「資生堂」と世界最大のDgS「ワトソンズ」が業務提携

資生堂が世界最大のドラッグストア(DgS)チェーン「ワトソンズ」と業務提携し、アジア圏での市場拡大を目指すそうです。プレスリリースによると、「資生堂の研究開発力およびブランド力と、ワトソンズの保有する小売ネットワークと消費者インサイトデータを融合させることにより、日本への興味や関心をさらに喚起させ、アジアを中心とするお客さまに適した商品とサービスを提供していきます」とあります。この背景にある時代の動きを解説します。

店頭起点でブランドを育成する時代へ

従来のメーカーと小売業の関係は、これまでリベートや価格などの「条件交渉」に終始していました。しかし、今回の資生堂の決断は、これからのメーカーは小売業と戦略的に提携し、消費者の購買データなどを分析し、店頭起点でブランドを育成することが重要になっていることを示唆しています。

ワトソンズは、1841年に香港で設立されたDgSです。現在、25か国で約1万5,000店をチェーン展開しています。店舗とECサイトを合わせた年間の総客数は52億人にものぼるそうです。

現在、資生堂は10ブランドを超える商品をワトソンズで販売しています。今回の提携によって資生堂は、ワトソンズの顧客データ、購買データなどのメーカーでは入手できない「顧客接点」のデータを分析し、メーカーとしてのマーケティング、ブランド育成、新たな商品開発につなげる計画です。

現在、メーカーの「マーケティング費用」の大半は「マス広告」に使われています。しかし、マス広告の効果が低下していく時代において、ワトソンズのような大規模チェーンストアと戦略的に提携することで、店頭起点にブランドを育成することは、これからのメーカーにとって重要なマーケティング戦略の転換です。

膨大な購買データが消費者理解のための情報の宝庫に

また、マーケティングの最大の目的が、「消費者のことを理解すること」であれば、ワトソンズの1万5,000店の店舗網、ECサイトも含めると年間52億人にものぼる顧客の購買データは、消費者理解のための情報の宝庫です。こうしたデータを分析することで、新たな新商品の開発につなげることができれば、メーカーのマーケティングのやり方が変わっていく可能性があります。

小売業側も、「POSデータを販売して儲ける」という旧来の発想から脱却し、顧客接点のデータをメーカーに積極的に開示し、メーカーのマーケティングの高度化に活用してもらった方が、長期的には小売業側にもメリットがあると思います。

しかも、新商品が100%ワトソンズの店頭に陳列されることも、小売チェーンと提携するメーカー側のメリットです。

ワトソンズ(小売業側)の最大のメリットは、資生堂との共同開発商品(専売品)を販売できることです。ワトソンズと資生堂は、敏感肌向けのスキンケアブランド「dプログラム」の「アーバンダメージケア」を共同開発し、2018年10月からタイと台湾で販売し、今年7月からは中国全土で販売する予定となっています。

現在、リアル小売業の最大の経営課題は、「アマゾンと差別化すること」です。その対策のひとつが、「アマゾンで販売していないオリジナル商品」を増やすことです。オリジナル商品は、(1)PB(プライベートブランド)、(2)ストアブランド(SB)、(3)専売品の3種類に分けることができます。

PBは、小売業が仕様書まで書いて自主開発する商品です。SBは、メーカーが小売業のブランド名の商品をOEMで供給するものです。「ダブルチョップ」と呼ばれることもあります。

そして、資生堂のような大手メーカーと小売業が戦略的に提携する場合には、その小売業だけで販売する「専売品」を共同開発することが、小売業の最大のメリットです。「専売品」を販売することで、競合他社やアマゾンとも差別化できます。

小売業が「専売品」を共同開発する場合に重要なことは、「店頭実現力」と「売り切る力」を高めることです。店頭で売場づくりを100%実行し、そして、その状態を維持することも、専売品の育成には不可欠です。また、ID-POSデータや、来店客の購買行動データなどを共同で分析し、「売り方」を開発し、店頭起点でブランドを育成し、売り切る力をもつことも重要です。

しかし、もっとも重要なことは、小売業とメーカーの「信頼関係」です。売れなかったら専売品も返品するような小売業とは、メーカーも組みたがらないでしょうね。

需要予測の高度化によって在庫と返品を削減する

PALTACの物流技術を担う三木田雅和氏が新しい中間流通業のあり方を提言する連載。第2回目は卸売業の技術の肝となる「需要予測」についてその必要性と目指すところを語ります。

理想は在庫ゼロという状態である

需要予測は卸売業の肝となる技術であり、今後ますます磨いていくべき部分です。弊社では、小売業さんと商品情報を共有化し、当社独自のシステムで販売傾向、需要予測に基づく適正在庫および発注サイクルの最適化を行っています。

需要予測の精度を高めることにはさまざまな効果がありますが、「在庫の削減」と「返品の削減」は中でも重要な課題です。

まず在庫の削減です。我々卸売業は、在庫が多ければ多いほど、大きな物流センターが必要になり、効率も落ちます。「在庫ゼロ」が究極の理想形ではありますが、さすがにそれは不可能です。ですから在庫は少なければ少ないほどいいと考えています。しかし、いつどんな発注が来るのか予測できないと、在庫を多く持たざるを得ません。正確な需要予測を行うことができるようになれば、在庫数をぐっと減らすことができるでしょう。資金繰りも楽になります。

サプライチェーン全体の無駄を無くす

在庫削減によるメリットは、卸売業だけが享受するものではありません。

小売業さんは、欠品による機会損失を無くしたいと、なるべく多めに在庫を持とうとします。メーカーさんはメーカーさんで、卸からいつ発注が来るかわかりませんから、こちらも在庫を持とうとします。つまり、卸、小売、メーカー、それぞれが在庫を持っていることでサプライチェーン全体で非常に大きな無駄が発生しているのです。ですから、それぞれの在庫を減らすことができれば、高効率な経営ができるはずです。

また、小売業さんは、なるべくバックヤードの面積を減らして売場面積を増やしたいとお考えです。しかし在庫をたくさん持とうとすると、どうしてもバックヤードの面積を広くとる必要が出てきます。店舗が持つべき在庫を減らすことができれば、バックヤードに割く面積もぐっと減らし、その分売場面積にあてることができます。

このように、在庫の削減は、小売業さん、メーカーさん、卸の三者にとって非常にメリットが大きいのです。

もう一つ需要予測を突き詰めることで得られる大きなメリットが、返品の削減です。

小売業さんは、欠品による機会損失をなくすために、在庫を多く持たざるを得ず、結果、返品が多くなってしまいます。小売業さんからの返品は、われわれ卸売業を通過してメーカーに戻ります。この返品の量は驚くほど膨大です。

返品を減らすことができれば、製配販すべてにおいて余分なコストをおさえられ、消費者の方もより安く、より良い品を購入できるようになるでしょう。

ですから私たちは適切な需要予測をすることで、返品を減らすことに挑戦していきたいと考えています。

新たな需要予測モデル導入への挑戦

これまで弊社では「移動平均モデル」という世間一般で広く使われている方法をさらに弊社向けにチューニングした需要予測モデルを採用していました。しかし、人間が調整を行なっているのでどうしても限界があります。そこで全く違うモデルを採用して需要予測の自動化を行うことができないか研究をしています。

今私たちが研究しているのが、「自己回帰モデル」です。

「移動平均モデル」は簡単に言うと、過去の売上の推移の平均を算出して将来を予測する手法です。

一方「自己回帰モデル」は、説明が難しいのですが、現在の状態と未来の状態との間に、何かしらの関係性があると考えて、その関係性の過程を、過去の状態にさかのぼって(これを「回帰する」と言います)、過去・現在・未来の相関関係を数式で表しましょうというものです。

別の言い方をすると、移動平均モデルは、単純にデータをざっくりとした直線に落とし込んで、未来は過去から現在までに引いた直線の延長線上になると考えます。一方の自己回帰モデルは点と点の相関関係を数式で表します。

移動平均モデルだけですと、たとえば過去6週間のデータについて適用すると、普段は適切に予測できるのですが、突発的に起こった事象に対して適切な対応をすることが難しいという課題がありました。一方の自己回帰モデルは、過去のデータそのものを使うわけではないので、突発的な事象にも対応できるという利点があります。

ですが、過去のデータをつかわない自己回帰モデルだけではなかなか予測が難しいので、両者のおいしいところを組み合わせて、需要予測を行おうと考えています。(ちなみにこれを、自己回帰移動平均モデルといいます)

