店頭で商品を育成できなければリアル店舗の価値はなくなる

労働人口の減少によって、リアル店舗の省人化→生産性向上の取り組みが加速しています。しかし、なんの情報発信もない「無人店舗」で買物するくらいなら、ネットで買物した方が便利です。店頭で商品価値を伝えて、商品を育成する力がなくなれば、リアル店舗の存在価値はなくなり、リアル店舗は滅びてしまうのではないでしょうか?

小売業だけが「販売チャネル」だった時代は過去のものに

先日、ウエルシアHDの池野隆光会長とお話をする機会がありました。その際に、池野会長から、「今後、メーカーは小売業を通さないで、直接ネット販売で売る商品を増やしていくのではないでしょうか? それが、これからのリアル店舗の最大の危機だと思いますね」という趣旨の発言をされたことが、とても印象に残りました。

事実、サントリーウエルネスなどは、オンライン広告を大量投入し、効能効果を伝え難い健康食品を、オンラインで育成し、直販しています。Yahoo!のトップ画面を開くたびに、サントリーのセサミンなどのレクタングル広告が目に入り、ついついクリックしてしまいます。

一方、DgS(ドラッグストア)の健康食品売場に行くと、商品はただ陳列されているだけで、商品の価値を伝えるPOPも少なく、売場の前でお客が迷っていても、誰も声をかけてはくれません。価値を伝えるのが難しい商品を育成する販売チャネルが、オンラインの方が優れているのであれば、リアル店舗の存在理由は果たしてあるのでしょうか?

リアル小売業だけが販売チャネルだった時代は過去のものです。しかし、サラリーマン化したリアル小売業のバイヤーは、メーカーに対して「価格」と「リベート」の話しかしません。テレビで話題になった商品を安売りし、「仕入れてやるからリベートよこせ」という商談は得意ですが、店頭で商品を育成することは不得意です。店頭に置いてあるだけで、売れなければ「返品」するという悪しき商習慣をやめなければ、メーカーに愛想をつかされるのではないかということを、ウエルシアHDの池野会長は危惧されているのではないかというのが私の感想です。

小売業が、価格とリベートの話しかしなくて、安易に返品し、売り難い商品を育成してくれないのであれば、「もう仕入れてもらわなくて結構です。インターネットで売ります」とリアル店舗に見切りをつけるメーカーが登場するかもしれません。「良い商品を自信をもって販売・育成し、地域の顧客に感謝される」という、リアル店舗の商売の原点に回帰すべきだと思います。

省人化→生産性向上と顧客サービス向上を両立

しかし、人手不足による賃金の上昇は深刻ですので、省人化→生産性向上の取り組みは待ったなしの状況です。「アマゾンGO」や「スタンダードコグニション」(日本ではパルタックが実験開始)などの「レジフリー」の実験は急速に進むと思われます。店内作業に占めるレジ作業時間は30%弱と、もっとも作業時間が多いのがレジ作業です。

もし将来、レジなし店舗でのスキャン&ゴーによる精算が主流になると、小売業の「人の生産性」は飛躍的に向上します。しかも、レジ担当者の教育にかかるコストは膨大です。レジ担当者の教育コストも考慮すると、非常に大きな経費の削減につながります。

腕時計型のウェアラブル端末で作業指示が表示されるオペレーションの実験も行っていた(サムズクラブ・ナウ)

しかし、大切なことは、レジフリーによる生産性向上を進めると同時に、空いた時間と人員を活用して接客などの「カスタマーサービス」を強化することが大切です。アメリカでは、ウォルマートが小型店の「サムズクラブ・ナウ」でレジフリーの実験を行っていました。しかし、サムズクラブ・ナウは、レジとキャッシャーがなくなっても、店舗の総人員数は減らさない「カスタマーサービス」強化の実験店でした。「ローコストオペレーション」が代名詞のウォルマートでさえ、顧客接点での有人サービスは、リアル店舗の重要な価値であると考えているようです。

「レジなし店舗」の実現で、小売業の生産性は飛躍的に向上する

もちろん、人手不足は今後も続くことは予想されますので、新しいテクノロジーを活用した「接客のオートメーション化」に取り組むことも重要です。たとえば、タブレットを活用して、化粧品や医薬品の接客をサポートすることも、人手を増やさないで、接客を強化するイノベーションにつながると思います。

タブレットを活用した接客サポートの良い点は、「誰が、どのくらいの時間、どんな内容の接客をしたか」という社員の接客のログ(記録)が残り、「接客を可視化」できることです。また、ITが接客を補助してくれるので、商品知識の勉強などの教育時間が短縮できます。また、誰が担当しても、一定の範囲内で均質化された接客ができることも、多店舗展開しているチェーンストアとしては重要な武器になります。最近ではRetail Marketing One社が提供するタブレットによる接客ツール「SmartCounseling 」の導入企業も増えているようです。

レジ作業をなくす一方で、タブレットを活用したカスタマーサービスを強化しているサムズクラブ・ナウ。

一方、省人化→無人化を進めている「パルタックのRDC」のように、顧客接点ではない単純作業の部分は、徹底的に省人化・無人化を進めるべきでしょう。顧客接点は有人サービス、顧客接点以外の単純作業は省人化・無人化の二面作戦が、これからのリアル小売業には不可欠の戦略になります。

池澤あやかの卸売業突撃レポ!PALTACのRDC新潟で感じた「包容力」

タレント/エンジニアの池澤あやか(@ikeay)さんによるPALTAC「RDC新潟」潜入レポートの後編です。AIロボに感動したあとは、一見地味?なケースを自動で開ける機械が登場!そして池澤さんが物流倉庫に「包容力」を感じた理由とは?後編も、ここでしか見られない萌える技術のオンパレードです!(構成・文/MD NEXT 鹿野恵子、写真/千葉太一)

オートカートンカッター:どんな箱でも器用に開封!

三木田
ここから先は、商品をバラの状態にして保管するための工程になります。この「オートカートンカッター」は、段ボール箱の上面を自動でカットする装置です。
池澤
わぁ、すごい!
三木田
上面をカットして、次の工程でバラバラにして保管します。
池澤
どうしてこれはピカッと光っているんですか?
三木田
人間の目で見ると同じように見えるケースでも、角がつぶれていたりして、一つ一つ状態が違うので、決められた位置に単純にカッターを当てて切るだけでは中のものまで傷つけてしまう可能性があります。
池澤
なるほど。
三木田
この装置は光ってカメラでケースの角の位置を推定し、カッターの位置を正確に制御することで、そのような失敗を防いでいるんです。
小さなカメラが付いたことで性能がアップした。
池澤
多少へこんでいても大丈夫なんですね。
三木田
はい。カッターで上面を切った後は、上の蓋を吸着してとって送り出します。
池澤
きれいにケースの蓋が取れますね!

 

三木田
実は先ほどお見せしたAIケースピッキングロボットよりもこちらの方が皆さん驚かれているんです。自動カッターを実現したのは弊社がはじめてで、この装置を使わせてほしいという企業様が多いので、外販を検討しております。
池澤
さすが。1つ1つ違う種類のケースが流れてくるのに、みんな同じようにスパッと蓋が取れるのは壮観ですね…!

三木田
ただ、ケースにびっしり商品を詰めているものに関しては、自動でカットすると中の商品まで切れてしまう可能性があるので、手作業で行っているものもあります。
池澤
やはり人間の手を介さないといけない部分もまだあるんですね。

 

三木田
そうですね。あの緑の道具が「SSカッター」といって、約4秒でケース上面をカットする弊社オリジナルのカッターです。ホームセンターでも販売していて、特許も取得しているんですよ。
池澤
特許、お好きですね(笑)。確かに作業が早いです!
三木田
やってみますか?
池澤
え、は、はい……。
緊張気味の池澤さん。
できた!この笑顔。
池澤
わ!簡単にできますね。でもそれなりに力も必要なので、オートカートンカッターの便利さがよくわかりました。

ストレージトレーステーション:バラエリア補充作業を歩行無しで実現

三木田
ここはストレージトレーステーションです。先ほどの上面を切ったケースが送られてきて、「保管トレー」に移し替えます。重量計がついていて、何個移しかえたのかを間違いなく数えることができます。
池澤
この保管トレーにバーコードがついていて、どの商品が何個、どのトレーに保管されているのかということがわかる仕組みなんですね。

三木田
その通りです。以前はこの作業を広い倉庫を歩き回りながら行っていたのですが、商品が手元に搬送されてくることで「歩行」がなくなりました。
池澤
だいぶ省力化できましたね。
三木田
商品を取り出した後の空き箱は全部頭上のコンベヤラインに乗せて、圧縮してリサイクル業者さんに販売します。
池澤
この作業はだいぶ複雑ですね。箱からトレーに詰めて、ケースを上に払う。ゴミの形状もバラバラですし。

