2019年、小売・流通業の7つの重点課題

新年あけましておめでとうございます。2018年6月から配信を開始したMD NEXTも、新しい年に突入します。すべてのモノやビッグデータがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)社会の到来で、2019年以降、小売・流通業の「売り方」や「作業」は大きく変化します。変化対応すべき2019年以降の重点経営テーマを整理してみました。

取扱商品の90%近くが「Trader Joe’s」ブランドのオリジナル商品なので、アマゾンと完全な差別化に成功しているTrader Joe’s。

わざわざ店に来てもらえる、リアル店舗の価値づくり

2019年の重点経営課題を以下に整理してみます。

2019年の重点経営課題
(1)リアル店舗の価値づくり
(2)ブランディング・商品開発
(3)ESとCSの向上
(4)行動改革と、強い企業文化づくり
(5)生産性革命(省人化・無人化)
(6)スマートストア化
(7)個別化(パーソナライゼーション)

 

第1の重点課題は、「リアル店舗の価値づくり」です。ネットで何でも購入できる時代において、われわれ小売・流通業に関わる者は、わざわざ時間とコストをかけて、リアル店舗に足を運んでもらえる「価値」とは何なのか? を自問自答し続けることが重要です。

リアル店舗の価値を真剣に追求するためには、「人手を減らして販管費を減らし、営業利益を増やす」といった会社の御都合主義を否定し、今取り組んでいることが本当に顧客のためになるかどうかを常に自問自答する、真の「顧客第一主義」に転換できるかどうかが何よりも重要です。そして、ネットにはなくてリアル店舗だけが提供できる「触って試せる」「試食できる」「相談できる」「楽しい。ワクワクする」などの価値を磨き続ける必要があります。

第2は、「ブランディング・商品開発」です。リアル店舗の価値づくりのためにも、アマゾンでは販売していないオリジナル商品を強化することが必要です。しかし、かつての商品開発のように、「パッケージは有名ナショナルブランド(NB)そっくりで、価格は安いが、値入率は5割取れて儲かる」という会社の御都合主義のプライベートブランド(PB)だけでは、顧客の支持を得ることはできません。

これからの商品開発は、その企業の顔となるブランドとして開発すべきです。ブランドとは何かと問われれば、それは「信頼」のことです。「あの企業が自信をもって薦めてくれる商品は信頼できるし、使い続けたい」と顧客が信頼するブランドを確立することが、真のブランディングです。小売業が仕様書発注して開発するPBだけではなくて、メーカーと共同したSB(専売品)開発も重要なブランディング戦略です。

冒頭の写真の「Trader Joe’s」は90%近くがオリジナル商品(PBとSB)なので、アマゾンと完全に差別化できています。「Trader Joe’s」のブランドが、アメリカの消費者に大人気の理由は、「安さ」よりも、その商品に対する「信頼」の強さの方が大きいと思います。

行動改革と強い企業文化づくり

第3は、ES(従業員満足)とCS(顧客満足)の向上です。多くの小売業幹部は、CSの向上には関心が高いのですが、ESの向上については後回しになっています。大切なことは、ESとCSの向上は車の両輪であり、切っても切れない関係だという認識を強く持つことです。ESが低い店が、不思議とCSだけが高いということはあり得ません。

ESが低くて短期離職が絶えず、常に人手が足りない店や、やる気の無い従業員がダラダラと働く店では、CSは向上しません。一方、従業員がやりがいを持って働いている店は、採用コストが抑えられるだけでなく、業務への習熟による生産性の向上にもつながります。ES向上→CS向上→生産性向上の良いサイクルをつくることが重要です。

第4は、「行動改革と強い企業文化づくり」です。強い組織をつくるためにもっとも重要なことは、組織に属する人材の「行動改革」です。意識改革をいくら教育しても、行動が変わらなければ意味はありません。経営者が言っていることと、現場の行動が異なる、つまり「言っていることとやっていること」の異なる組織では競争に勝てません。

かつてのように、強者が弱者を駆逐してきた競争とは異なり、これからの競争は、「強者対強者」の「僅差の勝負」になります。「魂は細部に宿る」という言葉もあるように、現場での「行動」の細部を突き詰められるかどうかが勝敗を分けます。

企業経営は、「企業文化づくり」に始まり、「企業文化づくり」に終わると言われています。企業文化とは、その企業の「経営理念」や「経営哲学」が、単なるお題目ではなくて、その企業に属する社員全員の意識に深く浸透し、それが全員の「行動」の変化に結びついた状態のことをいいます。行動改革を繰り返して、強い企業文化をつくることが、もっとも重要な差別化戦略であると思います。

顧客接点は有人化、単純作業は無人化

第5は「生産性革命」です。労働人口の減少による人手不足の影響は、小売・流通業の人件費の上昇、引いては販管費の上昇を招いています。労働集約産業である小売・流通・サービス業の「生産性革命」は、今年以降のもっとも重要な経営課題です。

これからのリアル店舗の生産性向上は、アマゾン対策としても、顧客との接点は人間が丁寧に保ちながら、接客を強化する必要があります。一方、顧客接点以外の単純作業は、徹底的に省人化・無人化を進めるべきです。顧客接点は有人化、それ以外は無人化の二面作戦が、これからの小売・流通業の生産性向上のロードマップです。

第6は、「スマートストア化」です。ITの進化、IoT社会の到来で、リアル店舗の「売り方」や「作業」は大きく変わっていくことでしょう。「キャッシュレス店舗」、「カメラを活用した購買行動の可視化」「カメラを活用した欠品の可視化」、「サイネージ広告」「電子棚札を活用したダイナミックプライシング」など、リアル店舗の売り方と作業は大きく変化していきます。その元年が2019年になると思います。

新生堂の完全キャッシュレス実験店、レジ関連作業を84分から34分に短縮

IoT社会の到来で棚割、価格、販促の「個別化」が進む

第7は、「個別化(パーソナライゼーション)」です。前回の連載「IoT社会の到来で棚割、価格、販促の個別化が進む」で説明しましたので、詳細はその記事を参照してください。従来のチェーンストアは、「標準化」することによって効率を追求するビジネスモデルでした。しかし、これからはIoT社会の到来で、チェーストアの「売り方」が個別化していきます。「標準化」から「個別化」の時代が到来しようとしています。「売り方」の個別化は、以下の3つに分けることができます。

個別化する3つの売り方
(1)棚割の個別化
(2)価格の個別化
(3)販促・接客の個別化

 


日本の小売業は大手企業の寡占化が進み、かつてのように新興勢力が急成長し、既存勢力を大逆転するようなことはもう起こらないのかと思っていました。しかし、IoT社会の到来という革命的な変化によって、ビジネスの主役が変わる「激動の時代」が到来すると思います。

「現在の売上規模が大きな企業が生き残るのではなくて、変化に対応できた企業だけが生き残る」。ダーウィンの進化論にも似た「下剋上」が始まるかもしれませんね。

中国小売業の急先鋒、盒馬鮮生(フーマー)。「ワクワクする売場」に感じた「強さの本質」

成長著しい中国の小売業についてはいろいろ報道されていますが、実際に日本の小売業で働いている方の情報発信はあまり多くありません。本記事では、小売業に薬剤師(マネージャ)として勤務しながら、自身のブログでOTC医薬品の情報を発信している薬剤師ブロガーのkuriさんが、中国でアリババの経営する食品スーパー「フーマー」を訪れたときに感じたことを寄稿いただきました。(執筆:kuri / twitter @kuriedits )

