マイクロマーケットへの初出店

セブンの日本初「顔認証決済」店舗。AI活用による省人化も30店舗で実証実験

2018年12月、セブン-イレブンが国内初の「顔認証による決済」店舗をオープンした。場所は日本電気(以下、NEC)が入居するビルの20階。実証実験の技術を担うNECの従業員のみ利用できる特殊立地だ。(月刊コンビニ編集部 編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2019年2月号より転載)

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入店客の顔画像から年齢、性別を推定ターゲットに合わせ広告表示

今回の実証実験店舗「セブン-イレブン三田国際ビル20F店」を成功させるには、「顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス)の向上と、店舗運営(オペレーショナル・エクセレンス)の向上、この2つをセットにすることではじめて、省人化店舗によるさまざまなサービスが可能になってくる」とNEC取締役執行役員常務兼CTOの江村克己氏は説明する。

店を利用するお客と、店を運営する側の双方に対して、既存店にはないメリットが必要であるという。その実現のために、どのような技術革新を実践しているのだろうか。

はじめに、店を利用するお客に対して、3つの新しい体験を提供している。

第一に、顔認証による入店と決済。顔情報で認証を行い、自動ドアをスムーズに開ける。決済はセルフ方式で、お客は商品のバーコードをスキャナーにかざして、顔認証または社員証による認証を選択する。顔認証の場合は、表示画面の上部に設置したカメラを見て認証を受ける。認証されると表示画面に社員番号が表示されるので、正しければ確定して決済する。支払い代金は給与から天引きされる。社員証はカードリーダーに読み取らせて、あとの操作は顔認証と同じだ。

「NECの顔認証(技術)は世界一の評価を得ている。一連の購買行動を非常にスムーズに実現させた」(江村氏)

ただし、顔認証は個人情報保護の観点から、すぐに一般の店舗に導入できる技術ではない。特定企業の閉鎖商圏において、事前に承認した従業員を対象にしているので可能となった。決済はセルフ方式であるが、売場を管理する従業員を一人配置する。

三田国際ビル20階の店舗には、社員証をかざすか、カメラによる顔認証により入店する

第二に、ターゲットに合わせた広告サイネージ。入店したお客の顔画像から年齢、性別を特定して、ターゲットに合わせた広告を表示する。コンビニに来店するお客は、欲しい商品をイメージして購買に至るが、サイネージによるリコメンデーションにより、新たな需要の喚起を期待している。

人が通るとカメラが画像を認識して、性差、年齢に合った商品を紹介して需要創造する

第三に、レジ台に設置した「PaPeRoi」というコミュニケーションロボット。サイネージによるリコメンデーションと連携する形で、お客の顔を認識し、属性に応じたお薦め商品を提案する。店舗は事前に登録したNECの従業員のみが使用するので、一人ひとりを認識することが可能になっている。そのため、一人ひとりに合わせたリコメンデーションを提供することができる。

セルフでバーコードを読み取らせ、顔認証か社員証で決済し、給与から天引きさせる仕組みをつくった

「このような顧客体験の向上により、お客さまに、より快適さ、より便利さを提供できる。欲しいときに欲しいものが簡単に手に入る便利で心地よい購買体験を実現できる」(江村氏)

こうした技術革新により顧客体験を向上させる一方で、店を利用する従業員の満足度を高めるという観点からも、新しい店舗として位置付けられている。今回の店舗はNEC従業員が利用するビルの20階にあるが、もともと地下1階にセブンイレブンの既存店が出店している。1日4,000人が利用する高日販店であり、とくにオフィス内立地なので就業時間前や昼休みに多くのお客が集中する。高層階の従業員は、店までの往復時間、さらにレジに並ぶ時間を合わせると、ランチ1時間の多くが移動とレジ待ちに費やされてしまう。

「職場に近い場所にコンビニがあれば働き方改革の一環になる。買物がスムーズにでき、残りの時間を有効利用できる。昼休みに限らず、就業時間内でも、欲しいものが欲しいときに購入できれば働く環境が変わってくる」と江村氏は、マイクロマーケットへの出店の意義を語る。

