コンビニネクスト

国内店舗数拡大を諦めない

第30回セブン−イレブンの「街づくり戦略」と「SIPストア」のコンセプトとは

セブン&アイ・ホールディングスは2023年10月31日実施したグループの事業戦略に関する会見で、「食」の強みを軸とした国内外コンビニエンスストア事業の成長戦略、さらにグローバルリテールグループへの道筋を示した。中でも筆者が注目したのが、長く「踊り場」にある国内コンビニ事業をどのように拡大させるのか、その取り組みである。セブン−イレブン・ジャパン代表取締役社長の永松文彦氏の話を中心に解説したい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年12月号より転載)

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“ドミナント戦略”の言い方を今は“街づくり戦略”に変更

コンビニの成長率を示す最も重要な指標が店舗数である。コンビニ業界全体では2020年、2021年あたりで頭打ちの状態である。セブン−イレブンにおける店舗数の増加は、子会社のセブン−イレブン・沖縄を含めて、2020年2月期が前期比40店舗増、2021年169店舗増、2022年120店舗増、2023年47店舗増、2024年2月期の計画が50店舗増と増加している。

しかしながら、東日本大震災の後に年間1,000店舗前後の増加を続けた時代からすると「微増」となる。

「コロナ禍の3年間は店舗開発業務が進まなかった。人と人とが直接お会いして、(丁寧に)説明して出店が決まるので(それが難しかった)。本年より出店開発担当者の増員を図っていく」(永松氏)

確かにコロナ禍は、既存店の存続に重点を置き、店舗開発業務の推進は難しかった。ただし、店舗開発は、それ以前から抑制してきた。2019年6月より経済産業省が主宰する有識者会議「新たなコンビニのあり方検討会」がスタート、コンビニ加盟店の「持続性」に疑問が投げかけられた。今は新店開発ではなく、既存店の営業利益に注力すべしとチェーン本部は提言されている。加盟店とチェーン本部の共存共栄が大原則であるはずなのに、そのバランスを欠き、無理な店舗開発が行われた。

そこで現在、あらためて出店に関して開発担当者を増員、強化していく根拠として示したのが、セブン−イレブンのシェアが高いエリアは日販が高く、逆に低いエリアほどシェアも低いとする実態である。

[図表1] 出店を強化するエリアの判断基準

図表1は、横軸がセブン−イレブンのシェア、縦軸に平均日販を示している。人口当たりの店舗数が多いエリアほど個店の売上が高いという結果が出ている。

セブン−イレブンは創業当初より「ドミナント戦略(高密度集中出店)」をとってきた。一定地域のシェアを高め、効率の良い店舗展開を推進する一方で、この戦略が加盟店との軋轢を生んできた。利益の低い加盟店があるにもかかわらず、近隣に別のオーナーが経営するセブン−イレブンが出店、さらに経営が圧迫されたと訴えるところも一部にはあった。たとえ近隣であっても、導線が違う、商圏が異なるといった理由もあったであろう。

「すべてはお客様の立場で」がセブン−イレブンの原則であるが、それが行き過ぎると加盟店に犠牲を強いることになる。加盟店同士のカニバリ(売上の奪い合い)についての懸念に永松氏は次のように答える。

「既存の地域で出店に対する問題は起きていない。逆に2号店を経営したいという声が非常に多く(加盟店から)出ており、要望に応えきれていない状況にある。この(カニバリの)問題は、かなり払拭されていると思う。例えばの話だが、福島県はセブン−イレブン1店舗当たりの人口が4,000人を切っており、売上は都道府県別でかなり上位に入ってきている。既に出店が進んでいるシェアが高いエリアについても、スクラップ&ビルドにより活性化を図っていく」

今後、出店を強化していく地域として、青森県、秋田県、岩手県、富山県、石川県、福井県、島根県、鳥取県、香川県、愛媛県、高知県、徳島県の12県を挙げている。東北、北陸、山陰、四国といった比較的、人口密度の低い地域に重点を置いている。こうした地域への出店を、2024年度、2025年度と加速させていく。

「新店を出す際は、周囲の既存店と一緒に販売促進のチラシなど手を打ち、地域全体で売上を高めるようにしている。かつて“ドミナント戦略”という言い方をしていたが、今は“街づくり戦略”に変えている。新店を出す目的だけではなく、街全体がどうしたら良くなるのか、そのため出店に際しては、近隣の店舗のスクラップ&ビルドも同時に進めており出店を重ねることに問題はない」(永松氏)

スイーツ、刺身、味付け肉などコンビニに向く冷凍食品を開発

こうした店舗数の拡大は商品戦略が下支えしている。コロナ禍で消費者が感染リスクを減らすため「遠くのスーパーより近くのコンビニで買物」の意識が一部で高まった。そうしたニーズに応えて、コンビニ業界は「中食」の惣菜、冷凍食品、カット野菜を拡充して、これまでの「即食性」だけでなく、ストック型の商品にも力を入れ始めた。

