ウォルマートの新サービス 「ピックアップタワー」は宅配待ちストレスを解消する

アマゾンとウォルマートの競争はますます激化しています。ウォルマートは、アマゾンに対抗するためにオムニチャネル化を加速しています。オムニチャネルとは、「リアル店舗での買物」「ネットで注文して宅配」「ネットで注文して店舗受け取り」といった買物の選択肢を増やすことによって、「買物体験の質の向上」を目指すことです。

高さ5m、幅2.5m、最大300箱を格納できる

ウォルマートが特に重視しているのは、「ネットで注文して店舗で受け取る」という買物体験です。ネット販売の利用者の最大のストレスは、宅配待ちのストレスです。また、アメリカでは、宅配の際に利用者が不在の場合は、玄関などのドアの前に置きっぱなしにすることが一般的です。ところが、ネット利用者の約30%が、玄関に置かれた宅配商品を盗まれた経験があるそうです。宅配商品を盗む「ポーチ・パイレーツ(Porch Pirates)」と呼ばれる窃盗犯も社会問題化しているそうです。

「宅配待ちストレス」と「盗難ストレス」を解消するためにも、ウォルマートは、「ネットで注文して店舗受け取り」を推奨しています。店内の主通路沿いにも「Order online. Ship to store . Save even more」(ネットで注文して店舗で受け取った方が[配送料がかからない分]節約できますよ)というPOPを掲示して、店舗受け取りを薦めています。

以前は、ピックアップのカウンターで店舗受け取りを行っていましたが、昨年から、無人で店舗受け取りができる「ピックアップロッカー」「ピックアップタワー」を店内に設置しています。6月13日~19日まで実施した「第21回NFIアメリカ視察ツアー」で目撃した、高さ約5m、幅約2.5mのピックアップタワーは圧巻でした。

1台の店もあれば、需要が多い一部の店では2台設置しているケースもあります。現在、200店舗にタワーが設置され、今年中に700店舗までピックアップタワー設置店を増やす計画です。

ピックアップタワーは、最大300箱(箱の大きさは60cmx40㎝x40㎝以内)まで受け取り商品を格納できるそうです。ピックアップタワーの前で、事前に配信されたバーコードをかざすと、5~10秒で箱が出てきます。立体駐車場みたいな仕組みと考えればイメージしやすいと思います。タワーの近くにはロッカーも設置されていますが、タワーに格納できない大型商品がロッカーに格納されるそうです。

 

敢えて「接客」体験を重視する ホームデポの店舗受け取り

ウォルマートが、店舗受け取りの「完全無人化」を推進する一方で、ホームデポは、敢えて店員と顧客がコミュニケーションをとれる「店舗受け取り体験」を重視しています。

ホームデポのアプリには、「Find it Fast」という機能が付いており、自宅で購入商品のカタログ写真、現物、PCの画面などを「画像スキャン」すると、その商品がいつも行くホームデポの何番通路に、在庫が何個あるかがスマホの画面でわかります。

オムニチャネルの定義である「販売データ」「在庫データ」「顧客データ」がネットもリアルも一元管理されていることがわかります。ちなみにツアー参加者が、試しに1品購入してみたところ、15分後に、スマホに表示される在庫が1品減っていたそうです。

欲しい商品が在庫ゼロの場合は、スマホでネット注文し、宅配を選ぶこともできますが、配送料が高いので、ほとんどの顧客は「店舗受け取り」を選ぶそうです。ホームデポが面白いのは、店舗受け取りの際にバーコードスキャンといった無機質なサービスを敢えて行わず、有人カウンターで受け取り商品を手渡しすることです。

また、バーコードではなくて、「個人名」を名乗ることで商品を受け取ることができます。さらに、その商品の特徴や使い方などを、カウンターの担当者が親切に説明してくれます。ホームデポは、敢えて有人の「接客体験」を残すことで、アマゾンと差別化しようとしていることがわかります。

商品を探すストレスを解消するFIND IT FAST(左)。お取り寄せ商品を渡してフレンドリーな接客をしてくれるサービスカウンター(右)。

ホームデポは、2015年頃から「カスタマー・ファースト・プログラム」という名称で、全従業員の商品知識に関する再教育を実施しました。「接客力」こそが、リアル店舗の最大の価値と考えた結果のようです。

一方で、店頭の作業を単純化・簡素化する「プロジェクト・シンプル」によって荷受け・品出し作業の作業プロセスを簡素化させました。その結果、店頭スタッフが顧客サービスに費やす時間を増やすことに成功しました。接客強化のためには、作業の省人化・省力化も同時に進める必要があることがわかります。

データの利活用が小売業変革の鍵になる

変革を迫られる流通小売業。世界を見渡せばAmazonやAlibabaをはじめとする新しいプレイヤーが次々と頭角を現し、日本企業もその影響を無視できなくなりつつある。「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」や「ドラッグストア スマート化宣言」などの小売業のIT化政策に携わってきた経済産業省の林揚哲氏は、今、日本の小売業が取り組むべきテーマは「データの利活用」であると言う。ビジネスモデル大転換の時代、生き残るために日本の小売業がとるべき打ち手は何か。(文:MD NEXT 鹿野恵子/撮影:曽根田元)

話し手:経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 消費・流通政策課長 林揚哲氏/係長 加藤彰二氏
聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子

「店舗に集客し利益を稼ぐ」モデルの終焉

――日本の小売業の現在の課題をどうとらえられていますか?

林:実店舗を出店してお客さまを集め、マージンを稼ぐモデルの小売業は変革を迫られています。これまでの小売業のビジネスモデルでは、70円でチョコレートを仕入れ、30%の粗利を乗せて100円で売っていたのですが、商品を売っても利益が出ない、場合によってはマイナスになってしまうという構造になりつつあるのです。

そこで現れたのが、マージンを限りなくゼロに近い価格で商品を販売し、その購買データを使って他のビジネスを展開するという動きです。さまざまな購入データ、決済データを集めて新しいビジネスにつなげるということを、AmazonやAlibabaがどんどんやっています。

昨年の秋に我々は中国の深センを訪問したのですが、ほぼ無料で利用できるシェアバイク(※編集部注:Mobikeなど)をたくさんの方が利用していました。自転車の利用者の「どこからどこまで移動した」というような行動パターンや、他から集めてきた購買データなどを合わせて分析し、金融サービスや不動産サービスなどの新しいビジネスにつなげるという流れができています。

AmazonやAlibabaはデータが欲しいので、データを集めるにあたってはマージンをどんどん削り、マージンゼロ、場合によってはネガティブ(マイナスの利益)で勝負してきます。そのとき、日本の小売業が利益をいかに確保していくかということと、いかにデータを利活用していくかということを考えていく必要があります。

海外勢は採算度外視で面白いことをしようとしている

――データの利活用が重要ということですが、日本の小売業はITシステムに関する理解や取り組みが海外の企業に比べて非常に後手に回っている印象があります。

林:そこはやはり意識の問題だと思います。我々もSIMフリーの携帯の方が月額利用料が安いとわかっていながらも、メジャーキャリアから変えることはなかなかできませんよね。同じように小売業のみなさんもIoTやITの可能性については、分かってはいるのだけれども、それに対応する手間を考えると、着手できないのではないかと思うのです。

経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 課長 林揚哲氏

ただ、一方でAmazonやAlibabaは、世界中の超有名大学からトップ5%のデータサイエンティストたちをどんどん集めて、彼らの知見を使って、どうしたらお客さまに喜んでもらえるか…つまり「ユーザエクスペリエンス」を一生懸命考えているのですね。超理系の人たちが、採算度外視でさまざまな「おもしろいこと」を考えている。これは、日本の小売事業者にとって脅威であると認識しなければなりません。

―― 日本の小売業は、おもしろくするということが二の次になってしまっているような気がします。

林:おもしろさを追求する貪欲さとチャレンジ精神、失敗してもいいからやってしまえという気概が、今の日本の小売流通業には欠けているのかなと感じます。

Amazonに「too crazy」と言わしめた日本の電子タグ

―― 加藤さん(今回取材に同席していただいた経済産業省の加藤彰二氏)は世界中のスマートストアをご覧になられているということですが、どちらのお店におもしろみを感じられましたか?