話題の中国リアル店舗を実際に見に行ってみた

「ネットでは味わえない、店ならではの価値をいかにお客様に提供するかーー」

年々高まる国内市場のEC化率。店舗に勤務している方はネットとはちがう、リアル店舗ならではの魅力を模索していると思います。

私自身もそのような立場です。市販薬の業務に携わる薬剤師として、店の価値を高めることも仕事であり、そこに日々頭を悩ませています。そんななかで近年、「中国の小売業がすごい」という声を業界内で頻繁に見聞きするようになりました。中国のリアル店舗には日本では見られない様々なサービスがあるというのです。

そこで今秋、中国の北京へ行き、大手ドラッグストアの「ワトソンズ」「マニングス」、大手薬局の「同仁堂」、大手スーパーの「カルフール」などを一消費者として見て回りました。

どれもそれぞれに良さがありました。しかし、最も店舗の魅力を感じたのは、こうしたリアル店舗主体のチェーンストアではなく、新興ネット企業が作ったスーパーマーケット「盒馬鮮生」(以下、フーマー)でした。

フーマーは、中国最大のネット通販グループ「アリババ」が2016年から国内で展開しているスーパーマーケットです。年間流通総額でアマゾンをも超えるアリババは近年、オンラインとオフラインを融合させて新たな顧客体験を創る「ニューリテール(新小売)」を目指しています。フーマーは、ニューリテールを象徴する、新しいスーパーです。たとえば、店内に掲示された専用アプリで商品を注文すれば自宅まで配送してくれます。店内はフリーWiFiが備えられていますし、アプリを知り合いに紹介すると15元(邦貨換算約240円)プレゼントするキャンペーンを打ち、ネットへの導線を設けています(2018年11月現在)。

私服姿のピッカーがネットで受注した商品を売場からかき集め、天井を走る配送レールに乗せて送るユニークな光景も見られます。もっとも、このような店頭でアプリを使った配送サービスは日本でも珍しくはありません。私がフーマーに感動したのは「売場づくり」です。

ワクワク感に満ち溢れたアミューズメント施設のような食品スーパー

フーマーの売場は、一言でいえばワクワク感に溢れています。まず入口の青い電光掲示からして、スーパーというよりはアミューズメント施設を思わせます。

店の入口には種類豊富なフルーツコーナーがあり甘い香りが漂ってきます。その奥にある飲料ゾーンは、どの商品も整然と美しく並べられており、棚の照明も非常に明るく商品が映えます。スタッフは遠目からも一目でわかる水色のカバのマークの入った制服(トレーナーやシャツ)を着ていて垢抜けています。

なにより売場で驚いたのは、幅1メートルほどの水槽が20個近く並べられた海鮮コーナーです。ここではカニや魚が何十匹も水槽の中で動いて、生きた状態で売られています。見慣れない平べったい魚や、何種類もの貝など目を引く生き物も多く、親に連れられた子供がおもしろそうに眺めている様子は、さながら小さな水族館です。一方、水槽の裏側では水揚げされた貝やカニが積まれ、氷の上には牡蠣がドサッと乗せられていて、こちらは市場のようです。

しかも、魚介類をその場で調理してくれるサービスがあります。お客は茹でる、炒めるなどのメニュー表から調理方法を選んで専用窓口で注文します。価格は500gで15~30元(邦貨換算250円~500円ほど)ほど。自宅で料理をしなくても、その場で新鮮な魚介類を堪能できるというわけです。これはアメリカ発祥の「グローサラント(グロサリー+レストラン)」と呼ばれる形式で日本にも導入され始めていますが、生きた食材をその場で捌いて料理を提供するのはそうないでしょう。

さて、売場を堪能した後はお会計です。フーマーでの会計はアプリによる無人レジでの電子決済です。自分が購入する商品を店員に見られずプライバシーが守られますし、電子決済であれば短時間で会計が済みます。有人レジは1台だけあり、現金支払いもできましたが、私が見た時はほとんどのお客は無人レジを利用していました。

このように店舗を見ると、ワクワクするような水槽の演出、センスのあるスタッフの制服(トレーナー)、商品が映える近未来的な電光、親近感の湧く愛らしいマスコットキャラクター、清潔感のある店内、高品質な品ぞろえ、スピーディな会計など基本的な部分の質が非常に高いと感じます。

フーマーは日本の国内メディアからも注目されており、そのネットと店舗の融合の取り組みが紹介されています。ただ、私が見て感動したのは圧倒的に売場でした。フーマーは小さな水族館を除けば、一つ一つのサービスに新しさはありません。しかし、これほど洗練された日本のスーパーはすぐに思い浮かびません。このレベルの店が沢山できたらと思うとゾッとします。といっても既に北京・上海などに100店舗近くあるそうですから、実験店という枠はとうに超えています。

アメリカではアマゾンのリアル店舗が増えています。いずれ日本でも、アマゾンやアリババのような、ネット企業が出店する店舗が次々と登場しても不思議ではありません。それらの店は、既存のチェーンストア顔負けの、便利でワクワクする完成度の高い店舗になるかもしれません。

上等じゃありませんか。ネットショッピング全盛の時代において、これからのリアル店舗がむしろますます面白くなることを歓迎したいと思います。

(写真はすべて編集部提供です)

※今回筆者が訪れたのは北京市内の百荣世贸店

■kuriさんのブログではOTC医薬品に関する情報を提供していますhttp://drugstore.hatenablog.com/

おまけ:個人で日本からフーマーに行く方法
今回私は大手旅行代理店で、北京への旅券と宿泊先を確保しました。北京市内には現地の中国の方がフリーで案内してくれるサービスがあり、事前に日本からでネットで申し込めます(ネット検索するとすぐにでてきます)。その際に「観光地近くのフーマーに行きたい」と伝えれば、店舗を調べて案内してくれます。中国では日本語はもちろん英語も通じないので、日本語ができる現地案内人を手配したほうがよいでしょう。誰でもフーマーに行くことができますので、ぜひご自身の目で見て体感してみてください。

DgS顧客満足度調査2018 お客様はあなたの店のここを見ている

月刊マーチャンダイジング2018年12月号に掲載された「DgS顧客満足度踏査2018」。39企業、509店舗が対象となった本調査では、調査員が訪問した店舗について自由に所感を記入してもらっている。本記事では4つの調査カテゴリーの評価が低かった店舗についてのコメントを抜き出してみた。お客様はあなたの店のこんなところを見ているという参考にしてもらいたい。

クリンリネスはアイスケース・トイレ・照明に注目

店舗設備・クリンリネスの総合満足度が低い店舗への意見から

入口やトイレにゴミなどがあり汚く、不快に感じました。医薬品の場所の前に、カゴが重なったものが積み重なって置いてあり、医薬品が見れないのでとても邪魔でした。すぐ隣に有資格者が商品の確認のようなことをされていましたが、こちらには全く気づかない様子だったので残念に感じました。単品アイスケースに黒いビニールに入った何かが隅にあったり、アイスケースの扉が汚く不快でした。悪いところが目立ったので低評価になりました。<総合満足度1 >

アイスのケースの底面に細かいゴミが沢山あり、不潔な感じがした。ドリンクの缶の箱をいくつも乗せたカートを引っ張っているスタッフがいたが、スタッフでなくお客様が通路の隅に寄って通れるようにしていた。化粧品のテスターのスポンジが使用した物ばかりで不快に感じた。対応してくれたスタッフは笑顔で感じよかった。<総合満足度3 >

競合と比較されてもこの店を選びたくなるような品揃えをいかに作るか?

商品陳列・品揃えの総合満足度が低い店舗への意見から

◎入ってすぐ、天井の低さ、店舗の狭さが気になる。釣り用品を多く扱っているため、釣りをする人には需要があり、そこが他店との大きな違いである。競合店が近隣に多数あるため、品揃えの点から物足りなさを感じてしまった。店員の接客、店内の清潔感は特に問題なく満足いくものだった。<総合満足度4>

◎店舗が古く雰囲気が暗い。品揃え、対応ともに特に大きな不満はないが、他にもドラッグストアがある中で、この店をわざわざ選ぶ必要も感じない。<総合満足度4>

問い合わせをしたいと思ったときにすぐ対応できる態勢が作れているか?

