今週の視点

チームワークで任務を遂行する組織をつくる

第66回チェーンストアは 「平均点」を上げる教育が重要だ

2020年には1,000店を超える「4桁チェーン」のDgS(ドラッグストア)が、8社も登場します。1企業当たりの店舗数は10年前と比較すると桁違いに増えました。チェーンストアは店舗数が増えれば増えるほど「標準化」が重要になります。標準化とは、人による「バラツキ」、店による「バラツキ」を減らし、平均点を上げることです。「大量店舗」時代だからこそ、標準化の重要性を再確認すべきです。そのために、月刊マーチャンダイジング2011年7月号に掲載した「今月の視点」を再掲載します。今読んでも十分に通用する論理であると自負しています。

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凡時徹底が組織力を高める

「小売業はイチローである」という話を講演でしたことがあります。対比すればメーカーはホームランバッターです。打率は2割3分台で、ヒットを打つ確率は低くても、一人の天才的研究者が稀に画期的な特許を取得したり、一人の天才的マーケッターが満塁ホームラン的メガブランドを当てれば、大きな売上と利益を獲得することができます。

一方、小売業には画期的な発明はほとんど存在しません。イチローのように、内野安打やシングルヒット、盗塁のような日々のコツコツとした「店内作業」を繰り返し、徹底することが最大の差別化策です。

「凡時徹底が非凡を産む」という言葉があります。だれにでもできる平凡な店内作業を、全店全員が徹底することは、とてつもなく非凡なことです。つまり、小売業の教育は、一握りの天才をつくる教育よりも、現場社員の平均点を上げる教育の方がはるかに重要なのです。

組織としての平均能力の高さこそが、小売企業の最大の差別化戦略です。たとえば、「レジ対応」は、買物客(ショッパー)が店舗で必ず通るコミュニケーションポイントです。どんなに安い商品を購入し、どんなに親切な接客を受けたとしても、最後のレジ対応で嫌な思いをすると、それまでの幸せな買物体験の記憶は吹き飛び、その店に対する印象は最悪の結果に終わってしまいます。「レジ対応」は、店の印象を決めるもっとも大切な最後の関所なのです。

「そんなこと分かっているよ」といわないで欲しい。マニュアル通りのレジ打ち作業と言葉使い、身だしなみ、笑顔を全店全員が徹底できている小売業は多くはありません。店の印象を決めるもっとも重要なコミュニケーションポイントであるにもかかわらずです。まさに凡時徹底が非凡を産む作業の典型が「レジ対応」です。

「100の指示より1の徹底」。ダメな組織ほど、社長、副社長、専務、常務、部長—etc.と、ありとあらゆる方向から膨大な異なった指示が現場に降り注いでいます。しかも、命令者はその時の気分で指示を出し、命令の出しっぱなしで報・連・相を要求しないから、現場は「やらなくても怒られない」ことが分かると、馬耳東風になり、「100の指示が来るが何もやらない」というダメ組織の典型になります。

行動改革で強い「企業文化」をつくる

企業の競争力は、「組織力」の強化です。そのためにもっとも大切なことは、「行動改革と強い企業文化づくり」です。意識改革をいくら教育しても、行動が変わらなければ意味はありません。経営者がいっていることと、現場の行動が異なる、つまり「いっていることとやっていること」の異なる組織では競争には勝てません。

「魂は細部に宿る」という言葉もあるように、現場での「行動」の細部を突き詰められるかどうかが勝敗を分けます。企業経営は、「企業文化づくり」に始まり、「企業文化づくり」に終わるといわれます。企業文化とは、その企業の「経営理念」や「経営哲学」が、単なるお題目ではなくて、その企業に属する社員全員の意識に深く浸透し、それが全員の「行動」の変化に結びついた状態のことをいいます。店数が増えれば増えるほど、行動改革を繰り返して、強い企業文化をつくることが、もっとも重要な経営対策になります。

小売業の教育は、現場の平均点を上げる教育であると同時に、結果よりも「行動(プロセス)」を評価する教育です。チェーンストアは、組織が有機的に連携し、チームワークで任務を遂行する組織です。そのためには、「結果管理」よりも、「プロセス(行動)管理」を重視しなければなりません。

一般的に、チェーンストア組織のスーパーバイザー(エリアマネジャー。7~10店を統括)は、担当エリアの売上・粗利・営業利益の数値責任を持ちます。しかし、「店長」は、売上責任の割合は少なくて、売上結果よりも、決められた行動・職務を徹底したかどうかのプロセスを評価する割合の方が高く、結果管理よりも、プロセス管理を重視します。

チームワークで任務を遂行する組織にとってもっとも重要なルールは、報・連・相(ほうれんそう)の徹底です。報・連・相とは、組織としてスムーズに仕事を遂行するための、上司への「報告・連絡・相談」のことです。仕事の問題点、解決策の相談・途中経過・終了報告を、指示を出した上司に伝えることで、個人プレーではなくて、チームワークで仕事を行う行動様式を徹底することです。報・連・相は、組織で仕事をするためのすべてであるといっても過言ではありません。

スーパーバイザーは「標準化」の徹底者

平均点を上げる教育とは、別の言葉を使えば「標準化」を進めることです。標準化とは、「バラツキを少なくすること」です。店舗によるバラツキ、人によるバラツキを極力少なくし、どの店に行っても一定の誤差の中で均質化されたサービスを受けられることがチェーンストアの本質的な価値です。

標準化を推進するためのキーマンがスーパーバイザー(≒エリアマネジャー)です。彼等は、担当しているエリアの店舗間格差を少なくするために、店舗を巡回し、不完全作業を摘発し、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で、その場で手本を示して作業方法を教育し、人による作業のバラツキを減らし、「完全作業」の精度を高めることが最大の「職務」
です。

スーパーバイザーがOITで完全作業を徹底させる責任者であるならば、スーパーバイザーは最新の機械の使い方、最新の作業方法を常に習得し続けなければなりません。ややもすると、現場から離れて、最新のレジを使えない「上司」という役割だけのスーパーバイザーになってしまいます。スーパーバイザーは店内作業のプロフェッショナルでなければならないのです。

また、完全作業を徹底するだけでなくて、PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)を繰り返し、常に最新の作業方法などの新しい仕組みや制度を創り出すことも、スーパーバイザーの重要な職務です。いわれたことだけをやるのではなくて、新しい制度を創造し、それを新しいルールとして水平展開し、新しい作業方法をOJTで教育する「PDCAサイクル」も担当してもらいたいと思います。

また、小売業に属する実務家は、「現場感覚」を常に研ぎ澄ます必要があります。常に商品に触ったり、棚卸し作業をやったり、最新の現場作業を習得し続けることで現場感覚は磨かれます。現場感覚の鋭いスーパーバイザーや店長は、売場とバックヤードを見ただけで、およその「在庫金額」が分かるはずです。

セブンイレブンのOFC(オペレーションフィールドカウンセラー)の初期教育は、「棚卸作業」です。棚卸作業を繰り返すことで、売場を見ただけで在庫金額が分かるレベルまで商品と原価を覚えることが、OFCが経験する最初の教育だそうです。

(月刊マーチャンダイジング2011年7月号の「今月の視点」を一部修正して掲載)

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。