働き方改革で徒弟制度を企業に変えた
個人的なことで恐縮ですが、私はずっと「QBハウス」で髪を切っています。「髪を切るのに時間と金をかけたくない」というのが利用する最大の理由です。それに加えて、徒弟制度を理由に長時間労働を強いる理美容業界の慣習を否定し、理美容師の「働き方」を変えたQBハウスの経営姿勢に共感を覚えていたことも、QBハウスを利用する大きな理由です。
理美容業界は典型的な「徒弟制度」です。社員ではないので、見習いは朝1番に出勤し終電で帰るという長時間労働です。休みも少なく残業代が支払われておらず、結果的に低い賃金となっています。さらに、社会保険に加入していません。カット技術などの研修費は給与天引きであることも多く、仕事が終わった後に研修に行くなどの過酷な労働環境です。指名がとれなくなった40代は、独立するか異業種転職しか選択肢はありませんでした(QBハウスのホームページより抜粋)。
以前、美容室に商品を供給している某化粧品メーカーから聞いた話では、美容室(ヘアサロン)のオーナーのゴルフコンペはとても派手だそうです。高級外車やスポーツカーに乗り、高級ブランドに身を包んだオーナー達が、颯爽とゴルフ場に現れるそうです。ヘアサロンのオーナー達は、とても儲かっています。原価がかかりませんからね。しかし、その儲けは、そのヘアサロンで働く弟子たちの犠牲の上に成り立った儲けです。いくらカリスマ美容師とおだてられていても、尊敬できる業界ではないとずっと思っていました。
一方、QBハウスは、社会保険に加入した社員として採用し、残業代も1分単位で支払う普通の雇用条件にしました。また、徒弟制度はオーナーに気に入られれば昇給する情実人事でした。しかし、QBハウスは2人以上の上司が評価し、さらに社内検定を受けることで昇給・昇格する人事制度を整えました。キャリアアッププランも明示し、評価制度と待遇制度をオープンにしたことも、従来の徒弟制度の理美容業界ではありえないことでした。
QBハウスは、2018年4月の上場前の5年間、「働き方改革」の一環でさまざまな革新を行いました。たとえば、定年制を廃止し、永年勤続を奨励し、定着率の向上を図りました。現在、現役美容師の最高齢は80歳だそうです。また、勤続10年の社員が457名もいるそうです。月間の休日は、6~10日の選択制で、土日、休日も休むことができます。さらに、徒弟制度では給与天引きだった研修も、「有給研修制度」(ロジスカット)によって研修も勤務の一環と規定しました。
美容師の採用難が値上げの最大の理由
徒弟制度を企業化したQBハウスが値上げに踏み切った最大の理由は、美容師の採用難です。理美容室は全国に約36万店あり、現在も微増傾向ですが、美容師の新規免許登録は減少しており、慢性的な人手不足の業界です。QBハウスは、値上げによる増収を原資に、カット技術を教育する「ロジスカット」スクールに投資し、未経験者でも6か月で美容師として育成することを目指しています。美容師の人手不足を教育制度の充実による「早期育成」で乗り切ろうとしているわけです。
1000円に据え置く同業者もあるなか、1080円が1200円に値上がりするのは痛いですが、きちんと教育されて、素晴らしい「カット技術」と「接客」で迎えてくれる美容師が増えるのなら、1割の値上げは我慢しようかな。いずれにしても、徒弟制度のヘアサロンには一生行きません。