スーパーマーケットのシェアを奪うドラッグストアの食品部門

ドラッグストア(DgS)の「食品」購入額が大きく伸びています。高齢化社会に突入し、日本国民の胃袋が小さくなり、スーパーマーケット(SM)とコンビニエンスストア(CVS)の食品購入額が、「ほぼ横ばい&減少」で推移する中、DgSでの食品購入額の伸び率の高さが目立ちます。食品市場が増えない状況で、DgSの食品購入額だけが伸びているということは、SMとCVSの食品購入額をDgSが奪っているからです。

過去5年間で食品購入額を大きく伸ばしたDgS

図表1は、2013年(調査期間2012年11月~13年10月)と2018年(同17年11月~18年10月)の5年間における、カテゴリー別・業態別の食品購入額の伸び率を示したものです。このデータは、「2019年版スーパーマーケット白書」(全国スーパーマーケット協会発行)に掲載された図表を編集部にて加工したものです。

高齢化社会の到来で、日本人の食べる量が横ばいか減少に転じています。その結果、SMやCVSの食品売上が過去5年間で横ばい、もしくは減少傾向なのに対して、DgSがこの5年間で食品購入額を大きく伸ばしていることがわかります。

たとえば、SMの「主食」(米飯やパンなど)の購入額が5年間で-1.9%と減少しているのに対して、DgSは2.4%増と主食の購入額を増やしています。同様に、「嗜好飲料」(コーヒー、紅茶など)は、SMの購入額が-3.3%なのに対して、DgSは1.9%増です。

DgSの購入額伸び率の高いカテゴリーは、「乳飲料」(伸び率4.0%)、「酒類(伸び率3.6%)です。SMの伸び率は乳飲料が横ばい、酒類が-0.9%なので、明らかにDgSがSMの牛乳と酒の売上を奪っていることがわかります。とはいえ、SCIデータによれば、清涼飲料をのぞくすべてのカテゴリーでSMの購入先シェアが50%を超えており、まだ食品の購入先の主力業態はSMであることがわかります(清涼飲料水の購入先シェアは38%)。

SCIデータで、DgSの食品購入先シェアが10%を超えているカテゴリーは、「清涼飲料」(12%)、「酒類」(11%)、「乳飲料」(11%)、「嗜好品」(13%)です。現状のDgSの業態別購入先シェアは、SM、CVSに次ぐ2番手、3番手です。しかし、SM、CVSと比較すると、DgSの店舗数の増加率は極めて高く、今後、DgSが食品のシェアをさらに奪っていくことが予想されます。

DgSの食品構成比は年々増加している

図表2は、「月刊MD」2018年10月号「ドラッグストア白書」で掲載した上場DgS企業の食品の売上構成比の過去3年の推移です。

「ドラッグストア」と名乗りながら、食品の売上構成比が50%を超えている企業が2社(Genky Drugstores、コスモス薬品)、食品の売上構成比が40%を超えている企業が2社(薬王堂、カワチ薬品)も存在しています。また、マツモトキヨシ以外のDgS企業は、過去3年間で食品の売上構成比を高めており、近年のDgSの食品強化戦略が明確であることがわかります。

DgSの「食品」の強みは、(1)便利性、(2)安さ、(3)専門性の3つです。DgSは、商圏人口1万人を切る小商圏に密度濃くドミナント出店しています。SMよりも小商圏であり、自宅から近くに立地しており、SMよりも「近くて便利」なので、今後も便利性でSMから食品のシェアを奪っていくと思います。

また、「安さ」はDgSの最大の武器です。過剰な設備投資のないDgSは、SMよりも販管費率が低く、論理的に考えるとSMよりも安く売れます。DgSは、SMよりも「便利性」と「安さ」で優位に立っています。一方、便利性はCVSに劣るものの、「安さ」ではCVSよりもDgSの方が勝っています。郊外のCVSは、飲料、カップ麺、菓子などの「価格敏感商品」のシェアをDgSに奪われています。

さらに、HBC(ヘルス&ビューティケア)という「専門性」の高い商品を主力にしていることも、DgSの業態としての強みです。高齢化社会の到来で「食べる量」は減少しますが、「健康でいたい」「美しくあり続けたい」という人間の根源的な欲求は逆に高まります。つまり、成長するマーケットを対象にした業態であることも、DgSの強みです。「健康に良い食品」「美容に良い食品」を店頭起点に「需要創造」することのできる最適の業態です。

しかし、現状のDgSは、「売りやすい商品」を「安売り」することだけで、食品のシェアを奪っているのが実態です。HBC(健康と美容)と連動した食品売場の再構築こそが、DgSの最大の経営課題です。しかし、SMの方がトクホなどの健康志向の食品売場が充実しており、DgSの食品売場では「健康によくなさそうな食品」をただ安売りしている実態を目撃すると、とてもガッカリします。安さだけでシェアを奪うことはもう限界だと思います。

[PR]「わたしにもこどもにうれしい」ヘアケアブランド誕生

2018年9月、クラシエから発売された「マー&ミー ラッテ」は、忙しい母親と成長過程(3〜10歳)の娘が一緒に楽しめるという、これまでにない新しい切り口を持つヘアケアブランドである。ファミリー層を対象とした高シェア・マス系商品の収益性が頭打ちの中、小さな子供を持つ家庭に新たな楽しみを提供し、店舗にとっては高い収益性の見込めるブランドをヘアケアカテゴリー拡大に活用しよう。

メイン写真左から:マー&ミー シャンプー490mL参考価格800円(税抜)/マー&ミー シャンプー詰替360mL 参考価格500円(税抜)/マー&ミー コンディショナー490g 参考価格800円(税抜)/マー&ミー コンディショナー詰替360g 参考価格500円(税抜)/マー&ミー ダメージケアトリートメント180g 参考価格800円(税抜)

開発背景①:ユーザーの多い領域で新価値、新機能性で単価アップ

シャンプー、コンディショナー、ヘアトリートメントを中心とするヘアケア市場は約2,000億円の巨大な規模を持ち、ドラッグストア(DgS)では豊富な品揃えで対応し、来店目的にもなる主力カテゴリーと位置づけられている。

図表1はクラシエがまとめたヘアケアの主なセグメントである。S1/メガブランド愛用層(以下S1)がもっともシェアが高く半分以上を占めている。次いでS4/ファミリー・地肌ケア層(以下S4)となる。S1のシェアは高いが、有力ブランドが複数あり価格競争に直面している領域でもあるので収益性は低い。

「マー&ミー ラッテ」が参入するのはS4の領域で、ここには、数量的にはトップクラスのシェアを持つファミリー層から支持されている有力ブランドがあるが、価格面からは収益商材とはいい難い。多数のユーザーを有し、数量的にはマス領域であるS4でいかに単価アップできるかは、DgSのヘアケアカテゴリー成長の大きなカギである。

「マー&ミー ラッテ」は、新しい価値観、新しい機能性そして高い収益性を提供することで、S4セグメントを活性化し、カテゴリー拡大に貢献できる期待のブランドである。

図表1 ヘアケアのセグメント別金額シェア

クラシエ調べ

開発背景②:「I」でも「YOU」でもない第3の軸が新しい市場を創造

「ファミリー層を対象とし、多数のユーザーがいる領域(図表1/S4)で、新規客にとって魅力的な切り口は何か」。クラシエでは、子育て中の女性スタッフを中心に開発チームを立ち上げ、この課題と向き合った。その答えが、「自分(ママ)の髪でも満足できて、なおかつ娘(3~10歳)の髪にも配慮した処方でありあり、母娘(おやこ)で使用することでバスタイムが楽しくなること」であった。

クラシエの調査によると、小学生以下の子供を持つ女性の90%が、できればシャンプー/コンディショナーを子供と一緒に共用したいと回答、その多くが、浴室のゆとり(すっきり感)88%と子供の髪へのやさしさ68%を求めている(2018年調査 n=194)