今までの移動平均モデルでは、カテゴリーによって精度が異なってきてしまうため、人間が手作業でパラメーターの調整を行ってきました。これを人間の手を介さず、チューニング無しで運用するために、コンピュータが自動的に予測をするモデルを作っていきたいと考えています。

もともと私は自動車メーカーでロボット開発のエンジニアをしていました。そこで人との混在環境でロボットを歩行させる研究の中で、人の動きを予測するため自己回帰移動平均モデルを活用していたのです。PALTACに転職したときに、需要予測に移動平均モデルを使っていると聞き、ならば自己回帰モデルを加えたほうがより精度が高くなるのではと考え、自己回帰移動平均モデルの研究をスタートさせました。

研究して日が浅いのですが、現時点で従来モデルと遜色ない精度を実現しています。今後数年かけてより精度を高くし、小売店さんにご提供することで、サプライチェーン全体に価値を提供していきたいと思っています。

(談・文責/編集部)

MD NEXT「小売業・次世代経営幹部のための デジタルシフトワークショップ」開講のお知らせ

ニュー・フォーマット研究所では、この度デジタルシフトを実現したいと考えながらも、どこから手をつければいいのか悩んでいる小売業の経営幹部の方に向け、企業のIT化の最前線で活躍する実務家・コンサルタントの方によるワークショップを開催することといたしました。最新情報にキャッチアップし、自社の立ち位置を俯瞰して確認する機会を提供するとともに、参加者による相互サポートを実現していきます。

■対象企業

・デジタルシフトを担うIT人材を育成したいと考える小売業様
・小売業のデジタル化の最新動向について関心がある卸売業様、メーカー様
※業務部門の方と情報システム部門の方、ペアでのご参加をおすすめしています。

■実施概要

・日程:2019年7月11日(木)
8月22日(木)
9月12日(木)
10月10日(木)
・時間:開場 13時30分/セミナー14時~17時30分/懇親会18時~20時(参加は任意)
・会場:Showcase gig会議室(青山一丁目駅直結)
東京都港区北青山1-2-3 青山ビル7階
※参加人数により会場は変更になる場合がございます
※懇親会会場は参加者に別途お伝えいたします
・募集定員:20名(最少催行人数 10名)
・参加費:20万円/1名(全4回)

■講師陣とテーマ

※テーマは変更になる可能性があります。

・第1回目 7月11日(木)
開場13:30/セミナー 14:00-17:30/懇親会 18:00

「デジタルシフトと小売業における全体最適」 

オムニチャネルコンサルタント 逸見光次郎

1994年三省堂書店入社。以後、ソフトバンク、イー・ショッピング・ブックス社(現 セブンネットショッピング社)、アマゾンジャパン、イオンを経て、2011年キタムラに入社。執行役員 EC事業部長としてオムニチャネル化に尽力。その後オムニチャネルコンサルタントとして独立。

 

「パルコのデジタルシフトをどのように実現してきたのか?」 

パルコ 執行役 グループデジタル推進室担当 林直孝

パルコ入社後、全国の店舗、本部及びWeb事業を行う関連会社 株式会社パルコ・シティ(現 株式会社パルコデジタルマーケティング)を歴任。 店舗のICT活用やハウスカードとスマホアプリを連携した個客マーケティングを推進する「WEB/マーケティング部」等を担当。 2017年より、新設された「グループICT戦略室」でパルコグループ各事業のオムニチャル化、ICTを活用したビジネスマネジメント改革を推進。(2019年にグループデジタル推進室に組織名称変更)

・第2回目 8月22日(木)
開場13:30/セミナー 14:00-17:30/懇親会 18:00

「小売業におけるデータ分析の実践」 

統計家/データビークル 西内啓

東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年株式会社データビークルを創業。著書に『統計学が最強の学問である』、『統計学が日本を救う』(中央公論新社)などがある。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)アドバイザー。

「世界のリテールITの現状と国内モバイルオーダーの未来」 

Showcase Gig新田剛史

上智大学卒業後、東京ガールズコレクション・プロデューサーとして数々のプロジェクトを手掛ける。2009年、株式会社ミクシィ入社。SNSを活用した新たなマーケティングの企画を実施。コンビニエンスストアと連携した数々のO2Oキャンペーンにおいて、オンラインから店頭への集客を成功させた。2012年、企業のオムニチャネル化を支援する株式会社Showcase Gig設立。

・第3回目 9月12日(木)
開場13:30/セミナー 14:00-17:30/懇親会 18:00

デジタルシフトのための組織作り」 

デジタルシフトウェーブ 鈴木康弘

1987年富士通入社。その後、ソフトバンクを経て、ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立。2006年同社がセブン&アイHLDGS.グループ参加に入り、2014年同社執行役員CIOに就任。グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施。著書に「アマゾンエフェクト!」(プレジデント社)がある。

(1枠調整中)

・第4回目 10月10日(木)
開場13:30/セミナー 14:00-17:30/懇親会 18:00

「ヘルス&ビューティー業態のデジタルシフトの実態」 

店舗のICT活用研究所 郡司昇

店舗のICT活用研究所代表。薬剤師。前職ココカラファインにおいてM&Aに伴う各種プロジェクトに関与した後、マーケティングとEC事業の責任者としてグループ統合マーケティング戦略を立案・実行。現在は主に(1)IT企業のCRM、位置情報、画像AI解析などの小売業活用(2)事業会社のEC・オムニチャネル改善についてコンサルティング活動中。

(1枠調整中)

■お申込みにつきまして

・お申込みは以下のお申込書にご記入の上、申込みメールアドレスまでメールにて送付ください。
・お申込み締め切り:2019年7月1日(月)

※申込書到着後、請求書を発送させていただきます。
※ご入金後、理由の如何に関わらず、返金は致しません。あらかじめご了承ください。
※恐れ入りますが、定員を越えた場合は締め切らせていただきます。お早めにお申し込みください。

■参加に際して

・全4回すべて同じ方に受講いただきます。
・演習を予定していますのでwifiに接続できるノートPCをご持参ください。
・双方向型のワークショップを目指しております。参加者の方には、積極的な発言、発表をお願いいたします。
・事前にレポートをご提出いただきます。また事後にレポートを提出いただくこともございます。

トモズ、調剤オペレーション自動化の実証実験を開始

住友商事株式会社は、2019年2月から調剤併設ドラッグストア「トモズ」の松戸新田店にて、調剤業務の効率化に向けた調剤オペレーション自動化の実証実験を開始した。シロップ・粉薬・軟膏など薬の形状に合わせた調剤機器のほか、複数の薬剤を一包ずつパックする「一包化」を行う機器を導入する。これらによって薬剤の調製・収集業務のうち9割を自動化・半自動化する。特定の薬に対応した機器を導入するだけではなく、大規模な自動化を図るのは国内初の試みだという。(ライター:森山和道)

調剤業務の効率化で対面業務をより長く

トモズは住友商事の事業会社で、首都圏を中心に174店舗(2019年3月末時点)を展開しているドラッグストアチェーンだ。

高齢化によって増大傾向にある社会保障費用の抑制と、生産年齢人口の減少による人手不足解消や後継者問題が社会課題となっている。人手不足問題は薬剤師を含む医療従事者や個人薬局も例外ではない。国民医療費は、2017年度の42.2兆円から2025年度には61兆円にまで拡大すると考えられており、調剤医療費も2017年度の7.7兆円から2025年度にかけて増大すると予想されている。

いっぽう政府は、持続可能な社会保障制度を確立するために「地域包括ケアシステム」を推進している。薬剤師に対しては、在宅医療の一端を担う存在として、患者への対面業務(服薬指導等)に従事することが期待されている。

これらの社会背景のもと、薬局においては、調剤業務の効率化が調剤サービスを維持・発展させていく上で必要不可欠なものとされているという。調製・収集業務の自動化によってバックヤードでの業務が効率化できれば、薬剤師は、より付加価値の高い、患者との対面業務に注力できるようになる。

今回実証実験の場所となったトモズ松戸新田店は、新京成線の松戸新田駅から徒歩およそ5分程度の商業施設「グリーンマークシティ松戸新田」の中にある。売場面積は約200坪、医薬品や化粧品のほか、日用雑貨、食品などを扱っている。

トモズ店内

扱っている処方箋枚数は月間 5,500枚。1日平均だと200枚弱。トモズの入っている建物の2Fには総合クリニックがあり、処方箋の8割はここから来る。残り2割は周辺地域からで、およそ240医療機関からの処方箋を受け付けている。薬剤師の人数は10名。臨時を入れると11-12名。

