内製化進めるダイソー。変わる情報システム部の役割

企業が情報システムを活用する際、開発ベンダーとどうかかわっていくかは大きな課題だ。100円ショップ最大手のダイソーは、5,300店舗、7万アイテムもの商品点数があり、巨大なデータ量を取り扱う小売業だが、それまで外部ベンダーに外注していた社内システム構築を、2014年頃から内製に切り替えることに成功した。現在はAWSを活用し、商品管理システムをはじめとする情報システムの自社開発を行っている。同社情報システム部課長の丸本健二郎氏に、内製に至る経緯と同社が目指す次の一手を聞いた。(取材:MD NEXT編集長/鹿野恵子)

157億件のデータをどう処理するか

ダイソーは、売上高4,548億円、店舗数5,270店、7万アイテムの商品を取り扱い、26カ国の国と地域に展開する国内最大手の100円ショップだ(2018年3月末)。同社が内製&AWS活用に舵を切ったきっかけは、2014年に開始した自動発注システムの開発にあった。

売れ筋商品の適切な発注と在庫の維持は店舗の最重要業務の一つだが、様々な影響を加味して高度な判断の上に行う必要がある。人材不足の昨今、店舗業務の負担を軽減するために、ダイソーでは自動発注システムの導入を検討することになった。

そこで、50店舗ほどでAIを活用した自動発注システムの実験を行ったところ、欠品率の減少と反比例して、売上が上がる効果を実証することができた。しかし、いざ全店導入のために試算したところ、現状のシステム構成では全体の1割にも満たない200店舗分の処理で限界がくることが分かったのだ。自動発注システムが取り扱うデータ量は、157億件(店舗数5,000店×商品数7万点×30日間分の需要予測×150%の拡張余地 ※開発当時)にものぼる。

もともと大手外資データベース企業にいた丸本さんは、それまでも相当なデータ量を扱うシステムに携わっているという自負があったが、既存のデータベースでは全く歯が立たないデータ量だったという。さらに、ダイソーの店舗は全世界に展開されているため、日本の夜間にあたる時間帯にデータ処理をまとめて行うこともできない。

そこで丸本さんたちは採用技術から変更を検討することにした。おりしもAWSが提供するデータウェアハウス「Amazon Redshift」がアメリカで発表されたばかりの時期だったため、このサービスの検証を実施。想定以上のハイパフォーマンスな処理を実現することができたため、Redshiftの採用を決断した。

ダイソー 情報システム部 システム開発1課 課長 丸本健二郎さん

今後も同社は店舗数を拡大する見込みで、当然取り扱うデータ量も増加することが予測される。拡張性が重視される状況のなか、サーバのCPUやメモリなどハードウェアを高性能にして処理性能を上げる「スケールアップ型」ではなく、サーバの数を増やして性能を上げる「スケールアウト型」のサービスとしてもAWSは最適だった。

自動発注システム開発の反省がきっかけで内製化目指す

ただ、この自動発注システム開発には大きな反省もあった。開発の当初は変化に強いシステムを志向し「マイクロサービス(※1)」を目指していたのだが、外部のベンダーに依頼して開発し、出来上がったものがいわゆる「大きなシステム」で、当初のコンセプトとは違った完成型になってしまったのだ。

(※1:マイクロサービス…従来のシステムがある目的に対して「大きな一つのシステム」で設計されているのに対し、たくさんの小さなシステムを連携させて一つの目的を実現するというもの。従来型のシステム設計は、開発の規模が大きくなりがちで、さらに1か所を修正すると全体を修正しなければならなくなる。一方、このマイクロサービス型の設計であれば開発も変更も、比較的容易になる)

「そこで反省して、外注するより自分たちで作ろうと方針を転換しました」(丸本さん)同社は、変化に強いシステムを構築するために、内製に挑戦することにした。

真っ先に着手した「社内システムの棚卸」

丸本さんはもともと外資系のデータベース企業の出身だ。内製化に向けて動くことができたのは、彼の技術者という出自も関係している。さらに外部の開発ベンダーからユーザー企業側に転職したことで、いくつもの課題に気が付いたという。

ダイソーの店頭では膨大な商品が取り扱われている(写真はイメージです)

「ユーザーの側に立ってみて、はじめてベンダーの力の強さに気が付きました。ユーザー側の企業の情報システム担当も、技術のことや業務ロジックのことがよくわからないまま発注をしていることが少なくありません。ベンダー側も利益を取りに来ているので、ユーザー企業側が裏の構造まで理解していないと、いいように作られてしまうこともあります。このままでは将来的に行き詰ると感じていました」

転職した際、そんな風に感じた丸本さんが2012年にダイソーで真っ先に着手したのが、会社のシステムの棚卸だった。それまでは社内にシステム一覧も存在せず、誰に何を聞いたらよいのかわからない状態。システム社内一覧を作成して、システムの棚卸を行うとともに、関係性を見えるようにするため全体構成図を作成。全システムをレビューした。

このような作業を行うことで、それまでベンダーに丸投げしていた情報システムのなかで雑に作られている部分や、似通った機能が重複して作られている部分も見えてきたという。サーバーが壊れたときのデータ担保の仕組みができていないようなシステムも発見した。情報システム部の担当者は納品されたものをチェックしたつもりになっていたものの、トラブル時の対応の評価まではできていなかったのだ。これはシステム品質の定義が十分になされていないことが原因であると判断し、ダイソーのシステム品質の定義を再構築した。

「kintone」で商品管理システムを開発。統制が効く運用へ

次に着手したのが商品管理システムの開発である。繰り返しになるが、同社の取扱商品は約7万アイテム。新商品は毎月約800アイテムにのぼる。同社はその大量のアイテムや商談の仕組みをエクセルで管理、運用していたのだが、単一エクセルでは集計ができず、誰がどの商談をしているのか把握できなかったため、商品計画が煩雑な状態だった。

そこで同社は、商品管理システムをサイボウズが提供するデータベース型ビジネスアプリ作成ツール「kintone」を使って新規構築することにした。商品の状況や、作業の優先順位などが一目瞭然になり、承認フローなども構築。業務の見える化が進み、膨大なアイテム数を取り扱いつつも、統制が取れるようになったという。しかし、商品管理システムの構築後には開発前から想定していた課題が表面化した。

「狙ったことはできるようになったのですが、kintoneというプラットフォームでもともと我々の膨大なデータ量をレスポンスよく捌くのは難しいと考えていました。実際、業務の流れはシステム化できたのですが、レスポンスが悪く、業務メンバーからは不満の声が大きくなってきました。そこで、商品管理の仕組みを運用に載せることに成功したあと、商品計画を含めたトータルシステムの構築に着手することになりました」(丸本さん)。

