小売業の使命は「お客さまと商品のマッチング」だ

2018年6月21日、150名以上の来場者を迎え盛況のうちに幕を閉じたMD NEXTリリースセミナーの一部を抜粋してお届けします。生活が変わり、売り方も大きく変化しつつある今日、小売業はどのようにマーケティングを進化させていくべきなのか。北九州市を中心に42店舗のドラッグストア(うち調剤併設25店舗)と30店舗の調剤薬局を展開しているサンキュードラッグの代表取締役社長兼CEO 平野健二氏の講演です。(まとめ:編集部、写真:曽根田源)

商品の価値はほとんどのお客さまに伝わってない

サンキュードラッグは北九州と下関で、半径25キロ範囲内に73店舗を出店している、超ドミナント体制のドラッグストアです。私はこの会社のいわゆる二代目なのですが、子どもの頃から次のようなことを考えていました。「お百姓さんは米を作り、メーカーはものを開発して、それらを売って儲けます。小売業というのは、仕入れたものを高く売っているだけ…何の役に立っているのだろう。

それからというもの、私は「小売業の使命とはなんだろう」ということをずっと考えて続けてきました。会社経営をする中で、私の今現在の答えは何かといえば、「お客さまと商品をマッチングすること」だと思っています。

お客さまは、「これをください」とお店に来られるのですが、それはあくまでお客さまが持っている知識や情報の範囲で自分にベストであると思っているだけで、本当にそれがベストかどうかは実はお客さまは知らないことが多いのです。一方で、メーカーさんが心血注いで作った商品価値というのは、ほとんどのお客さまに伝わっていません。これを解決してみせるのが、小売業たる私たちの役割ではないかと思っています。

従来私たちは、リアル店舗というものをマーケティングメディアとして使って、お客さまに商品の価値や存在をお伝えしたり、認識していただいてきました。ところが、どうもリアル店舗のマーケティング能力だけでは、セグメントが多様化した現代のお客さま、そしてそれ以上に商品の付加価値、その価値のマッチングということが難しくなってきています。

それをいかにリアル店舗の役割とうまくリンクさせながら、デジタルマーケティングを絡めて実現に至るのか。これがこれからの小売業のテーマだと私は思っています。

ユニーク客数減少時代、真の客数増とは来店頻度アップである

マーケティングの基本はお客さまを知ることです。今、いろいろなデータが集められ、それを使いこなせる環境になっていますが、データをとにかく集めると、間違いなくデータの洪水の中に溺れてしまいます。自分が何をしたいのか、そのために必要なデータは何か。これをきちっと定義して入っていくということが、私たちの役割であると思います。

大原則として、売上=客数×客単価というのは誰でも知っていますが、この公式からすると、売上を上げようと思ったら客数と客単価をあげればよいということになります。しかし、今や高齢者が増え、東京以外のほとんどの地域では人口が減少し、狭小商圏化が進んでいます。このように、ユニーク客数がどんどん減少している時に、客数を増やすということの真の意味は、来店頻度を上げることです。ここまで理解して初めて次のストーリーが成り立ちます。

では、実際にお客さまの何を知ればいいのでしょうか。ID-POSでいえば、来店目的につなげるためには、誰が買ったのか、そして何を買っていないかを分析することです。お店には来ている、薬も化粧品も日用雑貨も買っている。それなのに、なぜかボディーシャンプーだけ買っていないという人がいるのです。ということは、1人のお客さまを外から呼んでくるよりは、そうしたお客さまにボディーシャンプーを買ってもらう方がコストがかかりません。

また、皆さんがブランドを育成するときに大事なのは、何個売れたかではなく、例えば年間に5回買ってくれる人を何人作りたいかという視点です。繰り返し買ったのか、何回買ったのが、複数回買ってくる人を何人作ったのか、そのように結果を見ていきます。そして、どれぐらいの頻度で買ってくれるのか、なぜ買ったのか、それが購買履歴というところに加え、接客履歴であったり健康美容情報であったり、さらには(WEBなどの)閲覧履歴などもお客さまを知るうえでは重要です。

そして、それをいかに購買行動につなげるか。あるいは、逆にこういう購買行動をしている人たちに、我々から情報を投げかけることによって、どんな行動の変化が起きたのか。私たちはどんなタイミングで、どんなメッセージでそのアクションのきっかけを作ってあげるか。そういったところでデータマーケティングを使ったビジネスというものは可能になってくるわけです。

問題は、データマーケティングで今後期待を集めるPHR(Personal Health Record)に関してはデータがあちこちでとられて、1人の人の統合データになってないということがあります。ビックデータについては、バラバラのデータをとにかくたくさん集めましたという方は結構いるのですが、そうではなくて誰か1人について詳しく知る。こうしてディープデータ化したときに初めて、その人に対するワントゥーワンのアプローチができるようになります。1人に対してのビックデータを集めるためには、例えばPHRに関してはアクセスポイントをどれだけ身近にたくさん作ってあげられるかが勝負です。

店でお客さまが最初にするのは「休憩」

次に、店舗をマーケティングツールとして見てみましょう。AIDMA(アテンション、イントレスト、デザイア、メモリ、アクション)という、この順番でお客さまは行動に至るという古典的な概念がありますが、これを横軸にして、縦軸には店内にある様々なツールを当てはめてみます。

例えば、「大量陳列」はアテンションを引くためのツールです。「多箇所陳列」はメモリーという意味で有効ですよね。「試食」「試飲」はデザイアです。皆さんが今からお客さまに届けたい商品が、認知されていないのであればアテンション、関心を示してもらえないのならインタレスト、刷り込むのならメモリーです。それぞれが今どのレベルにあるのかということをメーカーさんと共有してみると、店舗という名のマーケティングツールはもっと有効になります。

ただ、これまでリアル店舗を運営してきた理論が現代において通じるとは限りません。たとえば、客動線については、それを伸ばせば伸ばすほど客単価がアップすると言われていました。
ですが、サンキュードラックでお客さまにアンケートをとったところ、実は、「お店について最初にやる事はなんですか」という問いに対しての答えが「休憩」であることがわかりました。休憩してから買物をして、買物が終わったら休憩をして、それから帰る。そんなお客さまに対して、500坪や600坪の店を隅々まで歩けというのか。こんなことまで考えます。

客動線に関する議論が出てきたのは1960年代です。当時はシャンプーといえばシャンプーのことを指しました。今はどのシャンプーなのか、そこに誰がくるのかという話がセットにならなければマッチングはできないと考えるべきです。

それに、お客さまがある商品が自分にとって価値があるということを知っていれば客動線を伸ばすことが重要という議論も成立するのですが、我が社でも2万アイテムという商品を取り扱っていながら、商品部の部長でさえすべてのアイテムの価値をお客さまに説明することはできません。どの商品が自分にとってどんな価値をもたらしてくれるか、それを選んで教えて欲しいというお客さまの要望に応えられていないという現実は、小売業が抱える重大な問題であると思っています。

そしてさらに、店舗のなかで2万アイテムの価値を伝える場所が限られています。また、接客をするには人員を育成しなくてはいけません。また、接客は売場と並んでリアル店舗の2つの大きな柱なのですが、1日で接客できる人数は極めて限られています。結局、タイミングのよい来店者のみの接点ですよね。そして商品の高スペックパーソナル化に対応できていないというのがリアル店舗の課題だという事です。

さらに深くつながるデジタルメディアとリアル店舗

 

そこにデジタルマーケティングが登場するわけですが、期待されるのはまず、桁違いの情報伝達能力です。購買履歴、閲覧履歴から、お客さまの求める商品の情報、サービス、品揃え、価格を個別的・選択的に配信できます。デジタルならマッチングできる可能性があります。売り手と買い手双方のギャップを埋めるツールという点で、デジタルメディアは非常に有効なのです。今、サプリメントの世界でいうとマーケットシェアの8割、9割が通販に移行しています。これは、通販はそういったことをフォローをしているからです。今後は、デジタルメディアとリアル店舗が繋がっていくでしょう。

しかし、デジタルマーケティングにも課題があります。まず、本当に正しいお客さまに情報をお伝えすることができているのかということですね。閲覧情報と位置情報はかなり精度を上げることができますが、本当にその人が買ったのかという、実際の購買とリンクさせる必要があります。また、デジタルメディアは選択的個別的に配信ができる点でチラシともDMとも違いますが、現在はまだLINEなどで、同じ情報を一斉広告配信しているケースが非常に多いのですね。

もう一つ、メーカーさんがせっかくいい情報を流しても、CMなどのマス媒体だとその商品がどこで販売されているのかということまではお客さまに伝わりません。同じコンテンツでも、サンキュードラックから流せばその商品はうちにあることが確定していますから、安心してうちに来ていただけます。デジタルマーケティングを使っていくうえでは、そういったことを共に考えて欲しいと思っています。