処方箋受け付け窓口

処方箋に基づいて医薬品の秤量、混合、分割等を行う作業を「調製」という。そして薬局での調剤業務は基本的に以下の手順で行われる。

1.患者から受付した処方箋を調剤事務がレセコン(レセプト・コンピューター。診療報酬明細書を作成するシステム)に入力する
2.レセコンから出力されたデータを薬剤師が確認しながら薬剤を実際に調製・収集する
3.薬剤師が鑑査(処方内容の確認と正しい薬が揃っているかどうかの最終確認)を行う
4.投薬カウンターで患者に薬剤を渡し、薬の説明や用法の確認等を行う

トモズにはもともとトーショーの調剤監査システムが導入されている。薬剤を調製・収集するときにはハンディ端末を用いて、患者一人ずつに必要な薬剤のバーコードをスキャンして確認し、整合性をとりながら調剤している。レセコンに入力されたデータは、各自動機にも飛んでいる。

今回の実証実験での自動化の対象は上記4手順のうち2の工程で、人が手で薬剤をピックアップしていた作業を自動化した。軟膏や貼り薬を除く、およそ9割の薬が機械からでてくるようになったという。なお一部の自動払出機の作業はレセコンに入れられた瞬間から自動で進められるが、最終鑑査は人間が行なっている。

端末、指示書
端末、指示書

合計7種類の自動化機械

では、実際に導入された機材を見ていこう。「トモズ」松戸新田店では、今回の自動化機器導入のため薬局待合スペースの一部を潰して調剤室のスペースを広げた。そして改装前から導入済だった薬剤払出支棚など3種類の機器に加え、今回新たに4種類の機器を追加し、合計7種類の機器を導入して、調製・収集の9割を自動化した。

薬剤には、粉薬や軟膏、シロップなどの種類があり、それぞれの形態に応じた自動化機械がある。

散薬調剤ロボット「DimeRoⅡ」

まずは散薬(粉薬)の調剤自動化からだ。散薬調剤ロボット「DimeRoⅡ」(株式会社湯山製作所)は、処方データを流すだけで薬品の選択、秤量、配分、分割、分包といった散薬秤量調剤を行うロボットシステムだ。複数の粉薬を処方に応じて混ぜて分包する機械である。

散薬調剤ロボット「DimeRoⅡ」

従来の散薬分包機は分包しか行えず、薬品の選択はもちろん、秤量も人が秤量皿を用いて計量し、混ぜていた。「DimeRoⅡ」の内部には粉薬を入れた散薬カセット(500cc)が30個内蔵されている。カセットにはRFIDが埋め込まれており、薬品認識に用いられている。カセット内部には常温で保存ができ、よく出る薬剤がセットされている。

処方データが「DimeRoⅡ」に流れて来ると、その指示に従って内蔵された水平多関節ロボットアームが動き出して散薬カセットを取り出し、装置下方にある円盤部分に横向きにセットする。そして振動を使って散薬を少しずつ「R円盤」に出していく。「R円盤」とは、もともと湯山製作所が開発した振動回転機構で、散薬を混ぜる自動分包機ではデファクトスタンダードになっている機材だ。一言で散薬といっても、パウダー状や細粒など様々な状態のものがあるが、いずれも問題なく撒けるようになっているという。

設置部分は天秤となっており、秤量しながら出せるようになっている。なおカセット保管部分も天秤になっていて、そこで再計量を行うことで秤量誤差をダブルチェックする仕組みだ。指定された散薬を全部出したら前述の「R円盤」を使って均等に薬剤を広げ、混ぜていく。カセット設置部は3つあり、一度に3薬品を円盤に撒ける。1処方では最大12種の薬品を混合分包することができるという。

こうして混ぜた薬を一回あたりの分量に合わせて自動分包する。朝昼晩に用量が異なるような複雑な分包にも対応している。

分包後には自動清掃することでコンタミネーションを防ぐ。一度に186包の大量分包が可能である一方で、1薬品あたり総量0.5gから払い出しできるため、子供向けの少量分包にも対応している。分包速度は50、45、40、35、23包/分の5段階から選択できる。

作業時間自体はベテランの薬剤師とあまり変わらないが、機械を使うと薬剤師の手が空く。そのぶん他の仕事ができる。

水剤定量分注機「LiQ」

小児科用として用いられることが多い液体の薬(水剤)については、水剤定量分注機「LiQ」(株式会社タカゾノ)を用いている。人手で行う場合は、2、3種類の薬品から薬剤師が測りとって瓶に入れていく。「LiQ」は投薬ボトルをセットし、スタートボタンを押すだけで、注出が完了する。水剤瓶は最大10本まで搭載できる。これも粉薬の自動機と同じで、複数の薬剤瓶から重量センサーで計測しながら正確な分注を行って注出を行う。

水剤定量分注機「LiQ」

医師は体重で用量を決めるので、必ずしも混ぜたときに入れる量が、ちょうどいい量になるとは限らない。その場合は精製水やシロップなどを入れて一回あたりを飲みやすいように調整する。それもワンボタンでやってくれる。また、薬剤のなかには事前に良く振って混ぜる必要があるものもあるが、その作業ももちろん行ってくれる。最後にプリントアウトされたシールをボトルに貼る。

全自動錠剤分包機「Xana-1360EU」

全自動錠剤分包機「Xana-1360EU」(株式会社トーショー)は、スライドキャビネットのなかに最大136種類の錠剤カセットを収納できる機械だ。なかには錠剤投入ホッパーと包装機も内蔵されており、レセコンからの指示に従って、患者ごとに異なる多剤一包化ができる。「一包化」とは、患者の服薬漏れを防ぐため、朝・昼・晩など服薬のタイミング毎に服用する複数の薬剤を一包ずつパックする作業である。特に薬の種類が多い高齢者向けには必須の機能だ。分包速度は最大で54包/分。カセットの誤挿入防止機構のほか、分包紙も容易に交換できるようになっているという。

全自動錠剤分包機「Xana-1360EU」
一包化された錠剤

錠剤一包化鑑査装置「MDM」

取材で見せてもらったケースでは、1包みあたり9種類の薬剤が入っていた。これがちゃんと全部入っているのか、それを鑑査するための機械もある。オランダ製の錠剤一包化鑑査装置「MDM」(販売代理店:トーショー)は、薬の束を入れると一包みずつ撮影し、錠剤の粒と形状から正しい薬が入っているかどうかをPC画面上でチェックできる機械だ。問題なければ緑色、錠剤が重なっていたり、立ってしまったりして判別が難しい場合は赤のチェックマークがつく。

錠剤一包化鑑査装置「MDM」
錠剤一包化鑑査装置「MDM」

エラーが出たものについてはクリックすると拡大表示され、同時にたとえば「6包目をよく見ろ」と指示されるので、それを薬剤師が肉眼で見てチェックを行う。どの薬がうまく認識できないかといったことも指示される。チェックのときにはエラー内容も一緒に記録し、なぜエラーが出たのかも記録していく。

錠剤一包化鑑査装置「MDM」

従来は全て肉眼で数えて、中の印字が合っているのかもチェックしていた。それと比べるとおよそ1/3から1/6程度と大幅に早くすむようになったという。「一包化は入力から終わるまで1時間くらいかかる作業。全部機械でやると10分から15分で行えるようになった。これが一番効果が高い」とのことで、特に量が多くなればなるほど時間短縮効果は高くなる。

なおデータは全てサーバの中に保存されるので、何か問題があった場合には遡ってチェックすることができる。日本国内では30-40台程度だが、既に北欧では数千台も販売されている機械で、多くの実績があるという。

PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」

これまで一台構成だったものを3台構成に増やしたのが、PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」(株式会社タカゾノ)だ。PTPシートとはPress Through Package、すなわち錠剤やカプセルなどを1錠ずつプラから押し出すタイプの包装のことである。内服計数調剤(手作業で薬を収集する作業)の多くを占める錠剤やカプセル剤を1錠単位まで端数カットして自動的に払い出すことができる。

通常、錠剤は10個で1シートになっている。それをシートと端数が最適な組み合わせになるように自動計算して、指定の個数に合わせて切り出すのである。

PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」
PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」

タッチパネルでスタートしたあともゴトゴトと音はするが、動作している様子自体は外からは見えない。だが一分少々待つと、きれいにシートがカットされた薬剤が、処方どおり1錠単位で正確に払い出されて、トレイに入った状態で出て来た。何が払い出されたのかという情報を記したプリントアウトも一緒だ。