こうしたニーズから、開発チームではヘアケア商品を購入するママのライフステージにおいて、使用ブランドを迷うタイミングは必ずある(図表2)。そのタイミングに合わせて「マー&ミー ラッテ」を訴求することで、大きなニーズを獲得できるという答を導いた。

このように、新商品が初回購入時に訴求する対象は「ママと娘」だが、最終的にターゲットとするのは大きな市場を持つファミリー層全体であることも留意しておきたい。

図表2 シャンプーの選択行動

クラシエの資料をもとに編集部作成

商品特長:子供の髪も実は傷んでいる。ミルクの力で母娘のダメージをケア

忙しく働くママの髪は産後変化しやすい。キューティクルが浮き上がり、めくれるような傷み方をしていることが多い。一方で、成長過程の子供の髪も繊細で、キューティクルに亀裂が入り込んで傷みやすい。

「マー&ミー ラッテ」には、ラクトフェリンとホエイ(ヨーグルト液)といういずれもミルク由来の成分から生まれた「プレミアムWミルクプロテイン」を配合。栄養豊富なタンパク質がママと娘の異なる髪のダメージをケアしてくれる。

また、この商品に向けクラシエが独自に開発したアミノ酸系の新洗浄基剤「HEA(ヘアー)※1は、素早く泡立ち「ぷるふわ」の感触で、子供でも洗い流しやすく指通りもなめらか。※1 ラウロイルヒドロキシエチル・β-アラニンNa

 さらに、ママと娘それぞれに特有のニオイ成分と発生メカニズムを解明し、汗と皮脂のニオイをしっかり抑制。やさしく包みこむような「アップル&ピオニーの香り」に仕上げた。風呂上がり以降、母娘で同じ髪の香りを楽しむ贅沢なひとときが味わえる。

商品特長

  • ママと娘の髪を芯から元気にする「プレミアムWプロテイン」配合
  • クラシエ独自開発の肌にやさしい新洗浄基剤「HEA(ヘアー)」使用
  • ママと娘のニオイに対応、優しく包み込む「アップル&ピオニー」の香り

売場・売り方:「2人のレディーを美しく」。情緒面から共感を得て、品質で納得

「マー&ミー ラッテ」最大の特長は、ママと娘が美しい髪を一緒に楽しめるように設計されていること。この情緒的価値は、テレビCM、雑誌広告などのマス媒体から、店頭の販促ツール、パッケージに至るまで一貫して訴求されている。

また、この情緒的な価値に共感してもらい、さらにそれを拡散するために「リンクヘアー」というワードを積極的に発信する。リンクヘアーとはママと娘が同じ髪型を楽しむこと。インスタグラムでは「#リンクヘアー」でコミュニティづくりを目指す。内向きだったシャンプーという作業を、リンクヘアーという行動に結び付けることで、開かれた楽しい趣味的な活動へと進化させる。

プロモーション売場ではブランドの世界観を表現したトップボード、「#リンクヘアー」の投稿写真や商品の使用感想をPOP化したツールなどを用意。店外プロモーションと売場との連動を図る。

9月の発売以来売上は好調で、あるDgSチェーンでは平均でシェア2.4%、4%近くを獲得した週もある(クラシエ調べ)。2018年9月の月初2週とそれ以降2ヵ月の購買を見ると、25.3%がリピート購入している(SOOデータ)。新発売ながら一度使えばその良さがわかる商品といえる。

「マー&ミー ラッテ」の世界観を表現した60秒動画広告

キービジュアル(イメージ)

ママと娘の美しい髪をアピール
インスタグラムに投稿されたリンクヘアーの写真を販促ツール化

提案プロモーション売場

世界観を訴求したプロモーション売場例

3月、4月の卒園、入園・入学時期は
ブランドスイッチの大きなチャンス
プロモーション売場で単価アップを狙おう

重要ポイントのまとめ

  • いままでになかった「ママと娘」の髪を美しくするヘアケア
  • 大きな市場を持つファミリー地肌ケア層での単価アップを狙う
  • 3月、4月はブランドスイッチによる単価アップのチャンス

老舗石けんメーカーが営業所をWeWorkに移した理由

スタートアップ企業向けに世界各国にコワーキングスペースを提供するWeWork。単なる「場所貸し」ではなく、入居企業同士のコミュニティを作ろうとする姿勢が注目を集めている。そのWeWorkが大阪なんばに新規オープンした拠点に営業所を移したのが無添加石けんを中心に展開するミヨシ石鹸だ。スタートアップ企業のひしめくコワーキングスペースと老舗石けんメーカーという一見不思議な組み合わせは、どのような狙いによるものなのか。

クリエイティビティを刺激する、絶景を見渡す執務スペース

WeWorkは2010年にアメリカで創業した起業家向けコワーキングスペースを提供する企業だ。27か国、101都市に580カ所以上の拠点を有し(2019年2月7日現在)会員に向けてコミュニティスペースを提供している。アメリカではスタートアップ企業の利用が多く、AirBnB、Uberなど成長を遂げたスタートアップ企業もWeWorkのユーザーだ。

日本においては2017年にソフトバンクグループとの合弁でWeWork Japanが設立され、拠点の運営を行なっている。日本には東京、大阪、名古屋、横浜、福岡の4都市に13カ所の拠点を置く。

そんなスタートアップ企業がひしめくWeWorkに大阪営業所を移転したのが無添加の石けんの製造で知られるミヨシ石鹸である。

WeWorkなんばスカイオは、南海鉄道なんば駅に直結するオフィスビル、なんばスカイオの26階~28階の3フロアを占める。入口を抜けると、オープンテーブルの共用ワークスペースが広がり、奥のエリアが企業向けのプライベートオフィスになっている。ガラスの壁で区切られたオフィススペースは、奥まった場所でも明るく、フロア全体の一体感がある。

写真は執務スペースのイメージ

特筆すべきはワークスペースの眺望の良さだろう。西側に大きく開かれた窓は遠く大阪湾を見渡し、天気がいい日には明石海峡まで見えるという絶景。デザイン性の高い家具が配置され、壁面をアート作品が飾る。

異業種の企業といかに接点を作るか

WeWorkなんばスカイオにはさまざまな業種の企業が入居している。電子決済、オーダーメイドスーツ、e-learning、シェアタクシー、EC、語学……スタートアップ企業が中心だ。そしてWeWorkの大きな特徴が、このような多彩な入居企業間のコミュニケーションを、コミュニティマネジメントチームがサポートしてくれるという点である。ミヨシ石鹸取締役営業本部長の中野浩之さんは今回WeWorkに営業所を移転した狙いの一つとして「異業種との交流」を挙げる。

「事務所やお得意先でのコミュニケーションだけでは、同じ業界内の情報しか共有することができません。WeWorkには、入居している企業同士が気軽に情報交換できるコミュニティスペースがあります。異業種の方と接することで、今まで考えたことのない発想や刺激を受け、それを仕事に生かせるチャンスが産まれると考えました」

たとえば、毎週入居企業を対象としたイベントを実施していて入居者同士のコミュニケーションを促している。取材に訪れた週は「本気で作る大阪ミックスジュース」というイベントや「WeWorkでマッサージ体験!」というようなイベントが予定されていた。

月曜日の朝には「TGIF」ならぬ「TGIM」というイベントが行われている。
一般的に金曜日は「花金」と呼ばれ、英語では「Thank God It’s Friday」(今日は金曜日だ!神に感謝します)という意味で「TGIF」というスラングが用いられることが多い。そこでWeWorkでは「TGIM」と言って月曜日を迎えられたことに感謝して、拠点によっては朝食を食べながら、入居者同士が交流を深めるためのイベントを開催しているのだ。