このことからも学びがあったと丸本さんは言う。

小売業界は、他業界に比べてまだまだシステム化されていない業務が多く、ゼロからシステムを作りあげる必要があります。ただ、はじめからフルスクラッチ(※2)で内製をしてしまうと、コストも手間も想像以上にかかるものです。プロトタイプを作り、それをたたき台にしてシステムを作れば想定外の工数増加を防ぐことができます」(丸本さん)

(※2:情報システム開発時に、既存のプログラムを使わず新しく作成することをスクラッチ開発というが、そのなかでも既存のものをまったく使っていないことを強調するときはフルスクラッチ開発という)

次の一手はAI活用による「店内作業の効率化」

今後丸本さんがダイソーで挑戦したいと考えているのはAIの活用だ。

活用分野としては(1)棚卸、(2)店舗従業員の教育・サポート、(3)万引き検知、(4)顧客分析、(5)在庫最適化の5つを検討している。

まず小売業の作業のなかで大きな工数を割かざるを得ない「棚卸」業務の自動化だ。小売業界のなかではRFIDの活用研究も進んでいるが、100円ショップの収益構造ではコストが1枚当たり1円以下にならないと活用は難しい。カメラなどで入力した画像をAIで分析して、棚卸作業の負担を軽減できないかと考えている。

店舗従業員の教育やサポートにもAIの導入を検討している。例えばダイソーでは業務上の不明点に回答するコールセンターを設置しているが、このコールセンター業務をスマートスピーカーのような音声認識AIで代替することはできないかと考えている。顧客分析AIは、既に製品として販売されているものもあるが、顧客の買い回り状況などを分析することで、次の打ち手を戦略的に検討することが可能になるだろう。在庫最適化AIではチャンスロスの発見や過剰在庫の検出・対応、滞留在庫の廃止などを目標とする。

なお、販促や売り方に関わる部分など、100円均一という業態の営業施策に関わる分野へのAI導入はまだ検討していない。まずは店舗作業の効率化などの分野でAIを導入していきたい考えだ。

長期的な視点で全体最適を目指せる情報システム部の役割

丸本さんがダイソーへの転職を決めたのは、地元企業であったこともさることながら、長期的な視点でシステムに関わりたいと考えたのがきっかけだった。前職ではプロジェクトが終われば数カ月程度でお客様との関係も終わってしまう。ユーザー企業に入って、もっと長くシステムに関わり、本質的な部分に踏み込みたいとという思いが芽生えた。

ユーザー企業の情報システム部は、自社のことをとことん考えて、長期的な視点に立ってシステムをつくるのが役割です。できたシステムの品質が低ければ、社内からの批判を浴びることにもなります。一方の開発ベンダーさんは、どんなによい会社さんでも、プロジェクト終了後のことまで責任を持つことはできません」(丸本さん)

内製化を目指したことで、同社の情報システム部はその仕事が大きく変わった。それまでは、ベンダーにざっくりと「こんなシステムを作りたい」と伝え、提案に対し見積もりを依頼するのが仕事だった。短期的な視野で、いろいろな開発ベンダーに依頼するので、どうしてもシステムがつぎはぎになってしまう。しかし今は自分たちも業務部門と一緒に要件定義をして、ときにプログラムを書く。常に考えているのは「作ったシステムを業務部門にどれだけ使ってもらうことができるか」。会社の業務の全体を見て、全体最適を目指してシステムをつくる。大きな変化である。

一方、業務部門にシステムについての興味を持ってもらうのはとても難しいことだとも丸本さんは感じている。興味がない人は情報システム部に相談しようともせず「いい感じにしておいて」でコミュニケーションが終わってしまうことも少なくない。

だが、規模が拡大したチェーンストアが、新しいビジネスを展開しようとしたり、生産性向上に取り組もうとするとき、情報システムの支え無しにそれを実現することは不可能だ。イニシアティブをもって事業を展開するためには、業務部門と情報システム部がお互いに理解しあおうとする企業文化の醸成が必須なのかもしれない。

また、内製チームを運営するためには、技術のバックグラウンドを持つ開発者の確保が最大の課題だ。丸本さんは、現在AWSユーザーとして、自社のシステム開発への取り組みをさまざまなセミナーなどで発表している。広島という地方で開発者を集めるのがその目的の一つだ。その活動が功を奏し、同社には開発者が集まりつつあるという。現在は約20名ほどの規模で内製チームを運営している。最先端の開発をしているダイソーという企業が広島にあることをアピールし続け、優秀な人材を獲得していきたいと丸本さんは考えている。

ウエルシア、ツルハ…トップ企業は2,000店、売上高7,000億円も視野に入るDgSチェーン

月刊マーチャンダイジングでは、毎年10月号で上場ドラッグストア企業の決算を特集しています。今回は2018年の売上高ランキングと、2019年の予想売上高ランキングの状況から、ドラッグストア業界の将来の展望について学びます。

上の図表はDgS上場企業各社が2018年に発表した決算の実績です。

売上高に関しては、1位のウエルシアHDが6,952億円と、あと一歩で7,000億円突破の勢いです。ウエルシアHDは2017年6月に丸大サクラヰ薬局を子会社化、2018年3月に一本堂を子会社化したことによる成長が大きいと見られます。

丸大サクラヰ薬局は、青森県でDgS64店、調剤薬局を8店展開。2016年9月期の売上高は207億円です。一本堂は調剤併設型1店舗を含むDgS42店を運営。2017年9月期の売上高は約91億円。ウエルシアHDはこの買収によって約300億円の売上高と店舗網を得たことになります。

売上高第2位はツルハHDの6,732億円です。前年より約1,000億円上積みしています。ツルハHDの売上高には、2017年9月付で子会社化した杏林堂薬局の78店舗分も含まれています。

昨年売上高3位だったマツモトキヨシHDは、サンドラッグに抜かれて4位になり、5位のコスモス薬品が約10億円差と肉薄しています。ドラッグストアで5000億円以上の企業は、前年に引き続き5社を数えています。

1,000億円未満はGenky DrugStores、サツドラHD、薬王堂です。Genky DrugStoresは2019年の予想売上高を1,100億円としていて、大量出店により売上の桁を上げる構えのようです。

売上高伸長率(前期比)は前期から高速出店を継続するクスリのアオキHDが17.2%でナンバーワン。2桁伸長はツルハHDが16.7%、GenkyDrugStoresが13.8%、ウエルシアHD11.6%、コスモス薬品11.0%、薬王堂10.9%となっています。

