新規客をロイヤル化させる2つのファネルの取り組み
ファミマはリテールメディアを2つの(マーケティング)ファネルとして捉え、各段階においてタッチポイントを創出、商品やサ―ビスの購入に結び付けている(図表1)。
ファネルとは、顧客が商品を認知してから、実際に購入するまでの一連の流れを図で表したものを意味する。従来の広告は、図表1の左半分のように、商品やサ―ビスを、新しいお客に「認知」させ、「興味・関心」を持たせ、「比較・検討」させて「購入」を促していた。テレビ広告がその代表的なものであり、ファミマのデジタルサイネージもその一つである。
一方のリテールメディアは、図表の右半分のようにファネルを超えたマーケティングを加えたもので、一度購入したお客に対して、再度の購入(リピート)から発信・拡散を促していく。詳細を説明する。
第1に「リピート」。仮にナショナルブランド(NB)の炭酸飲料Aを初めて購入したとする。最初に販促による値引きの効果で購入したお客に、2回、3回と同じ商品を試してもらうと継続率が高くなる。まずは、2回目、3回目のリピート購入を促すために、どのような施策をとるのかを決める。最初と同様に値引きクーポンの送付なのか、アプリ上で他のユーザーの感想を伝える情報なのか、リピートを促す施策を実施する。
第2に「クロスセル」。購入を検討する商品と、別の商品を一緒に提案すること。例えばカウンターコーヒーとスイーツの組み合わせ、あるいは飲料とポテトチップスの組み合わせなどを提案する。商品の購買データを活用して嗜好性の似ているお客をセグメント。そこにメーカーのプログラムを展開してクロスセルを上げていく。複数の接触ポイントにより来店するお客には効果が高く、顧客のロイヤル化につなげていく。
第3の「ロイヤル化」。例えば3ヵ月の間にファミチキ10個を購入であれば1本無料にするスタンプ施策のようなプログラムが有効である。こうしたロイヤルプログラムをアプリの中で展開することにより、ロイヤルティを増していく。
第4の「発信・拡散」。主にSNS上での発信と、それに伴う拡散については、ファミマ側がコントロールできるものではなく、あくまでも利用者の自由意志に掛かっている。ファミマ側が、しっかりとファンづくりに取り組むことで成果が期待できる。
「こうした2つのファネル、いわばファネルの二刀流により、私たちのリテールメディアは、新しいお客様の獲得と既存客のロイヤル化を、同時に推進することを可能にしたのです」(ファミリーマートデジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)
5つのメディアを駆使してお客のタッチポイントを創出
二刀流のファネルによるマーケティング、さらに次に説明する5つのメディアによるタッチポイントの創出により、ファミマはリテールメディア戦略を推進していく。
この5つのメディアの内容を図表1の上から見ていく。
第1に「サイネージ」。全国の店舗に導入を進めるデジタルサイネージ「ファミリーマートビジョン」は2023年内に1万店舗への設置を目標にしている。これは複数人が同時に視聴するメディアであり、自分が能動的に見なくても自然と目に入ってくる。テレビの視聴者が減少し、若者がユーチューブなどの動画に流れる中で、新たな役割を担うようになっている。
例えば、ユーチューブに関しては、利用者はIDによりセグメントされた広告を視聴している。偶発的な情報や広告との「出会い」は少なくなっている。ターゲティングの精度を高めていけば効率は良くなる一方で、ターゲットユーザーが先細っていく懸念もある。メーカーにしてみれば、これまで興味を示さなかった利用者に商品を試してもらいたいニーズはある。ファミマはサイネージをテレビと同じマスメディアに位置付けて継続させていく。
ファミマの期待は、サイネージを通して店頭の商品はもちろん、今のトレンドをキャッチしてもらいファンを増やすことにある。そのため、広告枠は50%に抑えて、残り50%を独自の番組に充てている。滞在時間の平均は5分といわれている。この5分を楽しい時間と空間にしていく。その一環として、レジ待ちの27秒で、ひと笑いを起こすコンテンツの配信を、吉本興業とのタイアップで配信している。
