小売各社PBを比較してみました~フェイスマスク・トレペ編~

編集部のTとNがPBについて実際に試しつつ紹介するお気楽対談第2段。今回はフェイスマスクとトイレットペーパーを調査します!(月刊マーチャンダイジング2018年8月号より流用)


ダイソーの「フェイスマスク」は侮れない!

トモズの天然香料は癒やし効果大

T
引き続きフェイスマスクです。ダイソーの馬油はパッケージ裏に英語の説明書きがあります。インバウンドを意識したダイソーらしいですね。
N
一方で、トモズは表面に日本語ゼロ。英語しか書いていないね。裏に日本語の説明がある。
T
もう、ジャケ買いに近いというか。おしゃれさを前面に出していて特徴的ですよね。売場のPOPには日本語で説明があるので、そこでカバーという感じでしょうか。1枚に含まれる美容液の量は、30mℓでダイソーが断トツ。コスパの高いマスクは韓国製のものが多いけど、これは日本製。こだわってつくっています。
N
パッケージもマットで高品質な印象を受けるね。色も落ち着いているし。
T
ダイソーの馬油は密着感も程よくて、シートの質感もしっとりしています。サイズは顔全体ほぼ覆えるけど、逆に大きすぎて途中で剥がれてしてしまいました。8点!という感じでしょうか。
N
108円で10点満点中8点はなかなか。やっぱりダイソーはコスメ系が強いね。
T
無印良品は可もなく不可もなくでしたが、敏感肌の方でも安心できるというのは強みですね。
N
私も、少し物足りなさを感じたかな。サラッとしていて効果感がもっと欲しいというか…。
T
トモズは自然な良い香りに包まれるようで、贅沢な時間を過ごしている気持ちになりました。剥がした後も、お肌ツルツルでしたし。 使用後も潤って、毛穴が見えにくくなっているのがわかりました。
N
ご褒美感は、嬉しいね。
T
マツキヨは使用後の肌のプルプル感が一番でしたが、それなりのお値段がするので。シートもアゴ部分からリフトアップできるような仕様になっています。
N
価格のバランスも考えると、女性としてはトモズに軍配という感じかな?

[図表3] フェイスマスク比較表(編集部調べ)

コスパ最強のカインズ「トイレットペーパー」

持ちにくさ、開けにくさはストレスに

T
トイレットペーパーですが、今回は再生紙の2枚重ね(W)で比較します。
N
使用前の結構大切なポイントとして、持ち手の形状があるね。
T
持ち運びやすさは重要ですよね。テープになって腕に掛けられる方が持ちやすい。ツルハとマツキヨはテープですね。
N
穴あきタイプは、どんどん持ち手が伸びてくるのがストレスになるので嫌だな。
T
セブンは4ロールだからか、そもそも持ち手がありません。まあ、このサイズならレジ袋に入れてしまうかもしれませんが。
N
あと、開けにくいのも案外ストレスになるんだよね…最終的に引きちぎって開ける感じに。
T
セブンはどこから開けたらいいのかわかりにくいです。
N
ツルハとマツキヨの製造元はどちらもコアレックスという会社ですが、マツキヨの方が開けやすいな。
T
そうそう、同じ製造元だけど、ツルハの方が長さもある分、少し値段も高めです。まめピカを使って、比べてみましょうか。(5枚重ね×2噴射した後、強めに10回こする)
N
まったく同じ力をかけているわけではないので、あくまでオマケの参考程度だけど…。
T
破れにくさでいうと、セブンとマツキヨでしょうか。マツキヨは牛乳パックを原料にしているというのが効いているのかもしれませんね。
N
たしかに。ちぎれて、紙がポロポロになりますが、破れはしない。
T
あと、カインズは2枚重ねの圧着が弱い気も…。あ!個体によって、圧着されている線の位置が違いますね。これが原因でしょうか。
N
Tさん、結構トレペにこだわりあるんだね(笑)。
T
やっぱり、柔らかさは価格も高いセブンが勝りますね。ロール全体が柔らかです。

[図表4] トイレットペーパー比較表(編集部調べ)

「コンビニに生ビール」を定着させたニューデイズの舞台裏

来店客数はセブン-イレブンの1.5倍、駅ナカ市場の魅力を知らしめる存在となったニューデイズ。目的買いの購買特性から客単価が低いなど課題も残されているが、生ビールの販売やご当地フェアなどのキャンペーンを行うことで“お客を飽きさせないコンビニ”を追求し、集客力アップに努めている。店舗前通行量の多さに安住せず、新たな商品、オペレーション、魅力ある販促に取り組む駅ナカコンビニの最新事情を探る。

躍進のカギを握る3つのポイント

駅ナカコンビニのニューデイズ(New Days)はJR東日本リテールネットが運営し、首都圏を中心として、北は青森から西は静岡まで496店舗(7月末、キオスクタイプを除く)を展開。特殊立地である駅ナカにおいて独自の進化を遂げてきた。このニューデイズが注目を集めている。

注目の一つは「生ビール」販売。この夏、セブン-イレブンが実験導入を計画したが、店内の告知段階でSNSにより拡散、yahoo!のトップニュースになると”賛否”をめぐってネット上で騒然となり、セブン側は、急きょ販売を中止とする事態になった。

その余波で、すでに生ビールを提供しているニューデイズがマスコミで紹介される。すると認知度が上がり生ビールの売上が急上昇するに至った。

二つ目は生産性の問題。2017年度の客数(1日平均)は1,548人、対してセブン-イレブンが1,039人だから1.5倍弱。この客数を駅ナカの狭い店舗でさばくのだから、お客にも従業員にも強い負荷が掛かる。

駅の乗降客を集客し、客数で他チェーンを圧倒するニューデイズが、働きやすく、快適な店内環境を、どう実現させるのか。

三つ目が客単価の底上げ対策。お客は「移動の途中」に立ち寄り、商品を購入する。余計な荷物を持ちたくないため、購入点数は上がりづらい。客単価は368円、セブン-イレブンの6割弱といった数字になる。果たして、これを高める方法はあるのか。

以上3点の詳細を見ていこう。

生ビール1日300~400杯の日も

生ビール販売は3年前にスタートし46店舗(7月末段階)で実施している。好調な店は、例えばJR上野駅の3階にある入谷改札外(パンダ橋口)の店舗。上野公園とつながり、7月は生ビールを1日平均40杯前後、販売する。3月下旬の花見シーズンには1日100杯を超す日もあるという。JR熱海駅の店舗では、7月から定期的に実施される花火大会の日には、1日300~400杯は動くという。

赤羽店(東京・北区)では夕方4時に、椅子を取り払い、昇降式のテーブルをハイカウンターにし、簡単な立ち飲みスペースを確保している

セブンが生ビール販売を取り止めた背景の一つに車客への配慮がある。ネット上でも「車客の飲酒運転を助長する」といった多くの批判が挙がっていた。その点、ニューデイズは、駅ナカか駅隣接の店なので、車客がほとんどいない。飲酒運転の助長にはつながらない。

価格は、3年前に始めたときは420円。2017年は380円に下げて競争力を高め、2018年は酒税法の関係があり398円に値上げ。ただし100円下げて298円のセールも実施する。

生ビールのサーバーから基本はセルフでビールを注ぐが、狭い店舗では設置スペースの関係から従業員が注ぐ。1杯税込398円(545mlカップ)

業態の垣根が低くなる近年の傾向に「飲食店以外」でも生ビールを提供する先駆的な取り組みであり、徐々に定着しつつある。

キャッシュレス社会を牽引

二つ目に生産性の問題。自動釣銭機付きPOSレジやセルフレジの導入は、市中のコンビニと比較して客数が多いため、早くからレジ業務の効率化に取り組んでいる。オペレーション上、非常に効果が高いとしている。

一方で、店舗の要員不足が課題。ニューデイズは客数が圧倒的に多いために、「忙しそう」に見えて敬遠する求職者がいる。そうした事態を憂慮して、3年以上前から自動釣銭機付きPOSレジを導入し、現状は9割の店舗に設置している。

レジにお客が並んだ状況が続いても、札の見間違いによる違算がなくなり、引継ぎ時も自動で金銭がカウントされるので、人時の削減も可能にしている。もちろん、外国人従業員に対しても働きやすい環境となり、導入前よりも人員不足に苦労しなくなっている。