加藤:やはり一番はAmazon Goです。完成されたものをつくりあげ、そこに集客して、「やはりAmazonはおもしろい」という、話題の中心になっているように思いました。

一方で、中国のあるスマートストアでは商品が読み込まれなかったり、お店に閉じ込められてしまったりというトラブルがあるのですが、それが許される文化もありました。まずやってみて、うまくいかなかったらすぐ諦める。逆にうまくいったらそれを拡大する。そうした意思決定がすごく早いですし、正直羨ましいなと思う部分がたくさんあります。

もちろん日本でも先進的な企業はありますが、数という意味ではやはり中国のほうが多いですし、何よりも中国がおもしろいのは、スタートアップの方々が新しい技術をもって「これがしたい」というと、たくさんお金が集まるという点です。ベンチャーに対する投資熱が高いということもあるのですが、新しい人が新しい技術でお金を集めてのし上がるというストーリーが渦巻いていて、中国に行くと熱気を感じます。

経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 係長 加藤彰二氏

今からそのようなことを日本でやるのは難しいと思っていますが、日本のいいところとしては、真似るのがうまいということが挙げられます。ですから、新しい技術を日本でどう活用すべきかということについて、事業者の方と一緒に考えられたらと感じています。

林:今、経産省では電子タグを用いたサプライチェーン情報共有システムの実験を行っていて、コンビニやドラッグストアの商材にRFIDタグをつけていこうと取り組んでいるのですが、実はまだ世界には(トラッキングや決済システムの)スタンダードがないのですね。

実際にAmazonの本社に行って日本の電子タグの取り組みに関する話をしたら「君たちはtoo crazyだ!おもしろいから一緒にやらないか」と言われたのですよ。それだけ今回のプロジェクトは日本が最先端で世の中を引っ張っていくものなのです。

―― RFIDに関しては、コンビニ、ドラッグストアの商品点数ならともかく、ディスカウントストアやホームセンターほどの規模感になった時に、どこまでメーカーさんが対応できるのかなというところは気になるところです。

林:まずはアパレルからはじまり、コンビニ、ドラッグストア、百貨店と検討していただいています。世の中の流れの中でこれが便利だと思えば、みなさんも対応していくと、我々は信じています。

――歴史を紐解けば、昔は商品にバーコードがついていない時代がありました。それが便利ということで、長い時間をかけてほぼすべての商品についたという流れがあります。

加藤:それと一緒で、電子タグが世の中にとって便利だったら普及していきますし、ダメだったら普及しないという話です。

林: Amazon Goは素晴らしいとは思いますが、我々が目指している方向とは少し違います。Amazon Goは、店内の顧客の消費動向を可視化するのにはよいかもしれませんが、我々はサプライチェーン全体のデータを取ろうと考えていて、それにはRFIDが一番有効ではないかという結論に達しました。

「人材の底上げ」という課題をどう解消するか

―― 電子レシートの実証実験などもされていますが、進捗はいかがでしょうか。

林:データのフォーマットの標準化は一応できました。これをどのように消費者、あるいは事業者に使っていただけるかという部分で、ビジネスモデルのあり方を検証しているところです。

――電子レシートに関しては、お客さまにとっては大きなメリットがあると思うのですが、小売業者にとってはいかがでしょうか。

林:小売業者にとっても、お客様の買い回り状況などがよくわかりますので、それを活用して、商品の売り方や提案の仕方を検討することができます。また、メーカーにとっては、新商品開発などのヒントがいろいろありますので、メリットは大きいと思いますね。

――電子レシートの採用により、小売業にもメリットがあるということですね。

林:そうですね。

経済産業省では2018年4月11日に「キャッシュレスビジョン」を策定し、キャッシュレス社会実現のため、加盟店側・消費者側双方の課題解消に資する取組の方向性および方策を提言しました。日本のキャッシュレス比率は現状2割なのですが、韓国では9割、中国では6割、うち中国の沿岸部、都市部に行くとほぼキャッシュレスです。そこで私たちは、日本でも2025年までには4割、最終的には8割までキャッシュレスに持って行いこうという取り組みをしています。

日本のキャッシュレスの比率を引き上げる理由は2つありまして、1つは店舗の効率化、もう1つがデータの蓄積です。

キャッシュレス化に至るにはさまざまな壁があります。例えば手数料の率です。日本は他国と比較すると決済手数料3%、4%と非常にクレジットカードの手数料が高いのですが、Alibabaなどは0.5%程度の低い決済手数料でサービスを提供しています。

なぜそれほど低い手数料が成立するかというと、1つはシステムです。中国の場合は専用端末は使わずスマートフォンのQRコードを使い、インターネットを経由しているので、低コストで決済の仕組みを提供できるのですが、日本ではCAFISという日本独自のカード決済ネットワークを経由することと、カード用の端末が高価であるということが手数料の高さにつながっています。

また、中国は決済から得られたデータを利活用して収益を上げていることも、決済手数料を低く抑えられている理由のひとつです。

―― 特に小売業界の課題は人材です。経営トップがデータ利活用を検討したとしても、それを実現できる人材がいないという状況の企業は少なくありません。小売業の人材の底上げは大きな課題だと思いますが、どのようにお考えでしょうか。

林:今意思決定をされている方は、僕も含めてバブル世代で成功体験を持っているので、なかなか変革することができません。若い世代にチャンスを与えてチャレンジをさせる、失敗したときは、我々意思決定をする世代がフォローするというようなことをしていかないと、小売業だけでなく、日本の産業界全体の活力が失われていくのではないかと思っています。

中国と比較しても、日本のクオリティや正確性は非常に高いのだけども、新しいことをやるとなると、中国は失敗してもいいからどんどんマーケットをとっていこうとするのですが、日本は石橋を叩いてもなかなか渡らない。いつまでもパワーポイントばかりをつくっている。そのスピード感をなんとか変えていかないと、世界の中で生き残っていくのは非常に厳しいではないでしょうか?