「訪問する営業から、来訪していただける営業へ」と中野さんは言う。

訪問しなければ会ってもらえない。だから訪問する。…そんな発想から、自社へ訪問していただき、商談だけで終わらず、本当の意味でのコミュニケーションの時間を過ごすことが、次のビジネスチャンスにつながると中野さんは考える。

入居者であれば誰でも使えるオープンキッチンは、フリードリンクも充実している。コーヒーや紅茶はもちろん、ビールサーバーまで設置されていて、就業時間後に従業員同士やお客様とコミュニケーションの輪を広げるツールとして活用できそうだ。

もちろん集中して作業をしたいときや、込み入ったやりとりをしなければならない場合などはコンセントレーションブースを活用することもできる。

「車があるから営業に出る」という固定観念から脱却

今回の移転の狙いについて、ミヨシ石鹸営業部の伊藤恒太郎さんはこう言う。
「もともとの営業所は雑居ビルの一部屋で、あまりよい環境ではありませんでした。こちらのオフィスのアクセスは非常によく、お客様先に出向くだけでなく、お客様にご来社いただいて、この環境を楽しんでいただくようなことも増えています」

ミヨシ石鹸の大阪営業所は、WeWorkに移転したタイミングで営業車を廃止した。基本は公共交通を利用して移動し、販促物を持参する必要があるときはカーシェアリングを使う。

本社では電気自動車を導入しているが、環境に配慮することを第一に考え、できる限り公共交通機関を利用することにしたのがその理由だ。取引先企業にWeWorkに来訪してもらい、和やかな雰囲気の中でコミュニケーションを取るケースも増加している。

ミヨシ石鹸の三木晴信社長は、WeWorkへ営業所を移転した意図についてこう語る。

「WeWrokには以前から興味を持っていました。たまたま上海を訪問した際にWeihai Luという地区のWeWrokを訪問したのですが、1930年代に建設された精製工場で、2000年代にはアーティストレジデンスとして活用されていた建築物。リノベーションされた内装は非常にデザイン性が高く、これは入居するしかないだろうと感じたんです。大阪に進出すると聞いて、ならばぜひ営業所を移転したいと考えました」

「まだ入居して日が浅いので総合的な評価はしづらいところですが、営業スタッフの働き方が変わったのは大きいと感じています。どうしても、仕事に集中すると同僚とのコミュニケーションをシャットアウトしてしまいがちですが、ここでは自然と会話をしながら仕事をするスタイルになっています。それに、狭い社内に閉じこもっていると、どうしても『うちはこういう会社だ』という固定観念ができてしまいがちですが、ここに来るとそれが解放される印象があります。クリエイティブな雰囲気に溶け込んで、スイッチが入る。そういう意味では生産性は上がっていると思います

WeWorkの利用を福利厚生と考えるか、生産性を上げるための施策と考えるかで、評価は全く違ったものになる、と三木社長は言う。さらに今回の営業所移転の背景には、これまでの社内文化を一新し、収益構造を変革したいという意図がある。

メーカーの営業業務は、取引先と会って商品を案内するルートセールスが基本だ。これは往々にして単なるルーチン業務になりがちで、工夫無しに毎日の業務を回すだけという状況に陥ってしまう営業担当者も少なくない。しかし情報化が進んだ今日、メーカーに求められるものは、工場で製造した商品を単に取引先に卸すことではなく、新しい価値を創造していく、知的な生産活動である。その知的な生産活動の場として、ミヨシ石鹸はWeWorkを選択したのだ。

「今後企業活動の鍵を握るのはダイバーシティです」(三木社長)

変化が激しく、さまざまな価値観が交錯する現代社会においては、異なる背景を持った人たちが一つの目的に向けて試行錯誤することでしかゴールにはたどり着くことができない。そういう意味で、ミヨシ石鹸は、ジェンダー、国籍、宗教…すべての意味で多様性を実現するための実験を行っているさなかであるといってもいいだろう。

「WeWorkには業種や国籍など、本当に様々なバックグラウンドの人がいらっしゃいます。弊社従業員には、この場の力にインスピレーションを受けて、新しい仕事の仕方に転換することを期待しています」(三木社長)

いかに既存の「営業」の固定観念から脱却するか。このような環境を従業員に提供するのも、営業活動そのものをダイバーシティーの実践とするための同社の試行錯誤の一環と言えそうだ。

しかし、従業員にとっては、これだけ自由な環境で、どこまで自分を解放していいのかという迷いも出てきてしまいそうだが。

「けれども、そういうものも含めて変化というのは面白いものではないでしょうか。仕事は大変なものという考え方があります。たしかに大変なものではあるんですが、ずっとそれだけでは疲弊してしまう。でもここであれば、どんな仕事の仕方をしていても、文句を言う人はいません」

自由な環境でこそ個人の能力は最大化される。その変化への対応は、従業員それぞれにとって短期的には迷いが出るものかもしれないが、長期的には個人の、そして企業の強さの底上げに確実につながっていくはずだ。

変わりゆくメーカーの本質。持たない経営が目指す先とは

コワーキングスペースを活用することはコスト削減にも直結する。Wi-Fiなどのネットワーク環境やインフラはすでに整っているので、入居企業側ではノートPCを1台用意しさえすれば仕事の環境をあっという間に構築することができる。ゴミの回収や清掃も任せられるので、総務部門の仕事もスリム化できる。

スケーラビリティも特徴の一つだ。事業規模に合わせて従業員の人数が増減した場合は、WeWorkの中で空いているスペースに移動をすればよい。大掛かりな転居は不要だ。

実はこのタイミングでミヨシ石鹸の大阪営業所は固定電話もなくした。名刺には電話番号が記載されているが、すべて本社に転送されている。フレキシブルでライトな運用、「持たない経営」を徹底しようとする姿勢が見て取れる。

メーカーという業種は、これまで工場を所有して製品を製造できる部分に本質的な価値があるとされていた。しかしその前提も情報化が進み、工場を持たない「ファブレス」メーカーも存在感を増してきているなど、環境の変化に伴い一つのターニングポイントを迎えていることは間違いない。メーカーという存在が、この先どのような価値を市場に提供していくのか。ミヨシ石鹸の営業所移転は、業界に対する一つの問題提起につながっているのではないだろうか。

(提供:ミヨシ石鹸)

「たくさん売る」から「買い続けてもらう」へ小売業は変化する

小売業に一家言あるコンサルタント・実務家の方々に2019年の展望を語っていただく特集企画「小売業界2019年業界展望」。最終回となる今回は、オムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎さんが登場します。カメラのキタムラでオムニチャネル化に成功し、現在さまざまな企業でデジタルシフト、オムニチャネル化に取り組む逸見さん。今後小売業にとって重要になる戦略は「たくさん売る」ことではなく「買い続けてもらう」ことだと言います。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

小売業はまだまだ変化が足りない

――2018年までの小売業は、どのような状況だったと思われますか。

逸見:まだまだ変化が足りないと思っています。

お客様はみなスマートフォンをお持ちになって、さまざまな情報にアクセスできるようになっています。しかしいまだに小売業の店舗では「エンドに商品を積みましょう」「原価率を低減しましょう」というような話ばかりです。「高付加価値で粗利の高いものを売りましょう」とか「PBを作りましょう」という話も相変わらず耳にしますが、重要なのは本当にそこなのでしょうか?