今後は従業員として知っておくべき情報を、広告サイネージと一緒に提示することも可能になる。会社のイベントと商品をリンクした提示も考えられるという。

なぜ、その発注数量なのか?ホワイトボックスで明確化

次に店を運営する側に対して、どのような援助や支援が提供できるのか。

今回の実証実験店において、新たなテクノロジーを導入し、効率的な運用を可能とすることで、「従業員を接客中心の業務にシフトする」ことが、まず確認された。自動的にできること、サポートできることを積極的に導入して、従業員が、より多くの時間を接客に向けられるようにする。新たなテクノロジーの導入により、既存の業務をただ削減するのではなく、節約できた時間を接客関連の業務にシフトしていく方向感である。古屋氏は次のような見解を示す。

「機械化できることは、どんどんそちらにスライドさせる一方で、お客さまとのコミュニケーションなど、人にしかできない業務に注力していくことが大切。今回の省人化店舗と人手不足は何の関係もない。お客さまとのコミュニケーション、接客、それと変化対応が大切。寒い時季に、おでん、中華まん、フライヤーの商品を食べたくなったお客さまに、カウンターで接客をしながら販売していく。ファストフードは、お客さまに対する変化対応のなかで、もっとも影響の大きな売場。このような人にしかできない業務と省人化を一緒に考えてはいけない」

では、新たなテクノロジーを導入した省人化とは、具体的にどのような内容なのか。その第一が「AIを活用した発注提案」である。「異種混合学習技術」により、“発見したルールを説明できる”「ホワイトボックス型のAI」を導入している。

「推奨発注数の提案が、どのようなリコメンデーションによってなされたのかがわからないと、お店の方たちは安心して発注ができない。その点、ホワイトボックス型のAIは理由を合わせて提示するので理解しやすい」(江村氏)

推奨発注数だけが提示されるのではなく、どのような理由によってその数量が決まったのか、影響度の強い因子を発注端末にチャートで示すようにした。たとえば、梅おにぎりの推奨発注数が通常よりもプラスとなった場合、割引の「キャンペーン」と前日との「気温差」、さらにテレビ番組で放映された「梅特集」による「CM/メディア」といった影響項目を説明とともに示すようにした。

こうしたAIの援助により、発注数を決定するのは、あくまで店の発注者であるが、発注時間の短縮化が図れるようにした。

「お店の方たちが、短い時間で、的確な発注ができるようにAIがアシストし、品切れによる機会ロスや、在庫過多による廃棄ロスの削減に貢献したい。環境に優しく、作業生産性が上がる環境を提供する」(江村氏)

AIによる推奨発注提案のサンプル画面。なぜ、その発注数を推奨するのか、チャートで理由を説明して発注者が理解できる内容にしている

AI化が、どれだけ進んでも新商品は店長の意思で発注

店舗の発注業務に対して、AIがどの程度貢献するのかは明確にされていない。30店舗で実験を始めて7ヵ月になり(2018年12月現在)、「まだまだ、いろいろと難しい問題がある」と古屋氏はいう。

発注精度に期待も懸けられるが、原則として発注は店長の意思で行うもの。その意思決定の時間を短くすることによって、店長がお客対応に確保できる時間をつくることが実証実験の目的になる。ポイントは作業時間を短くすることだ。

省力型店舗は、人が本来、行うべき仕事を、機械が取って替わるのではなくて、人が意思決定を早くできるように、あくまでサジェスチョンをするだけという位置付けである。

AIが必要とするデータは、(30店舗の実証実験では)過去にどのような天気で、どのような気温だったのか、その条件でいくつ売れたのかは、店舗システムとして、自動的にデータを取っているので、店長の仕事が余計に増えるわけではない。

