店舗ベースでは否めない飽和感 求められる新たな取り組み
セブン−イレブンは東日本大震災の後の2010年代、年間1,000店舗以上を増店させていた(2012〜15年度)、また2012年8月より2017年9月まで62ヵ月連続で既存店売上の前年超えを達成させている。現在のような物価高騰の影響もない状態で、規模拡大を果たしてきた。
そこからコロナ禍において、セブンは果敢な動きを見せる一方で、世の中が本格的に日常を取り戻した2024年度(2025年2月期)、店舗の売上が低調に終わっている。ファミリーマート、ローソンと比較しても見劣りのする数字が並んでいるのだ。
2024年度の既存店売上前年比を見ると、セブン−イレブンは7勝5敗と負けが込んでいるのに対して、ファミマは全勝、ローソンも全勝と好調をキープしてきた。創業から他チェーンには負けない業績を築いてきたセブン−イレブンを考えると、現状の物足りなさは否めないだろう。

そこで、大手3チェーンの現在の姿をより正確に記すために、2020年2月期と2025年2月期の5年間の成長を比較してみた(図表1)。
チェーン全店の売上高を増減率で見るとファミマ、ローソン、セブンの順になる。一方で店舗数(エリアフランチャイジー含む)の増加ではセブンが他を圧倒している。
ファミマの店舗数減少について簡単に記しておきたい。これには事情がある。2016年9月にファミマが主導してサークルKサンクスと経営統合した。当時(同年8月末)の店舗数はファミマが11,945店舗あり、ここにサークルKサンクスの6,295店舗を加えて18,240店舗に達した。セブン−イレブンの19,044店舗に追い付くのにあと800店舗と肉薄した。
しかし、ファミマはいたずらにセブンの店舗数を追わなかった。サークルKサンクスに不採算店や低日販店が数多くあり、スクラップ&ビルドを優先し、店舗の再配置を推進した。数ではなく、質の追求を指針にしたのだ。その結果、店舗数を減らす一方で、全店平均日販を高めた経緯がある。
この5年間の成長を店舗ベースで見ていくと飽和感は否めない。もう一段の成長を見せるには新たな取り組みが求められる。セブン−イレブンが2013年にカフェ(コンビニコーヒー)導入、他社も追随して以降、イノベーションに乏しいといわれるコンビニ業態に、大手3チェーンはどのような風を吹かせるのか。
過去の成功体験を捨て去る覚悟 従来の延長線上に成長はない
セブン&アイ・ホールディングスは4月17日、セブン−イレブン・ジャパン(以下、セブン−イレブン)の代表取締役社長に阿久津知洋氏(現執行役員)が昇格する人事を発表した(永松文彦代表取締役社長は取締役会長に退く)。同日会見に臨んだ阿久津氏、永松氏はセブン−イレブンを再び成長軌道に乗せる道筋を示した。
阿久津氏はセブン−イレブンの歴史を振り返り、次のような思いを語った。1990年までは日本経済が伸長していた時代に、“開いててよかった”というキャッチフレーズを訴求して「タイムコンビニエンス」の利便性を提供してきた。
その後、“近くて便利”に言葉を変えて、家庭の食の負の解消を求めてミールソリューションに取り組んだ。「私たちが抱えている課題として成長戦略が見えづらいといった面があります。潜在マーケットをしっかりと顕在化させて、お客様ニーズのどこに変化があったのか、改めて問い直す必要があるのです」と阿久津氏は指摘する。

阿久津氏が挙げたのはコロナ禍の影響で人々の価値観や生活様式が変わったことへの対応である。“開いててよかった”や“近くて便利”に代わるような価値を提供できていない。そこで2024年2月、通称「SIPストア」(セブン−イレブン松戸常盤平駅前店)を千葉県松戸市にオープン、セブン−イレブンの未来を創造するテスト店と位置付けて、さまざまな実証実験に取り組んでいる。
例えば、ここでは店内で焼いた焼きたてのパンがあり、それを受けてチェーン本部は2025年度に焼成機を1万店以上に拡大すべく準備を進めている。また売上が大きなセブンカフェでは、紅茶を実証実験して、導入店舗の拡大を図っている。
加盟店の生産性向上が求められる中で、阿久津氏は省人化の取り組みも強化していくという。「実際に(フル)セルフレジ化を図ったり、ファストフードをセルフでお客様にお取りいただくセルフサービス化の試み、またセーフティガードシステムという従業員が安心して深夜に働けるような仕組みを取り入れています。こうした取り組みを継続して、成長戦略の他に事業継続という二つの意味合いで、セブン−イレブンは進化できるし、それが私たちに課せられた責務だと思っています」