三木田
おっしゃる通り、ケースの中にびっしり詰まっているものを取り出すというのがロボットは苦手です。ここの部分の自動化はまだ後回しだと考えています。
池澤
自動化にも順番があるんですね。
三木田
そうですね。この先は、小売業から出荷の依頼があった商品が、トレー自動倉庫などから出庫されて、小売業さんに送るために仕分けられる作業が始まるのですが、私はそこからロボット化したいと考えています。行ってみましょう。

MTCピックステーション:入庫と出庫を同時に行い、生産性2倍に

三木田
ここがMTCピックステーションです。奥の構造物が「トレー自動倉庫」です。トレー自動倉庫から自動的に出てきた保管トレーから、お店が必要としている個数だけ、バラ商品を青いピックトレーに詰め替えます。
池澤
この時点からお店の注文に従って商品を仕分けるわけですね。
三木田
はい。奥のトレー自動倉庫は、クレーンが「商品の出庫」と「商品の入庫」を同時に行うため、「出庫だけをする」「入庫だけをする」に対して効率は2倍です。新開発の技術でもちろん特許を取っています。特許大好き企業なんで(笑)。

池澤
入庫と出庫を同時にするということは、あのトレー自動倉庫の中でどうトレーが配置されるかというのって、意外と重要じゃないですか?

三木田
そうですね。どの商品をどこに置けば同時に出し入れができるかという「最適配置」を算出して制御しています。どの商品が何個、いつ頃出荷するかまで考えて配置する必要があります。現在は本当に簡単なアルゴリズムで配置していますが、もう一歩前進させたいです。

パックステーション:ロボット化、最後の難所

三木田
先ほどピックトレーに詰め替えられたバラ商品は、クロスベルトソーターで店舗ごとに割り当てられた間口に高速に仕分けられます。
池澤
本当に大きなソーターですね!

 

三木田
手元に搬送されてきたピックトレーのバラ商品は、人が手でオリコンに詰めます。
池澤
詰めるスピードがめちゃくちゃ早いし丁寧です!
三木田
バラ商品をどういう風にオリコンに詰めるかでトラックの積載効率が全然違いますから、なるべく満杯にしたい。満杯になったらプリンタからラベルが出てきますので、それを貼って出荷のラインに乗せます。
池澤
これはなかなかロボット化は難しそうですね。
三木田
そうですね。バラバラの形状のものを、なるべくオリコンをいっぱいにするように入れていくのは、ロボットには難しいです。ロボットは「置く」作業は簡単にできても「詰める」のは難しい。
池澤
人間だったら柔軟にできますけどね…。
三木田
ですので私はここがロボット化の最後の難所になるのではないかと考えています。

オリコンスタッカー:荷積みの順番まで考え、積載効率を上げる

三木田
これも当社オリジナルの技術「オリコンスタッカー」です。自動でオリコンを6段まで段積みします。
池澤
6段まで積むと、人の身長より高くなりますから、人間が手で行おうとすると大変な作業ですね。
三木田
あとはラベルに書かれた出荷口のところに運んで、トラックに荷積みして出荷します。どの順番でパレットやオリコンをトラックに積み込めば生産性が高いかということまで考えて作業をしているんですよ。
池澤
この段積みされたオリコンは、車輪がついた台車に乗っていて、女性でも簡単に移動できそうですね。
三木田
そうですね。でもこの工程もゆくゆくは自動化する予定なんです。自律移動ロボットで搬送したいと考えています。
池澤
まさに自動化の”鬼”ですね(笑)。

 

池澤
三木田さん、産業用ロボットは面白いですか?
三木田
楽しいですね。これまで自動車メーカーでロボット開発に携わってきましたが、こちらの仕事は使っている人の感想がダイレクトに届きますし、開発のサイクルも非常に速いです。
池澤
しかもこちらはダイレクトに企業の利益やコストカットにつながるところも面白いですよね。
三木田
そうですね。では最後の工程、返品の仕分けに行きましょう。

返品:減らすことで小売業もメーカーもお客様もハッピーになる

三木田
ここは小売業さんから送られてきた返品商品をメーカーさんごとに仕分けするソーターです。流通業界には膨大な量の返品があります。小売業さんは、消費者の方が商品を品切れで買えないという状況を避けるために、多めに発注されるんです。そうするとどうしても返品が発生してしまいます。
池澤
そんなにたくさん返品があるんですね!
三木田
バーコードを読み取ってメーカーさんごとに仕分けをして、最後はメーカーさんに送り返します。

池澤
ここはもうかなり効率化されているように感じます。
三木田
そうですね。ここを効率化するより、返品そのものをなくしたほうが根本的な問題の解決につながると私は思っていて、そのような研究をしています。余分なコストがなくなれば、メーカーも、卸も、小売りもハッピーになる。もちろん消費者の皆さんにも還元されます。

池澤
卸売業の皆さんが頑張っていただくと、もっと早く、安く、よいものが買えるようになる。全員幸せになりますね。頑張ってもらいたいです!

工夫の数々に「懐の広さ」を感じた

三木田
さて、これで見学は終わりですがどうでしたか?
池澤
思っていたより人は少ないし、機械と人が助け合っている様子を物流センターで見られるとは思っていなかったので、そのような光景が見られてびっくりしました。
三木田
そうですね。
池澤
製造業の工場では「ある一つのものを作る」ために同じ動きに特化したロボットを作ればいいのですが、物流センターは他社が作った商品を持ち寄っているので、取り扱うものの規格がバラバラで、そこにどう機械がフィットするかという工夫をたくさん見ることができました。懐の深さとか、包容力が必要なお仕事なんですね。秋にできる物流センターも楽しみにしています!
三木田
ありがとうございます!

池澤あやかの卸売業突撃レポ!PALTACのRDC新潟で最新鋭AIロボに萌える

小売業やメーカーがどんな業務なのかを理解しやすいのに対して、その間を結ぶ卸売業の役割は多くの人にとって謎に包まれています。そこで今回、MD NEXTでは1周年を記念して、タレント/エンジニアの池澤あやか(@ikeay)さんに、日用品卸大手のPALTACが2018年夏にオープンした大型物流倉庫「RDC新潟」のレポートを依頼。ロボットやAIについての知識も豊富な池澤さんに、卸売業がどんな役割を担っているのかを現地取材してもらいました。(構成・文/MD NEXT鹿野恵子、写真/千葉太一)

物流倉庫のイメージがひっくり返る!?

今日の案内役をつとめるのは本誌連載でもおなじみのPALTAC研究開発本部長の三木田雅和さん。前職では自動車メーカーでロボットエンジニアをしていたという異色の経歴の持ち主。

池澤
はじめまして!三木田さん。今日はよろしくお願いします!!
三木田
よろしくお願いします。さっそくですが、池澤さんはそもそも物流センターにどのようなイメージを持っていますか?
池澤
うーん、日常生活で意識したことはあまりなくて、人がたくさんいて棚からモノを出し入れしている…「ザ・倉庫」という感じでしょうか…。
三木田
普通はそうですよね。でも弊社のセンターを見ていただければ、イメージがひっくりかえるかもしれませんよ。まずは全体の流れをご説明します。

まずは三木田さんの授業がはじまりました。

三木田
現在日本の労働人口は、急激に減少しています。卸売業でも働き手の減少は免れません。そこで当社はこの労働人口減少の問題に取り組むため、SPAID(スペイド)という次世代型物流システムを自社で研究開発したんです。
池澤
自社でシステムを開発したんですか!
三木田
はい。まずはRDCの仕事の全体像を見てみましょう。RDCは「Regional Distribution Center」の略称です。全体の工程は大きく以下のような流れになっています。(クリックで大きく表示されます)

三木田
図表には細かく長く書いてありますが、「メーカーから届いた商品を、適切な状態で保管し、小売業の依頼に合わせて出荷する」というのが業務の核です。
池澤
そう説明してもらえるとわかりやすいです!
三木田
保管時の形状は大きく①パレット、②ケース、③バラの3種類です。このRDCでは、バラの商品は保管トレーというトレーに載せて「トレー自動倉庫」で保管します。

三木田
小売業から商品出荷の依頼があると、パレット、ケース、バラの状態で保管している商品が自動的に出庫されて、店舗ごとに仕分けられます。バラの商品はピッキングされて「オリコン」というプラスチック製のケースに入れて出荷します。
池澤
つまりこの、パレット、ケース、トレーに入ったバラの商品、それぞれを適切な状態で保管し、トラックに積み、小売業に届けるのがRDCの仕事なんですね。

三木田
はい。そこで2点改良をした点があって、その1つ目がバラピッキングです。
池澤
バラピッキング?
三木田
従来のバラピッキングというのは、広大なバラエリアを、作業する人がピッキングカートを押しながら歩行し、棚から商品をピッキングしていたんですね。棚への商品補充も作業者がカートを押しながら歩行して行っていました。
池澤
えーー!広い物流センターをカートを押しながら歩いていたんですか!?大きなお店で商品を探してカートを押しながら歩くのって大変ですけど、同じようなことをやっていたわけですね。これはかなり体力がいりそうなお仕事です…。
三木田
そこで弊社では、人が動くのではなく、逆に商品が動くシステムを開発したんです。これまでは作業時間の半分を「歩行」が占めていたのですが、新方式を採用したことで歩行がなくなり、生産性は従来方式の2倍になっています。
池澤
2倍!
三木田
もう一つ大きなポイントとして、これまで人間が行っていたパレット自動倉庫からの出庫作業をロボットを活用することで自動化しています。
池澤
ロボット!めっちゃ自動化進めていますね。実物を見るのが楽しみになってきました。
三木田
では実際に倉庫に行ってみましょう。
池澤
よろしくお願いします!!

