コンビニネクスト

ネット専用スーパー「グリーンビーンズ」に見る最新ロボティクスソリューションの活用事例

小売業の生産性向上にはAIとロボティクスの導入は不可欠だ。イオンのネット専用スーパー「Green Beans」(グリーンビーンズ)を運営するイオンネクストは、大型物流拠点である誉田CFC(顧客フルフィルメントセンター)に新たなロボティクスソリューションを本格導入、今年6月30日にメディアに公開した。グリーンビーンズが本格稼働してから2年が経過。2026年度と2027年度には、新たなCFCを首都圏に開設、規模拡大を図っていく。最新のロボティクスと同社の成長をリポートする。
(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年9月号より転載)

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千葉、西東京、埼玉のCFCでSM200店舗分が首都圏で稼働

2023年7月に本格稼働から2年が経過した誉田CFC

誉田CFC(千葉市緑区)は2023年7月に本格稼働を開始した。そのCFCに搭載された最新デジタル技術と機能は、イオンが2019年11月に提携した、英国オカドソリューション[英国テクノロジー企業 Ocado(オカド)グループの子会社]が担う。

イオン100%子会社のイオンネクストが手掛けるグリーンビーンズは、最新テクノロジーと、イオンの商品開発力、情報ネットワークなどを駆使しながら首都圏を配送エリアとしてスタート。AIとロボットを活用したCFCのオペレーションとロジスティクス、個々の購買履歴に合わせたサービス、コールドチェーンによる鮮度管理により、鮮度の高い商品の玄関先までの配送を実現させている。

誉田CFCは、一般的なスーパーマーケット50店舗分に相当するサイズだという。2026年度に東京西部の八王子で稼働させるCFCも50店舗分の規模で、2027年度に埼玉県の北部に計画する久喜宮代CFCは100店舗分に相当。これら3つのCFCが出そろえば、首都圏においてSM200店舗分のネットスーパーが稼働する。

最新の自動化技術の導入で業務効率を飛躍的に向上

今回のロボティクスソリューションの目的は、導入により人手による作業の約30%を自動化ロボットが担うことだ。単純作業や重労働など従業員の負担を大幅に軽減するとともに、より安定した供給体制と作業効率の向上、働きやすい現場づくりを実現していくことにある。

「オングリッドロボットピック」は、お客が注文した商品をピック&パックする最先端のロボットピッキング。1日あたり約20万点の商品ピッキングを可能としている

公開した第1の自動化ロボットは「オングリッドロボットピック」と呼ばれるもの(写真参照)。お客が注文した商品をピック&パックする最先端のロボットピッキングである。さまざまなサイズ・形状・重量・傷つきやすさを持つ商品を、AIがその場で認識・判断し、袋詰めまでを実施する。

ツルのくちばしのような形状をしたロボットのアームが、グリッド(商品棚)上から商品を直接取り出すことで、従来人手で実施している場所の省スペース化と生産性の向上を実現、1日あたり約20万点の商品ピッキングを可能としている。

誉田CFCでは約3万8,000点の商品を取り扱っている。そのうちオングリッドロボットピックによる対象商品数は現状約3,000点、これを2025年度中に約1万点までピッキングする商品を増やしていく。ピッキングの対象としていない商品は、重量が2kg以上のものや、破れやすい、壊れやすいといったものになる。

第2の自動化ロボットは「オートフレームロード」。配送直前の注文ボックス(トート)を、配送用フレーム(台車)に自動で積み込むロボティクス技術になる。配送準備の中でも特に重労働な作業において、画像認識カメラとAIにより、トートの形状や重さ、フレームの状態をリアルタイムで把握し、人手を介さず最大20kgのトートを最適な位置に自動で積載する。現在、4台を配置している。

従来はAIによる配送順や重量バランスなどを考慮した積載指示をもとに、人手で積み込んでいた。1日に2万6,000個のトートを運んでいたが、この重労働を完全自動化し、作業者の負担を大幅に軽減した。配送車への積載効率や重さのバランスにも配慮した設計としている。

既存の自動ロボット設備について幾つか触れておく。一つ目は「ボット」。商品を収納したトートを持ち上げ、CFC内の商品棚上を走行しながら指定の場所まで運搬するロボットになる。お客の注文に応じて、必要な商品が入ったトートを正確かつ迅速に搬送し、ピッキングやパッキング作業の効率化に対応している。

