チャイナリテールの真実

単なる需要の先食いにすぎない「ダブルイレブン」

第3回リアル店舗の衰退と中国ECの抱える課題

今回はECの台頭もからめながら、中国小売業が「衰退期」から「転換期」へ移りゆく様子を見ていきます。ECの登場により、大きく変化する中国の人々の購買行動。内陸部ではCSと呼ばれる化粧品専門店が転換点を迎え、ECの激安価格にリアル店舗も押されています。

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リアル店舗の衰退

中国市場の転換期は2017年頃から始まりました。きっかけは大きく2つあります。

一つは「成長期」から始まった内陸部の発展です。中国経済の発展に伴い、沿岸部における物件の家賃、人件費が大きく高騰し、少しでもコストを下げるために、多くの企業が内陸部へ工場を移転させました。

それに伴い、小売業の店舗も内陸へと広がっています。それまで沿岸部に出稼ぎに来ていた人材が内陸部にとどまり、店舗が増え、経済活動が活発化することで、内陸部はさらに発展し、その傾向は「衰退期」になるとより顕著になりました。

四川省の成都、省に属さない直轄都市である重慶は代表的な内陸部の都市

もう一つは、ECの出現です。中国の2大ECとして知られている「天猫(Tmall)」(アリババグループ)と「京東(JD.com)」は、衰退期が始まる2013年頃から本格的に軌道に乗り、それに続くスマホの普及で、爆発的な飛躍を遂げました。

なかでも中国EC市場のシェアのおよそ半分を握っているTmallは、その集客力を目当てに、小売業者は保証金や年会費を支払って出店するため、安定した基盤を作り上げています。

これによって、特に沿岸地域のリアル店舗は衰退の一途をたどります。これが私のいう中国経済(リアル小売店舗)の衰退期です。かつては消費者の憧れの的だった百貨店も、大都市圏では店舗こそ保っているものの売上は上がらず、個人的な印象でいえば、もはや「全滅」に近い。百貨店の衰退は日本でも見られますが、中国では日本で数十年かかった変化を、ほんの十数年で経験してしまったのです。

2015年 中国電子商務研究センター調べ

地方を握るCS(化粧品専門店)

では、発展を見せている内陸部や地方部ではどうでしょうか。

地方部では、前回紹介した「化粧品専門店(CS)」という業態が全国に20万前後展開しており、沿岸部から内陸に進出してきたワトソンズもかなわない力を持っています。

CSの賢い点は、むやみに全国展開をするのではなく、自分たちがおさえている地盤から極力外には出ないことです。ちなみに大手CSチェーン「GIALEN」は広州市発祥で、広東省を地盤としており、広東省の人口は1億1,000万人です。

CSは自分たちのエリアにどんな客層がいて、どんな商品が売れるかを熟知しています。出店の際には、優良な物件の情報も手に入ります。そこが、後発のワトソンズにはない強い「地盤」という側面です。

さてCSは、WHO加盟以前は偽物や横流し品も販売していたために、モノによっては7〜8割という常識外れの高い粗利益率を上げていました。そういう商品もあるので、全体の利益率も相当に高いものでした。残念ながらいまだにその意識が抜けない経営者も多く、外資系のメーカーに対して、高い利益率を求めることは少なくありません。

そのために交渉がまとまらず、CSの店頭に並ぶ商品はP&Gやジョンソン・エンド・ジョンソンといった、低い利益率でも大量販売することで採算が取れる大手外資系メーカーか、低コストで運営しているローカルメーカーの商品に限られてしまっています。

限られたメーカー、ブランドしか店頭に並ばないという状態では、たとえ強い地盤を持つCSであっても安穏とはしていられないはずです。現在の内陸や地方の消費者は買物の経験が浅く、経済的に豊かになっていても商品に対する知識は、まだ10年以上前の沿岸部のそれに等しいのです。