入庫エリア:人にやさしい物流倉庫を目指して

池澤
これが物流センターですか。思ったより人が少ないですね!あと、なんだかいい感じの音楽も流れています。
三木田
働く人にとってやさしい環境づくりを心掛けていますので、音楽も重要です。

三木田
ここは入庫エリアです。メーカーさんから来たトラックが到着します。まずするのが検品作業です。荷物についているバーコードを読み込むと、ケースに何が入っているのかパソコンに表示されるので、入荷予定データと合っているか確認して、OKだったら検品完了となります。
池澤
これだけ広いということは、かなり大量の商品が入荷するんですね。
三木田
はい。検品完了になるとラベルが印刷されるので、その指示にしたがってフォークリフトで商品を移動します。パレットのまま保管する「パレット自動倉庫」に行くものもあれば、ケースのままで保管する「ケース自動倉庫」に行くものもあります。ケース出荷するものはパレット自動倉庫へ、バラ出荷する商品はケース自動倉庫に行くことが多いですね。
池澤
ここで行先が振り分けられるわけですね。
三木田
パレットからケースに分ける作業も、作業者の負担を考えて、持ち上げなくても作業できるようにしました。

池澤
重いもののはずなのに結構楽々ですね。
三木田
楽だし早いですね。今年11月に埼玉にオープンする新しい物流センターでは検品も自動化する予定です。それと、今は商品をフォークリフトで運んでいますが、ここも自動化します。環状線のようにぐるぐる回っているコンベアの上にパレットを放り込み、所定のところにきたら払い出すというシステムです。
池澤
それはヤバイ仕組みですね…。実物を見てみたいです。

パレット自動倉庫:どんな状況でも出荷体制を守り続ける

三木田
こちらがパレット自動倉庫です。決められた場所にパレットを置くと、クレーンが取りにきて自動で入庫します。
池澤
かなり大量に保管できそうです。
三木田
3,872パレットを保管することができますよ。最大10日分の保管量がありますが、高効率運用のために6日間分の保管量で運営をしています。
池澤
高く積んであるので、揺れには弱そうですが…?
三木田
免振装置がついていて、あまり揺れないように設計しています。私たちは生活必需品を扱っているので、地震などで出荷できなくなると、皆さんの暮らしに大きな影響を与えかねません。
池澤
どんな状況でも出荷できる体制を維持しようとなさってるんですね!すごい。

AIケースピッキングロボ:目と脳を持つロボに「柔軟性」を感じる

池澤
これが噂のロボットですね~。次々とパレットの上のケースを持ち上げています。アームが縦横無尽に移動していて同じ動きがありませんね!!
三木田
これまでのロボットは決まった商品に対し、同一の動作しかできなかったのですが、このロボットは上部にビジョンセンサーという「目」があって、ケースの形状を認識し、AI(脳)が適切な指示を出すことで、任意の位置から任意の位置へケースを自由に搬送することができるようになったんです。
池澤
荷物の重量も機械にかかる負荷には関係してくると思うのですが、それはビジョンセンサーだけではわかりませんよね?
三木田
新商品が出てきたときに、あらかじめケースの形や重量を人間がマスタに登録しておくんです。ビジョンセンサーがケースを認識したときに、マスターに登録されている荷姿や重量の情報と紐づけて、最適な搬送方法をリアルタイムで判断します。
池澤
ケースを持ち上げているのは吸盤ですか?
三木田
はい。真空状態にして吸い上げています。
池澤
次から次へといろいろな形状のケースを運んでいます。さっきはかなり大きなケースを運んでいましたが、今度はとても小さなケース。賢いですね!ロボットの柔軟性を感じますね…。
三木田
昔はこれも全部人の手でやっていたんですよ。私も新人研修でやったことがありますが、腰がもたなくて途中でギブアップしました(苦笑)。
池澤
これは本当に大変そうです。ロボットを導入したことでどれぐらい効率化されたんですか?
三木田
人が作業すると1時間に150ケースをさばくことができるんですが、このロボットを使うと1時間に600ケース対応できますので4倍です。人はどうしても疲れてしまいますが、ロボットは疲れませんので。
池澤
人とロボットで分担をした方がいいですね。お互い得意な分野をすると幸せになれそうです。
三木田
では次の工程に向かいましょう!
池澤
はい!ってこんなところ通るんですか~~!?(悲鳴)

 

後編に続く

アプリで注文して駐車場で受け取る「カーブサイド・ピックアップ」に注目

お客が、スマホのアプリで買物商品を注文すると、店舗のスタッフが売場を回って商品をピックアップ(買物代行)し、駐車場の専用場所で買物商品を受け取れる「カーブサイド・ピックアップ」が、アメリカで急速に普及しています。「買物時間」を短縮できる新しい「買物体験」が、アメリカの消費者に支持されているようです。

ダラス郊外のシャーマン地区にあるウォルマートスーパーセンターでは、店舗の側面のカーブサイド・ピックアップで、オンラインで注文した商品を無人で受け取ることができるサービスを開始した。

「完全無人」で商品を受け取れるウォルマート

テキサス州のダラス郊外のシャーマン地区にあるウォルマートスーパーセンターでは、カーブサイド・ピックアップをオートメーション化(無人化)する実験を行っています。「ウォルマート・グローサリー」という名称で、オンラインで注文された生鮮食品を含むすべての商品を、自動販売機のような仕組みで無人で受け取ることのできるサービスです。

上記の写真のように、店の左側面が一面ピックアップのスペースになっています。「オートメイテッド(自動)・ピックアップ」のスペースは、横幅が約40m、5つの専用窓口でピックアップできます。消費者は、スマホのアプリを使ってオンラインで商品を注文し、指定した時間に車でピックアップスペースに取りに行けば、店内に入らないで買物を完結することができます。

カーブサイド・ピックアップに車を駐車し、注文商品を無人で受け取ることができる。
専用の窓口(端末)にスマホに届いたコードをかざすと、買物袋に入った注文商品を自動で運んでくれる。わずか1~2分で商品が運ばれる。

消費者は、ピックアップスペースに車を駐車し、上記写真の窓口(端末)に、スマホに届いたコードをかざすと、1~2分後に扉が左右に開きます。3つの青い箱(オリコンのような箱)に置かれた買物袋(注文商品)を取り出すことができます。注文商品が多い場合は、「2グループのうち1つを用意できました。バッグをお取りください」と表示されて、次のグループの商品が再度運ばれてきます。買物袋に入った注文商品をすべて取り出すと、扉が自動的に閉まってピックアップが終了です。スタッフから手渡しされる従来のピックアップ・サービスよりも、無人のオートメイテッド・ピックアップの方が手軽なので、利用者が増えているそうです。

一方、テキサス州とメキシコに約400店を展開するリージョナルスーパーマーケットの「HEB」は3年前から、カーブサイド・ピックアップの実験を開始し、現在では100店以上の店舗に導入しています。カーブサイド・ピックアップの1日の注文件数が50件以上、平均の客単価が120ドルの店もあり、リアル店舗での買物プラスアルファの売上増に貢献していることがわかります。ネットスーパーを別にやるよりも、店内商品をヒックアップした方が在庫や廃棄のロスが少なくて、効率的だと思います。

カーブサイド・ピックアップに取り組む「ウォルマート」と「HEB」には、オンラインで注文した商品を店内でピックアップ(買物代行)する専門スタッフがいます。ウォルマートは、専用のショッピングカートで商品をピックアップしていました。一方、「HEB」は大量の注文を処理できるような専用のカートでピックアップしていました(下の写真)。