閲覧者の3.6%が店頭で商品を購入したこどもの歯ブラシ動画

現在、デジタルマーケティングはデジタルメディアを使ったマーケティングとか、デジタルメディアを使った販促という使い方が非常に多いわけです。しかし、デジタルマーケティングとは本来、ID-POSによる購買履歴やネットの閲覧履歴、パーソナルレコード等々のデータを使いながら、お客さまをデジタルに把握することであり、その上で個別的選択的な配信を行ってワントゥーワンアプローチをする。これをもってデジタルマーケティングというべきだと私は思っています。

デジタルマーケティングの必要条件は「データ」と「コミニケーションメディア」になります。そして十分条件は、行動変容を起こすコンテンツです。

これまで私たちも、いろいろなコンテンツをメーカーさんからいただいたり、自分で作ったりしながらお客さまに配信してきたのですが、このあとご覧いただく動画は、何のインセンティブもつけていないのに、見た方のうち3.6%の方が、わざわざサンキュードラッグで商品をご購入されたというものです。

この動画をライオンさんの展示会で拝見したときに、私はとても感動しまして、絶対にお客さまに見ていただきたいと思ったんです。それで、当社のお客さまに向けてインセンティブもターゲットも定めずに配信したのですが、ご覧になった方の3.6%の方がこの歯ブラシをお買い求めになられました。
実は赤ちゃんの歯は生後9か月で生えるんです。ID-POSを使えば生後9か月の赤ちゃんを持つお母さんがどこにいるかはある程度把握できます。そのタイミングで配信すればもっと購買率は上がるでしょう。

メーカーさんはさまざまな動画を用意しているのですが、俳優さんの事務所との契約でCM以外の動画配信は想定していなかったということが多々あります。ならばそこを解決すればよいのです。CMのように流しっぱなしにするのではなく、見てもらうべき人に見てもらうべきタイミングで情報を届けたほうがよっぽど効果があるということを、私は考えています。

つまり、自分で売りたいタイミングではなく、お客さまの買いたいタイミングでご提案をする。赤ちゃんは、生後半年経ったら熱を出すといいますが、実際に冷えピタシートは出産後7ヶ月目のお母さんがよくお買い求めになられるのです。それなら、生後6カ月の赤ちゃんがいるお母さんに、ご家庭でマスクを使って赤ちゃんを危険にさらさないようにしましょうといったら、マスクの売り上げがもっと上がるかもしれません。これもデジタルメディアの特徴だと思います。

メーカーさんとお客さま、2つを結びつけることで、小売店はメーカーさんにとってお客さまとのコミュニケーションの場に変わります。単に仕入れて売るのではなく、お客さまにライトタイミングでライトメッセージを送るメディアに変わる。こうなった時に小売業は、世の中の役に立ってるんだよ、世の中を活性化してるんだよという、誇りあるものになっていくのではないかと思います。

(談・文責:編集部)

時代が変わる、チェーンストアの役割も変化する

2018年6月21日、150名以上の来場者を迎え盛況のうちに幕を閉じたMD NEXTリリースセミナーの一部を抜粋してお届けします。これまでのチェーンストアは地域間の格差を無くし、どの地域に住む人でも豊かな生活ができる社会を実現してきました。しかしそのチェーンストアの役割は、この情報化社会のなかで変化していくとサツドラホールディングスの富山浩樹社長は語ります。(まとめ:編集部、写真:曽根田源)

北海道を深掘りし、次の成長への基盤をつくる

我が社は今年で創業46周年になり、2016年8月にサツドラホールディングスに持ち株会社化しました。北海道を中心にドミナントを形成していまして、昨年店舗数は200店舗を越えました。グループの概要としては、ドラッグストア事業としての「サツドラ」、その下に製造・卸し会社「Creare」、地域マーケティング事業を展開する「リージョナルマーケティング」、新電力会社「エゾデン」、AIソリューション開発事業「AI TOKYO LAB &Co.」と、POSシステム開発事業「GRIT WORKS」、BtoBのインバウンドマーケティング事業を行う「VISIT MARKETING」、台湾ドラッグストア事業の「台灣札幌藥粧有限公司」から成ります。

現在、サツドラホールディングスでは「リテール×マーケティング」というコンセプトのもと、2021年5月期に向けて中期経営計画を実施しています。「北海道の深掘りと次の成長への基盤づくり」をテーマに、4つの成長戦略と2つの組織戦略を掲げています。成長戦略の1つ目は「強固なリージョナル・チェーンストアづくり」。2つ目は「リージョナル・プラットフォームづくり」。3つ目を「アジアン・グローバルへの発信」としておりまして、本丸が4つ目の「デジタルトランスフォーメーションの推進」です。

現在事業の柱として展開しているのが、地域マーケティング事業です。4年前に立ち上げた「リージョナルマーケティング」という会社で、地域が輝くプラットフォームづくりというコンセプトを掲げ、地域の共通ポイントカード「EZOCA」を発行しました。

おかげさまで、EZOCAの提携先企業はこの4年間で114社653店、発行数が1,650,000件となっており、北海道の中では世帯カバー率が50%以上です。EZOCAはサツドラのポイントカードを中心として立ち上げたためにユーザーの72%が女性で、20代から40代の女性が50%以上を占めています。

我が社は地域連携ということで、北海道さんをはじめとするさまざまな自治体さんと包括連携協定を結んでおります。ほかにも、Jリーグのコンサドーレ札幌さんなどと業務提携を結んでいまして、マーケティング領域で協業しています。また、フリーペーパーも発行していまして、発行部数13.5万部、約40の市町村、230の保育園・幼稚園・託児所に配布して、コミュニティの紹介や提携店の情報を発信しています。同じようなスキームで新電力も行っておりまして、地域プラットフォームづくりに取り組んでいます。

また、道外にもインバウンドフォーマットの出店を加速していますが、こちらはただ店を出すだけではなく、リージョナルマーケティングと同じ発想で、WeChatPayを展開するテンセントさんといち早く業務提携を結ばせていただきました。

他にも、別業態として「北海道くらし百貨店」を立ち上げ、北海道のものを国内、海外に発信するなど、プラットフォームやデジタルソフトウェアというかたちで拡げていって、リテールに還元していこうとしています。そして、これらの取り組みをグループ全体の成長につなげています。

地域間の格差を無くしてきたこれまでのチェーンストア

これまで、チェーンストアは人の暮らしを変えてきました。北海道でいえば、薬局が1店もなくなってしまった3千人規模の街ですとか、そうした場所でもチェーンストアがあれば札幌など都市部と変わらない価格、品揃えで買い物をすることができます。このように、これまでチェーンストアは地域間の格差をなくしてきました。

そしてこれからは「情報格差」が大きくなってくるのではないかと思っています。銀行や自治体の機能をはじめいろいろなサービスがデジタルに代替されてなくなっていく。そうなった時に、買物難民ならぬ情報難民が出てくるのではないかと思うのです。

そのような時代にあって、これからのチェーンストアは「リアルな場」として、サービスも含めて格差を解消していく役割を担うのではないかと考えています。また、省人化、オートメーション化が進んでいく中で、「人」がいるからこそ生み出せるライフコンシェルジュという価値をどう実現していくか、そのために、どうデジタルトランスフォーメーションを推進していけるのかを大きなテーマとして取り組んでいます。

変わり始めた現場の意識

デジタルトランスフォーメーションを推進するうえで、我々は体制づくりが非常に重要だと考えております。今、我が社にはグループ会社としてリテール型AIソリューション開発の「AI TOKYO LAB」、そしてPOS開発の「GRIT WORKS」という会社があります。

AIはどんどんコモディティ化し、早くも淘汰が進んでいます。しかし、サツドラグループにはリアルな店舗があって、EZOCAがあって、POSがあって、地域との連携があります。

そして、データや業務、サービスに対しての有効なツールとして、自社でAIを活用することができます。今、北海道大学内にR&D拠点として「AI HOKKAIDO LAB」を開設しまして、サツドラやEZOCAのオペレーションを改善するために動いています。北海道大学とも連携しながら、地域でどう新しいものを生み出していくかという体制の仕組みづくりをおこなっています。

もう1つ、クラウドでリアルタイムで動くPOSを開発しようということで、「GRIT WORKS」が誕生しました。

チェーンストア側からいうと、POSはいかに安全に取引ができるかが命題で、新しいことをやるというのはベクトルとして向かないのですね。しかし、いろいろと試行錯誤しながらも、この開発会社では非常に価値あるクラウドPOSを開発することができました。現在も現場の声やノウハウを蓄積して、どんどんアップデートしています。現場でも、システムは意見をしても変わらないという認識だったものが、何かしら言えばすぐ変わるという意識になっていったのです。そういう文化ができたのは大きなメリットでした。

日本は課題先進国といわれていまして、人口減少ですとかいろいろな問題を抱えています。特に北海道は日本の中でも超課題先進エリアなのですね。高齢化伸び率、長期療養の入院日数、そのほかにも完全失業率や過疎化など、社会課題の宝庫みたいなエリアなのです。この北海道で新たなテクノロジーを使って社会課題を解決する社会実装をすれば、自治体さんも巻き込みながら、新たなイノベーションを起こせるのではないかということで、Satudora Innovation Initiative(通称SII)を立ち上げました。