セルフレジは要員不足を理由に、通常のレジと併用する形で270店舗(6月末時点)に320台を導入している。決済は交通系電子マネーのみだが、現金とクレジットカードを使用できるセルフレジを開発中。今年度中に一定のめどをつける。

コンビニ大手3チェーンは、現金以外の決済が2割程度。対してニューデイズは3割程度。キャッシュレス決済を牽引している。

通行量に安住せず独自の販促

三つ目が客単価の底上げ対策。駅ナカのコンビニは実用的でありさえすればよいと考える向きもある。しかし、ニューデイズはご当地フェアを実施するなど、機能的なコンビニとしての機能だけではなく、飽きられないコンビニを強く意識している。

今年夏の北海道フェアは始めてから10年。花畑牧場や町村農場とコラボしたチルド飲料、おにぎり、パン、スイーツ、飲料、珍味、雑貨に至るまで、幅広く展開した。北海道でしか販売していない「サッポロクラシックビール」もよく売れた。北海道限定の「いろはす ハスカップ味」も大きく動いた。えびそばで有名な一幻が監修した「えびしお風玉子おにぎり」、函館の老舗レストラン「五島軒」のカレーパンといった、北海道グルメの有名商品、有名店を動員してフェアを盛り上げた。

北海道フェア(7月10日から8月6日)の目玉商品。函館市の老舗洋食店の五島軒が監修したカレーパン149円と洋食&函館カレープレート598円
札幌市のトップランクに入る人気ラーメン店「えびそば一幻」が監修した、えびしお風玉子おにぎり159円(左)と手巻きえびみそ風おにぎり149円

JR東日本グループの後ろ盾はあるものの、店舗前通行量の多さに安住せず、新たな商品、オペレーション、魅力ある販促に取り組んで、ニューデイズはコンビニの中で、独自のポジションを築いている。

自律的に働けるチェーンストア目指して

前回は、チェーンストア化によるスケールメリットが低価格を実現するということを解説しました。今回はチェーンストアの重要概念である「標準化」と「分業」について、そしてチェーンストアの種類について説明します。

肝となるのは本部と店舗の「分業」

チェーンストアにとって「標準化」と「分業」という考え方はとても重要です。

チェーンストアにおける分業の筆頭は「本部」と「店舗」における分業です。

本部は「どの商品をどのように販売するのか」「店舗でどのように作業を行うのか」を決定し、店舗に対して指示を出します。店舗はその指示通りに作業を行い売場づくりを行います。そのために本部はマニュアルをつくり、従業員に教育を行います。

標準化は、店舗面積はもちろん、レイアウト、棚割りなどのコンセプトを統一した業態を開発し、展開していくことです。どこまでをセルフサービスで販売し、どこから接客販売を行うというように、従業員の接客水準まで標準化しているチェーンストアもあります。

なお、一つの資本で展開されるチェーンを「レギュラーチェーン」と呼びますが、それ以外に「フランチャイズチェーン」や「ボランタリーチェーン」のようなチェーンストアもあります。

コンビニエンスストアが店舗数を爆発的に増やすことができたのは、フランチャイズチェーンであり他人の資本を使って出店することができるからです。

コンビニの本部にとってのお客さまは、商品を購入し、ロイヤリティーを支払ってくれるオーナーであるとも言えます。

筆者はある大手コンビニの本部の片隅で一時期仕事をしていた時期があるのですが、スーパーバイザー(SV)さんが店舗に来店するお客さまのことよりも、オーナーとの折衝について熱く語っていたことを思い出します。

チェーンストアはクッキーカッター?

このように、規模を拡大することで、さまざまな恩恵を人々の生活に与えてきたチェーンストアですが、行き過ぎたチェーンストア化にも問題があると言われています。

もう10年ほど前のことですが、筆者が取材をした日本を代表するとあるアパレルチェーンの経営者の方がこんなことを言っていました。

「自分はこれまでチェーンストアビジネスについて深く勉強し、実践をしてきた。しかし、徹底的に標準化された店舗を出店し続けていたら、クッキーカッター(金太郎飴)になってしまって、自分も面白くなくなってしまった」

確かに働く人が面白くないと思ってしまうような店舗では、お客さまに楽しくお買い物をしていただくのも難しいのかもしれません。

しかし、そもそもその企業が当時正しいチェーンストア化を進めていたいのかも定かではありません。日本における小売業のチェーンストア化の水準はあまり高くないと言われています。残念ながら、チェーンストアとしての最低限の仕組みづくりもまだまだ至らない小売業が少なくないという状況なのです。

まずはその基本的なチェーンストアのシステムづくりをきちんと進めることが重要です。その上で、お客さまとの接点である店舗従業員がより自律的に行動し、やりがいをもって働くことができる、そんな仕組みづくりこそが今チェーンストア業界には求められているように思います。

遂に「1兆円企業」に成長するドン・キホーテ

従来の「チェーンストア理論」ではなかなか理解しにくい業態であった「激安の殿堂ドン・キホーテ」が今期、遂に売上高1兆円を突破します。GMS(総合スーパー)が、現代の消費者ニーズに合わず、長期低迷を続ける中、「ポストGMS」として快進撃を続けるドン・キホーテの成長戦略を紹介します。

GMS不況の中で営業利益率5%を達成

ドンキホーテホールディングスが8月10日に発表した2018年6月期の連結決算は、売上高9415億800万円(前期比13.6%増)、営業利益515億6800万円(11.7%増)、経常利益572億1800万円(25.7%増)、純利益364億500万円(10.0%増)となりました。ドン・キホーテ1号店の創業以来、29期連続の増収営業増益を達成しました。そして、いよいよ今期中に「年商1兆円」企業に到達します。

GMSの低迷と比較すると、ものすごい好決算ですよね。本業の儲けを表す「営業利益率」は5%を達成し、小売業としては極めて収益性の高い企業です。

20年前のドン・キホーテは、特殊な立地で、特殊な顧客に支持されている店というイメージでした。「ドン・キホーテの新大久保店」に夜中に行くと、深夜に冷蔵庫を購入する若いカップルに遭遇したことがあり、そういう特殊な客層に支持される特殊な店だと、偏見をもって見ていました。

しかし、その後、中堅GMSの「長崎屋」を傘下に収めたころから、ファミリー層にも支持される「ポストGMS業態」を徐々に確立し、特殊な立地の特殊な客層に支持される特殊な店ではなくて、老若男女を問わず幅広い客層に支持される、地域になくてはならない「生活ストア」として進化してきました。

以下に、月刊『マーチャンダイジング』2017年10月号に掲載した大原孝治社長の話のダイジェスト版を再掲載します。以下のインタビューで紹介しているドン・キホーテの強みは3つあります。

第1は、現場の知恵の総量を高める組織改革による「自立型マネジメント力」。
第2は、狭くて深い「商品開発力」。
第3は、強い非食品による総合業態としての「粗利ミックス力」です。

組織開発と人財開発で知恵の総量が大幅増強

ドン・キホーテの最大の強みは「変化対応力」に他なりません。さらにこれを因数分解すると「業態開発」「店舗開発」「商品開発」「組織開発」「人財開発」の5つの開発に分かれます。

2017年は「店舗軸の改革」を行いました。これまで18だった支社を52に増やしました。これは個店強化とスモールメリットという2つの強化テーマへの対応です。これにより、支社長ポストも約3倍に増えて、現場のモチベーションアップに成功し、個店ごとに権限を移譲することで変化対応力も一層強化されました。こうした組織改革による全社的士気向上が競争力に直結して、売上拡大の大いなる伏線になったと考えています。

もっとも、わが社の幹部ポストは決して安定的なものではありません。実力と実績で毎年2〜3割は入れ替わるという新陳代謝が繰り返されています。

真の企業力は、従業員が考える「知恵の総量」にあると思います。売上高が1兆円、2兆円と多いことも素晴らしいが、それを支える従業員の知恵がなければ、結局は身に余った企業規模になっていきます。知恵の総量を増やすことこそ企業経営の要諦であると考えます。

消費者は望むがメーカーがつくらないPBをつくる

商品開発において、当社PBである「情熱価格」には目立った進歩がありました。5万円台で販売した50V型(大型画面)4K液晶テレビは大きな話題になりました。

現在、PB比率は売上高で11%、粗利益高で16%弱、内容は年々精度が高まり収益力を牽引する存在になりつつあります。われわれのPB戦略は深くて狭い。メーカーはつくらないけど、お客さまに需要があるものを探し出して、それを深く掘り下げるという戦略をとっています。