ネットで何でも買える時代において、リアル店舗の価値づくりこそが、もっとも重要な経営戦略です。「リアル店舗で買える」「オンラインで注文して配達してくれる」「オンラインで注文して店で受け取ることもできる」といった買物の「選択肢」を増やし、リアル店舗の買物をもっと便利にすることが、リアル店舗がネット販売に対抗するための回答のひとつだと思います。

オンラインで注文された商品を売場でピックアップする専用スタッフ(ウォルマート)。
大量の注文をさばけるように専用カートでピックアップしているテキサス州のリージョナルスーパーマーケット「HEB」。

祝・MD NEXT1周年! アクセスランキングベスト10にみる小売関係者の興味のありか

WEBメディア「MD NEXT」はこの6月でリリース1周年を迎えることができました!これもひとえに皆様のおかげです。そこで今回は1周年を振り返り、この1年でどの記事が読まれたのかをご紹介します。(MD NEXT編集長 鹿野恵子)

この6月に1周年を迎えることができたMD NEXT。手探りで立ち上げたWEBメディアではありますが、おかげ様でアクセスも徐々に増えており、しっかりと読者の方に読んでいただいている手ごたえを感じています。

MD NEXT読者の皆さんはどんなことに興味を持っているのでしょうか…?この1年でどのような記事が読まれたのか、上位10記事をカウントダウン形式でご紹介します。

第10位 2019年、小売・流通業7つの重点課題

2019年、小売・流通業の7つの重点課題

第10位は2019年の新年第一弾の「今週の視点」の記事。①リアル店舗の価値づくり、②ブランディング・商品開発、③ESとCSの向上、④行動改革と、強い企業文化づくり、⑤生産性革命(省人化・無人化)、⑥スマートストア化、⑦個別化(パーソナライゼーション)、7つのリアル店舗の重点課題を解説しています。

2019年がスタートして半年たった今、振り返りの意味でもぜひお読みいただい記事です。

第9位 [寄稿]授乳中ですが薬を飲んでもいいですか?

[寄稿]授乳中ですが薬を飲んでもいいですか?

小売業に薬剤師(マネージャ)として勤務しながら、自身のブログでOTC医薬品の情報を発信している薬剤師ブロガーのkuriさんに、Twitter上で実施した授乳中のOTC服用に関するアンケート調査の結果から得られた所感を寄稿していただきました。OTC医薬品はまだまだ掘り起こせる分野ですので、いろいろな記事を今後も掲載していきたいと思っています。

第8位  コスモス薬品が2020年5月期から肥沃な「関東平野」で超ドミナント出店開始

コスモス薬品が2020年5月期から肥沃な「関東平野」で超ドミナント出店開始

九州から中国、関西、中部…と北に店舗網を拡大してきたコスモス薬品が、ついに関東にも進出をスタートするというニュースの解説記事です。圧倒的な安さと顧客満足度、従業員満足度の高さで評判の同社。その動向は、どの地方のどの小売業にとっても気になるところなのでしょう。

ちなみに月刊マーチャンダイジング誌主幹の日野眞克による連載「今週の視点」は毎週1回の連載で、2019年6月17日時点で52回まで書き進めることができました。DgSやメーカー、卸売業の経営者の方にも愛読者が多いコーナーなんです。

第7位 トライアル最新店に見る スマートストアのファイナルアンサー

トライアル最新店に見る スマートストアのファイナルアンサー

新しい売り方を紹介するというコンセプトでスタートしたMD NEXTでは、リテールテクノロジーに関する記事が非常によく読まれています。トライアルさんは積極的にスマートストア化の実験を行っていて、MD NEXTでは定点観測をさせていただいている企業の一つ。近日中に「トライアルクイック大野城店」の記事も公開予定ですのでお楽しみに!

第6位  内製化進めるダイソー。変わる情報システム部の役割

内製化進めるダイソー。変わる情報システム部の役割

100円ショップ大手のダイソーさんの情報システムに関するを記事化しました。AWSを活用し、5,300店舗、7万アイテムをオペレーションする同社のシステムの規模ににSNS上からも感嘆の声が聞こえました。

第5位 ジェーン・スーが語るドラッグストア「DgSのヴィレヴァン化に期待」

ジェーン・スーが語るドラッグストア「DgSのヴィレヴァン化に期待」

TBSラジオの平日昼の人気番組「ジェーン・スー 生活は踊る」ではリスナーの投票による「スーパー総選挙」や「ドラッグストア総選挙」を実施しています。そこで当媒体ではパーソナリティのジェーン・スーさんに2019年3月に行われたドラッグストア総選挙の企画意図や、DgSに対する所感などを伺いました。ラジオのリスナーの方にもたくさん読んでいただき、上位にランクイン。

この取材がきっかけで、MD NEXTに「【マンガ】ストアソング研究」を連載している月刊マーチャンダイジング編集部の店橋が、先日「ストソン探偵」としてTBSラジオ「アフター6ジャンクション」に出演。ストアソングの面白さを世に伝えるよいチャンスにつながった記事でもあります。

全埼玉が泣いた!セキ薬品、噂の”いい曲”に隠されたおもてなし精神

第4位 小売業各社の決済方法をまとめてみた 2018秋(2)~ドラッグストア編~

小売業各社の決済方法をまとめてみた 2018秋(2)~ドラッグストア編~

この1年間はさまざまな決済方法の登場に現場が振り回された1年でもありました。そんな状況を反映してか、よく読まれた記事でした。去年秋の記事にもかかわらず、すでにかなり古い情報になってしまっているという点には、決済周りの変化のスピードを感じずにいられません。

第3位 ピースピッキング生産性が2倍になったPALTACの次世代型物流システム

ピースピッキング生産性が2倍になったPALTACの次世代型物流システム

日用品卸売大手のPALTACさんの記事も複数回掲載させていただきました。特にその中でも読まれているのがこちらの記事。AIとロボティクスを活用し、大幅に生産性を向上させている同社の取り組みに多くの読者が注目しています。

MD NEXTではリリース1周年を記念し、さらにこのRDC新潟に深く食い込む取材を敢行。近々皆さんにご覧いただけると思います。こうご期待!

第2位 同じ営業利益率4%でも稼ぎ方が全く違うウエルシアとコスモス

同じ営業利益率4%でも稼ぎ方が全く違うウエルシアとコスモス

ドラッグストア上場14社の売上総利益率と販管費率を比較した記事。同じ営業利益率でもそれを稼ぎ出す方法は企業によって全く違うということを示しました。営業利益率と販管費率の関係についても言及し、経営数値について苦手な方でもわかりやすい内容に仕立てています。

第1位  ウエルシア、ツルハ…トップ企業は2,000店、売上高7,000億円も視野に入るDgSチェーン

ウエルシア、ツルハ…トップ企業は2,000店、売上高7,000億円も視野に入るDgSチェーン

この1年で最も読まれたのが、DgS業界の全体像を俯瞰するのに便利な、各社の業績に言及したこちらの記事でした。この1年だけでも大きな経営統合の話題などが複数ありましたが、どのDgSが生き残り、どのDgSが姿を消すのか、リサーチに余念がない業界関係者の姿が感じられる結果となりました。

以上、MD NEXT、この1年のアクセスランキングでした。

今後も小売業で働く方にとって、そしてメーカーや中間流通業で働く方にとっても読みごたえがある記事を引き続き提供してまいります。そしてこの1年支えてくださった読者のみなさま、スポンサーのみなさま、執筆者のみなさま、取材に応対していただいた企業のみなさま、そして業務をサポートしてくださっているみなさまにお礼を申し上げます。これからもMD NEXTを応援よろしくお願いします!