2018年決算では、大多数の企業が増収増益となったことがわかります。

「増収増益」とは、前年度の決算や、同じ時期の四半期決算などと比較したときに、売上が増加し、かつ利益も増加していることです。同様のいい回しとして「増収減益」「減収増益」「減収減益」があります。

通常、「増収増益」という場合の「増益」は最終利益である「税引き前利益」を指すことが多いのですが、ここでは営業利益高が増加していた場合に「増益」としています。

2017年度決算で営業利益の前期比が2桁増となった企業は、ウエルシアホールディングス(HD)、ツルハHD、マツモトキヨシHD、ココカラファイン、クスリのアオキHD、キリン堂HD、薬王堂の14社中7社。減収となった企業はなく、増収減益はカワチ薬品とクリエイトSD HDの2社です。

M&Aか、自前出店かで分かれる経営戦略

なお、2019年の予測売上高を見ると、ウエルシアHDが売上高約7,800億円、ツルハHDが7,436億円と1兆円企業登場も視野に入ってきました。

現在売上高第5位のコスモス薬品は予想では売上高6,000億円を突破し、サンドラッグ、マツモトキヨシHDを抜いて売上高第3位に食い込む見込みです。

ウエルシアHD、ツルハHDは出店とM&Aで規模拡大を進めており、一方のコスモス薬品は直営店のみでの展開です。チェーンストアの競争力の源泉は標準化された店舗の大量出店によるスケールメリットと言われています。

どこまで店舗数を増やせるか、企業の規模を大きくできるかは、競合への勝利に直結するため、各社店舗開発力が問われている状況といえるでしょう。

小売の巨人「シアーズ」「Kマート」が遂に消滅!?

GMS(General Merchandise Store)の「シアーズ」、DS(Discount Store)の「Kマート」を800店舗以上展開するシアーズ・ホールディングスが、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請を検討していることが明らかになりました。私が小売・流通業の専門記者を始めた30数年前の当時は、アメリカの小売業の売上の第1位がシアーズで、第2位がKマートだったと記憶しています(その後すぐにKマートが第1位の売上になりました)。かつてのアメリカの小売業の巨人であるシアーズとKマートが遂に消滅することになったわけです。

太平洋戦戦争後に成長したシアーズとKマート

太平洋戦争が終わった1945年頃からシアーズは急成長しました。終戦後、多くの帰還兵がアメリカの故郷に戻り、結婚し、新生活を始めました。当時、モータリゼーションの発達により、本格的な車社会が到来しました。帰還兵はダウンタウン(都市の中心部)ではなくて、サバーバンエリア(郊外)に新居を構え、第一次ベービーブーム時代が始まり、人口が急増しました。

シアーズが展開するGMSは、新生活に必要な「耐久消費財」である家電、インテリア、生活衣料、工具などがワンストップショッピングできる業態でした。しかも、それらの商品がカタログでも購入できるという利便性が受けて、全米に顧客を拡大したのです。

日本のGMSは「総合スーパー」と翻訳されて、当初から「食品」を取り扱っていましたが、アメリカのGMSは食品を取り扱っていませんでした。

シアーズの冷蔵庫や洗濯機のPBである「ケンモア(Kenmore)」というブランドは、長い間、アメリカの家庭でもっとも普及したブランドでした。

その後、住宅建設ラッシュが沈静化する中で、耐久消費財が主体のシアーズの成長は鈍化していきました。その後、1960年代に登場した「Kマート」「ウォルマート」のDSが小売業の主役として台頭してきました。

既に耐久消費財が揃った家庭で、普段の暮らしに必要な商品を低価格でワンストップショッピングできるコンセプトが受けて、急成長しました。たとえば、ベッド本体は販売せず、枕カバーなどの購買頻度の高い非食品が品揃えの中心でした。現在のウォルマートスーパーセンターは、アメリカでもっとも食品を販売する店ですが、初期のDSは、非食品中心の業態でした。

また、フリーウエーの出入口の近くに立地するリージョナルショッピングセンター(広域型SC)の核店舗に出店していたシアーズよりも、自宅から近い立地にDSが出店したことも、シアーズを追い抜いてKマートが小売業の売上ナンバーワンになった理由のひとつです。

従業員の緊張感がなかったKマート

その後、アーカンソー州の「ド田舎」から出発したウォルマートが急成長し、小売業のナンバーワン企業になったのはご存知の通りです。ウォルマートは、非食品主体のDSにスーパーマーケットを合体させた「スーパーセンター」という究極のワンストップショッピング業態を完成させ、アメリカ小売業の覇者になりました。

私が、30代の前半に、当時急成長していたウォルマートとKマートを視察し、店内で写真の隠し撮りをしたことがありました。当時のウォルマートで、隠し撮りをすることは非常に困難だったことを覚えています。怪しい行動をしていると、すぐに店員が飛んできて、「May I Help You」と声をかけてきました。ウォルマートの従業員が緊張感をもって店内を見ていることが強く感じられたものです。

一方、Kマートの店内で、間違ってフラッシュを光らせたことがありました。品出しをしていた巨漢の黒人が振り返り、「やばい」と思ったところ、笑顔でピースして写真を撮れと促されました。従業員は、来店客にほとんど関心がなくて、写真も取り放題の緊張感のない店舗というのが、当時のKマートの印象でした。組織が腐っていたのだと思います。

また、ブランドにあまり関心のなかったアメリカ人が、ブランドに目覚めた1980年代に入ると、お世辞にもセンスが良いとはいえないPBを主体にしたKマートの売場は消費者の支持を得られなくなりました。

1988年に公開された「レインマン」という映画の中で、知的障害を持つ兄を演じるダスティン・ホフマンが、「Kマートのズボンが最高だ」というと、弟を演じるトム・クルーズが、「Kマートの服を着るなんて格好悪いし、恥ずかしいよ」と言葉を返すシーンが象徴的でした。

その後、ウォルマートとKマートの格差はどんどん広がっていきました。最終的に、没落したシアーズとKマートの2社は合併し、生き残りを模索してきましたが、遂に万策が尽きたようです。

小売業の栄枯盛衰を長年目撃していると、「小売業は巨大な企業が生き残るのではなくて、変化に対応した企業だけが生き残る」というダーウィンの進化論にも似た原理原則があることを強く感じます。

変化とは、(1)消費者の変化と、(2)環境の変化です。センスの悪い、安いだけのPBにこだわったKマートは、消費者の変化に対応できず、衰退していきました。また、戦後のベビーブームという消費者の暮らしの変化に乗ったシアーズは、一時期、大成長しました。しかし、その成功体験から抜け出すことができず、業態としての寿命を終えました。