PTPシート全自動薬剤払出機「Tiara」

残った端数の薬剤個数ももちろん記憶されており、次に端数が発生するときに使用される。まれにシートに傷がつく場合もあるが、「Tiara」は他店でも既に使われており、大きなトラブルはないとのこと。

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」(株式会社トーショー)は、この「Tiara」に入らない薬に用いる自動調剤棚だ。もともと、多くの薬剤から、目的の商品を、指定された数量ずつ取り出すのは大変な作業だ。今日ではジェネリック医薬品の増加もあって、類似した医薬品名の薬がさらに増えている。

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」

自動調剤棚は薬の取り間違いによるヒューマンエラーを減らすことができる機材で、データに応じて、取るべき薬が入った引き出しが点灯して自動で開くので、人はそこから薬剤を取り出せばいい。具体的にはヒート包装(散剤や顆粒剤に用いられる、ラミネートフィルムの袋をヒートシールしたタイプの包装。SP包装)された薬などを、この棚で扱っている。

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」

スタートを押すと機械が「4下」といったかたちで、どの棚のどこにあるのかという大雑把な情報を声で教える。指示された棚を見ると、指定されている薬剤が入った引き出しがLEDで点灯されていると同時に、ロックが開いて少しだけ出ているので、薬剤を取って閉じる。するとすかさず「5上」と次に探すべき薬剤の場所を教える。最後まで取ると「完了しました」と指示されて、患者一人分の薬を取り終わったことがわかる。

薬剤払出支援調剤棚「Mille Shelf」

自転・公転ミキサー「なんこう練太郎」

このほか、軟膏を混ぜる自転・公転ミキサー「なんこう練太郎」(株式会社シンキー)も用いてる。軟膏が処方された場合、複数の薬剤をこれまでは手で混ぜていた。この作業には20分くらいの時間が必要だった。だが猛烈な回転で軟膏を混ぜる自動機械を用いることで、わずか30秒で済むようになった。

自転・公転ミキサー「なんこう練太郎」

患者と喋る時間が増え、やりがいが増した

今回の自動化によって「トモズ」松戸新田店では9割の薬の払い出しが自動化された。6割が「Tiara」、3割が「Mille」から出て来るという。残り1割は漢方薬や貼り薬、また半年に1度くらいしか出ない使用頻度の低い薬剤だ。機材の大きさや調剤室の広さなどの物理的な問題から考えても、自動化については、このあたりが現実的なところなのではないかと考えていると株式会社トモズ取締役薬剤部・在宅推進室分掌役員の山口義之氏は語る。

「調剤は、物販とちがって我々が薬を選べません。全部機械化するのは物理的にも経済的にも無理があるので、使用実績を見ながら機械をそろえていった結果、このくらいが一番妥当なところかと思ってます」(山口氏)。

トモズ松戸新田店に追加した機材は、散薬調剤ロボット「DimeRoⅡ」、水剤定量分注機「LiQ」、錠剤一包化鑑査装置「MDM」、薬剤払出支援調剤棚「Mille
Shelf」だ。「Tiara」や「DimeRoⅡ」、「MDM」などは他店でも導入されている事例はあるが、全部をまとめて入れたのは松戸新田店が初めてだ。

なお今回の自動化実証実験に伴い、レセコンに入力したデータをどの機械に回すのかを指示するシステムについては新しく作り込んだ。いまのところ、うまく制御できているし、人のオペレーションもうまくいっているという。

「2月頭に機械を入れて、一ヶ月は機器の安定稼働を目的にオペレーションしている段階ですので、今はオペレーションは変えてません。ただ、残業は減っているとは聞いています。花粉が飛び始めて処方箋枚数が増えている今の時期(取材は3月半ば)でも、待ち時間は15分程度に収まっていて、残業も減っているので、効果は出ているのかなと思います」。(山口氏)

株式会社トモズ取締役 薬剤部・在宅推進室分掌役員 山口義之氏

現場の意見も伺ってみた。薬剤師になって二年目の木村俊介氏は、最初は「機械に薬を充填する作業のような新しい仕事が増えたので、戸惑いはあった」そうだ。しかしほどなく馴れると「薬剤を集める時間を、患者さんと喋る時間に還元できるようになりました。仕事としても、人と喋る時間が増えて、『薬剤師やってるな!』という気持ちになれるようになってきました。調剤室での作業時間が長いとどうしても自分も機械のようになってしまうところがあるので、患者さんと喋ることでやりがいを感じられます」と非常にポジティブな意見を語ってくれた。

自動化はバランスを見ながら、在宅調剤へも対応

今回はあくまで将来にさらに人手不足が進んだ時代を見据えて、医療の質を維持しながらどこまで最小限の人数で今と同じサービスレベルを維持して運用できるのかを検証するための実証実験であり、経済的なメリットやコスト優先で導入したものではない。だが既に今も、人手不足感は常にあるという。

ただし、どこまでも機械化できるかというとそうでははない。前述のとおり調剤室が広くない薬局には機械を入れるのは難しいし、入れてもペイできるだけの処方箋枚数があるかどうかといった課題も当然ある。そのため、全店での機械化は現実的には難しいという。

機械化に向くかどうかは処方箋枚数だけではなく単価にもよる。処方箋単価が低いと、一回に出る処方の量が少ないので機械にフィットしやすい。しかし処方人数が増えて来ると、今度は機械への補充が大変になってくる。バランスが重要だ。一年半を予定している実証実験のあとも、機材はそのまま運用予定だ。単なる概念実証ではないということだろう。

トモズではこの実験を通じて、分包センター(各地域の薬局からの依頼を受け、手間のかかる一包化調剤を大規模な機器で効率的に行い、一包化した薬剤を薬局や介護施設等へ配送を実施するセンター)をはじめとした欧米諸国の新たな事業モデルに対応できるよう知見を集積していくとしている。

視野に入れているのは増大しつつある在宅調剤への対応だ。トモズでは基本的に患者のニーズや地域のケアマネージャーからの依頼に応えていただけだったが、それでも在宅ニーズは増大しており、2017年4月には在宅推進室を設けて在宅調剤への対応を全店で始めた。だが今までと同じ作業をしていると在宅への需要に応えられない。そういう面でも機械化は必要だと考えているという。

[解説]平成最後の大ニュース。マツキヨHD・ココカラファインが資本業務提携に関する検討と協議を開始

平成最後の金曜日、2019年4月26日にドラッグストア(DgS)業界をゆるがすニュースが飛び込んできました。業界第4位のマツモトキヨシHD(以下マツキヨHD)と、同7位のココカラファインが資本業務提携に関する検討と協議を開始したというのです。取材活動から見えてきた、この2社の共通点について解説します。(編集部)

2社から発表されたプレスリリースをまとめると

・地域のお客様の健康と美容の増進、生活の充実に最大の価値を置くという共通の理念を持っている
・都市および都市周辺部に多くの店舗を展開するという共通の特徴を有している
・店舗の展開エリアを相互に補完できる関係にある

ということから、

・互いの各種リソースやインフラ、ノウハウなどの経営資源を相互に活用することにより、さらなる発展を目指す

ことにした、ということです。

発表によると、2019年度上期中の合意と最終契約の締結を目指していくとしています。

マツキヨHDは2018年度売上高約5,588億円(2018年3月期)で、店舗数1,654(2019年3月末現在)。一方のココカラファインは同売上高約3,909億円(2018年3月期)、店舗数1,354(2019年3月末現在)。

2018年決算によれば、マツキヨHDは売上高ランキング4位、ココカラファインは7位でしたが、もしこの資本業務提携が現実のものになれば、単純に売上高をプラスしても9,500億円となり、日本のドラッグストアグループとしては最大級の規模になります。

ウエルシア、ツルハ…トップ企業は2,000店、売上高7,000億円も視野に入るDgSチェーン

なぜこの2社が提携を検討することになったのでしょうか。3つのポイントがあったと本誌では予測しています。

①「都心・住宅地」「関東・関西」で展開エリアがすみわけられている

マツキヨHDはオフィス街をはじめとする都心の店舗の強さが特徴です。一方ココカラファインは、都市を含む4種の立地パターンを持っていますが、以下の塚本厚志社長のインタビューにもあるように、なかでも住宅地に強いという特徴があります。

──ココカラファインは、都市、商店街、住宅地、郊外の4つの立地パターンがありますね。

塚本 おおよそですが、都市型が170店、商店街型が320店、住宅地型が400店、あと郊外型が210店という構成(2018年12月現在)で、ココカラファインは「住宅地」に立地する店舗が一番多いのが特徴です。

