2019年は「デジタルと人間の役割分担」が見えてくる年になる

小売業に一家言あるコンサルタント・実務家の方々に、2018年を振り返りつつ、2019年の展望を語っていただく特集企画「小売業界2019年業界展望」。デジタルシフトウェーブ社長の鈴木康弘さん後編です。デジタルシフトのためには創業トップが作った王国を法治国家に変える必要があると言います。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

サラリーマンは小売企業変革のリーダーには向かない

——デジタルシフトに取り組むうえで大切なことはどのようなことでしょうか。

鈴木:経営者の意識が変わらないとどうしようもありません。

もう1つ大事なことは、経営者がすべてことを分かるわけではないので、どのように推進体制を構築し、プロジェクトを作り、社員の教育をしていくかということです。

また、業務プロセスというものは現場から生まれますので、現場の人たちがボトムアップで改革を推進できるような体制にしていかなければなりません。それから、ほとんどの企業はシステムの開発を外部の企業に委託していますが、少なくともプロジェクトマネジメントは社内で行うべきでしょう。

体制さえ立ち上げられれば、あとはトライアンドエラーで改革を推進することができます。それと、誰がリーダーをするかということも重要です。

――本来であればどういう方がどういうリーダーにおかれるべきだと思いますか。

鈴木:欲をいえば次の3つを経験している人ですね。デジタルをある程度分かっている。小売の現場も分かっている。最後に会社をつくったことがある。

――ゼロベースで何かを立ち上げた経験がある人であればなおよいということでしょうか。

鈴木:そうです。新しいことをやろうとすると、必ず抵抗勢力が出てくるんですよ。その抵抗勢力を抑え込みながら進めていくためには、実績を積み上げていくしかないのですが、これはなかなか…言葉が悪いかも知れませんが、サラリーマン育ちだとできないのではないかと思いますね。一般論として、反骨精神がある人は課長ぐらいで切られてしまうケースが多く、権限のある部長クラスまで上がってこないんです。

創業トップが作った「王国」を「法治国家」に変える

――組織の変革において大切なこととはなんでしょう。

鈴木: 小売業や外食業の企業は、トップの方が真剣に変革したいと思っていらっしゃることが多いので、やりやすいのではないかと思います。

ただ、そのような企業さんは、トップダウンで成長してきたのですが、デジタルシフトをするときは、ルールがないといけません。トップの「勘」はデジタル化することができないのです。

いわば創業トップの方は、みごとな王国を作ってこられたのですが、その王国を、法治国家に変えていかなければならない、ということです。

そして、ルールは真ん中に置いていただいて、何かを指示するときはルールを変えるように指示するのです。現場からの意見も、このルールのここを変えたいと言えるようにしてあげるのですね。

ーーつくったルールに誰でもアクセスできるような状況をつくっていくということですね。

鈴木:はい。ただ、ルールというものは5年も経つと陳腐化してしまいますから、これを変え続けていく風土が大事になってきます。

例えば、GMSは今業績が厳しい状況ですが、それは70年代、80年代の、その業態がよかったころのルールが固定化してしまって苦しくなっているんだと思います。

――柔軟にルールを変えていくことが大切なのですね。

鈴木:そうですね。それと今はもう1つ、デジタルの波がきているから大変ですよね。

ITというと小売業の方は苦手意識を持たれる方が多いのですが、ITは1か0のデジタルの世界ですから、失敗しないようなマネジメント手法も確立されているので安心していただきたいなと思います。

2019年以降、消費税の増税、オリンピックなど、日本経済は激動の時代になるでしょう。大阪万博や外国人受け入れというプラスの要素はあるものの、1回は落ちるでしょうね。そうなると、今までの常識は通用しなくなります。リーマンショックで景気が下がったときに欧米がカスタマーファーストに代わっていったように、日本でも同じことが起きるのではないでしょうか。

2019年から2020年にかけては、企業の未来を見据えた準備をしていくことが必要となります。ここに踏み込む会社と踏み込めないかで、ウォルマートになるかシアーズになるかが決まるのです。

2017年には、アメリカのトイザらスが破綻しました。トイザらスはもともとAmazonに出店していたのですが、気づいたらAmazonに顧客を奪われていたわけですよ。自分でも一生懸命ECを展開していたのですが、彼らのECは中途半端だったのですよね。デジタルには規模や地域の優位性がありません。スピードと知恵の勝負です。

人件費削減のために省人レジ導入する日本 VS カスタマーファースト目指すAmazon

鈴木:2019年のポイントの一つはAmazon Goだと思っています。2021年に3,000店舗を展開するということですが、これまでに数店舗を出店するごとに毎回レベルアップしています。私も実際に体験してみましたが、レジがないと本当にストレスがなくなります。日本の小売業は人件費削減のために無人レジやセルフレジを導入しようとしていますが、Amazonが目指すのはカスタマーファーストなんです。

仮に日本にAmazon Goが1万店舗できたとすると、他のコンビニには行かなくなることでしょう。

日本の小売業がスーパーやコンビニのレジを無くそうという発想にならない理由は、レジが接客のポイントだと思っているからです。しかし、レジでいらっしゃいませと元気に言うことは接客なのでしょうか?

ーー小売の決済方法を含めた今後の潮流として、RFIDですとか、セルフレジですとか、いろいろ規格が乱立していますが、その中でもAmazon Go方式が一般的になるということでしょうか。

鈴木:物流についてはRFIDでもいけると思いますが、人の動きは激しいので店舗での移動はRFIDでは捉えきれないはずです。でも日本は基礎技術が高いですから、カメラの技術、センサーの技術を使って何かしようというところが出てくるとおもしろいですね。

先ほどのルールの話になるのですが、チェーンストアオペレーションによって統一化されている部分のデジタル化は進むと思うのですが、地域や客層によって品ぞろえが異なるという部分をどう変えるかが重要です。ここはIT技術だけではなくて、「人」の介在がものすごく大事になってくると思います。

2019年は、その「デジタルと人間の役割分担」が見えてくる年になるのかなと思いますね。ここに気づいている企業は、ウォルマートのように自社でIT人材を確保し、教育もしていくことになるのではないかと思います。

ーー先ほどからお話を伺っていますと、ITシステムに関しては外部ベンダーの活用という話が多かったのですが、本来的には日本企業も内部に開発体制をもっていかないと、ビジネスの変化についていけないのではないでしょうか?

鈴木:そうですね。昔は会計システム、POSシステムを5年に1度作り替えれば十分でした。しかし今や日々更新をしていかなければなりません。それを外部ベンダーに依頼すると非常に高くつきます。

それならば、自社内で現場を見ながらシステムを変えていくことができる人材を育成していかなければなりません。2020年から小学校でのプログラミングの授業がはじまりますが、15年後を待っていては遅いですよね。

何度も言っているように、2019年は、人や組織の意識変革の必要性に気づくのではないかと思います。金融は2018年年末ぐらいからフィンテックやブロックチェーンに意識が向いてきていて、リストラもスタートしています。少し遅れて流通、さらに遅れてメーカーさんで意識変革がはじまり、同時に人の争奪戦がはじまることでしょう。

ーー2019年は意識変革と人材育成の元年になりそうですね。本日は、ありがとうございました。

約2,000店分の原材料を供給できる野菜工場をセブン-イレブンが開設

セブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン-イレブン)とプライムデリカは、「完全制御型野菜工場」(神奈川・相模原市)を2019年4月に稼働させる。サラダなど惣菜を製造する専用工場と野菜工場を一体化させて商品の安定供給を図っていく。