さて、これからの30年も、小売業の栄枯盛衰は間違いなく繰り返されます。デジタルネイティブな消費者が購買の中心になるという劇的な「消費者の変化」はすでに始まっています。その変化に対応できなければ、ウォルマートのような巨大企業でさえも衰退していくことは間違いないでしょう。

さらに、「リアル店舗の強敵アマゾン」「ネット販売」「オムニチャネル化」という大きな「環境変化」もすでに始まっています。さて、どんな栄枯盛衰が繰り返されるのでしょうか? あと30年くらい長生きして、目撃したいものですね。

「人口減少時代」を生き抜くためにマイクロマーケティングで機会損失を防ごう

『国立社会保障・人口問題研究所』が2018年3月に発表した「日本の地域別将来推計人口」によれば、今から12年後の2030年の日本の人口は、2015年対比で比較すると93.7%に減少することがわかります(図表1の最下段の数値参照)。今回紹介する「日本の地域別将来推計人口」は、2015年から2045年までの30年間の人口推移(年齢別)を5年間隔で推計したものです。「県」単位の人口データだけではなくて、全国1,682の市区町村を対象にも人口推移を集計しています。このデータはオープンデータであり、Excelで自由に加工できます。小売業の開発部、商品部、店舗運営部は大いに活用すべきでしょう。

人口減少率の高い県は秋田県、青森県

図表1は、2030年に人口が減少する「県」のトップ10です。東北、四国の人口減少が目立ちます。1位は秋田県、2位は青森県。トップ10の中に、宮城県を除く東北5県が入っています。

図表2は、さらに先の未来の2045年に人口が減少する「県」のトップ10です。秋田県は、27年後には2015年対比で、半分近くに人口が減少することがわかります。

一方、2030年の人口維持率の高い都道府県のトップ10は図表3の通りです。12年後に人口を維持できるのは、東京都と沖縄県の2都県のみです。

沖縄県は、40代以下の人口が多く、出生率も高いのが特徴です。2016年の全国平均の出生率1.44に対して、沖縄県の出生率は1.95と、日本の都道府県の中で出生率がもっとも高い県です。出店すると物流費がかかるという課題はありますが、こと人口だけを考えると、沖縄県は日本でもっとも将来性のある商業立地ということができます。

ちなみに東京都の出生率は1.24と全国平均を下回っています。12年後の2030年も東京都の人口は増えますが、少子高齢化が急速に進んでいることがわかります。これも深刻な未来です。

市区町村別の人口データを活用して機会損失を防ぐ

この調査の良い点は、「市区町村別」「年齢別(5歳刻み)」「性別」の人口推移データを参照できることです。

図表4は、2025年(7年後)に人口維持率の高い市区町村のトップ20です。大都市圏の市区町村が上位に来ていますが、福岡県新宮町のように、福岡市のベッドタウンとして宅地開発が進んだ市が6位にランクインしています。また、20位にランクインした埼玉県戸田市は、東京都心へのアクセスの良さや、行政による子育てサポートの充実などで、30代、40代世帯の流入が増加している地域です。

一方、図表5は、2015年時の人口1,000人以上の市区町村で、「子供人口(0~14歳)の維持率の低い市区町村」のトップ10です。中小規模の市町村でも7年後に子供人口がほぼ半減する地域があることがわかります。

日本全体では、2015年基準で、2020年(+2年)に子供(0-14歳)の人口を維持できるのは東京都(100.7%)と沖縄県(100.2%)だけです。子供(0-14歳)の人口は2025年以降すべての都道府県で減少します。データを見ると、日本の少子化は本当に深刻な問題ですね。

図表5は、子供人口の低い市町村ですが、逆に、子供人口の維持率が県平均よりも高い市区町村を抽出することもできます。たとえば、2030年に人口が約2割も減少する「秋田県」であっても、市区町村別に見れば、子供人口の維持率の高い市区町村、子育て世代の多い市区町村は当然あります。

深刻な人口減少時代に突入するこれからの小売業は、「県」単位の大雑把なマーケティングではなくて、市区町村別の小さなエリア単位の人口構成を分析し、その地域に適した棚割、売場づくり、売り方を実践する「マイクロマーケティング」に挑戦することが重要です。

逆説的にいえば、県単位の棚割、売り方のままでは、市区町村のニーズに合わず、大きな機会損失を起こしているといっていいと思います。人口減少時代には、何も手を打たなければ、間違いなく売上は減ります。市区町村単位のマイクロマーケティングで機会損失を防ぐことが、最大の売上対策になると思います。

最近の基礎データの良い点は、今回紹介した『国立社会保障・人口問題研究所』の「日本の地域別将来推計人口」のようなオープンデータが、無料で簡単に抽出・加工できることです。また、別のオープンデータ(国勢調査)では、2キロメートルの範囲の「職業別」の人口を抽出・加工することができます。田舎立地では、農業人口の多い町と、林業人口の多い町では、作業用手袋の売れ筋がまるで異なるそうです。

MD NEXTに連載されいる「Tableauを使った小売の数値可視化入門」でも紹介しているように、汎用化した分析ツールを活用すれば、オープンデータの取り込み、分析を低コストで行うことができます。本部主導一辺倒ではなくて、現場でマイクロマーケティングを実践する環境は整いつつあると思います。

同じ営業利益率4%でも稼ぎ方が全く違うウエルシアとコスモス

月刊マーチャンダイジングでは、毎年10月号で上場ドラッグストア企業の決算を特集しています。小売企業の経営数値はさまざまな見方がありますが、今回はその特集の中から売上総利益率(粗利益率)と販管費率に着目。「企業の営業方針」を分析する方法について学びます。

上の図表は「売上高」と「粗利益高」「販管費」「営業利益高」の関係を整理したものです。

「売上総利益率」は「粗利益率」のことを指します。売上総利益はひとつひとつの取引で稼いだ粗利益高の合計で、販売価格と仕入価格のバランスを表します。販売価格の変化は、同業他社の新規参入による競争激化や、技術革新による新製品の登場などが原因になります。

小売業においては、競争激化への対応や、プライベートブランド(PB)の開発による粗利益率の引き上げなどがこれに当たります。

「販管費」とは、「販売費および一般管理費」のことです。「販売費」とは、販売活動によって発生する費用です。これには広告宣伝費や店舗従業員の給与・手当、支払手数料、運送費などが含まれます。「一般管理費」は管理活動によって発生する費用です。本部の水道光熱費、家賃、本部職員の給与・手当、事務用品など消耗品も含まれます。売上高に占める販管費の割合を販管費率といいます。