店に必要なのはセクシーさ。失ったチャレンジ精神を取り戻せ

―― 先日トライアルさんのスマートストアを取材してきました。700台のカメラでお客様の動きを完全に捕捉している。ああいうびっくりするようなことをやれる小売業さんがもっと日本にも増えてくればいいのにと思っています。もともと小売はそういう場所だったと思うんですよね。

林:そうですね。ダイエーの中内功さんも、イオンの岡田卓也さんも、イトーヨーカドーの伊藤雅俊さんも、セブンの鈴木敏文さんも革新的な方でした。

もともと小売業は、とてもイノベーティブな業界で、いかにお客さまの心をつかむかということを一生懸命やってきたはずなんです。ところが現在は非常に硬直化してしまっていて、教科書的に売上と利益を確保する方向になってしまっている。しかしそれで小売として本当にいいのでしょうか?店はチャレンジの場で、お客さまにサプライズや感動、喜び、セクシーさを提供するのが小売業ではないだろうかと思うんです。

――店には色気が必要です。ドン・キホーテがこれだけ多くの方に支持されているのも、売り場にセクシーさや怪しさがあるからではないかと感じます。

林:教科書通りの売場を作れば、それなりに安定した売上も利益も確保できるのですが、それではつまらない。私の自宅の近所の食品スーパーにはとんでもないものを売っていたりして、面白みがあります。

繰り返しになりますが、Amazon.comでネットショッピングをするのは楽しいですよね。それは彼らがお客さまを楽しませようとして、ユーザーズエクスペリエンスを考え抜いているからです。

実店舗に集客して粗利を稼ぐという、今までの小売業の枠組みは今後消滅していく。だから、小売業にはデータを利活用しつつエンターテインメントの方向へ向かうようなチャレンジをしていただきたいと私は思っています。

ーー本日は興味深いお話をありがとうございました。

ファミマ×ドンキ実験店、成功の明暗を分ける「在庫回転率」

6月1日にオープンしたファミリーマートとドン・キホーテの共同実験店舗「ファミリーマート立川南通り店」(東京・立川市)。ファミマの商品を縮小、新たにドンキの2,800アイテムを加えることで新規客の獲得、コンビニから離れてしまった客層の取り込みを図るという。いずれは既存の1万7,000店への波及を見据えるそのプロジェクトの全容に迫る。

実験の主目的は「新規客獲得」と「コンビニ離脱層の取り込み」

コンビニ業界は既存店の客数減が止まらず改革、改善が迫られている。大手3チェーンは近年、夕夜間の強化を打ち出し、具体的には夕飯の食卓に上がる商品を拡充している。顧客の中心を若年層から、共働き世帯、高齢者へのシフトを図るが時間を要するであろう。

客数対策は、さまざまなアプローチを必要とし、今年6月1日にオープンしたファミリーマートとドン・キホーテの共同実験店舗「ファミリーマート立川南通り店」(東京・立川市)も客数対策を強く意識している。ファミマのグループ会社、ユニーとドンキは昨年、資本・提携を締結しており、店づくりのノウハウ共有がグループ内で図られている。今回の実験店舗もその一環であり、同日オープンの「大鳥神社前店」(東京・目黒区)、6月29日オープンの「世田谷鎌田三丁目店」(東京・世田谷区)の計3店舗で当面は実験を継続させる。

実験店舗は、いずれもファミマ直営店を改装したもので、立川南通り店を例に挙げると、改装前のファミマの商品3,400アイテムを、改装後にファミマを2,200アイテムに縮小、新たにドンキ2,800アイテムを加えて計5,000アイテムに拡大(147%)したものだ。

ファミマ側の開発担当責任者である営業本部ライン運営事業部の今木誠 部長は実験の狙いを次のように語った。

「(ドンキの商品を取り入れることで)いかなる化学反応が起きるのか、どういうふうに変わっていけるのかを実験していきたい。来店客が伸び悩んでいる、コンビニ全体の問題である。これを打破するためには、新しい商品や、新しい陳列方法によって、今まで来店していただけなかったお客様、コンビニから離れてしまった客層の集客を主目的に実験していく」

実験により取り入れるべき成果を挙げれば、既存の1万7,000店に波及させたい意向である。

売り方と売場の変更は「立川南通り店」の場合、大きくは次の6点だ。

(1)店頭カートによる商品販売(紙製品、カップ麺、軽衣料など約10台)

コンビニでは見かけない店頭カート。価格訴求型の商品を集めた

(2)円筒型投げ込み什器による商品陳列(菓子を中心に約30台)

円筒型投げ込み什器。目的買いではなく、衝動的な購買を期待するため、圧倒的なお値打ち感が必要になる

(3)天井からの吊り下げ陳列(主に珍味)

吊り下げ陳列はビールや酎ハイの売場の前に珍味の大袋を揃える

(4)「オススメ商品」売場の新設(ゴンドラ3台)

ドンキが得意とするカテゴリー「パーティーゲーム」も売場の目玉の一つ。商圏の拡大を図る

(5)レジ前にお薦め商品の陳列スペースを新設

レジ前には、ついで買いを促す商品と、撤去した雑誌売場の売れ筋を残した

(6)ゴンドラの高さを改装前より200mm上げて1,800mmに(大鳥神社前店は2,100mm)

什器が高く、それに比して通路幅が狭く、圧迫感はあるものの、既存のコンビニでは見掛けないカテゴリー(ゲーム用品)や商品が品揃えされており、売場を回遊する楽しさを付加することには成功しているようである。

低回転、重在庫で利益を出せるのか?

ファミマにとって、この店がかなり“挑戦的な”試みであることは否めない。

コンビニの商圏設定は首都圏であれば1,500人程度といわれている。ドンキの商品を投入することで基礎商圏を深堀りするのか、商圏拡大を図るのか、その両方なのか問われるのだが、客層の男女比「6対4」を「5対5」に持って行く狙いはよしとしても、広域からの集客を積極的に図るとすればリスクを背負うことになる。それは在庫リスクである。

商品アイテム数は約1.5倍程度であるが、ドンキの高額商品導入や陳列手法などにより、在庫金額はそれ以上に膨らんでいると推測される。コンビニの在庫は1店当たり700万円程度(売価)、今回の実験店は、その2倍近くになるだろう。ドンキの店舗はチェーンストア企業の中でも回転率が低い。高回転のコンビニと低回転のドンキが融合すれば、ファミマ側にとってオペレーションは困難であり、加盟店への波及は慎重にならざるを得ない。

「在庫の管理をどうするのか、利益にどうつなげていくかは、これからの実験の中で検証していきたい」と担当の今木氏も、その点は課題であると認めている。

ドンキの内情に詳しい関係者は次のように語る。

「ドンキは低回転で重在庫、そこがアキレス健だが、だからこそドンキの魅力を発揮できる。ABC商品のAは黙っていても売れていく。むしろCを偏愛して、担当者が単品“拡販”するところに強さがある。当然Cの商品は有利な仕入れができるから利益率も高い」

コンビニは加盟店ビジネスを前提にしている。センスや能力に関係なく、きちんと手順を踏めば儲かる仕組みを提供することが責務であろう。ドンキが得意とする、単品拡販と売り切るチカラ、これを誰でも出来るオペレーションに落とし込んでいくかは、逆にコンビニチェーンが培ってきたノウハウに掛かっている。

高価格帯ハミガキ粉のシェアを奪うのはネットショップ?

前回に続き、「ハミガキ粉」をテーマに、ソフトブレーンフィールド社独自のデータ「POBデータ」から消費者の購買行動を分析します。

売れ筋は予防歯科のクリニカと、歯垢をかき出すクリアクリーン

前回は、「ハミガキ粉」の購入業態と地域的な売れ方の特性を紹介しました。
では、どのようなブランドが売れ筋なのでしょうか?

「ハミガキ粉」の売れ筋は、”予防歯科“の考えに基づいて生まれた「ライオン クリニカ ハミガキ」や、歯の表面やスキマの歯垢をかき出す顆粒入りが特長である「花王 クリアクリーン」が2大人気ブランドで、どちらも“むし歯の進行と発生を防ぐフッ素処方”であり、よりむし歯予防力の高い、「クリニカ アドバンテージ ハミガキ」も支持を集めています。

全体的に、手軽な価格帯のブランドが選ばれている中で、ドラッグストアでは、知覚過敏をケアする「グラクソ・スミスクライン シュミテクト(当社収集レシート平均購入価格¥518)」が、食品スーパーよりも上位にランクインしていました。

他にも、歯垢をしっかり落とす「デンタークリアMAX」や、歯周病予防の「サンスター GUMデンタルペースト」などが選ばれ、購入ブランドからは、オーラルケアの様々な悩みに効果的な機能性を持つものが選ばれていることがわかります。

口内環境の2大悩みは「歯石や歯垢」と「口臭」

実際に消費者の口内環境の悩みや、チャネル別の価格帯にはどのような違いがあるのでしょうか?