――購買行動が変化しているのに、実店舗は変化が追い付いていません。

逸見:そうですね。ECやデジタルと、まだ距離をとっている小売業も少なくありません。ECやデジタルに関する事業部が組織上(店舗運営部などの)事業部門と別になっていますし、戦略がない企業が多いと感じています。

もしEC事業部が事業部門と組織上わかれていたとしても、(逸見氏が以前オムニチャネル化を推進した)カメラのキタムラのようにEC関与売上のような指標を立てて「店舗運営部とEC事業部で一緒にカメラの売上を伸ばそう!」という目標に一丸となって向かうことができればよいのです。スマートフォン上のお客様との接点であるアプリはECの部署が作るけれども、店舗で商品を受け取れば売上と利益は店舗に入る…というような構造になっていれば、店舗運営部も積極的にアプリのダウンロードを推奨するはずですから。

ですが、お客様はネットもリアルも関係なく買物をするようになってきているのに、大手企業ではやはりEC部門と事業部門の組織が別になっている。もうそのようなやり方は限界がきていて、根本的に変わっていく必要があるのだと思います。

2018年は既定路線のままでいられる限界の年だった

逸見:2020年のオリンピックの後はかならず景気が落ちて、市場はシュリンクします。消費増税も控えていますし、消費は確実に冷え込むでしょう。日本だけを市場とみていると明らかにつらいところです。

そこでインバウンドに注目が集まっているわけですが、このインバウンドという言葉ひとつとっても、日本の小売業がお客様のことを見ていないということがわかります。日本の既存の小売業は、海外からいらっしゃったお客様をひとまとめにして「インバウンド」と呼んでいますが、これは「塊」のように見えても実際は世帯年収や年齢などの背景が全く違う方々の集団です。ユニークIDで管理できる「顧客」と考えるべきです。

――お客様一人一人を見ないというのは不思議です。なぜなのでしょうか?

逸見:今までお客様をそのように見る習慣がなかったのですから、仕方ないと思っています。ですが、経営者の方には、「お客様個人の行動が見えるようになったという事実はしっかり理解してください」と申し上げております。

たとえば無印良品のスマートフォンアプリを例に挙げれば、アプリを立ち上げて何かを検索すると、その時点でお客様がどこでどんな商品を検索しはじめたのかがわかります。店舗でチェックインしてくれれば、わざわざ来店したとお客様が宣言してくださっているということになりますね。店頭での商品購入時にもアプリを見せていただけますから、購入した商品の商品コードと店舗コード、顧客IDを紐づけることができる。

つまり、ID番号XXXX番さんが店内、店外でどのような行動をしているのかということが、つまびらかになったということです。

「ユニーク客数」を増やすのではなく「リピート率」をあげる

逸見:これが今までわからなかったから、商品カテゴリ単位で予算を組んで予実管理をしていたわけです。でも誰が購入しているかがわかれば、考え方が変わりますよね。当然、それを実現するためには膨大なデータを処理するという課題は浮かび上がってきますが。

端的に言うと、これまでとは完全に逆の流れになっているんです。これまでは「商品」つまり「何を」から分析することしかできませんでした。しかし現在のような状況では、まず「誰が」というのが見えて「何を」「何回」「何個」購入している、というのが見えてくる。

売上は「客単価×客数」です。そして、この客数の中身を今はもっと細かく分解することができるようになりました。以前は客数が1000人だといったときに、そこでAさんが何回購入したのか、という話は全く見えませんでしたが、まずそのお客様が新規客なのか、既存客なのかがわかりますよね。既存客の中でもずっと購入し続けてくださっているお客様なのか、それとも久しぶりにお買求めいただいたお客様なのか…そういうことも顧客IDを使えば分解することができるわけです。

その上で主に購入している場所がネットなのか店なのか、両方にまたがっているのかということまでわかります。もちろんお買い物のときにポイントカードやアプリを提示することが前提ですので、100%レジ通過客の属性がわかるわけではありませんが、80%ぐらい見えればデータとしては十分でしょう。

昨年年間30万円購入していただいた7000人のお客様に、今年はあと1万円追加で購入していただくためにはどのようなアプローチをすればいいのか。年間30万円を31万円にするのはそれほど大変なことではありませんが売上は7000万円アップします。その30万円を分解していくと、食品を買っている、医薬品を買っている…とカテゴリでの購買動向で分けることができるかもしれません。

ーー商品軸のマーケティングから顧客軸のマーケティングへの移行が必要ということですね。そういったデータを基準にしたマーケティングに小売業は全く着手できていない状況ということでしょうか。

逸見:そうです。データが見えているのに、その事実を見ないで経営しています。売上と利益と客数の塊しか見ていない。

今まで中期経営計画といえば絵に描いた餅にすぎませんでしたが、それが本当に必要になってきたとも言えます。3年、5年というスパンでお客様とどのようなリレーションを深めていこうとしているのか。どれだけ繰り返しお買い物をしていただけるようにするのか。一般的な、日本国内のみをターゲットにしているような小売業さんでしたら、ユニークIDを増やすということはなかなか難しいので、いかにリピートを上げていくかということを考えていくべきだと思います。

顧客行動の全体像を設計できているか?

――本来でしたらそういった施策をどこの企業も打つべきですが、なかなかそこまで至っていないというのが現状です。

逸見:どこの小売業さんも、業績が厳しくなってきてやっと気が付いてきたタイミングだと思います。投資力がある企業さんは、なぜかレジを進化させたりしていますが…。

ーーそれは方向性に問題があるとお考えですか?

逸見:そうですね。お客様へ提供する価値を高めるという発想であれば、商品やサービスのクオリティも重要ですし、店舗やネットでの買物の利便性も重要です。とにかくほとんどのお客様は、ネットでも店舗でも情報を入手してお買い物をなさるようになりつつある。その全体像をしっかりと設計していく必要があります。

昔はメールでの販促も手運用だったのでできませんでしたが、今はビッグデータを分解して、最後はお客様一人一人に対してコミュニケーションを最適化させることもできるようになりました。

ただ、問題なのは仮説を立てないでツールにデータだけ流し込んで、マーケティングオートメーションツールでメールを配信すればいい、とやってしまうことが多いので、余分なメールが届いてお客様も離脱してしまう。

今でもマーケティングのデジタル化が理解されていなくて、メールをたくさん配信したほうが売上が上がるというような一時的な話がなされているような状況です。

本当は継続し続けたらお客さんは減り続けるということが理解されてないわけですよね。メールの配信先は少なくても、ピンポイントで「あなただけのメール」を送れるかどうかの方が重要なのに。

――販促の個別化、商品の個別化が今後重要になってくるということですね。

逸見:そうです。その点ヨーロッパは進んでいて、技術寄りで荒っぽいアメリカとは違って、派手さはないのですが、店舗で発行しているポイントカードやアプリがメールアドレスと紐づいていて、適切に連動をしています。

要はお客様と適切につながり、どうアプローチできるかが大切なんです。最近うまくいっているのは顧客視点で全体最適を描ける小売業さんですよね。企業理念がしっかりとしていて、それを愚直に考え続けて「ここはデジタルにしたほうがいいよね」とか「ここは人間が対応したほうがいいよね」という組み合わせを考えることができる企業さんです。こういった企業さんは、良さを残しつつ生き残ることができています。

失敗している企業さんは、それがはっきりしていなくて、いろいろな技術をつまみ食いして「この技術が面白い」とか「CtoCだ」とか「AWSにデータを乗せて分析すればいいんだ」とかとか(苦笑)、技術が先行してしまいがちです。

小売業だけでは顧客満足の実現はできない

ーーお客様にどう認知していただくかが重要ですよね。もっとマーケティングのデジタル化に向き合わなければならないということでしょうか。

逸見:今店頭ですらモノがありすぎてほしい商品を探しにくくなっています。その上、昔は商品が進化していて「バージョンアップしたこの新しい型に買い替えなきゃいけないね」という購買行動が多かったのですが、今はそういうものがほとんどなくなってきていて、逆にお客様の方向性がどうモノを減らすかになっています。

