今週の視点

2019年5月までに東京の広尾と中野に先行出店

第36回コスモス薬品が2020年5月期から肥沃な「関東平野」で超ドミナント出店開始

コスモス薬品の横山英昭社長は、今年1月17日に行われた2019年5月期第2四半期決算説明会で、2020年5月期中に関東で同社が主力とする「郊外型店」を出店開始する計画であることを発表しました。九州の宮崎からチェーン展開を始めたコスモス薬品が、遂に関東平野でのドミナント出店を開始します。ドラッグストア(DgS)の「国盗り物語」は、いよいよ最終章に突入します。

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関東1,000店構想を掲げてドミナント出店を開始

コスモス薬品の2018年12月末現在の地区別の店舗数は、九州地区541店舗、中四国269店舗、関西地区122店舗、中部地区26店舗です。九州が計画の約90%の出店を終え、中四国は同様に68%、西から着実にドミナント化を進めていることがわかります。今期の第2四半期までに合計46店を出店しており、毎年100店の大量出店を継続しています。

コスモス薬品は、郊外型の出店に先行して、今期中に東京都渋谷区の広尾エリアに1店舗、中野区中野駅の近くに1店舗の都市型(50~100坪程度)を出店する計画です。郊外型に関しては、千葉、茨城、埼玉、神奈川の立地調査を開始しており、2020年5月期中の出店を目指しています。将来的には九州地区600店、中四国400店、関西地区1,000店、関東地区1,000店(本誌推定)という計画で出店を進めているそうです。

食品のラインロビングと常識外れの超ドミナント出店

コスモス薬品の宇野正晃・会長(当時社長)に最初にお会いしたのは、約20年前のことでした。月刊MDを創刊して2年くらいのことだったと記憶しています。まだ宮崎にコスモスの本社があった頃です。宇野社長(当時)から、「ニューフォーマット研究会の会員になりたい」と連絡が来たのがキッカケです。その後、宮崎県の日南市の店舗を案内してもらったことがありました。

当時、九州には大店法の規制を逃れる規模の150坪型のDgSを展開する「イレブン」(現在はJR九州の傘下)などが九州全域に先行して店舗展開していました。それに対抗してコスモス薬品は、広い駐車場を確保した、2倍の面積の300坪型のチェーン展開を開始していました。

150坪型だと、薬局・薬店業界の仕入れ先でもなんとか売場を埋めることができましたが、300坪型だと新規取引先を開拓しなければ売場は埋まりませんでした。とくにコスモス薬品は、「食品」を積極的にラインロビングし、従来の150坪ドラッグストアよりも来店頻度も客数も多い「生活ストア」を志向し、当時見学した日南店もとても繁盛していました。見学した300坪店舗があった日南市の商圏人口は3~4万人程度だったと記憶しています。

しかし、すぐに宇野社長(当時)は同じ日南市に2号店を開店しました。結果として商圏が広がり、2店とも繁盛しました。さらに、同一商圏内に3号店を開店しました。1店あたりの商圏人口が1万人程度に商圏分割したので、さすがにもう打ち止めかと思っていたら、同一商圏内に4号店を出店して驚いたことを覚えています。コスモス薬品は20年前から「常識外れの超ドミナント出店」を実行しており、現在に至ってもその戦略はまったくぶれていません。

「ドミナント」と「EDLP」が超ローコスト体質の秘密

前述したように、コスモス薬品の飛躍のポイントの第1は「食品のラインロビング」、第2は「超ドミナント出店」です。そして、第3のポイントは、「EDLP(エブリデー・ロープライス)」戦略への果敢な挑戦でした。

今でこそEDLPを志向する小売企業は増えていますが、20年前はチラシに過激な目玉価格を掲載し、広域から集客する「ハイ&ロー」型の安売り合戦の全盛時代でした。私が「EDLPの方がコストが低いから、最終的には勝つ」とセミナーや誌面で提言しても、「日野さん何言っているの」と鼻で笑われていた時代でした。

コスモス薬品は、2004年にマザーズに上場する前に、「ポイント販促」と「短期特価販売」をやめて、全店をEDLP戦略に一挙に変更しました。当時、宇野社長は、「ポイント販促をやめることも、EDLP化することも、短期的には売上が下がる政策でした。だから上場する前に実行したのです。上場した後では、これほど大胆には変更できなかったかもしれません」という趣旨の話を聞いたことを今でも覚えています。

また、ポイント販促をやめると宣言したところ、たまったポイントを交換に来店する消費者が店舗に殺到し、銀行の取り付け騒ぎのような騒動になったそうです。そういう混乱を乗り越え、売上の減少を恐れずに、EDLPに挑戦したことが、コスモス薬品の成長を支えた重要な要素のひとつであったとおもいます。

とくに、「超ドミナント出店」と「EDLP」の2つが、コスモス薬品の常識外れのローコスト経営体質の秘密です。ランチェスターの法則によれば、超ドミナント出店によって地域シェア率を高めれば、物流費などのコストが大きく低下し、ある時期から「売上成長率」よりも「営業利益成長率」の方が高くなるといわれています。コスモス薬品は、まさにランチェスターの法則を実践したわけです。

また、ハイ&ローよりもEDLPの方が、「売れ方」や「作業」の波動が少なく一定であり、当然、「作業コスト」と「在庫コスト」が下がります。

下の図のように、コスモス薬品の粗利益率は19.8%と、一般的なDg.Sと比べると極めて低いのですが、販管費率(売上に占める経費の割合)も15.7%と低いので、差し引き4.1%の営業利益率を確保しています。「安く売っても儲かる経営体質」を確立していることがわかります。

しかも、コスモス薬品は過去の成功体験に埋没しないで、常に新しいことに挑戦しています。近年は、ディスカウントドラッグコスモスと名乗りながら、「接客強化」に果敢に挑戦しています。月刊MD2018年12月号の「Dg.S顧客満足度調査」では、コスモス薬品がダントツの1位でした。「安いけれど、接客もよい店」を実現していることがわかります。

第2四半期決算説明会でコスモス薬品の横山社長は、「今後、所得と人口の二極化が起こり、いずれも関東圏に集中するとおもいます。それに備え関東への出店を加速させます。肥沃な大地である関東への出店を本当に心待ちにしています」と新商勢圏へのおもいを語りました。「ザッザッザッ」という軍足の音が聞こえてくるような気がするのは、私だけでしょうか?

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。