外葉も捨てず、歩留まりも向上

工場内のリーフレタスは種まきから収穫まで38日と露地栽培(70日)の3分の2の日数、「野菜自動生産室」1室当たり(340㎡)の年間生産量は108tを計画し、同じ面積で比較すると露地野菜の平均収穫量1.1tの約100倍の生産が可能となる。野菜工場は2019年1月から2室でスタートさせ、2020年3月からフル稼働(11室)させる。フル稼働後は1日当たり約3tが収穫でき、現行のセブン-イレブン商品に適用すると約2,000店分の原材料になる。

なぜ野菜工場なのか?セブン-イレブン代表取締役社長の古屋一樹氏は次のような問題意識を語る。

「原材料を安定的に供給できるのかが(セブン-イレブンにとって)重要な課題。農業に従事する人が減少し、過去に例を見ない異常気象が続き、価格を含めて良質な原材料を常に仕入れることが難しくなってきた。その意味で、この野菜工場は、すごく大きな第一歩になる」

古屋氏が語る「安定的な供給」は大きなメリットになる。雨風や虫や病気の影響を受けない閉鎖された環境で安定的に収穫できるのは間違いない。

2019年1月の稼働開始前に記者会見に臨んだセブン-イレブン・ジャパン代表取締役の古屋一樹氏(左)とプライムデリカ代表取締役社長の齊藤正義氏

近年、天候不順により、全国各地で葉物野菜の品質が悪化して、価格上昇を招いている。特にリーフレタスは、褐色化や傷み、生育不良が原因で、良品の原価が上昇、それがサラダなど商品の製造原価に跳ね返っている。その点、工場生産は、天候の影響を受けず、良品を安定的に供給できるので、メリットは大きい。

また、工場生産は、土や虫と触れないので、外葉の除去が少量で済み、虫などの異物混入による選別が不要となり、歩留まりが向上する。商品原価の低減にもつながるだろう。

また、商品の鮮度も向上する。野菜工場は製造工場と直結しているので、収穫から短時間の、鮮度の高い野菜を、そのまま製造工場で使用できる。

工場を運営するプライムデリカ代表取締役社長の齊藤正義氏が強調したのが「安全性」である。露地物のレタスは、雨が降ると、その跳ね返りで土壌が付着して細菌数が増える。特に夏場は細菌数が非常に多くなる。しかし工場だから細菌数が低いとは限らない。工場で生産した他社のレタスの細菌数を調べたところ、露地物と同じレベルのものもあったという。

そこで土や虫が付かないように工場を完全密閉型とし、センサーやロボットを最大限に活用してオートメーション化を推進、さらに人の手を介さない生産ラインに注力した(※画像は本格生産前のため人が多い)。種まきから良品の選別、野菜を育てる上下の棚移動まで人の手を介さず、細菌の付着を極力抑えている。2019年春には収穫する際も人の手を遣わずに自動化する計画である。

播種(はしゅ)/種まきの工程。栽培専用の「コマ」を使用、自動化技術を用いて、土台となる寒天を注入して、種をまく。
棚は全部で8段ありLED光は3種類。生育状況に合わせて連続的に自動で移動。上下移動はフォークリフトを用いる。安川電機の技術を取り入れている

イチゴショートの年間製造も可能に

消費者への訴求点としては、完全無農薬栽培による安全・安心が大きい。虫や病気の心配がないので農薬が不要となる。もう一つは、LED照明を使用した光制御技術により、通常のレタスよりも多くのビタミンCが付加されること。仮にホールで販売するときは「栄養機能商品」の表示が可能だ。

LED照明とオートメーション化による栽培は、玉川大学との産学連携により、2014年より試験栽培を開始した。2016年には試験プラントを建設した。しかし、ここでは自動栽培設備に課題を残したため、翌2017年には安川電機の技術を借りて、「野菜自動生産システム」の検証をスタートさせている。研究機関や専門メーカーとの協業により、付加価値の高い野菜工場が実現した。

LED光制御技術は玉川大学との共同開発技術。紫色の光はビタミンCを増加させる効果がある。

現状の生産品目はレタス3種類(フリルアイス、イノベーションレッドグラス、美味タス)。

また、開発中の品種は、ほうれん草、イチゴ、パクチー。栽培のプログラムは完成している。ほうれん草とイチゴは年間を通じた確保が困難な食材なので自社工場において周年生産を目指している。「イチゴが工場で生産できれば、おいしいショートケーキを年間でお届けできる」(井上氏)と期待する。

テスト製造したリーフレタス。プライムデリカでは、これ以外にも、海老マヨのサラダ、豚しゃぶのサラダに使用する予定

懸念材料としては消費者が工場出荷の青果物をどう受け止めるかだ。人の心理が合理的に動かないことはセブン-イレブンが一番よく知っているはずだ。

地震や水害による「停電」発生時のリスクもある。送電が止まれば工場生産もストップする。ただし、野菜工場を含む当該の相模原工場は、自家発電2,000キロワットを備えており、72時間の間は工場全体を稼働させられる。

投資金額はフル稼働までで60億円を計画、植物工場から加工品生産までの一気通貫は、日本では初めての取り組みとなる。日常の「買い場」であるコンビニにおいて、消費者が工場生産の野菜を、どう受け止めるのか、広報や販促も今後は必要になるだろう。

小売業の正月休み増加、10連休など年間休日増加

「働き方改革」の影響で、労働者の休日を増やす政策が加速しています。今年の正月を休日にする小売・サービス業が、一気に増えた平成最後の正月でした。私の自宅近くの「サミットストア」は、1月1日と2日を2連休としました。月刊MDを創刊した20数年前は、正月三が日を休む小売業も結構ありましたが、その後は、年中無休が常識になり、24時間営業店も増加し、小売・サービス業の営業時間はずっと増えてきました。

12月31日15時から1月1日終日を全店休みにして話題になったラーメン店チェーンの「幸楽苑」の新聞広告。

小売・サービス業の正月休みが増加した平成最後の年

しかし、2019年からは、正月休み、お盆休みなどを取る小売・サービス業が増えていくと思われます。最大の理由は、労働人口の減少によって、慢性的な人手不足が続いており、「正月くらいは休める」ということを採用対策、ES(従業員満足)向上の目玉にしようと考える企業が増えていることです。また、休日を問わずアマゾンでなんでも買える時代に、無理して正月営業をする経済効果はどの程度なのか? という議論も出ています。

冒頭写真のラーメン店チェーン「幸楽苑」は、12月31日の15時から1月1日の終日、全店を休みにして大きな話題になりました。また、11月に幸楽苑の社長に就任したばかりの新井田昇・新社長名で、12月31日の朝刊に「2億円事件」という見出しの新聞広告を掲載したことも大きな話題になりました。

広告内容を要約すると、『いつからでしょうか。お正月にいろいろなお店が営業するようになったのは。私たち幸楽苑も、いつしか年中無休のラーメン店チェーンを売りにしていました』『企業にとって売上や株価は大切ですが、新社長としての初仕事は「働く人の気持」を守ることです。1月1日の売上は「およそ2億円」にのぼりますが、「働き方改革を、お正月にも」との思いから、創業64年で初めて元旦の休業を決めました』

また、自動車販売店の「レクサス」は、12月28日~1月4日を休業にしました。以前は、正月休みには「新車の初売り」のテレビCMがずっと流れていましたが、そういえば今年は新車の初売りのCMが少なかったですね。季節の風物詩だった「正月に新車を見に行く」というライフスタイルも廃れていくのかもしれませんね。

ドラッグストア(DgS)ではサッポロドラッグストアーが一部の店舗を除き2019年1月1日を休業としたそうです。この流れはいろいろな業態に波及していくことが推測されます。

今年のGWは10連休。どんな変化が起こるのか?