「資生堂」と世界最大のDgS「ワトソンズ」が業務提携

資生堂が世界最大のドラッグストア(DgS)チェーン「ワトソンズ」と業務提携し、アジア圏での市場拡大を目指すそうです。プレスリリースによると、「資生堂の研究開発力およびブランド力と、ワトソンズの保有する小売ネットワークと消費者インサイトデータを融合させることにより、日本への興味や関心をさらに喚起させ、アジアを中心とするお客さまに適した商品とサービスを提供していきます」とあります。この背景にある時代の動きを解説します。

店頭起点でブランドを育成する時代へ

従来のメーカーと小売業の関係は、これまでリベートや価格などの「条件交渉」に終始していました。しかし、今回の資生堂の決断は、これからのメーカーは小売業と戦略的に提携し、消費者の購買データなどを分析し、店頭起点でブランドを育成することが重要になっていることを示唆しています。

ワトソンズは、1841年に香港で設立されたDgSです。現在、25か国で約1万5,000店をチェーン展開しています。店舗とECサイトを合わせた年間の総客数は52億人にものぼるそうです。

現在、資生堂は10ブランドを超える商品をワトソンズで販売しています。今回の提携によって資生堂は、ワトソンズの顧客データ、購買データなどのメーカーでは入手できない「顧客接点」のデータを分析し、メーカーとしてのマーケティング、ブランド育成、新たな商品開発につなげる計画です。

現在、メーカーの「マーケティング費用」の大半は「マス広告」に使われています。しかし、マス広告の効果が低下していく時代において、ワトソンズのような大規模チェーンストアと戦略的に提携することで、店頭起点にブランドを育成することは、これからのメーカーにとって重要なマーケティング戦略の転換です。

膨大な購買データが消費者理解のための情報の宝庫に

また、マーケティングの最大の目的が、「消費者のことを理解すること」であれば、ワトソンズの1万5,000店の店舗網、ECサイトも含めると年間52億人にものぼる顧客の購買データは、消費者理解のための情報の宝庫です。こうしたデータを分析することで、新たな新商品の開発につなげることができれば、メーカーのマーケティングのやり方が変わっていく可能性があります。

小売業側も、「POSデータを販売して儲ける」という旧来の発想から脱却し、顧客接点のデータをメーカーに積極的に開示し、メーカーのマーケティングの高度化に活用してもらった方が、長期的には小売業側にもメリットがあると思います。

しかも、新商品が100%ワトソンズの店頭に陳列されることも、小売チェーンと提携するメーカー側のメリットです。

ワトソンズ(小売業側)の最大のメリットは、資生堂との共同開発商品(専売品)を販売できることです。ワトソンズと資生堂は、敏感肌向けのスキンケアブランド「dプログラム」の「アーバンダメージケア」を共同開発し、2018年10月からタイと台湾で販売し、今年7月からは中国全土で販売する予定となっています。

現在、リアル小売業の最大の経営課題は、「アマゾンと差別化すること」です。その対策のひとつが、「アマゾンで販売していないオリジナル商品」を増やすことです。オリジナル商品は、(1)PB(プライベートブランド)、(2)ストアブランド(SB)、(3)専売品の3種類に分けることができます。

PBは、小売業が仕様書まで書いて自主開発する商品です。SBは、メーカーが小売業のブランド名の商品をOEMで供給するものです。「ダブルチョップ」と呼ばれることもあります。

そして、資生堂のような大手メーカーと小売業が戦略的に提携する場合には、その小売業だけで販売する「専売品」を共同開発することが、小売業の最大のメリットです。「専売品」を販売することで、競合他社やアマゾンとも差別化できます。

小売業が「専売品」を共同開発する場合に重要なことは、「店頭実現力」と「売り切る力」を高めることです。店頭で売場づくりを100%実行し、そして、その状態を維持することも、専売品の育成には不可欠です。また、ID-POSデータや、来店客の購買行動データなどを共同で分析し、「売り方」を開発し、店頭起点でブランドを育成し、売り切る力をもつことも重要です。

しかし、もっとも重要なことは、小売業とメーカーの「信頼関係」です。売れなかったら専売品も返品するような小売業とは、メーカーも組みたがらないでしょうね。

需要予測の高度化によって在庫と返品を削減する

PALTACの物流技術を担う三木田雅和氏が新しい中間流通業のあり方を提言する連載。第2回目は卸売業の技術の肝となる「需要予測」についてその必要性と目指すところを語ります。

理想は在庫ゼロという状態である

需要予測は卸売業の肝となる技術であり、今後ますます磨いていくべき部分です。弊社では、小売業さんと商品情報を共有化し、当社独自のシステムで販売傾向、需要予測に基づく適正在庫および発注サイクルの最適化を行っています。

需要予測の精度を高めることにはさまざまな効果がありますが、「在庫の削減」と「返品の削減」は中でも重要な課題です。

まず在庫の削減です。我々卸売業は、在庫が多ければ多いほど、大きな物流センターが必要になり、効率も落ちます。「在庫ゼロ」が究極の理想形ではありますが、さすがにそれは不可能です。ですから在庫は少なければ少ないほどいいと考えています。しかし、いつどんな発注が来るのか予測できないと、在庫を多く持たざるを得ません。正確な需要予測を行うことができるようになれば、在庫数をぐっと減らすことができるでしょう。資金繰りも楽になります。

サプライチェーン全体の無駄を無くす

在庫削減によるメリットは、卸売業だけが享受するものではありません。

小売業さんは、欠品による機会損失を無くしたいと、なるべく多めに在庫を持とうとします。メーカーさんはメーカーさんで、卸からいつ発注が来るかわかりませんから、こちらも在庫を持とうとします。つまり、卸、小売、メーカー、それぞれが在庫を持っていることでサプライチェーン全体で非常に大きな無駄が発生しているのです。ですから、それぞれの在庫を減らすことができれば、高効率な経営ができるはずです。

また、小売業さんは、なるべくバックヤードの面積を減らして売場面積を増やしたいとお考えです。しかし在庫をたくさん持とうとすると、どうしてもバックヤードの面積を広くとる必要が出てきます。店舗が持つべき在庫を減らすことができれば、バックヤードに割く面積もぐっと減らし、その分売場面積にあてることができます。

このように、在庫の削減は、小売業さん、メーカーさん、卸の三者にとって非常にメリットが大きいのです。

もう一つ需要予測を突き詰めることで得られる大きなメリットが、返品の削減です。

小売業さんは、欠品による機会損失をなくすために、在庫を多く持たざるを得ず、結果、返品が多くなってしまいます。小売業さんからの返品は、われわれ卸売業を通過してメーカーに戻ります。この返品の量は驚くほど膨大です。

返品を減らすことができれば、製配販すべてにおいて余分なコストをおさえられ、消費者の方もより安く、より良い品を購入できるようになるでしょう。

ですから私たちは適切な需要予測をすることで、返品を減らすことに挑戦していきたいと考えています。

新たな需要予測モデル導入への挑戦

これまで弊社では「移動平均モデル」という世間一般で広く使われている方法をさらに弊社向けにチューニングした需要予測モデルを採用していました。しかし、人間が調整を行なっているのでどうしても限界があります。そこで全く違うモデルを採用して需要予測の自動化を行うことができないか研究をしています。

今私たちが研究しているのが、「自己回帰モデル」です。

「移動平均モデル」は簡単に言うと、過去の売上の推移の平均を算出して将来を予測する手法です。

一方「自己回帰モデル」は、説明が難しいのですが、現在の状態と未来の状態との間に、何かしらの関係性があると考えて、その関係性の過程を、過去の状態にさかのぼって(これを「回帰する」と言います)、過去・現在・未来の相関関係を数式で表しましょうというものです。

別の言い方をすると、移動平均モデルは、単純にデータをざっくりとした直線に落とし込んで、未来は過去から現在までに引いた直線の延長線上になると考えます。一方の自己回帰モデルは点と点の相関関係を数式で表します。

移動平均モデルだけですと、たとえば過去6週間のデータについて適用すると、普段は適切に予測できるのですが、突発的に起こった事象に対して適切な対応をすることが難しいという課題がありました。一方の自己回帰モデルは、過去のデータそのものを使うわけではないので、突発的な事象にも対応できるという利点があります。

ですが、過去のデータをつかわない自己回帰モデルだけではなかなか予測が難しいので、両者のおいしいところを組み合わせて、需要予測を行おうと考えています。(ちなみにこれを、自己回帰移動平均モデルといいます)

今までの移動平均モデルでは、カテゴリーによって精度が異なってきてしまうため、人間が手作業でパラメーターの調整を行ってきました。これを人間の手を介さず、チューニング無しで運用するために、コンピュータが自動的に予測をするモデルを作っていきたいと考えています。

もともと私は自動車メーカーでロボット開発のエンジニアをしていました。そこで人との混在環境でロボットを歩行させる研究の中で、人の動きを予測するため自己回帰移動平均モデルを活用していたのです。PALTACに転職したときに、需要予測に移動平均モデルを使っていると聞き、ならば自己回帰モデルを加えたほうがより精度が高くなるのではと考え、自己回帰移動平均モデルの研究をスタートさせました。

研究して日が浅いのですが、現時点で従来モデルと遜色ない精度を実現しています。今後数年かけてより精度を高くし、小売店さんにご提供することで、サプライチェーン全体に価値を提供していきたいと思っています。

(談・文責/編集部)

MD NEXT「小売業・次世代経営幹部のための デジタルシフトワークショップ」開講のお知らせ

ニュー・フォーマット研究所では、この度デジタルシフトを実現したいと考えながらも、どこから手をつければいいのか悩んでいる小売業の経営幹部の方に向け、企業のIT化の最前線で活躍する実務家・コンサルタントの方によるワークショップを開催することといたしました。最新情報にキャッチアップし、自社の立ち位置を俯瞰して確認する機会を提供するとともに、参加者による相互サポートを実現していきます。

