チャイナリテールの真実

インバウンド、越境EC、中国国内での正規輸入販売の連携がチャンスを生むはずが…

第5回越境ECで日本企業の中国ビジネスが危機に追い込まれているという意外な事実

日本の企業が中国の消費者に商品を販売する形は大きく分けて3つあります。「インバウンド」「越境EC」そして「中国国内での正規輸入販売」です。いずれのチャネルも成果を挙げていますが、3つをうまく連携することがさらに大きなチャンスを生み出します。それはなぜか。2回に分けてお話ししていきます。

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企業が中国で販売する3つのルート

インバウンドとは、旅行なり出張なりで日本を訪れている海外の人が、滞在中に消費すること。中国、台湾、香港この3つの国と地域からの訪日旅行者数は、全体の約半分を占めています。越境ECとは、海外企業がその国のネット通販(EC)に出店して、商品を海外から消費者に直送すること(在庫が海外または保税倉庫にあること)。この連載では、中国における越境ECに限った説明をします。そして、中国国内での正規輸入販売とは、日本企業が正規に商品を販売するルートのことです(商品の輸入販売許可を取得し、正規輸入通関で在庫が中国国内にあること)。

2017年1月〜12月の訪日外国人観光客内訳(日本政府観光局調べ)

ひとつひとつ、その特徴を説明していきましょう。

まずインバウンドは2015年ごろ、中国人観光客による「爆買い」と揶揄された現象から、日本に浸透してきたように思います。中国のネットが発信した「日本で買うべき商品」という情報から、「神薬12選」という言葉も生まれました。

観光客にとっては、日本の商品を日本での価格で購入でき、免税手続きをすればさらに若干安くなるだけでなく、自分で持ち帰るので送料なども基本的にかかりません。日本の商品を中国国内で買うより確実に安く手に入れることができますし、中国では入手できない商品も購入できます。

問題があるとすれば、日本の商品の多くが日本語でしか説明が書かれておらず、多くの中国人には使い方が分からないということです。だからこそ、神薬12選のようにネットですでに話題になっている商品が売れ筋になりますし、中国語で商品について発信してくれる「KOL(Key Opinion Leader、インフルエンサー)」と呼ばれる人たちの存在は大きいといえます。

この問題の解決のために、私はスマホで日本の医薬品や化粧品のバーコードを読み込むと、画面に中国語の説明が表示される「集匠」というアプリを昨年つくりました。

2つめの越境ECについては、海外企業が中国で商品を販売する許認可の必要がなく、簡単に中国市場に商品を流通させることができる効率的な手段です。中国の消費者はこの越境ECを利用することで、中国国内にいながらにして海外の商品を購入することができます。アリババの運営するTモール国際(天猫国際)が代表的なサイトです。

発送に関しては、海外に保管してある商品を直接送る「直送モデル」と、中国国内にいくつかある保税区と呼ばれる場所に商品を保管しておき、そこから送る「保税区モデル」という2つの種類があります。いずれの形も、郵送や宅配便によって購入者の手元に商品が届けられます。直送の場合は1週間単位で輸送に時間がかかり、送料も加算されます。購入した商品の種類や量によっては、別途関税がかかることがあります。

3つめの中国国内での正規輸入販売は、海外企業が中国に子会社を設立したり、代理店を置くなどして、正規のルートで商品を店舗に並べることです。WTO加盟以前から一部の大手海外企業が中国国内に進出していましたが、加盟以降、進出企業の数は爆発的に増えています。在庫は当然ながら中国国内にあり、中国で販売するための許認可の取得、関税、物流、プロモーション、人件費などの費用がかかっていますので、日本での販売価格の1.5~2倍になるのが通常です。

食い合いをする越境ECと正規輸入販売

ここで、ひとつ問題が起こります。

インバウンドは旅行者による消費ですから、いたって自然な形です。日本の経済的にも、企業としても歓迎すべき行動です。

また、越境ECの利用者の4割が、日本に旅行をして商品を購入した経験があるという調査結果(日本貿易振興機構調べ)もあり、インバウンドから越境ECへという消費者の流れができていることが分かります。どんなに日本に旅行する中国人が増えたといっても、全人口が14億人に届こうとする中国では、1年間に日本に旅行する数は人口の1%以下。越境ECの利用者は分母が違います。インバウンドから越境ECへの流れは、企業にとってチャンスが広がることを意味しています。

しかし一方で、越境ECはもう一つのルートである中国国内での正規輸入販売と、完全にお客の取り合いになってしまうのです。

先ほど話したように、越境ECを使えば、企業は日本国内にいながらネット上で出品・販売までこぎ着けることができます。出店料やある程度のプロモーション費はかかったとしても、正規輸入販売の値段よりもはるかに安い値付けができるため、目先のことしか見えていないと、例えばリアル店舗で100元の商品を90元や80元、もしかしたら60元ぐらいの値段で販売してしまう可能性もあります。すると当然ながら、正規輸入販売のお客を越境ECが奪ってしまうことになるのです。

実際この矛盾は、越境ECを行っている多くの日本企業で起きています。莫大な時間と労力をかけて中国に進出し、リアル店舗を構えているにもかかわらず、同業他社とではなく、よりによって同じ社内の別な部署とお客の奪い合いをしている状況は、残念としかいいようがありません。企業によっては状況は深刻です。

それでは、越境ECと中国国内での正規輸入販売が対立せず、共存できる方法はあるのでしょうか。それこそが私が考える「チャンスへつなげる3つの連携」です。次回はその共存への道を考えたいと思います。

著者プロフィール

万俊人
万俊人マントシヒト

1989年1月留学のため来日。1995年日本国内卸売、日中貿易を業務とする株式会社萬栄設立。2000年日系企業の中国進出コンサルティング、マーケティング調査事業開始。2010年中国における卸売、日韓商品輸入販売業の上海長発豊源薬粧(集団)有限公司副総裁就任、2016年退任。2016年GBmonoJAPAN設立。2017年より日本の医薬品、化粧品を中国語で紹介するスマホアプリ「集匠」の運用を開始する。