皇太子さまが即位される2019年5月1日と、皇位継承のための「即位礼正殿の儀」が行われる2019年10月22日を、1年かぎりの祝日にする法律が11月13日に閣議決定されました。そうすると今年のGW(ゴールデンウイーク)は10連休になります(下記図参照)。

その結果、2019年は、土日祝日、年末年始休暇(12月20日~1月3日)を合計すると、年間休日日数は125日。なんと1年の34%が休みになります。休日が増えると「働き方」も変化しますが、消費の仕方も変化すると思います。

BIGLOBEの調査によれば、「GWに何をして過ごしますか?」という質問に対して、第1位が「自宅で休息する(41%)」、第2位が「決めていない(27.4%)」と、この二つの回答で58.4%を占めます。そして第3位が「ショッピングに行く(24.0%)」です。ちなみにGWの出国ラッシュが毎年テレビで話題になる「海外旅行に行く」と回答した人はわずか2.2%です。そういう意味では、10連休の時間の使い方を決めていない消費者に来店を促すことができれば、10連休は小売・サービス業にとっては大きなビジネスチャンスになります。

また、10連休の期間は、保育施設も休日になるので、日頃、子供を保育施設に預けて働くお母さんにとっては、10連休は大きな負担になり、10連休の大きな弊害といわれています。10日間、子供とずっと一緒にいるお母さんが、リアル店舗に行きたくなるようなイベントやサービスを企画してもらいたいですね。

真のデータ分析ができる企業とそうでない企業に分かれていく

小売業に一家言あるコンサルタント・実務家の方々に、2018年を振り返り、2019年の展望を語っていただく特集企画「小売業界2019年業界展望」。前回に引き続き、店舗のICT活用研究所の郡司昇さんに2019年の展望を伺います。郡司さんはデータの利活用が企業の業績の鍵を握ると考えているようです。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

データをいかに活用するかがカギを握る

――ここまで、2018年を振り返っていただきましたが、2019年の小売業はこうなるのではないかという展望をお聞かせください。

郡司:「データの活用」です。現在も顧客データを統合するということで、さまざまな会社で自社サービスのデータを統合しましょうという動きがありますが、データを統合するのが精一杯で実際に活用できていない会社が多いんですよね。

自社での顧客の行動は見えるので、ターゲティングはできるんです。たとえば、「この人は以前は毎月来店していたけれども、この半年間は来店していないね」という人にだけクーポンを配信して来店を促すということはできますが、そこまでで終わってしまっています。

それを、「なんでこの人は化粧品を買わなくなってしまったんだろう?」「なんでこの人はサプリメントを飲まなくなってしまったんだろう」というところまで掴んで、自分たちのサービスに足りないものが何かということや、この先の事業展開を考える人がいるかどうかによって、企業は分かれていくだろうと思っています。

例えばクレディセゾンさんがDMP(※)事業を立ち上げて推進していますが、、2019年はそうしたビッグデータと自社のデータをぶつけて顧客行動を分析するという、集めたデータを活用する年になるのではないかと思っています。

※DMP(Data Management Platform):インターネット上のサーバーに蓄積されるビッグデータを一元管理して、分析し、最終的に広告配信などのアクションプランの最適化を実現するためのプラットフォームのこと。

5Gの登場でIoTが爆発的に進化する

――技術的な面ではどうでしょうか?

郡司:2019年からいよいよ5Gの本格的な実験がはじまりますよね。これまでの2G、3G、4Gは大容量化・高スピード化という流れでした。その延長線上で、4Gでは動画が見られるようになったが、5Gだったら映画が数秒でダウンロードできるといった話ばかりクローズアップされがちです。

ですが、5Gではネットワークスライシング(※)という、これまでと非連続の変化が起きます。

※ネットワークスライシング:それぞれの用途や市場のニーズに合わせて通信スペックを最適化して提供する、通信サービスを多様な条件で切り売りできる機能。「高速で大容量」、「超高信頼で低遅延」、「遅いけど料金も安い」など、スペックに分けたサービスを、それぞれの料金を別にして提供できる。

従来の通信料はSIM課金で、1番安い事業社で、初期費用約900円、月額費用は約300円というところでした。つまり、たとえばゴミ箱のふたにセンサーをつけて「ゴミ箱のふたが開いているかどうか確認する」というだけのソリューションでも、最低月額300円かかってしまうのです。

ですが、IoTというものは、たとえば飲み物のコースターにセンサーが入っていて、飲み物が減ったら注文を取りに来るというような、本当に細かいものにまで入ることで可能性が広がります。だからかかる費用が高いと実現できないんですよね。これが月額10円でできるようになれば全然違うサービスが成り立つはずです。

リアルにあるアナログデータがデジタル化されて、そのデジタル化されたデータをクラウドに放り込み、そのデータを利用してAIがシミュレーションする。そして、そのようになった原因はなぜで、どうすればいいのかという打ち手は、人間が考えましょう…そんな流れがより現実化されていくと思います。

——小売業の動きの中で、注目している企業はありますか?

郡司:いっぱいありすぎますね(笑)。一番気になっているのは、シアトルで見た「b8ta(ベータ)」ですね。店内にはベンチャー企業のつくったIoT機器が並んでいて、それを手に取る顧客の行動データを、展示している会社に販売することで成り立っている会社です。

これからは、商品だけでなく、情報を売ることでマネタイズするという時代になるのだろうなという点で、「b8ta」はおもしろかったです。

そしてやはりAmazonですよね。

――そうですね。Amazonは、今となっては小売業界の人は誰でも気になる存在です。

郡司:進化しているんです。変化が常に起きています。あとは中国の動きも気になりますね。

――大変興味深いお話を本日はありがとうございました。

2019年、小売・流通業の7つの重点課題

新年あけましておめでとうございます。2018年6月から配信を開始したMD NEXTも、新しい年に突入します。すべてのモノやビッグデータがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)社会の到来で、2019年以降、小売・流通業の「売り方」や「作業」は大きく変化します。変化対応すべき2019年以降の重点経営テーマを整理してみました。

取扱商品の90%近くが「Trader Joe’s」ブランドのオリジナル商品なので、アマゾンと完全な差別化に成功しているTrader Joe’s。

わざわざ店に来てもらえる、リアル店舗の価値づくり

2019年の重点経営課題を以下に整理してみます。

2019年の重点経営課題
(1)リアル店舗の価値づくり
(2)ブランディング・商品開発
(3)ESとCSの向上
(4)行動改革と、強い企業文化づくり
(5)生産性革命(省人化・無人化)
(6)スマートストア化
(7)個別化(パーソナライゼーション)

 

第1の重点課題は、「リアル店舗の価値づくり」です。ネットで何でも購入できる時代において、われわれ小売・流通業に関わる者は、わざわざ時間とコストをかけて、リアル店舗に足を運んでもらえる「価値」とは何なのか? を自問自答し続けることが重要です。

リアル店舗の価値を真剣に追求するためには、「人手を減らして販管費を減らし、営業利益を増やす」といった会社の御都合主義を否定し、今取り組んでいることが本当に顧客のためになるかどうかを常に自問自答する、真の「顧客第一主義」に転換できるかどうかが何よりも重要です。そして、ネットにはなくてリアル店舗だけが提供できる「触って試せる」「試食できる」「相談できる」「楽しい。ワクワクする」などの価値を磨き続ける必要があります。

第2は、「ブランディング・商品開発」です。リアル店舗の価値づくりのためにも、アマゾンでは販売していないオリジナル商品を強化することが必要です。しかし、かつての商品開発のように、「パッケージは有名ナショナルブランド(NB)そっくりで、価格は安いが、値入率は5割取れて儲かる」という会社の御都合主義のプライベートブランド(PB)だけでは、顧客の支持を得ることはできません。

