コンビニネクスト

天候不順の影響を受けずに安全・安心な野菜を安定供給

第28回肉や魚、卵、野菜を食べ続けられるのか?セブン・ローソンに見る代替食品と工場植物の活用

食を取り巻く環境に不安が広がっている。鳥インフルエンザによる卵の供給不足、政情不安による輸入食糧の逼迫、長期で見れば、2050年にタンパク質危機が発生する可能性が懸念されている。途上国の人口が急速に増加、世界人口を補うタンパク質が不足するというのだ。日本経済が停滞する中で、従来通りに肉や魚や卵を食べ続けることが可能なのか、身近な食に関わるコンビニが、食の持続性をテーマに商品開発に乗り出した。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年10月号より転載)

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この味わいだったら大丈夫とサンドイッチで確認してほしい

食に関わる環境の悪化に対して、その解決策の一つが代替食品であり、現在大きな関心を呼んでいる。大豆などのプラントベースの代替肉は、植物性タンパク質が摂取でき、カロリーも低く、健康に良いとされている。

宮城県美里町の植物工場「美里グリーンベース」は、特殊な栽培方法と環境により、おいしく安全な野菜を持続的に供給する(経営する「舞台ファーム」のホームページより)

ローソンは、プラントベースの代替卵を使ったサンドイッチ「食べ比べ!2種のスクランブルサンド」322円(税込)を本年7月4日から、関東甲信越エリアのローソン店舗(4,776店、2023年5月末時点、「ローソンストア100」を除く)で発売を始めた。

ローソンの「食べ比べ!2種のスクランブルサンド」。右が代替卵のソイスクランブルサンド、左が通常のスクランブルエッグサンド

商品は、1種類が豆乳加工品ベースからできた卵の代替食品に、ポテト、ハム、キュウリ、玉ネギを合わせ、バターソースやマスタードを加えて、食べやすいサラダ仕立てのサンドイッチに仕立てた。もう1種類は、本物の鶏卵を使用したスクランブルエッグとハムレタスを挟んだシンプルな組み合わせのサンドイッチにしている。

2種類の食べ比べにした理由は、代替卵を知らないお客や、興味があっても食べる機会がなかったお客にも、トライアルとして食べてもらう機会になればと考えたからだ。「代替卵を使用したサンドイッチ」と「鶏卵を使用したサンドイッチ」をセットにして、楽しんで食べ比べできる商品設計にしている。

ローソンでは2017年から「ナチュラルローソン」の店舗で、大豆ミートを使用した商品を発売。以降、カレーやサンドイッチなどに大豆ミートを活用。20年にはローソンでも発売を開始し、これまでにバーガーやおにぎり、からあげなどを発売。現在は、ナチュラルローソンの店舗で「彩り野菜とそぼろの旨辛ビビンパ」(鶏肉に大豆ミートを配合)567円を発売している。

ローソンが引用した「プラントベースフードに関するアンケート」調査(※日本トレンドリサーチによる調査)によると、「プラントベースフード」を知っている人の割合は23%で、知っている人で喫食経験のあるプラントベースフードの1位は大豆ミートで69.6%という結果が出ている。また、「プラントベースフード」を知らなかった人の喫食意向率は52.8%となり、潜在的な需要が高いことが分かる。

プラントベースフードの世界市場規模は2020年度で前年度比28.5%増の1兆2,735億円、この10年間では約3倍に急成長、国内業務用の市場規模も年々拡大し、2022年で前年比17.1%増の297.5億円となり、この10年間で約2倍に拡大している。ローソンの取り組みの背景には、こうしたマーケットの動向がある。

ローソン商品本部 本部長補佐の梅田貴之氏は次のような開発の背景を語る。

「鳥インフルエンザの拡大や飼料高騰などの影響で鶏卵価格が高騰、ローソンも大変苦労しています。そもそも肉を使った商品は一定の環境負荷が掛かり、タンパク源を全て肉から摂取するのが将来的に難しくなるかもしれません。お客様には、本物の卵とプラントベースのサンドイッチを食べ比べていただき、この味わいだったら大丈夫と確認していただければと思い開発しました」

コンビニは老若男女問わず利用される身近な業態である。持続可能な原材料を、お客と共に考える機会は非常に重要である。

動物の肉が高騰したときに混ぜて使うのが本来の機能

セブン−イレブンは、食の持続性をテーマにした新しい商品シリーズ「みらいデリ」を7月14日より発売を開始した。その中の「みらいデリ ナゲット(5個入り)」259円、「みらいデリ おにぎりツナマヨネーズ」151円は、代替食品を使用した商品である。