今回新たに、POB会員4484名を対象に、オーラルケアに関する調査を実施したところ、半数以上の55.8%(n=2502名)が、「口内環境の悩みがある」と回答しました。

実際の悩みは、「歯石や歯垢」が63.0%でもっとも多く、「口臭」が53.3%、「歯や歯茎の色」が46.7%、「歯周病」が34.3%と続きます。それを裏付けるように、前述の図表3では、現代人の口内環境の悩みに対応できる効果や機能性を持つものが、ランクインしています。

新たな買い場として存在感増すネットショッピング

「ハミガキ粉」の購入先として、店頭だけではなく、「ネットショッピング」や、「歯科医院・病院」の選択肢を追加し、「ハミガキ粉」の購入チャネルと、購入金額について調査をしてみました。

ハミガキ粉の購入チャネルは、1位が「ドラッグストア」で、69.0%であり、2位が「食品スーパー」で14.6%でした。3位は「ネットショッピング」が、5.5%となり、4位の「ホームセンター」3.4%、5位の「ディスカウントショップ」1.6%を上回る結果となっています。

「ハミガキ粉」ネット購入者の価格帯は、1,000円以上が3割も!

チャネルで購入価格帯に違いはあるのでしょうか?

購入先として選ばれた上位4チャネル(ドラッグストア、食品スーパー、ネットショッピング、ホームセンター)でハミガキ粉1つあたりの購入価格帯をみると、「ドラッグストア」「スーパー」「ホームセンター」での購入頻度が高いと回答した方は、「~200円未満」および「200円~300円」の低価格帯がボリュームゾーンでした。

一方で、「ネットショッピング」での購入頻度が高いと回答した方は、「700円~1,000円」が17.5%、「1,000円以上」が30.3%であり、「700円~1,000円以上」の価格帯を購入する方が、約半数近くという結果となっています。

今回のまとめ

  • 口内環境の悩み、1位は「歯石・歯垢」、2位は「口臭」
  • ネットショップでは1000円以上の高価格帯も売れる

※POBデータとは

「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」データベース。ソフトブレーン・フィールド社が提供する全国の消費者から実際に購入/利用したレシートを収集し、ブランドカテゴリや利用サービス、実際の飲食店利用者ごとのレシート(利用証明として)を通して集計したマルチプルリテール購買データのデータベース。消費財カテゴリ68種類 約6,000ブランド、飲食利用カテゴリ10種類約200チェーンを網羅する。(2018年1月現在)

行き過ぎた省人化は 顧客満足を低下させる?

2025年には、2015年比で約455万人も日本の人口が減少します。65歳以上の高齢者の人口が262万人も増加する一方で、労働人口が大きく減少し、2025年には深刻な人手不足時代に突入します。そのための対策として、外国人労働者の雇用や、売場作業の「省人化・省力化」のための新しいシステムの導入は待ったなしの状況です。そのひとつの動きが、「レジの無人化」です。

労働人口の減少で売場の省人化・省力化が進む

昨年11月にニューヨークを訪問した際に、ウォルマートの「スキャン&ゴー」を体験してきました。

スマートフォンのウォルマートのアプリを開いて、「ウォルマートペイ」のアイコンをクリックし、クレジットカードやギフトカードの情報を登録。

レジのQRコードを読み取り、あとは顧客が自分で商品のバーコードをスキャンすれば精算完了です。

レジで読み取るQRコード

精算完了すると、購入商品の一覧と、電子レシートがスマホに表示されます。

「おっ。ペーパーレスだし、簡単だし、このスキャン&ゴーのレジの仕組みはとてもいいなぁ。人手不足が深刻な日本の小売業にも参考になる事例だなぁ」と感心していたのですが、今年の5月にForbesに「ウォルマート、無人レジシステム(スキャン&ゴー)の導入を中止」という記事が出ていて、少し驚きました。

導入中止の理由はこちらのForbesの記事を参照してもらいたいのですが、要約すると無人レジシステムの導入でレジ人員を減らしても、生産性の向上には結びつかず、一方で、「顧客満足」の大幅な低下を招いた。店舗に従業員を戻すことが、顧客満足の改善につながるのでは? と締めくくられています。

接客による買物体験の質の向上が リアル店舗の顧客満足を高める

ネットでなんでも購入できる時代にあって、省人化・無人化を進めすぎると、リアル店舗の価値を大きく損ねる結果につながるのかもしれません。店舗スタッフとなんの交流もない無人店舗で買物するぐらいなら、ネットで購入した方がマシと考える顧客が増えることは当然の結果だと思います。

以下の図表1は、月刊マーチャンダイジング2017年12月号の『DgS(ドラッグストア)の顧客満足度調査』の特集で使用したものです。

顧客満足度調査は、DgS 30社×5店舗=合計150店舗をミステリーショッパーが覆面調査し、店舗および企業単位の顧客満足度を採点する特集です。

今回の調査では、「総合満足度」という評価指標を採用しました。調査の最後に、「この店で買物することを知人にすすめることができますか?」という質問に、ミステリーショッパーが0~10の11段階評価で回答しています。そして、統計的な手法を用いて、この総合満足度に相関の高い質問項目の順位を付けました。その上位10位の調査項目が図表1です。

総合満足度に最も影響を与えた調査項目は、『調査での店舗滞在時間を通して、店舗従業員は常に顧客を意識した(ダラダラしない、従業員同士で私語をしない)行動がとれていましたか?』 という調査項目でした。これは、買物客の「承認欲求」(店員に私のことを見てほしい、理解してほしい)を満たすものです。つまり、店員が補充作業に没頭していて、自分のことを無視するような店には、もう二度と行きたくないと感じる買物客が多いということです。

図表1のトップ10の項目は、「承認欲求を満たすもの」「レジ応対」「挨拶」「化粧品や医薬品の接客」「クリンリネス」に分類できますが、総合満足度に大きく影響を与える調査項目の大半は、接客などの「店員と買物客のコミュニケーション」に関するものです。

ネット販売との競争の中で、リアル店舗の価値を高めるものは、「接客による買物体験の質の向上」であることは間違いないと思います。とはいえ、人手不足はさらに深刻になるので、「スマートカウンセリング」などのITを活用した「接客のオートメーション化」にも今後は取り組む必要があります。

中部はHC、福岡はDgSでハミガキ粉が購入される!?