世帯構成人数も大きく変化しています。日本人の6割が単身世帯か2人世帯です。典型的な家族構成は減ってきている。それではモノを買わなくなりますよね。

そういう状況を理解した上で、お客さん個人にアプローチをしていくべきだと思います。「たくさん売る」ではなく「買い続けてもらう」んです。在庫をたくさん持つ必要もなくなります。メーカーさんも、ものをたくさんつくる必要はなくなりますよね。工場を稼働させることが重視されていましたが、それを絞り込んでいかにお客様の必要としているものを生産するのか、という方向に変わっていければいいんです。

――小売業だけでは顧客満足の実現は不可能ということですね。

逸見:そうですね。今後、ますます卸、メーカー、小売はデータを共有しなければならない時代が来ると思います。小売業側には個人のIDに紐づくデータがありますし、メーカーには全国というセグメントのデータがあります。

これまでは巨大な小売業が同じ製品を日本全国津々浦々まで流通させようとするから、メーカーの生産量が追い付かなくなってしまいました。コンビニの大手チェーンも2万店舗体制になると、メーカーが生産・納品しなければならない商品の個数も膨大になります。小売業は大きくなりすぎてしまったのだと思います。

海外の小売業はNBのコントロール弁としてPBに力を入れています。それを販売するためにウォルマートも店舗網を増やしているといって過言ではありません。

メーカーはこれまでのように製造量を増やして原価を下げて消費者にコスパを提供するのではなくて、消費者が本当に必要なものを作って提供することによって、無駄を省き、利益を出す必要があるのではないかと考えています。

――どんぶり勘定の見込み生産では今後が厳しくなる企業が多そうです。

逸見:本当に、ぎりぎりにきていると思います。キャッシュに余裕があったトップ企業も転換しなければならないですし、収益性が厳しくなっている企業もたくさんあります。

そのような企業さんがこれまでと同様、たくさん売るために市場を獲得してシェアを上げて原価率を下げ利益を出すという発想をいまだに持っているのでしたら、この先厳しくなる一方ではないでしょうか?

でも変わる余地はまだあります。2018年は既定路線のままで進むことのできる限界の年でした。2020年や2030年を見据えて、2019年からは戦略を本当に変えていく必要があるのではないでしょうか。

ーー本日は興味深いお話をありがとうございました。

店長とSV、12の職務を改めて整理する

店舗運営部に属するSV(スーパーバイザー)や店長は、小売業の業績を左右するキーマンといっていいでしょう。ネットで何でも買える時代において、顧客接点の「現場力」を高めることが、リアル店舗の最大の差別化戦略です。店長はワーカー(作業者)でよかった過去とは異なり、店長の重要性は高まっています。SV(エリアマネジャーと呼ぶ組織もある)、店長の職務を改めて整理してみましょう。

店内作業の習得が店長教育の出発点

現場責任者であるSVと店長に求められる能力は、「現場のリアリティ」と、「数値に基づいて判断できる能力」の両方を持つことです。経験と勘によってのみ判断し、数値を軽視してはなりません。一方、現場のリアリティを無視して、数値だけで判断してもダメです。

たとえば、「在庫を減らせ」と本部から指示が来ると、現場では売れ筋の発注をしなくなります。売れ筋の発注抑制が、もっとも手っ取り早い在庫削減策であるという現場のリアリティを理解した上で、数値に基づいた在庫調整を行えるスキルが、SV、店長には求められます。

「現場力」を養うためにも、20代の店長候補者は、棚卸作業を含めた「店内作業」を完璧に習得することからキャリアをスタートすべきです。SV、店長のもっとも重要な職務のひとつは、OJT教育(自ら手本を示して部下に作業を教えること)によって店内作業の水準を底上げし、人によるバラツキを少なくすることだからです。

OJT教育を実践するためには、店長やSVは、誰よりも店内作業を早く完璧にこなすスキルが求められます。そのためには、新しいレジ作業や、新しい発注の仕組み、新しい売場管理方法など、日々更新される新しい店内作業を習得する努力を怠ってはなりません。

店内作業の実行と徹底がSVと店長の最大の職務

多店舗展開するチェーンストアの組織は、大きくは「商品部」と「店舗運営部」に分けることができます。商品部や販促部がMD(マーチャンダイジング)の計画部隊であるのに対して、店長やSV(企業によってはエリアマネジャー)が属する「店舗運営部」は、MDの実行部隊です。

多店舗展開するチェーンストアは、企画や計画も重要であるが、店舗での実行力や徹底力によって業績に大きな格差が生まれます。理由は、多店舗展開しているからです。たとえば、ある新商品や季節商品を〇月〇日に全店舗で陳列するという計画を立てたとします。陳列すべき当日に500店中8割の400店で陳列完了した小売業と、陳列作業が遅れて、500店中2割の100店でしか陳列完了しなかった小売業では、その新商品の売上には大きな格差が生まれます。

経験法則では、店内作業の徹底力は驚くほど低いのです。店頭実現力は2割(100店中20店しか実行されないという意味)程度の小売業も多く、店頭実現力を高めることが即、売上増、利益増に直結します。極端なことをいえば、チェーンストアの業績の7割は、店内作業の実行力・徹底力で決まるといっても過言ではありません。その店内作業を実行・徹底するリーダーがSV、店長なのです。

図表1に、店長の主要な「職務」をまとめてみました。既に述べた「完全作業の実行と徹底」「OJT教育」を最初に掲載しています。

店の状態や業績を良くするためには、店長はその店の経営者としてのリーダーシップを発揮する必要があります。図表1の「(3)コーチング、部下の士気向上(モチベーションアップ)、部下の育成」は店長の重要な職務です。また、何人の店長候補者を育成できたかも、店長の評価項目になります。

さらに、SV、店長の数値責任は「営業利益」の確保です。目標の営業利益を達成するために店長ができることの第1は、「(5)人時コントロールと人時生産性の管理」つまりコストコントロールです。そのために店長は、「(6)レイバースケジュール(稼働計画)の作成・実行」を確実に行う必要があります。

店長のリーダーシップやOJT教育によって、パート・アルバイトのスキルアップと「定着率向上」を実現できれば、少ない人員でも多くの作業量をこなせるようになり、「人の生産性」が向上。結果としてローコストオペレーションにつながります。逆にパート・アルバイトの離職率の高い店舗は、常にスキルの低い新人が多く、常に教育投資し続けなければならなくなり、人の生産性も低くなります。

 

中国「電子取引法」の施行でインバウンド・爆買いは終焉か!?

今年の1月1日から、中国で「電子取引法」が施行されました。インバウンド需要を牽引してきた中国人による「代理購買」を規制することが主な目的です。また、「メイドインチャイナ」の商品を、中国国内で優遇することも目的と考えられています。年明けから、インバウンド銘柄のマツモトキヨシ、伊勢丹などの株価が下落しています。DgS(ドラッグストア)の成長を支えてきたインバウンド・爆買いは終焉するのでしょうか?

