ヨコ軸のお店の使われ方の幅とタテ軸の食場面の幅を拡大する
「我々が提供する商品は、あくまでも調理の補助(的な位置付け)だったものから、食卓を彩る一品になり、食卓のメインになるような商品の品揃えが増え、幅を広げています。自宅でもオフィスでも購入できるお店として幅が広がっています。これからもセブンイレブンの使われ方、利用のされ方、体験価値を地道に、地道に押し上げていくことによって、成長を遂げていきたい」(羽石氏)

会見で羽石氏が語るのは、セブン−イレブンが今後目指す姿だ(図表1)。
創業から早い段階でセブン−イレブンの成長を加速させたのが、移動の際に片手で食べられる、おにぎりやサンドイッチなどのワンハンド商品だ。当初は他社から仕入れた「いなりずし」をレジ前に置いて販売していたが、すぐにベンダーと協力して、おにぎりやサンドイッチなどの専用商品の導入を図った。
次に中華まんやおでん、揚げ物をカウンターに陳列、出来たてをすぐに食べたい需要を満たし、その後2013年に全店に導入したセブンカフェにより、挽きたてのレギュラーコーヒーを提供。さらに2025年2月に立地上、導入可能な全店にお届けサービス「7NOW」を取り入れている。図表のヨコ軸のように「来店目的・お店の使われ方の幅」を広げてきた。
一方のタテ軸については、例えば「カップデリ」(丸形容器の惣菜)を2017年に開発、サラダ、おつまみ、副菜を軸に約20アイテムを展開し、「食卓を彩るプラス1品」として「食場面の幅」の広がりに尽力してきた。
図表の右上が現時点の目指す姿であり「買い回りよくワンストップショッピングが可能」と位置付けている。冷凍食品を拡大し、プライベートブランド(PB)比率を高めると同時に、売場はアイスケース、中島冷凍リーチインを拡大する。また、日配商品を拡充し、2025年度より青果物のいっそうの拡大を図り、2030年までにオペレーションの体制を整えていく。
既存のミニスーパーとは異なる、コンビニが手掛けるワンストップショッピングの新しい業態開発を推進させていく考えである。
以上のような道筋を示した上で、将来への成長に向けて現在取り組んでいるのが、カウンターで販売する「出来たて商品の強化」である。
「我々の強みの一つである出来たての商品が家の近くで購入できれば、お店の使われ方が“さらに近く”に変わっていく、ここをチャンスと捉えて力を入れていきたい」(羽石氏)
出来たて商品は、おでんや中華まん、セブンカフェへと充実を図ってきた。現在は定番商品の「ななチキ」「揚げ鶏」に加えて、新たに「若鶏のからあげ」280円(本体価格、以下同)を販売する。
そして将来の成長に向けて、埼玉県29店舗でテストを実施(2025/1/9〜店舗改装せず、設備導入にて対応)、新たな商材として「セブンカフェティー」「セブンカフェベーカリー」として焼きたてのベーカリー(メロンパン、チョコクッキー、フィナンシェなど)をラインナップとして加えた。既存の揚げ物、カレーパン、ドーナツも継続している。
出来たて商品の拡充によるワンストップショッピング効果

セブンカフェティーは、アールグレイ、アッサムブレンド、ダージリンティーの3種類の茶葉をアイス、ホット、ミルクから選択できるようにして、レギュラーサイズ、ラージサイズで展開している。
「テスト販売は好調です。女性客比率が高く、午後の時間帯が売れて、スイーツや菓子と一緒に購入されるお客様が多い。コーヒーとはカニバリせずに上乗せになることが、テストで分かっている状況」(羽石氏)
この埼玉県の29店舗のテスト店の売上動向だが、テスト前の11月を100とした指数で、新カウンターの商材を品揃えした店舗では、1月6日の週から3月10日の週の平均では、155と売上を大きく乗せることができた。
テスト店と同じ埼玉地区の他の店舗については、11月と比較した際に、1月6日の週から3月10日の週の期間は、一般的に(おでん・中華まんの低下にともない)87%とダウントレンドにあるが、テスト店では逆にカウンター商材を大きく伸ばしている。
また売上もカウンター商材だけではなく、それを買い求めるお客の来店により客数が前年4.2%増と効果を確認している。
出来たてのカウンター周りの商品だけでなく、併売効果によりカウンター商材の売上以上の効果を生んでいるという。カウンター商品は粗利率が高いので、全体の荒利を押し上げる効果も確認ができている。
お届けサービス「セブンNOW」についても、テスト店では焼きたて、揚げたて効果により注文が伸長している。
前述と同様に11月を100とした指数で、1月6日の週から3月10日の週の平均で1.5倍の注文件数の増加を確認している。
設備機器の導入について、ベーカリーの焼成機は2025年度上期に4,000台、下期には8,500台、セブンカフェティーは3月時点で90店だが、下期に2,000台を導入していく。
「商品タグ付け機能」による消費シーンを想定した発注
セブン−イレブンは今春より新たな基幹システム「次世代店舗システム」を順次導入している。これまでセブン−イレブンの情報システムは、基幹システムの集配信サーバを経由して、店舗ごとのストアコンピュータ(通称ストコン)に店舗システム機能を構築してきた。
それを改めて、今後はクラウドに店舗システム機能とデータを集約して、基幹システムとクラウドの間でデータを送受信する。基本的には有事の際を除いて全てをクラウド化にする。
加盟店オーナーは、情報が欲しければ、いつでもクラウド上でアクセスし、チェーン本部と円滑なコミュニケーションを図ることができる。
店舗システム機器については、既存のストコンを撤廃、また、これまでの「専用端末」に代わって「汎用端末」を利用する。従業員が普段から使い慣れているデバイス(タブレットとモバイル端末)で業務を行うため、店舗オーナーにとっては教育負荷の削減と、それに伴うコストの軽減を期待できる。
レジに関しても、タブレットを用いた小型サイズのものに2026年度から切り替えていく。小型化によりレジカウンターに30%程度の余裕をつくり、前述したベーカリー、あるいはセブンカフェの新シリーズに充当する。
商品発注に関して、既にセブン−イレブンは「AI発注」を加工食品や飲料などに取り入れており、今後は長鮮度商品(チルド温度帯)にも拡大を図っていく。弁当や惣菜は、加盟店の意思を反映するため、AI発注には現状は含まれていない。
また商品発注の際に、店側の欲しい商品やイベント、例えば「気温上昇時」に必要な商品とは何か?といった「商品タグ付け機能」により、消費シーンでの絞り込みや検証を可能としている。商品タグは、既存のカテゴリー別のタテ割り発想ではなく、カテゴリーをヨコ串にした、横断的な発注の切り口として期待が掛けられている。
「お店の方たちが発注する際に、暑ければ冷たい麺(冷やし中華や冷やしそばなど)だとピンときます。ただ、消費動向を見ると冷たい麺だけじゃなくて、冷たいパスタとかパスタサラダ、あとは梅のニーズとか、一緒に売れるものが変化しています。タグ機能により関連商品の発注が増えてくる、あるいは発注カウンセリングがしやすくなるメリットがあります」
新たな情報システムの導入により、店舗責任者(オーナー、もしくは店長)はストコンを使わずに、タブレットやモバイル端末からの商品発注やシフト管理を可能として、事務所という場所に縛られず、店舗経営に専心できるようになる。
セブン−イレブンの将来に向けた成長には、「出来たて」という付加価値の高い商品、その半面、最新デジタル機器を拡充した店舗運営の効率化により、成長を図っていく。

執行役員商品本部長
羽石 奈緒氏