「おもてなしスマートストア」を目指すココカラファイン~塚本厚志社長インタビュー~

また出店地域も、マツモトキヨシが1,654店舗中約900店を関東に出店しているのに対し、ココカラファインは関西の出店が厚いことからも、出店エリアのすみわけは容易にできそうです。

②売上構成比率が似ていて商品政策が近い

マツキヨHDとココカラファインは売上高構成比が似ているのも特徴です。

2018年決算を見てみると、医薬品はマツキヨHDが31.9%、ココカラファインが33.9%、化粧品がマツキヨHDが40.5%、ココカラファインが29.8%となっています。食品の取り扱いはマツキヨHDが9.7%、ココカラファインが11.0%とどちらも10%前後でそれほど積極的ではありません。

商品政策が似ていることから、共同でPBを開発する際の戦略立案の際に方向性を決めやすいのではないかと想像できます。

食品構成比率60%に近づくGenky。部門別売上高構成比に見るDgS企業の営業戦略

③ともに攻めのIT投資を行っている企業である

マツモトキヨシは売上・顧客データ分析に基づく売場作りや、マツキヨアプリを使った顧客獲得施策、ワントゥワンマーケテイングに接客的に取り組んでいることで知られています。同社のポイントカード会員、LINEの友だち、公式アプリのダウンロード数を合計したグループ会員数は、延べ5,100万人超(2017年9月末現在)まで拡大しています。

またココカラファインもクラブカードの会員が700万人を超え、カード会員に「ココカラアプリ」を利用してもらう活動を進めている途中です。

このように両社とも、DgS業界の中においては、攻めのIT投資を行っている企業ということができるでしょう。双方の会員データを集約することで、相当大規模なデータ基盤ができるのではないかと考えられます。

以上のことから、この2社の提携に関しては、オペレーションレベルは同水準にありつつ、立地・出店の面ではすみわけができており、提携における相当なシナジー効果が得られるのではないかと本誌では予測しています。

[PR]ミヨシ石鹸、旗艦商品の詰め替え用ボトルを大幅刷新

ミヨシ石鹸は2019年3月に液体洗濯せっけん「そよ風 液体せっけん」と肌にも繊維にもやさしい液体せっけん「お肌のためのせっけん」の本体ボトルを大幅にリニューアルした。20代〜30代女性の生活行動の変化を汲み取り、先鋭的ともいえるらせん型の真っ白なバイオプラスチックのボトルを採用したのが特徴だ。

20~30代女性の間で詰め替え用ボトルが人気の理由

ホームセンターや100円ショップ、雑貨ショップなどで購入したシンプルな詰め替え用ボトルに、シャンプーやリンス、ボディーソープ、液体洗濯洗剤などの詰め替え用を入れて使用する20代~30代の女性が増えている。インスタグラムやインテリア共有サイトで「#洗剤ボトル」と検索してみると、思い思いのラベルやペイントでオリジナリティーを出した白いボトルの写真を何枚も見つけることができる。

自社の商品を少しでも店頭で目立たせようと、日用品メーカーはパッケージデザインに知恵を絞る。赤や青の原色を使った派手な見た目と商品ロゴ。自社の世界観を強く主張するデザインは、店頭でのプレゼンテーションに効を奏しても、いざ自宅に持ち帰り実際に使用しようとすると存在感が強すぎて、ランドリーコーナーのインテリアの統一を損なってしまう。真っ白な詰め替え用ボトルが人気となっている背景には、そういったメーカーのエゴともとれる派手なパッケージに対する消費者のNoが突きつけられていると言える。

この春ミヨシ石鹸が打ち出した新商品のパッケージリニューアルは、そんな時代の声を汲み取ったような、斬新なデザインだ。

らせん状の真っ白なボトル。首からかけられた商品名のタグを取ると商品名すら記載されておらず、白や生成りのタオルが積まれたランドリーコーナーにもよく調和する。

購入したお客様は、市販のラベルシールで自由にデコレーションしてもいいし、ペンを使ってオリジナルのペイントをすることもできる。

新規客層の取り込みを目指す

今回のパッケージリニューアルについて、ミヨシ石鹸取締役営業本部長の中野浩之さんはこう語る。

「当社の洗濯洗剤は、詰め替え用の売上は横ばいを維持しているものの、ボトルの売上は下降傾向で、てこ入れの必要性を感じていました。そこでボトルのリニューアルを企画したのですが、ただリニューアルしただけでは効果は得られないと考えたのです」。

そこで着目したのが、詰め替え用ボトルを思い思いに装飾して使うという顧客行動の変化だ。そして、そこからたどり着いたのが「ボトルを無地にする」という発想だった。

法令で義務付けられている使用方法説明や成分の表示は、タグをボトルの首からぶら下げることで解決した。できる限りシンプルにというコンセプトを貫き、タグに記載する内容も必要最低限の項目にしている。

同社の既存ユーザー層は40代以上の女性が中心だ。空きボトルに詰め替えて使うような生活行動をとるのは20代~30代女性で、若年層の取り込みという課題の解決にもつながる。

このように斬新な白いボトルだが、展示会では賛成・反対両方の意見を耳にしたという。否定的な意見の中で多かったのが「商品名が記載されているタグを外したら何が入っているのかわからなくなるのではないか」というものだ。しかし現在店頭では様々なラベルシールが販売されており、そういったものを張り付けるという生活行動は一般に支持されていてそれほど珍しいものではない。また、タグは故意に力を入れて外そうとしない限りは外れないので店頭におけるタグの紛失などの心配も無用だ。

今後、いろいろな小売業との取り組みの中で、オリジナルのラベルシールの制作も企画していきたいと中野さんは語る。

UL認証を取得。サトウキビ由来の原料使用で環境にも配慮

今回リニューアルをしたボトルは、環境にも配慮していて、原料の約65%がサトウキビ由来だ。UL認証も取得した。ULは、アメリカで1894年に設立された「Underwriter’s Electrical Bureau」を前身とする安全認証機関である。1,000を超える安全規格に基づき、材料、製品について試験や評価を実施、適合したものに対してULマークの表示を許可している。一般消費者向け商品としては国内はじめての取得となる。

液体洗剤は重量があるが、女性でも握りやすいように、持ち手のデザインに配慮しているのもポイントだ。

既存客が「従来の商品がカットされた」と勘違いしないよう、新商品への切り替えがわかるPOPも用意している。

「店頭に並んだときに『これはなに!?』とお客様に新鮮なおどろきを感じていただき、興味を持ってもらえないと、売上にはつながらないと考えています。中途半端な自己満足のリニューアルに終わらせないためにも、これくらい大きく変えるというチャレンジをしてみました」(中野氏)

新パッケージのコンセプトに共感し、新規で導入する小売業も増えており、以前の商品よりも配荷店舗数は増える見込みだ。

斬新すぎるといっても過言ではない今回のパッケージリニューアル。その潔さに、どんな人の暮らしにも寄り添おうとする、秘められた強い意志を感じずにはいられない。

PALTACは無人レジ技術の普及で日本の生産性向上をサポートする

PALTACの物流技術を担う三木田雅和氏が新しい中間流通業のあり方を提言する連載。第1回目は同社が志向するリテールサポートの未来について語ります。Amazon GOに代表される「無人レジ」店舗が日本で実用化される日もそう遠い未来ではなさそうです。

「ジャストウォークアウト」の技術を国内で展開

2019年2月に実施した弊社の展示会では、これまでと会場のレイアウトを大きく変えました。お気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、会場冒頭には商品関連の展示を配置していたのですが、今年はそれを変化させ、物流関連の展示を持ってきたのです。これはまさしく弊社の「物流とリテールソリューションでの革新的進化」への意思表示と言えます。

近年ECがシェアを伸ばしていますが、その分、海外での例にもあるように店舗小売業がシュリンクしてしまう可能性も否定できません。しかし、お客様に最も近い接点で事業運営されている店舗小売業さんに元気でいただくことが、中間流通業の元気には必須です。ですから弊社は、リアル店舗へのリテールサポートに対してより一層力を入れていく所存です。

現在弊社が最も力を入れているリテールサポートのひとつが「無人レジ技術」、いわゆる「ジャストウォークアウト」です。その技術を国内の小売業さんに提供するため、2018年7月にジャストウォークアウトの技術を提供しているサンフランシスコのベンチャー企業「スタンダードコグニション」(以下SC)との協業を発表しました。