ものづくりの専門家でない流通業が総花的にPBをばらまいても、消費者の理解は得られません。ものづくりにおいてメーカーに叶うはずがなく、消費者と最前線で接している小売業しかわからないニーズをくみ上げ、メーカーがつくならいものを、われわれが企画してPB商品で販売することこそ、流通業がモノをつくる意義だと思います。

お客さまが必要としているのに、メーカーがつくらないものとは、たとえば、メーカーは古い材料を使って新しい商品はつくりません。当社の4K液晶テレビのパネルは、メーカーの前の型(古い材料)です。消費者の中には、最新モデルでなくてもいいので、安い4K液晶テレビがほしいというニーズは多数あります。ここの間に入って仕様を決め、メーカーに商品をつくってもらうことが小売業の役割です。多少型は古くても安い4K液晶テレビは、ニーズがあってもメーカーがつくらない商品の代表でした。

非食品の粗利ミックスがドン・キホーテの強み

苦戦している小売企業が多い中、ドン・キホーテがこれほど成長している理由のひとつは競争優位なMD戦略にあります。具体的にいえば、客層を広げ商圏を広く取る。加えて食品部門を戦略的に拡充しました。元来、非食品中心のバラエティディスカウンターのドン・キホーテが食品部門を強化することで、強力なフルラインディスカウンターとして、競合となるGMSと比較しても、圧倒的な競争力を有するに至っています。

競合GMSが苦手としている「非食品、雑貨」の売れ行きが非常に好調です。GMSでここまで非食品の販売に成功している店はなく、粗利益率の高い非食品が強いので、粗利ミックスによって、GMSよりも店全体の粗利益率は高いです(店全体の粗利益率約26%)。

極論をいえば、食品の粗利率をゼロにしても、われわれには十分に戦っていけるのです。これが競争優位の源泉です。(編集部注・GMSの食品の売上構成比は約70%に達しており、粗利益率の高い非食品、衣料とのマージンミックスができていないことが、日本のGMSの最大の経営課題です)

日本の流通業の最大の課題といってもよいGMSの再生、その次に来るもの、「ポストGMS」の本命こそ、当社のようなフルラインディスカウンターであることを、改めてここに宣言したいと思います(大原孝治社長談。文責編集部)。

シェアサイクルは新たな集客装置となるか

短距離交通インフラとして注目を集めているシェアサイクル。セブン-イレブンの参入により盛り上がりを見せるが、コンビニが直面する「客数減」解消につながる集客装置となるか。法整備も進み、地域ぐるみで取り組みが始まっている最新シェアサイクル事情をひもとく。

さいたま市のセブン110店舗以上にシェアサイクル

コンビニの店頭に今、シェアサイクル(自転車レンタル)の設置が急ピッチで進んでいる。2017年11月21日より、さいたま市のセブン-イレブンに、自転車の借用と返却ができる駐輪ステーションが開設され、現在、同市の110店舗以上で自転車の利用ができる。

自転車の借用・返却時にセブン-イレブンで利用できるクーポン配信などにより店舗への送客も図っていく

ビジネスモデルは、セブン-イレブンがスペースを用意し、ソフトバンクグループのOpenStreetがシェアサイクルプラットフォーム「HELLO CYCLING」のシステムを提供、自転車の卸し・小売を手掛けるシナネンサイクルが管理運営する。このビジネスモデルを用いて、セブン-イレブンは2018年度中に、さいたま市以外にも拠点数を拡大し、計1,000店舗、5,000台の設置を計画する。

シェアサイクルはNTTドコモと各自治体とで運営する「ドコモ・バイクシェア」が先行し、都内10区のほか、仙台、大阪、沖縄などで約6,000台を、駐車場や公園、店舗の敷地等に配置している。

他にも、メルカリの100%子会社「ソウゾウ」は2018年3月から福岡市でシェアサイクル「メルチャリ」のサービスを提供、市内ファミリーマートの29店舗を皮切りに、6月には福岡市とシェアサイクルの実証実験事業を開始して拠点数を拡大している。

シェアサイクルの本場中国からは、IT二大企業の一つ、テンセント(WeChatを運営)が支援するモバイクがLINE と提携して日本で事業を開始、もう一つのアリババが出資する「ofo」は世界250都市以上でシェアサイクルを展開し、日本では2018年4月より滋賀県大津市で事業をスタートさせている。

スマートフォンやパソコンで、駐輪用の「ステーション」を検索し、利用予約、決済までの一連の手続きができる。黄色いマークが、さいたま市のセブン-イレブンに設置された「HELLO CYCLING」のステーション

シェアサイクルは環境先進都市に不可欠

ところで、なぜ今、シェアサイクルなのか?

第一に民泊から始まった(とされる)「シェアリングエコノミー」の一つとして、市場の期待感がある。

メルチャリをいち早く取り込んだファミリーマートは、「健康志向の高まりやライフスタイルの多様化、環境負荷低減に向けた意識の高まりなどを背景に年々ニーズが高まっている」と認識し、「今後もサービス拠点を増やし、より地域に密着した店舗づくり・生活支援サービスの提供を進めていく」として、コンビニが追求する地域密着を、シェアサイクルがサポートすると期待を寄せている。

第二に、2016年12月に公布(2017年5月1日施行)された「自転車活用推進法」。近距離の移動に自転車は適しており、環境に優しい交通手段と位置づけて利用促進を図っていくというもの。基本方針の中にも、自転車専用道路の整備、路外駐車場の整備などとともに「シェアサイクル施設の整備」が、重点的に検討、実施すべき施策として明記されている。

自転車が増えても都内では専用道路がほとんどない。トラブルを避けるためにもインフラの整備が必要だ

東京都もシェアサイクルは2020年に向けて推進する環境先進都市の一環であり、その中で自転車利用環境の充実をうたっている。都のシェアサイクル事業には、前述したドコモ・バイクシェアが参画。自転車本体に、通信機能やGPS機能、遠隔制御機能を全て搭載し、自転車の位置情報をリアルタイムで把握して、効率的な自転車の再配置を可能にするなど、実験と検証を繰り返している。

第三に、お隣り中国の影響。

シェアサイクルは中国で急拡大したサービスである。自家用車が普及する以前は、通勤や通学の主要な移動手段は自転車であった。都市部には専用レーンも用意され、朝夕は通勤・通学の人たちで、ごった返していた。それが、自家用車の普及につれ、自転車の利用頻度は減少する。

しかし自転車シェアリングにより状況が変わった。中国では実に自転車による交通手段が2倍になったと報告されている。もともと自転車に乗る素地があったとはいえ、駐輪ステーションの多さと、スマホアプリによる貸し出しと返却の容易さが、これを後押しした。圧倒的な利便性を提供しているからこそ支持を得ているのだろう。

コンビニと駐輪ステーションは抜群の相性

さいたま市の店舗に駐輪ステーションを一気に設置したセブン-イレブンだが、今度はグループ企業のイトーヨーカ堂が、同様のビジネスモデルにより、OpenStreet、およびシナネンサイクルと協業してシェアサイクルをスタートさせた。既に6月21日よりイトーヨーカドー浦和店でサービスを開始し、2018年度中に10店200台、2020年度末までに30店500台規模で全国展開を図るとしている。

もちろん狙いは、セブン-イレブンを中心とする周辺の駐輪ステーションとの相互送客である。お客は、近隣のセブンで自転車を借り、イトーヨーカドーまで乗って返し、帰りはまた借りてセブンで返す。ドリンクやヨーカドーで買い忘れた小物等をセブンで購入してもらえれば、グループ内での相乗効果が生まれるというものだ。

イトーヨーカドーの駐輪ステーション(イメージ)。マザーステーションとして市場拡大の一翼を担う

シェアサイクルを根付かせるには拠点数の多さがポイントになる。目に付く場所に駐輪ステーションがあれば、ふだん自転車を利用しない人たちも“使ってみようかな”と考えるようになる。その点、駅前と言われる立地にはコンビニがあり、駅の乗降客にとっては“近くて便利”である。課題は「目的地」の駐輪ステーションの有無。近くのコンビニを探すよりも、目的地そのものにあったほうが便利だ。