店舗周辺のイベントなどは個別に入力している。どの水準まで入れるかは店長の考え方になる。たとえば、7月第4週の土日曜は町内の夏祭りといった情報は個店の仕事になる。

新店舗については、たとえば、ロードサイドや住宅立地、ビルイン店舗など、カテゴリー分けしたデータを使うこともできるし、あるいは、エリアにある店舗の平均点からスタートさせて、店のデータが蓄積されてきたらカスタマイズするなど方法はいくつかある。

現状の実験は、過去の実績データが取れる店舗にて実施しているので、まったくの新店舗については推奨発注をしていない。

新商品の推奨発注提案については、NECの説明によると技術的には可能であるという。しかし、店長の意思決定をいかに援助するかが目的であり、新商品に関しては、まさに店長裁量の世界に入ってくる。新商品の発注は、店長が自らの意思で、おもい切って発注することが主題だという。

ただし、初日、2日目、3日目と、データが蓄積されていくほど、AIの提案は正確な値に収束していくので、どこかの段階で推奨発注数を参考にすることになる。

マイクロマーケット店舗で狭小商圏をさらに深掘り

新たなテクノロジーによる省人化の第二は「設備の稼働管理」。

店舗の運営を安全・安心に実現することが目的である。コーヒーマシンや冷蔵設備の掃除やメンテナンスなど、店舗設備情報をIoTにより収集し、故障の事前処置や速やかな復旧を施すことで「止まらない店舗」の実現を目指す。

従業員にとって身近なところでは、設備の稼働にIoTの力を借りて、最適な状況でコーヒーが提供される環境を支援している。コーヒーマシンのフィルターを適切に替えるタイミングを、IoTの設備管理から従業員に伝えている。それによりオペレーションが的確にできるので、コーヒーマシンに意識をあまり向けなくてよくなり、接客に重点を置くことができる。

また、冷蔵設備のメンテナンスなどは専門会社に委託する場合もある。その設備の保守を支える仕組みをつくり、店の運営を効率化することができる。たとえば、冷蔵設備に故障が生じた場合、店の従業員は冷蔵設備のどこに不具合があるのか詳細を報告するのが難しい。IoTの力を借りれば、具体的な修理箇所を関係各所に対して速やかに共有することができる。

省人化の第三は「映像解析によるエリアの管理」。店内画像を使用して、混雑状況や商品の欠品など店内の状況を可視化することで従業員の業務効率化に貢献する。安全・安心という意味では、侵入禁止エリアの検知機能により、不審な状況が起きたときへの対処が即時にできる。従業員が接客に時間を使用できる環境を支援する。

今回の「三田国際ビル20F店」は最新ITに目を奪われがちになるが、店舗展開においては、セブン-イレブンとしてマイクロマーケットへの初の本格出店になる。

実は今回に先駆けて、2014年12月に東京・四ツ谷の本社ビル7階に「7&i本社ビル店」をオープンしている。既に同じ本社下に外部の人間も利用できる「千代田二番町店」を営業しており、どの程度の影響があるのか注目していた。

7階の店舗がオープンする前の本社下店舗の売上指数を100とすると、4年後の2017年度は、本社下店舗の売上は指数84まで下がった。一方の7階の店舗は初年度の指数53から指数78まで上がった。両店の合計は指数162まで売上を拡大している。

本社ビルにはグループの社員3,000人が働いており、上層階の従業員が本社下の店舗まで下りて気軽に買物することが時間的に困難という実態があった。買物を諦めていた人たちの利用をマイクロマーケットの店舗が取り込んだ形になる。

「マイクロマーケットの出店は、どんどん拡大していきたい。鉄道、病院、工場などへ出店していく。そのテストとしては、今回の店舗は、素晴らしいスタートができたと期待している」(古屋氏)

顔認証は現段階では企業内店舗への出店のみと課題を残したが、最新テクノロジーを用いて、狭小商圏を、さらに深掘りしていく考えである。

バックルームを除く売場面積26㎡は、セブン-イレブンの最小店舗になった。通常店舗は170㎡
コンビニが社内にあり、しかも多くの移動時間を必要としないフロアへの出店により働きやすい環境に注力する