ジャストウォークアウトの技術で世界的に有名なのは「Amazon GO」でしょう。簡単に説明すると、店内に設置されたカメラやマイク、重量センサなどの機器を通じて、どのお客様がどの商品を手に取ったかを記録し、退店時に自動でAmazonのアカウントで決済を行います。

Amazon GOとSCの決定的な違いは、Amazonはカメラだけでなくゴンドラやリーチインの至るところに重量センサやマイクなどを組み込んだ設備が必要であるのに対して、SCは優れた画像認識の技術を武器に、カメラとサーバのみで無人レジを実現することができるという点です。

重量センサが不要となると、初期コストは安価に抑えられますし、何より棚のレイアウトの自由度が高くなるという大きな利便性があります。またカメラの台数も少なくて済むのも特徴です。商品の陳列状態や、商品棚の形状等にもよりますが典型的なコンビニサイズの店舗であれば20-30台のカメラで導入が可能です。高画素で特別なカメラが必要かと思いきや、カメラそのものは市販されているカメラで十分です。データを解析する技術が優れているのです。

SCの一番の強みは、お客様の棚前での購買行動の取得を念頭においたソリューションにつなげることができるという点です。カメラに記録された動画を分析することで、お客様がペットボトルのお茶を購入する際に、価格を見て手に取ったのか、商品背面の成分を見た上で購入されたのか、そういう情報まで踏み込んで取得することが理論的には可能で、今後そういった機能も付加していければと考えています。

ウェブ業界が当然として行っているような「どの商品とどの商品を何回比較したのか」「ある商品の前にどれぐらいの時間滞在したのか」「どれぐらい商品の前で迷われたあと、どのような状況で購買に踏み切ったのか…」そんな細やかな分析が可能になります。そしてその情報を小売業さんはメーカーにフィードバックし、よりよい商品開発や店舗運営につなげます。

棚卸しも不要に。課題はサーバ費用

SC方式にはまだ課題もあります。その一つがサーバの費用です。画像から全ての情報を取得するため、サーバにかなり負荷がかかる処理を行う必要があり、高性能のサーバが必要になりますので、その部分は高価にならざるを得ません。

高性能なサーバの台数を減らしていかに安価なコンピュータを活用できるかが実用化に向けたポイントと考えています。

店舗の状況はすべてカメラで記録されますから、商品管理もこのカメラ経由で行えると考えています。どこまでできるかはわかりませんが、棚卸を不要にすることも論理的には可能です。

SC社は2017年創業。もともとアメリカの証券取引所で違法行為を見つけるソフトウェアを作った方が立ち上げたスタートアップ企業です。私が初めてお会いした時は数人レベルの会社だったのですが、今は従業員70名以上で急成長しています。

Amazon Goのレプリカのようなサービスを提供する企業はたくさんあるのですが、すべて既存技術の組み合わせでやっているようです。しかしSCは圧倒的に他社技術と違っていて、技術的な発展性が魅力です。

たとえばAmazon Goだと、人と人が商品を受け渡すのは禁止されています。現時点では2名で店舗にいって、一人が棚から商品を取り、もう一人に手渡すというようなことができないのです。SCの技術はそういった点にも対応が可能なので、より自然な買物行動に即した店舗運営を実現できると考えています。ちなみにSCは現在(2019年3月時点)サンフランシスコに実験店を出していて、SKU数こそ少ないものの、実際に無人レジを体験できます。

サプライチェーン全体の未来を明るくするために

当社は薬王堂さんのご協力の下、宮城県仙台市内にSCの技術を導入したパイロット店舗をオープンする予定です。そこが成功すれば水平展開もありえますし、他のドラッグストアさんに導入していただく機運も高まるのではないかと思います。

今後日本にもAmazon Go、もしくはその技術を利用した小売業が進出してくるのは避けられないでしょう。しかしそこで私が懸念しているのは、ECのみならず実店舗での購買情報データも特定の企業に独占されてしまわないかということです。

これからの時代、小売業さんの発展にはデータ分析が切り札になると考えています。SCの技術を一刻も早くモノにして、日本の小売業さんに使っていただける環境を構築し、日本のリアル店舗小売業さんの未来づくりに貢献したいと考えています。新技術を積極的に取り入れ中間流通の立場で消費者まで含めたサプライチェーン全体の活性化のお役に立ちたいと思います。

(談・文責/編集部)

単純作業のAIロボット化を一気に進める「ウォルマート」

ウォルマートは、店内作業のロボット化を急速に進めています。目的は、掃除、棚管理、検品作業などの単純作業をロボット化・省人化し、人間は「接客」に時間を多く使うようにし、リアル店舗の「買物体験の質」を向上することです。

(写真はイメージです)

掃除ロボット、棚管理ロボットが人間の単純作業を代行する

engadget日本版」によれば、ウォルマートは4月に、1500台のフロアクリーナーロボット「Auto-C」を導入しました。社員は簡単な準備と、プログラミングをするだけで自動的にロボットが店内を清掃します。また、1300台の棚スキャンロボット「Auto-S」は、商品在庫の確認、棚の在庫位置、POPや売価の確認などの棚管理業務を行います。

そして、配送トラックからの荷物を受ける検品機能付きアンローダー「FAST」1200台を導入しました。荷受けに際し、優先度の高い補充商品を自動的にスキャン、ソートして積み降ろす事で、店内の在庫補充を速やかに行えるようにするロボットです。Auto-SとFASTアンローダーは、データを共有化し、従業員の棚管理作業の手間を省くことができます。

さらに、ウォルマートのECサイトで購入した商品を、近くの店頭ですぐに受け取れる自販機のような「Pickup Tower」も、追加で900台を設置すると発表しています。このような「オンラインで注文→店舗受け取り」のサービスを強化することで、いつでもオンラインで買物できて、近くの店舗で好きな時間に受け取れる「買物体験の質」を向上し、アマゾンなどのオンライン企業と差別化することが目的です。

ピックアップタワーは、最大300箱(箱の大きさは60cmx40㎝x40㎝以内)まで受け取り商品を格納できる。ピックアップタワーの前で、事前に配信されたバーコードをかざすと、5~10秒で箱が出てくる。

ウォルマートが店内作業をロボット化する最大の目的は、単純作業をロボットに置き換えて省人化を進め、従業員は空いた時間を「接客」などの顧客とのコミュニケーションに専念することです。ロボットができる作業は機械で、人間しかできない接客はリアル店舗の価値として強化する戦略です。人とロボットの共存を目指した試みといえます。

日本でも棚管理のAIロボットの導入実験が始まっている。POP期限チェック、売価チェック、品切れチェックなどの棚管理作業を深夜に行うロボット(動画はリテールテックの大日本印刷のデモを撮影したもの、再生時は音量にご注意ください)。

「電子陳列棚」の導入で店内作業が大幅に軽減

米国最大の食品SM(スーパーマーケット)「クローガー」の「Edge Shelf」(電子陳列棚)も、店内作業の省力化・省人化に大きく貢献します(下の写真参照)。小売業にとって、「売価変更」「棚割変更」という紙の棚札(プライスカード)を付け替える作業量は膨大でした。ほとんどの店舗担当者は、特売日の前日に夜遅くまで残業して売価変更作業を実施した経験があるはずです。また、棚割変更に伴う棚札の付け替え作業も膨大な人時がかかっています。

クローガーが開発した「Edge Shelf」は、店内のWi-fiなどの通信機能を活用して、プライスカードなどの「電子陳列棚」の情報をリアルタイムに更新することができます。たとえば、紙のプライスカードを付け替えなければならなかった「売価変更作業」に関しても、リアルタイムに売価を変更できます。しかも、店舗で変更できるだけではなくて、本部で大量の店舗の売価変更作業を一括で管理できます。

下記写真のクローガーの電子陳列棚に表示されているプライスカードは、「紙」ではなくて「映像」なので、プライスカードの位置を自由に変更することができます。その結果、棚割の変更作業が格段にスピードアップします。クローガーは、カテゴリーによっても異なりますが、週に1回程度の頻度で棚替え指示に基づいて、地域に合った棚割に変更しています。棚割の変更作業時には、プライスカードが棚割変更の位置に動いているので、あとはそれに合わせて商品を移動すれば棚割変更が終了します。