セブン−イレブンの代替肉を使用した「みらいデリ ナゲット(5個入り)」

「みらいデリ ナゲット(5個入り)」については、セブン−イレブンの揚げ物商材は年間で10億個以上販売する主力商品ではあるが、使用する鶏肉などの原材料を取り巻く環境が大きく変化をしており、今回の商品を通じて未来へのメッセージを発信するとしている。

原料となるプラントベースプロテインを開発したDAIZ社によると、通常は油を搾った大豆が使用されている一方、DAIZ社は、うまみ、栄養素がしっかりと含まれているエンドウ豆を丸ごと使用することで、味、品質に優れた商品になったという。また、食品大手企業の味の素には「おいしさを設計する」技術で、豆特有の臭いについて改善を施してもらっている。さらに食物繊維3.5g、タンパク質13.2gを摂取できることから、健康な食生活にも貢献できるとしている。

代替肉をツナに混ぜた「みらいデリ おにぎりツナマヨネーズ」

「みらいデリ おにぎりツナマヨネーズ」についても、原料を取り巻く環境を鑑みると、ツナマヨネーズの原料となるマグロが希少になりつつある。そうした状況に着目して今回の開発に至った。担当者によると、お客に最も手に取ってもらえる「おにぎり」であるからこそ、強いメッセージが発信できると考えている。

注意すべき点として、ここで紹介した2つの商品は100%の植物肉ではない。大豆ミート100%の加工食品がスーパーマーケットなどで販売されているが、そうしたコンセプトを採用していない。地球環境や健康に優しい商品でも、おいしさが前提になければいけないとセブン−イレブンは考えているからだ。

今回の商品開発でプラントベースプロテインを手掛けたDAIZ代表取締役社長の井出剛氏も次のような姿勢をとっている。日本では大豆ミートが主流であるが、おいしくないと思っている人は多い。理由は100%を植物肉にしようとする、主に米国の考え方に引っ張られているからだという。

天候不順の影響を受けずに安全・安心な野菜を安定供給

商品に使用する野菜についても持続可能性が問われている。そこで近年、着目されているのが「工場野菜」である。天候や季節に左右されない環境を整え、安全・安心な野菜を安定的に供給することが必要である。

セブン−イレブンは、前述の「みらいデリ」において、次世代型植物工場で生産された「みらいデリ ロメインレタスのシーザーサラダ」350円と「みらいデリ やわらかほうれん草とベーコンのサラダ」340円の2品を発売した。

工場野菜を使用したセブン−イレブンの「みらい デリロメインレタスのシーザーサラダ」

開発担当者によると、お客の健康意識が変化する中で、サラダへのニーズが年々高まっている。その一方で、原材料調達の側面から、国内農業において就業人口の減少や、異常気象により良質な原材料を安定して調達できない課題がある。そこで、植物工場野菜を活用し、良質な原材料の持続可能な調達に取り組んできたとしている。

商品のポイントは3点、1つ目に野菜のおいしさ。これまで閉鎖型の植物工場で作った野菜は、どうしても葉が弱く、サラダとして食感が足りないなど、おいしさに課題があったが、栽培方法について研究を重ねることで、葉も肉厚で何よりもえぐみが少なく、おいしい野菜をつくることができた。

2つ目が徹底した低温管理。おいしい野菜を確保するところから商品に至るまで、低温で管理することで、みずみずしく、フレッシュなサラダに仕上げた。3つ目はドレッシング。それぞれの野菜に合わせて、セブン−イレブン専用のドレッシングを工場で製造。これにより工場野菜のおいしさを最大限に引き出したサラダにしたという。

この新しいサラダの野菜を提供している工場が宮城県の「舞台ファーム」であり、同社が持つ植物工場「美里グリーンベース」で生産されたレタスを使用している。

同工場は、天然光とLEDを併用した光源による植物の成長を可能にし、天候不順の影響を受けない環境を整えている。安全・安心な野菜を安定的に供給することを実現した、日本最大級の次世代型植物工場である。栽培品目はレタス類で、生産能力は1日当たり約3万〜4万株になるという。

セブン−イレブンは、プラントベースプロテインを活用した商品化でも、植物工場によるサラダでも、極端に走ることなく、おいしさを基本に据えている。例えば、環境や健康に良いからといって、代替肉100%にせずに本物とミックスさせている。野菜についても、露地栽培や密閉型の野菜工場だけに頼ることなく、それらの良い部分、すなわち、おいしさと安全性を担保しながら、環境に優しく、健康に良い商品開発を志向しているようだ。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。