新たな組織文化づくり

新たな組織文化づくりということで、現代はビジネスモデルの寿命がどんどん短くなっていく中で、企業側からは多様性のある人材を取りたい。個人としては今までと違うキャリアを積んで多様性を持っていく。お互いが相互選択できるような多様性のある土壌をつくっていく必要があると思います。

我々は2年前に「サツドラジョブスタイル」というのを発表しまして、多様な働き方の実現を推進しています。副業、兼業、在宅ワークや連続休暇制度もなど、働き方の選択肢を増やしています。また、外部人材を積極登用しておりまして、既存の人材と掛け合わせて多様性を見出していくということもやっています。

東京でキャリアを積んで地域で働きたいという人も潜在的にいるのですが、面白い仕事と住みたい場所がマッチしないということがあるのですね。こちらが面白い仕事、ワクワクする仕事を提示すれば、人が来てくれる。それでこうした人事制度を採っております。一方で、グループ会社や組織を作ることによって、まずはそこでエンゲージメントしてもらって、うまくシナジーを出すことで多様性を目指せるのかなとも考えています。

デジタルトランスフォーメーションを実現するにあたって、1番大事なのは組織文化をどうつくるかであると思っています。一例を挙げると、3年ほど前からペーパーレス化を推進し、オペレーションをスマートデバイスで完結するようにしたり、チャットでコミュニケーションすることでスピードを上げたりという環境の改善をしています。また、日常の仕事やそのプロセスにフォーカスして表彰するサツドラアワードの導入、社内広報を強化するなど、新たな組織文化を生み出そうというところです。

現代は非常に時代の流れが早い中で、変化に対応できる組織体制をどうつくるかというのは非常に重要で、多様性のある文化をどう生み出すかというのが、デジタルトランスフォーメーションをしていくのに1番重要なことであると捉えまして、私も含めて、今後も変化を楽しみながら進めてまいりたいと思います。

(談・文責:編集部)

増加するフィットネスやコインランドリーとの一体型コンビニ

ライフスタイルの変化や女性の社会進出なども影響し、新たな24時間ビジネスが市場を席巻している。24時間ビジネスがコンビニと相互送客することで客数対策につながるのか、最新の動向を追った。

コンビニと相性がいい新たな送客装置とは?

コンビニの既存店は客数が頭打ち、それを客単価で補って、どうにか維持できている。最も深刻なのは、人手不足と人件費の高騰。これにより1店舗当たりの人員が減少傾向にある。採用できないのか、人件費の抑制が必要となり採用を控えているのか、あるいは、その両方なのか、いずれにせよ「これ以上は人手がかけられない」。これが、コンビニオーナーの総意であろう。

しかしながら、人が投入できなくても店舗の生産性は高めたい。

第一に、売れる商品を品揃えし、売上を上げる。これが王道である。

第二に、人時削減を可能とする設備の改善。十数年前にポリッシャー清掃が不要になった。近年は自動食洗器やスライド棚の導入、店舗納品分の検品(ほぼ)不要といった店舗業務を効率化し、生産性向上の改善が急ピッチで進んでいる。

第三に、新たな送客装置の設置、これが今回のテーマである。

送客装置として真っ先に思い浮かぶのがコンビニATMであろう。セブン銀行のATMは1日1台93件の利用がある(2018年5月調査)。ローソンも銀行への参入を表明し、今秋の開業を予定している。

しかし、送客装置はそれだけではない。社会環境の変化により、さまざまなニーズが生まれ、コンビニ店舗との併設が求められているのだ。

コンビニに隣接した立地の24時間フィットネスジム

「フィットネスジムの開発担当者の間では、コンビニ近隣の物件が取り合いになっています。そんなにコンビニと相性が良いのなら、自分たちでやってしまえと……」

ファミリーマート(以下、ファミマ)が24時間フィットネス事業に参入。今年2月14日、ファミマ店舗の2階にオープンした直営1号店「Fit&GO」大田長原店(東京・大田区)は、プール設備やエクササイズスタジオを持たない、マシン特化型の24時間フィットネスジムである。

「Fit&GO」大田長原店。階下のファミマには、プロテインやボディオイルなど関連商品180アイテムを独自に品揃え

出店目標は5年間で300店舗、適正立地やビジネスモデルは検証中だが、基本は加盟店に紹介してコンビニ店舗との相乗効果を図っていく。

「コンビニが併設すると、そこに毎日800人から900人の来店がある。これは(既存のフィットネスジムと比べて優位性が)大きい」とファミマ社長の澤田貴司氏は期待を掛ける。

コンビニに併設して出店すれば、毎日1,000人近くのお客が施設を認知する。さらにコンビニは夜間の出入りが頻繁なので、深夜にジムを利用するお客は安心感を得られる。ここがポイントである。

コンビニとフィットネスの親和性は、他社のフィットネスジムと併設するファミマの既存店において客数の増加が数字で実証されている

同じ業態で先行するのは2010年に米国から上陸した「ANYTIME FITNESS」(エニタイム フィットネス)。今年6月現在、国内350店舗を突破している。特徴は深夜から早朝にかけて無人になることだ。セキュリティについては、館内の全てをカメラで監視、入り口でセキュリティキー(ICチップ入り)による本人確認があり、緊急時には「パニックボタン」により警備会社(アルソック)が駆けつける安全・安心体制を確保している。

「Fit&GO」も同様に昼間は専任の従業員で運営し、夜間は防犯カメラが無人の館内を監視する。ファミマの従業員はノータッチである。同じ建物や近接地に人が出入りするコンビニがあれば心理的な安心感は得られるだろう。

コンビニの利便性に、24時間フィットネスジムをなぞらえると、次のようになる。

欲しい時に(ジムを利用したい時にいつでも)、欲しい商品を(使用したいマシンを)、欲しい量だけ(トレーニングしたい時間だけ)、購入できる(館内を利用できる)となる。

ちなみに筆者は自宅近隣のエニタイムを利用している。深夜でも女性が黙々とエアロバイクを漕いでいる。関係者に聞くと飲食店に勤める人たちに深夜の利用が多いという。

店舗は幹線道路沿いにあり、1階が24時間営業の業務用スーパー「肉のハナマサ」、2階がエニタイム、3階が24時間営業のトランクルーム。建物1棟が24時間稼働している。業務用スーパーとフィットネスジムに相互送客は期待できないまでも、24時間稼働の共通項で3つの業態を結び付けているのだ。

雨の日の客数を補完するコインランドリー事業

24時間フィットネスジムと同様の考え方で、ファミマは店舗と相互送客を図るコインランドリーを開設した。今年5月25日にオープンした「Family Laundry(ファミリーランドリー)杉並永福四丁目店」(東京・杉並区)が初のコンビニとランドリーの「一体型店舗」である。

コンビニと一体型のコインランドリー「Family Laundry(ファミリーランドリー)杉並永福四丁目店」。敷地面積330坪、売場面積48坪、駐車台数18台(コインランドリー店舗と共有)

女性の就業率は高まりを見せている。家事の負担軽減が求められる社会構造の変化に対して、需要が見込まれるコインランドリー事業を直営で展開していく。

都心のビルイン店舗や小型店などは一体型にするのが難しいが、郊外型店舗を中心に、既存店のうち3割から4割を一体型に改装することが物理的には可能だという。このランドリー「一体型店舗」を軌道に乗せれば、ファミマは数千店規模のコインランドリーチェーンを全国に展開できる。2018年度に50店舗、2019年度に300店舗体制を目指していく。

コインランドリーは1万8,000店舗を超える規模に成長。日中に洗濯する時間のない共働き世帯の増加、アレルギーや外気の関係で外干しができない人たち、タワーマンションの増加等で需要が高まっている

一般的にコンビニ店舗は降雨時に客数が減少する。反対にコインランドリーは客数が増加する。雨天時の客数対策としてはコインランドリーとは親和性が高い。ファミマのランドリーは委託業者が清掃や集金等を行うほかは、コンビニ同様、24時間無人で営業する。売場と屋内でつながってはいるものの、コンビニの従業員は基本ノータッチである。施設内の客同士のトラブルや機械の故障については、運営業者が全て遠隔操作で対応する。

スマホを使って洗濯機や乾燥機の稼働状況や予定終了時間が確認できる。時間を効率的に使う価値観という意味においては、ランドリーのお客はコンビニと親和性がある

ファミマは千葉県市原市の店舗で、(屋内はつながっていない)併設店舗でコインランドリーを実験したところ、客数が40人強、売上は1日2万円から2万5,000円前後で推移し、損益分岐点は超えていると説明した。

