チャイナリテールの真実

越境ECはテスト販売に徹しなさい

第6回「メイド・イン・ジャパン」のチャンスを中国で広げるたった一つの方法

前回は、中国の消費者に商品を販売する3つのルートと、その関係性を紹介しました。中国に進出している日本の大手企業の多くが、この3つのルートをすでに利用しています。しかし特に越境ECと中国国内での正規輸入販売は、対立の構造になりがちです。今回は、この対立を解消させる方法を考えてみましょう。

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越境ECで売れ始めたら販売をやめるべき!

その方法とは、「越境ECは、テスト販売に徹する」ということです。とてもシンプルで、導入しやすく、マーケティングとしても効率的で優れた方法です。

日本の企業が中国に進出して店舗で商品を販売できるようになるまでのステップを考えてみましょう。

中国に子会社をつくるか、代理店を使うかして、現地で莫大なコストを投じてマーケティングリサーチを行い、販売する自社商品を決め、中国政府の許認可を取得。ここに1年ほどの時間が費やされます。許認可を受けたら、店舗をつくるか、販売してくれる店舗を探して交渉をします。店頭に商品が並ぶまでに、さらに1年半以上の時間がかかるでしょう。

販売が決まると、輸送費、在庫の保管の経費、プロモーション費が企業の負担として積み重なっていきます。ここまでの時間と費用をかけて販路に乗せた商品が一度当たれば大きな利益を生みますが、売れなければ大きな赤字だけが残ります。中国国内での正規輸入販売を行うことは、大きな賭けなのです。

しかしここで、前回お話しした「インバウンドから越境ECへの流れ」を思い出してください。観光で日本を訪れた中国人は、DgSで購入したものを帰国してからも越境ECでリピート購入をしています。この流れを中国国内での正規輸入販売につなげることはできないのでしょうか。つまり、越境ECで日本企業がテスト販売した商品を購入した消費者が、中国国内での正規輸入販売でリピート購入するようにつなげるのです。しかも、越境ECと正規輸入販売が食い合わずに。

そのための必須条件は、「(1)越境ECでは中国国内の正規輸入販売の価格よりも安くしないこと」と、「(2)越境ECである程度売れることが分かったら、輸入販売許認可を取得した時点でその商品の越境ECでの販売はやめること」です。

(1)は分かりやすいでしょう。中国国内の店舗で50元で売っている商品を、越境ECで30元で売ってしまったら、消費者は「その商品は30元の価値」と記憶します。正規輸入販売店で同じ商品を見かけても、50元の値段だったら、「なんだ、この店で買うと高いんだな」となるでしょう。

しかし、もし越境ECでも正規輸入販売店と同じ50元で売っていれば、そこで買えば配達を待つことなくすぐ手に入れて使えるのですから、買ってみようという気持ちになります。そのとき、店員から商品についてのアドバイスも受けることもできるでしょう。店員の対応に好感が持てれば、次もここで買おうとなるかもしれません。これが越境ECにはできない正規輸入販売店、つまり「リアル店舗」の強みです。

2015年の数値、UNCTAD調べ。中国の越境EC利用者は群を抜いている。それだけ可能性も高い

「越境ECはテスト販売」に徹しよう

もう一つの「その商品の販売はやめる」というのは、どういうことでしょうか。売れているのになぜ販売をやめるのか、と疑問を持たれるかもしれません。

越境ECである程度売れたということは、消費者にその商品が浸透してきた証拠です。販路を正規輸入販売店=リアル店舗に絞り、越境ECから中国国内にある正規輸入販売店に消費者を誘導します。そして越境ECでは、まだ中国では販売していない、これから販売していきたいと考える商品に差し替えるのです。

すなわち、「越境ECのテスト販売化」です。日本では、商品は毎月のように新しいものが発売されています。次から次へ、新しい商品を越境ECでテスト販売し、売れるようになったら中国国内にある正規輸入販売店にその商品を託して、越境ECではまた次の新しい商品を提案していくのです。

先ほどお話ししたように、中国国内で正規輸入商品を売るのは賭けのようなもの。挑戦したもののうまくいかず、大きな赤字を残したまま中国進出を諦めてしまった日本企業もたくさんあります。中国進出そのものに、アレルギーのような反応を見せる日本企業もあります。しかし、越境ECをテスト販売に使えば、進出にかかる費用は大きく削減できるだけではなく、見込み客に商品を知ってもらい、買って試してもらえるチャンスが生まれるのです。

海外企業は中国市場に商品を投入する前にマーケティングリサーチを行いますが、私は「これは無駄である」と言い続けてきました。なぜなら、近年大きな経済成長を見せているとはいえ、中国国内ではまだ貧富の差は大きいのが実情です。例えば「都心で働く25歳までのひとり暮らしの女性」を調査対象に日本の商品の使用感を聞いたとしても、まだ働き始めて間もない若者たちが、高価な日本の商品の善し悪しを判断できるとは限らないのです。その結果、残念ながら信憑性に大きく欠ける報告書ができあがるのです。それを基に中国進出の戦略を立てるのですから、中国進出が「賭け」になってしまうのは当然のことです。

しかし越境ECを使えば、商品を売りながら、マーケティングリサーチができるのです。しかもリサーチ対象は実際に使っている消費者ですから、より説得力のあるデータが集まります。越境ECでテスト販売をして消費者の反応を探り、成功した商品を中国国内での正規輸入販売に導入するという連携さえつくり上げてしまえば、売れなかったときのことを心配して及び腰になることもなく、自信を持って許認可の申請をして、商品を店舗に並べることができます。店頭に並んだら越境ECからは撤去することで、正規輸入販売との食い合いに歯止めをかけることができます。

なぜわざわざ、すでに中国国内の店舗で売れている商品を越境ECで扱って、越境ECと店舗を対立させるのでしょう? 越境ECをうまく利用すれば、中国市場の開拓がスムーズになるはずなのです。

越境ECは、安価に始めることができるから、大きなリスクがありません。リスクが小さすぎて、だれもかれもが戦略もなく安易に始めてしまいがちです。しかし、せっかく越境ECを利用するのであれば、うまく使うことが大事です。越境ECは中国市場の反応をみるためのテスト販売、本格的な販売は中国国内の正規輸入販売で。そんな棲み分けをすることで、商品だけでなく中国の消費者も一緒に育てていけるのです。

著者プロフィール

万俊人
万俊人マントシヒト

1989年1月留学のため来日。1995年日本国内卸売、日中貿易を業務とする株式会社萬栄設立。2000年日系企業の中国進出コンサルティング、マーケティング調査事業開始。2010年中国における卸売、日韓商品輸入販売業の上海長発豊源薬粧(集団)有限公司副総裁就任、2016年退任。2016年GBmonoJAPAN設立。2017年より日本の医薬品、化粧品を中国語で紹介するスマホアプリ「集匠」の運用を開始する。