基本接客・商品知識の総合満足度が低い店舗への意見から

◎たまに行く店ではありますが、店長さんを見かけることがないのでスタッフに任せておられるのではないでしょうか。スタッフもまとまりがないのが客として空気感が伝わってくるのでこのお仕事を頂くことがなかったらあまり行かないので、知人に勧めることはできないです。<総合満足度1>

◎店舗内はキレイで品揃えも充分だが入店時の声掛けもなく風邪薬問い合わせ時にも特段ヒアリングもなく商品の提案もあやふやな感じでした。化粧品問い合わせするもわかる人がいなく対応してもらえずでした。価格は安くいいとは思いますが、まわりにはわざわざオススメしないとおもいました。<総合満足度1>

◎化粧品コーナーでテスターを試そうと思ったら、スポンジが見当たらない箇所が多数見受けられました。また、化粧品相談コーナー前でスタッフ同士私語をしていて、テスターを試していても全く声がかかることなく、スタッフを呼び出せるコールボタンも私語しているスタッフの横にあり声がかけにくい状況でした。

時間を置いて15分後再び化粧品コーナーを訪れたらまだ私語をしていて、ものすごく嫌な気持ちになりました。少し私語しているスタッフに目を向けるとようやくスタッフがきたが、「何かおさがしですか」と待たされた事に対して謝ることなく言われてとても嫌な気持ちになりました。レジの際も素っ気ない挨拶でもう二度と行きたくないと感じさせる店舗でした。<総合満足度0>

レジのオペレーションはスムーズか?お待たせしない配慮はあるか?

レジ対応の総合満足度が低い店舗への意見

◎個人的に麦茶を6本買ったのですが、金額が間違っていて、返金をお願いしたところ、レジを対応したスタッフでは返金作業ができなくて、登録販売者の○○さんと言う方がされたのですが、間違えてすみませんもなく、ポイントカードありますか?や、レジ対応のスタッフにやり方だけを教えて、さっさと終わりたそうな雰囲気を感じました。レジのスタッフはすみませんすみませんと何回も言われて、それでも、○○さんは顔色ひとつつ変えることなく、他人ごとのように感じたのも残念でした。今後はあまり、行きたくないお店です。<総合満足度1>

レジでは交通系のカードが使えるが店員の方が把握されてないのが残念でした。<総合満足度3>

レジでも、私を含めて5人並んでいましたが、他の店員はしゃべっており、すぐには違うレジを開ける事はありませんでした。棚の乱れも多く見受ける事がありました。<総合満足度3>

新生堂の完全キャッシュレス実験店、レジ関連作業を84分から34分に短縮

福岡県を中心にドラッグストア(DgS)・調剤薬局他の店舗を合計115店舗展開する新生堂薬局。2018年10月15日に九州では初となる、キャッシュレスDgS「ドラッグ新生堂スマートスタイル香椎駅前店」をオープンした。福岡市の「キャッシュレスFUKUOKA」というキャンペーンの一環の実証実験という位置づけだが、様々な発見があったという。

レジ後ろのサイネージで「現金が使えない」訴求

ドラッグ新生堂スマートスタイル香椎駅前店は福岡市東区の西鉄香椎駅ならびにJR香椎駅の徒歩圏にオープンした。駅前とはいえ周辺には住宅地が広がる郊外立地だ。売場面積は約40坪で、新生堂薬局の郊外標準店が250坪前後であるのと比べるとかなり規模が小さく、コンビニエンスストアのような使われ方を想定している店舗である。また、駅前であるがインバウンドを志向しているわけではなく、日常生活に沿った商品のみが品揃えされている。

売場面積は約40坪。平均的な店舗から品種や品目を絞っている。コンビニのように使える店舗を志向している。

一歩入店すると、レジの後ろの大型サイネージに赤地に白文字で「当店のレジでは現金が使えません」と大きく表示されているのが目に付く。入口付近には現金のチャージ機も3台並んでいる。この店舗は現金での決済は対応していない代わりに、クレジットカードはもちろん、各種電子マネーや交通系電子マネーでの支払いに応じる「キャッシュレス店舗」だ。

そのため、利用できる決済手段は幅広い。新生堂が提供するプリペイドマネーの「ハッピーカード」をはじめnanaco、WAON、楽天Edy、Apple Payなどの電子マネーや、nimoca、SUGOCA、はやかけん、Suicaなどの交通系電子マネーにも対応。d払い、LINE Pay、Origami Pay、楽天ペイ、PayPay、YOKA!Payなど、スマホ(QRコード)決済まで、多様な支払い手段を受け入れる。

店頭には3台のチャージ機を設置。うち2台がハッピーカード用で1台が各種交通系電子マネーや、nanaco、waon、楽天Edyへのチャージへ対応。

同社が「現金利用不可」という思い切った店舗を出店した背景には、福岡市の「キャッシュレスFUKUOKA」という取り組みがある。福岡市では「キャッシュレス FUKUOKA」というキャッチコピーのもと、消費者の支払い簡易化、民間企業の業務効率化、インバウンド消費の取り組み活動として、キャッシュレス化を推進している。この活動に賛同し、新生堂は完全キャッシュレス店舗としてこのドラッグ新生堂スマートスタイル香椎駅前店をオープンした。2019年1月に福岡市が開催する発表会で実験の結果を報告する予定になっている。

利用率はプリペイド35%、交通系電子マネー23%

新生堂は2013年4月からハウス型プリペイドカード「ハッピーカード」を導入している。店頭にある専用端末で現金をカードに入金して利用するもので、入金時と使用時にそれぞれポイントが貯まるので、お客にとってもお得な仕組みと人気だ。同社はもともとこのハッピーカードやクレジットカードの利用を推進していたため、既存店でも現金対それ以外の決済の比率が6:4と、他の小売業と比べてキャッシュレス比率が高い方だった。

ハッピーカードのアプリ画面。カードへの入金時と商品購入時にダブルでポイントがつくのでお客にとってはかなりお得に感じられる仕組み。

取材時は香椎駅前店オープンから数カ月で、使われている決済手段の傾向も見えてきた。最も使われている決済手段はハウス型プリペイドカードの35%、次いで交通系電子マネーが23%、クレジットカードが15%、WAONが10%、nanacoが5%。QRコード決済は各種合わせて5%程度にとどまる。

「誤差が無い」ことで、プレッシャーが無くなる

電子決済用の端末はPOSレジと連携しているので、レジ側の作業はお客が申告した決済方法をボタンで押すだけでよい。

キャッシュレス店舗を運営してみて、一番大きなメリットと感じたのは「現金の誤差が無いこと」だと、同社の代表取締役副社長兼COOの水田怜さんは語る。現金を扱っているという社員の心理的プレッシャーが軽減されるのは大きい。レジ締めをしてみて誤差が発覚すると、その原因を追求するのに膨大な時間が必要になるが、それも不要になる。従業員満足度向上のために、キャッシュレス化は一役買うというわけだ。

もちろん、店舗作業を大幅に削減できるのもキャッシュレスの大きなメリットだ。まだ実験の結果は出ていないが導入前の試算によると、それまで現金を取り扱っていたことにより、開店準備や精算、レジ点検、両替、レジ締めなどの作業に84分かかっていたところを、キャッシュレスにすることで34分にまで短縮できるという。レジにはマルチ端末を配備している。POSと連動しているため、お客様に決済手段を伺ったあと、決済手段を選択するボタンを押すだけでよいので、オペレーションも容易だ。