また、中高年の消費者がスマホで情報を得ることもまだむずかしい状況です。だからこそ、CSは彼らを相手にこれまで通りのビジネスを続けられています。しかし時代は加速度的に進んでおり、遠くない将来には地方の消費者もいまの沿岸部のように成長し、商品の見極めができるようになってくるでしょう。その時に、CSが今のまま変わらずにいれば、見向きもされなくなってしまいます。

こうした事態になることを恐れて、CSも日本のドラッグストア(DgS)を見習い、店舗のデザインや陳列を変えるなどしていますが、一朝一夕にできるはずもありません。いま、彼らにとっての転換期を迎えていると言えるでしょう。

広州市を地盤とするCS「GIALEN」

異常なECの安売りで売上を落とすリアル店舗

中国のECの台頭で目に付くのは、「激安」価格です。日本では、リアル店舗の価格とネット通販での価格は、特に理由がない限りはせいぜい10%ほどの違いではないでしょうか。しかし中国の「激安」はレベルが違います。これは極端な話ですか、100で仕入れた商品を50で売る、というような手法もとられているのです。

EC事業者が重視するのはシェアであって利益ではないのです。シェア拡大を目的とした異常な安売りで、売上を落とすリアル店舗が続出しました。

中国では国内外のファンドが投資先を探しており、EC事業者はその格好のターゲットです。将来性を見込まれて企画が通ったビジネスは、評価が高ければ中国市場に注目している世界中のファンドが出資し、バックアップします。そして生き残り、さらなる成長が見られれば、有望だと判断されてより多くの出資が見込めます。

そのためにEC事業者は少しでも多くのシェアを取って自社の価値を上げる必要があります。商品価格を赤字覚悟で下げてでも売上を取ろうとする理由はここにあります。リアル店舗が売上で運営されるのとは全く次元の違う世界が広がっているのです。

ファンドの介入は、中国のビジネスを変化させました。新たなビジネスアイデアを提案し、ファンドから出資を募る。中国という巨大な市場を背景に、パワーポイントの企画書だけで莫大な金が事業資金として入ってくるのです。

私はこの状況をあまり好ましく思っていません。ファンドから投資を受けようとする若い人たちは、事業そのものより、投資を受けること、お金そのものに関心があるように見えるからです。

もう一つ、ECでやめた方がいいと思っていることがあります。毎年11月11日に行われる「ダブルイレブン」商戦です。2017年のダブルイレブンでは、Tmallでの取引総額がなんと1,682億元(約2兆7,000億円)。その数字は日本でも衝撃をもって報じられました。

ダブルイレブンは、もともとはアメリカの「ブラックフライデー」からヒントを得たもの。しかし、ブラックフライデーは衣料品を中心とした商品回転率の遅い商品の在庫処分セールであるのに対して、中国のダブルイレブンは日用品など通常商品の大幅な値下げです。需要の先食いに過ぎません。

ダブルイレブン前の1カ月間ほどは、消費者はダブルイレブンを見越して買い控えをし、ダブルイレブンで思う存分買物をした後は、さらに1カ月間ほど買物をしない期間が続きます。魔の2カ月間と言ってもいいでしょう。

当然、リアル店舗にもその影響は及び、売上を直撃するのです。あたかも活発な経済活動が行われているかのように見える特売商戦ですが、小売業の視点から考えると、残念ながら悪しき習慣でしかないと思っています。

私から見ると、中国のECはこのように様々な意味で課題を抱えているのです。

著者プロフィール

万俊人
万俊人マントシヒト

1989年1月留学のため来日。1995年日本国内卸売、日中貿易を業務とする株式会社萬栄設立。2000年日系企業の中国進出コンサルティング、マーケティング調査事業開始。2010年中国における卸売、日韓商品輸入販売業の上海長発豊源薬粧(集団)有限公司副総裁就任、2016年退任。2016年GBmonoJAPAN設立。2017年より日本の医薬品、化粧品を中国語で紹介するスマホアプリ「集匠」の運用を開始する。