今回から2回にわたって、「ハミガキ粉」をテーマに、ソフトブレーンフィールド社独自のデータ「POBデータ」から消費者の購買行動を分析します。

約6割以上の方が「ドラッグストア」でハミガキ粉を購入

まず、2017 年の「ハミガキ粉」の購入業態(店頭・全国エリア)を見てみましょう。

「ドラッグストア」が61.6%でもっとも多く、次いで「食品スーパー」が24.0%、過去3年間(2015年から2017年)でみても、購入業態の順位に変動はなく、約6割以上の方が「ドラッグストア」で購入をしています。

近年ドラッグストアは、医薬品や日用品だけではなく、「食品の充実」や、「安さ」をウリに、あらゆる生活必需品がそろう“近くて便利な日常の買い物の場“として利用されていることも購入先として選ばれている理由の1つであると言えます。

ハミガキ粉の買われ方から見える地域性

エリア別での購入業態にはどのような違いがあるのでしょうか。

 

エリア別の購入業態は、全国平均と比較すると、関東・関西エリアでは1位が「ドラッグストア」、2位が「食品スーパー」でしたが、その一方、「中部」「九州(含沖縄)」「東北」「北海道」「中国」エリアの購入業態からは、全国展開するチェーンだけではなく、地場で展開するチェーンの特色がみえてきました。

たとえば、北海道エリア、東北エリアでは、「ドラッグストア」、特にツルハのシェアが圧倒的でした。北海道では1位の「ツルハ」が圧倒的なシェアを誇っており、2位「サッポロドラッグストアー」、3位の「サンドラッグ」と大きく差をつけています。

中部エリアは「ホームセンター」が8.3%で、全国平均の4.5%を、3.8ポイント上回っています。チェーン別では、1位が「カインズホーム」、2位が「ケーヨーデイツー」、3位が「コメリ」となっています

また、中国エリアでは「食品スーパー」が31.4%であり、全国平均24.0%で全国平均を7.4ポイント上回っています。特にイズミが運営する「ゆめタウン」や、イオングループの「ザ・ビック」などでの購入が目立ちました。

九州エリア「ディスカウントショップ」が24.4%で、全国平均8.9%を、15.5ポイント上回っています。圧倒的に多いチェーンは、九州が地盤の「ダイレックス」です。九州エリア(含沖縄)、中国・四国エリアを中心に展開しています(サンドラッグの子会社)。

ここまでの調査結果で、「ハミガキ粉」の購入業態にはエリア別で特色がありながらも、「ドラッグストア」もしくは、「食品スーパー」が購入先として選ばれていることがわかりました。

今回のまとめ

  • ハミガキ粉が購入されているのは 1位ドラッグストア、2位食品スーパー、3位ディスカウントストア
  • 九州はディスカウントが強い、北海道は特にツルハが強いなど売れ方に地域性がある

 

※POBデータとは

「マルチプルID-POS購買理由データPoint of BuyⓇ」データベース。ソフトブレーン・フィールド社が提供する全国の消費者から実際に購入/利用したレシートを収集し、ブランドカテゴリや利用サービス、実際の飲食店利用者ごとのレシート(利用証明として)を通して集計したマルチプルリテール購買データのデータベース。消費財カテゴリ68種類 約6,000ブランド、飲食利用カテゴリ10種類約200チェーンを網羅する。(2018年1月現在)

リンガーハットが「エブリボウル」で提案する食のダイバーシティとは

株式会社リンガーハットは「EVERY BOWL」(以下、エブリボウル)という新業態を立ち上げた。1号店は東京・広尾で2018年2月21日に、2号店はイオンモール宮崎に同3月16日、オープンした。

使用食材を限定しない日替わりメニュー

同店のメニューと提供方法は、オリジナルの「ヌードル」、具材がたっぷりと入った「メインソース」、季節の野菜でつくった「デリ」をお客さまが選んで、カウンターをはさんで対面する従業員がお客さまと会話をしながらそれらを1つのボウルに入れて提供するというものだ。基本料金は980円(税込、以下同)で、これらに追加メニューなどで1品180円が加算される。

ヌードルは「五穀リガトーニ」「国産小麦」「五穀」「グルテンフリー(プラス180円)」。メインソースは「とろけるモッツァレラマルゲリータ」「ジューシーガバオ」「タイ風グリーンカレー&パクチー」「サーモン&リコッタのレモンクリーム」「洋食屋さんの梅豚ミートソース」「きのこと生姜の麻婆豆腐(ヴィーガン)」など。デリは、季節の野菜を使用した日替わりのもので常時8品目をラインアップ。さらにオーガニックリーフサラダが添えられる。

サラダ専門店に似ているが、メニューの食事性が充実しており、これまでのフードサービスには存在しない業態である。特徴的なことは、メニューの使用食材が限定されていないということだ。つまり、天候要因等で使用食材の仕入れ値が高騰するというリスクが回避されている。さらに、メニューが日替わりであるから、同じお客さまが頻度高く利用する可能性がある。ヴィーガンをうたったメニューもあることから、ハラールを含めた食の多様性にも対応できる。ちなみに、デリのレシピは60品目が整っていて、店長ないしパートリーダーが店内の冷蔵庫にストックされた食材の状況をみながらメニューを決めて店内で調理する。

チェーンレストランとは真逆のコンセプト

エブリボウルが開発された背景について、ブランドマネージャーの川内辰雄氏が解説してくれた。
それによると、同店は当初ショッピングセンター(SC)のフードコート出店の業態として考えられたという。リンガーハットがフードコートでの本格展開を始めたのは2006年からだ。ショッピングセンター内での出店の契約は5~6年が一般的となっており、同社のフードコート店舗はこれから3期目の契約更新を続々と迎えることになる。そこで既にリンガーハットが出店しているSCに同社がもう1業態出店できる可能性があるということで新業態を考えることとなった。
そして川内氏が考えたことは、「チェーンレストランとは真逆のことをしよう」ということだった。

「チェーンレストランはレシピが固定化されていて、野菜をはじめとした使用食材は市場価格に左右されます。使用食材を固定せずにメニューをつくれば、この問題は解決します。そして、外国人にも来てもらえる、食の多様性にも対応し、当社が得意としてきた安全・安心・健康ということがぶれることなく、お客さまに毎日来てもらう、ということを考えていきました」

店内のオペレーションは、リンガーハットのノウハウを活かし、対面販売方法の新スタイルに合うレイアウトを考えた。現在も適宜配置換えを行っている。

「身体が求めている食べ物」が一目で分かる

店内のデザインは白を基調としたモノトーン。ロゴは濃い緑と淡い緑のバランスで構成しており、「安全・安心・ナチュラルをデザインに落とし込んだ」(川内氏)という。
料理の写真の通り、エブリボウルの盛り付けられた様子は円グラフに似ている。これによって、その時食べる食事や炭水化物などの比率が一目瞭然で、自分の身体が今求めているものを把握することができる。自分の食事を気遣う習慣を持つ人であれば、食事の内容を円グラフを描くように配列や配色を考えることができる。盛り付け方をフォトジェニックにすることによって見た目も楽しむことができる。

また、長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」では増やすことが困難なテイクアウトの拡大も想定した。これはかわいらしい風呂敷スタイルのピッキングによって注視効果を高めた。現状のテイクアウト比率はリンガーハットの2倍に相当する3割となっている。

1号店を広尾にしたのは、このエリアには各国の大使館が多く、食の多様性を含めてエブリボウルのコンセプトが浸透しやすいと考えたからだ。現状、利用客のうち外国人は3割を占め、そのうちの半分はヴィーガンを求めるという。

さて、食の多様性に対応することはこれからのフードサービス業にとってどのような意義があるか、川内氏はこう語る。
「それはビジネスチャンスです。しかしながらヴィーガン専門店にしてしまうとその限定されたコミュニティの中でビジネスをすることになる。重要なことは、食の多様性とは関係のない人も、ハラールもヴィーガンも一緒に食事ができるということです」

新メニューとして5月10日よりオリジナルヴィーガンソフトクリーム(380円)を導入した。このためにコクのあるある豆乳をメーカーと共同で開発した。筆者も食べたが、豆乳の香ばしさがありクオリティが高い。既にチョコレート味も開発しており、ヴィーガン対応のバラエティが増えていく。