カードへのチャージ機があるため店内から現金がなくなったわけではないが、釣銭準備や現金管理コスト削減への影響は大きい。

キャッシュレスの説明から、接客につながる副次効果も

新生堂薬局によれば、レジ応対のスピードを、現金と現金以外の決済手段で比較したところ、一人当たり平均31秒ほど短くなったという。お客にとっても、いちいちレジで財布の中のお札や小銭を出す必要もなくなるので、レジ待ち時間が短縮され、顧客満足度向上につながる。自分の支払いが早く済むのもうれしいが、レジで自分の後ろに並んでいる他のお客を待たせずに済むというのもありがたい。

5年半年前、ハウス型プリペイドカードを導入した際に、ご高齢の方はあまり利用されないのではないかと考えていたのですが、意外とご高齢の方のほうが利用率が高いという結果になりました。小銭を出さずに済むのが便利という理由からのようです。いつもここの店で買物をするのであれば、1万円や5,000円をチャージ機やレジでチャージしたあとは、現金を使わずにスピーディーにレジを通過することができる。一度便利さを味わうと、もう後戻りはできません」(ドラッグストア事業部部長 馬場大輔さん)

また、キャッシュレス店舗というこれまでにないオペレーションを店舗に導入したことにより、お客に使い方などを説明するための接客の時間が増えたという。

ャッシュレスというと、店舗が機械的になるというイメージがありますが、説明をするためお客様とお話をする機会が増え、その流れでお悩みを伺うこともできるようになりました。逆に温かみのある接客ができるようになったように思います。精算業務の時間も減り、作業効率もよくなっています」と同店店長の山原雄太さんは語る。

「キャッシュレスは全く世間に浸透していない」

キャッシュレス=交通系電子マネーというイメージを持たないお客も多い(写真はイメージです)。

完全キャッシュレス店舗を運営したことで、気づかされたことは多い。その一つが、「キャッシュレス」の世間での浸透度の低さである。「キャッシュレスというものが、全く世の中に浸透していないということがわかりました」と水田さんは語る。

オープン日に「キャッシュレス店舗です」とお伝えすると面倒くさいと断られる。しかし、SUGOCAやnimoca、はやかけんなどの交通系電子マネーも使えることをお伝えすると一転して「それも使えるの?」と驚かれることが多いのだという。

「キャッシュレス」=「現金が使えない」=「ハウス型プリペイドカードを作らされる」と思い込んでいる人は多い。「交通系電子マネー」で店舗の支払いができるとは思っていない人が大半なのである。

さらに中国のようにキャッシュレスの決済手段がAlipayとWeChatPayが大半というような状況であればいいのだが、日本は決済手段が乱立していてわかりにくいというのもお客が混乱する一因となっているようだ。

「キャッシュレス」をお客にいかに伝えるか

ちなみに、同社がキャッシュレス店舗を出店するのに香椎駅前という立地を選んだのは、大学が近くにあるため若者が多く、60歳以上の人口が20.8%と他の地域と比較して高齢者が少ないことから、お客様の多くがキャッシュレスという新しい概念に親しみやすいだろうと考えてのことだった。しかし実際は高齢者でも交通系電子マネーの保有率は高く、一度利用さえしてもらえれば、継続利用に支障はないようだ。

順調にスタートしたように見える完全キャッシュレス店舗であるが、現在のところ新生堂は今後の水平展開を考えていない。今でも1日5名程度は「現金が使えない」と聞いて買物を途中でやめて帰るという。まだまだ現金だけでお買い物をしたいというお客様のニーズは根強い。将来的にキャッシュレス比率は50%程度まで引き上げたいと考えているものの、完全キャッシュレスへの道は遠い。

なお、意外なことにお客へキャッシュレスであることを伝えるための手段としては、レジ上や店頭のサイネージでの「現金は使えません」という訴求が中心で、店頭を見ただけではこの店舗がキャッシュレス店舗であるということはわからないようになっている。

ドラッグ新生堂スマートスタイル香椎駅前店店頭。キャッシュレスという言葉に抵抗感を覚えるお客もいるためキャッシュレスであるという告知文等はあまり目につかない。

「オープン時には、九州発のキャッシュレス店舗オープン!と銘打って店頭で訴求していたのですが、それを見て『私とは関係のない店だ』と思われたお客様も少なくなかった。我々はキャッシュレスという言葉はネガティブワードだと思っており、お客様に対してはなるべく出さないようにしています」(水田さん)。

キャッシュレス店舗の水平展開こそ行わないものの、この店舗で得られた経験は、他の店舗に波及させる予定だ。お客様への説明をどのようにすべきなのか、レジのオペレーションはどうするのかなど、様々な方面から検討し、現在展開している49店舗に広げて、キャッシュレス比率を上げていきたいと考えている。

今後キャッシュレス比率を高めるためには、お客にキャッシュレスであることをどう伝えていくか、どのような決済手段を選ぶべきなのかなどについて実験を続け、検討を重ねる必要がある。小売業の自己満足にならない店頭コミュニケーションを設計することに注力すべきだろう。

代表取締役副社長兼COO
水田怜さん

ドラッグストア事業部部長
馬場大輔さん

店長
山原雄太さん

DgS顧客満足度調査2018、選ばれる店の条件は「人の要素」だった

2012年にスタートした月刊マーチャンダイジングの「顧客満足度調査」。月刊マーチャンダイジング2018年12月号に掲載した今年の調査では39企業、509店舗が対象となった。この記事では、月刊マーチャンダイジングに掲載された記事の中から、今年の調査で判明した、「選ばれる店の条件」について紹介する。

基本的な調査項目と総合満足度に対する評価を集計

図表1は調査対象の企業と店舗名(屋号)の一覧である。ホールディングス(HD)傘下であっても異なる屋号で営業している企業は個別に調査している。また、調査店舗は9~18店舗の間で各企業の店舗数に比例させた。(図表はクリックで拡大可能)

調査内容は大きく2つに分けられる。

①基本的な調査項目:「店舗設備・クリンリネス」「基本接客・商品知識」「商品陳列・品揃え」「レジ対応」の4カテゴリー、合計32問、いずれも3点満点の基本設問。

②総合満足度に関する評価:「この店で買物することを知人に勧めることができますか?」という問いに対する回答を0~10の11段階で評価してもらった。

設問の全体像は、月刊マーチャンダイジング2018年12月号をご覧になってもらいたい。

各設問を総合満足度との相関から4つに分類

各調査項目の点数、総合満足度の点数に加えて重要なのが各設問と総合満足度との「相関」である。

ここで、今回の調査で重要になる「相関」と「相関係数」という概念について簡単に解説する。

要素Aが高い(低い)とき、要素Bも高い(低い)といったように2つの要素に関係性があるとき2つの要素には相関があるといえる(図表a)。

たとえば、「身長が高いと体重も重い」「塩分の摂取量が多いと血圧は高い」など、2つの要素(数値)の関連性を意味する。日常生活でもよく用いる考え方だが、それを数値化したものが「相関係数」だ。

本調査では、ある調査項目の評価が高いとき総合満足度も高ければ、その調査項目は重要(相関係数が高い)と考えた。正の相関係数は0から1の間に収まり、目安は図表bのようになる。

さて、図表6にある青いドットと番号は6〜37までの設問番号である。横軸は総合満足度と調査項目との相関係数を偏差値化したもので、数値が大きいほど、つまり右にあるほど総合満足度へ与える影響は強い、相関が強いことになる。

そして、図表6ではさらに各設問を4つの分野に分類した。戦略的、効率的に顧客満足度を改善、強化するためには、ポートフォリオで各設問がどこに位置づけられているかを俯瞰的に見て考えることが重要となる。

①重点維持分野:相関係数は高く、個別の満足度も高い。つまり、総合満足度に影響を与える項目の点数が高く、個別満足度(図表6タテ軸の数値)でも高い点数を得ている分野だ。