これからの商品開発は、その企業の顔となるブランドとして開発すべきです。ブランドとは何かと問われれば、それは「信頼」のことです。「あの企業が自信をもって薦めてくれる商品は信頼できるし、使い続けたい」と顧客が信頼するブランドを確立することが、真のブランディングです。小売業が仕様書発注して開発するPBだけではなくて、メーカーと共同したSB(専売品)開発も重要なブランディング戦略です。

冒頭の写真の「Trader Joe’s」は90%近くがオリジナル商品(PBとSB)なので、アマゾンと完全に差別化できています。「Trader Joe’s」のブランドが、アメリカの消費者に大人気の理由は、「安さ」よりも、その商品に対する「信頼」の強さの方が大きいと思います。

行動改革と強い企業文化づくり

第3は、ES(従業員満足)とCS(顧客満足)の向上です。多くの小売業幹部は、CSの向上には関心が高いのですが、ESの向上については後回しになっています。大切なことは、ESとCSの向上は車の両輪であり、切っても切れない関係だという認識を強く持つことです。ESが低い店が、不思議とCSだけが高いということはあり得ません。

ESが低くて短期離職が絶えず、常に人手が足りない店や、やる気の無い従業員がダラダラと働く店では、CSは向上しません。一方、従業員がやりがいを持って働いている店は、採用コストが抑えられるだけでなく、業務への習熟による生産性の向上にもつながります。ES向上→CS向上→生産性向上の良いサイクルをつくることが重要です。

第4は、「行動改革と強い企業文化づくり」です。強い組織をつくるためにもっとも重要なことは、組織に属する人材の「行動改革」です。意識改革をいくら教育しても、行動が変わらなければ意味はありません。経営者が言っていることと、現場の行動が異なる、つまり「言っていることとやっていること」の異なる組織では競争に勝てません。

かつてのように、強者が弱者を駆逐してきた競争とは異なり、これからの競争は、「強者対強者」の「僅差の勝負」になります。「魂は細部に宿る」という言葉もあるように、現場での「行動」の細部を突き詰められるかどうかが勝敗を分けます。

企業経営は、「企業文化づくり」に始まり、「企業文化づくり」に終わると言われています。企業文化とは、その企業の「経営理念」や「経営哲学」が、単なるお題目ではなくて、その企業に属する社員全員の意識に深く浸透し、それが全員の「行動」の変化に結びついた状態のことをいいます。行動改革を繰り返して、強い企業文化をつくることが、もっとも重要な差別化戦略であると思います。

顧客接点は有人化、単純作業は無人化

第5は「生産性革命」です。労働人口の減少による人手不足の影響は、小売・流通業の人件費の上昇、引いては販管費の上昇を招いています。労働集約産業である小売・流通・サービス業の「生産性革命」は、今年以降のもっとも重要な経営課題です。

これからのリアル店舗の生産性向上は、アマゾン対策としても、顧客との接点は人間が丁寧に保ちながら、接客を強化する必要があります。一方、顧客接点以外の単純作業は、徹底的に省人化・無人化を進めるべきです。顧客接点は有人化、それ以外は無人化の二面作戦が、これからの小売・流通業の生産性向上のロードマップです。

第6は、「スマートストア化」です。ITの進化、IoT社会の到来で、リアル店舗の「売り方」や「作業」は大きく変わっていくことでしょう。「キャッシュレス店舗」、「カメラを活用した購買行動の可視化」「カメラを活用した欠品の可視化」、「サイネージ広告」「電子棚札を活用したダイナミックプライシング」など、リアル店舗の売り方と作業は大きく変化していきます。その元年が2019年になると思います。

新生堂の完全キャッシュレス実験店、レジ関連作業を84分から34分に短縮

IoT社会の到来で棚割、価格、販促の「個別化」が進む

第7は、「個別化(パーソナライゼーション)」です。前回の連載「IoT社会の到来で棚割、価格、販促の個別化が進む」で説明しましたので、詳細はその記事を参照してください。従来のチェーンストアは、「標準化」することによって効率を追求するビジネスモデルでした。しかし、これからはIoT社会の到来で、チェーストアの「売り方」が個別化していきます。「標準化」から「個別化」の時代が到来しようとしています。「売り方」の個別化は、以下の3つに分けることができます。

個別化する3つの売り方
(1)棚割の個別化
(2)価格の個別化
(3)販促・接客の個別化

 


日本の小売業は大手企業の寡占化が進み、かつてのように新興勢力が急成長し、既存勢力を大逆転するようなことはもう起こらないのかと思っていました。しかし、IoT社会の到来という革命的な変化によって、ビジネスの主役が変わる「激動の時代」が到来すると思います。

「現在の売上規模が大きな企業が生き残るのではなくて、変化に対応できた企業だけが生き残る」。ダーウィンの進化論にも似た「下剋上」が始まるかもしれませんね。

中国小売業の急先鋒、盒馬鮮生(フーマー)。「ワクワクする売場」に感じた「強さの本質」

成長著しい中国の小売業についてはいろいろ報道されていますが、実際に日本の小売業で働いている方の情報発信はあまり多くありません。本記事では、小売業に薬剤師(マネージャ)として勤務しながら、自身のブログでOTC医薬品の情報を発信している薬剤師ブロガーのkuriさんが、中国でアリババの経営する食品スーパー「フーマー」を訪れたときに感じたことを寄稿いただきました。(執筆:kuri / twitter @kuriedits )

話題の中国リアル店舗を実際に見に行ってみた

「ネットでは味わえない、店ならではの価値をいかにお客様に提供するかーー」

年々高まる国内市場のEC化率。店舗に勤務している方はネットとはちがう、リアル店舗ならではの魅力を模索していると思います。

私自身もそのような立場です。市販薬の業務に携わる薬剤師として、店の価値を高めることも仕事であり、そこに日々頭を悩ませています。そんななかで近年、「中国の小売業がすごい」という声を業界内で頻繁に見聞きするようになりました。中国のリアル店舗には日本では見られない様々なサービスがあるというのです。

そこで今秋、中国の北京へ行き、大手ドラッグストアの「ワトソンズ」「マニングス」、大手薬局の「同仁堂」、大手スーパーの「カルフール」などを一消費者として見て回りました。

どれもそれぞれに良さがありました。しかし、最も店舗の魅力を感じたのは、こうしたリアル店舗主体のチェーンストアではなく、新興ネット企業が作ったスーパーマーケット「盒馬鮮生」(以下、フーマー)でした。

フーマーは、中国最大のネット通販グループ「アリババ」が2016年から国内で展開しているスーパーマーケットです。年間流通総額でアマゾンをも超えるアリババは近年、オンラインとオフラインを融合させて新たな顧客体験を創る「ニューリテール(新小売)」を目指しています。フーマーは、ニューリテールを象徴する、新しいスーパーです。たとえば、店内に掲示された専用アプリで商品を注文すれば自宅まで配送してくれます。店内はフリーWiFiが備えられていますし、アプリを知り合いに紹介すると15元(邦貨換算約240円)プレゼントするキャンペーンを打ち、ネットへの導線を設けています(2018年11月現在)。

私服姿のピッカーがネットで受注した商品を売場からかき集め、天井を走る配送レールに乗せて送るユニークな光景も見られます。もっとも、このような店頭でアプリを使った配送サービスは日本でも珍しくはありません。私がフーマーに感動したのは「売場づくり」です。

