ECからリアル店舗へ
いま、中国のECはシェアを上げるために極端な安売りを続けています。これはどこかで限界が来るのではないかと思っています。商品を提供するメーカーは売上こそ上がりますが、利益がとれていません。大きな売上があるので引くにも引けないし、販促金や割引などEC側の要求も次第に大きくなる。このままでは行き詰まると危機感を持っている企業も少なくないでしょう。
ただ、私はECに問題があるからECは必要ないと言っている訳ではありません。時間がないとき、重い商品を買うときなどECはとても便利です。私も利用しています。しかし、「リアル店舗つぶし」のような極端な安売りで集客するというやり方は、どこかで破綻しかねないし、リアル店舗の空洞化を生みます。
日本のようにECがリアル店舗より10%程度安くて、どちらで買うかは消費者の選択次第という競合関係はとても大切です。ECもリアル店舗も買物の選択肢として共存することが望ましいのです。そして、私の持論ですが、ECがいくら発達してもリアル店舗は絶対になくなりません。
実際に中国ではEC最大手のアリババが中国最大手のハイパーマーケットチェーンのサンアート・リテールを買収しました。アリババは百貨店も買収しておりリアル店舗へ積極的に進出しています。その他、地方を中心に若い人がCS(化粧品専門店)を始めたり、リアル店舗にも動きがあります。
このように活気を取り戻しつつあるリアル店舗ですが、いくつか問題もあります。都市部では家賃、人件費など販管費が高騰しているのでECとの価格差が縮まらない。バイヤーをはじめとする多くのリアル店舗の経験者がECに引き抜かれて、人材不足になっていることなどです。
加えて、ECから来た人たちが「新小売(中国語:新零售)」と称して様々な新しいビジネスモデルを展開しています。「体験店」といって商品を試せることをウリした店舗、ショッピングモールなどに短期間出店する小型店などがそれにあたります。残念ながらいずれも長続きせず、アイデア、コンセプトでファンドから資金を引き出すECの手法をリアル店舗で応用しているように私には見えます。
課題も抱えつつ動いている中国のリアル店舗ですが、今後、中国の都市部では50〜100坪くらいの小回りのきく店舗に可能性があります。それには日本のDgS(ドラッグストア)のビジネスモデルが最適なのです。
これからの中国小売業は日本に学ぶ
可能性があるからと言って、日本のDgSのビジネスモデルをそのまま持ってきても通用しないでしょう。日本の小売業はアメリカから学んでいますが、日本流にアレンジすることで成功しています。同じように日本で成功しているDgSをそのまま持ってくるだけではうまくいきません。中国に合ったアレンジが必要なのです。
カテゴリーの考え方、陳列方法、接客・サービス、地域密着、こうした日本のDgSの要素を現地に合わせて調整する。それも場所や客層ごとに細かく調整する必要があります。
日本のDgS関係者は薬局から始めた方が多いので、中国に進出すると医薬品の販売にこだわります。しかし、中国の薬局の多くは国営で、問屋も国営です。したがって売価や利益率がある程度決まっており、あまり利益が出ません。
医薬品を販売してもいいのですが、構成比は絞って化粧品を主力にした方がよいでしょう。そこに雑貨や食品をどう組み合わせるか。また、商品がすべてメイドインジャパンでは、高すぎて地域密着になりません。地域に住む様々な層の方が気軽に日常的に買物できる店でなくてはいけません。
このような視点で、日本のDgSの要素を一度分解して、立地やお客様に合わせて再度、細かく組立て直す必要があるのです。小売業だけでなく、メーカーもどの商品が中国に合うかを見極めなくてはいけません。企業ごとではなく、店ごと案件ごとの調整が必要なのです。
中国のCSの経営者などは日本に行き、日本のDgSのようになりたいと思っています。日本のDgSのビジネスモデルを中国流に最適化できた企業は大きな成功を納めるでしょう。