売上総利益率は高ければいいというわけではありませんし、販管費も低ければ低いほどよいというわけではありません。販管費が高くても、接客重視で高粗利率の健康食品や化粧品を推奨販売するのが得意なチェーンもあれば、低粗利率でも食品などの商品を低販管費率で人手をかけずに大量に販売するのが得意なチェーンもあります。ただ、いずれの営業戦略を取るにせよ、売上総利益率と販管費の差である営業利益率は最大化させるべきでしょう。

上の図表はドラッグストア上場企業14社が2018年に発表した決算短信から売上総利益率(粗利益率)と販管費率をまとめたものです。

棒グラフの上の数字は売上総利益率、棒グラフの下の数字は販管費率。その差である棒の長さは営業利益率を表します。右から左へ売上総利益率が高い順に並んでいます。

このグラフを見てみると(1)売上総利益・販管費ともに高めの企業と、(2)売上総利益・販管費ともに低めに抑えている企業、(3)そのどちらでもない企業に分類できるのがわかります。

たとえば、(1)にはマツモトキヨシHDや、ウエルシアHDが該当します。両社とも売上総利益率がともに30%代と高い一方で、販管費率はマツモトキヨシHDが24.3%、ウエルシアHDが26.1%です。その差である営業利益率は、マツモトキヨシHDが6.0%、ウエルシアHDが4.1%になっています。

一方、コスモス薬品は(2)です。売上総利益率は19.8%とあまり高くありません。そのかわり、販管費率も15.7%と低く抑えていて、営業利益率も4.1%となっています。

つまり、ウエルシアHDもコスモス薬品も営業利益率は同じ4%台ですが、ウエルシアは粗利益率、販管費率ともに高い営業戦略で(おそらく化粧品などを接客で販売することで)稼ぎ出した4%であり、コスモスは低粗利率でありながら販管費も低めにして(おそらく高回転の食品をセルフで販売して)で稼ぎ出した4%である、と分析することができるのです。

14社中営業利益率が6.4%と最も高いサンドラッグは、売上総利益率が25.0%、販管費率は18.6%。売上総利益率はさほど高くはないものの、販管費率を非常に低く抑えているのが特徴です。

(1)、(2)いずれの経営方針をとっていたとしても、販管費をいかに適切な範囲に抑えるかが営業利益にとって重要となってきます。そして販管費の中で大きな割合を占めるのは人件費です。ですが、昨今の人不足も相まって、人件費をこれ以上下げることは難しい状況になっています。

小売業においては、いかに人の生産性を向上させるための仕組みをつくり、販管費を下げていくかが、どの企業にとっても重要なポイントになっているということがわかります。

多発する「避難指示」区域、刻々と変わる状況~レデイ薬局の災害対応 前編~

2018年6月28日から7月8日にかけて西日本を中心に起こった集中豪雨は各地に大きな被害をもたらした。のちに気象庁により「平成30年7月豪雨」と名付けられたこの大規模災害により、8月25日現在の消防庁の情報によると死者221人、行方不明者は9人に及んだ。とくに被害が大きかったのは広島県(死者108人、行方不明者6人)、岡山県(同61人、同3人)、愛媛県(死者27人)の3県で今回の死亡者の9割近くを占める。㆑デイ薬局はこの3県に出店しており、これまで経験したことのない自然災害の対応に追われた。今回は、7月6日から8日にかけて、愛媛県を襲った集中豪雨で浸水被害に遭ったくすりの㆑デイ東大洲(ひがしおおず)店を取材。豪雨被害への対応の難しさと、そこから得た教訓を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2018年10月号より転載)

①臨時休業決定

2018年7月7日(土)
空前の大雨でダム放流 下流地域が水害に

今回話を聞いたのは、東大洲店店長の田村博氏、東大洲店を含む大洲市、西予市,八幡浜市、内子町という愛媛県内でも被害の大きかったエリアで8店舗を担当するスーパーバイザー(SV)の越智大介氏、本部で出店エリア全体の被害状況の把握と対応を担った代表取締役副社長執行役員営業本部長の白石明生氏の3人である。

7月6日(金)から激しい雨が降り続いた愛媛県南部では、同地域を流れる一級河川肱川(ひじかわ)上流をせき止める野村ダムが異常なペースで満水レベルにまで到達。共同通信など複数の報道によると、これを受け国土交通省では午前6時20分、基準の6倍にあたる最大毎秒約1,800トンを放流した。

ダムに近い西予(せいよ)市と下流域にあたる大洲市には避難指示が出されたが、報道などによると、早朝の出来事で激しい雨音とも重なり避難指示に気付かなかった住民も多かったという。結局、西予市で5人、大洲市で4人の死者を出すことになる。

レデイ薬局では大洲市に4店舗(2店舗は調剤専門)を出店。このエリアのSVを務める越智氏は当日の行動を次のように振り返る。

「朝6時前に大洲店(東大洲店から西南に約2km)の高砂店長から連絡があり、店舗前の道路がすでに2~3cm冠水しているので、当日の営業を検討する必要があるということになりました。その時点で近隣では防災無線などで避難を呼び掛けていました。

私は東大洲店から2kmくらい離れた場所に住んでいるので、大洲店の店長と2人で現場の確認を行いました。その場で従業員の安否の確認と出勤可能かどうかを緊急連絡網で確認しました。その結果、従業員の住まいの多くが、避難指示区域にあることがわかりました。

午前7時過ぎには従業員の安否、店舗周辺の状況確認が終わり、出勤できる従業員が少なく、本日の営業は困難なので店休したい旨、店舗運営部長に連絡しました。部長からは何よりも従業員の安全を優先させるように、という指示があり、店休が決定しました」

越智氏の報告に基づき、レデイ薬局ではこの日、四国にある店舗のうち大洲店、東大洲店、内子店の3店舗を休業とすることを決定。決定した時間は野村ダムの放流により肱川が氾濫して大洲市にも避難指示が出された時間とほぼ同時刻で、的確な判断であったといえる。近隣にはこの日営業して浸水し、従業員が危険な目に遭った店舗もある。

今回浸水被害に遭った東大洲店店長の田村氏は大洲市の東隣にあたる伊予市在住、当日朝はすでに道路が寸断されており店舗へ向かう手段がなかった。越智氏や従業員との連絡はスマホによる通話とLINEで行った。

[図表1]愛媛県の被害の大きかったエリア

大洲市のホームページによると、7月6日(金)午前6時20分に「土砂災害警戒情報」が出され、午前8時30分には各地区に「避難準備」・「避難勧告」が発令されている。7日(土)午前7時30分、市内全域に「避難指示」が発令、これが解除されたのが9日(月)午前9時である。

浸水したくすりのレデイ東大洲店店内(7月8日午前撮影)