これもコンビニの利便性になぞらえると、欲しい時に(洗いたい・乾かしたい時にいつでも)、欲しい商品を(使用したい洗濯機や乾燥機を)、欲しい量だけ(洗い・乾したい量だけ)、購入できる(洗い・乾せる)となる。

ファミマの担当者は「広い駐車場とイートインスペースは支持されている。女性にとっても隣がファミマなので安全で安心。ファミマ自体の信頼性も強みになる」として相互送客に期待する。

ただし冒頭でも触れたが、コンビニ店舗は慢性的な「減員」に陥っている。24時間フィットネスジム、コインランドリーに続く、新しい併設・一体型の施設はあるのか。

条件は24時間営業、ファミマ店舗と相互送客、そしてファミマのスタッフはノータッチということだ。

有職主婦の増加による新しいビジネスの芽に期待したい。

LDK編集長インタビュー 支持される共通項は「高見え」「100均バレしない」

100円ショップは「お得感」を前提としつつも高い品質、カスタマイズする楽しさ、トレンドを意識した商品提案を次々に仕掛け、支持を集めている。そこで、女性向けライフスタイルマガジン「LDK」の編集長であり、別冊MOOK「100均ファンmagazine!」の編集も手掛ける晋遊舎の木村大介氏に、100円ショップから他業態が参考にできそうなポイントを伺った。(月刊マーチャンダイジング 2018年7月号より転載)

セリアの登場で女性への提案力、トレンド&おしゃれ度がアップ

──100円ショップといえば、老舗のダイソーが店舗展開を始めたころは注目度が高く、足しげく通った人も多かったとおもいます。しかし、だんだん目新しさも感じなくなり、少し前までは業界内の空気も停滞しているようなところがありました。それが、ここ数年で急に商品提案力が高くなったようにおもいます。その一因として「ダイソー」「キャンドゥ」に続く第三の勢力「セリア」の存在があるように感じますが、木村さんはどのようにお考えでしょうか。

木村 たしかに、ここ数年で変わった印象はありますね。2013年の「LDK」創刊以前、100円ショップの大手といえば「ダイソー」「キャンドゥ」でした。それほど買いたいものが見つからない、ダサくて野暮ったいという感じもありました。「100円ショップの商品を使うのは恥ずかしい」という女性も多かったのではないかとおもいます。

──それがセリアの台頭で「100円ショップで、おしゃれなものが買える」という認識に変わったということでしょうか。

木村 セリアが全国展開するようになって、女性たちは100円で“憧れの暮らし”を気軽に手に入れられるようになったようにおもいます。ダイソーは200円、300円の商品も多く、“脱100均”を狙ってすらいますが、セリアがあくまで愚直に売価100円にこだわったことも、(お金にシビアな)女性に受け入れられた要因と考えられますね。

その後、女性をターゲットにした「NATURAL KITCHEN」など“おしゃれ系100均”が出始めて、100均の概念が一気に変わったようにおもいます。ダイソーもこの変化を敏感に感じて、(女性向けの商品開発に)本腰を入れだしたように記憶しています。

──2年ぐらい前からだったでしょうか、ダイソーとフリューのコラボ「GIRLS, TREND研究所」などがその例でしょうか。やはり、セリアの影響は大きかったということですね。

木村 たしかにセリアも意識したともおもいますが、ユーザーの声が直接届く時代になったことが大きいのではないでしょうか。TwitterなどのSNSもあり、LINEも普及して、Yahoo!ニュースのコメント欄に意見が書き込めたりもする時代。ユーザーが「ダサい」「セリアの方がいい」「すぐ壊れる」といった声を気軽に発することができます。昔だったら、不満があってもわざわざ電話をかけたり投書するなんて人は少なかったでしょうから、すごくいい時代になったとおもいます。

──売る側と買う側のコミュニケーションは以前より深まってきていますね。ダイソーはユーザーの意見に耳を傾けることで見事な方向転換を図ったということでしょうか。

木村 推考するとそうなりますね。いまはセリアが断トツでおしゃれとい
うこともなくなって、ダイソーもキャンドゥも驚くほどコスパのいい商品を開発してきています。ただ、セリアは店内のおしゃれにも気を配っていて、グリーンを基調にしたナチュラルな雰囲気、木目調の什器を使ったり、間接照明を生かした陳列をしています。これはダイソーやキャンドゥにはない要素かなとおもいます。

「100均ファンmagazine!」(晋遊舎)
女性向けライフスタイルマガジン「LDK」で人気の100均特集を特別編集した不定期刊行MOOK。“100均で暮らしを楽しくしよう良くしよう”がコンセプト。メインターゲットは30~40代の目が肥えた主婦で、広告を入れず公平にユーザー目線で商品をジャッジする記事をモットーとする。最新号vol.3は2018年1月に刊行された

ユーザーが気に掛けるのは「高見え」と「100均バレ」

──実際に100円ショップの商品を比較するなかで、具体的にはどのカテゴリーが進化しているのか、ユーザー目線で解説いただけますか。

木村 キッチン雑貨は無視できませんね。たとえば100円ショップで流通している優秀なキッチンばさみは、調理用品や衛生用品を扱う大手メーカーの商品と使用感はさほど変わりません。耐久性があり、2~3通りの使い方ができる便利なアイデアグッズはホームセンターでたくさん売られていますが、1,000円以上する商品もあり、買うのに勇気がいります。100円ショップなら「失敗するかもしれない」というリスクはありますが、もう“安かろう悪かろう”という時代でもなく、頻繁に失敗することはありません。

──その他のカテゴリーはいかがでしょうか。

木村 「LDK」の100均特集の常連カテゴリーは「キッチン」「収納」「インテリア」「掃除」「洗濯」「文具」です。これらのカテゴリーは優秀なアイテムが揃えられているとおもいます。大手メーカーが製造している商品も増えてきているようです。

キャンドゥの「なめらかインクボールペン」は書き味のよさに加え、シルバーを基調にしたボディで高級感がある「高見え」する商品です。実はこの商品、老舗文具メーカーのプラチナ万年筆が製造しているんです。日本の老舗が100均文具をつくるなんて以前の常識では考えられませんが、100円ショップを新たな販路と考えるメーカーは少なくなく、100均グッズの品質向上に一役買っているようです。

キャンドゥ なめらかインクボールペン(画像提供:晋遊舎)

──「高見え」とは何でしょうか。

木村 100円以上に見える、高級なものに見える、といった意味合いでわれわれは「高見え」という言葉を使っています。「高見え」することは非常に重要です。100円ショップがいくら市民権を得ているとはいえ、“いかにも100均”に見える商品は「お金がない」「ケチなのでは?」と勘繰られる恥ずかしさに結び付いてしまいます。文具だけでなく、収納、インテリアなど人の目につきやすい商品はとくに「高見え」するかが購入の判断基準のひとつになります。

──「高見え」以外に、ユーザーが気に掛けているキーワードはありますか。

木村 「高見え」と少し似ていますが「100均バレしない」ということです。たとえば、ダイソーで売っているスキレット(鋳物)は100円ではなく300円なのですが、ニトリやカインズで売っている500円ぐらいの商品と比べても遜色ありません。たいていの人はダイソーでスキレットを買えるとはおもっていないので、「どこで買ったんだろう。すてきだな」となるわけです。

ダイソー スクエアスキレットM、イモノ取手付皿、イモノステーキ皿(画像提供:晋遊舎)

──なるほど。「高見え」は自己満足を高めることで重要、「100均バレしない」は承認欲求を満たす意味で大事な要素といえますね。

木村 「100均バレしない」商品は元ネタがあります。メディアが取り上げたりするセンスのいいおしゃれな商品。常識で考えて100円では買えそうもないものですね。輸入雑貨店
などで扱われているハーバリウム※もセリアだと100円。本来1,000円はする商品なので、「まさか100円だとはおもわなかった」となります。

セリア ハーバーリウムストレートオブジェ(画像提供:晋遊舎)

──ハーバリウムは「100均バレしない」だけでなくトレンドも押さえていますね。最近の100円ショップにおける変化のひとつとしてトレンドに敏感に対応できるようになったことが挙げられるとおもいます。

※ハーバリウム…プリザーブドフラワーやドライフラワーを防腐剤などで処理して、ガラス瓶に入れたインテリア雑貨

DgSでも取り扱えそうなNBの小容量タイプの食品

──小誌はDgSの経営者層から商品開発担当者、店長さんまで幅広く講読していただいているのですが、100円ショップが実践していることでDgSこそやるべきだとおもう商品提案などはありますか。

木村 最近DgSに行くと、おもっているより食品を扱っている印象があるのですが、ダイソーも食品を強化しているので、参考になるのではないかとおもいます。

たとえば、スーパーなどではカレールウはナショナルブランド(NB)だと小分けになっていなくて8皿分の商品を多く見掛けますが、ダイソーでは2皿分だけつくれるような“小容量”のパックがあって便利なんです。

