MiseMise」のサービス概要の詳細は、PFN リテール担当VPの海野裕也氏が紹介した。海野氏はチェーンストアの経営全体を支援し、「社歴1日でも誰でもベテランになれる」ソリューションだと語った。
海野氏も「認識の限界を超えるためにはデータに基づくことが重要だ」と話を始めた。よくある失敗は「今あるデータをいかに活用するか」ということから始めてしまうことだという。「ありもの」のデータは基本的に「副産物」として生まれているものに過ぎず、業務改善に本当に必要なデータではない。では何が必要なのか。
POSや受発注データをいかに分析しても、一番重要なデータである「店舗の売り場」そのものデータは出てこない。それらは人の頭の中にしかない。まず、それをデータ化する必要がある。そしてデータに基づいた意思決定、あるいは行動など、「何を改善するか」を見定めて、そこから必要なデータを逆算して取得しにいく必要があると海野氏は強調した。そこでPFNでは実際の現場に張り付いて、何のデータが必要なのかを調べながら「MiseMise」を作ったと述べた。
たとえば実際に品出しを手伝おうとしても、商品の場所が探せない。バックルームがデータ化されておらず、在庫バックヤードに行っても初見では見つけることが難しいからだ。ところが店員へのインタビューではその課題には気づけなかったという。それぞれの担当者は自分で整理しているため不便を感じていないからだ。しかしこれでは「その人」がいないと業務が回らないし、担当外の人が応援に来ても役に立たない。
すなわち、業務が属人化しており、チーム作業ができなくなっているのだ。PFNではこのような「欠けているデータ」を調べてIT化するためのツールを作り、業務設計を行った。
開発のために、まずPFNのオフィスにバックルームを作った。かご台車を実際に並べて、自分たちのプロダクトが本当に役立つのかどうか検証を行なって、フィードバックをするなど「地に足がついた製品開発を繰り返した」という。
「MiseMise」は一言でいえば「お店で何が起こっているのかをログ化できる」ツールであり、結果的にその情報に基づいて意思決定ができるようになるという。さらにそこから新たな変化を起こすことができる。
PFNの売りである「AI」や「ロボット」は業務の観点から見ると「部品」でしかなく、業務のなかの一部分しか担えない。そのため、これらの「道具」がある前提で、新たに業務全体を見据えて考え直し、新たな業務を発明することが重要だと語った。
MiseMiseツールは5種類
MiseMiseツールは5種類から構成される。
1)探す手間をなくす「MiseMise品出し」
MiseMise品出しは品出し・在庫管理を支援する。入庫してきたかご車に看板をつけて商品データと紐付けし、ケース単位で在庫管理を行うことで、バックルームのどこに何があるのかをデータ化する。これにより、誰でもすぐに品出しができるようになる。
具体的には店頭でハンディ端末を使って商品をスキャンすると、在庫がどこのかご車に載っているのかが担当者でなくても、すぐにわかるようになる。補充する品をメモする必要もなくなる。これにより商品を探す時間が50%下がり、売り上げが4%向上したという。特にバックルームに何が何個あるのかわかるので、「ないものを探し続ける手間がなくなる」点が大きいとのことだった。もちろん重たいかご車を何度も引き出す手間もなくなる。
2)誰でもベテラン同様の高精度値引きが可能になる「MiseMiseAI値引き」
MiseMiseAI値引きは、惣菜値引きなどを適切に計算する。商品をスキャンしすると値引き率が計算されるので、残っている惣菜個数を入力すると、適切な値引きシールが印刷される仕組みだ。商品データ、蓄積データ、当日変数、担当者や店舗の意思を反映した上で、誰でも高精度な値引きができるようになり、廃棄ロスを減らせる。
3)精度の高い棚割を自動作成「MiseMise棚割」
MiseMise棚割は本部向けの棚割ツールで、どういう商品構成にするべきかを自動計算して、各店舗に送信できる。棚割りは店舗数が多いと負担が大きい。しかも質が高い棚割りを作るのは大変だ。そこで一定の基準を設けて棚割りを自動作成する。たとえば現在は日中の品出し回数を減らすことが求められているが、品出し回数が少ない効率の良い棚割りなどを作ることができる。「なるべくたくさんの切り口を提供できるツールとして開発されている」という。
店舗への配信はスマホや紙などで出力できる。店頭側に対する情報の出し方も工夫しており、指示書を使って、置けてない商品がなんなのか分かりやすく明示する。発注最適化ツールとの連携などはまだ行っていない。
4)自動で欠品や値札の間違いを発見する「MiseMiseロボット」
MiseMiseロボットは、店の状況を把握するためのロボットで、カメラとAIを使って欠品などをチェックできる。計画どおりの棚割りができているのかの検知や値札間違いのチェックも行える。ロボットは自律移動し、障害物そのほかは安全に回避する。バッテリー持続時間は3〜4時間程度。子会社のPreferred Roboticsと共同で開発した。
5)在庫推移だけでなく従業員作業ログも見られる「MiseMise分析」
MiseMise分析は、お店で何ができるのか一元管理して分析するためのツールだ。様々なプロダクトを使って店舗の実情に近いデータを収集されてくるので、それらを見える化する。バックルームから何の品出しが1日に何回行われているのか、従業員の誰が一番品出しを行なっているのかといったことも一目でわかるようになる。
ユニバースその他で実証実験、在庫削減や欠品削減に効果
実際にMiseMiseを試験導入したユーザーの事例も2つ紹介された。北東北3県のスーパーマーケットチェーンであるユニバースでは「MiseMise品出し」を導入。バックルームのどこにどの商品があるか誰でもすぐにわかるようになり、在庫や補充作業の実態をデータで把握できるようになった。
データを活用することで商品の補充回数を減らし、品出しに関連する作業を1日平均5時間も削減。さらに、バックルームに滞留している在庫を把握し、2ヶ月で最大5割の在庫削減に繋がったという。株式会社ユニバース 店舗運営本部 店舗支援部門長の小泉徳彦氏によれば、意外な発見もあったそうだ。
また、「MiseMiseロボット」を試験導入したある店舗(社名非公表)では、店頭における欠品状況を日々確認したり、商品の発注数量と閉店時の在庫数量を適正化したり、値札の価格チェックができるようになった。その結果、営業時間中の欠品を1ヶ月で約50%削減し、売上機会の損失抑制に繋がったとしている。
現場作業と協調しながら新たな小売ビジネスの姿を模索
導入リードタイムはおおよそ1ヶ月から2ヶ月。まずは現状把握から始めるため、最短でも2週間はかかる。最初は試験導入から始めるパターンが多いとのこと。
導入コストに関しては明示されなかったが「どのくらいのターンオーバーがあるかによる。売上20億円の店舗なら月額20万円くらいの価格感」(富永氏)とのことだった。
今後PFNでは個別店舗ごとに異なるシステムやオペレーションとの協調を進めつつ、ソリューションの数を増やしていく。
AIやロボットは他社も行っている。差別化について質問された西川氏は「AIは各要素をノリのように繋げるモデル間の連携を担う。PFNではデータを高度なAIで分析してオペレーションに結びつけることができる。各モジュールだけではなく、それらを結びつけるためには高度なAIが必要であり、そのためには計算力が重要。PFNは計算力を効率よく実現できる。そこが大きな差別化要因だ」と語った。