省人化では、セブン−イレブンは今春から「次世代店舗システム」の導入を進める。永松氏はオペレーションの飛躍的改善効果を期待する。
「店舗従業員の働く時間を3分の2に減らそうと取り組んでいます。複数店を経営する加盟店が増えていますが、次世代店舗システムを稼働させると、コミュニケーションがIT化されるようになり、2店、3店を経営するオーナーさんが、他店とのやり取りを全てオンラインでできるようになります。お店を(実際に)回らなくても他店の状態を把握できる仕組みをつくっています」
チェーン本部側についても省力化を進めるとして、1人のOFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー=店舗経営相談員)が担当する7店舗前後について、タブレット端末を用いたオンラインミーティングを導入することで10店ほどに増やす仕組みも実験的に進めている。
セブン−イレブンの新しいトップには、常識を疑い、周囲の反対を押し切っても、イノベーションを起こしていくリーダーシップが求められる局面もあるかもしれない。セブン−イレブンは創業時からカリスマ経営者と呼ばれるトップのもとで発展を遂げてきた。
そのカリスマ経営者自身が“過去の成功体験を捨てよ”と繰り返し語ってきた。阿久津氏は次のように考える。「これまで私たちのトップが実践してきた政策は、その時代に適した政策であり、必要であったと評価できるものです。過去のリーダーから私自身も学びを得て今日があります。そういう意味では決して過去を否定するわけではありません。ただし、現状の課題を考えてみたときに、過去の成功体験がそのまま活用できる場面は多くはありません。今の時代に適した成長戦略も、事業継続のための加盟店支援も、過去とは異なる視点で考え続けることが必要です。過去の成功体験を捨て去る覚悟を持って政策を進めたい」
従来の延長線上に新たな成長はないと決めて臨んでいく。
少子高齢化や地方過疎化など社会課題に向き合い支援する
ファミリーマートは全国1万店以上に設置したデジタルサイネージの認知度向上と利用目的の拡大により広告メディア事業を拡大させている。リテールメディア領域の関連事業会社3社の営業利益も50億円程度に成長させた。
デジタルサービスを拡大する一方で、激化しているサイバー攻撃なども考慮に入れてセキュリティプラットフォームの強化にも取り組む。
店舗支援ではタブレット上で商品発注などをフォローする人型AIを7,000店舗に導入拡大した。「本部業務や個店コンサルへのAIの活用が一気に進みました。AIの活用はファミリーマートでは既に常識になっています」(ファミリーマート代表取締役社長の細見研介氏)
他にも、ストアスタッフの勤務管理を自動作成するファミマワークシステムを導入し、店舗人件費の抑制をサポートしている。
「中期経営計画(2022〜2024年度)では、チャレンジする方のコンビニであること、また再成長の軌道に乗せること、この二つを大きな目標の柱にしてきました。新しい事業分野やデジタル活用にチャレンジすることで、コロナの難しい時期を乗り切り、次のステージに加速度を持って突入することができたと手応えを感じています」(細見氏)。
ローソン代表取締役社長の竹増貞信氏は2030年度に向けて、中期経営方針「ローソングループChallenge2030」を発表した。国内コンビニについては、AIを活用した発注システムによる品揃えの強化や、デリバリーのさらなる推進、人手不足対策や従業員の働きやすさ向上に向けたオペレーション削減への抜本的改革など、あらゆる分野にテクノロジーを活用していく。
その結果、日販30%アップ、店舗オペレーション30%削減、オーナー1人あたり店利益2倍、本部利益2倍をチャレンジ指標に定めている。海外事業においても、現在の2倍となる店舗数と売上高を指標に掲げて、グループとして成長を目指していく。ローソンは少子高齢化や地方過疎化など、社会課題に向き合い、誰もが安心して便利に楽しく暮らせるマチづくりをグループ一体となって進めていくという。
チェーン本部は、加盟店の売上アップとコスト削減をベースに、店舗数の増加と日販の向上に努めていく。