百貨店、総合スーパー、ショッピングセンターは、セブンであれば、グループ内の確保は容易であろう。他に、市役所、総合病院、観光施設(スポット)等への設置も望まれる。

駐車場の片隅に設置された1台だけの駐輪ステーション。1カ所当たりの台数が少なくても面で押えて利便性を高める

日本は自宅から500m圏内にコンビニが無いと“コンビニ難民”と呼ばれるくらい、店舗が密集している。1店舗で1日1,000人前後の客数を集め、商圏人口約2,000人をカバーする。シェアサイクルの拠点としては最適である。

近年のコンビニはイートインコーナーを標準装備し、淹れたてコーヒーやスイーツも拡充させている。自転車の利用にも快適な空間が用意されているのだ。参加プレイヤーが多く、先が読みにくいが、コンビニが直面する「客数減」を盛り返す、一つの集客装置として取り込んでいきたい。

スケールメリットで低価格を実現する「チェーンストア」

「このあたりにはチェーン店の飲食店があるから住みやすい」とか「チェーン店ばかりで商店街がつまらなくなった」というような言葉をよく耳にします。その存在なしに現代の小売業を語ることはできないというほど、「チェーン店」は私たちにとって身近な存在です。町の中にはさまざまなチェーン店が存在していますが、ではなぜチェーン店(小売りの専門用語ではチェーンストアといいます)がこれほどまでに増えたのでしょうか。(イラスト作成:ManatyDesign

一つの資本が11店舗以上を経営管理する

そもそもチェーンストアとは何でしょうか?
小売業や飲食店は、どれだけの数の店舗を、どのように管理しているかで分類することができます。

この定義によると「一つの資本で標準化された11以上の店舗を直接経営管理するもの」がチェーンストアとされています。しかし、チェーンストアとしての本領を発揮するためには200店舗以上の標準化(後述)された店舗が必要という説もあります。

チェーン規模が大きくなれば商品価格は下がる

ではチェーンストアの強さの秘訣とはいったい何なのでしょうか?

まず1点目は、同一のフォーマット(業態)を多店舗展開することで、特定の商品の販売数量を増やし、商品を買いやすい価格にすることができる、ということです。

1店舗で1週間に10個売れる商品は、1,000店舗を展開しているチェーンストアでは同じ期間で1万個売れます。この販売量を元に、メーカーに値下げ交渉などを行うのです。

販売の規模を大きくすることにより、仕入値が安価になることを「スケールメリット」といいます。このスケールメリットは、商品の販売価格だけではなく、店舗の建築資材の仕入値や、従業員の教育コストなどの経費圧縮にも影響を及ぼします。

2点目として、チェーンストアの規模が大きくなれば、ナショナルブランド(NB)メーカーが作らないような商品をチェーンストアが独自に開発・販売することもできるようになるということが挙げられます(プライベートブランド・PB)。

マクドナルドのようなハンバーガーチェーンがびっくりするような低価格の商品を打ち出すことができたり、ユニクロや無印良品のようなSPA企業が、独自性のある商品を安価に開発できるのも、この「チェーンストア化によるスケールメリット」が背景にあるからこそなのです。

次回は、チェーンストアにとって重要な「標準化」と「分業」という概念について解説します。

小売業の使命は「お客さまと商品のマッチング」だ

2018年6月21日、150名以上の来場者を迎え盛況のうちに幕を閉じたMD NEXTリリースセミナーの一部を抜粋してお届けします。生活が変わり、売り方も大きく変化しつつある今日、小売業はどのようにマーケティングを進化させていくべきなのか。北九州市を中心に42店舗のドラッグストア(うち調剤併設25店舗)と30店舗の調剤薬局を展開しているサンキュードラッグの代表取締役社長兼CEO 平野健二氏の講演です。(まとめ:編集部、写真:曽根田源)

商品の価値はほとんどのお客さまに伝わってない

サンキュードラッグは北九州と下関で、半径25キロ範囲内に73店舗を出店している、超ドミナント体制のドラッグストアです。私はこの会社のいわゆる二代目なのですが、子どもの頃から次のようなことを考えていました。「お百姓さんは米を作り、メーカーはものを開発して、それらを売って儲けます。小売業というのは、仕入れたものを高く売っているだけ…何の役に立っているのだろう。

それからというもの、私は「小売業の使命とはなんだろう」ということをずっと考えて続けてきました。会社経営をする中で、私の今現在の答えは何かといえば、「お客さまと商品をマッチングすること」だと思っています。

お客さまは、「これをください」とお店に来られるのですが、それはあくまでお客さまが持っている知識や情報の範囲で自分にベストであると思っているだけで、本当にそれがベストかどうかは実はお客さまは知らないことが多いのです。一方で、メーカーさんが心血注いで作った商品価値というのは、ほとんどのお客さまに伝わっていません。これを解決してみせるのが、小売業たる私たちの役割ではないかと思っています。

従来私たちは、リアル店舗というものをマーケティングメディアとして使って、お客さまに商品の価値や存在をお伝えしたり、認識していただいてきました。ところが、どうもリアル店舗のマーケティング能力だけでは、セグメントが多様化した現代のお客さま、そしてそれ以上に商品の付加価値、その価値のマッチングということが難しくなってきています。

それをいかにリアル店舗の役割とうまくリンクさせながら、デジタルマーケティングを絡めて実現に至るのか。これがこれからの小売業のテーマだと私は思っています。

ユニーク客数減少時代、真の客数増とは来店頻度アップである

マーケティングの基本はお客さまを知ることです。今、いろいろなデータが集められ、それを使いこなせる環境になっていますが、データをとにかく集めると、間違いなくデータの洪水の中に溺れてしまいます。自分が何をしたいのか、そのために必要なデータは何か。これをきちっと定義して入っていくということが、私たちの役割であると思います。

大原則として、売上=客数×客単価というのは誰でも知っていますが、この公式からすると、売上を上げようと思ったら客数と客単価をあげればよいということになります。しかし、今や高齢者が増え、東京以外のほとんどの地域では人口が減少し、狭小商圏化が進んでいます。このように、ユニーク客数がどんどん減少している時に、客数を増やすということの真の意味は、来店頻度を上げることです。ここまで理解して初めて次のストーリーが成り立ちます。

では、実際にお客さまの何を知ればいいのでしょうか。ID-POSでいえば、来店目的につなげるためには、誰が買ったのか、そして何を買っていないかを分析することです。お店には来ている、薬も化粧品も日用雑貨も買っている。それなのに、なぜかボディーシャンプーだけ買っていないという人がいるのです。ということは、1人のお客さまを外から呼んでくるよりは、そうしたお客さまにボディーシャンプーを買ってもらう方がコストがかかりません。

また、皆さんがブランドを育成するときに大事なのは、何個売れたかではなく、例えば年間に5回買ってくれる人を何人作りたいかという視点です。繰り返し買ったのか、何回買ったのが、複数回買ってくる人を何人作ったのか、そのように結果を見ていきます。そして、どれぐらいの頻度で買ってくれるのか、なぜ買ったのか、それが購買履歴というところに加え、接客履歴であったり健康美容情報であったり、さらには(WEBなどの)閲覧履歴などもお客さまを知るうえでは重要です。

そして、それをいかに購買行動につなげるか。あるいは、逆にこういう購買行動をしている人たちに、我々から情報を投げかけることによって、どんな行動の変化が起きたのか。私たちはどんなタイミングで、どんなメッセージでそのアクションのきっかけを作ってあげるか。そういったところでデータマーケティングを使ったビジネスというものは可能になってくるわけです。

問題は、データマーケティングで今後期待を集めるPHR(Personal Health Record)に関してはデータがあちこちでとられて、1人の人の統合データになってないということがあります。ビックデータについては、バラバラのデータをとにかくたくさん集めましたという方は結構いるのですが、そうではなくて誰か1人について詳しく知る。こうしてディープデータ化したときに初めて、その人に対するワントゥーワンのアプローチができるようになります。1人に対してのビックデータを集めるためには、例えばPHRに関してはアクセスポイントをどれだけ身近にたくさん作ってあげられるかが勝負です。

店でお客さまが最初にするのは「休憩」

次に、店舗をマーケティングツールとして見てみましょう。AIDMA(アテンション、イントレスト、デザイア、メモリ、アクション)という、この順番でお客さまは行動に至るという古典的な概念がありますが、これを横軸にして、縦軸には店内にある様々なツールを当てはめてみます。