店舗展開の計画は「2020年までに20店舗」という。しかしながら、出店を急ぐことなく、広尾でじっくりとブランドの浸透を図り、立地環境を変えるなどしながら店舗展開をしていく意向だ。

ハンズラボ、AOKI、カインズ、グッデイ、チームラボ、それぞれのデジタルシフト

2018年5月30日~6月1日に行われたAWS Summit Tokyo 2018。その中で行われた「流通業のデジタル変革にどう取り組むか」というセッションでは、ハンズラボ長谷川氏の元にIT活用に関して積極的な4社が集結。デジタルシフトへの不可避な流れのなか、いかにお客の買物体験の質の向上を実現するか、試行錯誤のさなかの本音を語った。(文・構成/MD NEXT編集長 鹿野恵子)

モデレーター:長谷川秀樹(ハンズラボ株式会社 代表取締役社長)
パネラー:照井則男(株式会社AOKIホールディングス 執行役員 情報システム本部 副本部長 兼 株式会社AOKI システム・ECデジタル推進本部 本部長)
土屋裕雅(株式会社カインズ 代表取締役社長)
柳瀬隆志(嘉穂無線ホールディングス株式会社 代表取締役社長)
堺大輔(チームラボ株式会社 取締役)
(※敬称略)

 

長谷川:今日はAWS Summitということで、エンジニアの集まりだと思うんですが、「俺、流通業つまり、業務や売場のことが少しわかるよ」という方は手を挙げてもらえますか?

ハンズラボ株式会社 代表取締役社長 長谷川秀樹氏

(会場:1/4ぐらいが挙手)

長谷川:では、「俺、流通業のことはわからない。エンジニアでプログラミングのことしかわかりませーん」という人は?

(会場:1/3ぐらいが挙手)

長谷川:残念ながら今手を挙げた方は、今日の話は全くわからないと思います(笑)。

(会場:爆笑)

長谷川:見てわかるように、(登壇者は)社長とかですからね。細かいことがわかるわけがないから。今日はもうちょっとおおざっぱな、経営の話をしていきたいと思います。ではAOKIの照井さんからお願いします。

株式会社AOKIホールディングス 執行役員 情報システム本部 副本部長 兼 株式会社AOKI システム・ECデジタル推進本部 本部長 照井則男氏

照井:AOKIホールディングス(HD)の照井です。よろしくお願いします。私どもの会社はファッション事業とエンターテインメント事業、それから結婚式場事業と、3つの事業で形成されています。グループ売上高は2,000億円弱。6割ぐらいがファッションで、アニヴェルセルというブランドで経営している結婚式場が14%弱ぐらい。それとエンターテインメント事業として、コートダジュールというカラオケと、複合カフェ、いわゆるネットカフェ業態(快活CLUB)があります。

私は大学卒業後からずっとチェーンストアに携わっています。ファミリーレストランに就職したのがこの世界に入ってくるきっかけで、すかいらーくをはじめ、マクドナルド、スターバックス、そして現在のAOKI。すべてチェーンビジネスを展開している企業です。このことはとても運がいいことだったと思っています。

現在力が入っている趣味は山です。今週末も斑尾に行ってきます。どちらかというと、アウトドアで遊ぶのが好きな人間です。

長谷川:続いてカインズ土屋さん、お願いいたします。

株式会社カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅氏

土屋:皆さんこんにちは。カインズ社長の土屋でございます。まず会社の説明をさせていただきます。カインズはホームセンターで、全国に210店舗を出店しています。売上は約4,000億円強。カインズはベイシアグループという小売業のグループに入っています。ベイシアグループは、まずスーパーマーケットやショッピングセンターを138店舗経営しているベイシアという会社がございます。また、フランチャイズのワークマンという作業着の専門店チェーンを約800店舗出店しています。これらの企業体を合わせてベイシアグループと言っておりまして、合計の売上高は約8,500億円強、店舗数は約1,800店舗です。ベイシアグループは今から約60年前に私の父が創業しました。

私は野村證券を経て、ベイシアの前身である「いせや」に入社しました。カインズの社長になったのが2002年。今期で17期目になります。そのうち10年間ほどはSPA体制づくりということで、製造小売業への転換を図ってまいりました。10年間でいろいろなインフラや設備を整えたのです。

なぜ僕がここに呼ばれのたか。きっかけは2つあると思います。1つは、昨年末にラスベガスで開催されたAWS re:Inventというイベントに参加させてもらったこと。ものすごい熱量で、感銘を受けて帰ってきました。もう1つは、今年になってから長谷川さんが主催している「IT酒場放浪記」出演させていただいたということです。僕は長谷川さんや「IT酒場放浪記」を非常に高く評価していまして、そのあたりのお話も今日はできればと思っています。

趣味は大学の頃から続けている狂言です。野村萬斎さんのお父さんの野村万作さんが私の先生で、30年ぐらい教えていただいています。

柳瀬:嘉穂無線HDの柳瀬と申します。よろしくお願いします。嘉穂無線HDというのは耳慣れない会社ではないかと思いますが、もともとは私の祖父が1949年に創業した電気屋です。現在は3つの事業体があります。まずグッデイというホームセンター、そして電子工作キットの製造販売を行うエレキット、そして、昨年4月にはカホエンタープライズという、クラウドなどを使って企業のデータ分析を行う会社を立ち上げました。現在のメーン事業のグッデイは、北部九州を中心に66店舗を展開していて、創業1978年でちょうど今年で40周年になります。売上は約320億円です。

嘉穂無線ホールディングス株式会社 代表取締役社長 柳瀬隆志氏

私自身は、大学時代はボート部に所属していて、月曜日の夜に合宿所に入って、日曜日まで毎日練習をする、1日2回もしくは3回練習をする。練習をして食べて寝る…というように、勉強せずにボートばかりして過ごしましました。2000年に三井物産という商社に入りまして、食料本部というところで外食さんの冷凍ポテトの輸入に関わり、シアトルのポテト畑まで行って買い付けてくるようなことをしました。2008年、ちょうど10年前ですが、家業の嘉穂無線ホールディングスに入社しまして、2年前の6月に社長に就任しています。

趣味はマラソンです。僕はTableauというツールをよく使っていて、このスライドでは福岡マラソンの過去3回のタイムを可視化してみました(笑)。2014年が4時間15分、2015年は自己ワーストで4時間54分。さすがにこれはいかんと思って、月200キロぐらい走って2016年は1時間ぐらい早くなって3時間51分という自己ベストを出しています。

長谷川:ご自分でTableauをお使いになられるんですか?部下に「やれ」っていうんじゃなくて(笑)。

柳瀬:自分でやっています(笑)。

(会場:笑)

長谷川:さて次は僕ですね。東急ハンズの長谷川です。東急ハンズは総合小売業で売上高は約964億円。我々の会社でちょっと胸を張れるのが、100%AWSという点です。1つもオンプレサーバーが無い状態を達成したのがポイントかなと思っています。
では次、チームラボの堺さんお願いします。

堺:え、もう次ですか(笑)。

チームラボ株式会社 取締役 堺大輔氏

堺:チームラボの堺と申します。チームラボは、今画面に表示されていますが、子供がお絵かきした絵が泳ぎだすとか、デジタルアートの会社として皆さんご存知かと思います。6月にはお台場に1万平米ぐらいの美術館を作ります。チームラボは創業2001年に創業しまして、17年間やっています。実はチームラボにはいろいろなお客様、特に小売業さんが多いのですが…のソリューションを支えるというもう一つの顔があります。ハンズさんもずっとやらせていただいています。

