コンビニネクスト

第43回食品小売業態が直面する2025年の課題とは?~生活防衛、商品開発、コスト削減への対応~

本連載「業態STUDY」は主にコンビニ業態の動向をリポートしている。今回は視点を少し広く持ち、コンビニを含む「食品小売業態」全般における2025年の課題をまとめていきたい。テーマとして第1に「生活防衛」、第2に「商品開発」、第3に「コスト削減」の3つを取り上げたい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2025年1月号より転載)

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国内2大流通グループが示す低価格政策に同業他社も追随?

実質賃金(労働者が実際に受け取った名目賃金から物価変動の影響を差し引いた指数)は2024年9月が前年同月から0.1%減少、前月8月も0.8%の減少でマイナスが2ヵ月続いている。2024年6月、7月はプラスに転じたが、同年5月まではマイナスが26ヵ月続いてきた。実質賃金を決める消費者物価と所定内賃金の上昇率の差は縮まってはいるものの、生活防衛の意識は当分続くであろう。

消費者の生活防衛意識を反映して、イオンは2024年11月13日から、イオン、イオンスタイル、マックスバリュなどの全国約1万店舗で、グループのPB「トップバリュ」36品目を値下げしている。24年度に値下げした商品は累計で115品目となった。

他方、11月に値上げが実施・予定されている食品の品目数は11ヵ月ぶりに前年を上回っている(帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査2024年11月より)。

お客の生活防衛意識が敏感になるなか、イオンは特に支出が増える年末年始に向けてコスト削減に取り組み、グループ独自のネットワークを最大限に活かしたサプライチェーンの構築や計画生産により値下げを実現させたという。

イオン取締役兼代表執行役社長の吉田昭夫氏は2024年10月9日の中間期決算説明会で「食料品におけるお客様のバスケット点数は一定程度の減少が続き、セールの日(イオンの感謝デー)に来店が集中する傾向が出ている。価格訴求を行うスーパーマーケット企業も増えている」とする消費環境を認識した上で、「上半期にやや中途半端であった価格の打ち出しを下期は明確にして、トップバリュのベストプライスに代表される、お値打ちの商品を打ち出す方針を示した」と消費者の生活防衛に応えていくとした。

イオンのトップバリュには、メーンブランドの「トップバリュ」、健康生活に訴える「グリーンアイ」、そして価格訴求型の「ベストプライス」の3つがある。この中で、絶対価格の低い「ベストプライス」を特に拡充する。

「10月からは食料品の価格が3,000品目で上ると報道されている。こうした状況をPBの優位性が発揮しやすい環境ととらえて、下期(2024年9月〜2025年2月)はベストプライスにより集客力を増して、売上を伸ばし、粗利総額を高める展開にしていきたい」と吉田氏。価格訴求を強めていく姿勢を明確にしている。

セブン&アイ・ホールディングスの主軸であるセブン-イレブンも同様の姿勢を強く持ち、上期までは価格対応に遅れたと認識し、安価な商品にフォーカスした販促「うれしい値!宣言」により、品揃えの中で品質だけではなく、価格でも食品スーパーやドラッグストアに対抗できる商品を訴求している。

国内2大流通グループが価格政策の方針を示した以上、同業他社も意識せざるを得ない。通常PBの値下げ、低価格PBの拡充は、食品小売業の共通課題といえるだろう。

チェーンストアが目指すべきはタテ軸よりもヨコ軸の豊かさ

「生活防衛」を理由にした低価格対応は、今の消費者に受け入れられるに違いない。イオンもセブン&アイ・ホールディングスも、そこに注力している。一方でチェーンストアらしい生活提案、例えば今まで経験してこなかった食生活の豊かさもスーパーマーケット各社は継続して提案している。

その商品開発には、タテ軸とヨコ軸の方向がある。タテ軸は品質を伴う価格帯、ヨコ軸は価格に捉われない食生活の新しさといったイメージである。例えば、外国産牛肉をメーンに、国産牛肉、ブランド牛(銘柄牛)肉と価格帯を上げて選択肢を増やす取り組みがタテ軸の豊かさであり、ヨコ軸の豊かさは、高級化、上質化ではなく、牛肉のバラエティを横に広げていく商品開発になる。

例えば食品スーパーのヤオコー(本社/埼玉県川越市、グループ234店舗、2024年9月末)は24年度にローストビーフの自社製造を始めた。精肉部門で扱うローストビーフのほかに、惣菜部門のローストビーフ丼、寿司部門の肉寿司、ベーカリー部門のローストビーフバーガーといった、多彩な商品化を試みて、ヨコ軸の豊かさを実現している。自社製造で味と鮮度を向上させ、商品の差別化に加えて製造者利益を高める政策だ。