ファミリーマートビジョンを用いた、日本コカ・コーラとファミチキの連動企画は、実施前、実施後の比較において、ファミチキとコークの併買率を6倍から7倍に増やすことができた。
コークの企画に関しては、ファミリーマートビジョンに加えて、ファミペイへの広告も打っている。これにより、さらに販売係数が高くなるといった結果が出ている。こうしたクロスメディアの効果を活用しながら、広告主に還元していくとしている。
第2の「店頭(売場)」については、ファミマ本部とフランチャイズ加盟店との連動が求められていく。サイネージやファミペイアプリ、デジタル広告やSNSで発信したとしても、売場で対象商品を欠品させたり、目立たせなかったりすれば広告効果も半減する。発注、陳列、販売、検証のサイクルの中に、リテールメディアの展開をしっかりとつなげて、効果を高めていくことが求められる。
第3の「アプリ」については、ファミペイのデジタル会員1,700万ダウンロード(DL)を活用する。お客が求めているのは、ファミマで買物するときのベネフィットがある機能や付加価値である。それがファミペイのDLにつながるので、商品の販促施策に連動した形でDLを促している。
例えば、「ファミマスイーツを買うと100円引きファミペイクーポンもらえる!」といったファミペイ会員だけが100円割引になるキャンペーンを展開した。こうした商品の連動により会員数を増やしていく。既にファミペイを使用している会員にとっても、そうしたお得が続けば継続する動機につながっていく。
第4の「デジタル広告」について、事業会社の「データ・ワン」が担っている。広告の枠を買い付けるDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)エンジンを自社開発。同時にクリエイティブを配信する両方の仕組みをデータ・ワンは持っている。
データ・ワンの分析によると、単に広告を見てもらうだけの枠と、見た人が購買行動に移した人の枠は実は違っているという。市場において、低値で取引きされている枠に、デジタル広告として飲料メーカーのCMを打ったところ、購買行動への効果が非常に高かったという。AIアルゴリズムを使って、購買効果の高い枠だけを買い付ける仕組みを、データ・ワンでつくり出している。
第5の「SNS」については、500万人以上のフォロワーを持つファミマの公式X(旧ツイッター)を中心に情報を発信、他に公式インスタグラムやTikTok、LINE、フェイスブックなども活用している。
「この5つのメディアを私たちは作り込んできました。これを縦横無尽に駆使しながら、必要なポイントで顧客にタッチしていき、このファネルの両方をカバーしていくのです。これを作り切ることが、私たちのリテールメディア戦略になっていく」(国立氏)
デジタルのアセットを組み合わせ小売業の価値を再定義
ファミマはデジタル戦略を進めるにあたり、店舗を「カスタマーリンクプラットフォーム」と再定義して、顧客と深くつながる政策を実施している。
この店舗の再定義はファミマ独自の戦略である。お客とのつながりを常に創出することに経営資源を集中させていく。その考え方は、世界最大の小売業であるウォルマートも同様のデジタル戦略を描いている。お客とのつながりを強化するために、店舗だけではなくデジタル接点を使った形で、一つのアセット(資産)を形成していく。
それは時間も場所も問わず、お客と常につながっていくことを意味する。店舗の外においても中においても、お客とつながっていき、有益な情報を発信したり、フィードバックを得たりしていく。店舗で商品を販売するタッチポイントに、リテールメディア機能、コミュニケーション機能を加えたプラットフォームをデジタルでつくっていく。
「コンビニに新商品を楽しみに来店されるお客様は多いと思います。それに加えて、新しく有益な情報が発信される拠点として、お客様の生活導線の中でファミマに立ち寄っていただくようなつながりの強化を、リテールメディアを含めて実践していきます」(国立氏)
ファミマは、約1万6,500店舗のリアルなアセットを強みとしている。そこにデジタルの新しいアセットを組み合わせて、小売業の価値を再定義する。このDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むことで、新規顧客の獲得と、既存客のロイヤル化を図っていく。
《取材協力》