避難を促す発令に関して図表2でまとめた。現状では「避難指示」がもっとも緊急を要する内容であり、今回の豪雨ではレデイ薬局の出店する多くのエリアで「避難指示」が発令され、被害地域の広域化に苦慮することになる。

[図表2] 市町村などが発令する「避難」に関する分類

②本部の対応

2018年7月7日(土)
SNSやネットで情報収集 「避難指示」区域の多発に苦慮

7月7日(土)と翌日は、レデイ薬局が主催する「健康フェスタ」の開催日にあたっていた。会場のある松山市内は雨こそ降っていたが、豪雨というほどの降り方でもなく、健康フェスタは通常どおり開催された。

会場には白石氏をはじめとする経営幹部が午前6時ころから一堂に会しており、これが迅速な意思決定をするには好都合だった。

「広島県、岡山県の被害規模の方が大きく、愛媛県の被害はマスコミ報道にのりにくかったとおもいます。私たちが情報源として活用したのは、インターネット、TwitterやInstagramなどのSNSでした。SNSに上がる写真を見て自店の近隣状況などを知りました。また、フェスタを開催していたので、メーカー、ベンダーの方に他企業の被害などの状況を聞いて情報をつかんでいました」(白石氏)

同社に緊急対策マニュアルはあるが、四国地方は南海トラフ地震が予想されていることもあり、主に地震を想定したものだった。豪雨被害となるとマニュアルではカバーしきれない状況も訪れた。

「地震の際は震度を基準に対応が決まっています。今回の豪雨の場合、過去に例を見ないほどに広範囲にわたり多数の区域に避難指示が出されました。SVの数で言えば6人が避難指示区域を持っていました。現場判断は重要とはいえ、各自が自分たちの判断だけで動いても困るし、常に連絡を取り合い、本部に情報を上げてもらいながら対策を立てていくことが重要だと痛感しました。

緊急で手配する商品や支援物資にしても、どこにどういう状態の人がいるかわからない、可能な限り情報は全部上げてもらい、四国は松山の本社、中国地方は岡山県の撫な つかわ川店に納品してもらい、そこから集めた情報を基に必要な店舗へ送る手配をしました」(白石氏)

図表3はマニュアルにあるレデイ薬局の緊急対策本部の組織図である。同社では、今回の災害を機に、避難指示が出店エリアに出た場合には対策本部を立ち上げるなどマニュアルを進化させた。

[図表3]レデイ薬局 緊急対策本部組織図

後編に続きます。

主婦が働きたい店の特徴は「〇〇〇がきれい」?

パートタイマー不足に悩むお店は多いことでしょう。そこで今回は、年間400万人以上の主婦が利用する「しゅふJOBパート」などを運営し、働きたい主婦のニーズに応えてきたビースタイルの代表取締役会長三原邦彦氏に「主婦が働きたいお店」の特徴について聞きました。(文:ワークスタイルマネジメント 小林麻理)

主婦にとって「ランチ」環境は超重要

まず、主婦が働きたいお店の「職場環境」については、次の事項が挙がりました。

・自転車や車通勤など、通勤しやすい環境であること
・清潔感があること
・トイレがきれいなこと
・休憩室など、ランチでくつろげる環境があること
・冷蔵庫など、お弁当を持参できたりする環境が整っていること
・社割など、生活に役立つ制度があること

従業員用の駐車/駐輪場スペースは場所が許せばぜひ設けたいところですが、立地の問題もありすぐには難しい場合もあるかもしれません。一方、清潔感を保ち、トイレをきれいにするといった店の清掃に関することができていなければ、すぐにでも着手したいところです。

また、ランチ環境に関する項目も注目です。「ランチ」を楽しく食べられるか、という点は主婦(女性)にとって重要なポイントだからです。お弁当をいれる冷蔵庫があるかを気にするのも、主婦ならではと言えます。

生活費の少しでも足しになればとパートに出ているのに、お昼や飲料を外で買う必要がある、というのに抵抗がある主婦の方もいることでしょう。休憩室の片隅に小型の冷蔵庫と電子レンジ1台を置くといった工夫はできそうです。

同様に生活費を少しでも切り詰めたい主婦にとって生活に役立つ「社割」は非常に魅力的というのも納得です。「働いてるからこそお得に買い物ができる」というのは、応募に際した動機づけにもなり、その後も店舗への帰属意識が沸きそうです。

「休みやすい」環境づくりは大変だけど……

主婦が働くさいに重要視するポイントとしては「子育てとの両立のしやすさ」も挙がりました。具体的には、次のようなものです。

・シフトの柔軟性がある
・出勤日数を週2日から選べたり、短時間勤務ができる
・子供が何かあったときには休みやすい雰囲気がある
・子供の成長にあわせて働き方に変化をつけられ、長く働ける

シフトの柔軟性は人員確保が必要であるなど、一朝一夕には実現できないことでもあります。まずは、前述の職場環境の見直しなどから始め、「働く人が集まらない、定着しない」→「人員に余裕がない」→「シフトに融通がきかず、休みもとりにくい」といった、人手不足の悪循環に陥らないようにする必要があります。

逆に、良い職場環境づくりをきっかけに、「人が集まりやすい、定着する」好循環を生み出すこともできるでしょう(図)。

三原代表は現状について、「勤務条件が選べてシフトの柔軟性が高い企業が増えています。一方、人気の商品を扱うなど人手不足感が少なかった店舗は、多様な働き方にあったシフトや時給になっていない傾向があり、これから採用に苦戦するかもしれません」と言います。

本当は、「若い人」がいいんでしょ!?

そして環境や条件面以外の面で、主婦から敬遠されるのは「『若手を採用したいけれど、仕方なく主婦を採用している』という雰囲気が感じられる店舗」だそうです。

そうした印象を与えてしまうのは「早番と遅番両方対応必要、10時-19時という遅い時間帯」といったシフトの面だけでなく「写真が若手ばかりで雰囲気も元気すぎる感じがする」といったように求人時に使用する写真が原因の場合もあるようです。

また、仕事を1度離れた主婦にとって「自分の年齢でもいいのだろうか」は非常に気になるものでしょう。ビースタイルが運営する「しゅふJOBパート」の調査によると、求人情報で書いてほしい内容の1位は「年齢」となっています。

ただし法令上、求人情報への年齢掲載は、原則できません。そこで考えられるのが、掲載写真などで主婦の方の活躍をアピールしたり、SNSなどを利用して店から情報発信するという方法です。 

三原代表は「取り組めることはまだまだたくさんあると思います。もちろん、考えこんでもアイデアは出てこない場合もあります。まずは、いま働いている従業員の方に意見を聞くことから始めてみてはどうでしょうか」と言います。

「働きたい、働いている主婦」の意外な本音を知っておくことは、人材募集における差別化のカギにもなりそうです。

取材協力/ビースタイル代表取締役会長 三原邦彦氏

小売各社PBを比較してみました~フェイスマスク・トレペ編~

編集部のTとNがPBについて実際に試しつつ紹介するお気楽対談第2段。今回はフェイスマスクとトイレットペーパーを調査します!(月刊マーチャンダイジング2018年8月号より流用)


ダイソーの「フェイスマスク」は侮れない!

