2018年ドラッグストア上場14社決算から学ぶ(1)

同じ営業利益率4%でも稼ぎ方が全く違うウエルシアとコスモス

月刊マーチャンダイジングでは、毎年10月号で上場ドラッグストア企業の決算を特集しています。小売企業の経営数値はさまざまな見方がありますが、今回はその特集の中から売上総利益率(粗利益率)と販管費率に着目。「企業の営業方針」を分析する方法について学びます。

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上の図表は「売上高」と「粗利益高」「販管費」「営業利益高」の関係を整理したものです。

「売上総利益率」は「粗利益率」のことを指します。売上総利益はひとつひとつの取引で稼いだ粗利益高の合計で、販売価格と仕入価格のバランスを表します。販売価格の変化は、同業他社の新規参入による競争激化や、技術革新による新製品の登場などが原因になります。

小売業においては、競争激化への対応や、プライベートブランド(PB)の開発による粗利益率の引き上げなどがこれに当たります。

「販管費」とは、「販売費および一般管理費」のことです。「販売費」とは、販売活動によって発生する費用です。これには広告宣伝費や店舗従業員の給与・手当、支払手数料、運送費などが含まれます。「一般管理費」は管理活動によって発生する費用です。本部の水道光熱費、家賃、本部職員の給与・手当、事務用品など消耗品も含まれます。売上高に占める販管費の割合を販管費率といいます。

売上総利益率は高ければいいというわけではありませんし、販管費も低ければ低いほどよいというわけではありません。販管費が高くても、接客重視で高粗利率の健康食品や化粧品を推奨販売するのが得意なチェーンもあれば、低粗利率でも食品などの商品を低販管費率で人手をかけずに大量に販売するのが得意なチェーンもあります。ただ、いずれの営業戦略を取るにせよ、売上総利益率と販管費の差である営業利益率は最大化させるべきでしょう。

上の図表はドラッグストア上場企業14社が2018年に発表した決算短信から売上総利益率(粗利益率)と販管費率をまとめたものです。

棒グラフの上の数字は売上総利益率、棒グラフの下の数字は販管費率。その差である棒の長さは営業利益率を表します。右から左へ売上総利益率が高い順に並んでいます。

このグラフを見てみると(1)売上総利益・販管費ともに高めの企業と、(2)売上総利益・販管費ともに低めに抑えている企業、(3)そのどちらでもない企業に分類できるのがわかります。

たとえば、(1)にはマツモトキヨシHDや、ウエルシアHDが該当します。両社とも売上総利益率がともに30%代と高い一方で、販管費率はマツモトキヨシHDが24.3%、ウエルシアHDが26.1%です。その差である営業利益率は、マツモトキヨシHDが6.0%、ウエルシアHDが4.1%になっています。

一方、コスモス薬品は(2)です。売上総利益率は19.8%とあまり高くありません。そのかわり、販管費率も15.7%と低く抑えていて、営業利益率も4.1%となっています。

つまり、ウエルシアHDもコスモス薬品も営業利益率は同じ4%台ですが、ウエルシアは粗利益率、販管費率ともに高い営業戦略で(おそらく化粧品などを接客で販売することで)稼ぎ出した4%であり、コスモスは低粗利率でありながら販管費も低めにして(おそらく高回転の食品をセルフで販売して)で稼ぎ出した4%である、と分析することができるのです。

14社中営業利益率が6.4%と最も高いサンドラッグは、売上総利益率が25.0%、販管費率は18.6%。売上総利益率はさほど高くはないものの、販管費率を非常に低く抑えているのが特徴です。

(1)、(2)いずれの経営方針をとっていたとしても、販管費をいかに適切な範囲に抑えるかが営業利益にとって重要となってきます。そして販管費の中で大きな割合を占めるのは人件費です。ですが、昨今の人不足も相まって、人件費をこれ以上下げることは難しい状況になっています。

小売業においては、いかに人の生産性を向上させるための仕組みをつくり、販管費を下げていくかが、どの企業にとっても重要なポイントになっているということがわかります。