出来たて商材のニーズと店舗省人化を両立させる

セブン−イレブン・ジャパン(SEJ)の持ち株会社、セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長最高経営責任者(CEO)スティーブン・ヘイズ・デイカス氏は、中間期の決算会見で国内CVS(コンビニ)事業に関して次のような認識を示した。
「国内CVS事業の営業利益は計画未達であり、計画比▲7.2%となった。下期も厳しい状況が継続する見通しであり、通期予想についてはSEJの営業利益を下方修正した。他方で下期のSEJによる粗利額の回復に手応えも感じている。インフレの進行と経済の不確実性により、消費者の財布の紐を締めるマインドが継続している。購入する商品に対して、より一層慎重となっており、(米国を含む)各市場のセブン−イレブンにおいても例外ではなく来店頻度が低下している。日本市場では人口減少、少子高齢化の進行、物価上昇および消費の二極化によるお客様の消費行動の変化に加え、スーパーストアやドラッグストアなどのCVS以外の業態の増加により中食市場の競争が激化している。CVSにおいては、より一層、顧客ニーズを捉えた変化対応が求められている」
デイカス氏の危機意識は消費行動の変化と競合の激化にある。国内は給与所得が上昇するもののインフレの進行により実質賃金が長らく低下している。価格を重視する選択はコンビニには不利に働く。加えてスーパーマーケット業界は粗利の取れる「惣菜強化」に動いており、言うまでもなくドラッグストアの食品強化、さらに冷凍食品の進化も、これを後押ししている。そこで再成長に向けた戦略的な取り組みに何があるのか。
第1に出来たて商品の拡充だ。「SEJでは、下期にセブンカフェベーカリーやセブンカフェティーなどの出来たて商品の本格展開を加速化する。セブンカフェベーカリー導入店では、未導入店との粗利率前年差で約0.1%増の効果があることが実証されている。特に来期以降は通期でその効果が反映されることにより成長軌道への着実な貢献を見込んでいる」(デイカス氏)

セブンカフェベーカリーとは、店内で揚げた「カレーパン」149円(本体価格、以下同)や「シュガードーナツ」130円、店内のオーブンで焼いた「ふんわりメロンパン」149円や「サクサククロワッサン」176円、「チョコクッキー」186円などの品揃えを指す。
確かに出来たて、揚げたて、焼きたては競合店に対する差別化になる。思い返すと、数十年前に「セブン−イレブン対策」として、ローカルのコンビニが出来たて商材を増やして競合してきた。結果として、その多くが業界から消えていった。原因は生産性の悪化である。売上を高めるために人時数をかけて出来たてを訴求するものの、人件費をのせた必要な利益を確保できなかったのだ。
セブン−イレブンのチェーン本部に関しては出来たての強化により、売上と利益を確実に上乗せできる。一方で問題となるのは加盟店の人件費だ。店舗の人件費は基本全てが加盟店オーナーの負担になるので、“店の仕事ばかりが増えて本部だけが儲かる”といった不満もくすぶる心配がチェーン本部にはある。
そこで第2の取り組みが省人化である。この点についてSEJの代表取締役社長の阿久津知洋氏は会見で次のように語っている。
「出来たて商材に取り組んでいるが、現場の加盟店にとっては、やはり省人化と相反する部分がある。この出来たて商材のニーズと省人化を両立させるのは、まさしく今の接客のあり方を根底から変えていかなければならない、イノベーションだと思っている。今それを加盟店でテストをしていて、セルフレジを中心に省人化をある程度進めていく中で、出来たて商品の売上を伸ばしていくモデルを特定して進めている」
新しい商品、新しいカテゴリーの導入による売上の伸長は期待される一方で、加盟店にとって、最も確実に目に見える効果は省人化にある。出来たてと省人化の両立にセブン−イレブンは本格的に取り組んでいくという。
客数の伸長が停滞するのはバリューチェーン全体の課題
第3の取り組みは高付加価値商品の展開とそのプロモーション。セブン&アイ・ホールディングス最高財務責任者(CFO)の丸山好道氏は次のように説明する。