トモズの天然香料は癒やし効果大

T
引き続きフェイスマスクです。ダイソーの馬油はパッケージ裏に英語の説明書きがあります。インバウンドを意識したダイソーらしいですね。
N
一方で、トモズは表面に日本語ゼロ。英語しか書いていないね。裏に日本語の説明がある。
T
もう、ジャケ買いに近いというか。おしゃれさを前面に出していて特徴的ですよね。売場のPOPには日本語で説明があるので、そこでカバーという感じでしょうか。1枚に含まれる美容液の量は、30mℓでダイソーが断トツ。コスパの高いマスクは韓国製のものが多いけど、これは日本製。こだわってつくっています。
N
パッケージもマットで高品質な印象を受けるね。色も落ち着いているし。
T
ダイソーの馬油は密着感も程よくて、シートの質感もしっとりしています。サイズは顔全体ほぼ覆えるけど、逆に大きすぎて途中で剥がれてしてしまいました。8点!という感じでしょうか。
N
108円で10点満点中8点はなかなか。やっぱりダイソーはコスメ系が強いね。
T
無印良品は可もなく不可もなくでしたが、敏感肌の方でも安心できるというのは強みですね。
N
私も、少し物足りなさを感じたかな。サラッとしていて効果感がもっと欲しいというか…。
T
トモズは自然な良い香りに包まれるようで、贅沢な時間を過ごしている気持ちになりました。剥がした後も、お肌ツルツルでしたし。 使用後も潤って、毛穴が見えにくくなっているのがわかりました。
N
ご褒美感は、嬉しいね。
T
マツキヨは使用後の肌のプルプル感が一番でしたが、それなりのお値段がするので。シートもアゴ部分からリフトアップできるような仕様になっています。
N
価格のバランスも考えると、女性としてはトモズに軍配という感じかな?

[図表3] フェイスマスク比較表(編集部調べ)

コスパ最強のカインズ「トイレットペーパー」

持ちにくさ、開けにくさはストレスに

T
トイレットペーパーですが、今回は再生紙の2枚重ね(W)で比較します。
N
使用前の結構大切なポイントとして、持ち手の形状があるね。
T
持ち運びやすさは重要ですよね。テープになって腕に掛けられる方が持ちやすい。ツルハとマツキヨはテープですね。
N
穴あきタイプは、どんどん持ち手が伸びてくるのがストレスになるので嫌だな。
T
セブンは4ロールだからか、そもそも持ち手がありません。まあ、このサイズならレジ袋に入れてしまうかもしれませんが。
N
あと、開けにくいのも案外ストレスになるんだよね…最終的に引きちぎって開ける感じに。
T
セブンはどこから開けたらいいのかわかりにくいです。
N
ツルハとマツキヨの製造元はどちらもコアレックスという会社ですが、マツキヨの方が開けやすいな。
T
そうそう、同じ製造元だけど、ツルハの方が長さもある分、少し値段も高めです。まめピカを使って、比べてみましょうか。(5枚重ね×2噴射した後、強めに10回こする)
N
まったく同じ力をかけているわけではないので、あくまでオマケの参考程度だけど…。
T
破れにくさでいうと、セブンとマツキヨでしょうか。マツキヨは牛乳パックを原料にしているというのが効いているのかもしれませんね。
N
たしかに。ちぎれて、紙がポロポロになりますが、破れはしない。
T
あと、カインズは2枚重ねの圧着が弱い気も…。あ!個体によって、圧着されている線の位置が違いますね。これが原因でしょうか。
N
Tさん、結構トレペにこだわりあるんだね(笑)。
T
やっぱり、柔らかさは価格も高いセブンが勝りますね。ロール全体が柔らかです。

[図表4] トイレットペーパー比較表(編集部調べ)

「コンビニに生ビール」を定着させたニューデイズの舞台裏

来店客数はセブン-イレブンの1.5倍、駅ナカ市場の魅力を知らしめる存在となったニューデイズ。目的買いの購買特性から客単価が低いなど課題も残されているが、生ビールの販売やご当地フェアなどのキャンペーンを行うことで“お客を飽きさせないコンビニ”を追求し、集客力アップに努めている。店舗前通行量の多さに安住せず、新たな商品、オペレーション、魅力ある販促に取り組む駅ナカコンビニの最新事情を探る。

躍進のカギを握る3つのポイント

駅ナカコンビニのニューデイズ(New Days)はJR東日本リテールネットが運営し、首都圏を中心として、北は青森から西は静岡まで496店舗(7月末、キオスクタイプを除く)を展開。特殊立地である駅ナカにおいて独自の進化を遂げてきた。このニューデイズが注目を集めている。

注目の一つは「生ビール」販売。この夏、セブン-イレブンが実験導入を計画したが、店内の告知段階でSNSにより拡散、yahoo!のトップニュースになると”賛否”をめぐってネット上で騒然となり、セブン側は、急きょ販売を中止とする事態になった。

その余波で、すでに生ビールを提供しているニューデイズがマスコミで紹介される。すると認知度が上がり生ビールの売上が急上昇するに至った。

二つ目は生産性の問題。2017年度の客数(1日平均)は1,548人、対してセブン-イレブンが1,039人だから1.5倍弱。この客数を駅ナカの狭い店舗でさばくのだから、お客にも従業員にも強い負荷が掛かる。

駅の乗降客を集客し、客数で他チェーンを圧倒するニューデイズが、働きやすく、快適な店内環境を、どう実現させるのか。

三つ目が客単価の底上げ対策。お客は「移動の途中」に立ち寄り、商品を購入する。余計な荷物を持ちたくないため、購入点数は上がりづらい。客単価は368円、セブン-イレブンの6割弱といった数字になる。果たして、これを高める方法はあるのか。

以上3点の詳細を見ていこう。

生ビール1日300~400杯の日も

生ビール販売は3年前にスタートし46店舗(7月末段階)で実施している。好調な店は、例えばJR上野駅の3階にある入谷改札外(パンダ橋口)の店舗。上野公園とつながり、7月は生ビールを1日平均40杯前後、販売する。3月下旬の花見シーズンには1日100杯を超す日もあるという。JR熱海駅の店舗では、7月から定期的に実施される花火大会の日には、1日300~400杯は動くという。

