最終審査会レポート

ハピコム接客コミュニケーションコンテスト「対話スキルは年々向上!食の接客コミュニケーション増」

医薬品販売の接客コミュニケーション能力向上のため、ハピコムグループに所属する企業の代表がその技能を競い合う「ハピコム接客コミュニケーションコンテスト」。今年で9回目を迎え、参加者の技能は年々レベルアップしている。ここでは、最終審査の結果や接客の傾向などを紹介する。(月刊マーチャンダイジング編集長 野間口 司郎)(月刊マーチャンダイジング2024年11月号より転載)

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ハピコムグループ約6万人の資格者から選ばれた13人

ハピコムグループはイオンを中心に、ウエルシアホールディングス(HD)、ツルハHD、クスリのアオキHDなどが参加する国内最大規模のドラッグストア(DgS)グループである。

グループ内には薬剤師、登録販売者合わせて約6万人の医薬品関連の資格者が在籍しており、今回行われたハピコム接客コミュニケーションコンテスト(以下コンテスト)の最終審査参加者はそのなかから選ばれた13人ということになる。

[図表1]審査項目と配点
[図表2]審査委員

コンテストは、毎回2つのテーマに沿ってお客さまに扮した俳優が相談に訪れ、それに応じて接客するという設定になっている。今回のテーマは「お腹の調子が悪い」と「夏の疲れ」。

2つめのテーマ夏の疲れは参加者にはシークレットになっており、当日、その場で初めて知らされる。参加者の対応力、普段からの知識の蓄えが問われる。あらかじめテーマに沿った商品が模擬売場に用意され、これらに加え自分の推奨したい商品を持ち込んでもよいことになっている。相談内容を聞き取りながら、適切と思われる商品を奨める形で模擬接客は進行。

参加者は別室に集められ、自分の出番が来るまでは会場に入ることはできず、他の参加者の接客内容を知ることはできない。

コンテストの参加対象は薬剤師か登録販売者だが、近年、調剤薬局が分離申請で出店されることも多く、物販スペースでヘルスケアを担当する薬剤師は著しく減少、今回の参加者はすべて登録販売者となった。

過去は薬剤師の参加もあり、第3回大賞受賞者は薬剤師だった。ヘルスケア売場の担い手は登録販売者であることを印象づける状況でもある。

管理栄養士の資格を持つ坂根章子氏が大賞受賞

《参加者一覧》

審査方法は、一次審査として、ハピコムのメンバー企業19社から合計50人を推薦。二次審査として、一人のミステリーショッパーが、推薦された50人すべてを覆面調査して採点する。最終審査では審査員6人が図表1の項目に沿って採点。最終審査だけでなく、普段の接客力を示す二次審査の得点も加味されていることもコンテストの特徴のひとつである。得点の高い順に大賞、準大賞を決定。最終審査の結果は図表3の通りとなった。

[図表3]第9回ハピコム接客コミュニケーションコンテスト 最終審査結果

大賞を受賞したくすりの福太郎の坂根章子氏は管理栄養士の資格も持つ。坂根氏の接客内容を振り返ってみよう。

大きな笑顔で独自の世界観をつくる大賞受賞の坂根章子氏の接客

まず、お腹の調子が悪いというテーマに関して、お腹をくだしているか、食事は取れているかなどの基本的な状況を聞いたあと、それらの状況を自分でも反復して相手に確認、「1、2ヵ月お腹の調子を崩しているのは辛いですね」と苦しそうな表情と共に共感を示し相手に寄り添う接客をしていた。声のトーンやテンポに落ち着きがあり、全体として安心感をお客さまへ与えていた。

相手の症状の確認の後「医薬品をご紹介する前にいくつか確認させていただきます」と言い、服用するのは本人か、薬品へのアレルギーはないか、他の疾患はないかなど基本項目を確認。確認事項は厳密には6項目あり、確認のための質問を羅列すると話し方によってはお客さまが圧力を感じることもある。坂根氏は症状の確認のあと、スムーズに確認へとつなぎ、柔らかな口調と落ち着いた話しぶりでまったく圧を感じさせなかった。

奨めたのは整腸剤で、体に良い菌が生きたまま大腸まで届き、効果を実感できると説明。お客さまの「お腹をこわしているときでも服用しても大丈夫か」という質問には「お腹がゆるいときでも大丈夫、一家にひとつあると安心です」と対応し、相談者だけでなく、家族にも奨められることを伝え、安心できる商品であることを理解してもらうとする姿勢が見えた。

商品案内の最後に「私は管理栄養士の資格も持っておりまして、お腹をこわしているときは、食物繊維が負担になります。キノコ類、根菜類の食べ過ぎには注意してください」と食事、栄養アドバイスも付け加えた。

ケース2、夏の疲れに関して。暑い日が続いて疲れが取れないという症状を聞いた後、どれくらいその症状が続いているかを確認、「何か心当たりはありますか」と疲れの原因をお客さまに確認した。疲れの主たる原因が暑さであることは相談者自身も認識しているが、その他にも要因があるかお客さまに確認することは効率がよいし、より的確な対応につながる。

