AIによる受付の自動化とリモート服薬指導を実現
「遠隔接客AIアシスタント」は、大まかに2つのサービスに分かれる。1つは「AI無人受付サービス」。映像や音声を高精度で認識できるAI搭載の受付ロボット「Sota」が調剤薬局の受付に訪れた患者の姿を認知して、自動かつ自律的に受け付け業務を開始。音声でマイナ保険証の確認、処方せんの事前送信、ジェネリック医薬品の希望、お薬手帳の有無などを確認、受付業務を進めていく。
途中、患者から「ジェネリック医薬品とは何か?」といった質問があっても、事前に学習させた範囲内でAIが自律的に回答してくれる。患者が困っていたり、人との会話を希望する場合には、遠隔でつないで担当スタッフが対応することも可能。オプションとしてSotaの代わりにCGアバターを使うこともできる。ここまでが「AI無人受付」のサービスである(写真1、2、動画1参照)
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2つ目は「遠隔服薬指導サービス」。受付業務の最後にSotaから、服薬指導を店内のオンラインスペースで行うか、対面で行うかの確認があり、オンラインを選択すると受付に設置された発券機からバーコード付きの受付票を発券。それをオンライン服薬指導のスペースにある受付機にかざすと、モニターに担当の薬剤師が現れ、遠隔で服薬指導をする。ここまでが「遠隔服薬指導サービス」である(写真3、4、動画2参照)
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薬剤の受け取りは受付時に受付店舗(薬局)、ロッカー、配送などの手段が選べる。
2つのサービスはそれぞれ個別の料金となっており、セット利用、単体利用いずれも可能。要望に合わせてカスタマイズにも応じている。
MG-DXでは「遠隔接客AIアシスタント」を2024年8月にリリース、8月開催のJAPANドラッグストアショーや10月開催のCEATEC2024に出展したこともあり、取材時、多くの問い合わせや導入検討の話を受けて商談の最中とのことだ。各案件や要望に応じたサービスのカスタマイズ提案にも多忙を極めている。
「コスト削減」とオンラインによる「固定客化への布石」が2大ニーズ
「遠隔接客AIアシスタント」は受付業務をAIエージェントにより自動化することで、人件費の削減を図ることができる。また、遠隔服薬指導は、薬局業務の忙しさを平準化する効果がある。
調剤事業に注力する大手DgSは、調剤併設店舗をなるべく増やして面分業による調剤市場のシェア拡大を図っており、こうした出店戦略は立地により繁忙店とそうではない店の格差を生み出す一つの要因にもなっている。
遠隔接客AIアシスタントで、比較的手の空きやすい店舗に勤務する一人の薬剤師が複数の店舗の服薬指導を行うことで、繁忙店、閑散店の格差から生じる薬剤師の偏在問題を解消、薬剤師の仕事量の平準化を実現させる。
さらに、遠隔服薬指導システムを利用することで、患者が希望すれば、特定の疾患に詳しい薬剤師が服薬指導や健康相談に応じることも可能にし、調剤薬局の専門性向上にも貢献できる。
「遠隔接客AIアシスタントに関するお問い合わせや引き合いなどがこれまで経験したことのないくらい大きくて、時代の変化にしっかりとした役割を果たせそうだと実感しています。ニーズは大きく2つあると思っています。
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1つがコスト削減です。診療報酬の改定や人件費の高騰で調剤事業の収益は厳しい状況にあります。大手のDgSも調剤併設薬局を多数出店している関係で、非繁忙店で能力を十分に発揮しきれていない薬剤師もいます。このサービスは遠隔服薬指導という選択肢を追加することで、非繁忙店の薬剤師に遠隔地から患者対応をサポートできる環境をつくることができ、既存の薬剤師間で仕事量を最適化することで、明確にコスト削減につながります。
もう1つは、将来的にオンライン調剤で患者を囲い込むための布石としての利用です。今後、電子処方せんの導入率は上がり、自分のスマホでオンライン診療、オンライン服薬指導を受けて薬剤を受け取るという流れが普及するでしょう。一度オンラインで服薬指導を受けると継続率は8割を超える程、格段に高くなることが実証されています。