リアル店舗の売場がECサイトにどんどん近づいていき、オンラインとリアルの境界線が曖昧になっていくことが、リアル店舗の未来なのかもしれません。

売変作業、棚替え作業、補充作業の軽減化に貢献する「電子陳列棚」の「Edge Shelf」。写真の電子棚札のひとつが「赤枠」で囲まれている。これは、補充作業の際に商品のバーコードをハンドスキャナーで読み込むと、その商品を補充すべき位置の棚札が赤枠で表示され、それが点滅する仕掛けになっている。商品知識のない補修作業者にとっても早く正確に補充作業を行うことができる。

セブンの日本初「顔認証決済」店舗。AI活用による省人化も30店舗で実証実験

2018年12月、セブン-イレブンが国内初の「顔認証による決済」店舗をオープンした。場所は日本電気(以下、NEC)が入居するビルの20階。実証実験の技術を担うNECの従業員のみ利用できる特殊立地だ。(月刊コンビニ編集部 編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2019年2月号より転載)

入店客の顔画像から年齢、性別を推定ターゲットに合わせ広告表示

今回の実証実験店舗「セブン-イレブン三田国際ビル20F店」を成功させるには、「顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス)の向上と、店舗運営(オペレーショナル・エクセレンス)の向上、この2つをセットにすることではじめて、省人化店舗によるさまざまなサービスが可能になってくる」とNEC取締役執行役員常務兼CTOの江村克己氏は説明する。

店を利用するお客と、店を運営する側の双方に対して、既存店にはないメリットが必要であるという。その実現のために、どのような技術革新を実践しているのだろうか。

はじめに、店を利用するお客に対して、3つの新しい体験を提供している。

第一に、顔認証による入店と決済。顔情報で認証を行い、自動ドアをスムーズに開ける。決済はセルフ方式で、お客は商品のバーコードをスキャナーにかざして、顔認証または社員証による認証を選択する。顔認証の場合は、表示画面の上部に設置したカメラを見て認証を受ける。認証されると表示画面に社員番号が表示されるので、正しければ確定して決済する。支払い代金は給与から天引きされる。社員証はカードリーダーに読み取らせて、あとの操作は顔認証と同じだ。

「NECの顔認証(技術)は世界一の評価を得ている。一連の購買行動を非常にスムーズに実現させた」(江村氏)

ただし、顔認証は個人情報保護の観点から、すぐに一般の店舗に導入できる技術ではない。特定企業の閉鎖商圏において、事前に承認した従業員を対象にしているので可能となった。決済はセルフ方式であるが、売場を管理する従業員を一人配置する。

三田国際ビル20階の店舗には、社員証をかざすか、カメラによる顔認証により入店する

第二に、ターゲットに合わせた広告サイネージ。入店したお客の顔画像から年齢、性別を特定して、ターゲットに合わせた広告を表示する。コンビニに来店するお客は、欲しい商品をイメージして購買に至るが、サイネージによるリコメンデーションにより、新たな需要の喚起を期待している。

人が通るとカメラが画像を認識して、性差、年齢に合った商品を紹介して需要創造する

第三に、レジ台に設置した「PaPeRoi」というコミュニケーションロボット。サイネージによるリコメンデーションと連携する形で、お客の顔を認識し、属性に応じたお薦め商品を提案する。店舗は事前に登録したNECの従業員のみが使用するので、一人ひとりを認識することが可能になっている。そのため、一人ひとりに合わせたリコメンデーションを提供することができる。

セルフでバーコードを読み取らせ、顔認証か社員証で決済し、給与から天引きさせる仕組みをつくった

「このような顧客体験の向上により、お客さまに、より快適さ、より便利さを提供できる。欲しいときに欲しいものが簡単に手に入る便利で心地よい購買体験を実現できる」(江村氏)

こうした技術革新により顧客体験を向上させる一方で、店を利用する従業員の満足度を高めるという観点からも、新しい店舗として位置付けられている。今回の店舗はNEC従業員が利用するビルの20階にあるが、もともと地下1階にセブンイレブンの既存店が出店している。1日4,000人が利用する高日販店であり、とくにオフィス内立地なので就業時間前や昼休みに多くのお客が集中する。高層階の従業員は、店までの往復時間、さらにレジに並ぶ時間を合わせると、ランチ1時間の多くが移動とレジ待ちに費やされてしまう。

「職場に近い場所にコンビニがあれば働き方改革の一環になる。買物がスムーズにでき、残りの時間を有効利用できる。昼休みに限らず、就業時間内でも、欲しいものが欲しいときに購入できれば働く環境が変わってくる」と江村氏は、マイクロマーケットへの出店の意義を語る。

今後は従業員として知っておくべき情報を、広告サイネージと一緒に提示することも可能になる。会社のイベントと商品をリンクした提示も考えられるという。

なぜ、その発注数量なのか?ホワイトボックスで明確化

次に店を運営する側に対して、どのような援助や支援が提供できるのか。

今回の実証実験店において、新たなテクノロジーを導入し、効率的な運用を可能とすることで、「従業員を接客中心の業務にシフトする」ことが、まず確認された。自動的にできること、サポートできることを積極的に導入して、従業員が、より多くの時間を接客に向けられるようにする。新たなテクノロジーの導入により、既存の業務をただ削減するのではなく、節約できた時間を接客関連の業務にシフトしていく方向感である。古屋氏は次のような見解を示す。

「機械化できることは、どんどんそちらにスライドさせる一方で、お客さまとのコミュニケーションなど、人にしかできない業務に注力していくことが大切。今回の省人化店舗と人手不足は何の関係もない。お客さまとのコミュニケーション、接客、それと変化対応が大切。寒い時季に、おでん、中華まん、フライヤーの商品を食べたくなったお客さまに、カウンターで接客をしながら販売していく。ファストフードは、お客さまに対する変化対応のなかで、もっとも影響の大きな売場。このような人にしかできない業務と省人化を一緒に考えてはいけない」

では、新たなテクノロジーを導入した省人化とは、具体的にどのような内容なのか。その第一が「AIを活用した発注提案」である。「異種混合学習技術」により、“発見したルールを説明できる”「ホワイトボックス型のAI」を導入している。

「推奨発注数の提案が、どのようなリコメンデーションによってなされたのかがわからないと、お店の方たちは安心して発注ができない。その点、ホワイトボックス型のAIは理由を合わせて提示するので理解しやすい」(江村氏)

推奨発注数だけが提示されるのではなく、どのような理由によってその数量が決まったのか、影響度の強い因子を発注端末にチャートで示すようにした。たとえば、梅おにぎりの推奨発注数が通常よりもプラスとなった場合、割引の「キャンペーン」と前日との「気温差」、さらにテレビ番組で放映された「梅特集」による「CM/メディア」といった影響項目を説明とともに示すようにした。

こうしたAIの援助により、発注数を決定するのは、あくまで店の発注者であるが、発注時間の短縮化が図れるようにした。

「お店の方たちが、短い時間で、的確な発注ができるようにAIがアシストし、品切れによる機会ロスや、在庫過多による廃棄ロスの削減に貢献したい。環境に優しく、作業生産性が上がる環境を提供する」(江村氏)

AIによる推奨発注提案のサンプル画面。なぜ、その発注数を推奨するのか、チャートで理由を説明して発注者が理解できる内容にしている

AI化が、どれだけ進んでも新商品は店長の意思で発注

店舗の発注業務に対して、AIがどの程度貢献するのかは明確にされていない。30店舗で実験を始めて7ヵ月になり(2018年12月現在)、「まだまだ、いろいろと難しい問題がある」と古屋氏はいう。

発注精度に期待も懸けられるが、原則として発注は店長の意思で行うもの。その意思決定の時間を短くすることによって、店長がお客対応に確保できる時間をつくることが実証実験の目的になる。ポイントは作業時間を短くすることだ。

省力型店舗は、人が本来、行うべき仕事を、機械が取って替わるのではなくて、人が意思決定を早くできるように、あくまでサジェスチョンをするだけという位置付けである。

AIが必要とするデータは、(30店舗の実証実験では)過去にどのような天気で、どのような気温だったのか、その条件でいくつ売れたのかは、店舗システムとして、自動的にデータを取っているので、店長の仕事が余計に増えるわけではない。

店舗周辺のイベントなどは個別に入力している。どの水準まで入れるかは店長の考え方になる。たとえば、7月第4週の土日曜は町内の夏祭りといった情報は個店の仕事になる。

新店舗については、たとえば、ロードサイドや住宅立地、ビルイン店舗など、カテゴリー分けしたデータを使うこともできるし、あるいは、エリアにある店舗の平均点からスタートさせて、店のデータが蓄積されてきたらカスタマイズするなど方法はいくつかある。