商品・販売戦略:SPA型商品開発

ちなみにヨコ軸の豊かさで筆者が感心した事例は、2022年7月にセブン−イレブンが導入したセブンカフェの「濃さ」を選べる新仕様だ。「軽め」「ふつう」「濃いめ」の3つから同じ価格で選択できるようにした。それ以前は、地域や期間を限定したコーヒー銘柄を投入し、価格帯の高さによるタテ軸の豊かさを提案していた。

一方のヨコ軸は、朝は気を引き締めるために「濃いめ」、昼は食後に「ふつう」、午後の休憩はスイーツと一緒に「軽め」といった、時間帯やその日の気分、好みによる選択肢を増やして、コーヒーを楽しむ新たなライフスタイルを提案となった。当時の取材で開発担当者に聞くと「ヨコ軸もタテ軸も両方を広げて市場を広げたい」とコメントしている。

実質賃金が上がらない中で、価格を上げずに、チェーンストアが実現する豊かさを、ヨコに広げていく展開を筆者は期待している。

ドン・キホーテは2009年にオリジナルブランド「情熱価格」を立ち上げ、2020年夏〜2021年2月に大幅なリニューアルを実施。「情熱価格」をドン・キホーテらしいブランドへ刷新して、同質化から脱している。

ドン・キホーテのオリジナルブランド「情熱価格」は、驚きのニュースのない商品は作らないと宣言。商品パッケージには過剰なくらいの文言が並ぶ

開発に際して、PBを「ピープルブランド」(顧客とともに驚きのニュースを作り出すブランド)へコンセプトを転換、常に「サムシングニュー」がある売場をつくり続けるために、同社は「驚きのニュースのない商品は作らない」ことを宣言している。商品パッケージに入れ込む商品名を“ニュース”と呼び、過剰なまでの説明書きを記している。

利用客が認知できない高級素材を入れ込んでも、単に品質を見直して低価格を訴求しても“ニュース”にはならない。価格に対して厳しく臨むのは「情熱価格」であるから当然であり、パッケージに書かれた価格以外のニュースで伝える価値と、その実売価のギャップから生まれる「値ごろ感」を重視している。

「情熱価格」商品のパッケージを紹介すると、「素煎りミックスナッツDX(デラックス)」には次のように記されている。「年間売上10億円突破 ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めたアーモンド・カシューナッツ・くるみの黄金の究極比率 食塩・油を使わないこだわり」

以前、同商品の年間売上は7億円と記されていたが、24年度は数字が更新されて10億円に。続く「独断と偏見」は宣伝文句と思うが、ミックスナッツの比率を訴求する商品は他に見当たらないであろう。開発担当者が原価調整ではなく、おいしく感じる比率に配慮したということ。そうした姿勢が、価格以外のニュース性となって付加価値を高めている。

今までの商品になかった“驚き”を訴求して、お客のライフスタイルに“豊かな生活”を提案している。

第3のテーマは「コスト削減」。スーパーマーケット各社の2024年度中間期決算で説明を聞くと、軒並み「増収減益」を強いられている。

例えば、上場しているイオンの地域事業会社、イオン北海道、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス、マックスバリュ東海、フジ、イオン九州のうち、増収増益はマックスバリュ東海1社のみで、他の4社は(赤字1社を含む)全て増収減益になった。

増収については生鮮を含めて1品単価の値上がりが大きく影響している。一方で、減益については価格競争に対応した値入率の低下と、賃上げによる人件費の上昇、他に配送費、水光熱費などのアップがあり、それらを吸収できずにいたことが理由である。

パート・アルバイトの人件費は、企業側にとっては厳しくなる。石破茂首相は、2020年代に最低賃金の全国平均時給を2024年の1,055円から1,500円に引き上げる方針を示している。1,500円は現行水準の4割超の引き上げになり、5年以内での実現は難しいと考えるものの、各企業にとって生産性向上は急務となる。

スーパーマーケット各社は、「フルセルフレジ」と「電子棚札」の導入比率向上を課題にしている。「フルセルフレジ」はスーパーマーケット各社で急速な導入を見せており、電子棚札への移行も徐々に進んでいる。ただし、この2つも既にゴールが見えており、そこから先はDXを用いた、いっそうの生産性向上が求められている。

スーパーマーケットやコンビニ各社は、大衆の「生活防衛」に応える一方で、「商品開発」により新たなライフスタイルを提案、それを「コスト削減」により実現させる取り組みが進められている。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は『販売革新』『食品商業』の編集委員を務める。