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現在、遠隔接客AIアシスタントのプロトタイプ(基本型)では、AIで受付をして、その後店舗内の専用スペースでオンライン服薬指導を受ける流れになっていますが、オンラインで患者を固定客化したい、DgS、調剤専業チェーンには、弊社のサービスで遠隔服薬指導を体験してもらうことにより、自分のスマホを使ったオンライン服薬指導へとスムーズに誘導して、固定客化したいという狙いがあります。そのための導入です。
患者に対して、今回は店舗でオンライン服薬指導をして頂いて、慣れてきたらスマホでやってみてくださいといった主旨が込められています。
このように、遠隔接客AIアシスタントの導入にあたっては、コスト削減とオンラインによる囲い込みへの打ち手。守りと攻めの両方があり、ニーズのバランスが取れていると感じています。現在ご用意しているものを店頭に置くのは当たり前で、もっとこういうことができないかという要望が多く、それらに応じて仕組みを作り変えているところです」(MG-DX代表取締役社長 堂前紀郎氏)
AI×遠隔対応事務で約30%のコスト削減
遠隔接客AIアシスタントを使ったコスト削減のイメージは次のようになる。現在、企業ごとに最大成果の出る店舗、立地を選定中の段階だが、MG-DX社ではコスト削減のモデルケースとして、対象とする店舗を1ヵ月の処方せん応需枚数が1,000枚〜1,500枚、常時勤務する薬剤師2人、事務スタッフ1人の中型店舗を想定。AIエージェントにより受付業務の7割程度を自動化、複雑な状況や質問に対しては、本部もしくは基幹店に配置したスタッフ1名が遠隔で対応する。
AIエージェントとのハイブリッド対応により、選定した中型店3店舗程度の対応を遠隔地から1名で行うことが可能となり、受付業務をリモート化(無人受付化)する。この体制により、事務スタッフの人件費が約30%程度カットできることが見込まれている。企業や店舗によって最適な利用パターンは今後練られていくことになる。
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現在、調剤薬局で顧客(患者)満足度を下げる一番の要因は、待ち時間が長いことで、これが離反の一番大きな理由に挙げられる。
また、受付が混んで薬剤師が受け付けや問い合わせ対応に回ることで調剤業務に集中できないといったケースもあり、体制の整備が調剤薬局の効率化(収益最適化)、顧客満足度向上双方にとっての最大の課題になっている。これを遠隔接客AIアシスタントで解消していく。
AI活用で高齢者との相性が懸念されるが、高齢者のAIロボットSotaに対する評価は意外に高く、「かわいい」「けなげに働く」といった声が多い。また、子供がAIロボットを気に入って前を離れないといった現象も見られる。Sotaの存在が高齢者や親子連れの利用促進にも貢献する可能性がある。AIロボットによる受付にユーザーが慣れることで、受付の無人化が一気に進む可能性もある。さらに、遠隔接客AIアシスタントは調剤薬局の働き方改革にもつながる。
「調剤薬局は、女性が多く働いており、産休、育休から復帰したママ薬剤師の働く場を広げる効果があります。オンライン服薬指導に対応するセンターをつくることで、そうした人材をこれまで通り、あるいはこれまで以上に活かせると思います。自宅からオンラインで服薬指導することも可能ですし、そういった働く環境がつくれます」(MG-DX遠隔接客事業部 事業部長三澤佳祐氏)
将来的には非調剤薬局併設店でも調剤事業が可能に
遠隔接客AIアシスタントは当面、調剤薬局、調剤薬局併設のDgSに設置され、受付の無人化、服薬指導のオンライン化を進めていく。その一方で、将来的には、調剤薬局を併設していないDgSの店頭での処方せん受付、オンライン服薬指導、薬剤受取も視野に入っている。
構想としては、受付に鍵付きの処方せん投入箱があり、読み取り後の処方せん、もしくは事前送信した処方せんをその中に入れ、後で回収する(処方せん現物がなければ調剤を受けられない)。その後オンラインで服薬指導を行い、薬剤は指定の時間に再度受付に立ち寄りピックアップするか、専用ロッカーで受け取る、もしくは宅配してもらう。
MG-DX社によれば、こうしたサービスは法的には現在でも問題ないが、設備やプロセスでクリアすべきことはいくつかあるとのことで、直ちに導入できるサービスではない。
