実験の主目的は「新規客獲得」と「コンビニ離脱層の取り込み」
コンビニ業界は既存店の客数減が止まらず改革、改善が迫られている。大手3チェーンは近年、夕夜間の強化を打ち出し、具体的には夕飯の食卓に上がる商品を拡充している。顧客の中心を若年層から、共働き世帯、高齢者へのシフトを図るが時間を要するであろう。
客数対策は、さまざまなアプローチを必要とし、今年6月1日にオープンしたファミリーマートとドン・キホーテの共同実験店舗「ファミリーマート立川南通り店」(東京・立川市)も客数対策を強く意識している。ファミマのグループ会社、ユニーとドンキは昨年、資本・提携を締結しており、店づくりのノウハウ共有がグループ内で図られている。今回の実験店舗もその一環であり、同日オープンの「大鳥神社前店」(東京・目黒区)、6月29日オープンの「世田谷鎌田三丁目店」(東京・世田谷区)の計3店舗で当面は実験を継続させる。
実験店舗は、いずれもファミマ直営店を改装したもので、立川南通り店を例に挙げると、改装前のファミマの商品3,400アイテムを、改装後にファミマを2,200アイテムに縮小、新たにドンキ2,800アイテムを加えて計5,000アイテムに拡大(147%)したものだ。
ファミマ側の開発担当責任者である営業本部ライン運営事業部の今木誠 部長は実験の狙いを次のように語った。
「(ドンキの商品を取り入れることで)いかなる化学反応が起きるのか、どういうふうに変わっていけるのかを実験していきたい。来店客が伸び悩んでいる、コンビニ全体の問題である。これを打破するためには、新しい商品や、新しい陳列方法によって、今まで来店していただけなかったお客様、コンビニから離れてしまった客層の集客を主目的に実験していく」
実験により取り入れるべき成果を挙げれば、既存の1万7,000店に波及させたい意向である。
売り方と売場の変更は「立川南通り店」の場合、大きくは次の6点だ。
(1)店頭カートによる商品販売(紙製品、カップ麺、軽衣料など約10台)
(2)円筒型投げ込み什器による商品陳列(菓子を中心に約30台)
(3)天井からの吊り下げ陳列(主に珍味)
(4)「オススメ商品」売場の新設(ゴンドラ3台)
(5)レジ前にお薦め商品の陳列スペースを新設
(6)ゴンドラの高さを改装前より200mm上げて1,800mmに(大鳥神社前店は2,100mm)
什器が高く、それに比して通路幅が狭く、圧迫感はあるものの、既存のコンビニでは見掛けないカテゴリー(ゲーム用品)や商品が品揃えされており、売場を回遊する楽しさを付加することには成功しているようである。
低回転、重在庫で利益を出せるのか?
ファミマにとって、この店がかなり“挑戦的な”試みであることは否めない。
コンビニの商圏設定は首都圏であれば1,500人程度といわれている。ドンキの商品を投入することで基礎商圏を深堀りするのか、商圏拡大を図るのか、その両方なのか問われるのだが、客層の男女比「6対4」を「5対5」に持って行く狙いはよしとしても、広域からの集客を積極的に図るとすればリスクを背負うことになる。それは在庫リスクである。
商品アイテム数は約1.5倍程度であるが、ドンキの高額商品導入や陳列手法などにより、在庫金額はそれ以上に膨らんでいると推測される。コンビニの在庫は1店当たり700万円程度(売価)、今回の実験店は、その2倍近くになるだろう。ドンキの店舗はチェーンストア企業の中でも回転率が低い。高回転のコンビニと低回転のドンキが融合すれば、ファミマ側にとってオペレーションは困難であり、加盟店への波及は慎重にならざるを得ない。
「在庫の管理をどうするのか、利益にどうつなげていくかは、これからの実験の中で検証していきたい」と担当の今木氏も、その点は課題であると認めている。
ドンキの内情に詳しい関係者は次のように語る。
「ドンキは低回転で重在庫、そこがアキレス健だが、だからこそドンキの魅力を発揮できる。ABC商品のAは黙っていても売れていく。むしろCを偏愛して、担当者が単品“拡販”するところに強さがある。当然Cの商品は有利な仕入れができるから利益率も高い」
コンビニは加盟店ビジネスを前提にしている。センスや能力に関係なく、きちんと手順を踏めば儲かる仕組みを提供することが責務であろう。ドンキが得意とする、単品拡販と売り切るチカラ、これを誰でも出来るオペレーションに落とし込んでいくかは、逆にコンビニチェーンが培ってきたノウハウに掛かっている。