「9月には“相盛おむすび”、10月には“およがせ麺”を投入、その後もさまざまなカテゴリーでお客様ニーズに応える商品を続々と展開していく。商品展開を図る上で重要なのがプロモーションであり、お客様との双方向のコミュニケーションを強化することで、きめ細やかなニーズを把握し、その情報を商品開発やオペレーションの施策に反映、また、その運営を可能にする組織体制を整えて実行に移している。厳しい状況であるからこそ、改めて加盟店に元気になってもらうことが重要だと考えている。本部と加盟店の信頼関係を、より強固なものにするためのコミュニケーションの在り方を一から見直している」
乱暴な言い方をすれば、筆者から見るとセブン−イレブンはプロモーションに関して積極的ではなかった。商品開発の水準が他チェーンよりも一歩、二歩も先行しているため、価値ある商品を加盟店に提供しさえすれば数字はついてきた。そのためにイノベーションを起こし、創業以来、何度も失敗を繰り返し、やっと定着させたセブンカフェ(コンビニコーヒー)は他チェーンも追随して、コンビニでレギュラーコーヒーを購入できる環境を整えてきた。企業文化としても宣伝よりも商品に重点が置かれてきた。
しかしながら環境は変化した。SNSの普及で誰もが必要な情報を受信して自ら発信する時代に、前述の丸山氏のいうように“お客様との双方向のコミュニケーション”が重視されるようになった。SNSで炎上した“上げ底商品”への批判も、開発商品への過信が招いた対応の失敗と見てとれる。
阿久津氏も同様に語っている。
「お客様に価値を認めていただける商品やコミュニケーション、マーケティング施策が重要だと、現状の短期的な課題として特定した。その価値を感じていただく商品とお客様とのコミュニケーションの起点となったのが、9月に発売した相盛おむすびと、そこから始めたテレビCMの施策だった。おにぎりのカテゴリーで2割ぐらいの売上増があり、弁当も含めた米飯の売上を牽引する商品になっている。続いて10月からは、およがせ麺に取り組み、麺類についてもこの数カ月間、ずっと前年割れが続いていたが、今は前年を超えるカテゴリーに変わってきている。一定の価値を持ってお客様にアピールする取り組みが今スタートさせたところで、この後も何カ月か続けていくことが、第一段階になる」
第4の戦略的な取り組みがフランチャイズパッケージの変更。セブン−イレブンの契約モデルは創業から半世紀にわたって、ほぼ変わっていない。同社は経営環境が変わる中で新しいモデルに切り替える時期に来ていると捉えている。その中心が既存店舗オーナーの複数店への挑戦であり、複数店舗の経営を促進していく。セブン−イレブン加盟店の6割から7割が単独店経営になる。
「一店当たりの収益性が高かった故に、現状は単独店舗のオーナーさんが多かった。きちんとした経営ができて、地域に貢献したいという考えをお持ちのオーナーさんには複数店経営の機会を増やしたいし、それを後押しする契約形態に変えていきたい。加盟した当初にもっとチャージが軽減できるようなモデルにすることが、既存オーナーさんたちに複数店を後押しする材料になるし、新たに加盟を考えている方にとっても非常に良いモデルになる。この検討を進めた上で2026年の春にリリースして、2027年度中から新モデルの形で提案していきたいと計画している」(阿久津氏)
第5の戦略的な取り組みがバリューチェーンの改革である。セブン−イレブンの本質的な課題は現状の価格にあると認識している。現状のサプライチェーン全体を革新する方針を示している。
「改革の本丸は客数になる。商品の仕入れ、供給を含めたバリューチェーン全体の課題であり、ここに変革のメスを入れたい。私たちは商品の製造、原材料調達を外部のパートナー企業にお任せしてきた。これからは一緒に商品の仕入れであったり、製造の流れであったり、バリューチェーンの改革そのものにWIN-WINとなれるような協力体制をつくっていきたい。その結果、商品原価が適切に抑えられて、買いやすい価格に抑えられるようになったときに、客数改善に進んでいく流れになっていく。このステップをできるだけ早く実現していきたい」(阿久津氏)
日本型セブン−イレブンを実質創業した鈴木敏文氏が退任して来年で10年になる。セブン−イレブンは自らの成長モデルを本格的に改革し、次世代の次の成長モデルに挑んでいる。






