カスタマーリンクプラットフォームとリアル店舗を新たな哲学で再定義
ファミリーマートは、リテールメディアの事業に2019年度から集中して投資している。決済機能付きアプリ「ファミペイ」を開発している「ファミマデジタルワン」には2019年度に200億円、データを取得して分析する、広告代理店の機能を持つ「データ・ワン」には20年度に50億円強、デジタルサイネージ「ファミリーマートビジョン」をリアル店舗に設置してリテールメディアに取り組む「ゲート・ワン」には2021年に200億円超の投資をした。合わせると、リテールメディアに約500億円の投資を集中して実施している。
リテールメディア戦略と各事業会社の位置付けは図表の通りである。デジタル上で会員を保有するファミマデジタルワンが、1,500万ダウンロード(DL)の会員基盤を持つ。ここを拠点として、メディア事業、デジタル広告事業を実施していく。デジタルワン、データ・ワン、ゲート・ワン、この3つの“プラスワン”会社で、リテールメディア戦略を推進していくことになる。
「このリテールメディア戦略の根本にある哲学により店舗を“カスタマーリンクプラットフォーム”と再定義した。顧客といかにしてつながっていくのか、リアルの店舗、プラスデジタルで、どのようにつながっていくのかを基本戦略の核心部分に置いている」(ファミリーマート社長の細見研介氏)
ファミマは今回の会見(7月7日実施)に際して「リアルリテールの逆襲」とタイトルを付けている。「逆襲」とは、それまで守勢に立たされていた状況から反転攻勢に出る意味を持つ。細見氏は、その意味を以下のように説明した。
「過去10年を見ていくとEコマースが伸長、リアル店舗の役割が問われる時期が続いた。しかし、米国のウォルマートとアマゾンの構図を見ていくと、コロナ禍の3年間でアマゾンは売上を伸ばしたものの利益率が激減。デリバリーコストが増大する一方で、デジタル空間の競争は無限であり、効率的で革新的なデジタルテクノロジーを駆使した個人ないし小さな企業がEコマースの分野に流れ込んで来る」と、ネットビジネスの厳しい状況を指摘した上で「ウォルマートは、2015年、16年に戦略の見直しを図り、デジタルを取り込むことで、リアルを再定義している。例えば「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」を編み出すなどリアル勢は“やられっぱなしではない”、その意味から“逆襲”といったタイトルを付けた」と語った。
決済機能付きのファミペイアプリに関しては、「商品販促」と「ロイヤリティプログラム」の2つの基本機能を持つ。商品販促については、一律にクーポンを配信するわけではなく、お客の購買行動に合わせた形で、パーソナライズされたクーポンを提供。それにより、お客の買物行動を促進し、店舗への送客を実現している。ロイヤリティプログラムについては、会員限定のスタンププログラムや会員限定の回数券といった、お得な購買品目を届けるなどしている。
ファミペイアプリというデジタル基盤の活用により、店内、店外問わずお客とつながり続けることができる。実際に、オウンドメディアとして大きなリテールメディアの威力を持つ。ファミマで展開する販促キャンペーンの認知経路として40-50%が、このアプリから知るといった調査結果もあるという。
また、こうしたコミュニティの場を、次はパートナー企業に開放していく。それによってファミマのファーストパーティーデータ(企業が自社で収集したデータのこと)を使って、パートナーと一緒にファンを育成するプログラム「ファミペイパートナープログラム」を展開していく。
「これはウォルマートが取っている戦略と同様であり、こういった形のコミュニティを、パートナーの企業と一体となりながらデータを活用し、お客様の理解を深め、一緒にファンを育成、継続的にお買物いただいて売上をつくっていきたい」(ファミリーマート デジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)
購買データと紐づくIDが3,000万 分母の大きさ利点に広告事業推進