この問いに対して「営業の仕事で外を歩き回っているせいではないか」という答えを導き、今年は特に暑かったですもんね、大変でしたね」という共感のあとに、「環境の変化、ストレスを感じることはありますか」と質問。特にないという回答を受けたあと、商品紹介の前に確認したいことがありますと、つなげている。

症状確認→共感(言葉、表情、声のトーンに留意)→基本事項の確認→商品紹介という一連の流れは大変にスムーズで笑顔や表情と相まって、商品紹介までの短い時間の間にある種、「坂根ワールド」が形成されている感もあった。

ビタミンB群の入った保健薬を紹介、その後に、自分が管理栄養士であることを告げ、ビタミンB1、タンパク質を多く含んだ豚肉を使った料理が疲労回復には効果的であるとアドバイス。薬以外、食事、栄養、健康のことなど、いつでも相談に来て下さいと言う言葉で締めくくった。

[図表4]審査の流れ

審査員で接客アドバイザーの北山節子氏は、坂根氏の接客を次のように評した。

「途中で挟む、大きな笑顔がとてもチャーミングで、この人に話しかけたいと思わせる。お客さまの症状を聞くとき、つらそうな表情になるので、それがお客さまの心を開かせるのではないか。目を合わせて話す共感力を感じさせ、耳と心をお客さまに傾けているのが分かった。途中、商品をお客さまに渡して、飲み方の説明をしたのは新しいやり方だと感じた。接客する人が持っている商品を自分も見たいときがある。家に帰って坂根さんの笑顔を思い出し、また会いたいと思わせる接客だった」

高度な知識に基づく接客 食事、栄養と関連づけた接客

参加者と審査委員の集合写真

受賞者たちの印象に残ったポイントを挙げておこう。

ウエルシア薬局の中川氏は、終始腰の低い低姿勢な態度で、相手の安心感を引き出し、基本確認項目も羅列するのではなく、話の流れに織り込んで絶妙なタイミングで必要な確認を行っていた。また、夏の疲れのテーマでは、即効性と長期視点で体質を変えていく商品のどちらがいいかという選択肢を出し、双方の商品を提案していた。

杏林堂薬局の渥美氏は、接客する前に「お薬がたくさんあって迷いますよね」という一言を挟むことで、相談相手がリラックスできるような工夫があった。基本項目の確認では、状況によって飲めない薬があるので、確認していると説明、こちらも信頼関係づくりに寄与する工夫である。お腹の調子が悪いという相談には、エアコンの設定温度を1度上げるだけでも体調管理に役立つという生活アドバイスをしていた。傾聴力、共感力もあり、全体に時間経過とともに相談相手との信頼関係をつくっていくような接客だった。

ツルハドラッグの畠山氏は、お腹の調子が悪いという相手に対して、吐き気、発熱はないかを確認。これは近年増えている過敏性腸症候群の疑いを確認するような接客で専門性を感じさせた。疲れのテーマでも疲れには主に「肉体疲労」、「内臓疲労」、「精神疲労」、「脳疲労」の4つがあるという知識を披露し、説得力が増していた。推奨商品も整腸剤と漢方薬を合わせて使う提案があり組み立てが緻密。全体的に高い専門性を感じさせた。

レデイ薬局の藤永氏は、他の参加者よりも相談相手との距離を半分近く短く詰めた位置取りをしており、親身になって相談するという気持ちが現れている感があった。コンテストのための行動ではなく、通常の接客がそのまま出たのだと思う。相手と目線を合わせて相づちを打ったり、「いつでも藤永にご相談ください」という言葉には、お客を思う強い共感力を感じさせた。

また、声に抑揚があり、話を聞くときには声のトーンが抑えられ(小声になる)、症状に合った薬を選ぶので「大丈夫です」という言葉では声に大きく張りを出すなど、引き込まれるような接客態度を見せた。接客の最後に右手を大きく上げて「いってらっしゃい」と元気よく送り出す姿もオリジナリティを感じさせた。

その他、イオンリテールからの参加者2人は、いずれもレシピを用意しており、食事からの健康改善、「医食同源」という同社の方針を体現していた。

同社から参加して昨年大賞を受賞した佐藤宏美氏は、健康を考えたレシピを作成する任務を担っており、そのレシピがカウンセリング用のタブレットに収納され、紙のレシピとともに接客で活用されている。今回の最終審査でも各自紙のレシピを持ち込んでの接客となった。コンテストが企業の接客を変えている事例である。

今回大賞受賞の坂根氏も管理栄養士で2年連続で管理栄養士の資格を持つ登録販売者が大賞受賞となっており、食と健康を絡めた接客が今後大きなトレンドになることを伺わせている。

 

《取材協力》

審査委員長 田中 純一氏
審査委員 八幡 政浩氏
審査委員 飯嶋 仁氏
審査委員 工藤 真紀氏