■対象企業

・デジタルシフトを担うIT人材を育成したいと考える小売業様
・小売業のデジタル化の最新動向について関心がある卸売業様、メーカー様
※業務部門の方と情報システム部門の方、ペアでのご参加をおすすめしています。

■実施概要

・日程:2019年7月11日(木)
8月22日(木)
9月12日(木)
10月10日(木)
・時間:開場 13時30分/セミナー14時~17時30分/懇親会18時~20時(参加は任意)
・会場:Showcase gig会議室(青山一丁目駅直結)
東京都港区北青山1-2-3 青山ビル7階
※参加人数により会場は変更になる場合がございます
※懇親会会場は参加者に別途お伝えいたします
・募集定員:20名(最少催行人数 10名)
・参加費:20万円/1名(全4回)

■講師陣とテーマ

※テーマは変更になる可能性があります。

・第1回目 7月11日(木)
開場13:30/セミナー 14:00-17:30/懇親会 18:00

「デジタルシフトと小売業における全体最適」 

オムニチャネルコンサルタント 逸見光次郎

1994年三省堂書店入社。以後、ソフトバンク、イー・ショッピング・ブックス社(現 セブンネットショッピング社)、アマゾンジャパン、イオンを経て、2011年キタムラに入社。執行役員 EC事業部長としてオムニチャネル化に尽力。その後オムニチャネルコンサルタントとして独立。

 

「パルコのデジタルシフトをどのように実現してきたのか?」 

パルコ 執行役 グループデジタル推進室担当 林直孝

パルコ入社後、全国の店舗、本部及びWeb事業を行う関連会社 株式会社パルコ・シティ(現 株式会社パルコデジタルマーケティング)を歴任。 店舗のICT活用やハウスカードとスマホアプリを連携した個客マーケティングを推進する「WEB/マーケティング部」等を担当。 2017年より、新設された「グループICT戦略室」でパルコグループ各事業のオムニチャル化、ICTを活用したビジネスマネジメント改革を推進。(2019年にグループデジタル推進室に組織名称変更)

・第2回目 8月22日(木)
開場13:30/セミナー 14:00-17:30/懇親会 18:00

「小売業におけるデータ分析の実践」 

統計家/データビークル 西内啓

東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年株式会社データビークルを創業。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。

「世界のリテールITの現状と国内モバイルオーダーの未来」 

Showcase Gig新田剛史

上智大学卒業後、東京ガールズコレクション・プロデューサーとして数々のプロジェクトを手掛ける。2009年、株式会社ミクシィ入社。SNSを活用した新たなマーケティングの企画を実施。コンビニエンスストアと連携した数々のO2Oキャンペーンにおいて、オンラインから店頭への集客を成功させた。2012年、企業のオムニチャネル化を支援する株式会社Showcase Gig設立。

・第3回目 9月12日(木)
開場13:30/セミナー 14:00-17:30/懇親会 18:00

デジタルシフトのための組織作り」 

デジタルシフトウェーブ 鈴木康弘

1987年富士通入社。その後、ソフトバンクを経て、ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立。2006年同社がセブン&アイHLDGS.グループ参加に入り、2014年同社執行役員CIOに就任。グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施。著書に「アマゾンエフェクト!」(プレジデント社)がある。

(1枠調整中)

・第4回目 10月10日(木)
開場13:30/セミナー 14:00-17:30/懇親会 18:00

「ヘルス&ビューティー業態のデジタルシフトの実態」 

店舗のICT活用研究所 郡司昇

店舗のICT活用研究所代表。薬剤師。前職ココカラファインにおいてM&Aに伴う各種プロジェクトに関与した後、マーケティングとEC事業の責任者としてグループ統合マーケティング戦略を立案・実行。現在は主に(1)IT企業のCRM、位置情報、画像AI解析などの小売業活用(2)事業会社のEC・オムニチャネル改善についてコンサルティング活動中。

(1枠調整中)

■お申込みにつきまして

・お申込みは以下のお申込書にご記入の上、申込みメールアドレスまでメールにて送付ください。
・お申込み締め切り:2019年7月1日(月)

※申込書到着後、請求書を発送させていただきます。
※ご入金後、理由の如何に関わらず、返金は致しません。あらかじめご了承ください。
※恐れ入りますが、定員を越えた場合は締め切らせていただきます。お早めにお申し込みください。

■参加に際して

・全4回すべて同じ方に受講いただきます。
・演習を予定していますのでwifiに接続できるノートPCをご持参ください。
・双方向型のワークショップを目指しております。参加者の方には、積極的な発言、発表をお願いいたします。
・事前にレポートをご提出いただきます。また事後にレポートを提出いただくこともございます。

トモズ、調剤オペレーション自動化の実証実験を開始

住友商事株式会社は、2019年2月から調剤併設ドラッグストア「トモズ」の松戸新田店にて、調剤業務の効率化に向けた調剤オペレーション自動化の実証実験を開始した。シロップ・粉薬・軟膏など薬の形状に合わせた調剤機器のほか、複数の薬剤を一包ずつパックする「一包化」を行う機器を導入する。これらによって薬剤の調製・収集業務のうち9割を自動化・半自動化する。特定の薬に対応した機器を導入するだけではなく、大規模な自動化を図るのは国内初の試みだという。(ライター:森山和道)

調剤業務の効率化で対面業務をより長く

トモズは住友商事の事業会社で、首都圏を中心に174店舗(2019年3月末時点)を展開しているドラッグストアチェーンだ。

高齢化によって増大傾向にある社会保障費用の抑制と、生産年齢人口の減少による人手不足解消や後継者問題が社会課題となっている。人手不足問題は薬剤師を含む医療従事者や個人薬局も例外ではない。国民医療費は、2017年度の42.2兆円から2025年度には61兆円にまで拡大すると考えられており、調剤医療費も2017年度の7.7兆円から2025年度にかけて増大すると予想されている。

いっぽう政府は、持続可能な社会保障制度を確立するために「地域包括ケアシステム」を推進している。薬剤師に対しては、在宅医療の一端を担う存在として、患者への対面業務(服薬指導等)に従事することが期待されている。

これらの社会背景のもと、薬局においては、調剤業務の効率化が調剤サービスを維持・発展させていく上で必要不可欠なものとされているという。調製・収集業務の自動化によってバックヤードでの業務が効率化できれば、薬剤師は、より付加価値の高い、患者との対面業務に注力できるようになる。

今回実証実験の場所となったトモズ松戸新田店は、新京成線の松戸新田駅から徒歩およそ5分程度の商業施設「グリーンマークシティ松戸新田」の中にある。売場面積は約200坪、医薬品や化粧品のほか、日用雑貨、食品などを扱っている。

トモズ店内

扱っている処方箋枚数は月間 5,500枚。1日平均だと200枚弱。トモズの入っている建物の2Fには総合クリニックがあり、処方箋の8割はここから来る。残り2割は周辺地域からで、およそ240医療機関からの処方箋を受け付けている。薬剤師の人数は10名。臨時を入れると11-12名。

処方箋受け付け窓口

処方箋に基づいて医薬品の秤量、混合、分割等を行う作業を「調製」という。そして薬局での調剤業務は基本的に以下の手順で行われる。

1.患者から受付した処方箋を調剤事務がレセコン(レセプト・コンピューター。診療報酬明細書を作成するシステム)に入力する
2.レセコンから出力されたデータを薬剤師が確認しながら薬剤を実際に調製・収集する
3.薬剤師が鑑査(処方内容の確認と正しい薬が揃っているかどうかの最終確認)を行う
4.投薬カウンターで患者に薬剤を渡し、薬の説明や用法の確認等を行う

トモズにはもともとトーショーの調剤監査システムが導入されている。薬剤を調製・収集するときにはハンディ端末を用いて、患者一人ずつに必要な薬剤のバーコードをスキャンして確認し、整合性をとりながら調剤している。レセコンに入力されたデータは、各自動機にも飛んでいる。

今回の実証実験での自動化の対象は上記4手順のうち2の工程で、人が手で薬剤をピックアップしていた作業を自動化した。軟膏や貼り薬を除く、およそ9割の薬が機械からでてくるようになったという。なお一部の自動払出機の作業はレセコンに入れられた瞬間から自動で進められるが、最終鑑査は人間が行なっている。

端末、指示書
端末、指示書

合計7種類の自動化機械

では、実際に導入された機材を見ていこう。「トモズ」松戸新田店では、今回の自動化機器導入のため薬局待合スペースの一部を潰して調剤室のスペースを広げた。そして改装前から導入済だった薬剤払出支棚など3種類の機器に加え、今回新たに4種類の機器を追加し、合計7種類の機器を導入して、調製・収集の9割を自動化した。