セブン−イレブンは、過去15年間で冷凍食品の売上を15倍に成長させた。現在はグループ会社であるイトーヨーカ堂(IY)の強みを取り入れて商品開発に活かしている。

セブン−イレブンは、米飯弁当などを開発するデイリーメーカーのノウハウ、調理技術、製造能力を提供。IYも長年培ってきた商品開発の技術により、冷凍食品の開発を強固にしていく。IYが育成してきた冷凍食品ブランド「EASE UP(イーズアップ)」は、セブン−イレブンの店舗に品揃えされている。

商品の拡充と同時に、セブン−イレブンは新たな冷凍設備の導入を進めている。狭小店舗には(タテの扉が付いた)中島冷凍什器(テスト実施)を取り入れて、冷食の品揃えのアイテム数を増やしていく。この什器は標準店舗にも導入して新たな品揃えを増やしていく。以前は壁側の冷凍什器だけで品揃えしてきたが、次に平型の冷凍什器を増設、さらに今後は中島に(タテの扉が付いた)冷凍什器を設置する。

セブン−イレブンは、2008年に焼き餃子、五目炒飯、エビピラフといった1人用の冷凍食品を100円(税別)で販売した。特に焼き餃子は、5個入りの分量と100円という価格設定が単身者に丁度よく、後にセブン−イレブンは2008年を「冷食元年」と呼んでいる。

この100円商品の「価格訴求」で一定の支持を得た。次にパスタやカップ炒飯で「利便性追求」、そしてセブンプレミアムゴールドの「金のマルゲリータ」などで「品質追求」、また、食卓のおかずや酒のつまみになる「おかづまみ」シリーズを充実するなど、コンビニにふさわしい冷凍食品を投入してきた。

現在、スイーツ、ミールキット、刺身、味付け肉の開発を進めている。他に野菜や果実、肉・魚素材にもチャレンジしていくとしている。

ミニスーパーをつくる気はない。SIPストアの開発コンセプト

店舗開発の「数」でいえば、当面はごくわずかだが、セブン−イレブンは「SIPストア」の開発を進めている。「SIP」とは、セブン−イレブンのSとIYのI、パートナーシップのPの略称でコンビニとスーパーを組み合わせた新型店舗を意味する。

[図表2] SIPストアの業態的な位置付け

セブン−イレブンは約40坪の売場面積で2,500SKUの品揃え、対してIYは約300坪以上、2万SKUと大きい。新型店舗は、その中間よりやや小さい売場を作っていく(図表2)。

「コンビニとスーパーを合わせた店舗だが、従来からあるミニスーパーとは全く違った概念でつくっていく。(既存のスーパーのような)薄利多売ではなく、あくまでも価値ある商品を売っていく」(永松氏)

セブン−イレブン・ジャパン取締役執行役員商品本部長の青山誠一氏も本年9月24日の商品政策に関する会見で「単に生鮮食品を置いたミニスーパーをつくる気がないことを改めて言っておきたい」と発言している。

どうしても比較されるのが、首都圏で1,000店舗以上を出店するイオン系の「まいばすけっと」である。既に先行する「まいばすけっと」に追従しない意思の表れであろう。

品揃えは既にセブン−イレブン9,000店舗で扱う(もともとIYが開発した)「顔が見える野菜」を筆頭に、冷凍食品、プレミアム商品、セブン・ザ・プライスなどを導入していく。1号店は2023年度中に首都圏で開設する計画である。

永松氏はSIPストア開発の意図を次のように語る。

「少子高齢化、人口減少で人流は減少していく。かつての街道立地は売上が高く、駅前や住宅はそうでもなかったが、今はそれが逆転した。業態の在り方、お店の使われ方は変化している。今のお客様は短時間で買物が出来るお店を求めている。われわれのアドバンテージは(2010年に出したキーワード)『近くて便利』なこと、それを、さらに進化させたのがSIPストアになる」

永松氏によると、SIPストアを2,000~3,000と増やしていくことよりも、既存店をSIP型に変えていくことが非常に大きな取り組みだという。売場面積を物理的に広げられない場合には、高さを変えたり什器を変えたりして、品揃えのアイテム数を増やしていくという。現在「SIPストアプロジェクト」を推進、セブン−イレブンとIYから、それぞれメンバーを出して日々議論をしているという。

振り返れば、2019年4月の決算会見で、セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長の井阪隆一氏はセブン−イレブンについて「意思のある踊り場をつくる」と事業再構築の必要性を語った。果たして踊り場からの脱却は実現するのか。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。