──単身世帯や夫婦二人暮らしの人は助かりますね。私も100円ショップでお茶碗1杯分のレトルトカレー、コンビニなどで売っている箱入りではない袋入りの「パイの実」(10個入り)などを見掛けます。ちょっとだけ食べたいとき、小容量の食品は便利ですね。

木村 コスパを考えたらスーパーで買った方がいいのかもしれませんが、「食べ切れない」という人もいるんですね。シニアで二人暮らしされている方から「スーパーよりダイソーの方が少なめだからよく買う」といった意見を頂くことがあります。

──なるほど。NBそのままでは100円で儲からないのですから当然サイズダウンしますよね。それが小容量・小分けニーズを求めている人に響くと。DgSでもそのサイズダウンした商品を置いてほしいですよね。

木村 100円分の小さめサイズにするのですから、普通のNBと利益は同じ。いい商品です。DgSに向いているとおもいます。食品はコスパで選ぶ風潮がありますが、「少なく買える」「無駄がない」「使い切る」という価値提供も大切だとおもいます。単身者は無理にコスパで選ぼうとするとストレスになるのではないかとおもいます。

──100円ショップは食品も日本の大手メーカーが参入してきているということでしょうか。

木村 アナザーメーカーがつくっているNBの類似品もたくさんあるのですが、大手メーカーの商品を「少なくして売る」というスタイルも確立されていますね。ダイソーのパンは、日本の大手製パンメーカーが一括受注しているという話も聞きます。

DgSの食品は食べ盛りの子供がいる母親や若いママをターゲットにしたコスパのいい商品が中心ですが、もっと提案の幅が広くてもいいのかもしれませんね。

モノの価値基準を変える“100均”は時代を映す鏡

──では、最後に。今後の100円ショップは今後どのように進化していくとおもいますか。

木村 今年の春、神奈川県の座間にダイソーが300円ショップ「THREEPPY(スリーピー)をオープンさせましたが、実験的な試みなのか、多店舗展開していくのか、キャンドゥやセリアがどのぐらい意識しているのか気になるところですね。

──今後も100円ショップは進化していきそうですね。お金を掛けずに楽しく便利に暮らす知恵が詰まっていますからね。

木村 そうですね。ユニクロなどもそうですが収入の差に意外に関係なく利用するのが100円ショップなのではないかとおもうのです。

昔ほどお金がある人とない人で使っているものが違わなくなってきていて、それを下支えしているもののひとつが100円ショップのような気がしているんです。「本当はもっといいものを買いたいけれど100円で我慢する」という時代は終わり、「この商品は100円が妥当」「もはやNBを買う必要を感じない」といった購入の判断基準を大きく変えたのが100円ショップだとおもいます。

──コト消費に対する需要が高まるなかで、モノ消費は縮小傾向にあるということでしょうか。

木村 ネットを駆使すればとことん安いものが見つかりますからね。昔はCDを買わないと音楽が聴けませんでしたが、いまは1曲ずつダウンロードする時代で、YouTubeにアップされていれば無料で聴くことができます。

若者は背伸びをしてモノにお金を掛けることをナンセンスだとおもっていますよね。安いものや無料のものをいかに見つけられるか、活用できるかが求められている現代に100円ショップはなくてはならないですし、100円ショップは現代の日本に非常にマッチしている業態なのだとおもいます。

ウォルマートの新サービス 「ピックアップタワー」は宅配待ちストレスを解消する

アマゾンとウォルマートの競争はますます激化しています。ウォルマートは、アマゾンに対抗するためにオムニチャネル化を加速しています。オムニチャネルとは、「リアル店舗での買物」「ネットで注文して宅配」「ネットで注文して店舗受け取り」といった買物の選択肢を増やすことによって、「買物体験の質の向上」を目指すことです。

高さ5m、幅2.5m、最大300箱を格納できる

ウォルマートが特に重視しているのは、「ネットで注文して店舗で受け取る」という買物体験です。ネット販売の利用者の最大のストレスは、宅配待ちのストレスです。また、アメリカでは、宅配の際に利用者が不在の場合は、玄関などのドアの前に置きっぱなしにすることが一般的です。ところが、ネット利用者の約30%が、玄関に置かれた宅配商品を盗まれた経験があるそうです。宅配商品を盗む「ポーチ・パイレーツ(Porch Pirates)」と呼ばれる窃盗犯も社会問題化しているそうです。

「宅配待ちストレス」と「盗難ストレス」を解消するためにも、ウォルマートは、「ネットで注文して店舗受け取り」を推奨しています。店内の主通路沿いにも「Order online. Ship to store . Save even more」(ネットで注文して店舗で受け取った方が[配送料がかからない分]節約できますよ)というPOPを掲示して、店舗受け取りを薦めています。

以前は、ピックアップのカウンターで店舗受け取りを行っていましたが、昨年から、無人で店舗受け取りができる「ピックアップロッカー」「ピックアップタワー」を店内に設置しています。6月13日~19日まで実施した「第21回NFIアメリカ視察ツアー」で目撃した、高さ約5m、幅約2.5mのピックアップタワーは圧巻でした。

1台の店もあれば、需要が多い一部の店では2台設置しているケースもあります。現在、200店舗にタワーが設置され、今年中に700店舗までピックアップタワー設置店を増やす計画です。

ピックアップタワーは、最大300箱(箱の大きさは60cmx40㎝x40㎝以内)まで受け取り商品を格納できるそうです。ピックアップタワーの前で、事前に配信されたバーコードをかざすと、5~10秒で箱が出てきます。立体駐車場みたいな仕組みと考えればイメージしやすいと思います。タワーの近くにはロッカーも設置されていますが、タワーに格納できない大型商品がロッカーに格納されるそうです。

 

敢えて「接客」体験を重視する ホームデポの店舗受け取り

ウォルマートが、店舗受け取りの「完全無人化」を推進する一方で、ホームデポは、敢えて店員と顧客がコミュニケーションをとれる「店舗受け取り体験」を重視しています。

ホームデポのアプリには、「Find it Fast」という機能が付いており、自宅で購入商品のカタログ写真、現物、PCの画面などを「画像スキャン」すると、その商品がいつも行くホームデポの何番通路に、在庫が何個あるかがスマホの画面でわかります。

オムニチャネルの定義である「販売データ」「在庫データ」「顧客データ」がネットもリアルも一元管理されていることがわかります。ちなみにツアー参加者が、試しに1品購入してみたところ、15分後に、スマホに表示される在庫が1品減っていたそうです。

欲しい商品が在庫ゼロの場合は、スマホでネット注文し、宅配を選ぶこともできますが、配送料が高いので、ほとんどの顧客は「店舗受け取り」を選ぶそうです。ホームデポが面白いのは、店舗受け取りの際にバーコードスキャンといった無機質なサービスを敢えて行わず、有人カウンターで受け取り商品を手渡しすることです。

また、バーコードではなくて、「個人名」を名乗ることで商品を受け取ることができます。さらに、その商品の特徴や使い方などを、カウンターの担当者が親切に説明してくれます。ホームデポは、敢えて有人の「接客体験」を残すことで、アマゾンと差別化しようとしていることがわかります。

商品を探すストレスを解消するFIND IT FAST(左)。お取り寄せ商品を渡してフレンドリーな接客をしてくれるサービスカウンター(右)。

ホームデポは、2015年頃から「カスタマー・ファースト・プログラム」という名称で、全従業員の商品知識に関する再教育を実施しました。「接客力」こそが、リアル店舗の最大の価値と考えた結果のようです。

一方で、店頭の作業を単純化・簡素化する「プロジェクト・シンプル」によって荷受け・品出し作業の作業プロセスを簡素化させました。その結果、店頭スタッフが顧客サービスに費やす時間を増やすことに成功しました。接客強化のためには、作業の省人化・省力化も同時に進める必要があることがわかります。

データの利活用が小売業変革の鍵になる

変革を迫られる流通小売業。世界を見渡せばAmazonやAlibabaをはじめとする新しいプレイヤーが次々と頭角を現し、日本企業もその影響を無視できなくなりつつある。「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」や「ドラッグストア スマート化宣言」などの小売業のIT化政策に携わってきた経済産業省の林揚哲氏は、今、日本の小売業が取り組むべきテーマは「データの利活用」であると言う。ビジネスモデル大転換の時代、生き残るために日本の小売業がとるべき打ち手は何か。(文:MD NEXT 鹿野恵子/撮影:曽根田元)

話し手:経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 消費・流通政策課長 林揚哲氏/係長 加藤彰二氏
聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子

「店舗に集客し利益を稼ぐ」モデルの終焉

――日本の小売業の現在の課題をどうとらえられていますか?

