コンビニネクスト

第44回躍進するディスカウント系スーパーマーケット「オーケー」が関西に初出店した高井田店の実力

ディスカウント系スーパーマーケットの勢いが止まらない。実質賃金が伸び悩み、所得の中央値が減少する中、低価格の強さが改めて見直されている。ここでは2024年11月26日に関西に初出店したオーケーの店づくりを見ていきたい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年2月号より転載)

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安くなる仕組みを構築し、無駄なコストを削減

2024年11月26日にオープンしたオーケー高井田店。大阪府内で大阪市、堺市に次いで多い人口約48万人を抱える東大阪市に出店

日本で現在、成長を続けている業種・業態を考えてみると、ドラッグストア業態が真っ先に頭に浮かぶ。2023年度の市場規模は前年比5.6%増の9兆2,022億円(日本チェーンドラッグストア協会調べ)で、同じペースで伸長すれば2025年度には10兆円を超えそうだ。

もう一つはEC(消費者向け電子商取引)業態。「令和5年度電子商取引に関する市場調査」(経済産業省調べ、2024年9月25日)によると、日本国内のEC市場規模は、24.8兆円(前年比9.23%増)、うち物販系分野は14.7兆円(前年比4.83%増)と伸長している。

そして今回言及するのが「ディスカウント系スーパーマーケット」である。既存のスーパーマーケットと線引きが難しく、市場規模を示す数字もないため、業種・業態に分類できるのか、明確な答えはないが、該当企業の成長スピードを見ていけば、その傾向は顕著に表れている。

ディスカウント系スーパーマーケットのトップランナーがオーケー(本社/横浜市)である。店数は157店舗(2024年12月末)、売上高(テナント除く)は6,228億円(2024年3月期)で前期比12.7%増、コロナ禍前の2019年3月期が3,930億円だから、5年間で58.4%増という急成長を遂げている。2024年3月期の経常利益は379億円で売上高対経常利益率は6.1%とスーパーマーケットの中では群を抜いている。

二番手でオーケーを追い掛けるのがロピア(本社/川崎市)だ。店数は110店舗(24年12月)、売上高は2024年2月期が4,126億、2025年2月期に5,000億を計画している。2023年2月期より他のスーパーマーケットを連結子会社に加えたため、比較可能な2022年2月期(年商2,469億円)と2012年2月期(年商437億円)を見ると、10年間で5.6倍に成長している。

三番目は「業務スーパー」(経営/神戸物産、加古川市)。フランチャイズビジネスのため上記2社と売上高の比較はできないが、店舗数で見ると、2024年10月期が1,084店舗、2019年10月期が845店舗なので5年間で28.3%増と出店エリアを北海道から九州まで広げている。

最後はイオン系の「まいばすけっと」(本社)。2024年2月期で1,119店舗、売上高は2,578億円、これを2019年2月期と比較すると765店舗、1,537億円となり、5年間で店舗数は46.3%増、売上高は67.7%増と成長を加速させている。「まいばすけっと」は自らを「都市型小型食品スーパー」と称している。

ディスカウント系に分類するには異論もあるが、近年のコンビニ価格を高いと感じる層を集客しているため、コンビニ業態と比較してディスカウント系スーパーに分類してよいだろう。

以上4チェーンは、競合する既存業態と比較して価格を抑え、集客力を強めて、1店舗当たりのトップライン(売上高)を高める一方、徹底して無駄なコストの削減を試みている。

オーケー、ロピア、業務スーパーは、商品アイテムを絞り込み、大容量パックの比率を高め、店内作業を削減、店舗人員の抑制に努めて、人時生産性を高めている。

「まいばすけっと」についても、深夜営業をせず、納品も品出しも集約化、カウンターフーズの販売やチケットの発券などコンビニが有するサービスはせず、店内作業の軽減に注力して、最少人数でのオペレーションを可能にしている。各社、それぞれ「安くする仕組み」を構築しているが、本稿では2024年11月26日に関西に初出店したオーケー高井田店を取り上げる。

調剤は処方箋枚数の伸長に苦戦 ビジネス自体の勉強に注力

オーケーは、2023年6月に東大阪市が競争入札を実施した約1,100坪の土地を約27億円で落札、5階建ての店舗を建設した。地下1階を自社の売場とし、1階に100円ショップのダイソーをテナントで入れて、2階から4階を192台の駐車場、5階を自社の関西事務所に充てている。