最近ではりそな銀行さんのお仕事をしました。UX/UIという言葉をよく聞きますが、何をユーザーが本当に求めているのかを考えてやっていく。銀行さんのアプリはどうしてもボタンばかり、バナーばかりのように見えるのですが、そこをゼロからリデザインしていくということをしました。

少し変わった例では、JRウォータービジネスさんの自販機があります(※編集部注:acure pass/プリで購入した商品を、通勤や通学で利用する駅の自販機で受け取れる新しいサービス・プラットフォーム。アプリを用いたまとめ買い・定期購入でお得に自販機を利用することができる)。

WEBの業界であれば、何人がどこをクリックして、誰がサイトに訪問していてということは当たり前のようにわかりますが、自動販売機の世界はまだまだデジタル化されていなくて、そういうところを変えていこうということで「イノベーション自販機」というお題から、アプリでドリンクを購入できる自動販売機をデザインして、アプリも自販機そのものも我々が作りました。ユーザーさんも、安く買えたりポイントがたまったりしてうれしい。このように体験全体を設計するということをやっています。今日はちょっとベンダー側に近い立場なのですが、そういう観点で小売りの話ができればと思っています。

長谷川:最後の話は流通っぽかったですね。ありがとうございます。

オンザテーブルで情報交換を行う流れができつつある

長谷川:今日は、流通業のデジタル変革にどう取り組むかというテーマでお話をしたいと思います。その前に、「システムの定義」を整理してみましょう。

長谷川:ガートナーが定義した「モード1」「モード2」という言葉があります。「モード1」は「System of Record」。流通業では売上管理システムや在庫管理システムのような伝票処理のシステムを指します。会計システムをはじめとして、四則演算と文字と数字で構成されているものです。「モード2」は、いわゆるAIとか画像解析とか、ちょっとドラえもんっぽい、素人が考えるコンピュータらしいものという定義で、日本はモード1がクラウド化する前にモード2がはじまってしまったので、モード2から着手した会社が多いというような分析もあります。今日は、デジタルで何かしようと考えたとき、経営者がモード1、モード2どちらの言葉でしゃべるのかということも含めて、聞いていきたいと思います。

たとえば、モード1は売上には寄与しないから意味がないという方もいらっしゃいます。逆にモード2はふわふわしてわからんやんけという経営者もいる。正解はありませんので、ご自身の経験やお考え、未来はこうなるからうちはこう持っていきたいとというお話。何と言っても皆さん社長ですから、社長が「未来はこっちに行くんだ」と言えば、社員は泣く泣くついていくしかありません(笑)。

まず1つ目はデジタルを使って効果があった事例を教えていただきたいと思います。挙手制で行きたいと思っています。

(挙手する土屋氏)

長谷川:お、先輩からですか!?意外ですね。

土屋:先に言っておいた方がいいかと思いまして(笑)。モード1の話なのですが、先ほども申し上げた通り、製造小売りは海外、特に中国で製造したものを、過不足なく日本に届けて、過不足なく店に届けるということが必要です。そういうシステムがないときは、多すぎたり少なすぎたりということを繰り返していました。ですが、システム開発をすることで、すぐには治りませんでしたが、かなり改善したということはありました。
これはとてもいいことなのですが、一方で非常にコストがかかりまして、そのコストが高いのか安いのか(よくわからなかった)…という面もありました。
僕から見ると(コストが)すごくかかっているように思えて、経営者目線からみると、ちょっとないかな…と。僕は、何年かこれについては文句を言い続けていたことがありまして(笑)。

長谷川:ベンダーの名前言っちゃいましょうか。冗談ですけど(笑)。

(会場:笑)

土屋:(笑)。そのような思いをずっと持ち続けていたのですが、長谷川さんが素晴らしいと思っているのは、こういう会で「(実際にシステムを)使ったときにここのところはよかった、悪かった」というような、情報共有をしようという流れを作られた。これは通常は相対でやるようなことなんですが、オンザテーブルにしようとなさっている。これは素晴らしいことだなと思っていて、高く評価しています。

「酒場放浪記」も皆さんにもぜひお読みいたきたいのですが、私があれに出演したことによって、この前ガートナー日本の社長さんがわざわざお見えになられてですね…。

長谷川:えっと「酒場放浪記」というのは「IT酒場放浪記」というブログメディアで、僕がベンチャーの社長とか経営者と話している対談のシリーズです。本当に酒を飲んでいるだけの話ではありません(笑)。

土屋:ガートナーの社長さんが、「酒場放浪記を見ました」と言っていらっしゃったんですよ。これまでいろいろな業界誌に出させてもらったのですが、この業界の人はあまりそういうものは見ていないのか、あまりそのことについては触れられないんですよね。でも「酒場放浪記」を見て、とおっしゃられる方がいた。そういう人にアプローチできる方法を発見されたのは本当に素晴らしい。

長谷川:それは「あんな冗談みたいな対談によう出たよな」という意味で言われたんじゃないですか(笑)。

土屋:そうじゃないと思いますけどね(笑)。

カルチャーの変革から生まれたAOKIの新ビジネス

長谷川:では次に照井さんお願いします。

照井:先ほどお話した通り、当社は売上の6割がファッション事業になります。ここではどのような販促活動をしていたのかというと、ダイレクトメール、チラシ、テレビなど、全くデジタルとは遠い世界で事業が成り立っていたんです。けれども、私が2年半前からAOKIで仕掛けていったのは、いかにチラシやダイレクトメールに使っている膨大な販促費を(デジタルに)シフトすることができるのかということです。

それで何をやったのかというと、ひとつはオーナーを含めた経営陣をシリコンバレーに連れて行って、Google やfacebookでプレゼンテーションをしていただきました。もちろんGoogle Japanのメンバーに一緒に資料を作ってもらったので、Google Japanでもプレゼンテーションをしてもらうことはできるのですが、敢えてシリコンバレーまで連れて行ったと。その結果会社のカルチャーが変わってきたというのが今の状況です。

実は当社では「suitbox」という新事業を5月に立ち上げました。これはスーツレンタルのサブスクリプションモデルです。

カルチャーの変革を遂げ、若いメンバーを選定し、プロジェクトを立ち上げました。その事業のスタート時はクラウドファウンディングを行い、海外のデジタルで成功しているファッション事業…Suitsupplyだったり、Bonobosだったり…を参考にしました。

我々はまだアナログの世界が中心ですが、今回デジタルを使って効果があった事例という意味では、suitboxという新しい商売を挙げることができると思います。

長谷川:新規事業をはじめようとすると既存事業に関わる人が足を引っ張ってくることもありうるわけですよね。それを、まず経営陣をシリコンバレーに連れて行って、体験してもらって、「おお、こんなに進んでいる、俺らもやろう!」とマインドチェンジを促し、事業をはじめられたという見事な実例だと思います。

愚直にデータ分析をしたら粗利が改善した

柳瀬:私が10年前に今の会社に入って一番びっくりしたのが、当時はそれぞれの従業員にメールアドレスがなくて、会社のウェブサイトもない。やりとりも電話とFAXでITは使っていませんでした。そこでまずはインフラを整備しました。AWSは2015年ぐらいから使い始めたのですが、AWS Redshiftに溜まっていたPOSデータを入れて、それにTableauをつないで分析をはじめてみたところ、粗利を改善することができたんです。これはモード1の話ですね。それまでは帳票やデータの出力を担当者に依頼して、出てくるまでに1週間、2週間かかって、ようやく出てきた数字を見て判断をしていたのですが、そのサイクルが秒単位になった。しかも自分で操作して数字が返ってくる。そのことにより、より深い分析ができるようになりました。実は私はデータの可視化やビッグデータの活用というものを眉唾ものと思っていたのですが、本当に効果があると実感したんです。
また、私がうちの社員に「こんなことできるようになったよ」と伝えると、「これすごい便利ですね!」とすごく喜んでくれるのもうれしいです。