林:実店舗を出店してお客さまを集め、マージンを稼ぐモデルの小売業は変革を迫られています。これまでの小売業のビジネスモデルでは、70円でチョコレートを仕入れ、30%の粗利を乗せて100円で売っていたのですが、商品を売っても利益が出ない、場合によってはマイナスになってしまうという構造になりつつあるのです。

そこで現れたのが、マージンを限りなくゼロに近い価格で商品を販売し、その購買データを使って他のビジネスを展開するという動きです。さまざまな購入データ、決済データを集めて新しいビジネスにつなげるということを、AmazonやAlibabaがどんどんやっています。

昨年の秋に我々は中国の深センを訪問したのですが、ほぼ無料で利用できるシェアバイク(※編集部注:Mobikeなど)をたくさんの方が利用していました。自転車の利用者の「どこからどこまで移動した」というような行動パターンや、他から集めてきた購買データなどを合わせて分析し、金融サービスや不動産サービスなどの新しいビジネスにつなげるという流れができています。

AmazonやAlibabaはデータが欲しいので、データを集めるにあたってはマージンをどんどん削り、マージンゼロ、場合によってはネガティブ(マイナスの利益)で勝負してきます。そのとき、日本の小売業が利益をいかに確保していくかということと、いかにデータを利活用していくかということを考えていく必要があります。

海外勢は採算度外視で面白いことをしようとしている

――データの利活用が重要ということですが、日本の小売業はITシステムに関する理解や取り組みが海外の企業に比べて非常に後手に回っている印象があります。

林:そこはやはり意識の問題だと思います。我々もSIMフリーの携帯の方が月額利用料が安いとわかっていながらも、メジャーキャリアから変えることはなかなかできませんよね。同じように小売業のみなさんもIoTやITの可能性については、分かってはいるのだけれども、それに対応する手間を考えると、着手できないのではないかと思うのです。

経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 課長 林揚哲氏

ただ、一方でAmazonやAlibabaは、世界中の超有名大学からトップ5%のデータサイエンティストたちをどんどん集めて、彼らの知見を使って、どうしたらお客さまに喜んでもらえるか…つまり「ユーザエクスペリエンス」を一生懸命考えているのですね。超理系の人たちが、採算度外視でさまざまな「おもしろいこと」を考えている。これは、日本の小売事業者にとって脅威であると認識しなければなりません。

―― 日本の小売業は、おもしろくするということが二の次になってしまっているような気がします。

林:おもしろさを追求する貪欲さとチャレンジ精神、失敗してもいいからやってしまえという気概が、今の日本の小売流通業には欠けているのかなと感じます。

Amazonに「too crazy」と言わしめた日本の電子タグ

―― 加藤さん(今回取材に同席していただいた経済産業省の加藤彰二氏)は世界中のスマートストアをご覧になられているということですが、どちらのお店におもしろみを感じられましたか?

加藤:やはり一番はAmazon Goです。完成されたものをつくりあげ、そこに集客して、「やはりAmazonはおもしろい」という、話題の中心になっているように思いました。

一方で、中国のあるスマートストアでは商品が読み込まれなかったり、お店に閉じ込められてしまったりというトラブルがあるのですが、それが許される文化もありました。まずやってみて、うまくいかなかったらすぐ諦める。逆にうまくいったらそれを拡大する。そうした意思決定がすごく早いですし、正直羨ましいなと思う部分がたくさんあります。

もちろん日本でも先進的な企業はありますが、数という意味ではやはり中国のほうが多いですし、何よりも中国がおもしろいのは、スタートアップの方々が新しい技術をもって「これがしたい」というと、たくさんお金が集まるという点です。ベンチャーに対する投資熱が高いということもあるのですが、新しい人が新しい技術でお金を集めてのし上がるというストーリーが渦巻いていて、中国に行くと熱気を感じます。

経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 係長 加藤彰二氏

今からそのようなことを日本でやるのは難しいと思っていますが、日本のいいところとしては、真似るのがうまいということが挙げられます。ですから、新しい技術を日本でどう活用すべきかということについて、事業者の方と一緒に考えられたらと感じています。

林:今、経産省では電子タグを用いたサプライチェーン情報共有システムの実験を行っていて、コンビニやドラッグストアの商材にRFIDタグをつけていこうと取り組んでいるのですが、実はまだ世界には(トラッキングや決済システムの)スタンダードがないのですね。

実際にAmazonの本社に行って日本の電子タグの取り組みに関する話をしたら「君たちはtoo crazyだ!おもしろいから一緒にやらないか」と言われたのですよ。それだけ今回のプロジェクトは日本が最先端で世の中を引っ張っていくものなのです。

―― RFIDに関しては、コンビニ、ドラッグストアの商品点数ならともかく、ディスカウントストアやホームセンターほどの規模感になった時に、どこまでメーカーさんが対応できるのかなというところは気になるところです。

林:まずはアパレルからはじまり、コンビニ、ドラッグストア、百貨店と検討していただいています。世の中の流れの中でこれが便利だと思えば、みなさんも対応していくと、我々は信じています。

――歴史を紐解けば、昔は商品にバーコードがついていない時代がありました。それが便利ということで、長い時間をかけてほぼすべての商品についたという流れがあります。

加藤:それと一緒で、電子タグが世の中にとって便利だったら普及していきますし、ダメだったら普及しないという話です。

林: Amazon Goは素晴らしいとは思いますが、我々が目指している方向とは少し違います。Amazon Goは、店内の顧客の消費動向を可視化するのにはよいかもしれませんが、我々はサプライチェーン全体のデータを取ろうと考えていて、それにはRFIDが一番有効ではないかという結論に達しました。

「人材の底上げ」という課題をどう解消するか

―― 電子レシートの実証実験などもされていますが、進捗はいかがでしょうか。

林:データのフォーマットの標準化は一応できました。これをどのように消費者、あるいは事業者に使っていただけるかという部分で、ビジネスモデルのあり方を検証しているところです。

――電子レシートに関しては、お客さまにとっては大きなメリットがあると思うのですが、小売業者にとってはいかがでしょうか。

林:小売業者にとっても、お客様の買い回り状況などがよくわかりますので、それを活用して、商品の売り方や提案の仕方を検討することができます。また、メーカーにとっては、新商品開発などのヒントがいろいろありますので、メリットは大きいと思いますね。

――電子レシートの採用により、小売業にもメリットがあるということですね。

林:そうですね。

経済産業省では2018年4月11日に「キャッシュレスビジョン」を策定し、キャッシュレス社会実現のため、加盟店側・消費者側双方の課題解消に資する取組の方向性および方策を提言しました。日本のキャッシュレス比率は現状2割なのですが、韓国では9割、中国では6割、うち中国の沿岸部、都市部に行くとほぼキャッシュレスです。そこで私たちは、日本でも2025年までには4割、最終的には8割までキャッシュレスに持って行いこうという取り組みをしています。

日本のキャッシュレスの比率を引き上げる理由は2つありまして、1つは店舗の効率化、もう1つがデータの蓄積です。

キャッシュレス化に至るにはさまざまな壁があります。例えば手数料の率です。日本は他国と比較すると決済手数料3%、4%と非常にクレジットカードの手数料が高いのですが、Alibabaなどは0.5%程度の低い決済手数料でサービスを提供しています。

なぜそれほど低い手数料が成立するかというと、1つはシステムです。中国の場合は専用端末は使わずスマートフォンのQRコードを使い、インターネットを経由しているので、低コストで決済の仕組みを提供できるのですが、日本ではCAFISという日本独自のカード決済ネットワークを経由することと、カード用の端末が高価であるということが手数料の高さにつながっています。

また、中国は決済から得られたデータを利活用して収益を上げていることも、決済手数料を低く抑えられている理由のひとつです。

―― 特に小売業界の課題は人材です。経営トップがデータ利活用を検討したとしても、それを実現できる人材がいないという状況の企業は少なくありません。小売業の人材の底上げは大きな課題だと思いますが、どのようにお考えでしょうか。

林:今意思決定をされている方は、僕も含めてバブル世代で成功体験を持っているので、なかなか変革することができません。若い世代にチャンスを与えてチャレンジをさせる、失敗したときは、我々意思決定をする世代がフォローするというようなことをしていかないと、小売業だけでなく、日本の産業界全体の活力が失われていくのではないかと思っています。

中国と比較しても、日本のクオリティや正確性は非常に高いのだけども、新しいことをやるとなると、中国は失敗してもいいからどんどんマーケットをとっていこうとするのですが、日本は石橋を叩いてもなかなか渡らない。いつまでもパワーポイントばかりをつくっている。そのスピード感をなんとか変えていかないと、世界の中で生き残っていくのは非常に厳しいではないでしょうか?