例えば、「大量陳列」はアテンションを引くためのツールです。「多箇所陳列」はメモリーという意味で有効ですよね。「試食」「試飲」はデザイアです。皆さんが今からお客さまに届けたい商品が、認知されていないのであればアテンション、関心を示してもらえないのならインタレスト、刷り込むのならメモリーです。それぞれが今どのレベルにあるのかということをメーカーさんと共有してみると、店舗という名のマーケティングツールはもっと有効になります。

ただ、これまでリアル店舗を運営してきた理論が現代において通じるとは限りません。たとえば、客動線については、それを伸ばせば伸ばすほど客単価がアップすると言われていました。
ですが、サンキュードラックでお客さまにアンケートをとったところ、実は、「お店について最初にやる事はなんですか」という問いに対しての答えが「休憩」であることがわかりました。休憩してから買物をして、買物が終わったら休憩をして、それから帰る。そんなお客さまに対して、500坪や600坪の店を隅々まで歩けというのか。こんなことまで考えます。

客動線に関する議論が出てきたのは1960年代です。当時はシャンプーといえばシャンプーのことを指しました。今はどのシャンプーなのか、そこに誰がくるのかという話がセットにならなければマッチングはできないと考えるべきです。

それに、お客さまがある商品が自分にとって価値があるということを知っていれば客動線を伸ばすことが重要という議論も成立するのですが、我が社でも2万アイテムという商品を取り扱っていながら、商品部の部長でさえすべてのアイテムの価値をお客さまに説明することはできません。どの商品が自分にとってどんな価値をもたらしてくれるか、それを選んで教えて欲しいというお客さまの要望に応えられていないという現実は、小売業が抱える重大な問題であると思っています。

そしてさらに、店舗のなかで2万アイテムの価値を伝える場所が限られています。また、接客をするには人員を育成しなくてはいけません。また、接客は売場と並んでリアル店舗の2つの大きな柱なのですが、1日で接客できる人数は極めて限られています。結局、タイミングのよい来店者のみの接点ですよね。そして商品の高スペックパーソナル化に対応できていないというのがリアル店舗の課題だという事です。

さらに深くつながるデジタルメディアとリアル店舗

 

そこにデジタルマーケティングが登場するわけですが、期待されるのはまず、桁違いの情報伝達能力です。購買履歴、閲覧履歴から、お客さまの求める商品の情報、サービス、品揃え、価格を個別的・選択的に配信できます。デジタルならマッチングできる可能性があります。売り手と買い手双方のギャップを埋めるツールという点で、デジタルメディアは非常に有効なのです。今、サプリメントの世界でいうとマーケットシェアの8割、9割が通販に移行しています。これは、通販はそういったことをフォローをしているからです。今後は、デジタルメディアとリアル店舗が繋がっていくでしょう。

しかし、デジタルマーケティングにも課題があります。まず、本当に正しいお客さまに情報をお伝えすることができているのかということですね。閲覧情報と位置情報はかなり精度を上げることができますが、本当にその人が買ったのかという、実際の購買とリンクさせる必要があります。また、デジタルメディアは選択的個別的に配信ができる点でチラシともDMとも違いますが、現在はまだLINEなどで、同じ情報を一斉広告配信しているケースが非常に多いのですね。

もう一つ、メーカーさんがせっかくいい情報を流しても、CMなどのマス媒体だとその商品がどこで販売されているのかということまではお客さまに伝わりません。同じコンテンツでも、サンキュードラックから流せばその商品はうちにあることが確定していますから、安心してうちに来ていただけます。デジタルマーケティングを使っていくうえでは、そういったことを共に考えて欲しいと思っています。

閲覧者の3.6%が店頭で商品を購入したこどもの歯ブラシ動画

現在、デジタルマーケティングはデジタルメディアを使ったマーケティングとか、デジタルメディアを使った販促という使い方が非常に多いわけです。しかし、デジタルマーケティングとは本来、ID-POSによる購買履歴やネットの閲覧履歴、パーソナルレコード等々のデータを使いながら、お客さまをデジタルに把握することであり、その上で個別的選択的な配信を行ってワントゥーワンアプローチをする。これをもってデジタルマーケティングというべきだと私は思っています。

デジタルマーケティングの必要条件は「データ」と「コミニケーションメディア」になります。そして十分条件は、行動変容を起こすコンテンツです。

これまで私たちも、いろいろなコンテンツをメーカーさんからいただいたり、自分で作ったりしながらお客さまに配信してきたのですが、このあとご覧いただく動画は、何のインセンティブもつけていないのに、見た方のうち3.6%の方が、わざわざサンキュードラッグで商品をご購入されたというものです。

この動画をライオンさんの展示会で拝見したときに、私はとても感動しまして、絶対にお客さまに見ていただきたいと思ったんです。それで、当社のお客さまに向けてインセンティブもターゲットも定めずに配信したのですが、ご覧になった方の3.6%の方がこの歯ブラシをお買い求めになられました。
実は赤ちゃんの歯は生後9か月で生えるんです。ID-POSを使えば生後9か月の赤ちゃんを持つお母さんがどこにいるかはある程度把握できます。そのタイミングで配信すればもっと購買率は上がるでしょう。

メーカーさんはさまざまな動画を用意しているのですが、俳優さんの事務所との契約でCM以外の動画配信は想定していなかったということが多々あります。ならばそこを解決すればよいのです。CMのように流しっぱなしにするのではなく、見てもらうべき人に見てもらうべきタイミングで情報を届けたほうがよっぽど効果があるということを、私は考えています。

つまり、自分で売りたいタイミングではなく、お客さまの買いたいタイミングでご提案をする。赤ちゃんは、生後半年経ったら熱を出すといいますが、実際に冷えピタシートは出産後7ヶ月目のお母さんがよくお買い求めになられるのです。それなら、生後6カ月の赤ちゃんがいるお母さんに、ご家庭でマスクを使って赤ちゃんを危険にさらさないようにしましょうといったら、マスクの売り上げがもっと上がるかもしれません。これもデジタルメディアの特徴だと思います。

メーカーさんとお客さま、2つを結びつけることで、小売店はメーカーさんにとってお客さまとのコミュニケーションの場に変わります。単に仕入れて売るのではなく、お客さまにライトタイミングでライトメッセージを送るメディアに変わる。こうなった時に小売業は、世の中の役に立ってるんだよ、世の中を活性化してるんだよという、誇りあるものになっていくのではないかと思います。

(談・文責:編集部)

時代が変わる、チェーンストアの役割も変化する

2018年6月21日、150名以上の来場者を迎え盛況のうちに幕を閉じたMD NEXTリリースセミナーの一部を抜粋してお届けします。これまでのチェーンストアは地域間の格差を無くし、どの地域に住む人でも豊かな生活ができる社会を実現してきました。しかしそのチェーンストアの役割は、この情報化社会のなかで変化していくとサツドラホールディングスの富山浩樹社長は語ります。(まとめ:編集部、写真:曽根田源)

北海道を深掘りし、次の成長への基盤をつくる

我が社は今年で創業46周年になり、2016年8月にサツドラホールディングスに持ち株会社化しました。北海道を中心にドミナントを形成していまして、昨年店舗数は200店舗を越えました。グループの概要としては、ドラッグストア事業としての「サツドラ」、その下に製造・卸し会社「Creare」、地域マーケティング事業を展開する「リージョナルマーケティング」、新電力会社「エゾデン」、AIソリューション開発事業「AI TOKYO LAB &Co.」と、POSシステム開発事業「GRIT WORKS」、BtoBのインバウンドマーケティング事業を行う「VISIT MARKETING」、台湾ドラッグストア事業の「台灣札幌藥粧有限公司」から成ります。

現在、サツドラホールディングスでは「リテール×マーケティング」というコンセプトのもと、2021年5月期に向けて中期経営計画を実施しています。「北海道の深掘りと次の成長への基盤づくり」をテーマに、4つの成長戦略と2つの組織戦略を掲げています。成長戦略の1つ目は「強固なリージョナル・チェーンストアづくり」。2つ目は「リージョナル・プラットフォームづくり」。3つ目を「アジアン・グローバルへの発信」としておりまして、本丸が4つ目の「デジタルトランスフォーメーションの推進」です。

現在事業の柱として展開しているのが、地域マーケティング事業です。4年前に立ち上げた「リージョナルマーケティング」という会社で、地域が輝くプラットフォームづくりというコンセプトを掲げ、地域の共通ポイントカード「EZOCA」を発行しました。