次に、購買データを使ったデジタル広告を担う「データ・ワン」。2020年10月に、ファミリーマート、NTTドコモ、サイバーエージェント、伊藤忠商事の4社の合弁で設立した会社である。ここでは店頭の購買データを、広告配信、効果検証に活用している。
データ・ワン社長の太田英利氏はデジタル広告事業について次のように説明した。
「今までのデジタル広告は、効果測定を主に表示回数やクリック数で測るケースが多かった。しかし実際に広告を見た方が、店舗で商品を購入したかどうかにはリンクしていない。日本のEC化率は9%程度で、ほとんどの購買行動はリアルの実店舗で行われている。ここに切り込んだところが、われわれの差別化領域と考えている。このデータ基盤は、デジタル広告のみではなくて、サイネージでも効果検証を可能としている」
データ・ワンの特徴は、第1にターゲティング。購買履歴、購買データと紐づくIDを3,000万以上のボリュームで保有。同社は国内では最大規模と見ている。こうした購買データマーケティングの場合、細かくセグメントしていけばいくほど、配信ボリュームは減っていく。
しかし、同社は分母が大きい利点を活かしていく。リテールメディア事業では、今年4月にドン・キホーテのPPIHと協業して、データアライアンスを広げていくことをリリースしている。購買データとIDを、さらに拡充させていくとしている。
特徴の第2は独自メディアでの展開。YouTubeやFacebookなど、一般的なプラットフォームに加えて、ファミマやNTTドコモのオウンドメディア、またファミリーマートビジョンといった独自メディアの保有を大きな強みとしてある。第3に、これらの結果をデータドリブン(詳細な購買分析など)のリポートで共有していくことを特徴としている。
お客一人ひとりへの金融商品をファミペイ通じてタイムリーに提供
ゲート・ワンが手掛ける「ファミリーマートビジョン」は、2024年2月末までにファミマの1万店舗への設置を目標にしている。ファミマでは、今年3月から売場連動企画をスタートさせている。ファミマの商品本部、マーケティング本部、オペレーション本部、この3者と前出のデータ・ワンとの連携により売場連動企画を実施している。日本コカ・コーラと(カウンターフーズの揚げ物の)ファミチキの連動企画は、実施前、実施後の比較において、ファミチキとコークの併買率を6倍から7倍に増やすことができた。
コークの企画に関しては、ファミリーマートビジョンに加えて、ファミペイへの広告も打っている。これにより、さらに販売係数が高くなるといった結果が出ている。こうしたクロスメディアの効果を活用しながら、広告主に還元していくとしている。
このファミリーマートビジョンの課題は3つある。第1に「ID-POS」の分析。店舗ベースでは設置店舗と非設置店舗を比較して効果を可視化する。もう一つは人ベース。広告接触者と未接触者を比較することにより販売効果を可視化。今はこの2軸で検証している。第2にファミペイアンケートの活用。これにより広告認知率、ブランド認知率といった広告資料を可視化していく。
第3にAIカメラ。本年7月よりAIカメラの視認データを、一部の広告主に提供、これによりファミリーマートビジョンの視認率、視認者の属性、視認時間帯といった視認行動の可視化を可能にしている。すなわち、「売上効果の可視化、広告指標の可視化、視認行動の可視化によって、メディアの効果を広告主にお返ししていくことができるようになる」(ゲート・ワン取締役COOの速水大剛氏)。
ファミペイカードに関しては、「ファミペイ翌月払い」という後払いの金融商品を開発した。ファミマの購買データ、ファミペイでの行動データの個々を与信モデルの中に組み込んで、ファミマで使うほど与信枠が広がる仕組みにしている。
さらに今後の構想として金融商品をタイムリーに提供していく。「例えば、ゴルフ場の近くのファミマに来ていただくお客様に、ゴルフ保険といったファミリーマートの保険を検討している。ファミペイを通じて、お客様一人ひとりに合わせたサービスを提供していきたい」(ファミマデジタルワン社長の中野和浩氏)
ファミマは、国内でリアルの店舗を2番目に多く持つチェーンである。そこがデジタルを取り込めば強さを発揮できる、さらにコンビニ勢の中では、デジタルに最も精力的に取り組んでいる自負がある。ファミマがEC勢力に対して本格的な「逆襲」を図っていく。