将来、条件がクリアされ、このサービスが実現すれば、調剤薬局を併設しなくても調剤事業の拡大が可能になり、面分業を大きく広げて調剤市場のシェア拡大を狙うことができる。あるいは、現在リアルの調剤薬局が少ないDgS企業でも、オンライン服薬指導を行う薬剤師が待機するコールセンターのような設備があれば、これまでよりも格段に低い投資により、調剤事業を拡大することも可能だ。
アメリカの大手調剤薬局チェーン、ウォルグリーンでは、調剤薬局にリアルな一次医療(プライマリケア)のクリニックを併設して、そこから処方せんを発行して隣接の薬局で受けるというモデルを構築して事業を進めていたが、オンライン診療、オンライン調剤の普及により、こうしたモデルが不採算化。
2024年度の決算が大規模な営業損失に陥り、クリニックの閉鎖、薬局そのものの閉鎖に追い込まれている。同社は今後3年で薬局全店の15%程度にあたる1,200店の薬局を閉鎖すると発表している。
今後日本でもオンライン診療、オンライン調剤が普及すれば、リアルな施設とそれに見合った数の人材に投資するよりも、DXへの投資で大幅に効率のよいリターンを得られる時代が来るだろう。
遠隔接客AIアシスタントは拡張性のあるサービス
遠隔接客AIアシスタントでは、非調剤薬局併設店を調剤事業のタッチポイント化する構想に加え、さらなる展望がある。街中でのヘルスケアスポットの開業である。カウンター付きの数坪のスペース、例えば、PCR検査場程のスペースに、AI無人受付とオンライン服薬指導ができる機器を設置、買物などで繁華街に出たついでに、○○ドラッグのヘルスケアスポットに立ち寄り、処方せん受付から服薬指導までを無人、オンラインで行い、薬剤は買物帰りに同じ場所でピックアップする、あるいは宅配してもらう。
さらに、オンライン診療も同じ場所で行えば、生活習慣病などの慢性病や軽微な疾患の診療と調剤を街中の一角で、気軽に一気通貫に受けることが可能になる。
堂前氏は遠隔接客AIアシスタントにより、DgS、調剤専業チェーンの事業サポートをするのはステップ1で、ステップ2は介護施設への導入、ステップ3は個人宅への導入だと語る。
「遠隔接客AIアシスタントを施設や個人宅に導入する際は、DgSがコストを受け持つことを提案したいと考えています。服薬指導や健康相談をリモートで行うコールセンターのような設備を整えた上で、施設に導入すれば、症状によっては、在宅医療・調剤をリモートで行うことで、処方せんをDgSで受けることができます。ドクターとの連携もスムーズになるでしょう。リモートによるお買物のサポートもできますし、介護保険を適用しながら生活をサポートする業務も可能です。
また、今後高齢化が進むので、見守りができたり、双方向で会話できる遠隔接客サービスを独居の高齢者宅に設置することは重要になると思います。現在、セキュリティ会社や宅配企業がこのような事業を行っていますが、富裕層向けの高級モデルか、低額でシンプルなものかどちらかです。その中間的なところに機能を充実させ参入すれば大きなニーズを開拓できるでしょう。
遠隔接客AIアシスタントは、施設入居者や独居高齢者の健康、生活ニーズを大きく囲い込める可能性を持っています。機器の設置など初期費用だけで数十万円が掛かるので、ここを自治体の補助金なども活用してなるべくローコストにします。市場は確かにあるので、ビジネスモデルを構築していくのがわれわれの立ち位置だと考えています」(堂前氏)
堂前氏の計画と予想によれば、遠隔接客AIアシスタントにDgSが本格投資するのは2026年から2027年にかけて、それと並行して2026年には電子処方せんの普及が進みオンライン診療も身近になりビジネスとしては大きな山を迎えると予想している。施設への導入は2027年からさらに4〜5年後、個人宅へ入り始めるのはそこからさらに45年を要するとのことだ。
AIによる自律的な対応と遠隔接客の組み合わせは、健康、生活のニーズを幅広く取り込み、質を担保しながら、事業を効率よく拡大する大きな可能性を秘めている。
《取材協力》
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代表取締役社長
堂前 紀郎氏
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遠隔接客事業部 事業部長
三澤 佳祐氏