現状の実験は、過去の実績データが取れる店舗にて実施しているので、まったくの新店舗については推奨発注をしていない。

新商品の推奨発注提案については、NECの説明によると技術的には可能であるという。しかし、店長の意思決定をいかに援助するかが目的であり、新商品に関しては、まさに店長裁量の世界に入ってくる。新商品の発注は、店長が自らの意思で、おもい切って発注することが主題だという。

ただし、初日、2日目、3日目と、データが蓄積されていくほど、AIの提案は正確な値に収束していくので、どこかの段階で推奨発注数を参考にすることになる。

マイクロマーケット店舗で狭小商圏をさらに深掘り

新たなテクノロジーによる省人化の第二は「設備の稼働管理」。

店舗の運営を安全・安心に実現することが目的である。コーヒーマシンや冷蔵設備の掃除やメンテナンスなど、店舗設備情報をIoTにより収集し、故障の事前処置や速やかな復旧を施すことで「止まらない店舗」の実現を目指す。

従業員にとって身近なところでは、設備の稼働にIoTの力を借りて、最適な状況でコーヒーが提供される環境を支援している。コーヒーマシンのフィルターを適切に替えるタイミングを、IoTの設備管理から従業員に伝えている。それによりオペレーションが的確にできるので、コーヒーマシンに意識をあまり向けなくてよくなり、接客に重点を置くことができる。

また、冷蔵設備のメンテナンスなどは専門会社に委託する場合もある。その設備の保守を支える仕組みをつくり、店の運営を効率化することができる。たとえば、冷蔵設備に故障が生じた場合、店の従業員は冷蔵設備のどこに不具合があるのか詳細を報告するのが難しい。IoTの力を借りれば、具体的な修理箇所を関係各所に対して速やかに共有することができる。

省人化の第三は「映像解析によるエリアの管理」。店内画像を使用して、混雑状況や商品の欠品など店内の状況を可視化することで従業員の業務効率化に貢献する。安全・安心という意味では、侵入禁止エリアの検知機能により、不審な状況が起きたときへの対処が即時にできる。従業員が接客に時間を使用できる環境を支援する。

今回の「三田国際ビル20F店」は最新ITに目を奪われがちになるが、店舗展開においては、セブン-イレブンとしてマイクロマーケットへの初の本格出店になる。

実は今回に先駆けて、2014年12月に東京・四ツ谷の本社ビル7階に「7&i本社ビル店」をオープンしている。既に同じ本社下に外部の人間も利用できる「千代田二番町店」を営業しており、どの程度の影響があるのか注目していた。

7階の店舗がオープンする前の本社下店舗の売上指数を100とすると、4年後の2017年度は、本社下店舗の売上は指数84まで下がった。一方の7階の店舗は初年度の指数53から指数78まで上がった。両店の合計は指数162まで売上を拡大している。

本社ビルにはグループの社員3,000人が働いており、上層階の従業員が本社下の店舗まで下りて気軽に買物することが時間的に困難という実態があった。買物を諦めていた人たちの利用をマイクロマーケットの店舗が取り込んだ形になる。

「マイクロマーケットの出店は、どんどん拡大していきたい。鉄道、病院、工場などへ出店していく。そのテストとしては、今回の店舗は、素晴らしいスタートができたと期待している」(古屋氏)

顔認証は現段階では企業内店舗への出店のみと課題を残したが、最新テクノロジーを用いて、狭小商圏を、さらに深掘りしていく考えである。

バックルームを除く売場面積26㎡は、セブン-イレブンの最小店舗になった。通常店舗は170㎡
コンビニが社内にあり、しかも多くの移動時間を必要としないフロアへの出店により働きやすい環境に注力する

スーパーマーケットのシェアを奪うドラッグストアの食品部門

ドラッグストア(DgS)の「食品」購入額が大きく伸びています。高齢化社会に突入し、日本国民の胃袋が小さくなり、スーパーマーケット(SM)とコンビニエンスストア(CVS)の食品購入額が、「ほぼ横ばい&減少」で推移する中、DgSでの食品購入額の伸び率の高さが目立ちます。食品市場が増えない状況で、DgSの食品購入額だけが伸びているということは、SMとCVSの食品購入額をDgSが奪っているからです。

過去5年間で食品購入額を大きく伸ばしたDgS

図表1は、2013年(調査期間2012年11月~13年10月)と2018年(同17年11月~18年10月)の5年間における、カテゴリー別・業態別の食品購入額の伸び率を示したものです。このデータは、「2019年版スーパーマーケット白書」(全国スーパーマーケット協会発行)に掲載された図表を編集部にて加工したものです。

高齢化社会の到来で、日本人の食べる量が横ばいか減少に転じています。その結果、SMやCVSの食品売上が過去5年間で横ばい、もしくは減少傾向なのに対して、DgSがこの5年間で食品購入額を大きく伸ばしていることがわかります。

たとえば、SMの「主食」(米飯やパンなど)の購入額が5年間で-1.9%と減少しているのに対して、DgSは2.4%増と主食の購入額を増やしています。同様に、「嗜好飲料」(コーヒー、紅茶など)は、SMの購入額が-3.3%なのに対して、DgSは1.9%増です。

DgSの購入額伸び率の高いカテゴリーは、「乳飲料」(伸び率4.0%)、「酒類(伸び率3.6%)です。SMの伸び率は乳飲料が横ばい、酒類が-0.9%なので、明らかにDgSがSMの牛乳と酒の売上を奪っていることがわかります。とはいえ、SCIデータによれば、清涼飲料をのぞくすべてのカテゴリーでSMの購入先シェアが50%を超えており、まだ食品の購入先の主力業態はSMであることがわかります(清涼飲料水の購入先シェアは38%)。

SCIデータで、DgSの食品購入先シェアが10%を超えているカテゴリーは、「清涼飲料」(12%)、「酒類」(11%)、「乳飲料」(11%)、「嗜好品」(13%)です。現状のDgSの業態別購入先シェアは、SM、CVSに次ぐ2番手、3番手です。しかし、SM、CVSと比較すると、DgSの店舗数の増加率は極めて高く、今後、DgSが食品のシェアをさらに奪っていくことが予想されます。

DgSの食品構成比は年々増加している

図表2は、「月刊MD」2018年10月号「ドラッグストア白書」で掲載した上場DgS企業の食品の売上構成比の過去3年の推移です。

「ドラッグストア」と名乗りながら、食品の売上構成比が50%を超えている企業が2社(Genky Drugstores、コスモス薬品)、食品の売上構成比が40%を超えている企業が2社(薬王堂、カワチ薬品)も存在しています。また、マツモトキヨシ以外のDgS企業は、過去3年間で食品の売上構成比を高めており、近年のDgSの食品強化戦略が明確であることがわかります。

DgSの「食品」の強みは、(1)便利性、(2)安さ、(3)専門性の3つです。DgSは、商圏人口1万人を切る小商圏に密度濃くドミナント出店しています。SMよりも小商圏であり、自宅から近くに立地しており、SMよりも「近くて便利」なので、今後も便利性でSMから食品のシェアを奪っていくと思います。

また、「安さ」はDgSの最大の武器です。過剰な設備投資のないDgSは、SMよりも販管費率が低く、論理的に考えるとSMよりも安く売れます。DgSは、SMよりも「便利性」と「安さ」で優位に立っています。一方、便利性はCVSに劣るものの、「安さ」ではCVSよりもDgSの方が勝っています。郊外のCVSは、飲料、カップ麺、菓子などの「価格敏感商品」のシェアをDgSに奪われています。

さらに、HBC(ヘルス&ビューティケア)という「専門性」の高い商品を主力にしていることも、DgSの業態としての強みです。高齢化社会の到来で「食べる量」は減少しますが、「健康でいたい」「美しくあり続けたい」という人間の根源的な欲求は逆に高まります。つまり、成長するマーケットを対象にした業態であることも、DgSの強みです。「健康に良い食品」「美容に良い食品」を店頭起点に「需要創造」することのできる最適の業態です。

しかし、現状のDgSは、「売りやすい商品」を「安売り」することだけで、食品のシェアを奪っているのが実態です。HBC(健康と美容)と連動した食品売場の再構築こそが、DgSの最大の経営課題です。しかし、SMの方がトクホなどの健康志向の食品売場が充実しており、DgSの食品売場では「健康によくなさそうな食品」をただ安売りしている実態を目撃すると、とてもガッカリします。安さだけでシェアを奪うことはもう限界だと思います。