店に必要なのはセクシーさ。失ったチャレンジ精神を取り戻せ

―― 先日トライアルさんのスマートストアを取材してきました。700台のカメラでお客様の動きを完全に捕捉している。ああいうびっくりするようなことをやれる小売業さんがもっと日本にも増えてくればいいのにと思っています。もともと小売はそういう場所だったと思うんですよね。

林:そうですね。ダイエーの中内功さんも、イオンの岡田卓也さんも、イトーヨーカドーの伊藤雅俊さんも、セブンの鈴木敏文さんも革新的な方でした。

もともと小売業は、とてもイノベーティブな業界で、いかにお客さまの心をつかむかということを一生懸命やってきたはずなんです。ところが現在は非常に硬直化してしまっていて、教科書的に売上と利益を確保する方向になってしまっている。しかしそれで小売として本当にいいのでしょうか?店はチャレンジの場で、お客さまにサプライズや感動、喜び、セクシーさを提供するのが小売業ではないだろうかと思うんです。

――店には色気が必要です。ドン・キホーテがこれだけ多くの方に支持されているのも、売り場にセクシーさや怪しさがあるからではないかと感じます。

林:教科書通りの売場を作れば、それなりに安定した売上も利益も確保できるのですが、それではつまらない。私の自宅の近所の食品スーパーにはとんでもないものを売っていたりして、面白みがあります。

繰り返しになりますが、Amazon.comでネットショッピングをするのは楽しいですよね。それは彼らがお客さまを楽しませようとして、ユーザーズエクスペリエンスを考え抜いているからです。

実店舗に集客して粗利を稼ぐという、今までの小売業の枠組みは今後消滅していく。だから、小売業にはデータを利活用しつつエンターテインメントの方向へ向かうようなチャレンジをしていただきたいと私は思っています。

ーー本日は興味深いお話をありがとうございました。

ファミマ×ドンキ実験店、成功の明暗を分ける「在庫回転率」

6月1日にオープンしたファミリーマートとドン・キホーテの共同実験店舗「ファミリーマート立川南通り店」(東京・立川市)。ファミマの商品を縮小、新たにドンキの2,800アイテムを加えることで新規客の獲得、コンビニから離れてしまった客層の取り込みを図るという。いずれは既存の1万7,000店への波及を見据えるそのプロジェクトの全容に迫る。

実験の主目的は「新規客獲得」と「コンビニ離脱層の取り込み」

コンビニ業界は既存店の客数減が止まらず改革、改善が迫られている。大手3チェーンは近年、夕夜間の強化を打ち出し、具体的には夕飯の食卓に上がる商品を拡充している。顧客の中心を若年層から、共働き世帯、高齢者へのシフトを図るが時間を要するであろう。

客数対策は、さまざまなアプローチを必要とし、今年6月1日にオープンしたファミリーマートとドン・キホーテの共同実験店舗「ファミリーマート立川南通り店」(東京・立川市)も客数対策を強く意識している。ファミマのグループ会社、ユニーとドンキは昨年、資本・提携を締結しており、店づくりのノウハウ共有がグループ内で図られている。今回の実験店舗もその一環であり、同日オープンの「大鳥神社前店」(東京・目黒区)、6月29日オープンの「世田谷鎌田三丁目店」(東京・世田谷区)の計3店舗で当面は実験を継続させる。

実験店舗は、いずれもファミマ直営店を改装したもので、立川南通り店を例に挙げると、改装前のファミマの商品3,400アイテムを、改装後にファミマを2,200アイテムに縮小、新たにドンキ2,800アイテムを加えて計5,000アイテムに拡大(147%)したものだ。

ファミマ側の開発担当責任者である営業本部ライン運営事業部の今木誠 部長は実験の狙いを次のように語った。

「(ドンキの商品を取り入れることで)いかなる化学反応が起きるのか、どういうふうに変わっていけるのかを実験していきたい。来店客が伸び悩んでいる、コンビニ全体の問題である。これを打破するためには、新しい商品や、新しい陳列方法によって、今まで来店していただけなかったお客様、コンビニから離れてしまった客層の集客を主目的に実験していく」

実験により取り入れるべき成果を挙げれば、既存の1万7,000店に波及させたい意向である。

売り方と売場の変更は「立川南通り店」の場合、大きくは次の6点だ。

(1)店頭カートによる商品販売(紙製品、カップ麺、軽衣料など約10台)

コンビニでは見かけない店頭カート。価格訴求型の商品を集めた

(2)円筒型投げ込み什器による商品陳列(菓子を中心に約30台)

円筒型投げ込み什器。目的買いではなく、衝動的な購買を期待するため、圧倒的なお値打ち感が必要になる

(3)天井からの吊り下げ陳列(主に珍味)

吊り下げ陳列はビールや酎ハイの売場の前に珍味の大袋を揃える

(4)「オススメ商品」売場の新設(ゴンドラ3台)

ドンキが得意とするカテゴリー「パーティーゲーム」も売場の目玉の一つ。商圏の拡大を図る

(5)レジ前にお薦め商品の陳列スペースを新設

レジ前には、ついで買いを促す商品と、撤去した雑誌売場の売れ筋を残した

(6)ゴンドラの高さを改装前より200mm上げて1,800mmに(大鳥神社前店は2,100mm)

什器が高く、それに比して通路幅が狭く、圧迫感はあるものの、既存のコンビニでは見掛けないカテゴリー(ゲーム用品)や商品が品揃えされており、売場を回遊する楽しさを付加することには成功しているようである。

低回転、重在庫で利益を出せるのか?

ファミマにとって、この店がかなり“挑戦的な”試みであることは否めない。

コンビニの商圏設定は首都圏であれば1,500人程度といわれている。ドンキの商品を投入することで基礎商圏を深堀りするのか、商圏拡大を図るのか、その両方なのか問われるのだが、客層の男女比「6対4」を「5対5」に持って行く狙いはよしとしても、広域からの集客を積極的に図るとすればリスクを背負うことになる。それは在庫リスクである。

商品アイテム数は約1.5倍程度であるが、ドンキの高額商品導入や陳列手法などにより、在庫金額はそれ以上に膨らんでいると推測される。コンビニの在庫は1店当たり700万円程度(売価)、今回の実験店は、その2倍近くになるだろう。ドンキの店舗はチェーンストア企業の中でも回転率が低い。高回転のコンビニと低回転のドンキが融合すれば、ファミマ側にとってオペレーションは困難であり、加盟店への波及は慎重にならざるを得ない。

「在庫の管理をどうするのか、利益にどうつなげていくかは、これからの実験の中で検証していきたい」と担当の今木氏も、その点は課題であると認めている。

ドンキの内情に詳しい関係者は次のように語る。

「ドンキは低回転で重在庫、そこがアキレス健だが、だからこそドンキの魅力を発揮できる。ABC商品のAは黙っていても売れていく。むしろCを偏愛して、担当者が単品“拡販”するところに強さがある。当然Cの商品は有利な仕入れができるから利益率も高い」

コンビニは加盟店ビジネスを前提にしている。センスや能力に関係なく、きちんと手順を踏めば儲かる仕組みを提供することが責務であろう。ドンキが得意とする、単品拡販と売り切るチカラ、これを誰でも出来るオペレーションに落とし込んでいくかは、逆にコンビニチェーンが培ってきたノウハウに掛かっている。

高価格帯ハミガキ粉のシェアを奪うのはネットショップ?

前回に続き、「ハミガキ粉」をテーマに、ソフトブレーンフィールド社独自のデータ「POBデータ」から消費者の購買行動を分析します。

売れ筋は予防歯科のクリニカと、歯垢をかき出すクリアクリーン

前回は、「ハミガキ粉」の購入業態と地域的な売れ方の特性を紹介しました。
では、どのようなブランドが売れ筋なのでしょうか?

「ハミガキ粉」の売れ筋は、”予防歯科“の考えに基づいて生まれた「ライオン クリニカ ハミガキ」や、歯の表面やスキマの歯垢をかき出す顆粒入りが特長である「花王 クリアクリーン」が2大人気ブランドで、どちらも“むし歯の進行と発生を防ぐフッ素処方”であり、よりむし歯予防力の高い、「クリニカ アドバンテージ ハミガキ」も支持を集めています。

全体的に、手軽な価格帯のブランドが選ばれている中で、ドラッグストアでは、知覚過敏をケアする「グラクソ・スミスクライン シュミテクト(当社収集レシート平均購入価格¥518)」が、食品スーパーよりも上位にランクインしていました。

他にも、歯垢をしっかり落とす「デンタークリアMAX」や、歯周病予防の「サンスター GUMデンタルペースト」などが選ばれ、購入ブランドからは、オーラルケアの様々な悩みに効果的な機能性を持つものが選ばれていることがわかります。

口内環境の2大悩みは「歯石や歯垢」と「口臭」

実際に消費者の口内環境の悩みや、チャネル別の価格帯にはどのような違いがあるのでしょうか?

今回新たに、POB会員4484名を対象に、オーラルケアに関する調査を実施したところ、半数以上の55.8%(n=2502名)が、「口内環境の悩みがある」と回答しました。

実際の悩みは、「歯石や歯垢」が63.0%でもっとも多く、「口臭」が53.3%、「歯や歯茎の色」が46.7%、「歯周病」が34.3%と続きます。それを裏付けるように、前述の図表3では、現代人の口内環境の悩みに対応できる効果や機能性を持つものが、ランクインしています。

新たな買い場として存在感増すネットショッピング

「ハミガキ粉」の購入先として、店頭だけではなく、「ネットショッピング」や、「歯科医院・病院」の選択肢を追加し、「ハミガキ粉」の購入チャネルと、購入金額について調査をしてみました。

ハミガキ粉の購入チャネルは、1位が「ドラッグストア」で、69.0%であり、2位が「食品スーパー」で14.6%でした。3位は「ネットショッピング」が、5.5%となり、4位の「ホームセンター」3.4%、5位の「ディスカウントショップ」1.6%を上回る結果となっています。

「ハミガキ粉」ネット購入者の価格帯は、1,000円以上が3割も!