赤羽店(東京・北区)では夕方4時に、椅子を取り払い、昇降式のテーブルをハイカウンターにし、簡単な立ち飲みスペースを確保している

セブンが生ビール販売を取り止めた背景の一つに車客への配慮がある。ネット上でも「車客の飲酒運転を助長する」といった多くの批判が挙がっていた。その点、ニューデイズは、駅ナカか駅隣接の店なので、車客がほとんどいない。飲酒運転の助長にはつながらない。

価格は、3年前に始めたときは420円。2017年は380円に下げて競争力を高め、2018年は酒税法の関係があり398円に値上げ。ただし100円下げて298円のセールも実施する。

生ビールのサーバーから基本はセルフでビールを注ぐが、狭い店舗では設置スペースの関係から従業員が注ぐ。1杯税込398円(545mlカップ)

業態の垣根が低くなる近年の傾向に「飲食店以外」でも生ビールを提供する先駆的な取り組みであり、徐々に定着しつつある。

キャッシュレス社会を牽引

二つ目に生産性の問題。自動釣銭機付きPOSレジやセルフレジの導入は、市中のコンビニと比較して客数が多いため、早くからレジ業務の効率化に取り組んでいる。オペレーション上、非常に効果が高いとしている。

一方で、店舗の要員不足が課題。ニューデイズは客数が圧倒的に多いために、「忙しそう」に見えて敬遠する求職者がいる。そうした事態を憂慮して、3年以上前から自動釣銭機付きPOSレジを導入し、現状は9割の店舗に設置している。

レジにお客が並んだ状況が続いても、札の見間違いによる違算がなくなり、引継ぎ時も自動で金銭がカウントされるので、人時の削減も可能にしている。もちろん、外国人従業員に対しても働きやすい環境となり、導入前よりも人員不足に苦労しなくなっている。

セルフレジは要員不足を理由に、通常のレジと併用する形で270店舗(6月末時点)に320台を導入している。決済は交通系電子マネーのみだが、現金とクレジットカードを使用できるセルフレジを開発中。今年度中に一定のめどをつける。

コンビニ大手3チェーンは、現金以外の決済が2割程度。対してニューデイズは3割程度。キャッシュレス決済を牽引している。

通行量に安住せず独自の販促

三つ目が客単価の底上げ対策。駅ナカのコンビニは実用的でありさえすればよいと考える向きもある。しかし、ニューデイズはご当地フェアを実施するなど、機能的なコンビニとしての機能だけではなく、飽きられないコンビニを強く意識している。

今年夏の北海道フェアは始めてから10年。花畑牧場や町村農場とコラボしたチルド飲料、おにぎり、パン、スイーツ、飲料、珍味、雑貨に至るまで、幅広く展開した。北海道でしか販売していない「サッポロクラシックビール」もよく売れた。北海道限定の「いろはす ハスカップ味」も大きく動いた。えびそばで有名な一幻が監修した「えびしお風玉子おにぎり」、函館の老舗レストラン「五島軒」のカレーパンといった、北海道グルメの有名商品、有名店を動員してフェアを盛り上げた。

北海道フェア(7月10日から8月6日)の目玉商品。函館市の老舗洋食店の五島軒が監修したカレーパン149円と洋食&函館カレープレート598円
札幌市のトップランクに入る人気ラーメン店「えびそば一幻」が監修した、えびしお風玉子おにぎり159円(左)と手巻きえびみそ風おにぎり149円

JR東日本グループの後ろ盾はあるものの、店舗前通行量の多さに安住せず、新たな商品、オペレーション、魅力ある販促に取り組んで、ニューデイズはコンビニの中で、独自のポジションを築いている。

自律的に働けるチェーンストア目指して

前回は、チェーンストア化によるスケールメリットが低価格を実現するということを解説しました。今回はチェーンストアの重要概念である「標準化」と「分業」について、そしてチェーンストアの種類について説明します。

肝となるのは本部と店舗の「分業」

チェーンストアにとって「標準化」と「分業」という考え方はとても重要です。

チェーンストアにおける分業の筆頭は「本部」と「店舗」における分業です。

本部は「どの商品をどのように販売するのか」「店舗でどのように作業を行うのか」を決定し、店舗に対して指示を出します。店舗はその指示通りに作業を行い売場づくりを行います。そのために本部はマニュアルをつくり、従業員に教育を行います。

標準化は、店舗面積はもちろん、レイアウト、棚割りなどのコンセプトを統一した業態を開発し、展開していくことです。どこまでをセルフサービスで販売し、どこから接客販売を行うというように、従業員の接客水準まで標準化しているチェーンストアもあります。

なお、一つの資本で展開されるチェーンを「レギュラーチェーン」と呼びますが、それ以外に「フランチャイズチェーン」や「ボランタリーチェーン」のようなチェーンストアもあります。

コンビニエンスストアが店舗数を爆発的に増やすことができたのは、フランチャイズチェーンであり他人の資本を使って出店することができるからです。

コンビニの本部にとってのお客さまは、商品を購入し、ロイヤリティーを支払ってくれるオーナーであるとも言えます。

筆者はある大手コンビニの本部の片隅で一時期仕事をしていた時期があるのですが、スーパーバイザー(SV)さんが店舗に来店するお客さまのことよりも、オーナーとの折衝について熱く語っていたことを思い出します。

チェーンストアはクッキーカッター?

このように、規模を拡大することで、さまざまな恩恵を人々の生活に与えてきたチェーンストアですが、行き過ぎたチェーンストア化にも問題があると言われています。

もう10年ほど前のことですが、筆者が取材をした日本を代表するとあるアパレルチェーンの経営者の方がこんなことを言っていました。

「自分はこれまでチェーンストアビジネスについて深く勉強し、実践をしてきた。しかし、徹底的に標準化された店舗を出店し続けていたら、クッキーカッター(金太郎飴)になってしまって、自分も面白くなくなってしまった」

確かに働く人が面白くないと思ってしまうような店舗では、お客さまに楽しくお買い物をしていただくのも難しいのかもしれません。

しかし、そもそもその企業が当時正しいチェーンストア化を進めていたいのかも定かではありません。日本における小売業のチェーンストア化の水準はあまり高くないと言われています。残念ながら、チェーンストアとしての最低限の仕組みづくりもまだまだ至らない小売業が少なくないという状況なのです。

まずはその基本的なチェーンストアのシステムづくりをきちんと進めることが重要です。その上で、お客さまとの接点である店舗従業員がより自律的に行動し、やりがいをもって働くことができる、そんな仕組みづくりこそが今チェーンストア業界には求められているように思います。