同社の店舗では首都圏でも多くが地階を売場にしている。仮に1階を売場にすると、トラックが荷物を運んで来る搬入場や、階上の駐車場に向かうスロープなどに1階のスペースが取られてしまう。売場面積を建物の都合で縮小しないように、地階に確保するパターンを関西でも踏襲した。

「いろいろな制約の中で売場と駐車場を広くとるため、売場を地階に配置しています。当然その分の建設コストは上りますが、客数増による売上アップでカバーできると考えています」(オーケー代表取締役社長の二宮涼太郎氏)。

オープン直後のオーケー高井田店。開店前に数百人が列を成した。2021年、関西市場への足掛かりとするため、関西スーパーマーケットに買収提案を試みたが株主総会で否決されて裁判にまで発展した騒動も結果的に知名度アップに貢献したようだ

高井田店の売場面積は770坪。同社のなかでは大型店の位置付けになる。チェーン全体として見ると、売場面積は100坪から1,500坪、形態はテナントから土地・建物を自社所有、あるいは借地に自社物件など柔軟に対応している。中でも高井田店のような土地・建物の所有比率は同業他社と比較して高いという。

「土地取得によるリスクはあります。一方でディスカウントをする上では、土地を自社で所有し、長期にわたり営業すれば、コスト競争力につながっていきます。高井田店については、やはり関西1号店なので、売場面積と駐車台数を確保したいと考えて土地を購入しました」(二宮氏)

次に商品の価格について独自の方法を考案している。

オーケーは顧客に自社カード(オーケークラブ会員カード)への加入を勧めている。この会員カードには、食料品(酒類を除く)を現金払いしたお客に対して本体価格から3%相当額を割引く特典を付けている。1989年の消費税3%が導入されたときから施策として定着している。

「関西では初めての店なのに、オープン前に200円(発行費用)お支払いになって会員になられた方が3,000人もいます。非常に手応えを感じています」(二宮氏)

オーケーは地域で最も安値を保障している。社員が競合店の価格を調査して、自店が1円でも高ければ「競合店対抗」により即座に値下げを断行する。その際に条件とするのがオーケークラブ会員カードの提示だ。

現金払いのお客には3%の割引を適用し、その割引後の価格が競合店と同じか、それより安くなるように設定することで、扱う商品の最安値を保証している。実際に会員カードで買物をする人の割合は8割に達する。残りはキャッシュレスを好む一定割合の買物客になる。

経営方針は「高品質・Everyday Low Price」、商品政策は経営方針にあるエブリデー・ロープライス(EDLP)としている。その一方で、一時的に条件を付けて値下げする商品もあれば、メーカーの特別提供品も多く扱う。

関東では物流に関して2024年5月以降に冷凍商品を自社物流センター経由で店舗に納品している。3拠点の賃借冷凍倉庫を活用し、常温食品同様に冷凍商品は「センター着原価」での買付として価格競争力を高めている。関西はまだ1店舗なのでベンダーの物流を活用しているが、今後店舗数の増加を見極めて、自社物流に切り替えるなどして、店舗を含めた物流の効率化を図っていく。その際に、取扱商品の見直しを図り、冷凍分野の競争力を高めていくという。

新規事業として調剤薬局を2021年からスタートさせ、首都圏では13店舗を展開。高井田店では医薬品を扱うが調剤薬局は置いていない。

高井田店では日用雑貨など非食品ゾーンに医薬品の売場を設置、登録販売者と専用レジを置いている。調剤薬局は首都圏13店舗でこれからの展開を検証している

「需要が高いところもあれば、まだ処方箋枚数の伸びに苦戦しているところもある。調剤薬局というビジネス自体を一生懸命勉強している最中です。まず関東を強化して、その後に関西を考えていきたい」(二宮氏)

オーケーは2025年に兵庫県の5店舗、そして2026年に大阪府で7店舗をオープンすると公表した。

「既に様子を見る段階ではありません。当然ドミナント出店であり関西の中で規模感を出そうとすれば10店舗、20店舗の水準ではありません。どんどん増やしたい」(二宮氏)

首都圏を第1ドミナントとすれば関西圏は第2ドミナント、そこへわずか1、2年でチェーン化を試みる。かつてセブン-イレブンが新規エリアに怒涛の出店を繰り広げてきた展開と同じような勢いをディスカウント系スーパーマーケットのトップランナーが見せている。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は『販売革新』『食品商業』の編集委員を務める。