おかげさまで、EZOCAの提携先企業はこの4年間で114社653店、発行数が1,650,000件となっており、北海道の中では世帯カバー率が50%以上です。EZOCAはサツドラのポイントカードを中心として立ち上げたためにユーザーの72%が女性で、20代から40代の女性が50%以上を占めています。

我が社は地域連携ということで、北海道さんをはじめとするさまざまな自治体さんと包括連携協定を結んでおります。ほかにも、Jリーグのコンサドーレ札幌さんなどと業務提携を結んでいまして、マーケティング領域で協業しています。また、フリーペーパーも発行していまして、発行部数13.5万部、約40の市町村、230の保育園・幼稚園・託児所に配布して、コミュニティの紹介や提携店の情報を発信しています。同じようなスキームで新電力も行っておりまして、地域プラットフォームづくりに取り組んでいます。

また、道外にもインバウンドフォーマットの出店を加速していますが、こちらはただ店を出すだけではなく、リージョナルマーケティングと同じ発想で、WeChatPayを展開するテンセントさんといち早く業務提携を結ばせていただきました。

他にも、別業態として「北海道くらし百貨店」を立ち上げ、北海道のものを国内、海外に発信するなど、プラットフォームやデジタルソフトウェアというかたちで拡げていって、リテールに還元していこうとしています。そして、これらの取り組みをグループ全体の成長につなげています。

地域間の格差を無くしてきたこれまでのチェーンストア

これまで、チェーンストアは人の暮らしを変えてきました。北海道でいえば、薬局が1店もなくなってしまった3千人規模の街ですとか、そうした場所でもチェーンストアがあれば札幌など都市部と変わらない価格、品揃えで買い物をすることができます。このように、これまでチェーンストアは地域間の格差をなくしてきました。

そしてこれからは「情報格差」が大きくなってくるのではないかと思っています。銀行や自治体の機能をはじめいろいろなサービスがデジタルに代替されてなくなっていく。そうなった時に、買物難民ならぬ情報難民が出てくるのではないかと思うのです。

そのような時代にあって、これからのチェーンストアは「リアルな場」として、サービスも含めて格差を解消していく役割を担うのではないかと考えています。また、省人化、オートメーション化が進んでいく中で、「人」がいるからこそ生み出せるライフコンシェルジュという価値をどう実現していくか、そのために、どうデジタルトランスフォーメーションを推進していけるのかを大きなテーマとして取り組んでいます。

変わり始めた現場の意識

デジタルトランスフォーメーションを推進するうえで、我々は体制づくりが非常に重要だと考えております。今、我が社にはグループ会社としてリテール型AIソリューション開発の「AI TOKYO LAB」、そしてPOS開発の「GRIT WORKS」という会社があります。

AIはどんどんコモディティ化し、早くも淘汰が進んでいます。しかし、サツドラグループにはリアルな店舗があって、EZOCAがあって、POSがあって、地域との連携があります。

そして、データや業務、サービスに対しての有効なツールとして、自社でAIを活用することができます。今、北海道大学内にR&D拠点として「AI HOKKAIDO LAB」を開設しまして、サツドラやEZOCAのオペレーションを改善するために動いています。北海道大学とも連携しながら、地域でどう新しいものを生み出していくかという体制の仕組みづくりをおこなっています。

もう1つ、クラウドでリアルタイムで動くPOSを開発しようということで、「GRIT WORKS」が誕生しました。

チェーンストア側からいうと、POSはいかに安全に取引ができるかが命題で、新しいことをやるというのはベクトルとして向かないのですね。しかし、いろいろと試行錯誤しながらも、この開発会社では非常に価値あるクラウドPOSを開発することができました。現在も現場の声やノウハウを蓄積して、どんどんアップデートしています。現場でも、システムは意見をしても変わらないという認識だったものが、何かしら言えばすぐ変わるという意識になっていったのです。そういう文化ができたのは大きなメリットでした。

日本は課題先進国といわれていまして、人口減少ですとかいろいろな問題を抱えています。特に北海道は日本の中でも超課題先進エリアなのですね。高齢化伸び率、長期療養の入院日数、そのほかにも完全失業率や過疎化など、社会課題の宝庫みたいなエリアなのです。この北海道で新たなテクノロジーを使って社会課題を解決する社会実装をすれば、自治体さんも巻き込みながら、新たなイノベーションを起こせるのではないかということで、Satudora Innovation Initiative(通称SII)を立ち上げました。

新たな組織文化づくり

新たな組織文化づくりということで、現代はビジネスモデルの寿命がどんどん短くなっていく中で、企業側からは多様性のある人材を取りたい。個人としては今までと違うキャリアを積んで多様性を持っていく。お互いが相互選択できるような多様性のある土壌をつくっていく必要があると思います。

我々は2年前に「サツドラジョブスタイル」というのを発表しまして、多様な働き方の実現を推進しています。副業、兼業、在宅ワークや連続休暇制度もなど、働き方の選択肢を増やしています。また、外部人材を積極登用しておりまして、既存の人材と掛け合わせて多様性を見出していくということもやっています。

東京でキャリアを積んで地域で働きたいという人も潜在的にいるのですが、面白い仕事と住みたい場所がマッチしないということがあるのですね。こちらが面白い仕事、ワクワクする仕事を提示すれば、人が来てくれる。それでこうした人事制度を採っております。一方で、グループ会社や組織を作ることによって、まずはそこでエンゲージメントしてもらって、うまくシナジーを出すことで多様性を目指せるのかなとも考えています。

デジタルトランスフォーメーションを実現するにあたって、1番大事なのは組織文化をどうつくるかであると思っています。一例を挙げると、3年ほど前からペーパーレス化を推進し、オペレーションをスマートデバイスで完結するようにしたり、チャットでコミュニケーションすることでスピードを上げたりという環境の改善をしています。また、日常の仕事やそのプロセスにフォーカスして表彰するサツドラアワードの導入、社内広報を強化するなど、新たな組織文化を生み出そうというところです。

現代は非常に時代の流れが早い中で、変化に対応できる組織体制をどうつくるかというのは非常に重要で、多様性のある文化をどう生み出すかというのが、デジタルトランスフォーメーションをしていくのに1番重要なことであると捉えまして、私も含めて、今後も変化を楽しみながら進めてまいりたいと思います。

(談・文責:編集部)

増加するフィットネスやコインランドリーとの一体型コンビニ

ライフスタイルの変化や女性の社会進出なども影響し、新たな24時間ビジネスが市場を席巻している。24時間ビジネスがコンビニと相互送客することで客数対策につながるのか、最新の動向を追った。

コンビニと相性がいい新たな送客装置とは?

コンビニの既存店は客数が頭打ち、それを客単価で補って、どうにか維持できている。最も深刻なのは、人手不足と人件費の高騰。これにより1店舗当たりの人員が減少傾向にある。採用できないのか、人件費の抑制が必要となり採用を控えているのか、あるいは、その両方なのか、いずれにせよ「これ以上は人手がかけられない」。これが、コンビニオーナーの総意であろう。

しかしながら、人が投入できなくても店舗の生産性は高めたい。

第一に、売れる商品を品揃えし、売上を上げる。これが王道である。

第二に、人時削減を可能とする設備の改善。十数年前にポリッシャー清掃が不要になった。近年は自動食洗器やスライド棚の導入、店舗納品分の検品(ほぼ)不要といった店舗業務を効率化し、生産性向上の改善が急ピッチで進んでいる。

第三に、新たな送客装置の設置、これが今回のテーマである。

送客装置として真っ先に思い浮かぶのがコンビニATMであろう。セブン銀行のATMは1日1台93件の利用がある(2018年5月調査)。ローソンも銀行への参入を表明し、今秋の開業を予定している。

しかし、送客装置はそれだけではない。社会環境の変化により、さまざまなニーズが生まれ、コンビニ店舗との併設が求められているのだ。

コンビニに隣接した立地の24時間フィットネスジム

「フィットネスジムの開発担当者の間では、コンビニ近隣の物件が取り合いになっています。そんなにコンビニと相性が良いのなら、自分たちでやってしまえと……」

ファミリーマート(以下、ファミマ)が24時間フィットネス事業に参入。今年2月14日、ファミマ店舗の2階にオープンした直営1号店「Fit&GO」大田長原店(東京・大田区)は、プール設備やエクササイズスタジオを持たない、マシン特化型の24時間フィットネスジムである。