たとえば、設問番号29、「問い合わせした店舗従業員は丁寧に対応したか」という項目は相関係数の偏差値が75と今回もっとも総合満足度との相関が強かった。さらに、この項目は個別満足度でも56と目安の50を超えて好成績を出している。29に代表されるように「相関係数が高く」「個別満足度」も高いものは、重点的にその状況を維持すべき分野となる。一般的に取組み優先順位は4分野のうち2番目。

②維持分野個別満足度は高いが総合満足との相関は低い分野。できている項目なので維持には努力すべきだが、総合満足度との相関が低い。一般的に取組み優先順位は3番目。設問番号8「入口の段差への配慮」、個別満足度は61とかなりの高レベルだが、総合満足度との相関は35と目安の50を大きく下回る。入口の段差に配慮があっても、その店で買物することを知人に勧めようとはあまりおもわないということだ。

ベビーカー、車いすなどの通過頻度はさほど高くなく地味な項目ではあるが、整備は必要。ベビーを持つ母親は優良顧客であることが多いし、車椅子対応があるか否かは店舗の基本姿勢を表しており、長期的な地域の支持には影響を与えるだろう。ただし、優先順位から見れば、入口段差よりも先に着手した方がよい項目はあるはずだ。

③改善分野:個別満足度が低い、総合満足度との相関係数も低い。つまり、現状できていないのだが、そこに注力して改善しても総合満足度との関係は弱いので、一般的に優先順位は4番目の分野である。

設問番号31「牛乳の賞味期限の管理は徹底されていたか」は今回の調査でもっとも総合満足度との相関係数が低かった。これは、賞味期限の種類が1~3個のうちいくつあるかで、管理の徹底ぶりを見る調査だが、複数あってもそれほど不快や不信の念は持たないということだ。

④重点改善分野相関係数は高いが、個別満足度が低い。総合満足度に強い影響を与える項目にもかかわらず、点数が取れておらず、即改善が必要。一般的に、取組み優先順位は第1位の分野である。

設問番号27「従業員は常に顧客を意識した行動がとれていたか」という項目は、相関係数は71と非常に高いが個別満足度では44と目安の50に達していない。最大限の努力を払って優先的に改善すべき項目となる。この分野を上げることが顧客満足度を上げることにつながるので、特に重視すべきである。

今回は39社、509店舗の傾向を出したが、企業個別で調査をすれば、自社の顧客満足ポートフォリオをつくり改善・強化策を立てることができる。

総合満足度へ影響を与えるのは問い合わせ対応など「人の要素」だった

図表8は、総合満足度に影響を与える調査項目の上位10項目である。1位は問い合わせへの対応。2位は滞在時間中の従業員の態度、行動、3位が風邪薬の相談対応、4位が従業員の挨拶、5位会計時の挨拶、6位ファンデーションへの問い合わせ対応と、上位6位までが人の要素という結果になった。

こうした相関関係から考えると、従業員は常にお客を意識したキビキビとした態度をとり、いらっしゃいませの挨拶は欠かさず、聞かれたら答えられるという店舗運営態勢によって総合満足度は上がるということだ。

DgSは来店客との接点が持ちやすく、人による差別化がしやすい業態だ。接客や勤務中の態度・行動など「人の要素」は、小商圏の中で同業態、他業態に優位性を持てるところなので、積極的に磨くべきだ。特に「セルフ販売」という基本は持ちつつも、聞かれたら対応できる、なおかつその対応が好印象を与える、購買につながるという態勢づくりは重要だろう。しかし、人手不足のなか、この態勢づくりはそれほど容易ではない。

ちなみに「声掛け」に関しては、医薬品売場での声掛け(設問番号19)の相関は45、化粧品売場での声掛け(同25)の相関は42といずれも50に届いていない。これも「人の要素」ではあるが、声掛けがあったからといって、総合満足度が高くなるわけではないという結果が出ている。

しかし、営業上は声掛けから、カウンセリングに発展し購買に結び付くこともあるので、声掛けも軽視してはいけない項目といえよう。

いかに店を開け地域のニーズに応えるか~北海道胆振東部地震を乗り越えたツルハ【後編】~

2018年9月6日に起きた、北海道胆振東部地震を乗り越えたツルハの状況のレポート後編。相当な混乱下にあったにもかかわらず、早期に通常営業に戻ったツルハ。東日本大震災という未曽有の危機での経験が生きていたという。(月刊マーチャンダイジング2018年12月号より転載)

CASE2 札幌市豊平区・白石区エリアの対応

営業可能な店舗に優先順位を付け エリア全体の最適を考える

札幌市豊平区、白石区にある10店舗を担当するSV佐藤正也氏も地震発生時は自宅で就寝中だった。9月6日はツルハグループの全国のSVたちが拠点に集合してテレビ会議を行う日にあたっており、佐藤氏は10店舗の営業続行と会議への参加、両方を考える必要があった。そのため、軽々に店を回ることは得策ではないと考え、しばらくは自宅待機の態勢を取った。近隣のSVとグループLINEを組んでおり、SV間の連絡や情報共有は密に行っていた。店長たちからはそれぞれが店に向かうという連絡を受け、店舗に着いたら店の状況を写真で送るように指示を出した。

地震発生から1時間ほどたったころ、上司から当日のSV会議はキャンセル、店舗のサポートへ注力するようにという連絡を受けた。

佐藤氏は続々と届く被害状況の写真を見ながら、被害の規模、店長の店舗運営能力などを考慮して、早期復旧ができそうな店を担当10店舗の中から3、4店舗ピックアップ、まずはそれらの店舗の復旧と当日営業へ集中する方針を立てた。

午前4時15分ころ、優先順位の一番目に挙げた白石区にある菊水元町店に到着。店長とアルバイト数人が既に店に着いており、片付けを始めていた。この店は従業員の奮闘のおかげもあり6時ころには開店のめどがつき、佐藤氏は隣の菊水上町店に移動する。

「菊水上町店の被害が一番大きく、食品、酒の扱いもあったので、酒瓶が割れたりして店内はかなりダメージを受けていました。ここにもパート・アルバイトの方が応援に来て、復旧作業をしてくれました。店長方の日ごろのコミュニケーションや地域のお客さまへのおもいを伝えていたたまものだとおもいますが、どの店舗でも早朝、なおかつ自宅も被害があったにもかかわらず、従業員の方が大勢開店のために、店に来てくれました。なかにはお子さんを連れて店に来てくれた女性もいて、そこは本当に感謝しかありません」

菊水上町店も集まった従業員の働きにより、午前8時には営業することができた。佐藤氏が担当する10店舗のうち、1店舗だけはテナント出店しているオーナーの許可が下りず営業できなかったが、残りの9店舗はすべて当日営業をすることができた。

非常時には精算にも使えるハンディターミナル「POT」
什器の底部に付ける免震装備 揺れに応じて床をスライドすることで転倒を防止する。今回の地震でもこの装備のある棚は転倒しなかった

日々の意識づけこそが災害対策のカギになる

停電で信号機も消えており、交通に支障が出ることが予想されたため、佐藤氏は、その日担当エリアの一部地域にとどまり、そこで連絡を受け指示を出すという態勢を取った。上司からは細かく現状の共有や指示が出ており、それを必要に応じて店舗に伝え、店舗からの質問や相談に応じるというのが、開店後の主な作業になった。

停電に関して、翌日7日午前に10店舗中大半の店は復旧したが、白石区は復旧が遅れ、すべての店で復旧したのは、地震発生から2日目の8日(土)の朝だった。そこからは、佐藤氏は短縮営業から通常営業に戻るためのシフト態勢がもっとも大きな関心事となる。