ワクワク感に満ち溢れたアミューズメント施設のような食品スーパー

フーマーの売場は、一言でいえばワクワク感に溢れています。まず入口の青い電光掲示からして、スーパーというよりはアミューズメント施設を思わせます。

店の入口には種類豊富なフルーツコーナーがあり甘い香りが漂ってきます。その奥にある飲料ゾーンは、どの商品も整然と美しく並べられており、棚の照明も非常に明るく商品が映えます。スタッフは遠目からも一目でわかる水色のカバのマークの入った制服(トレーナーやシャツ)を着ていて垢抜けています。

なにより売場で驚いたのは、幅1メートルほどの水槽が20個近く並べられた海鮮コーナーです。ここではカニや魚が何十匹も水槽の中で動いて、生きた状態で売られています。見慣れない平べったい魚や、何種類もの貝など目を引く生き物も多く、親に連れられた子供がおもしろそうに眺めている様子は、さながら小さな水族館です。一方、水槽の裏側では水揚げされた貝やカニが積まれ、氷の上には牡蠣がドサッと乗せられていて、こちらは市場のようです。

しかも、魚介類をその場で調理してくれるサービスがあります。お客は茹でる、炒めるなどのメニュー表から調理方法を選んで専用窓口で注文します。価格は500gで15~30元(邦貨換算250円~500円ほど)ほど。自宅で料理をしなくても、その場で新鮮な魚介類を堪能できるというわけです。これはアメリカ発祥の「グローサラント(グロサリー+レストラン)」と呼ばれる形式で日本にも導入され始めていますが、生きた食材をその場で捌いて料理を提供するのはそうないでしょう。

さて、売場を堪能した後はお会計です。フーマーでの会計はアプリによる無人レジでの電子決済です。自分が購入する商品を店員に見られずプライバシーが守られますし、電子決済であれば短時間で会計が済みます。有人レジは1台だけあり、現金支払いもできましたが、私が見た時はほとんどのお客は無人レジを利用していました。

このように店舗を見ると、ワクワクするような水槽の演出、センスのあるスタッフの制服(トレーナー)、商品が映える近未来的な電光、親近感の湧く愛らしいマスコットキャラクター、清潔感のある店内、高品質な品ぞろえ、スピーディな会計など基本的な部分の質が非常に高いと感じます。

フーマーは日本の国内メディアからも注目されており、そのネットと店舗の融合の取り組みが紹介されています。ただ、私が見て感動したのは圧倒的に売場でした。フーマーは小さな水族館を除けば、一つ一つのサービスに新しさはありません。しかし、これほど洗練された日本のスーパーはすぐに思い浮かびません。このレベルの店が沢山できたらと思うとゾッとします。といっても既に北京・上海などに100店舗近くあるそうですから、実験店という枠はとうに超えています。

アメリカではアマゾンのリアル店舗が増えています。いずれ日本でも、アマゾンやアリババのような、ネット企業が出店する店舗が次々と登場しても不思議ではありません。それらの店は、既存のチェーンストア顔負けの、便利でワクワクする完成度の高い店舗になるかもしれません。

上等じゃありませんか。ネットショッピング全盛の時代において、これからのリアル店舗がむしろますます面白くなることを歓迎したいと思います。

(写真はすべて編集部提供です)

※今回筆者が訪れたのは北京市内の百荣世贸店

■kuriさんのブログではOTC医薬品に関する情報を提供していますhttp://drugstore.hatenablog.com/

おまけ:個人で日本からフーマーに行く方法
今回私は大手旅行代理店で、北京への旅券と宿泊先を確保しました。北京市内には現地の中国の方がフリーで案内してくれるサービスがあり、事前に日本からでネットで申し込めます(ネット検索するとすぐにでてきます)。その際に「観光地近くのフーマーに行きたい」と伝えれば、店舗を調べて案内してくれます。中国では日本語はもちろん英語も通じないので、日本語ができる現地案内人を手配したほうがよいでしょう。誰でもフーマーに行くことができますので、ぜひご自身の目で見て体感してみてください。

DgS顧客満足度調査2018 お客様はあなたの店のここを見ている

月刊マーチャンダイジング2018年12月号に掲載された「DgS顧客満足度踏査2018」。39企業、509店舗が対象となった本調査では、調査員が訪問した店舗について自由に所感を記入してもらっている。本記事では4つの調査カテゴリーの評価が低かった店舗についてのコメントを抜き出してみた。お客様はあなたの店のこんなところを見ているという参考にしてもらいたい。

クリンリネスはアイスケース・トイレ・照明に注目

店舗設備・クリンリネスの総合満足度が低い店舗への意見から

入口やトイレにゴミなどがあり汚く、不快に感じました。医薬品の場所の前に、カゴが重なったものが積み重なって置いてあり、医薬品が見れないのでとても邪魔でした。すぐ隣に有資格者が商品の確認のようなことをされていましたが、こちらには全く気づかない様子だったので残念に感じました。単品アイスケースに黒いビニールに入った何かが隅にあったり、アイスケースの扉が汚く不快でした。悪いところが目立ったので低評価になりました。<総合満足度1 >

アイスのケースの底面に細かいゴミが沢山あり、不潔な感じがした。ドリンクの缶の箱をいくつも乗せたカートを引っ張っているスタッフがいたが、スタッフでなくお客様が通路の隅に寄って通れるようにしていた。化粧品のテスターのスポンジが使用した物ばかりで不快に感じた。対応してくれたスタッフは笑顔で感じよかった。<総合満足度3 >

競合と比較されてもこの店を選びたくなるような品揃えをいかに作るか?

商品陳列・品揃えの総合満足度が低い店舗への意見から

◎入ってすぐ、天井の低さ、店舗の狭さが気になる。釣り用品を多く扱っているため、釣りをする人には需要があり、そこが他店との大きな違いである。競合店が近隣に多数あるため、品揃えの点から物足りなさを感じてしまった。店員の接客、店内の清潔感は特に問題なく満足いくものだった。<総合満足度4>

◎店舗が古く雰囲気が暗い。品揃え、対応ともに特に大きな不満はないが、他にもドラッグストアがある中で、この店をわざわざ選ぶ必要も感じない。<総合満足度4>

問い合わせをしたいと思ったときにすぐ対応できる態勢が作れているか?

基本接客・商品知識の総合満足度が低い店舗への意見から

◎たまに行く店ではありますが、店長さんを見かけることがないのでスタッフに任せておられるのではないでしょうか。スタッフもまとまりがないのが客として空気感が伝わってくるのでこのお仕事を頂くことがなかったらあまり行かないので、知人に勧めることはできないです。<総合満足度1>

◎店舗内はキレイで品揃えも充分だが入店時の声掛けもなく風邪薬問い合わせ時にも特段ヒアリングもなく商品の提案もあやふやな感じでした。化粧品問い合わせするもわかる人がいなく対応してもらえずでした。価格は安くいいとは思いますが、まわりにはわざわざオススメしないとおもいました。<総合満足度1>

◎化粧品コーナーでテスターを試そうと思ったら、スポンジが見当たらない箇所が多数見受けられました。また、化粧品相談コーナー前でスタッフ同士私語をしていて、テスターを試していても全く声がかかることなく、スタッフを呼び出せるコールボタンも私語しているスタッフの横にあり声がかけにくい状況でした。

時間を置いて15分後再び化粧品コーナーを訪れたらまだ私語をしていて、ものすごく嫌な気持ちになりました。少し私語しているスタッフに目を向けるとようやくスタッフがきたが、「何かおさがしですか」と待たされた事に対して謝ることなく言われてとても嫌な気持ちになりました。レジの際も素っ気ない挨拶でもう二度と行きたくないと感じさせる店舗でした。<総合満足度0>

レジのオペレーションはスムーズか?お待たせしない配慮はあるか?