野放しだった「代理購買」の規制強化が始まった

中国人による「代理購買」が始まったのは2006年頃といわれています。もともとは留学生や日本で働く中国人が帰国の際に、親類・知人に頼まれた有名ブランド品や化粧品を持ち帰り、差額で小遣い稼ぎをしたのが始まりといわれています。

その後、代理購買がビジネスとして急成長しました。2008年の北京オリンピック後に発生した「メラミン入り粉ミルク事件」(日本でも大きく報道)などもあり、自国製品を信用していない中国人にとって、日本のDgS(ドラッグストア)で販売している商品は、爆買いの格好のターゲットになりました。

日本に住む中国人バイヤーは、郊外のDgSチェーンを何店もハシゴ訪問し、紙おむつや粉ミルクを大量に購入し、コンテナで中国に送りました。さらに、代理購買を目的とした「爆買いツアー」が登場し、特定商品が爆発的に売れるインバウンド需要が急増しました。ツアーといっても、旅行客ではなくて、実態は代理購買業者だったわけです。

ほぼ野放し状態だった代理購買に規制のメスが入ったのは、昨年の中国の国慶節(10月1日からの7連休。その前の土日も含むと9連休)の大型連休を終えた旅行者が帰国する時でした。日本のテレビでも報道されましたが、上海空港では、海外から帰国した中国人旅行者が「税関」の携帯品検査を受けるために長蛇の列をつくっていました。彼らの大半は、「代理購買」を仕事とする業者や個人でした。

従来の税関検査は「おざなり」なもので、爆買い商品を簡単に中国国内に持ち込むことができました。しかし、昨年秋以降は、税関検査が厳しくなり、いちいちトランクを開けさせられて、帰国者の携帯品を詳細に検査し、免税範囲外の外国商品を見つけては関税をかけるようになりました。事実上の密輸ともいえる「爆買いツアー」による外国製品の輸入を減らすことが目的なのは明らかです。

代理購買を減らし、国産品重視に転換か!?

代理購買規制の流れの延長線上で、2019年1月1日に中国の「電子取引法」が施行されました。インターネット上で代理購入の商品を仲介する電子商取引などの「EC代理購買業者」も電子取引法の規制の対象となります。代理購買規制のポイントは以下の3点です。

第1は、代理購買を行うためには、商品の「買い付け国」と「中国」の両方で営業許可証を取得することが条件になりました。同時に両方の国での「納税」も義務付けられました。つまり、代理購買業者は、中国で納税するだけでなくて、買い付け国でも法人税や所得税を払う必要があり、代理購買ビジネスの旨味は大きく減少します。

第2は、中国語のラベルがなく、「国家認証認可監督管理委員会」が認証した工場で生産していない粉ミルクや保健品などは販売できないという規制です。メインドインチャイナを信用していない中国人に、「中国製の粉ミルクを買え」といっているわけです。

第3は、電子取引法に違反した場合は、「電子商取引業者」には最高で200万元(約3,240万円)の罰金、「代理購買業者」には最高で50万元(約810万円)の罰金を科すというものです。

個人旅行のインバウンド需要はまだまだ底堅いと思われますが、業者によるインバウンド・爆買いの売上は減少していくのは間違いないようです。

2019年は「デジタルと人間の役割分担」が見えてくる年になる

小売業に一家言あるコンサルタント・実務家の方々に、2018年を振り返りつつ、2019年の展望を語っていただく特集企画「小売業界2019年業界展望」。デジタルシフトウェーブ社長の鈴木康弘さん後編です。デジタルシフトのためには創業トップが作った王国を法治国家に変える必要があると言います。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

サラリーマンは小売企業変革のリーダーには向かない

——デジタルシフトに取り組むうえで大切なことはどのようなことでしょうか。

鈴木:経営者の意識が変わらないとどうしようもありません。

もう1つ大事なことは、経営者がすべてことを分かるわけではないので、どのように推進体制を構築し、プロジェクトを作り、社員の教育をしていくかということです。

また、業務プロセスというものは現場から生まれますので、現場の人たちがボトムアップで改革を推進できるような体制にしていかなければなりません。それから、ほとんどの企業はシステムの開発を外部の企業に委託していますが、少なくともプロジェクトマネジメントは社内で行うべきでしょう。

体制さえ立ち上げられれば、あとはトライアンドエラーで改革を推進することができます。それと、誰がリーダーをするかということも重要です。

――本来であればどういう方がどういうリーダーにおかれるべきだと思いますか。

鈴木:欲をいえば次の3つを経験している人ですね。デジタルをある程度分かっている。小売の現場も分かっている。最後に会社をつくったことがある。

――ゼロベースで何かを立ち上げた経験がある人であればなおよいということでしょうか。

鈴木:そうです。新しいことをやろうとすると、必ず抵抗勢力が出てくるんですよ。その抵抗勢力を抑え込みながら進めていくためには、実績を積み上げていくしかないのですが、これはなかなか…言葉が悪いかも知れませんが、サラリーマン育ちだとできないのではないかと思いますね。一般論として、反骨精神がある人は課長ぐらいで切られてしまうケースが多く、権限のある部長クラスまで上がってこないんです。

創業トップが作った「王国」を「法治国家」に変える

――組織の変革において大切なこととはなんでしょう。

鈴木: 小売業や外食業の企業は、トップの方が真剣に変革したいと思っていらっしゃることが多いので、やりやすいのではないかと思います。

ただ、そのような企業さんは、トップダウンで成長してきたのですが、デジタルシフトをするときは、ルールがないといけません。トップの「勘」はデジタル化することができないのです。

いわば創業トップの方は、みごとな王国を作ってこられたのですが、その王国を、法治国家に変えていかなければならない、ということです。

そして、ルールは真ん中に置いていただいて、何かを指示するときはルールを変えるように指示するのです。現場からの意見も、このルールのここを変えたいと言えるようにしてあげるのですね。

ーーつくったルールに誰でもアクセスできるような状況をつくっていくということですね。

鈴木:はい。ただ、ルールというものは5年も経つと陳腐化してしまいますから、これを変え続けていく風土が大事になってきます。

例えば、GMSは今業績が厳しい状況ですが、それは70年代、80年代の、その業態がよかったころのルールが固定化してしまって苦しくなっているんだと思います。

――柔軟にルールを変えていくことが大切なのですね。

鈴木:そうですね。それと今はもう1つ、デジタルの波がきているから大変ですよね。

ITというと小売業の方は苦手意識を持たれる方が多いのですが、ITは1か0のデジタルの世界ですから、失敗しないようなマネジメント手法も確立されているので安心していただきたいなと思います。

2019年以降、消費税の増税、オリンピックなど、日本経済は激動の時代になるでしょう。大阪万博や外国人受け入れというプラスの要素はあるものの、1回は落ちるでしょうね。そうなると、今までの常識は通用しなくなります。リーマンショックで景気が下がったときに欧米がカスタマーファーストに代わっていったように、日本でも同じことが起きるのではないでしょうか。

2019年から2020年にかけては、企業の未来を見据えた準備をしていくことが必要となります。ここに踏み込む会社と踏み込めないかで、ウォルマートになるかシアーズになるかが決まるのです。

2017年には、アメリカのトイザらスが破綻しました。トイザらスはもともとAmazonに出店していたのですが、気づいたらAmazonに顧客を奪われていたわけですよ。自分でも一生懸命ECを展開していたのですが、彼らのECは中途半端だったのですよね。デジタルには規模や地域の優位性がありません。スピードと知恵の勝負です。

人件費削減のために省人レジ導入する日本 VS カスタマーファースト目指すAmazon

鈴木:2019年のポイントの一つはAmazon Goだと思っています。2021年に3,000店舗を展開するということですが、これまでに数店舗を出店するごとに毎回レベルアップしています。私も実際に体験してみましたが、レジがないと本当にストレスがなくなります。日本の小売業は人件費削減のために無人レジやセルフレジを導入しようとしていますが、Amazonが目指すのはカスタマーファーストなんです。

仮に日本にAmazon Goが1万店舗できたとすると、他のコンビニには行かなくなることでしょう。

日本の小売業がスーパーやコンビニのレジを無くそうという発想にならない理由は、レジが接客のポイントだと思っているからです。しかし、レジでいらっしゃいませと元気に言うことは接客なのでしょうか?

