技術的な側面が喧伝されがちな中国小売業だけれども…

中国小売業の急先鋒、盒馬鮮生(フーマー)。「ワクワクする売場」に感じた「強さの本質」

成長著しい中国の小売業についてはいろいろ報道されていますが、実際に日本の小売業で働いている方の情報発信はあまり多くありません。本記事では、小売業に薬剤師(マネージャ)として勤務しながら、自身のブログでOTC医薬品の情報を発信している薬剤師ブロガーのkuriさんが、中国でアリババの経営する食品スーパー「フーマー」を訪れたときに感じたことを寄稿いただきました。(執筆:kuri / twitter @kuriedits )

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話題の中国リアル店舗を実際に見に行ってみた

「ネットでは味わえない、店ならではの価値をいかにお客様に提供するかーー」

年々高まる国内市場のEC化率。店舗に勤務している方はネットとはちがう、リアル店舗ならではの魅力を模索していると思います。

私自身もそのような立場です。市販薬の業務に携わる薬剤師として、店の価値を高めることも仕事であり、そこに日々頭を悩ませています。そんななかで近年、「中国の小売業がすごい」という声を業界内で頻繁に見聞きするようになりました。中国のリアル店舗には日本では見られない様々なサービスがあるというのです。

そこで今秋、中国の北京へ行き、大手ドラッグストアの「ワトソンズ」「マニングス」、大手薬局の「同仁堂」、大手スーパーの「カルフール」などを一消費者として見て回りました。

どれもそれぞれに良さがありました。しかし、最も店舗の魅力を感じたのは、こうしたリアル店舗主体のチェーンストアではなく、新興ネット企業が作ったスーパーマーケット「盒馬鮮生」(以下、フーマー)でした。

フーマーは、中国最大のネット通販グループ「アリババ」が2016年から国内で展開しているスーパーマーケットです。年間流通総額でアマゾンをも超えるアリババは近年、オンラインとオフラインを融合させて新たな顧客体験を創る「ニューリテール(新小売)」を目指しています。フーマーは、ニューリテールを象徴する、新しいスーパーです。たとえば、店内に掲示された専用アプリで商品を注文すれば自宅まで配送してくれます。店内はフリーWiFiが備えられていますし、アプリを知り合いに紹介すると15元(邦貨換算約240円)プレゼントするキャンペーンを打ち、ネットへの導線を設けています(2018年11月現在)。

私服姿のピッカーがネットで受注した商品を売場からかき集め、天井を走る配送レールに乗せて送るユニークな光景も見られます。もっとも、このような店頭でアプリを使った配送サービスは日本でも珍しくはありません。私がフーマーに感動したのは「売場づくり」です。

ワクワク感に満ち溢れたアミューズメント施設のような食品スーパー

フーマーの売場は、一言でいえばワクワク感に溢れています。まず入口の青い電光掲示からして、スーパーというよりはアミューズメント施設を思わせます。

店の入口には種類豊富なフルーツコーナーがあり甘い香りが漂ってきます。その奥にある飲料ゾーンは、どの商品も整然と美しく並べられており、棚の照明も非常に明るく商品が映えます。スタッフは遠目からも一目でわかる水色のカバのマークの入った制服(トレーナーやシャツ)を着ていて垢抜けています。

なにより売場で驚いたのは、幅1メートルほどの水槽が20個近く並べられた海鮮コーナーです。ここではカニや魚が何十匹も水槽の中で動いて、生きた状態で売られています。見慣れない平べったい魚や、何種類もの貝など目を引く生き物も多く、親に連れられた子供がおもしろそうに眺めている様子は、さながら小さな水族館です。一方、水槽の裏側では水揚げされた貝やカニが積まれ、氷の上には牡蠣がドサッと乗せられていて、こちらは市場のようです。

しかも、魚介類をその場で調理してくれるサービスがあります。お客は茹でる、炒めるなどのメニュー表から調理方法を選んで専用窓口で注文します。価格は500gで15~30元(邦貨換算250円~500円ほど)ほど。自宅で料理をしなくても、その場で新鮮な魚介類を堪能できるというわけです。これはアメリカ発祥の「グローサラント(グロサリー+レストラン)」と呼ばれる形式で日本にも導入され始めていますが、生きた食材をその場で捌いて料理を提供するのはそうないでしょう。

さて、売場を堪能した後はお会計です。フーマーでの会計はアプリによる無人レジでの電子決済です。自分が購入する商品を店員に見られずプライバシーが守られますし、電子決済であれば短時間で会計が済みます。有人レジは1台だけあり、現金支払いもできましたが、私が見た時はほとんどのお客は無人レジを利用していました。

このように店舗を見ると、ワクワクするような水槽の演出、センスのあるスタッフの制服(トレーナー)、商品が映える近未来的な電光、親近感の湧く愛らしいマスコットキャラクター、清潔感のある店内、高品質な品ぞろえ、スピーディな会計など基本的な部分の質が非常に高いと感じます。

フーマーは日本の国内メディアからも注目されており、そのネットと店舗の融合の取り組みが紹介されています。ただ、私が見て感動したのは圧倒的に売場でした。フーマーは小さな水族館を除けば、一つ一つのサービスに新しさはありません。しかし、これほど洗練された日本のスーパーはすぐに思い浮かびません。このレベルの店が沢山できたらと思うとゾッとします。といっても既に北京・上海などに100店舗近くあるそうですから、実験店という枠はとうに超えています。

アメリカではアマゾンのリアル店舗が増えています。いずれ日本でも、アマゾンやアリババのような、ネット企業が出店する店舗が次々と登場しても不思議ではありません。それらの店は、既存のチェーンストア顔負けの、便利でワクワクする完成度の高い店舗になるかもしれません。

上等じゃありませんか。ネットショッピング全盛の時代において、これからのリアル店舗がむしろますます面白くなることを歓迎したいと思います。

(写真はすべて編集部提供です)

※今回筆者が訪れたのは北京市内の百荣世贸店

■kuriさんのブログではOTC医薬品に関する情報を提供していますhttp://drugstore.hatenablog.com/

おまけ:個人で日本からフーマーに行く方法
今回私は大手旅行代理店で、北京への旅券と宿泊先を確保しました。北京市内には現地の中国の方がフリーで案内してくれるサービスがあり、事前に日本からでネットで申し込めます(ネット検索するとすぐにでてきます)。その際に「観光地近くのフーマーに行きたい」と伝えれば、店舗を調べて案内してくれます。中国では日本語はもちろん英語も通じないので、日本語ができる現地案内人を手配したほうがよいでしょう。誰でもフーマーに行くことができますので、ぜひご自身の目で見て体感してみてください。