レジ対応の総合満足度が低い店舗への意見

◎個人的に麦茶を6本買ったのですが、金額が間違っていて、返金をお願いしたところ、レジを対応したスタッフでは返金作業ができなくて、登録販売者の○○さんと言う方がされたのですが、間違えてすみませんもなく、ポイントカードありますか?や、レジ対応のスタッフにやり方だけを教えて、さっさと終わりたそうな雰囲気を感じました。レジのスタッフはすみませんすみませんと何回も言われて、それでも、○○さんは顔色ひとつつ変えることなく、他人ごとのように感じたのも残念でした。今後はあまり、行きたくないお店です。<総合満足度1>

レジでは交通系のカードが使えるが店員の方が把握されてないのが残念でした。<総合満足度3>

レジでも、私を含めて5人並んでいましたが、他の店員はしゃべっており、すぐには違うレジを開ける事はありませんでした。棚の乱れも多く見受ける事がありました。<総合満足度3>

新生堂の完全キャッシュレス実験店、レジ関連作業を84分から34分に短縮

福岡県を中心にドラッグストア(DgS)・調剤薬局他の店舗を合計115店舗展開する新生堂薬局。2018年10月15日に九州では初となる、キャッシュレスDgS「ドラッグ新生堂スマートスタイル香椎駅前店」をオープンした。福岡市の「キャッシュレスFUKUOKA」というキャンペーンの一環の実証実験という位置づけだが、様々な発見があったという。

レジ後ろのサイネージで「現金が使えない」訴求

ドラッグ新生堂スマートスタイル香椎駅前店は福岡市東区の西鉄香椎駅ならびにJR香椎駅の徒歩圏にオープンした。駅前とはいえ周辺には住宅地が広がる郊外立地だ。売場面積は約40坪で、新生堂薬局の郊外標準店が250坪前後であるのと比べるとかなり規模が小さく、コンビニエンスストアのような使われ方を想定している店舗である。また、駅前であるがインバウンドを志向しているわけではなく、日常生活に沿った商品のみが品揃えされている。

売場面積は約40坪。平均的な店舗から品種や品目を絞っている。コンビニのように使える店舗を志向している。

一歩入店すると、レジの後ろの大型サイネージに赤地に白文字で「当店のレジでは現金が使えません」と大きく表示されているのが目に付く。入口付近には現金のチャージ機も3台並んでいる。この店舗は現金での決済は対応していない代わりに、クレジットカードはもちろん、各種電子マネーや交通系電子マネーでの支払いに応じる「キャッシュレス店舗」だ。

そのため、利用できる決済手段は幅広い。新生堂が提供するプリペイドマネーの「ハッピーカード」をはじめnanaco、WAON、楽天Edy、Apple Payなどの電子マネーや、nimoca、SUGOCA、はやかけん、Suicaなどの交通系電子マネーにも対応。d払い、LINE Pay、Origami Pay、楽天ペイ、PayPay、YOKA!Payなど、スマホ(QRコード)決済まで、多様な支払い手段を受け入れる。

店頭には3台のチャージ機を設置。うち2台がハッピーカード用で1台が各種交通系電子マネーや、nanaco、waon、楽天Edyへのチャージへ対応。

同社が「現金利用不可」という思い切った店舗を出店した背景には、福岡市の「キャッシュレスFUKUOKA」という取り組みがある。福岡市では「キャッシュレス FUKUOKA」というキャッチコピーのもと、消費者の支払い簡易化、民間企業の業務効率化、インバウンド消費の取り組み活動として、キャッシュレス化を推進している。この活動に賛同し、新生堂は完全キャッシュレス店舗としてこのドラッグ新生堂スマートスタイル香椎駅前店をオープンした。2019年1月に福岡市が開催する発表会で実験の結果を報告する予定になっている。

利用率はプリペイド35%、交通系電子マネー23%

新生堂は2013年4月からハウス型プリペイドカード「ハッピーカード」を導入している。店頭にある専用端末で現金をカードに入金して利用するもので、入金時と使用時にそれぞれポイントが貯まるので、お客にとってもお得な仕組みと人気だ。同社はもともとこのハッピーカードやクレジットカードの利用を推進していたため、既存店でも現金対それ以外の決済の比率が6:4と、他の小売業と比べてキャッシュレス比率が高い方だった。

ハッピーカードのアプリ画面。カードへの入金時と商品購入時にダブルでポイントがつくのでお客にとってはかなりお得に感じられる仕組み。

取材時は香椎駅前店オープンから数カ月で、使われている決済手段の傾向も見えてきた。最も使われている決済手段はハウス型プリペイドカードの35%、次いで交通系電子マネーが23%、クレジットカードが15%、WAONが10%、nanacoが5%。QRコード決済は各種合わせて5%程度にとどまる。

「誤差が無い」ことで、プレッシャーが無くなる

電子決済用の端末はPOSレジと連携しているので、レジ側の作業はお客が申告した決済方法をボタンで押すだけでよい。

キャッシュレス店舗を運営してみて、一番大きなメリットと感じたのは「現金の誤差が無いこと」だと、同社の代表取締役副社長兼COOの水田怜さんは語る。現金を扱っているという社員の心理的プレッシャーが軽減されるのは大きい。レジ締めをしてみて誤差が発覚すると、その原因を追求するのに膨大な時間が必要になるが、それも不要になる。従業員満足度向上のために、キャッシュレス化は一役買うというわけだ。

もちろん、店舗作業を大幅に削減できるのもキャッシュレスの大きなメリットだ。まだ実験の結果は出ていないが導入前の試算によると、それまで現金を取り扱っていたことにより、開店準備や精算、レジ点検、両替、レジ締めなどの作業に84分かかっていたところを、キャッシュレスにすることで34分にまで短縮できるという。レジにはマルチ端末を配備している。POSと連動しているため、お客様に決済手段を伺ったあと、決済手段を選択するボタンを押すだけでよいので、オペレーションも容易だ。

カードへのチャージ機があるため店内から現金がなくなったわけではないが、釣銭準備や現金管理コスト削減への影響は大きい。

キャッシュレスの説明から、接客につながる副次効果も

新生堂薬局によれば、レジ応対のスピードを、現金と現金以外の決済手段で比較したところ、一人当たり平均31秒ほど短くなったという。お客にとっても、いちいちレジで財布の中のお札や小銭を出す必要もなくなるので、レジ待ち時間が短縮され、顧客満足度向上につながる。自分の支払いが早く済むのもうれしいが、レジで自分の後ろに並んでいる他のお客を待たせずに済むというのもありがたい。

5年半年前、ハウス型プリペイドカードを導入した際に、ご高齢の方はあまり利用されないのではないかと考えていたのですが、意外とご高齢の方のほうが利用率が高いという結果になりました。小銭を出さずに済むのが便利という理由からのようです。いつもここの店で買物をするのであれば、1万円や5,000円をチャージ機やレジでチャージしたあとは、現金を使わずにスピーディーにレジを通過することができる。一度便利さを味わうと、もう後戻りはできません」(ドラッグストア事業部部長 馬場大輔さん)

また、キャッシュレス店舗というこれまでにないオペレーションを店舗に導入したことにより、お客に使い方などを説明するための接客の時間が増えたという。

ャッシュレスというと、店舗が機械的になるというイメージがありますが、説明をするためお客様とお話をする機会が増え、その流れでお悩みを伺うこともできるようになりました。逆に温かみのある接客ができるようになったように思います。精算業務の時間も減り、作業効率もよくなっています」と同店店長の山原雄太さんは語る。

「キャッシュレスは全く世間に浸透していない」

キャッシュレス=交通系電子マネーというイメージを持たないお客も多い(写真はイメージです)。

完全キャッシュレス店舗を運営したことで、気づかされたことは多い。その一つが、「キャッシュレス」の世間での浸透度の低さである。「キャッシュレスというものが、全く世の中に浸透していないということがわかりました」と水田さんは語る。

