コンビニネクスト

コンビニでおしゃれな衣料は売れるのか

第31回ファミリーマートがファッションショーを開催!コンビニ衣料で全身コーディネートに挑戦

コンビニで果たしておしゃれな衣料は売れるのか。コンビニ半世紀の歴史の中で、どのチェーンにおいても、本格的に取り扱ってこなかったファッション分野に対して、ファミリーマートはオリジナルブランド「コンビニエンスウェア」を全国展開している。そのブランドを用いたファッションショーを11月30日、国立代々木競技場の第二体育館内で開催した。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年1月号より転載)

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ダイバーシティを感じるモデルをファッションショーで登用

ファッションショーには、写真以外にも、高齢の女性、車椅子の方、子どもを連れた母親など、お客を選ばないコンビニらしく、さまざまな人たちが登場、ファミリーマートの(発売予定も含めた)コンビニエンスウェアを着こなしている

ファミリーマートは2021年よりコンビニエンスウェアを全国展開している。その開発コンセプトによると、ファッションデザイナーの落合宏理氏を起用して、緊急時の利用として品揃えされているコンビニ衣料品に対して、デザインや素材にこだわり、普段から着たくなるような商品展開により、コンビニ衣料品の新たなスタイルを目指すとしている。

今回のファッションショーは、ファミリーマート初の試みとして開催した大型イベント「ファミフェス」の目玉イベントとして行われた。開催に際してファミリーマート代表取締役社長の細見研介氏はファミフェスの意義を次のように述べた。

「ポストコロナを迎えて、普通の生活を取り戻した喜びを分かち合う機運が日本中で湧き上がっている。この喜びを皆で分かち合い、お客様に感謝の気持ちを届ける思いで、コンビニが(大会場を借り切って)実施する前代未聞のフェスを企画、将来に向けてチャレンジをお披露目したい。われわれはチャレンジする方のコンビニを標榜している。このフェスをファミリーマートによる挑戦の新たな1ページとしたい」

また、ファミフェスの総監督であり、コンビニエンスウェアのクリエイティブディレクターでもある落合氏は開催前に次のような思いを語った。

「さまざまな方が利用するファミリーマートのイベントだからこそ、会場の全員が同じ視点で、ランウェイのショーを楽しんでいただける、そんな思いを込めて(会場に)円形のリアルな店舗をつくった。総勢100名以上が出演する中で、多様性のある、ダイバーシティを感じるようなモデルの方々をキャスティングした。新しいライフスタイルの提案だけでなく、加盟店の皆さまと一緒に、新しい価値をつくり上げる機会にしていきたい」

コンビニエンスウエアの開発に携わってきたファミリーマート執行役員商品本部本部長の島田奈奈氏はコンビニの品揃えに変革を促していく。

「コンビニエンスウェアはファミリーマートのチャレンジの象徴。今回はショートパンツ、ジョガーパンツ、チノパンまでお披露目する。これにより、私たちのコンビニエンスウェアは全身コーディネートができるブランドを目指していく。」

ファミフェスの開催を皮切りに新しい時代のコンビニ像を創る

コンビニの競争環境を見ると、人口が減り、店数が増える中で商圏は狭小化している。

「コンビニは手軽であることや、緊急時の需要だけではなく、本当に欲しい“選好品”が求められる傾向がある」(広報)とファミリーマートはマーケットを分析している。同じコンビニのミニストップも、これからのコンビニは便利で使い勝手が良いだけでなく、お客様にわざわざ選んで店に来てもらうデスティネーションストアを目指すべきとして、それを実現する商品開発に取り組んでいる。

もちろんコンビニの生命線である、米飯弁当や調理パン、調理麺、惣菜などの強化が必須に違いないが、ファミリーマートは、それを非食品、とりわけ衣料品に目を向けて、この間の商品開発を強化してきた。

ファミリーマートは、これまでのコンビニ商圏の常識にとらわれ過ぎず、“こんなことあったら嬉しい”と思える商品やサ―ビスをどんどん生み出していくことを“ファミマのチャレンジ”と定義して推奨している。

コンビニの衣料といえば、ビジネスホテルの多いエリアで売れる傾向にある。出張時に着替えの用意を忘れたり、急な宿泊が必要になった際に買いそろえる下着といった位置づけであった。そのため、商品に求める基準は、そこそこの品質で、決して高くもなく(安くもない)価格ラインが主であった。

ファミリーマートのコンビニエンスウェアで最初にヒットしたのがラインソックスやショートソックス。無地が多いコンビニの靴下の中で、ちょっとしたデザインが支持された

こうした、いわば無風状態を創業以来続けてきたコンビニ衣料に対して、ファミリーマートはメスを入れたのだ。推進したのは(前出の)細見研介氏である。細見氏は親会社の伊藤忠商事出身で、アパレル部門で実績を上げてきた。衣料品の開発とブランド構築に精通した人物である。

属人的な話に聞こえるが、2002年から2013年までファミリーマートの社長を務めた上田準二氏も、伊藤忠商事出身で、同社の畜産部門で培った知識と人脈により「ファミチキ」の開発に尽力して、同商品を看板メニューに育成している。こうした成功事例も、コンビニエンスウェアの開発に多少なりとも影響はあるだろう。

コンビニも他の小売業と同様に、実店舗の販売だけでなく、Eコマースによる市場も視野に入れていくであろう。現状のコンビニ加盟店が、コーディネートできる分だけ衣料品の在庫を持ち、陳列して、販売するイメージは持ちにくい。将来を見据えた取り組みと捉えた方がよいかもしれない。

ローソンの無印良品に対して、ファミマは自社開発でデザイン向上

一方で副次的効果への期待もある。衣料品の拡充による、ファミリーマートのイメージ強化、他の商品カテゴリーのデザイン向上などが挙げられる。ファミフェスでは、コンビニエンスウェアをモチーフにした落合氏がデザインする新カテゴリー「文具」を発表した。

コクヨの持つベーシックな文具を、新たに落合氏のデザインにより、ファミリーマートのPB(プライベートブランド)として販売していく

「技術力のある(文具メーカーの)コクヨが、落合氏のデザインにより、色、形、心地よい機能を備えた、コンビニエンスウエアと同じコンセプトを持った文具を開発した。ファミリーマートがコンビニエンスウエアで目指している、間に合わせの商品ではなく、選んで買っていただける商品を、新しい文具においても同様に推進していく」(島田氏)

コンビニで購入する文具について、従来は機能性にしかお客の期待はなかった。ここにデザイン性を付加して目的買いを促していく。

もう一つは「ファミフェスデザインプロジェクト」の発足。今回のファミフェスに参加した日本のメーカーの人気商品を、落合氏のデザインプロデュースにより、ファミリーマート限定商品として発売していく。なじみのある商品を、デザインを変える形で展開することで、お客との新しいコミュニケーションを図っていくとしている。

昭和の時代に使用していたファミリーマートのロゴとブランドデザインをTシャツに使用した

最後に補足すると、ファミリーマートは、かつて同じセゾングループにあった「無印良品」を雑貨や衣料で品揃えしていた。それを2019年1月に契約を打ち切り撤収、代わってローソンが2020年6月より無印良品を導入している。ローソンの無印良品に対して、ファミリーマートは自社開発でデザイン性の向上を図っていく戦略である。

長らく手が付けられていなかったコンビニ衣料が、消費者が好むブランドの一角を担えるのか、デスティネーションストアを目指して、ファミリーマートを含めたコンビニチェーン各社が、新たなカテゴリーで、従来の常識を破るべく、チャレンジを続けていく。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。