チャネルで購入価格帯に違いはあるのでしょうか?

購入先として選ばれた上位4チャネル(ドラッグストア、食品スーパー、ネットショッピング、ホームセンター)でハミガキ粉1つあたりの購入価格帯をみると、「ドラッグストア」「スーパー」「ホームセンター」での購入頻度が高いと回答した方は、「~200円未満」および「200円~300円」の低価格帯がボリュームゾーンでした。

一方で、「ネットショッピング」での購入頻度が高いと回答した方は、「700円~1,000円」が17.5%、「1,000円以上」が30.3%であり、「700円~1,000円以上」の価格帯を購入する方が、約半数近くという結果となっています。

今回のまとめ

  • 口内環境の悩み、1位は「歯石・歯垢」、2位は「口臭」
  • ネットショップでは1000円以上の高価格帯も売れる

※POBデータとは

「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」データベース。ソフトブレーン・フィールド社が提供する全国の消費者から実際に購入/利用したレシートを収集し、ブランドカテゴリや利用サービス、実際の飲食店利用者ごとのレシート(利用証明として)を通して集計したマルチプルリテール購買データのデータベース。消費財カテゴリ68種類 約6,000ブランド、飲食利用カテゴリ10種類約200チェーンを網羅する。(2018年1月現在)

行き過ぎた省人化は 顧客満足を低下させる?

2025年には、2015年比で約455万人も日本の人口が減少します。65歳以上の高齢者の人口が262万人も増加する一方で、労働人口が大きく減少し、2025年には深刻な人手不足時代に突入します。そのための対策として、外国人労働者の雇用や、売場作業の「省人化・省力化」のための新しいシステムの導入は待ったなしの状況です。そのひとつの動きが、「レジの無人化」です。

労働人口の減少で売場の省人化・省力化が進む

昨年11月にニューヨークを訪問した際に、ウォルマートの「スキャン&ゴー」を体験してきました。

スマートフォンのウォルマートのアプリを開いて、「ウォルマートペイ」のアイコンをクリックし、クレジットカードやギフトカードの情報を登録。

レジのQRコードを読み取り、あとは顧客が自分で商品のバーコードをスキャンすれば精算完了です。

レジで読み取るQRコード

精算完了すると、購入商品の一覧と、電子レシートがスマホに表示されます。

「おっ。ペーパーレスだし、簡単だし、このスキャン&ゴーのレジの仕組みはとてもいいなぁ。人手不足が深刻な日本の小売業にも参考になる事例だなぁ」と感心していたのですが、今年の5月にForbesに「ウォルマート、無人レジシステム(スキャン&ゴー)の導入を中止」という記事が出ていて、少し驚きました。

導入中止の理由はこちらのForbesの記事を参照してもらいたいのですが、要約すると無人レジシステムの導入でレジ人員を減らしても、生産性の向上には結びつかず、一方で、「顧客満足」の大幅な低下を招いた。店舗に従業員を戻すことが、顧客満足の改善につながるのでは? と締めくくられています。

接客による買物体験の質の向上が リアル店舗の顧客満足を高める

ネットでなんでも購入できる時代にあって、省人化・無人化を進めすぎると、リアル店舗の価値を大きく損ねる結果につながるのかもしれません。店舗スタッフとなんの交流もない無人店舗で買物するぐらいなら、ネットで購入した方がマシと考える顧客が増えることは当然の結果だと思います。

以下の図表1は、月刊マーチャンダイジング2017年12月号の『DgS(ドラッグストア)の顧客満足度調査』の特集で使用したものです。

顧客満足度調査は、DgS 30社×5店舗=合計150店舗をミステリーショッパーが覆面調査し、店舗および企業単位の顧客満足度を採点する特集です。

今回の調査では、「総合満足度」という評価指標を採用しました。調査の最後に、「この店で買物することを知人にすすめることができますか?」という質問に、ミステリーショッパーが0~10の11段階評価で回答しています。そして、統計的な手法を用いて、この総合満足度に相関の高い質問項目の順位を付けました。その上位10位の調査項目が図表1です。

総合満足度に最も影響を与えた調査項目は、『調査での店舗滞在時間を通して、店舗従業員は常に顧客を意識した(ダラダラしない、従業員同士で私語をしない)行動がとれていましたか?』 という調査項目でした。これは、買物客の「承認欲求」(店員に私のことを見てほしい、理解してほしい)を満たすものです。つまり、店員が補充作業に没頭していて、自分のことを無視するような店には、もう二度と行きたくないと感じる買物客が多いということです。

図表1のトップ10の項目は、「承認欲求を満たすもの」「レジ応対」「挨拶」「化粧品や医薬品の接客」「クリンリネス」に分類できますが、総合満足度に大きく影響を与える調査項目の大半は、接客などの「店員と買物客のコミュニケーション」に関するものです。

ネット販売との競争の中で、リアル店舗の価値を高めるものは、「接客による買物体験の質の向上」であることは間違いないと思います。とはいえ、人手不足はさらに深刻になるので、「スマートカウンセリング」などのITを活用した「接客のオートメーション化」にも今後は取り組む必要があります。

中部はHC、福岡はDgSでハミガキ粉が購入される!?

今回から2回にわたって、「ハミガキ粉」をテーマに、ソフトブレーンフィールド社独自のデータ「POBデータ」から消費者の購買行動を分析します。

約6割以上の方が「ドラッグストア」でハミガキ粉を購入

まず、2017 年の「ハミガキ粉」の購入業態(店頭・全国エリア)を見てみましょう。

「ドラッグストア」が61.6%でもっとも多く、次いで「食品スーパー」が24.0%、過去3年間(2015年から2017年)でみても、購入業態の順位に変動はなく、約6割以上の方が「ドラッグストア」で購入をしています。

近年ドラッグストアは、医薬品や日用品だけではなく、「食品の充実」や、「安さ」をウリに、あらゆる生活必需品がそろう“近くて便利な日常の買い物の場“として利用されていることも購入先として選ばれている理由の1つであると言えます。

ハミガキ粉の買われ方から見える地域性

エリア別での購入業態にはどのような違いがあるのでしょうか。

 

エリア別の購入業態は、全国平均と比較すると、関東・関西エリアでは1位が「ドラッグストア」、2位が「食品スーパー」でしたが、その一方、「中部」「九州(含沖縄)」「東北」「北海道」「中国」エリアの購入業態からは、全国展開するチェーンだけではなく、地場で展開するチェーンの特色がみえてきました。

たとえば、北海道エリア、東北エリアでは、「ドラッグストア」、特にツルハのシェアが圧倒的でした。北海道では1位の「ツルハ」が圧倒的なシェアを誇っており、2位「サッポロドラッグストアー」、3位の「サンドラッグ」と大きく差をつけています。

中部エリアは「ホームセンター」が8.3%で、全国平均の4.5%を、3.8ポイント上回っています。チェーン別では、1位が「カインズホーム」、2位が「ケーヨーデイツー」、3位が「コメリ」となっています

また、中国エリアでは「食品スーパー」が31.4%であり、全国平均24.0%で全国平均を7.4ポイント上回っています。特にイズミが運営する「ゆめタウン」や、イオングループの「ザ・ビック」などでの購入が目立ちました。

九州エリア「ディスカウントショップ」が24.4%で、全国平均8.9%を、15.5ポイント上回っています。圧倒的に多いチェーンは、九州が地盤の「ダイレックス」です。九州エリア(含沖縄)、中国・四国エリアを中心に展開しています(サンドラッグの子会社)。

ここまでの調査結果で、「ハミガキ粉」の購入業態にはエリア別で特色がありながらも、「ドラッグストア」もしくは、「食品スーパー」が購入先として選ばれていることがわかりました。

今回のまとめ

  • ハミガキ粉が購入されているのは 1位ドラッグストア、2位食品スーパー、3位ディスカウントストア
  • 九州はディスカウントが強い、北海道は特にツルハが強いなど売れ方に地域性がある

 

※POBデータとは

「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」データベース。ソフトブレーン・フィールド社が提供する全国の消費者から実際に購入/利用したレシートを収集し、ブランドカテゴリや利用サービス、実際の飲食店利用者ごとのレシート(利用証明として)を通して集計したマルチプルリテール購買データのデータベース。消費財カテゴリ68種類 約6,000ブランド、飲食利用カテゴリ10種類約200チェーンを網羅する。(2018年1月現在)