オープン日に「キャッシュレス店舗です」とお伝えすると面倒くさいと断られる。しかし、SUGOCAやnimoca、はやかけんなどの交通系電子マネーも使えることをお伝えすると一転して「それも使えるの?」と驚かれることが多いのだという。

「キャッシュレス」=「現金が使えない」=「ハウス型プリペイドカードを作らされる」と思い込んでいる人は多い。「交通系電子マネー」で店舗の支払いができるとは思っていない人が大半なのである。

さらに中国のようにキャッシュレスの決済手段がAlipayとWeChatPayが大半というような状況であればいいのだが、日本は決済手段が乱立していてわかりにくいというのもお客が混乱する一因となっているようだ。

「キャッシュレス」をお客にいかに伝えるか

ちなみに、同社がキャッシュレス店舗を出店するのに香椎駅前という立地を選んだのは、大学が近くにあるため若者が多く、60歳以上の人口が20.8%と他の地域と比較して高齢者が少ないことから、お客様の多くがキャッシュレスという新しい概念に親しみやすいだろうと考えてのことだった。しかし実際は高齢者でも交通系電子マネーの保有率は高く、一度利用さえしてもらえれば、継続利用に支障はないようだ。

順調にスタートしたように見える完全キャッシュレス店舗であるが、現在のところ新生堂は今後の水平展開を考えていない。今でも1日5名程度は「現金が使えない」と聞いて買物を途中でやめて帰るという。まだまだ現金だけでお買い物をしたいというお客様のニーズは根強い。将来的にキャッシュレス比率は50%程度まで引き上げたいと考えているものの、完全キャッシュレスへの道は遠い。

なお、意外なことにお客へキャッシュレスであることを伝えるための手段としては、レジ上や店頭のサイネージでの「現金は使えません」という訴求が中心で、店頭を見ただけではこの店舗がキャッシュレス店舗であるということはわからないようになっている。

ドラッグ新生堂スマートスタイル香椎駅前店店頭。キャッシュレスという言葉に抵抗感を覚えるお客もいるためキャッシュレスであるという告知文等はあまり目につかない。

「オープン時には、九州発のキャッシュレス店舗オープン!と銘打って店頭で訴求していたのですが、それを見て『私とは関係のない店だ』と思われたお客様も少なくなかった。我々はキャッシュレスという言葉はネガティブワードだと思っており、お客様に対してはなるべく出さないようにしています」(水田さん)。

キャッシュレス店舗の水平展開こそ行わないものの、この店舗で得られた経験は、他の店舗に波及させる予定だ。お客様への説明をどのようにすべきなのか、レジのオペレーションはどうするのかなど、様々な方面から検討し、現在展開している49店舗に広げて、キャッシュレス比率を上げていきたいと考えている。

今後キャッシュレス比率を高めるためには、お客にキャッシュレスであることをどう伝えていくか、どのような決済手段を選ぶべきなのかなどについて実験を続け、検討を重ねる必要がある。小売業の自己満足にならない店頭コミュニケーションを設計することに注力すべきだろう。

代表取締役副社長兼COO
水田怜さん

ドラッグストア事業部部長
馬場大輔さん

店長
山原雄太さん

DgS顧客満足度調査2018、選ばれる店の条件は「人の要素」だった

2012年にスタートした月刊マーチャンダイジングの「顧客満足度調査」。月刊マーチャンダイジング2018年12月号に掲載した今年の調査では39企業、509店舗が対象となった。この記事では、月刊マーチャンダイジングに掲載された記事の中から、今年の調査で判明した、「選ばれる店の条件」について紹介する。

基本的な調査項目と総合満足度に対する評価を集計

図表1は調査対象の企業と店舗名(屋号)の一覧である。ホールディングス(HD)傘下であっても異なる屋号で営業している企業は個別に調査している。また、調査店舗は9~18店舗の間で各企業の店舗数に比例させた。(図表はクリックで拡大可能)

調査内容は大きく2つに分けられる。

①基本的な調査項目:「店舗設備・クリンリネス」「基本接客・商品知識」「商品陳列・品揃え」「レジ対応」の4カテゴリー、合計32問、いずれも3点満点の基本設問。

②総合満足度に関する評価:「この店で買物することを知人に勧めることができますか?」という問いに対する回答を0~10の11段階で評価してもらった。

設問の全体像は、月刊マーチャンダイジング2018年12月号をご覧になってもらいたい。

各設問を総合満足度との相関から4つに分類

各調査項目の点数、総合満足度の点数に加えて重要なのが各設問と総合満足度との「相関」である。

ここで、今回の調査で重要になる「相関」と「相関係数」という概念について簡単に解説する。

要素Aが高い(低い)とき、要素Bも高い(低い)といったように2つの要素に関係性があるとき2つの要素には相関があるといえる(図表a)。

たとえば、「身長が高いと体重も重い」「塩分の摂取量が多いと血圧は高い」など、2つの要素(数値)の関連性を意味する。日常生活でもよく用いる考え方だが、それを数値化したものが「相関係数」だ。

本調査では、ある調査項目の評価が高いとき総合満足度も高ければ、その調査項目は重要(相関係数が高い)と考えた。正の相関係数は0から1の間に収まり、目安は図表bのようになる。

さて、図表6にある青いドットと番号は6〜37までの設問番号である。横軸は総合満足度と調査項目との相関係数を偏差値化したもので、数値が大きいほど、つまり右にあるほど総合満足度へ与える影響は強い、相関が強いことになる。

そして、図表6ではさらに各設問を4つの分野に分類した。戦略的、効率的に顧客満足度を改善、強化するためには、ポートフォリオで各設問がどこに位置づけられているかを俯瞰的に見て考えることが重要となる。

①重点維持分野:相関係数は高く、個別の満足度も高い。つまり、総合満足度に影響を与える項目の点数が高く、個別満足度(図表6タテ軸の数値)でも高い点数を得ている分野だ。

たとえば、設問番号29、「問い合わせした店舗従業員は丁寧に対応したか」という項目は相関係数の偏差値が75と今回もっとも総合満足度との相関が強かった。さらに、この項目は個別満足度でも56と目安の50を超えて好成績を出している。29に代表されるように「相関係数が高く」「個別満足度」も高いものは、重点的にその状況を維持すべき分野となる。一般的に取組み優先順位は4分野のうち2番目。

②維持分野個別満足度は高いが総合満足との相関は低い分野。できている項目なので維持には努力すべきだが、総合満足度との相関が低い。一般的に取組み優先順位は3番目。設問番号8「入口の段差への配慮」、個別満足度は61とかなりの高レベルだが、総合満足度との相関は35と目安の50を大きく下回る。入口の段差に配慮があっても、その店で買物することを知人に勧めようとはあまりおもわないということだ。

ベビーカー、車いすなどの通過頻度はさほど高くなく地味な項目ではあるが、整備は必要。ベビーを持つ母親は優良顧客であることが多いし、車椅子対応があるか否かは店舗の基本姿勢を表しており、長期的な地域の支持には影響を与えるだろう。ただし、優先順位から見れば、入口段差よりも先に着手した方がよい項目はあるはずだ。

③改善分野:個別満足度が低い、総合満足度との相関係数も低い。つまり、現状できていないのだが、そこに注力して改善しても総合満足度との関係は弱いので、一般的に優先順位は4番目の分野である。

設問番号31「牛乳の賞味期限の管理は徹底されていたか」は今回の調査でもっとも総合満足度との相関係数が低かった。これは、賞味期限の種類が1~3個のうちいくつあるかで、管理の徹底ぶりを見る調査だが、複数あってもそれほど不快や不信の念は持たないということだ。