「Fit&GO」大田長原店。階下のファミマには、プロテインやボディオイルなど関連商品180アイテムを独自に品揃え

出店目標は5年間で300店舗、適正立地やビジネスモデルは検証中だが、基本は加盟店に紹介してコンビニ店舗との相乗効果を図っていく。

「コンビニが併設すると、そこに毎日800人から900人の来店がある。これは(既存のフィットネスジムと比べて優位性が)大きい」とファミマ社長の澤田貴司氏は期待を掛ける。

コンビニに併設して出店すれば、毎日1,000人近くのお客が施設を認知する。さらにコンビニは夜間の出入りが頻繁なので、深夜にジムを利用するお客は安心感を得られる。ここがポイントである。

コンビニとフィットネスの親和性は、他社のフィットネスジムと併設するファミマの既存店において客数の増加が数字で実証されている

同じ業態で先行するのは2010年に米国から上陸した「ANYTIME FITNESS」(エニタイム フィットネス)。今年6月現在、国内350店舗を突破している。特徴は深夜から早朝にかけて無人になることだ。セキュリティについては、館内の全てをカメラで監視、入り口でセキュリティキー(ICチップ入り)による本人確認があり、緊急時には「パニックボタン」により警備会社(アルソック)が駆けつける安全・安心体制を確保している。

「Fit&GO」も同様に昼間は専任の従業員で運営し、夜間は防犯カメラが無人の館内を監視する。ファミマの従業員はノータッチである。同じ建物や近接地に人が出入りするコンビニがあれば心理的な安心感は得られるだろう。

コンビニの利便性に、24時間フィットネスジムをなぞらえると、次のようになる。

欲しい時に(ジムを利用したい時にいつでも)、欲しい商品を(使用したいマシンを)、欲しい量だけ(トレーニングしたい時間だけ)、購入できる(館内を利用できる)となる。

ちなみに筆者は自宅近隣のエニタイムを利用している。深夜でも女性が黙々とエアロバイクを漕いでいる。関係者に聞くと飲食店に勤める人たちに深夜の利用が多いという。

店舗は幹線道路沿いにあり、1階が24時間営業の業務用スーパー「肉のハナマサ」、2階がエニタイム、3階が24時間営業のトランクルーム。建物1棟が24時間稼働している。業務用スーパーとフィットネスジムに相互送客は期待できないまでも、24時間稼働の共通項で3つの業態を結び付けているのだ。

雨の日の客数を補完するコインランドリー事業

24時間フィットネスジムと同様の考え方で、ファミマは店舗と相互送客を図るコインランドリーを開設した。今年5月25日にオープンした「Family Laundry(ファミリーランドリー)杉並永福四丁目店」(東京・杉並区)が初のコンビニとランドリーの「一体型店舗」である。

コンビニと一体型のコインランドリー「Family Laundry(ファミリーランドリー)杉並永福四丁目店」。敷地面積330坪、売場面積48坪、駐車台数18台(コインランドリー店舗と共有)

女性の就業率は高まりを見せている。家事の負担軽減が求められる社会構造の変化に対して、需要が見込まれるコインランドリー事業を直営で展開していく。

都心のビルイン店舗や小型店などは一体型にするのが難しいが、郊外型店舗を中心に、既存店のうち3割から4割を一体型に改装することが物理的には可能だという。このランドリー「一体型店舗」を軌道に乗せれば、ファミマは数千店規模のコインランドリーチェーンを全国に展開できる。2018年度に50店舗、2019年度に300店舗体制を目指していく。

コインランドリーは1万8,000店舗を超える規模に成長。日中に洗濯する時間のない共働き世帯の増加、アレルギーや外気の関係で外干しができない人たち、タワーマンションの増加等で需要が高まっている

一般的にコンビニ店舗は降雨時に客数が減少する。反対にコインランドリーは客数が増加する。雨天時の客数対策としてはコインランドリーとは親和性が高い。ファミマのランドリーは委託業者が清掃や集金等を行うほかは、コンビニ同様、24時間無人で営業する。売場と屋内でつながってはいるものの、コンビニの従業員は基本ノータッチである。施設内の客同士のトラブルや機械の故障については、運営業者が全て遠隔操作で対応する。

スマホを使って洗濯機や乾燥機の稼働状況や予定終了時間が確認できる。時間を効率的に使う価値観という意味においては、ランドリーのお客はコンビニと親和性がある

ファミマは千葉県市原市の店舗で、(屋内はつながっていない)併設店舗でコインランドリーを実験したところ、客数が40人強、売上は1日2万円から2万5,000円前後で推移し、損益分岐点は超えていると説明した。

これもコンビニの利便性になぞらえると、欲しい時に(洗いたい・乾かしたい時にいつでも)、欲しい商品を(使用したい洗濯機や乾燥機を)、欲しい量だけ(洗い・乾したい量だけ)、購入できる(洗い・乾せる)となる。

ファミマの担当者は「広い駐車場とイートインスペースは支持されている。女性にとっても隣がファミマなので安全で安心。ファミマ自体の信頼性も強みになる」として相互送客に期待する。

ただし冒頭でも触れたが、コンビニ店舗は慢性的な「減員」に陥っている。24時間フィットネスジム、コインランドリーに続く、新しい併設・一体型の施設はあるのか。

条件は24時間営業、ファミマ店舗と相互送客、そしてファミマのスタッフはノータッチということだ。

有職主婦の増加による新しいビジネスの芽に期待したい。

LDK編集長インタビュー 支持される共通項は「高見え」「100均バレしない」

100円ショップは「お得感」を前提としつつも高い品質、カスタマイズする楽しさ、トレンドを意識した商品提案を次々に仕掛け、支持を集めている。そこで、女性向けライフスタイルマガジン「LDK」の編集長であり、別冊MOOK「100均ファンmagazine!」の編集も手掛ける晋遊舎の木村大介氏に、100円ショップから他業態が参考にできそうなポイントを伺った。(月刊マーチャンダイジング 2018年7月号より転載)

セリアの登場で女性への提案力、トレンド&おしゃれ度がアップ

──100円ショップといえば、老舗のダイソーが店舗展開を始めたころは注目度が高く、足しげく通った人も多かったとおもいます。しかし、だんだん目新しさも感じなくなり、少し前までは業界内の空気も停滞しているようなところがありました。それが、ここ数年で急に商品提案力が高くなったようにおもいます。その一因として「ダイソー」「キャンドゥ」に続く第三の勢力「セリア」の存在があるように感じますが、木村さんはどのようにお考えでしょうか。

木村 たしかに、ここ数年で変わった印象はありますね。2013年の「LDK」創刊以前、100円ショップの大手といえば「ダイソー」「キャンドゥ」でした。それほど買いたいものが見つからない、ダサくて野暮ったいという感じもありました。「100円ショップの商品を使うのは恥ずかしい」という女性も多かったのではないかとおもいます。

──それがセリアの台頭で「100円ショップで、おしゃれなものが買える」という認識に変わったということでしょうか。

木村 セリアが全国展開するようになって、女性たちは100円で“憧れの暮らし”を気軽に手に入れられるようになったようにおもいます。ダイソーは200円、300円の商品も多く、“脱100均”を狙ってすらいますが、セリアがあくまで愚直に売価100円にこだわったことも、(お金にシビアな)女性に受け入れられた要因と考えられますね。

その後、女性をターゲットにした「NATURAL KITCHEN」など“おしゃれ系100均”が出始めて、100均の概念が一気に変わったようにおもいます。ダイソーもこの変化を敏感に感じて、(女性向けの商品開発に)本腰を入れだしたように記憶しています。

──2年ぐらい前からだったでしょうか、ダイソーとフリューのコラボ「GIRLS, TREND研究所」などがその例でしょうか。やはり、セリアの影響は大きかったということですね。

木村 たしかにセリアも意識したともおもいますが、ユーザーの声が直接届く時代になったことが大きいのではないでしょうか。TwitterなどのSNSもあり、LINEも普及して、Yahoo!ニュースのコメント欄に意見が書き込めたりもする時代。ユーザーが「ダサい」「セリアの方がいい」「すぐ壊れる」といった声を気軽に発することができます。昔だったら、不満があってもわざわざ電話をかけたり投書するなんて人は少なかったでしょうから、すごくいい時代になったとおもいます。