薬剤には、粉薬や軟膏、シロップなどの種類があり、それぞれの形態に応じた自動化機械がある。

散薬調剤ロボット「DimeRoⅡ」

まずは散薬(粉薬)の調剤自動化からだ。散薬調剤ロボット「DimeRoⅡ」(株式会社湯山製作所)は、処方データを流すだけで薬品の選択、秤量、配分、分割、分包といった散薬秤量調剤を行うロボットシステムだ。複数の粉薬を処方に応じて混ぜて分包する機械である。

散薬調剤ロボット「DimeRoⅡ」

従来の散薬分包機は分包しか行えず、薬品の選択はもちろん、秤量も人が秤量皿を用いて計量し、混ぜていた。「DimeRoⅡ」の内部には粉薬を入れた散薬カセット(500cc)が30個内蔵されている。カセットにはRFIDが埋め込まれており、薬品認識に用いられている。カセット内部には常温で保存ができ、よく出る薬剤がセットされている。

処方データが「DimeRoⅡ」に流れて来ると、その指示に従って内蔵された水平多関節ロボットアームが動き出して散薬カセットを取り出し、装置下方にある円盤部分に横向きにセットする。そして振動を使って散薬を少しずつ「R円盤」に出していく。「R円盤」とは、もともと湯山製作所が開発した振動回転機構で、散薬を混ぜる自動分包機ではデファクトスタンダードになっている機材だ。一言で散薬といっても、パウダー状や細粒など様々な状態のものがあるが、いずれも問題なく撒けるようになっているという。

設置部分は天秤となっており、秤量しながら出せるようになっている。なおカセット保管部分も天秤になっていて、そこで再計量を行うことで秤量誤差をダブルチェックする仕組みだ。指定された散薬を全部出したら前述の「R円盤」を使って均等に薬剤を広げ、混ぜていく。カセット設置部は3つあり、一度に3薬品を円盤に撒ける。1処方では最大12種の薬品を混合分包することができるという。

こうして混ぜた薬を一回あたりの分量に合わせて自動分包する。朝昼晩に用量が異なるような複雑な分包にも対応している。

分包後には自動清掃することでコンタミネーションを防ぐ。一度に186包の大量分包が可能である一方で、1薬品あたり総量0.5gから払い出しできるため、子供向けの少量分包にも対応している。分包速度は50、45、40、35、23包/分の5段階から選択できる。

作業時間自体はベテランの薬剤師とあまり変わらないが、機械を使うと薬剤師の手が空く。そのぶん他の仕事ができる。

水剤定量分注機「LiQ」

小児科用として用いられることが多い液体の薬(水剤)については、水剤定量分注機「LiQ」(株式会社タカゾノ)を用いている。人手で行う場合は、2、3種類の薬品から薬剤師が測りとって瓶に入れていく。「LiQ」は投薬ボトルをセットし、スタートボタンを押すだけで、注出が完了する。水剤瓶は最大10本まで搭載できる。これも粉薬の自動機と同じで、複数の薬剤瓶から重量センサーで計測しながら正確な分注を行って注出を行う。

水剤定量分注機「LiQ」

医師は体重で用量を決めるので、必ずしも混ぜたときに入れる量が、ちょうどいい量になるとは限らない。その場合は精製水やシロップなどを入れて一回あたりを飲みやすいように調整する。それもワンボタンでやってくれる。また、薬剤のなかには事前に良く振って混ぜる必要があるものもあるが、その作業ももちろん行ってくれる。最後にプリントアウトされたシールをボトルに貼る。

全自動錠剤分包機「Xana-1360EU」

全自動錠剤分包機「Xana-1360EU」(株式会社トーショー)は、スライドキャビネットのなかに最大136種類の錠剤カセットを収納できる機械だ。なかには錠剤投入ホッパーと包装機も内蔵されており、レセコンからの指示に従って、患者ごとに異なる多剤一包化ができる。「一包化」とは、患者の服薬漏れを防ぐため、朝・昼・晩など服薬のタイミング毎に服用する複数の薬剤を一包ずつパックする作業である。特に薬の種類が多い高齢者向けには必須の機能だ。分包速度は最大で54包/分。カセットの誤挿入防止機構のほか、分包紙も容易に交換できるようになっているという。

全自動錠剤分包機「Xana-1360EU」
一包化された錠剤

錠剤一包化鑑査装置「MDM」

取材で見せてもらったケースでは、1包みあたり9種類の薬剤が入っていた。これがちゃんと全部入っているのか、それを鑑査するための機械もある。オランダ製の錠剤一包化鑑査装置「MDM」(販売代理店:トーショー)は、薬の束を入れると一包みずつ撮影し、錠剤の粒と形状から正しい薬が入っているかどうかをPC画面上でチェックできる機械だ。問題なければ緑色、錠剤が重なっていたり、立ってしまったりして判別が難しい場合は赤のチェックマークがつく。

錠剤一包化鑑査装置「MDM」
錠剤一包化鑑査装置「MDM」

エラーが出たものについてはクリックすると拡大表示され、同時にたとえば「6包目をよく見ろ」と指示されるので、それを薬剤師が肉眼で見てチェックを行う。どの薬がうまく認識できないかといったことも指示される。チェックのときにはエラー内容も一緒に記録し、なぜエラーが出たのかも記録していく。

錠剤一包化鑑査装置「MDM」

従来は全て肉眼で数えて、中の印字が合っているのかもチェックしていた。それと比べるとおよそ1/3から1/6程度と大幅に早くすむようになったという。「一包化は入力から終わるまで1時間くらいかかる作業。全部機械でやると10分から15分で行えるようになった。これが一番効果が高い」とのことで、特に量が多くなればなるほど時間短縮効果は高くなる。

なおデータは全てサーバの中に保存されるので、何か問題があった場合には遡ってチェックすることができる。日本国内では30-40台程度だが、既に北欧では数千台も販売されている機械で、多くの実績があるという。

PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」

これまで一台構成だったものを3台構成に増やしたのが、PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」(株式会社タカゾノ)だ。PTPシートとはPress Through Package、すなわち錠剤やカプセルなどを1錠ずつプラから押し出すタイプの包装のことである。内服計数調剤(手作業で薬を収集する作業)の多くを占める錠剤やカプセル剤を1錠単位まで端数カットして自動的に払い出すことができる。

通常、錠剤は10個で1シートになっている。それをシートと端数が最適な組み合わせになるように自動計算して、指定の個数に合わせて切り出すのである。

PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」
PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」

タッチパネルでスタートしたあともゴトゴトと音はするが、動作している様子自体は外からは見えない。だが一分少々待つと、きれいにシートがカットされた薬剤が、処方どおり1錠単位で正確に払い出されて、トレイに入った状態で出て来た。何が払い出されたのかという情報を記したプリントアウトも一緒だ。

PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」

残った端数の薬剤個数ももちろん記憶されており、次に端数が発生するときに使用される。まれにシートに傷がつく場合もあるが、「Tiara」は他店でも既に使われており、大きなトラブルはないとのこと。

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」(株式会社トーショー)は、この「Tiara」に入らない薬に用いる自動調剤棚だ。もともと、多くの薬剤から、目的の商品を、指定された数量ずつ取り出すのは大変な作業だ。今日ではジェネリック医薬品の増加もあって、類似した医薬品名の薬がさらに増えている。

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」

自動調剤棚は薬の取り間違いによるヒューマンエラーを減らすことができる機材で、データに応じて、取るべき薬が入った引き出しが点灯して自動で開くので、人はそこから薬剤を取り出せばいい。具体的にはヒート包装(散剤や顆粒剤に用いられる、ラミネートフィルムの袋をヒートシールしたタイプの包装。SP包装)された薬などを、この棚で扱っている。

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」

スタートを押すと機械が「4下」といったかたちで、どの棚のどこにあるのかという大雑把な情報を声で教える。指示された棚を見ると、指定されている薬剤が入った引き出しがLEDで点灯されていると同時に、ロックが開いて少しだけ出ているので、薬剤を取って閉じる。するとすかさず「5上」と次に探すべき薬剤の場所を教える。最後まで取ると「完了しました」と指示されて、患者一人分の薬を取り終わったことがわかる。

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」

自転・公転ミキサー「なんこう練太郎」

このほか、軟膏を混ぜる自転・公転ミキサー「なんこう練太郎」(株式会社シンキー)も用いてる。軟膏が処方された場合、複数の薬剤をこれまでは手で混ぜていた。この作業には20分くらいの時間が必要だった。だが猛烈な回転で軟膏を混ぜる自動機械を用いることで、わずか30秒で済むようになった。