ボットは秒速4m、人の10倍の速さで移動、生産性も10倍近くに高まる。誉田CFCは荷受けから出荷まで、直接関わる人員は約30人程度である。通常のネットスーパーであれば、誉田CFCの出荷量に対応するには数百人規模の人員が必要になる。

「オートフレームロード」は、配送直前の注文ボックス(トート)を、配送用フレーム(台車)に自動で積み込む最新のロボティクス技術

二つ目は「オートバギング」。1分間に50以上の袋をトートに掛ける自動袋掛けのマシーンになる。お客へ配送するトートに最大3袋を設置することを可能としている。三つ目は「バキュームリフター」。作業者の負担を軽減するためのハンドクレーン型バランサーになる。重い物や持ちにくい物を簡単かつ安全に持ち上げたり移動させたりするための装置だ。

四つ目は「無人搬送機(AGV)」。入荷商品の台車を同時に2台搬送できる無人輸送車になる。あらかじめ設定されたルートを自動走行し、効率的かつ正確に目的地まで入荷商品を無人で搬送する。

イオンネクストは、これからも最新の自動化技術のさらなる導入と最適化を進め、業務効率を飛躍的に向上させるとともに、これまで以上に迅速かつサービスの質を一段と高めることで、より便利で安心できるサービスを提供していくとしている。

商品アイテム、お客の利便性 サービスエリアの拡大を図る

会員数の拡大については、誉田CFCの稼働から2年間に60万人を獲得しているが、2025年度末までに100万人の突破を目指している。それでも首都圏の世帯数は1,700万あるので成長の余地はあると見ている。

会員の中にはヘビーユーザーもいて、都内23区の港区や世田谷区には、客単価(バスケット単価)が1万7,000円以上、買上点数が30点以上の利用客がいる。こうした会員数の拡大にともない「スポーク」と呼ばれる中継拠点を2025年度末までに現行の9から14まで拡大していく。

今後の課題として物流の効率化と利便性の向上が挙げられる。イオングループ全体の物流再編も考え得るであろう。例えば都市型小型食品スーパーの「まいばすけっと」は首都圏で1,251店舗(8月1日現在)を展開しているが、ここをグリーンビーンズの受け取り拠点に加えれば、自宅に不在がちの共働き夫婦には役立つサービスになるであろう。

イオンネクスト代表取締役社長のバラット・ルパーニ氏は次のように総括する。

『私たちは他のネットスーパーとは一線を画すサービスによって会員数を拡大しています。グリーンビーンズのサービス設計は、3万点以上の豊富な品揃えによりワンストップショッピングを実現、1週間鮮度保証の「鮮度+」「食べごろ+」、社員クルーによる質の高い配送、24時間注文可能の朝7時から夜11時までの1時間単位の配送枠、サクサク動くWebアプリ、これらの価値提供に集約されています。登録済み顧客数は60万人以上、平均客単価は1万円以上、買物客の90%以上はリピーターです。お客様の信頼とロイヤリティが高いということです』

今後、グリーンビーンズは次の3つのテーマにフォーカスしていく。

第1にオリジナル商品の拡大。食品だけではなく、需要が高まる韓国コスメなどのビューティケア、その他ノンフーズについても広範に品揃えを追加していく。特に首都圏の若いお客に合わせた商品も追加していく。

第2に利便性の拡大。新たな決済手段やロイヤリティプログラムを計画している。WAON POINTによる支払い機能やサブスクリプションも開発していく予定である。

第3に配送エリアの拡大。サービスエリアは2年間で急速に拡大、誉田CFCは東京23区の全て、千葉県の13都市、神奈川県の横浜・川崎エリアをカバーしている。前述のように、今後は八王子、久喜宮代でCFCを稼働させて配送エリアのいっそうの拡大を図っていく。

その一方で、ドライバーの不足が物流業界で課題になっている。グリーンビーンズではエリアの拡大と同時に、物流効率の向上を図っていく。例えば再配達を減らすため、1時間枠の設定に加えて、トラックが直前の配達先を出たところで、次の届け先にメールを送信して在宅を確認するなど細かな仕組みを整えている。結果として当日の不在率を0.5%未満に抑えることに成功している。

このようにグリーンビーンズは、AIとロボティクスソリューションを土台に、商品アイテム、お客の利便性、サービスエリア、この3つの拡大を図って、日本の流通を変革していく。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は『販売革新』『食品商業』の編集委員を務める。