──売る側と買う側のコミュニケーションは以前より深まってきていますね。ダイソーはユーザーの意見に耳を傾けることで見事な方向転換を図ったということでしょうか。

木村 推考するとそうなりますね。いまはセリアが断トツでおしゃれとい
うこともなくなって、ダイソーもキャンドゥも驚くほどコスパのいい商品を開発してきています。ただ、セリアは店内のおしゃれにも気を配っていて、グリーンを基調にしたナチュラルな雰囲気、木目調の什器を使ったり、間接照明を生かした陳列をしています。これはダイソーやキャンドゥにはない要素かなとおもいます。

「100均ファンmagazine!」(晋遊舎)
女性向けライフスタイルマガジン「LDK」で人気の100均特集を特別編集した不定期刊行MOOK。“100均で暮らしを楽しくしよう良くしよう”がコンセプト。メインターゲットは30~40代の目が肥えた主婦で、広告を入れず公平にユーザー目線で商品をジャッジする記事をモットーとする。最新号vol.3は2018年1月に刊行された

ユーザーが気に掛けるのは「高見え」と「100均バレ」

──実際に100円ショップの商品を比較するなかで、具体的にはどのカテゴリーが進化しているのか、ユーザー目線で解説いただけますか。

木村 キッチン雑貨は無視できませんね。たとえば100円ショップで流通している優秀なキッチンばさみは、調理用品や衛生用品を扱う大手メーカーの商品と使用感はさほど変わりません。耐久性があり、2~3通りの使い方ができる便利なアイデアグッズはホームセンターでたくさん売られていますが、1,000円以上する商品もあり、買うのに勇気がいります。100円ショップなら「失敗するかもしれない」というリスクはありますが、もう“安かろう悪かろう”という時代でもなく、頻繁に失敗することはありません。

──その他のカテゴリーはいかがでしょうか。

木村 「LDK」の100均特集の常連カテゴリーは「キッチン」「収納」「インテリア」「掃除」「洗濯」「文具」です。これらのカテゴリーは優秀なアイテムが揃えられているとおもいます。大手メーカーが製造している商品も増えてきているようです。

キャンドゥの「なめらかインクボールペン」は書き味のよさに加え、シルバーを基調にしたボディで高級感がある「高見え」する商品です。実はこの商品、老舗文具メーカーのプラチナ万年筆が製造しているんです。日本の老舗が100均文具をつくるなんて以前の常識では考えられませんが、100円ショップを新たな販路と考えるメーカーは少なくなく、100均グッズの品質向上に一役買っているようです。

キャンドゥ なめらかインクボールペン(画像提供:晋遊舎)

──「高見え」とは何でしょうか。

木村 100円以上に見える、高級なものに見える、といった意味合いでわれわれは「高見え」という言葉を使っています。「高見え」することは非常に重要です。100円ショップがいくら市民権を得ているとはいえ、“いかにも100均”に見える商品は「お金がない」「ケチなのでは?」と勘繰られる恥ずかしさに結び付いてしまいます。文具だけでなく、収納、インテリアなど人の目につきやすい商品はとくに「高見え」するかが購入の判断基準のひとつになります。

──「高見え」以外に、ユーザーが気に掛けているキーワードはありますか。

木村 「高見え」と少し似ていますが「100均バレしない」ということです。たとえば、ダイソーで売っているスキレット(鋳物)は100円ではなく300円なのですが、ニトリやカインズで売っている500円ぐらいの商品と比べても遜色ありません。たいていの人はダイソーでスキレットを買えるとはおもっていないので、「どこで買ったんだろう。すてきだな」となるわけです。

ダイソー スクエアスキレットM、イモノ取手付皿、イモノステーキ皿(画像提供:晋遊舎)

──なるほど。「高見え」は自己満足を高めることで重要、「100均バレしない」は承認欲求を満たす意味で大事な要素といえますね。

木村 「100均バレしない」商品は元ネタがあります。メディアが取り上げたりするセンスのいいおしゃれな商品。常識で考えて100円では買えそうもないものですね。輸入雑貨店
などで扱われているハーバリウム※もセリアだと100円。本来1,000円はする商品なので、「まさか100円だとはおもわなかった」となります。

セリア ハーバーリウムストレートオブジェ(画像提供:晋遊舎)

──ハーバリウムは「100均バレしない」だけでなくトレンドも押さえていますね。最近の100円ショップにおける変化のひとつとしてトレンドに敏感に対応できるようになったことが挙げられるとおもいます。

※ハーバリウム…プリザーブドフラワーやドライフラワーを防腐剤などで処理して、ガラス瓶に入れたインテリア雑貨

DgSでも取り扱えそうなNBの小容量タイプの食品

──小誌はDgSの経営者層から商品開発担当者、店長さんまで幅広く講読していただいているのですが、100円ショップが実践していることでDgSこそやるべきだとおもう商品提案などはありますか。

木村 最近DgSに行くと、おもっているより食品を扱っている印象があるのですが、ダイソーも食品を強化しているので、参考になるのではないかとおもいます。

たとえば、スーパーなどではカレールウはナショナルブランド(NB)だと小分けになっていなくて8皿分の商品を多く見掛けますが、ダイソーでは2皿分だけつくれるような“小容量”のパックがあって便利なんです。

──単身世帯や夫婦二人暮らしの人は助かりますね。私も100円ショップでお茶碗1杯分のレトルトカレー、コンビニなどで売っている箱入りではない袋入りの「パイの実」(10個入り)などを見掛けます。ちょっとだけ食べたいとき、小容量の食品は便利ですね。

木村 コスパを考えたらスーパーで買った方がいいのかもしれませんが、「食べ切れない」という人もいるんですね。シニアで二人暮らしされている方から「スーパーよりダイソーの方が少なめだからよく買う」といった意見を頂くことがあります。

──なるほど。NBそのままでは100円で儲からないのですから当然サイズダウンしますよね。それが小容量・小分けニーズを求めている人に響くと。DgSでもそのサイズダウンした商品を置いてほしいですよね。

木村 100円分の小さめサイズにするのですから、普通のNBと利益は同じ。いい商品です。DgSに向いているとおもいます。食品はコスパで選ぶ風潮がありますが、「少なく買える」「無駄がない」「使い切る」という価値提供も大切だとおもいます。単身者は無理にコスパで選ぼうとするとストレスになるのではないかとおもいます。

──100円ショップは食品も日本の大手メーカーが参入してきているということでしょうか。

木村 アナザーメーカーがつくっているNBの類似品もたくさんあるのですが、大手メーカーの商品を「少なくして売る」というスタイルも確立されていますね。ダイソーのパンは、日本の大手製パンメーカーが一括受注しているという話も聞きます。

DgSの食品は食べ盛りの子供がいる母親や若いママをターゲットにしたコスパのいい商品が中心ですが、もっと提案の幅が広くてもいいのかもしれませんね。

モノの価値基準を変える“100均”は時代を映す鏡

──では、最後に。今後の100円ショップは今後どのように進化していくとおもいますか。

木村 今年の春、神奈川県の座間にダイソーが300円ショップ「THREEPPY(スリーピー)をオープンさせましたが、実験的な試みなのか、多店舗展開していくのか、キャンドゥやセリアがどのぐらい意識しているのか気になるところですね。

──今後も100円ショップは進化していきそうですね。お金を掛けずに楽しく便利に暮らす知恵が詰まっていますからね。

木村 そうですね。ユニクロなどもそうですが収入の差に意外に関係なく利用するのが100円ショップなのではないかとおもうのです。

昔ほどお金がある人とない人で使っているものが違わなくなってきていて、それを下支えしているもののひとつが100円ショップのような気がしているんです。「本当はもっといいものを買いたいけれど100円で我慢する」という時代は終わり、「この商品は100円が妥当」「もはやNBを買う必要を感じない」といった購入の判断基準を大きく変えたのが100円ショップだとおもいます。

──コト消費に対する需要が高まるなかで、モノ消費は縮小傾向にあるということでしょうか。

木村 ネットを駆使すればとことん安いものが見つかりますからね。昔はCDを買わないと音楽が聴けませんでしたが、いまは1曲ずつダウンロードする時代で、YouTubeにアップされていれば無料で聴くことができます。

若者は背伸びをしてモノにお金を掛けることをナンセンスだとおもっていますよね。安いものや無料のものをいかに見つけられるか、活用できるかが求められている現代に100円ショップはなくてはならないですし、100円ショップは現代の日本に非常にマッチしている業態なのだとおもいます。