【意義】男女が将来の妊娠に備えて健康な心身をつくること
プレコンセプションケアは、短期的に妊娠・出産を目指す妊活とは異なり、将来的に子供を持ちたいと考える男女が、10代など早い段階から取り組むことのできる生活改善や心身の健康づくりを指す(図表1)。
[図表1] プレコンセプションケアのポジションマップ
2015年に国立成育医療研究センターが「プレコンセプションケアセンター」を開設。女性やカップルを対象に将来の妊娠のための健康管理を提供する相談外来や各種検診を設けているほか、セミナーやイベントを通してリーフレットなどを配布し、コンセプトの普及に努めている。
妊娠・出産に関する知識は、妊婦になったり、夫婦で妊活に取り組むなど、いざ妊娠が自分ごと化しない限り触れる機会はほぼない。
その一方で、厚生労働省が推奨する葉酸の摂取時期は妊娠の1ヵ月以上前からとされていること、そもそも卵子の数は母親のお腹にいる時がピークで、出生後は新しくつくられることはなく減っていくのみであることや(図表2)、喫煙や不規則な生活が精子の劣化や男性側の不妊を招くことなど、本来、妊娠・出産を計画する前に知っておくべき情報は多い。
[図表2] 卵子数の推移
年々増加している2,500g未満で生まれる低出生体重児も、母体が痩せの傾向にあると増えるとされている。
体がつくられる時期である思春期の不必要なダイエットも将来の不妊につながる等、これからの体におもわぬ影響を及ぼすこともある。認知度アップが命題顧客育成の要となるカテゴリー プレコンセプションケアは、このような妊娠・出産の正しい知識を持つことを含めて、生活者の人生設計と健康を見つめるための重要な提案となる。
近年テレビ番組「あさイチ」やいくつかの出版媒体でも取り上げられ、徐々に世間の知るところとなりつつあるが、まだまだ認知度は低い。
いまのステージでもっとも大切なことは、プレコンセプションケアを広く知り、知識を持ってもらうことである。プレコンセプションケアは、優良顧客育成の最初の入り口として知られるベビー・マタニティカテゴリーの手前に位置する、真の入口ともいえる新カテゴリーだ。生活者の健康を支え、身近に立ち寄れるドラッグストア(DgS)という業態として率先して情報を発信しよう。
【対策】①自分の体を知る
まず、大切なのは、いまの自分の体の状態を知ること。BM(I ボディマス指数)や体脂肪率が適正か、女性であれば基礎体温や生理周期、生理痛や体の冷えの有無なども把握しておきたい(図表3)。当たり前におもわれがちな生理痛だが、本来、痛みは少ないもの。子宮や卵巣に異常があることで痛みが強く出るケースもあるため、症状が重い場合は一度婦人科を受診したい。
[図表3]プレコンセプションケア・チェックシート(女性用)
男性でも健康診断などを利用し、男性不妊につながる生活習慣病のチェックをしておこう。現状の健康状態を踏まえて、栄養バランスをしっかり考えた食事を摂り、運動不足を解消するなど改善策を考えたい。
【対策】②よい血液をつくる
とくに、女性側が妊娠するために重要なことは、よい血液をつくり、温め、めぐりをよくすること。よい血液は、毎日の食事からつくられる。3食バランスよく食べることを基本に、鉄分、鉄分の吸収率を高めるビタミンCや葉酸、良質なタンパク質の摂取を心掛け、鉄分の吸収を阻害する菓子や加工食品を控えることを意識したい。鉄分の豊富な食べ物は、レバー、カキやシジミなどの貝類、牛肉などが挙げられる。
栄養補給をサポートするサプリメントの摂取も効果的だ。鉄分や亜鉛、葉酸、ビタミンなども、必要量を手軽に摂ることができる。
【対策】③血流をよくする
血流をよくするためには、ウオーキングなどの適度な運動、ストレッチ、日々の入浴習慣がポイントとなる。筋肉量を増やすことは、代謝を上げ、体温も上げることに直結するため重要だ。また、セルフお灸や温パッド、カイロなどを使う方法や、家庭用の低周波治療器やマッサージ機なども血流改善効果が期待できる。
先述したように、生理痛は子宮がある腰まわりの血流が滞ることでも生じる。冷えはそのほかにも肩や首のこり、脚のむくみ、頭痛、肌荒れなどを起こす原因ともなり得る。また、起床時に白湯を飲んだり、スープを飲んだり、朝食でエネルギーを摂ることは、体温の上がり切らない体を体内から温めることにつながる。体温が上昇することで免疫力もアップするため、生活に取り入れたい。「プレコンセプション」という幅広い提案のなかには、「温活」というテーマも包括されるだろう。
【対策】④リラックスする
自律神経のバランスを取ることも、健康維持には欠かせない。心にかかる負荷であるストレスも、血のめぐりを滞らせ、体温を低下させる。仕事などで緊張状態が続き、交感神経がオンになる時間が長くなることで体が冷えると、倦怠感や頭痛、不眠、ひどくなるとうつの原因ともなる。副交感神経をオンにする=リラックスする時間をつくること、緊張を緩めることが重要だ。
ストレス緩和には、心が落ち着くアロマを活用したり、肌触りのよいルームウエアやフットケア用品、温感タイプのアイマスク、③と重なるが入浴も有効な手段のひとつだ。入浴剤やシャワージェルなど、入浴タイムをより楽しむことができる商品は多くある。
[図表4] プレコンセプションケアのCDTの一例
〈取材協力〉
【売場提案のポイント】妊娠前ニーズの受け皿なし 定番コーナー化にチャレンジ
妊娠検査薬、排卵検査薬をはじめ、鉄分、葉酸といったサプリメントなど妊娠に関連する身近な商品の買い場としてDgSは選ばれている。一方で、妊活に取り組んでいる生活者へのアンケートによれば、DgSの妊活関連商品売場に約7割が不満を抱いているという(図表5)。妊活とプレコンセプションケアはイコールではないが、テーマとしては、妊活はプレコンセプションケアの中に含まれる。アンケート結果は大いに参考にできるだろう。
[図表5] DgS妊活商品売場に関するアンケート(PALTAC調べ)
現状は定番コーナー化されていないため商品の陳列場所がバラバラで、欲しい商品をじっくり比較検討できるような状態にはない。たとえば妊娠検査薬や排卵検査薬は、使用目的やシーンが異なるコンドームなどの避妊具、セックスウエルネス用品と並べられていることも多い。
妊娠後はベビー・マタニティ売場という受け皿があるが、妊活を含め妊娠前のニーズに対する受け皿はほぼないといっていい。プレコンセプションケアという概念をうまく活用し、妊娠前の不安や不満をすくう新しい売場を提案していこう(図表6)。
[図表6] 売場提案例(PALTAC提供)
プレコンセプションケアを提案する際に心に留めておきたいのが、短期的に妊娠・出産に興味のない人でも目につくような場所に売場を設けることだ。既存のべビー・マタニティ売場の近くではなく、たとえば健康意識が高まっている健康食品売場の近くなど、多くの人の目につく場所が望ましい。これはプレコンセプション以外の新定番ヘルスケアを提案するときにもいえることだろう。店舗の中で常設の新定番エリアを設けることで差別化につなげるのもひとつのアイデアだ。
- 健康食品売場など、妊娠・出産に興味のない人にも気付きを与えられる場所で展開
- 売場ではリーフレットやチェックシートを使い、認知度を上げる情報発信を行う
- 「温める」「リラックス」など、定番棚内で小テーマをシリーズ化
- 売場誘導POPは、ベビー・マタニティ売場やメイク売場が有効
〈取材協力〉