ーー小売の決済方法を含めた今後の潮流として、RFIDですとか、セルフレジですとか、いろいろ規格が乱立していますが、その中でもAmazon Go方式が一般的になるということでしょうか。

鈴木:物流についてはRFIDでもいけると思いますが、人の動きは激しいので店舗での移動はRFIDでは捉えきれないはずです。でも日本は基礎技術が高いですから、カメラの技術、センサーの技術を使って何かしようというところが出てくるとおもしろいですね。

先ほどのルールの話になるのですが、チェーンストアオペレーションによって統一化されている部分のデジタル化は進むと思うのですが、地域や客層によって品ぞろえが異なるという部分をどう変えるかが重要です。ここはIT技術だけではなくて、「人」の介在がものすごく大事になってくると思います。

2019年は、その「デジタルと人間の役割分担」が見えてくる年になるのかなと思いますね。ここに気づいている企業は、ウォルマートのように自社でIT人材を確保し、教育もしていくことになるのではないかと思います。

ーー先ほどからお話を伺っていますと、ITシステムに関しては外部ベンダーの活用という話が多かったのですが、本来的には日本企業も内部に開発体制をもっていかないと、ビジネスの変化についていけないのではないでしょうか?

鈴木:そうですね。昔は会計システム、POSシステムを5年に1度作り替えれば十分でした。しかし今や日々更新をしていかなければなりません。それを外部ベンダーに依頼すると非常に高くつきます。

それならば、自社内で現場を見ながらシステムを変えていくことができる人材を育成していかなければなりません。2020年から小学校でのプログラミングの授業がはじまりますが、15年後を待っていては遅いですよね。

何度も言っているように、2019年は、人や組織の意識変革の必要性に気づくのではないかと思います。金融は2018年年末ぐらいからフィンテックやブロックチェーンに意識が向いてきていて、リストラもスタートしています。少し遅れて流通、さらに遅れてメーカーさんで意識変革がはじまり、同時に人の争奪戦がはじまることでしょう。

ーー2019年は意識変革と人材育成の元年になりそうですね。本日は、ありがとうございました。

約2,000店分の原材料を供給できる野菜工場をセブン-イレブンが開設

セブン-イレブン・ジャパン(以下、セブン-イレブン)とプライムデリカは、「完全制御型野菜工場」(神奈川・相模原市)を2019年4月に稼働させる。サラダなど惣菜を製造する専用工場と野菜工場を一体化させて商品の安定供給を図っていく。

外葉も捨てず、歩留まりも向上

工場内のリーフレタスは種まきから収穫まで38日と露地栽培(70日)の3分の2の日数、「野菜自動生産室」1室当たり(340㎡)の年間生産量は108tを計画し、同じ面積で比較すると露地野菜の平均収穫量1.1tの約100倍の生産が可能となる。野菜工場は2019年1月から2室でスタートさせ、2020年3月からフル稼働(11室)させる。フル稼働後は1日当たり約3tが収穫でき、現行のセブン-イレブン商品に適用すると約2,000店分の原材料になる。

なぜ野菜工場なのか?セブン-イレブン代表取締役社長の古屋一樹氏は次のような問題意識を語る。

「原材料を安定的に供給できるのかが(セブン-イレブンにとって)重要な課題。農業に従事する人が減少し、過去に例を見ない異常気象が続き、価格を含めて良質な原材料を常に仕入れることが難しくなってきた。その意味で、この野菜工場は、すごく大きな第一歩になる」

古屋氏が語る「安定的な供給」は大きなメリットになる。雨風や虫や病気の影響を受けない閉鎖された環境で安定的に収穫できるのは間違いない。

2019年1月の稼働開始前に記者会見に臨んだセブン-イレブン・ジャパン代表取締役の古屋一樹氏(左)とプライムデリカ代表取締役社長の齊藤正義氏

近年、天候不順により、全国各地で葉物野菜の品質が悪化して、価格上昇を招いている。特にリーフレタスは、褐色化や傷み、生育不良が原因で、良品の原価が上昇、それがサラダなど商品の製造原価に跳ね返っている。その点、工場生産は、天候の影響を受けず、良品を安定的に供給できるので、メリットは大きい。

また、工場生産は、土や虫と触れないので、外葉の除去が少量で済み、虫などの異物混入による選別が不要となり、歩留まりが向上する。商品原価の低減にもつながるだろう。

また、商品の鮮度も向上する。野菜工場は製造工場と直結しているので、収穫から短時間の、鮮度の高い野菜を、そのまま製造工場で使用できる。

工場を運営するプライムデリカ代表取締役社長の齊藤正義氏が強調したのが「安全性」である。露地物のレタスは、雨が降ると、その跳ね返りで土壌が付着して細菌数が増える。特に夏場は細菌数が非常に多くなる。しかし工場だから細菌数が低いとは限らない。工場で生産した他社のレタスの細菌数を調べたところ、露地物と同じレベルのものもあったという。

そこで土や虫が付かないように工場を完全密閉型とし、センサーやロボットを最大限に活用してオートメーション化を推進、さらに人の手を介さない生産ラインに注力した(※画像は本格生産前のため人が多い)。種まきから良品の選別、野菜を育てる上下の棚移動まで人の手を介さず、細菌の付着を極力抑えている。2019年春には収穫する際も人の手を遣わずに自動化する計画である。

播種(はしゅ)/種まきの工程。栽培専用の「コマ」を使用、自動化技術を用いて、土台となる寒天を注入して、種をまく。
棚は全部で8段ありLED光は3種類。生育状況に合わせて連続的に自動で移動。上下移動はフォークリフトを用いる。安川電機の技術を取り入れている

イチゴショートの年間製造も可能に

消費者への訴求点としては、完全無農薬栽培による安全・安心が大きい。虫や病気の心配がないので農薬が不要となる。もう一つは、LED照明を使用した光制御技術により、通常のレタスよりも多くのビタミンCが付加されること。仮にホールで販売するときは「栄養機能商品」の表示が可能だ。

LED照明とオートメーション化による栽培は、玉川大学との産学連携により、2014年より試験栽培を開始した。2016年には試験プラントを建設した。しかし、ここでは自動栽培設備に課題を残したため、翌2017年には安川電機の技術を借りて、「野菜自動生産システム」の検証をスタートさせている。研究機関や専門メーカーとの協業により、付加価値の高い野菜工場が実現した。

LED光制御技術は玉川大学との共同開発技術。紫色の光はビタミンCを増加させる効果がある。

現状の生産品目はレタス3種類(フリルアイス、イノベーションレッドグラス、美味タス)。

また、開発中の品種は、ほうれん草、イチゴ、パクチー。栽培のプログラムは完成している。ほうれん草とイチゴは年間を通じた確保が困難な食材なので自社工場において周年生産を目指している。「イチゴが工場で生産できれば、おいしいショートケーキを年間でお届けできる」(井上氏)と期待する。

テスト製造したリーフレタス。プライムデリカでは、これ以外にも、海老マヨのサラダ、豚しゃぶのサラダに使用する予定

懸念材料としては消費者が工場出荷の青果物をどう受け止めるかだ。人の心理が合理的に動かないことはセブン-イレブンが一番よく知っているはずだ。

地震や水害による「停電」発生時のリスクもある。送電が止まれば工場生産もストップする。ただし、野菜工場を含む当該の相模原工場は、自家発電2,000キロワットを備えており、72時間の間は工場全体を稼働させられる。

投資金額はフル稼働までで60億円を計画、植物工場から加工品生産までの一気通貫は、日本では初めての取り組みとなる。日常の「買い場」であるコンビニにおいて、消費者が工場生産の野菜を、どう受け止めるのか、広報や販促も今後は必要になるだろう。

小売業の正月休み増加、10連休など年間休日増加

「働き方改革」の影響で、労働者の休日を増やす政策が加速しています。今年の正月を休日にする小売・サービス業が、一気に増えた平成最後の正月でした。私の自宅近くの「サミットストア」は、1月1日と2日を2連休としました。月刊MDを創刊した20数年前は、正月三が日を休む小売業も結構ありましたが、その後は、年中無休が常識になり、24時間営業店も増加し、小売・サービス業の営業時間はずっと増えてきました。