「店を復旧させるために、店長や店長代行をはじめ、ムリして長時間の勤務を続ける従業員もいました。そうした者は早めに休みを取ったり勤務時間を短くしたりして、通常の営業時間に戻ったときにムリなく店を回せるように各店に指示をしました」

パート・アルバイト従業員から役員まで総出で復旧作業が行われた

相当な混乱下にあったにもかかわらず、早期に通常営業に戻ると予想して準備した根拠は何かを聞いた。

「東日本大震災のとき、私は札幌市にある店舗で店長をしていました。そのとき東北の店が大変な状況にもかかわらず店を開け、地域のお客さまのために頑張ったということは聞いていました。ですから、今度は自分たちの番だとおもい、そのための準備をしました。こうした考えに店長や従業員たちがだれ一人後ろ向きなことをいわず、前向きに仕事をしてくれたことは、本当にありがたいことだとおもっています」

ここでも、先の震災時の経験という「財産」が生かされている。東日本大震災という未曽有の災害を経験したツルハだからこそこれだけの素早い対応ができたともいえる。

それでは、東海地方や四国中国地方などで、東日本大震災に匹敵するような大地震が相当に高い確率で起こるといわれている状況にいかに対応すべきか。

そのひとつのヒントは、POTの毎日の作業や安否確認システムの訓練にあるだろう。こうした日々の作業や定期的な訓練を通じて、災害はいつか起こるということを従業員に「刷り込み」、その対応を自律的に考えてもらう、こうした態勢を取ることが、災害への対策、早期の営業開始で地域の生活を支えることにつながる。

〈 取材協力 〉

ツルハ北海道第一店舗運営部
スーパーバイザー 登録販売者
佐藤 正也氏
ツルハドラッグ千歳高台店
店長
保木 政人氏

いかに店を開け地域のニーズに応えるか~北海道胆振東部地震を乗り越えたツルハ【前編】~

2018年9月6日(木)午前3時7分、北海道胆振(いぶり)地方中東部を震源地とする地震が発生。厚真町(あつまちょう)鹿沼で最大震度7を観測するなど、揺れの大きさでは日本で発生した地震のなかでも最大規模を観測した。2011年3月11日に発生した東日本大震災では東北地方を中心に長期にわたり大きな苦難を経験したツルハが、今回の災害をいかに乗り切ったか、2人の現場責任者への取材をもとにリポートする。(月刊マーチャンダイジング2018年12月号より転載)

CASE1 千歳高台店の被害対応

午前3時7分地震発生 家族の無事確認後店舗へ向かう

地震の発生した胆振地方は北海道の南西部に位置し、室蘭市を中核とし、登別市、伊達市などで構成される西部と、苫小牧(とまこまい)市を中核とする、白老町、安平町(あびらちょう)、厚真町などで構成される東部とに分かれる(図表1)。

[図表1] 地震のあった北海道胆振地方と周辺

今回は胆振地方東部を震源地とし、内閣府の発表によると各地の震度は以下のようになる(5強以上のみ表記)。震度7/厚真町、震度6強/安平町、むかわ町、震度6弱/札幌市東区、千歳市、日高町、平取町(びらとりちょう)、震度5強/札幌市清田区、白石区、手稲区、北区、苫小牧市、江別市、三笠市、恵庭市、長沼町、新ひだか町、新冠町(にいかっぷちょう)。

取材した千歳高台店がある千歳市でも一部地域では震度6強の大きな揺れに見舞われている。同店店長の保木政人(ほきまさと)氏に発生当時からの状況、対応を聞いた。

保木氏は店舗から60kmほど離れた札幌市北部に在住、発生時は自宅で就寝中だった。強い揺れで目を覚ますと、まずは家族の無事を確認し、テレビをつけ、震度や被害状況などの情報確認を行った。ツルハのマニュアルでは営業時間外に震度5弱以上の地震が発生した場合、店長は自身の安全を確保したうえで店舗に向かうように決められているが、保木氏は震度4以上の地震が起これば状況確認のために店舗へ向かうことを普段から「自分のルール」として決めていた。

同社では地震・停電が発生した当日から、テナント出店するオーナー企業の許可が下りなかった店舗を除き、被災した店舗を含むツルハ全店が営業している。こうした強靱ともいえる災害対応能力は、先の震災の経験をひとつの「財産」として、伝え続ける同社の姿勢とは無縁ではないだろう。保木氏が普段から地震発生に対する自分なりの基準や対応策を持っていることからもそれはうかがえる。従業員の意識の高さが初動の速さ、連携の強さの背景になっていることは確かだ。

保木氏の行動に話を戻すと、テレビで情報確認中に停電、懐中電灯を頼りに身支度をして午前4時ころに自宅を出て店に向かった。移動に使う自家用車は、幸いガソリンを満タンにした直後だったので、当面の移動に不安はなかった。今回、地震直後の停電に見舞われた環境で、自動車は車載ラジオやテレビなどによる情報収集や、スマホ充電の手段として活躍することになる。

従業員12人が店舗に集結 当日開店の準備を進める

保木氏が途中で連絡をとった店長代行は、停電で自宅車庫の電動シャッターが開かず移動することができない状態だった。停電により、途中の信号もすべてダウン。ガソリンスタンドも電源がないことで給油機器が作動せず大半の店で営業できないなど、電気が使えないことは日常生活はもとより、地震からの復旧にも大きな影響を与えた。

「5時前に店に着くと、おもった以上に被害は大きかったです。まず、自動ドアがゆがんで普通の力では開かない。どうにかこじ開けてつくった小さい隙間から中に入るという状況でした。店内は至る所で、商品が棚から落ちており、酒売場では通路に落ちて割れた瓶から中身がこぼれ出していました。とりあえず応援が来るまで作業しやすいように通路を確保しようと、散乱している商品を通路からどける作業を行いました」

もう一人の社員を通じて、4時半ころに学生を除くパート・アルバイトへの応援要請をしており、保木氏が作業を始めてから30〜40分の間に、三々五々計12人が店に集合した。

「本当にありがたいとおもいました。皆さん揺れの大きかったエリアに住んでいて自宅も大変なのに、在籍している従業員のうち、半分以上が店に駆けつけてくれました。この協力がなければ店は開けられませんでした」

床に散乱した商品を、店内数ヵ所に置いたオリコンに入れることから作業を始め、そこから棚に戻せるものは戻して徐々に店を元の状態に近づけた。9月6日、札幌市のデータになるが、日の出時間は午前5時4分、5時過ぎから始まった店内の復旧作業は照明のない状態で、早朝の薄明かりの中で行われた。

7時を過ぎるころから、店外には物資を求める人が開店を待ち、列をつくり始めた。

「店の外にはいつの間にかお客さまが集まり開店を待っていて、少しでも早く店を開けなければいけない状況になっていました。スーパーバイザー(SV)にも連絡して8時の開店を決めました。大勢のお客さまが店内に一度に入ると危険ですし、余震の心配もあるので、風除室に机を並べそこで注文を取り、商品を取りに行って渡すというスタイルで営業しました」

地震当日の朝、店舗の前には開店を待つ人で行列ができた

東日本大震災では、今回同様、地域のために店を開けるという店長の判断で震災直後から営業した店は多かったが、会計に際してはレジがダウンしていたので、100円、200円など端数の出ないおおよその売価で販売する、いわゆる「ザルレジ」というやり方を取らざるを得なかった。

その教訓を生かして、ツルハでは発注などに用いる「POT(ポット)」と呼ばれるハンディターミナルでバーコードをスキャンすれば精算できるシステムを採用していた。POTで精算するためには、毎日担当者が売価情報をマスターからダウンロードする必要があり、フル充電に加えてPOTの非常時への準備は店舗のルーティン作業となっている。この作業も常に災害時対応を従業員に意識させるために役立っている。