④重点改善分野相関係数は高いが、個別満足度が低い。総合満足度に強い影響を与える項目にもかかわらず、点数が取れておらず、即改善が必要。一般的に、取組み優先順位は第1位の分野である。

設問番号27「従業員は常に顧客を意識した行動がとれていたか」という項目は、相関係数は71と非常に高いが個別満足度では44と目安の50に達していない。最大限の努力を払って優先的に改善すべき項目となる。この分野を上げることが顧客満足度を上げることにつながるので、特に重視すべきである。

今回は39社、509店舗の傾向を出したが、企業個別で調査をすれば、自社の顧客満足ポートフォリオをつくり改善・強化策を立てることができる。

総合満足度へ影響を与えるのは問い合わせ対応など「人の要素」だった

図表8は、総合満足度に影響を与える調査項目の上位10項目である。1位は問い合わせへの対応。2位は滞在時間中の従業員の態度、行動、3位が風邪薬の相談対応、4位が従業員の挨拶、5位会計時の挨拶、6位ファンデーションへの問い合わせ対応と、上位6位までが人の要素という結果になった。

こうした相関関係から考えると、従業員は常にお客を意識したキビキビとした態度をとり、いらっしゃいませの挨拶は欠かさず、聞かれたら答えられるという店舗運営態勢によって総合満足度は上がるということだ。

DgSは来店客との接点が持ちやすく、人による差別化がしやすい業態だ。接客や勤務中の態度・行動など「人の要素」は、小商圏の中で同業態、他業態に優位性を持てるところなので、積極的に磨くべきだ。特に「セルフ販売」という基本は持ちつつも、聞かれたら対応できる、なおかつその対応が好印象を与える、購買につながるという態勢づくりは重要だろう。しかし、人手不足のなか、この態勢づくりはそれほど容易ではない。

ちなみに「声掛け」に関しては、医薬品売場での声掛け(設問番号19)の相関は45、化粧品売場での声掛け(同25)の相関は42といずれも50に届いていない。これも「人の要素」ではあるが、声掛けがあったからといって、総合満足度が高くなるわけではないという結果が出ている。

しかし、営業上は声掛けから、カウンセリングに発展し購買に結び付くこともあるので、声掛けも軽視してはいけない項目といえよう。

いかに店を開け地域のニーズに応えるか~北海道胆振東部地震を乗り越えたツルハ【後編】~

2018年9月6日に起きた、北海道胆振東部地震を乗り越えたツルハの状況のレポート後編。相当な混乱下にあったにもかかわらず、早期に通常営業に戻ったツルハ。東日本大震災という未曽有の危機での経験が生きていたという。(月刊マーチャンダイジング2018年12月号より転載)

CASE2 札幌市豊平区・白石区エリアの対応

営業可能な店舗に優先順位を付け エリア全体の最適を考える

札幌市豊平区、白石区にある10店舗を担当するSV佐藤正也氏も地震発生時は自宅で就寝中だった。9月6日はツルハグループの全国のSVたちが拠点に集合してテレビ会議を行う日にあたっており、佐藤氏は10店舗の営業続行と会議への参加、両方を考える必要があった。そのため、軽々に店を回ることは得策ではないと考え、しばらくは自宅待機の態勢を取った。近隣のSVとグループLINEを組んでおり、SV間の連絡や情報共有は密に行っていた。店長たちからはそれぞれが店に向かうという連絡を受け、店舗に着いたら店の状況を写真で送るように指示を出した。

地震発生から1時間ほどたったころ、上司から当日のSV会議はキャンセル、店舗のサポートへ注力するようにという連絡を受けた。

佐藤氏は続々と届く被害状況の写真を見ながら、被害の規模、店長の店舗運営能力などを考慮して、早期復旧ができそうな店を担当10店舗の中から3、4店舗ピックアップ、まずはそれらの店舗の復旧と当日営業へ集中する方針を立てた。

午前4時15分ころ、優先順位の一番目に挙げた白石区にある菊水元町店に到着。店長とアルバイト数人が既に店に着いており、片付けを始めていた。この店は従業員の奮闘のおかげもあり6時ころには開店のめどがつき、佐藤氏は隣の菊水上町店に移動する。

「菊水上町店の被害が一番大きく、食品、酒の扱いもあったので、酒瓶が割れたりして店内はかなりダメージを受けていました。ここにもパート・アルバイトの方が応援に来て、復旧作業をしてくれました。店長方の日ごろのコミュニケーションや地域のお客さまへのおもいを伝えていたたまものだとおもいますが、どの店舗でも早朝、なおかつ自宅も被害があったにもかかわらず、従業員の方が大勢開店のために、店に来てくれました。なかにはお子さんを連れて店に来てくれた女性もいて、そこは本当に感謝しかありません」

菊水上町店も集まった従業員の働きにより、午前8時には営業することができた。佐藤氏が担当する10店舗のうち、1店舗だけはテナント出店しているオーナーの許可が下りず営業できなかったが、残りの9店舗はすべて当日営業をすることができた。

非常時には精算にも使えるハンディターミナル「POT」
什器の底部に付ける免震装備 揺れに応じて床をスライドすることで転倒を防止する。今回の地震でもこの装備のある棚は転倒しなかった

日々の意識づけこそが災害対策のカギになる

停電で信号機も消えており、交通に支障が出ることが予想されたため、佐藤氏は、その日担当エリアの一部地域にとどまり、そこで連絡を受け指示を出すという態勢を取った。上司からは細かく現状の共有や指示が出ており、それを必要に応じて店舗に伝え、店舗からの質問や相談に応じるというのが、開店後の主な作業になった。

停電に関して、翌日7日午前に10店舗中大半の店は復旧したが、白石区は復旧が遅れ、すべての店で復旧したのは、地震発生から2日目の8日(土)の朝だった。そこからは、佐藤氏は短縮営業から通常営業に戻るためのシフト態勢がもっとも大きな関心事となる。

「店を復旧させるために、店長や店長代行をはじめ、ムリして長時間の勤務を続ける従業員もいました。そうした者は早めに休みを取ったり勤務時間を短くしたりして、通常の営業時間に戻ったときにムリなく店を回せるように各店に指示をしました」

パート・アルバイト従業員から役員まで総出で復旧作業が行われた

相当な混乱下にあったにもかかわらず、早期に通常営業に戻ると予想して準備した根拠は何かを聞いた。

「東日本大震災のとき、私は札幌市にある店舗で店長をしていました。そのとき東北の店が大変な状況にもかかわらず店を開け、地域のお客さまのために頑張ったということは聞いていました。ですから、今度は自分たちの番だとおもい、そのための準備をしました。こうした考えに店長や従業員たちがだれ一人後ろ向きなことをいわず、前向きに仕事をしてくれたことは、本当にありがたいことだとおもっています」

ここでも、先の震災時の経験という「財産」が生かされている。東日本大震災という未曽有の災害を経験したツルハだからこそこれだけの素早い対応ができたともいえる。

それでは、東海地方や四国中国地方などで、東日本大震災に匹敵するような大地震が相当に高い確率で起こるといわれている状況にいかに対応すべきか。

そのひとつのヒントは、POTの毎日の作業や安否確認システムの訓練にあるだろう。こうした日々の作業や定期的な訓練を通じて、災害はいつか起こるということを従業員に「刷り込み」、その対応を自律的に考えてもらう、こうした態勢を取ることが、災害への対策、早期の営業開始で地域の生活を支えることにつながる。

〈 取材協力 〉

ツルハ北海道第一店舗運営部
スーパーバイザー 登録販売者
佐藤 正也氏
ツルハドラッグ千歳高台店
店長
保木 政人氏