今週の視点

理美容業界の「徒弟制度」を企業に変えた革新企業

第35回ヘアカット専門店「QBハウス」が1080円→1200円に値上げ

東洋経済オンラインの記事によると、シャンプーもパーマもしないヘアカット専門店「QBハウス」を展開するキューピーネットホールディングスが2019年2月1日から、カット料金を1080円(税込み)から1200円(税込み)に値上げしました。理美容業界に革命をおこした「1000円床屋」の最大手であるQBハウスの値上げの理由はなんなのでしょうか? (QBハウスは34都道府県で552店を展開・2018年6月末時点)

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働き方改革で徒弟制度を企業に変えた

個人的なことで恐縮ですが、私はずっと「QBハウス」で髪を切っています。「髪を切るのに時間と金をかけたくない」というのが利用する最大の理由です。それに加えて、徒弟制度を理由に長時間労働を強いる理美容業界の慣習を否定し、理美容師の「働き方」を変えたQBハウスの経営姿勢に共感を覚えていたことも、QBハウスを利用する大きな理由です。

理美容業界は典型的な「徒弟制度」です。社員ではないので、見習いは朝1番に出勤し終電で帰るという長時間労働です。休みも少なく残業代が支払われておらず、結果的に低い賃金となっています。さらに、社会保険に加入していません。カット技術などの研修費は給与天引きであることも多く、仕事が終わった後に研修に行くなどの過酷な労働環境です。指名がとれなくなった40代は、独立するか異業種転職しか選択肢はありませんでした(QBハウスのホームページより抜粋)。

以前、美容室に商品を供給している某化粧品メーカーから聞いた話では、美容室(ヘアサロン)のオーナーのゴルフコンペはとても派手だそうです。高級外車やスポーツカーに乗り、高級ブランドに身を包んだオーナー達が、颯爽とゴルフ場に現れるそうです。ヘアサロンのオーナー達は、とても儲かっています。原価がかかりませんからね。しかし、その儲けは、そのヘアサロンで働く弟子たちの犠牲の上に成り立った儲けです。いくらカリスマ美容師とおだてられていても、尊敬できる業界ではないとずっと思っていました。

一方、QBハウスは、社会保険に加入した社員として採用し、残業代も1分単位で支払う普通の雇用条件にしました。また、徒弟制度はオーナーに気に入られれば昇給する情実人事でした。しかし、QBハウスは2人以上の上司が評価し、さらに社内検定を受けることで昇給・昇格する人事制度を整えました。キャリアアッププランも明示し、評価制度と待遇制度をオープンにしたことも、従来の徒弟制度の理美容業界ではありえないことでした。

QBハウスは、2018年4月の上場前の5年間、「働き方改革」の一環でさまざまな革新を行いました。たとえば、定年制を廃止し、永年勤続を奨励し、定着率の向上を図りました。現在、現役美容師の最高齢は80歳だそうです。また、勤続10年の社員が457名もいるそうです。月間の休日は、6~10日の選択制で、土日、休日も休むことができます。さらに、徒弟制度では給与天引きだった研修も、「有給研修制度」(ロジスカット)によって研修も勤務の一環と規定しました。

美容師の採用難が値上げの最大の理由

徒弟制度を企業化したQBハウスが値上げに踏み切った最大の理由は、美容師の採用難です。理美容室は全国に約36万店あり、現在も微増傾向ですが、美容師の新規免許登録は減少しており、慢性的な人手不足の業界です。QBハウスは、値上げによる増収を原資に、カット技術を教育する「ロジスカット」スクールに投資し、未経験者でも6か月で美容師として育成することを目指しています。美容師の人手不足を教育制度の充実による「早期育成」で乗り切ろうとしているわけです。

1000円に据え置く同業者もあるなか、1080円が1200円に値上がりするのは痛いですが、きちんと教育されて、素晴らしい「カット技術」と「接客」で迎えてくれる美容師が増えるのなら、1割の値上げは我慢しようかな。いずれにしても、徒弟制度のヘアサロンには一生行きません。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。