ちなみに、POTの充電が切れた後は最終手段である「ザルレジ」を行う必要があり、500㎖の飲料100円、2ℓ入り飲料200円といった「ザルレジ」対応の売価感を持つことも同社の店長レベルでは必要とされている。

9月6日、地震発生当日は、水をはじめとする飲料、カップラーメン、パンなどの即食系の食品、電池、カセットボンベ、携帯電話用のモバイルバッテリーなど災害時関連の商品が午前中早々に売り切れになる。

「売り切れになった商品も多いのですが、お客さまは落ち着いており、お叱りの言葉はそれほどありませんでした。それよりもこんなときに店を開けてくれてありがとうという感謝の言葉が多く、そこは苦労したかいがあったとうれしかったです」

電気が復旧せず、欠品も多くなり、早朝から作業を続けている従業員の疲れもあったので、本部指示により、その日は日没前の16時で営業を終了した。

当初は復旧までに2週間を要するとまでいわれた北海道全域の停電だったが、関係各所の努力もあり、千歳高台店では2日目朝には電気が復旧した。しかし、40時間以上の停電で冷凍食品、冷蔵食品はすべて廃棄しなくてはならなかった。

また、地震、停電の影響で発注、納品が機能せず、2日目は食品やトイレットペーパー、災害時関連の商品が欠品するなか、洗剤など日雑商品が中心に売れていった。

物流が動きだし、商品が入ってくるようになったのは、地震発生から5日目を過ぎたあたりからだった。TGMD(ツルハグループマーチャンダイジング/商品部相当)からは、カテゴリー、アイテムに関して、どの程度発注に応えられるレベルにあるか密に連絡が来たので、ムダなく的確に発注できたという。

当日店内、プロモーションの商品も転倒、早朝の店内は薄暗い

幹部社員による対策会議を実施 役員たちも復旧作業に加わる

八幡政浩(やはたまさひろ)執行役員北海道店舗運営本部長は、東日本大震災発生時、宮城県、福島県を統括する店舗運営部長だった。地震発生当日の本部の対応を八幡氏に聞いた。

「東日本大震災の経験があったので、今回は私としても会社としても冷静に対応できたとおもいます。当日は地震発生直後に堀川政司社長の統率で、本部長以上の幹部社員が本社に招集されました。東日本大震災を教訓にして、パート・アルバイトに至るまで全従業員の安否確認をするシステムが導入されており、幹部社員の本部集合とほぼ同じタイミングでそれが発動されました。

集まった本部社員で対策会議が開かれ、堀川社長から基本的な指示があり、経験もあることから、以降の対応は私に一任という形になりました」

東日本大震災では津波による被害が大きかったため、八幡氏はまず海岸に近い店舗を担当する部長、および海岸に近い場所に住んでいるSVに電話して避難するように伝えた。その後、津波がないことを知り、その旨も改めて連絡した。

八幡氏が連絡を取ったのは、店舗運営部の部長と一部SV、指示や情報はそこから下に下りていった。まず、その日休業はせず店を開けるという方針を出し、何かあれば連絡を受ける態勢を取り、その後は幹部社員とともに近隣の店舗の復旧に向かった。

営業続行という基本方針は会社全体で共有されており、経営幹部からの指示は最小限で済んだ。また、社長、役員たちも店舗復旧の作業に加わっており、店を開けるためにトップから末端までがある意味自律的に動いているのが、同社の地震対応のなかでも特筆すべき点である。

酒類の瓶が割れ、中身が流れ出た店内

 

一品ずつ、一店ずつ積み上げてブランドを築き上げてきた「成城石井」のプロセス

毎日の商売に刺激を与える一冊をご紹介する「商売に効く本棚」。第2回目の今回は、成城石井の創業者 石井良明氏の半生を描いた自伝、「成城石井の創業ーそして成城石井はブランドになったー」をご紹介します。地元の人に愛される店としてどのように同社がブランドを作ってきたのかを学びましょう。(流通ジャーナリスト:流川通)

年収200万円の人も、2,000万円の人も買物をしたい店であるということ

日本を代表する都市型スーパーマーケットに成長した成城石井創業者である石井良明氏による小売ブランドづくりの思想と実践が詰まった好著。

本書は、小売業のカリスマ的創業者の名だたる著作に劣らず読み応えがある。ネット産業隆盛のさなかにあって、リアル店舗の価値を訴求し、一品ずつ、一カテゴリーずつ、そして一店ずつ積み上げてブランドを築き上げてきたプロセスを丁寧に辿っているからであろう。

成城石井が1号店の成城店をオープンさせたのは1988年。2号店はなんとその12年後に開店している。この長い年月の中で、試行錯誤を繰り返しながら、都市部における小型食品店経営のあり方(駅ナカ立地の開発)、核商品、核カテゴリーづくり(ワイン、惣菜など)、品揃え、プライシング(価格政策)、人材育成、設備投資といった基本戦略とコンセプトの根幹ができあがる。

成城石井は年収2,000万円の人をターゲットとして品揃えを行っているという。年収2,000万円の人は日本の人口の中でもほんの数パーセントだ。では成城石井に訪れるお客は皆、そんな高収入な層だけなのだろうか。答えは「ノー」である。

たしかに成城石井が提供する食材の数々を支持するのは高所得層であり彼らは上得意客だ。飲食店を経営するプロのお客も多い。おいしい飲食店を探すことを楽しむ層は、自宅でも同様の楽しみを得たいだろう。これは従来のスーパーマーケットが開発してこなかった顧客層だ。

一方で年収200万円の若い人でも、ときにお祝い事で彼女をもてなしたいこともある。そんなときはすこし奮発してグレードの高い商品を買うだろう。また収入は限られるが、ワインとチーズにはお金をかけたいというライフスタイルを持つ層もいる。彼、彼女らの購買動機をも併せて、ひとつひとつの商品をマス化してきたのが成城石井のMDの基本だ。成城石井には、年収2,000万円の人が選びたいワインがあり、チーズがあり、スモークサーモンがあるのだ。

ちなみに副題にある「ブランド」を英英辞典で調べると、「自分ではなく他者がその違いを語ることができる」という意味を持つ。

石井氏の言葉を借りれば、「高品質を追求するが、自分からは物語らない、お客様が語ってくれることに意味がある」と同義だ。

独自の体験価値を持つ商品がお客に語られるようになってはじめて「ブランド」となる。そして自分たちの街に成城石井があってほしい…地域住民に熱望されての出店こそ、小売がお客から与えられる最たる栄誉だろう。

冒頭で、英国の新聞記者が成城石井を評して、スーパーマーケット界のルイ・ヴィトンにたとえたというが、これはモノを知らぬ記者なのだろう。石井氏も思わず嬉しくなってしまったのだろうが、あえてたとえるなら、米国の人気スーパーマーケットチェーントレーダージョーズと米国の優れたローカルスーパーマーケットの特性を組み合わせて独自のポジションを築き上げているスーパーマーケットと言えないだろうか。

成城石井の炭酸水売場。硬度が高い海外の天然炭酸水が一同に揃う。珍しい国産の天然炭酸水(軟水)も発掘し、アピールする。硬水から軟水までまた天然と強炭酸を揃え、炭酸水の選択肢を増やし、尚且つ成城石井の核カテゴリーのひとつであるリキュールの割材のバリエーションを増やし、自分好みのテイストを見つけられるようになっている。核カテゴリーは品揃えのデプス(深さ)を訴求し、別のカテゴリーとも連動させながら目的来店性(デスティネーション)を創り出すことに成功している。

(石井良明著 日本経済新聞出版社)