12月31日15時から1月1日終日を全店休みにして話題になったラーメン店チェーンの「幸楽苑」の新聞広告。

小売・サービス業の正月休みが増加した平成最後の年

しかし、2019年からは、正月休み、お盆休みなどを取る小売・サービス業が増えていくと思われます。最大の理由は、労働人口の減少によって、慢性的な人手不足が続いており、「正月くらいは休める」ということを採用対策、ES(従業員満足)向上の目玉にしようと考える企業が増えていることです。また、休日を問わずアマゾンでなんでも買える時代に、無理して正月営業をする経済効果はどの程度なのか? という議論も出ています。

冒頭写真のラーメン店チェーン「幸楽苑」は、12月31日の15時から1月1日の終日、全店を休みにして大きな話題になりました。また、11月に幸楽苑の社長に就任したばかりの新井田昇・新社長名で、12月31日の朝刊に「2億円事件」という見出しの新聞広告を掲載したことも大きな話題になりました。

広告内容を要約すると、『いつからでしょうか。お正月にいろいろなお店が営業するようになったのは。私たち幸楽苑も、いつしか年中無休のラーメン店チェーンを売りにしていました』『企業にとって売上や株価は大切ですが、新社長としての初仕事は「働く人の気持」を守ることです。1月1日の売上は「およそ2億円」にのぼりますが、「働き方改革を、お正月にも」との思いから、創業64年で初めて元旦の休業を決めました』

また、自動車販売店の「レクサス」は、12月28日~1月4日を休業にしました。以前は、正月休みには「新車の初売り」のテレビCMがずっと流れていましたが、そういえば今年は新車の初売りのCMが少なかったですね。季節の風物詩だった「正月に新車を見に行く」というライフスタイルも廃れていくのかもしれませんね。

ドラッグストア(DgS)ではサッポロドラッグストアーが一部の店舗を除き2019年1月1日を休業としたそうです。この流れはいろいろな業態に波及していくことが推測されます。

今年のGWは10連休。どんな変化が起こるのか?

皇太子さまが即位される2019年5月1日と、皇位継承のための「即位礼正殿の儀」が行われる2019年10月22日を、1年かぎりの祝日にする法律が11月13日に閣議決定されました。そうすると今年のGW(ゴールデンウイーク)は10連休になります(下記図参照)。

その結果、2019年は、土日祝日、年末年始休暇(12月20日~1月3日)を合計すると、年間休日日数は125日。なんと1年の34%が休みになります。休日が増えると「働き方」も変化しますが、消費の仕方も変化すると思います。

BIGLOBEの調査によれば、「GWに何をして過ごしますか?」という質問に対して、第1位が「自宅で休息する(41%)」、第2位が「決めていない(27.4%)」と、この二つの回答で58.4%を占めます。そして第3位が「ショッピングに行く(24.0%)」です。ちなみにGWの出国ラッシュが毎年テレビで話題になる「海外旅行に行く」と回答した人はわずか2.2%です。そういう意味では、10連休の時間の使い方を決めていない消費者に来店を促すことができれば、10連休は小売・サービス業にとっては大きなビジネスチャンスになります。

また、10連休の期間は、保育施設も休日になるので、日頃、子供を保育施設に預けて働くお母さんにとっては、10連休は大きな負担になり、10連休の大きな弊害といわれています。10日間、子供とずっと一緒にいるお母さんが、リアル店舗に行きたくなるようなイベントやサービスを企画してもらいたいですね。

真のデータ分析ができる企業とそうでない企業に分かれていく

小売業に一家言あるコンサルタント・実務家の方々に、2018年を振り返り、2019年の展望を語っていただく特集企画「小売業界2019年業界展望」。前回に引き続き、店舗のICT活用研究所の郡司昇さんに2019年の展望を伺います。郡司さんはデータの利活用が企業の業績の鍵を握ると考えているようです。(聞き手:MD NEXT編集長 鹿野恵子)

データをいかに活用するかがカギを握る

――ここまで、2018年を振り返っていただきましたが、2019年の小売業はこうなるのではないかという展望をお聞かせください。

郡司:「データの活用」です。現在も顧客データを統合するということで、さまざまな会社で自社サービスのデータを統合しましょうという動きがありますが、データを統合するのが精一杯で実際に活用できていない会社が多いんですよね。

自社での顧客の行動は見えるので、ターゲティングはできるんです。たとえば、「この人は以前は毎月来店していたけれども、この半年間は来店していないね」という人にだけクーポンを配信して来店を促すということはできますが、そこまでで終わってしまっています。

それを、「なんでこの人は化粧品を買わなくなってしまったんだろう?」「なんでこの人はサプリメントを飲まなくなってしまったんだろう」というところまで掴んで、自分たちのサービスに足りないものが何かということや、この先の事業展開を考える人がいるかどうかによって、企業は分かれていくだろうと思っています。

例えばクレディセゾンさんがDMP(※)事業を立ち上げて推進していますが、、2019年はそうしたビッグデータと自社のデータをぶつけて顧客行動を分析するという、集めたデータを活用する年になるのではないかと思っています。

※DMP(Data Management Platform):インターネット上のサーバーに蓄積されるビッグデータを一元管理して、分析し、最終的に広告配信などのアクションプランの最適化を実現するためのプラットフォームのこと。

5Gの登場でIoTが爆発的に進化する

――技術的な面ではどうでしょうか?

郡司:2019年からいよいよ5Gの本格的な実験がはじまりますよね。これまでの2G、3G、4Gは大容量化・高スピード化という流れでした。その延長線上で、4Gでは動画が見られるようになったが、5Gだったら映画が数秒でダウンロードできるといった話ばかりクローズアップされがちです。

ですが、5Gではネットワークスライシング(※)という、これまでと非連続の変化が起きます。

※ネットワークスライシング:それぞれの用途や市場のニーズに合わせて通信スペックを最適化して提供する、通信サービスを多様な条件で切り売りできる機能。「高速で大容量」、「超高信頼で低遅延」、「遅いけど料金も安い」など、スペックに分けたサービスを、それぞれの料金を別にして提供できる。

従来の通信料はSIM課金で、1番安い事業社で、初期費用約900円、月額費用は約300円というところでした。つまり、たとえばゴミ箱のふたにセンサーをつけて「ゴミ箱のふたが開いているかどうか確認する」というだけのソリューションでも、最低月額300円かかってしまうのです。

ですが、IoTというものは、たとえば飲み物のコースターにセンサーが入っていて、飲み物が減ったら注文を取りに来るというような、本当に細かいものにまで入ることで可能性が広がります。だからかかる費用が高いと実現できないんですよね。これが月額10円でできるようになれば全然違うサービスが成り立つはずです。

リアルにあるアナログデータがデジタル化されて、そのデジタル化されたデータをクラウドに放り込み、そのデータを利用してAIがシミュレーションする。そして、そのようになった原因はなぜで、どうすればいいのかという打ち手は、人間が考えましょう…そんな流れがより現実化されていくと思います。

——小売業の動きの中で、注目している企業はありますか?

郡司:いっぱいありすぎますね(笑)。一番気になっているのは、シアトルで見た「b8ta(ベータ)」ですね。店内にはベンチャー企業のつくったIoT機器が並んでいて、それを手に取る顧客の行動データを、展示している会社に販売することで成り立っている会社です。

これからは、商品だけでなく、情報を売ることでマネタイズするという時代になるのだろうなという点で、「b8ta」はおもしろかったです。

そしてやはりAmazonですよね。

――そうですね。Amazonは、今となっては小売業界の人は誰でも気になる存在です。

郡司:進化しているんです。変化が常に起きています。あとは中国の動きも気になりますね。

――大変興味深いお話を本日はありがとうございました。