自転・公転ミキサー「なんこう練太郎」

患者と喋る時間が増え、やりがいが増した

今回の自動化によって「トモズ」松戸新田店では9割の薬の払い出しが自動化された。6割が「Tiara」、3割が「Mille」から出て来るという。残り1割は漢方薬や貼り薬、また半年に1度くらいしか出ない使用頻度の低い薬剤だ。機材の大きさや調剤室の広さなどの物理的な問題から考えても、自動化については、このあたりが現実的なところなのではないかと考えていると株式会社トモズ取締役薬剤部・在宅推進室分掌役員の山口義之氏は語る。

「調剤は、物販とちがって我々が薬を選べません。全部機械化するのは物理的にも経済的にも無理があるので、使用実績を見ながら機械をそろえていった結果、このくらいが一番妥当なところかと思ってます」(山口氏)。

トモズ松戸新田店に追加した機材は、散薬調剤ロボット「DimeRoⅡ」、水剤定量分注機「LiQ」、錠剤一包化鑑査装置「MDM」、薬剤払出支援調剤棚「Mille
Shelf」だ。「Tiara」や「DimeRoⅡ」、「MDM」などは他店でも導入されている事例はあるが、全部をまとめて入れたのは松戸新田店が初めてだ。

なお今回の自動化実証実験に伴い、レセコンに入力したデータをどの機械に回すのかを指示するシステムについては新しく作り込んだ。いまのところ、うまく制御できているし、人のオペレーションもうまくいっているという。

「2月頭に機械を入れて、一ヶ月は機器の安定稼働を目的にオペレーションしている段階ですので、今はオペレーションは変えてません。ただ、残業は減っているとは聞いています。花粉が飛び始めて処方箋枚数が増えている今の時期(取材は3月半ば)でも、待ち時間は15分程度に収まっていて、残業も減っているので、効果は出ているのかなと思います」。(山口氏)

株式会社トモズ取締役 薬剤部・在宅推進室分掌役員 山口義之氏

現場の意見も伺ってみた。薬剤師になって二年目の木村俊介氏は、最初は「機械に薬を充填する作業のような新しい仕事が増えたので、戸惑いはあった」そうだ。しかしほどなく馴れると「薬剤を集める時間を、患者さんと喋る時間に還元できるようになりました。仕事としても、人と喋る時間が増えて、『薬剤師やってるな!』という気持ちになれるようになってきました。調剤室での作業時間が長いとどうしても自分も機械のようになってしまうところがあるので、患者さんと喋ることでやりがいを感じられます」と非常にポジティブな意見を語ってくれた。

自動化はバランスを見ながら、在宅調剤へも対応

今回はあくまで将来にさらに人手不足が進んだ時代を見据えて、医療の質を維持しながらどこまで最小限の人数で今と同じサービスレベルを維持して運用できるのかを検証するための実証実験であり、経済的なメリットやコスト優先で導入したものではない。だが既に今も、人手不足感は常にあるという。

ただし、どこまでも機械化できるかというとそうでははない。前述のとおり調剤室が広くない薬局には機械を入れるのは難しいし、入れてもペイできるだけの処方箋枚数があるかどうかといった課題も当然ある。そのため、全店での機械化は現実的には難しいという。

機械化に向くかどうかは処方箋枚数だけではなく単価にもよる。処方箋単価が低いと、一回に出る処方の量が少ないので機械にフィットしやすい。しかし処方人数が増えて来ると、今度は機械への補充が大変になってくる。バランスが重要だ。一年半を予定している実証実験のあとも、機材はそのまま運用予定だ。単なる概念実証ではないということだろう。

トモズではこの実験を通じて、分包センター(各地域の薬局からの依頼を受け、手間のかかる一包化調剤を大規模な機器で効率的に行い、一包化した薬剤を薬局や介護施設等へ配送を実施するセンター)をはじめとした欧米諸国の新たな事業モデルに対応できるよう知見を集積していくとしている。

視野に入れているのは増大しつつある在宅調剤への対応だ。トモズでは基本的に患者のニーズや地域のケアマネージャーからの依頼に応えていただけだったが、それでも在宅ニーズは増大しており、2017年4月には在宅推進室を設けて在宅調剤への対応を全店で始めた。だが今までと同じ作業をしていると在宅への需要に応えられない。そういう面でも機械化は必要だと考えているという。

[解説]平成最後の大ニュース。マツキヨHD・ココカラファインが資本業務提携に関する検討と協議を開始

平成最後の金曜日、2019年4月26日にドラッグストア(DgS)業界をゆるがすニュースが飛び込んできました。業界第4位のマツモトキヨシHD(以下マツキヨHD)と、同7位のココカラファインが資本業務提携に関する検討と協議を開始したというのです。取材活動から見えてきた、この2社の共通点について解説します。(編集部)

2社から発表されたプレスリリースをまとめると

・地域のお客様の健康と美容の増進、生活の充実に最大の価値を置くという共通の理念を持っている
・都市および都市周辺部に多くの店舗を展開するという共通の特徴を有している
・店舗の展開エリアを相互に補完できる関係にある

ということから、

・互いの各種リソースやインフラ、ノウハウなどの経営資源を相互に活用することにより、さらなる発展を目指す

ことにした、ということです。

発表によると、2019年度上期中の合意と最終契約の締結を目指していくとしています。

マツキヨHDは2018年度売上高約5,588億円(2018年3月期)で、店舗数1,654(2019年3月末現在)。一方のココカラファインは同売上高約3,909億円(2018年3月期)、店舗数1,354(2019年3月末現在)。

2018年決算によれば、マツキヨHDは売上高ランキング4位、ココカラファインは7位でしたが、もしこの資本業務提携が現実のものになれば、単純に売上高をプラスしても9,500億円となり、日本のドラッグストアグループとしては最大級の規模になります。

ウエルシア、ツルハ…トップ企業は2,000店、売上高7,000億円も視野に入るDgSチェーン

なぜこの2社が提携を検討することになったのでしょうか。3つのポイントがあったと本誌では予測しています。

①「都心・住宅地」「関東・関西」で展開エリアがすみわけられている

マツキヨHDはオフィス街をはじめとする都心の店舗の強さが特徴です。一方ココカラファインは、都市を含む4種の立地パターンを持っていますが、以下の塚本厚志社長のインタビューにもあるように、なかでも住宅地に強いという特徴があります。

──ココカラファインは、都市、商店街、住宅地、郊外の4つの立地パターンがありますね。

塚本 おおよそですが、都市型が170店、商店街型が320店、住宅地型が400店、あと郊外型が210店という構成(2018年12月現在)で、ココカラファインは「住宅地」に立地する店舗が一番多いのが特徴です。

「おもてなしスマートストア」を目指すココカラファイン~塚本厚志社長インタビュー~

また出店地域も、マツモトキヨシが1,654店舗中約900店を関東に出店しているのに対し、ココカラファインは関西の出店が厚いことからも、出店エリアのすみわけは容易にできそうです。

②売上構成比率が似ていて商品政策が近い

マツキヨHDとココカラファインは売上高構成比が似ているのも特徴です。

2018年決算を見てみると、医薬品はマツキヨHDが31.9%、ココカラファインが33.9%、化粧品がマツキヨHDが40.5%、ココカラファインが29.8%となっています。食品の取り扱いはマツキヨHDが9.7%、ココカラファインが11.0%とどちらも10%前後でそれほど積極的ではありません。

商品政策が似ていることから、共同でPBを開発する際の戦略立案の際に方向性を決めやすいのではないかと想像できます。

食品構成比率60%に近づくGenky。部門別売上高構成比に見るDgS企業の営業戦略

③ともに攻めのIT投資を行っている企業である

マツモトキヨシは売上・顧客データ分析に基づく売場作りや、マツキヨアプリを使った顧客獲得施策、ワントゥワンマーケテイングに接客的に取り組んでいることで知られています。同社のポイントカード会員、LINEの友だち、公式アプリのダウンロード数を合計したグループ会員数は、延べ5,100万人超(2017年9月末現在)まで拡大しています。

またココカラファインもクラブカードの会員が700万人を超え、カード会員に「ココカラアプリ」を利用してもらう活動を進めている途中です。

このように両社とも、DgS業界の中においては、攻めのIT投資を行っている企業ということができるでしょう。双方の会員データを集約することで、相当大規模なデータ基盤ができるのではないかと考えられます。

以上のことから、この2社の提携に関しては、オペレーションレベルは同水準にありつつ、立地・出店の面ではすみわけができており、提携における相当なシナジー効果が得られるのではないかと本誌では予測しています。