IoTによって「店頭欠品」をリアルタイムで可視化できる

2018年11月12日、シンシナティのクローガー社(米国最大のスーパーマーケット企業)を公式訪問し、情報システムのR&D(研究開発)部門の幹部の取材をしてきました。詳細は、月刊マーチャンダイジング誌上にて発表しますが、テクノロジーの発達によって変化する小売業の未来の一部を紹介します。

画像情報、商品の位置情報、在庫情報がすべて統合・可視化できる

IoT(Internet of Things)時代とは、すべてのモノやビッグデータがインターネットにつながる社会のことです。IoT社会の到来によって、小売業の「売り方」や「作業」は劇的に変化します。

たとえばクローガーは、棚上の「カメラ」を活用して、「店頭欠品」の可視化の実験を行っていました。監視カメラの画像情報だけでは、欠品状況の可視化はできません。カメラの「画像情報」、その商品が棚のどの位置に陳列されているかという「位置情報」、その商品が何個あるかという「理論在庫情報」がすべてIoTでつながることよって、店頭欠品情報を可視化することが可能になります。

カメラで撮影されたゼロ欠品の棚には、A商品が陳列されており、その理論在庫がいくつあるというビッグデータがすべて紐づけられます。その欠品一覧をデータ化したものが以下の写真です。右側のOOSという言葉は、「out of stock」の略で、棚に在庫の存在しないゼロ欠品商品のことです。写真の赤線より上のOOS商品は、棚在庫はゼロであるが、理論在庫上は在庫があるはずの商品です。棚は欠品していますが、バックヤードや棚上に在庫があることが推測できます。


写真のOORという言葉は、「out of reach」の略で、その商品が本来あるべき位置にはなくて、手の届かない棚の上部に在庫があるか、もしくは棚の下部に陳列されている商品のことです。このように、欠品状況、陳列位置の乱れを可視化できるのは、「画像情報」「位置情報」「在庫情報」の3つのビッグデータがつながっているからです。

クローガーでは、OOS情報をもとに追加発注をかけたり、陳列位置を変更したり、バックヤード在庫を確認する作業を、毎日決められた時間に実施しているそうです。IoT時代の到来で、現場の欠品作業も大きく変化します。

メーカーとの店頭実験で店頭起点のマーケティングの高度化を目指す

小売業が消費税増税をはじめとする「コストプレッシャー」をどうはねのけるべきなのか。前回は小売業がメーカー、卸売業と協業する際に気をつけたいポイントを挙げました。今回は、店頭活動やリベートについての考え方を提案します。(月刊マーチャンダイジング2013年7月号より転載)

店頭活動の高度化でリアル店舗の価値は高まる

メーカーのマーケティング部門は、そのメーカーでもっとも予算を持っている。小売業は自らの店頭においてショッパーリサーチを今後より強化していく必要があるだろう。そのためには、優れたメーカーのマーケティングと協働して、販売促進活動に上手く活用することをお勧めする。

マスメディアによる広告は、以前のような効果がなくなりつつあると感じているメーカーは少なくない。店頭が消費者の商品やサービスに対する認知度・理解度を高める重要な媒体になってきていることは賢明な月刊MDの読者諸氏であればご存知のはずだ。

たとえば店内広告に対して広告費をインセンティブとして考えても良い。一方、ネット販売に対してリアル店舗の優位性を醸し出す「エンターテインメント性」の強化は今後重要な施策となろう。グローバルチェーン、メーカーでは「リテールテインメント」と呼ばれている製販協働の店内広告活動である。

これは知らず知らずのうちに、売場の楽しさに貢献する販売企画だが、重要なのは、戦略的に計画的に継続的に、そして、よりショッパーの心をひきつける魅力的な、差別化されたリテールテインメントを実施することである。

プロモーションも日常的に実施されているが、自社に来客しているお客様の特性をメーカーに調査してもらい、店頭実験を協働することにより、カテゴリー成長の促進を目的にプロモーション展開することが有効である。

一般的なメーカーが、消費者調査に使用している予算は大きな金額だ。そのうちの予算を何店舗かでブランドを購入するショッパーリサーチにあてれば、メーカーと協働してカテゴリーディシジョンツリー(意思決定の相関を判断する樹状図)を作成することも可能になろう。

そして、顧客データや店頭在庫データも活用し、店頭実験を行い、ショッパー起点の買いやすい定番売場を検証し、成功事例をスピード感もって、水平展開することが店頭起点のマーケティングの高度化へ結びつくのである。

POP等の販促物も、メーカーとの協働だ重要だ。小売業の意思と意図を反映させたPDQ(Pretty Damn Quick:プロモーションで使用されるエンド用アウターカートン)、RRP(Retail ReadyPackage:定番で使用される定番棚用インナーカートン)を作成すれば、陳列作業の効率化と、エンド管理の効率化をすることができる。

日本でも大陳キットがあるが、これは主にメーカーの供給事情に基づいたものが多いの対して、PDQやRRPは小売業のニーズに基づいて、協働で作成することが大きな違いである。

リベートをいかに戦略的に活用すべきか

最後に営業活動に関しての改革手順について述べよう。

ここで問題にしたいのは販促協力金「リベート」の扱いである。「リベート」はこれまで商品を扱いさえすればつけられるもの、あるいは売上の補てんというような後ろ向きの意味合いで使われることが多かったのではないだろうか。月刊MDでは、このようなネガティブイメージを払しょくするために、「リベート」という言葉よりも売上達成、あるいは利益アップのための機能フィーとしての「インセンティブ」という言葉を当てたい。

よって、小売業がよく口にする「他小売業に、うちより良い販促協力金をメーカーが提示しているのではないだろうか?」という疑問は販促協力金を「リベート」と思っているからである。メーカーの取引制度に関して、基本戦略はオープンになっているが、このリベート問題は残念ながらわからないとしか言えない。

というのは、目標達成(販売金額)・エンド展開・チラシ・数量インセンティブなどに加え、主に、メーカーのブランドが予算化しているブランド育成のためのインセンティブを絡めて、いくつものパターンとなる営業活動を実施しているのが通例だからだ。

例外メーカーもあるが、一般的には、メーカーのコンプライアンスが厳しくなってきている昨今、整合性のない「リベート」の運用は、出来なくなっている。このような状況下で、いかに整合性のある機能フィー、すなわち「インセンティブ」をメーカーから引き出し、利益に結びつけるかが、重要なアクションの一つとなる。

大半のメーカーは、ブランド育成のためのインセンティブは積極的であり、最近は、定番売場の強化に結びつく販促を重視するメーカーも多い。お客様の店頭での購買意思決定率は意外に高い。カテゴリーによってその数値は異なるが、小売業は、そういう重要な数値を把握しなければいけない。それらの数値に基づいて、利益率を絡めた定番商談を行うことは、小売業にとって利益が高まる。

新製品、改良品に関しては、メーカーも広告戦略、販促に非常に力が入るので、初動販売の成功を実現すべきである。初動販売の成功というのは、小売業にとってもショッパーロイヤルティが高まることにもなる。

また、メーカーは、現状新製品に多くのリベートを予算化しており、新製品の早期展開を条件に、メーカーに打診することも必要である。入れ替え・新規導入までのブランド育成予算について、メーカーと明文化し、全店舗で徹底させることである。

小売業はこの「徹底化」の中身、すなわち「売場実現」に関して最大限の組織能力開発と作業体系構築に注がねばならないだろう。

同時に、重点的に良いポジションをフェイシングしたのだけれど売れない場合、次の棚割りまで放置せず改善の対応もメーカーの販促金とリンクさせて取組みを実行すべきである。

[図表2]統合的サプライチェーン構築の基本概念

このような製販協働のサプライチェーンマネジメントの改革と高度化が、売場での「売り切る力」そして、「売り続ける力」の強化につながり、競合優位への近道となる。ぜひ実現に向けたアクションを起こしてほしい。