長谷川:それは柳瀬さんが自分でデータベース設計からTableauから全部やられてるわけですよね…。絶対部下から嫌がられていますよ(笑)。

(会場:笑)

長谷川:僕もデータは過去のものだから分析しても意味がないと思っていたのですが、そんなことはありません。たとえば、売上が下がったときにデータを見ていないと「雨が降ったから」とか「競合がどうの」というんですが、ちゃんとデータを見ていれば「いやそれは、我々のオペレーションの問題で、価格がこうで、こうで、こうだから売上が下がった。だってデータがそう言っている。雨が降ったら全体の売上高が悪くなるのに、データを見たら、売上げが上がっているカテゴリも下がっているカテゴリもある。下がっているのは価格をうまくコントロールせずにやったからだ」と、バイヤーに具体的に説明することができるようになるんです。

用語がわかりにくくて経営者が判断できないAWS

長谷川:では次の質問は「AWSについてどう思いますか」というものです。ここにいるエンジニアの方をはじめとして「俺はAWSを使いたいんだけど経営がわかってくれへん」「どのように言えば経営層に響くんやろか」と思っている方がたくさんいるのではないかと思います。経営者として、AWSがどうだったら積極的に導入したいと思うか。どのように風に持っていけば決裁書にハンコを押しやすいか、そういうポイントみたいなのがあれば教えていただきたいと思います。

堺:AWSですか……むちゃくちゃうちは使っていますからね…安いですよね。

長谷川:安い。コスト下がりますよと。

堺:ベースには、コストが下がりますよというのがありますよね。
エンジニアレベルで言っても、うちにもサーバサイドエンジニアがたくさんいたんですが、サーバサイドエンジニアの質も変わってきています。たくさん存在しているマイクロサービスみたいなものを使ってどうするか、という事例が増えています。

長谷川:安いと経営的には導入しやすいし、エンジニアとしてもマイクロサービスとかAWSのサービスを勉強して質が上がってきている、ということですね。他の経営者の方は何かありますか?

照井:コストにも期待はしていますが、私としては2の次に考えています。もちろん安くなってほしいというのはありますが、経営陣の中に出てきているのは「Amazonの何かを使わなければならない」という空気感です。
また、事業をやっている中で、新しいシステムがタケノコのようににょきにょきできていて、今当社では結果的にデータセンターを3か所も使っています。これをAWSを使うことによって、正規化していくことができるのではないかと考えています。

柳瀬:私のところとカインズさんは、10倍以上規模が違うのですが、そのカインズさんができるIT投資というのと、私どものできるIT投資は単純計算でも10倍違います。でも、AWSのいいところは、僕らぐらいの規模でもやろうと思えばできるということです。言い方は難しいのですが、経営的にもそこまでコストとしては高くないと思える値段でしたので、それはよかったのかなと。

それと、どうなればAWSがよりよくなるのかというと、用語が専門的なので、普通の経営者ではわからないのではないかな…とは思います。いきなり「クラウドでマイグレーションしましょう」と言われてもほとんどの人はわけがわからない。経営者側は判断に至らないケースが多いのではないでしょうか。用語の翻訳や、わかりやすい説明は大切かなと思います。

長谷川:なるほど。今日のサミット(の他のセッション)も難しい話ばかりしていますものね。

(会場:笑いとざわつき)

長谷川:土屋さんは何かありますか?

土屋:やはり小売業ですので、「Amazon Effect」も気になります。小売業はamazon.com(物販事業)があるためAWSを選択しないという企業も多い。日本だけではなくて、世界的にも多いのではないでしょうか。
僕の立場からすると、インフラですから、インフラとして非常に有効だということが他社と比べて明らかにわかれば、使わざるを得ないと思っています。少なくともライバルであるamazon.comがあるから、検討してはいけない…となってはいけないのかなと思っています。

長谷川:ウォルマートになってはいけない、とおっしゃってるんですね。

(会場:失笑)

テクノロジーは道具に過ぎない。大事なのは「何がしたいか」

長谷川:では3つ目です。Amazon Effectをどうとらえて、これから皆さんのところで、どのようなことをやっていくか。時間があと1分10秒しかないんですけど、好き放題しゃべってください。

照井:脅威を感じるというよりも、私が今思っているのは、小売業というはお客様に対してどう表現するかということで、新しい施策を打った瞬間にそれが競合にバレてしまうものなのですね。最近うちの会社の中で「モデリング」という言葉を使っていまして、要はまねる、パクるということなのですが、Amazonを見て脅威を感じるというよりも、(Amazonの施策も)こういう神経で見ていけば、自分たちの事業にも展開できるのではないかなと考えています。

長谷川:TTPですね。「テッテイテキニパクル」ってやつですね。

(会場:失笑)

柳瀬:「ITにできること」「人間しかできなかったこと」という軸があったとすると、どんどん人間にしかできないことが減ってきている感じがします。でも我々の本業はリアルなお店なので、リアルな店舗で人間しかできないことはなんなのかという、「ITと人間の境界線」がどこなのかを意識して「これはITがやる」「これは人間がやる」ということを決めて判断することがすごく大事になってきていると思います。

今までうちのホームセンターでは、お客様が店員に「〇〇はどこで売っていますか?」と質問したときに、店員がすべて商品の場所を記憶していて「ここにあります」とご案内するようなことが多かったのですが、そういうのはITで代替できるのかもしれません。
どこに境界線が来ているのかが、半年や1年の単位で変わっているので、その情報は小売業をやっている立場としては知っていなければならないのかなと考えています。

堺:僕らはお客様からAIを使いたいとか、画像処理をしたいとか、合成処理をしてほしいとか、いろいろなご相談をもらうのですが、大切なのはそこではないと思うのです。技術を知ることはすごく重要ですが、小売業の方々には、お客様にどのような体験をしていただきたいかとか、自分たちがどのようにやりたいかを考えてていただくといいのではないでしょうか?裏側のテクノロジーはツールにすぎませんし、どんどん変化していきます。クラウドのいいところは持たなくてもいいところですので、そういうものを使っていけばいいのだと思います。

土屋:私どもは広島などで体験型の売場というのを実験しているんです(※編集部注:カインズ広島LECT店)。体験型の売場を作るためには、そこの人手も必要なので、人手をかけなくてもいいところをなるべく機械化するとか、別のところで代替するということが必要なのではないかと思います。小売業は特に人手不足で悩んでいるところが大きいので。

長谷川:品出しを機械化したいですよね。品出し作業は誰がやっても付加価値はないので。堺さん、品出しロボット作ってくださいよ。

堺:つ、作りますか…(笑)。

長谷川:店舗で人間がやっている、発注、品出し、レジ、接客という作業のうち、発注はどんどん自動発注になっていますし、レジももしかしたらセルフレジやAmazon GOのようなものになるのかもしれません。残る品出しと接客というところを、どこからどこまで機械にやらせて、どこからどこまで人間がやるのか、…そういうことを今後は考えていかなければならないのかなと思いました。

駆け足でしたがそろそろ終わりたいと思います。今日はありがとうございました。まとめの言葉は特にないのですが、経営者がITをどう考えているのかということで、少しでも皆さんのご参考になればと思います。今日はありがとうございました。

(談・文責:編集部)